<経済レポート> バブル予防策稼働中:米自動車ローン動向

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自動車ローンの残高や延滞の増加がバブルのリスクを孕んでいるとの見方があるが、自動車ローン市場の規模や、家計所得に対する借入負担全体の比率は極めて低位に抑制されており、バブルやその崩壊のリスクは低いと見たい。むしろ、金融機関が適切に信用条件の厳格化を実施していることが、米経済の循環的な景気減速局面入りを示唆する材料であることに留意したい。

自動車ローンの延滞率は上昇中

米国で消費者ローン、特に自動車ローンと学生ローンのバブル崩壊リスクが高まっているとの見方が、各種報道で市場に広がっている。実際、NY連銀が四半期毎に公表している「家計負債信用報告(2017年5月)」によれば、2017年1-3月期時点の自動車ローンの延滞率(90日以上)は3.82%と、2013年1-3月期以来の高水準に上昇した。また学生ローンの延滞率は10.98%と、2012年7-9月期以来現在まで10%を超える高水準にある([第1図])。また、2010年以降消費者ローン残高は早いペースで増加している。住宅ローン残高が金融危機以降減少を続けて、いまだ金融危機直前の2007年時点の残高に回帰していないのに対し、消費者ローンは2017年1-3月期時点で2007年に比べ約+44%増加している([第2図])。

2008年の金融危機は、急増していたサブプライム住宅ローンの延滞がその引き金の一つとなった。結果住宅価格が下落し住宅純資産額(住宅価格‐住宅ローン残高)は急減した。金融危機後に金融機関はサブプライム住宅ローンほか住宅ローンの審査を厳格化した。結果住宅ローン残高は2015年頃までほぼ一貫して減少傾向をたどった。現在では、住宅価格回復と住宅ローン残高減少で住宅純資産額は回復している。2017年1-3月期には持家純資産額は約13.1兆ドル、持家純資産の持家価格に対する比率は58.3%と、金融危機前のピーク水準に回復している。今後住宅ローンも緩やかな増加に転じると見る。

一方、自動車ローンや学生ローンなどの消費者ローンは金融危機後も上記の制約がなく、住宅ローンに代わり金融機関の主要なローン商品として増加したと考えられる。新車販売台数は2015~2016年に年間17百万台台のピークに達した。自動車販売増加の背景には自動車ローンの拡販、特にサブプライム自動車ローンと言われる信用度の低い債務者宛のローン供与の拡大があったといわれている。

[第1図]
20170814図1

[第2図]
20170814図2

自動車ローン市場規模は住宅ローンの10分の1

しかしながら、自動車ローンが新たな金融危機をもたらす大きなリスクを孕んでいるとは考えにくい。以下に見るように、サブプライム住宅ローンに比べて自動車ローンなどの消費者ローン市場規模ははるかに小さく、またすでに金融機関は審査厳格化などの対応策をとっていると見ることができるからである。自動車ローンについては2年半前にそのバブル懸念はないとの見方を当レポートで示していた(2015年2月11日付当レポート参照)。以下では、その後の消費者ローンの状況を点検しつつ、自動車ローンをはじめとする消費者ローンの状況と経済への影響につき見ていく。

自動車ローン・学生ローン・クレジットカード等の消費者ローンの合計残高は2017年1-3月期現在で約3.8兆円。うち自動車ローンが1.1兆円、学生ローンが1.4兆円、クレジットカード等のリボルビングローンが約1.0兆円となっている([第3図])。これは、住宅ローン残高の9.8兆円に比べるとその約3分の1の規模である。うち自動車ローンの残高規模は住宅ローンの約10分の1にすぎない。

住宅ローンと消費者ローンを合わせた家計のローン借入残高の可処分所得に対する比率は、金融危機前の2007年の120%超をピークに低下を続けており、現在では100%を割り込む低水準になっている([第4図])。ローンの返済額の可処分所得に対する比率を表すデット・サービス・レシオも、同じく2007年をピークに現在に至るまで低下を続けている。もっともその内訳は、住宅ローン返済額の減少が大きく寄与しており、消費者ローン返済額についてのデット・サービス・レシオは2013年をボトムに上昇している([第5図])。だが、消費者にとって住宅ローンや消費者ローンを合わせた返済負担率は、金融危機以降確実に軽減が続いていることになる。

[第3図]
20170814図3

[第4図]
20170814図4

[第5図]
20170814図5

金融機関も信用条件を厳格化している

信用度の低いいわゆるサブプライム自動車ローンの規模も、自動車ローン全体の1.1兆ドルのうち2130億ドル程度とされている(7月7日付CNBC報道)。これは金融危機前のサブプライム住宅ローンは(住宅ローン残高約10兆円の15%程度の約1.5兆ドルと推測される)の約7分の1の規模である。また、自動車ローン証券化商品の残高は1923億ドル程度(4月27日付Bloomberg社報道)とされており、住宅ローン証券化商品(住宅ローン残高の約半分以上が住宅公社またはABS発行体により証券化されている)に比べきわめて小さい。仮に自動車ローン延滞が証券化商品の価格下落を通じて金融機関や投資家に損失を与えたとしても、その影響は限定的といえるだろう。

金融機関側の対処も適切に行われている。FRBのシニアローンオフィサー・サーベイによる、自動車ローンとクレジットカードローンの信用条件厳格化DIの推移が[第6図]である。これによれば、金融機関は自動車ローンとクレジットカードローンの審査基準を昨年後半から厳格化している傾向が明らかである。自動車ローンの延滞率上昇に伴い、金融機関側も審査厳格化で不良債権増加を抑制する対応を実施していることがわかる。また、ローンの需要自体も減少傾向にある([第7図])。自動車についていえば、昨年の年間17百万台という販売台数は経験側的にはほぼ販売飽和状態に近く、今後販売台数は減速すると当レポートでは見ていた。今年に入ってからの新車販売台数の減少と、本サーベイによる需要減少はこの見方と整合している。

家計バランスシート全体も健全である。2017年1-3月期現在で、家計負債の対GDP比率は79.5%と、金融危機前の99%台をピークに現在まで一貫して低下傾向にある([第8図])。家計全体で見れば現在の借入残高は過大ではないといえる。所得に対する返済額も歴史的には低水準にあることも上記で見た通りである。

[第6図]
20170814図6

[第7図]
20170814図7

[第8図]
20170814図8

バブルの懸念なくソフトランディング可能

以上から、自動車ローンを含む消費者ローン市場は決してバブル状態にあるとは言えず、これが崩壊して金融システムに悪影響を与える可能性は低いと見ておきたい。一時急速に拡大した自動車ローンが適度なペースの増加に調整されつつあることは、金融危機の反省が金融機関においても生かされていることの反映であろう。

むしろ、自動車販売の減速や信用条件の厳格化は、中期的な信用サイクルの観点から、今後米経済が循環的な減速に向かうことを示唆する材料であることに留意したい。昨年まで個人消費拡大のけん引役だった自動車販売は、今後は個人消費拡大の足かせ要因になりうる。バブル時代であればかかる環境下ではサブプライム自動車ローン拡販が消費を強引に押し上げるところ、今回は既に適度な歯止めがかかっている。自動車ローンのみならず米経済全体もほぼ需給均衡状態にあり、ここから緩やかに成長が減速するというのが当レポートの見方である。バブル崩壊に至る前に適度な成長減速により経済がソフトランディングすることは、経済の急悪化を回避するためにも望ましいことである。また、その為には金融政策においても今の段階から漸進的な金融緩和解除を継続してバブル発生を未然に防ぐのが適切といえよう。

上記の見方に対するリスクシナリオは、学生ローンも含めた消費者ローン延滞が予想に反して金融システムに波及するシナリオである。もう一つは、FRBの金融緩和解除にかかわらず経済が過熱してその反動によるバブル崩壊が起きるシナリオである。現在NYダウは22000ドル台の史上最高値を更新たが、水準的には高値警戒感を持ってしかるべきレベルである。S&P500の株価収益率は21倍を超え、90年代後半のITバブル期の水準に近づいている。

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<経済指標コメント> 米7月消費者物価指数は前年比+1.7%

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[日本]

景気ウォッチャー調査(7月):現状判断DIは49.7(前月比-0.3ポイント)、先行き判断DIは50.3(同-0.2ポイント)

7月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは49.7(前月比-0.3ポイント)と4ヶ月ぶりの低下。家計動向関連DIは横ばいだったが、企業動向関連、雇用関連が低下した。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは50.3(同-0.2ポイント)と反落。雇用関連DIが上昇したが、家計動向関連・企業動向関連が低下した。総じて街角景気は、年初からも持ち直しが続いているもののここ2、3ヶ月は一服感があるといえる。景気判断理由としては「気温の上昇に伴いエアコンを中心とした季節商材の販売が伸びている(家電量販店)」「宿泊については、インバウンドは引き続き好調(都市型ホテル)」などの良い要因の一方、「製品単価の値上げや工法によるコストアップ、人件費の高騰(建設業)」「人手不足(同)」などコスト増による先行き懸念を示すものがみられる。

20170812b図1

機械受注(6月、船舶・電力を除く民需)は前月比-1.9%(前年比-5.2%)

6月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-1.9%(前年比-5.2%)と前月比で3ヶ月連続減少、前年比でも3ヶ月ぶりのマイナスとなった。結果4-6月期の同受注は前期比-4.7%と2四半期連続のマイナスとなった。経済産業省鉱工業生産指数統計による4-6月期の資本財受注は前期比プラスを確保しており、4-6月期GDP統計における設備投資は3四半期連続のプラス成長になりそうだが、受注の減少はその後の持続性に対する下方リスク要因である。

20170812b図2

[米国]

消費者物価指数(7月)は前月比+0.1%(前年比+1.7%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+1.7%)

7月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.1%(前年比+1.7%)と3ヶ月ぶりの前月比上昇で、前年比上昇率も5ヶ月ぶりに上昇に転じた。前月比では、前月まで2ヶ月連続低下していたガソリンが7月は横ばい、衣服(同+0.3%)、医療財(同+1.0%)、医療サービス(同+0.3%)などが上昇した。一方で新車(同-0.5%)、中古車(同-0.5%)などが下落した。食品及びエネルギーを除くコアCPIは前月比+0.1%(前年比+1.7%)と4ヶ月連続上昇、前年比伸び率は横ばいだった。年初から低下傾向にあるCPIインフレ率は7月単月ではいったん低下に歯止めがかかった形である。今後原油価格が安定推移すれば、年末の総合CPIインフレ率は前年比+1.3%、コアCPIインフレ率は+1.5%程度になると見ている。これは当レポートの想定を下回るペースであるが、FOMCの金融緩和政策解除を妨げる要因にはならないと見る(8月12日付<経済レポート>参照)。

20170812b図3



<経済レポート> 需要超過に備えよ:FRB金融政策見通し

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米インフレ率は今年に入り低下傾向が続き、7月FOMCでは利上げが見送られた。しかしながら、現在のインフレ率は金融緩和解除継続を正当化するに十分な水準にある。また景気サイクルがまもなく転換する可能性を勘案すれば、金融政策ののりしろ確保のために利上げは早期に実施するのが望ましいと引き続き見ておく。

7月FOMCではインフレ基調判断が下方修正

FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は7月25-26日の定例会合で、FF金利誘導目標レンジを1.00-1.25%に据え置くことを決定した。会合後の声明文の内容は前回6月会合と本質的に変更はない。ただし、直近のインフレ率につき、前回声明文では「2%を幾分下回って推移している」とされていたのが、7月声明文では「いくぶん」が削除され、基調判断が下方に修正された。前回6月会合時点で判明していた個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比伸び率は4月分の+1.7%、7月会合時点で判明していたそれは5月分の+1.5%であった。この実績値からは、声明文のインフレに関する基調判断がやや後退したのは自然なことといえるだろう。

また、バランスシート縮小に関するパラグラフでは、委員会がバランスシート正常化を「相対的に早期に」開始すると予想している、とされた(前回声明文では「年内に」)。これは、イエレンFRB議長が7月12日下院金融サービス委員会での半期金融政策報告の質疑で「バランスシートの正常化は相対的に早期に開始すべき」と発言した(報道による)ことと整合している。7月FOMC声明文の内容はこれ以外にこれまでの金融政策予想に影響を与える材料はない。FOMCが今後9月、12月の定例会合でそれぞれ+0.25%の利上げを決定、また9月会合ではバランスシート正常化の決定がなされるとの個人予想を維持する。

7月声明文でインフレに関する判断が下方に微修正されたこと、また遡って7月12日の半期議会証言でイエレンFRB議長が「インフレは委員会の長期目標2%を下回って推移し続けている」と証言していたことは、FOMCがハト派方向にシフトしつつある材料と市場の一部では受け取られた模様だ。結果いずれのイベントにおいても、直後に長期金利は低下、株価は上昇した。しかしながら筆者個人は、現在のインフレ率は現在の金融緩和解除を継続するに十分な水準であり、かつ今後もインフレ率はほぼ安定的に推移すると見ている。さらに、今後の景気循環見通しを勘案すれば、利上げは早期に実施したうえで将来の金融政策ののりしろを確保することが適切であると見る。

需給ギャップ縮小によりインフレ率は2%を目指す

まず、低下傾向にあるインフレ率の今後の見通しと金融政策の関係を見ていく。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は、6月時点で総合指数が前年比+1.4%、食品及びエネルギーを除くコア指数が同+1.5%で、いずれも年初をピークに今年に入り低下傾向にある。今年に入ってからのインフレ率低下要因の一つは、2015年の原油価格急落要因が2016年に剥落して前年比インフレ率を押し上げていた効果の剥落である。今後原油価格が1バレル=50ドル前後で安定推移した場合、年末のPCEインフレ率は同+1.4~+1.6%と、現状比横ばいからやや強含み推移する計算になる。なお、消費者物価指数(CPI)は7月時点で総合指数、コア指数ともに同+1.7%だった。総合CPIインフレ率は5ヶ月ぶりの上昇であり、CPIについてはインフレ率低下に一時的には歯止めがかかった形だ。

インフレ率と需給ギャップの関係からは、インフレ率は今後、FOMCが予測するとおり約2%に向けて上昇していく可能性が読み取れる。米議会予算局(CBO)の6月「財政・経済見通しアップデート」における推計潜在GDPをもとに現在の米経済のマイナス需給ギャップを計算してみると、2017年4-6月期現在で-0.3%にまで縮小している。今後仮に米経済が2%ペースで成長した場合、2018年にはマイナスの需給ギャップは完全に解消する計算になる([第2図])。なお、CBOは6月の「見通しアップデート」において潜在GDP推計値を前回1月時点の推計値にくらべ下方改訂している。米経済のマイナスの需給ギャップは従前の認識よりもさらに縮小していることになる。

コアPCEインフレ率と需給ギャップの関係を示すシンプルなフィリップス曲線を描いてみると、需給ギャップゼロ(需給均衡)状態に対応するインフレ率は約+1.8%と推計できる([第3図])。なお、需給均衡状態に対応するインフレ率の過去の推移を40四半期ローリング回帰で推計してみると、2002年以降の平均値は約+1.9%となった。現在の均衡インフレ率+1.8%は、2014年をピークに低下局面に位置しているものの、過去に比べて大きく低下しているものではない([第4図])。

[第1図]
20170812図1

[第2図]
20170812図2

[第3図]
20170812図3

[第4図]
20170812図4

テイラー・ルールは2%以上のFF金利を示唆している

テイラー・ルールによる推計では、現在のインフレ率と需給ギャップから推計される適正FF金利は2%を超える位置にある。CBOの6月時点の潜在GDP推計値と、2017年4-6月期までのGDP統計とPCEインフレ率とをもとに適正FF金利を推計してみると、2017年4-6月期の適正FF金利は2.51%(自然利子率=1.5%とした場合)、2017年10-12月期のそれは2.83%となった([第5図])。CBOによる潜在GDP推計値の下方改訂により、適正FF金利水準推計値も従前に比べて高い結果となっている。

以上より、今後米国のインフレ率は年内ほぼ現状と横ばいの水準で推移、また中期的にはFOMCの2%目標値に向かって上昇していくと見る。さらに米経済のマイナス需給ギャップ縮小により、適正なFF金利水準は今や2%を超える水準にある。したがって、FOMCが現在のインフレ率が2%を下回って推移していることを理由に、利上げペースを減速させる必要はないことになる。

なお、上記テイラー・ルール公式において、自然利子率(実質中立金利)を1.5%としている背景は以下である。実質中立金利を、①GDP実績のHPフィルター平滑化、②CBO推計の潜在成長率、③米国債10年物利回りとCPIインフレ率実績値から算出した実質長期金利実績のHPフィルター平滑化、の3通りの方法で推計すると、それぞれ①2.1%、②1.6%、③0.8%と大きなばらつきができる。ここでは、3つの推計値の中央に位置する1.5%を実質中立金利とみなしている。イエレンFRB議長の発言(7月12日議会証言など)やFOMC議事要旨からは、FOMCが現在の中立実質金利を「歴史的基準に比して極めて低い」とみている。FOMCが想定する実質中立金利水準は定かではないが「極めて低い」との語感からはおそらく1%前後とみていると憶測できる。仮に中立実質金利が1%であったとしても、現在の適正FF金利は2%水準にある計算になる。この場合実質中立金利水準の低下もFOMCが金融緩和解除を停止する材料にはならないといえる。

[第5図]
20170812図5

[第6図]
20170812図6

景気循環はまもなく下降サイクル入りの可能性がある

次に、米国の景気循環の状況を見る。景気が1、2年の間に転換する可能性を勘案すると、FF金利誘導目標は早めに引き上げておき、金融政策ののりしろを確保しておくのが妥当であることは従前より当レポートで述べてきたところである(3月5日付当レポートなど)。上述のCBO推計潜在GDPに基づけば、マイナス需給ギャップはほぼ解消しており、このまま2%程度の成長が継続すれば、2018年に米経済は需要超過状態になる。直近の直前で米経済が需要超過状態だったのは2006-2007年の2年間だけである。この間、四半期ベースでの米経済の最大のプラス需給ギャップは2006年1-3月期の+0.5%だった。米経済において需要超過状態は需要不足状態にくらべて短期間にとどまる傾向がある。つまり需要超過状態になった時点で次の景気循環の転換が1-2年以内に訪れることを想定しておく必要がある。

米経済のトレンドとサイクルを別な方法で抽出してみる。1992年~2017年の四半期実質GDPデータをHPフィルターで平滑化した結果が[第7図]である。この推計値を経済のトレンドとみなして、GDP実績値のトレンドからの乖離を需給ギャップとみなすと、米経済は既に2015年に需要超過がピークアウトしている。2017年4-6月期現在は下降サイクルにあって需給ギャップは-0.1%のマイナスとなっている([第8図])。

HPフィルターで抽出したトレンドに照らした景気サイクルは既に下降局面にあると考えると、米経済成長ペースは今後1、2年の間に減速していき、ここでも1、2年の間にマイナス成長に陥る可能性もあることになる。なお、失業率は7月現在で4.3%と、CBO推計による自然失業率4.7%をすでに大幅に下回っている。

米経済は現在決して過熱しているとは言えず、ほぼ需給均衡の心地よい状態にあるといえる。しかし、今後株価上昇等を背景に経済が潜在成長率を超えるペースの拡大を継続すれば、1、2念の間には需要超過状態になり、景気サイクルが転換する可能性がある。その際に、FF金利誘導目標引き下げによる金融緩和実施を可能にするためには、FF金利誘導目標水準を相応に高めておくことが必要となる。

[第7図]
20170812図7

[第8図]
20170812図8

[第1表]
20170812表1

<経済指標コメント> 米7月非農業部門雇用者数は前月比+209千人

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[日本]

鉱工業生産指数(6月)は前月比+1.6%(前年比+4.9%)

6月の鉱工業生産指数は前月比+1.6%と反転上昇、前年比でも+4.9%と高水準の伸びとなった。出荷指数は前月比+2.3%、在庫指数同-2.2%、在庫率指数同-2.1と、出荷増により在庫が減少した形。生産指数の3ヶ月移動平均の前年比伸び率は+5.6%と高水準かつ上昇基調を保っており、昨年後半以来の鉱工業生産の持ち直し継続を示唆している。在庫循環図は在庫積み増し局面にあり、今後企業在庫が成長にプラス寄与する可能性を示唆している。企業設備投資の先行指標となる資本財出荷指数は同+0.8%と反転上昇。4-6月期の同指数は前期比+2.9%と前期の同-0.2%から大幅プラス成長に転じた。4-6月期GDP統計における設備投資が3四半期連続のプラス成長を維持する可能性を示唆する結果である。公表元の経済産業省は「生産は持ち直しの動き」との基調判断を維持している。

20170806図1

住宅着工戸数(6月)は年率1003千戸(前月比+0.6%)

6月の住宅着工戸数は年率1003千戸(前月比+0.6%)と反転増加、前年比でも+1.7%と増加に転じた。住宅着工戸数は引き続き高水準で増加傾向を維持している。また4-6月期の着工戸数は前期比+2.7%と、2四半期連続のプラスかつ伸びが加速した。4-6月期GDP統計では住宅投資が前期に続きプラス成長となる可能性を示唆する結果である。

20170806図2

[米国]

実質個人消費(6月)は前月比横ばい、PCEデフレーターは前年比+1.4%、同コア同+1.5%

6月の実質個人消費は前月比横ばい。内訳は耐久消費財同-0.1%、非耐久消費財同-0.2%、サービス同+0.1%とすべての項目がほぼ横ばいにとどまった。自動車販売の減速と、小売売上高の伸び悩みという先行指標と概ね整合する結果である。しかしながら、3月の急増による発射台上昇で、数字上4-6月期の実質個人消費は前期比年率+2.8%と、前期の同+1.9%から大幅加速した。このペースだと7-9月期にも同+2%レベルの消費拡大は十分に期待できる。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比横ばい(前年比+1.4%)、食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前月比+0.1%(前年比+1.5%)。いずれもFRBが目標とする2%を下回って推移している。原油価格が今後1バレル=50ドル前後で安定推移した場合年末のPCEインフレ率は前年比+1.5%、コアPCEインフレ率は同+1.6%程度と試算できる。インフレ率は当レポートの見通しをやや下回って推移していると言わざるを得ないが、+1%台半ばのインフレ率は、FOMCの継続的な利上げを妨げるものではない。なお、テイラールールによる推計では、現在のインフレ率と需給ギャップに対応する適正FF金利水準は約2%強と計算される。

20170806図3

新車販売台数(7月、乗用車及び軽トラック)は年率16.69百万台(前月比+0.6%、前年比-6.0%)

7月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率16.69百万台(前月比+0.6%、前年比-6.0%)と、前月比では3ヶ月ぶりに増加に転じたものの、前年比では-6.0%と7ヶ月連続で前年同月を下回り、かつマイナス幅は拡大した。昨年末の年率18百万台台をピークに飽和状態になったと見られる新車販売は減速が続いている。今後も自動車販売は横ばい程度の推移にとどまりそうだ。

20170806図4

雇用統計(7月):非農業部門雇用者数は前月比+209千人、失業率は4.3%

7月雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+209千人と強い伸び、上方改訂された6月同+231千人に続き2ヶ月連続で同+200千人を超える増加となった。3ヶ月移動平均は同+195.0千人と200千人に接近して上向きになっている。非農業部門雇用者数の前年比の伸び率は+1.5%と概ね当レポートの見通しに沿った推移である。業種別内訳は、鉱業同+6千人、製造業同+16千人、小売業同+0.9千人、専門ビジネスサービス同+49千人、教育・医療業同+54千人と広い業種で雇用が増加、雇用増加業種の割合を示すディフュージョンインデックスは63.2と2月以来の高水準となった。ただし、小売業の雇用が相対的伸び悩んでしているのは個人消費の更なる減速の可能性を示唆している可能性があり留意したい。また、時間当たり賃金(生産及び非監督雇用者)は前年比+2.4%と依然伸び悩んでいる。家計調査による失業率は4.3%と、前月比-0.1%ポイントの低下。内訳は労働力人口と就業者数のいずれもが増加しており、労働市場の拡大を伴う良い失業率低下といえる。総じて米雇用市場は、中期循環的な減速を伴いつつも堅調な拡大を維持している。時間当たり賃金、週平均労働時間、非農業部門雇用者数の前年比の伸びを合わせた名目購買力は前年比+3.9%と、1%台半ばのインフレ率を差し引いても、実質ベースで同+2%台の個人消費の拡大が維持できる計算になる。FOMCが年内に+0.25%づつあと2回の利上げを決定するとの個人予想を支持する結果である。

20170806図5


<経済指標コメント> 米4-6月期実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+2.6%

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[日本]

実質家計消費支出(6月、二人以上の世帯)は前月比+1.5%(前年比+2.3%)

6月の実質家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比+1.5%と2月以来の大幅な伸び、前年比でも+2.3%と2016年2月以来約1年半ぶりのプラスかつ大幅な伸びとなった。前年比の増加に寄与した項目は、設備修繕・維持、自動車等関係費、交際費など。勤労者世帯の名目実収入も前年比+0.1%と2月以来の前年比プラスに回帰した。堅調な雇用に比べ、昨年以来の家計消費低迷はその背景が判然としなかったが、ここにきてようやく回復の兆しがみられる。実質家計消費水準指数(季節調整済)の3ヶ月移動平均は1月をボトムに上昇基調に転じており、同前年比伸び率は6月時点で+1.9%と3ヶ月連続プラスの伸びとなっている。家計消費が増加基調に転じていることを示唆する動きである。4-6月期の同指数は前期比+1.0%と、前期の同+0.9%と同じ上昇ペースであり、4-6月期GDP統計上の実質家計消費は前期並みの前期比年率+1%レベルの拡大が見込める。

20170731図1

全国消費者物価指数(6月、生鮮食品を除く総合)は前月比横ばい(前年比+0.4%)

6月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合=いわゆるコアCPI)は前月比横ばい。前年比では+0.4%と昨年後半をボトムに上昇基調を保ち、6ヶ月連続でプラスの伸びとなった。前年比の伸びに寄与した品目は電気代(同+4.9%)、ガソリン(同+6.1%)など、エネルギー価格の上昇がコアCPI上昇の主因である。生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(いわゆる新コアコアCPI)は前月比横ばい、前年比でも横ばいにとどまり、新コアコアCPIインフレ率は今年に入りほぼゼロ近辺での推移となっている。エネルギー価格がこのまま横ばい推移すれば、年末にコアCPIは前年比+1.0%まで上昇の見込みだが、新コアコアCPIは同+0.7%にとどまる計算になる。インフレ率上昇ペースは当レポートの見込みよりもやや下振れて推移している。

20170731図2

完全失業率(6月)は2.8%

6月の完全失業率は2.8%と前月の3.1%から-0.3%の大幅低下、1994年以来の低水準に回帰した。筆者試算の労働参加率は60.6%と前月並み。失業率の低下に表象されるように労働市場は引き続きタイトであり、労働力人口の増加がこれを緩和する構造が続いている。

20170731図3

[米国]

中古住宅販売戸数(6月)は年率5520千戸(前月比-1.8%)、在庫期間は4.3ヶ月

6月の中古住宅販売戸数は年率5520千戸(前月比-1.8%)と減少、3ヶ月移動平均も同5566.7千戸(同-1.1%)と低下しており、今年に入り販売戸数の推移は横ばい基調に転じているといえる。在庫期間は4.3ヶ月と依然短く、需給はタイトである。中央販売価格は前年比+6.5%とやや強めの伸び。公表元の全米不動産業協会(NAR)は「6月は過去3ヶ月の増加の反動」「在庫不足と価格上昇」が販売抑制要因としている。

20170731図4

新築住宅販売戸数(6月)は年率610千戸(前月比+0.8%)、在庫期間は5.4ヶ月

6月の新築住宅販売戸数は年率610千戸(前月比+0.8%)と2ヶ月連続の増加。在庫期間は5.4ヶ月と適正な水準を保っている。

20170731図5

耐久財受注(6月)は前月比+6.5%、除く運輸関連同+0.2%、非国防資本財受注(除く航空機)同-0.1%、同出荷同+0.2%

6月の耐久財受注は前月比+6.5%の大幅増。ただし、振れの大きい民間航空機の受注が全体を押し上げており、除く運輸関連では同+0.2%。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)同-0.1%。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同+0.2%。4-6月期の同受注は前期比年率+3.2%、同出荷は同+4.2%といずれも前期に続きプラス成長を維持し、企業設備投資の昨年後半からの回復の継続を示唆している。なお、この後公表された4-6月期実質GDP統計(速報値)では、機器投資は前期比年率+8.2%と3四半期連続プラスの伸びを維持した。

20170731図6

実質GDP成長率(4-6月期、速報値)は前期比年率+2.6%

4-6月期の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+2.6%と前期の同+1.2%から3四半期ぶりに加速した(なお、今回のGDP統計は年次改訂により2014年第1四半期に遡って改訂されている)。需要項目別内訳は、個人消費同+2.8%、設備投資同+5.2%、住宅投資同-6.8%、政府支出同+0.7%、在庫投資寄与度同-0.02%、純輸出寄与度同+0.18%。個人消費の同+2%台後半への加速と設備投資のプラス成長、ならびに住宅着工の減少による住宅投資のマイナス成長はいずれも公表済の基礎統計と整合しており、総じて予想通りの結果といえる。2017年通年成長率個人予想は依然前年比+2%レベルを維持できる。

20170731図7