FC2ブログ

通貨安競争回避と波及効果モニター~モスクワG20声明

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
モスクワのG20は通貨安競争回避を盛り込んだ共同声明を公表して終了した。通貨安競争回避自体は過去の文言踏襲にすぎない。一方で金融政策の他国への波及効果モニターなど新たな枠組みが提示されている。日本の金融緩和に対する名指し牽制は回避したが、当面円高方向への調整との見方への支持材料とみたい。

特定国言及はなかったが「波及効果モニター」を表明

2月15-16日に開催されたモスクワG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では、いわゆる通貨安競争の回避が謳われた。声明のうち、金融政策や為替に関する記述は[第1表]の通りである(財務省の仮訳による)。

[第1表]
20130217表1

まず注目すべきは、金融政策について「国内目的のために実施される政策が他の国々に与える負の波及効果をモニターし、最小化する」ことがコミットされている点である。これは、去る12日にG7声明として公表された文書を引用した「金融政策は各々の万デートに従って国内の物価安定….経済の回復を支援するべき」という文言に続いて新たに挿入されている。

これは、特定国の国内経済回復目的の金融政策への直接的牽制を避けつつも、結果的にそれが他の国への悪影響がある場合はそれを相互に監視するという新たな枠組みである。

為替については「我々は、競争力のために為替レートを目的とはせず、あらゆる形態の保護主義に対抗し、我々の開かれた市場を維持する」の箇所が、去る12日のG7声明を反映して挿入されている。それ以外の文言、たとえば「通貨の競争的な切り下げを回避」などの文言は概ね過去の声明を踏襲している。

円安に対する言及如何が注目されていた

為替市場では、G20前に大幅な円安が進んでいた。12月16日の総選挙で自民党が勝利した後、同月下旬にドル円は1ドル=85円を上抜けた。その後もいわゆるアベノミクスによる円安政策期待から円安が急激に進み、約2ヶ月でドル円は約10円も上昇、2月初には一時1ドル=94円台をつけた。

2月12日には、G7が「通貨の競争的な切り下げを回避する」との声明を公表した。この声明の解釈をめぐり市場の思惑は一時交錯した。麻生財務大臣は「(円安誘導など)そういったことはないということを、各国から正しく認識された点においては意味があった」と述べたと報道された(2月12日付日本経済新聞電子版)。一方、G7高官が「G7声明は円の過度な動きに対する懸念を表明したもの」と発言したとの報道もされていた(同日付ロイター社報道)。

通貨安競争回避文言と「波及効果」モニターで参加国全体を牽制した

モスクワG20の声明文は結果的に、通貨安競争の回避を明言したものの具体的な国の政策に踏み込むことを避けて一般的な表現にとどめた。利害の対立する特定国の名指しを避け、協調して通貨安競争を回避する表現をとるというG20の慣行を維持したものといえる。

日本にとっては、金融緩和拡大自体への制約は回避したといえるだろう。本来、金融緩和政策を通貨安誘導政策とみなすことにはやや無理がある。政府による為替介入は場合によっては為替操作とみなせる場合もあるが、内需拡大のための金融緩和が自国通貨安誘導であるとの立証はそもそも困難である。

しかし声明では「我々は、国内目的のために実施される政策が他の国々に与える負の波及効果をモニターし、最小化することにコミットする」「我々はフレームワーク作業部会における波及効果に関する現在進行中の作業の結果に期待する」とされ、金融緩和政策の「波及効果」として円安や他国通貨高という影響が検証されうる可能性に言及している。

また、結果的に今後さらに円安が進行した場合、一般的な「為替レートの無秩序な動き」とみなされて、G20各国による口頭での懸念表明などいわば分散的な牽制が働くことを許容した文言とも解釈できる。

同時にこの声明は、G20構成国全てに対し同様の牽制をかけたものといえる。最近自国通貨高が顕著な国として、韓国・ブラジル・メキシコなどのG20新興国がある。また先進国ではフランス・イタリアなどがユーロ高による輸出への影響を表明している。現在の通貨高国から通貨安国に対しての暗黙の牽制がこの文言から推測できる。のみならず逆に現在の通貨高国が通貨安政策を新たに採用した場合も「波及効果」「競争力のために為替レートを目標とせず」に照らした牽制の対象となりえよう。

今回の声明では、通貨安競争自体を全体として抑止することで、無用の非難中傷合戦を回避する紳士的申し合わせを表現したものと言える。

「通貨安戦争回避」表明自体は2010年ソウルに遡る

先進国で構成するG7やG8の財務相・中央銀行総裁会議声明や首脳会議(サミット)宣言声明では、中国に対して人民元改革を促すなどG7以外の特定国の為替に言及することが過去にしばしばあった。しかし参加国を新興国に拡大したG20においては、特定の参加国の為替政策について明示的に言及することはまれである。

たとえば、管理フロート制を採用する中国人民元の制度改革について「人民元の変動決定に市場要因がより広い役割を果たすことを許容する中国のコミットメントを歓迎する」と個別国名を声明に明記したケースがあった(2012年6月18-19日メキシコ・ロスカボスG20サミット共同宣言)。また、国名は明記せずとも「大きな経常黒字をもつ国々は、内需拡大と為替の更なる柔軟性拡大のための改革にコミットする」といった表現で個別国名を暗に想定しているケースがあった(2011年11月4日カンヌG20サミット共同宣言)。

「通貨安競争」「通貨戦争」という言葉が広まるきっかけとなったのは、2010年のソウルG20前後の最初の所謂Currency Warである。当時はブラジルなど新興国が米国の金融緩和をドル安誘導政策と批判、一方米国は中国の人民元改革の遅れを批判するという複雑な「通貨戦争」の様相を呈していた。

ソウルG20の共同声明・共同宣言では「根底にある経済ファンダメンタルズを反映した、より市場が決定する為替レートシステムをめざし」「通貨の競争的な切り下げを回避する」と、いわゆる通貨安競争回避の文言が採用された。また「外貨準備を持つ国を含む先進国は為替レートの過度な変動と無秩序な動きを警戒する」「こうしたアクションはいくつかの新興国が直面する資本フローの過度な変動のリスクを軽減する」とされ、自国通貨高の影響を受けていた新興国への配慮がなされた(2010年10月23日ソウルG20財務相・中央銀行総裁会合共同声明、同11月11-12日ソウルサミット共同宣言)。

今回のモスクワG20財務相・中央銀行総裁会合の声明でも、かかる先進国対新興国の対立も舞台裏にはあったと憶測できるが、少なくとも声明文の文面に明記されなかった。

円高への調整継続との見方を維持する

これまでの慣例で一般的な表現にとどめた声明では現実の通貨安をめぐる各国の利害が調整できた可能性は低く、今後も為替をめぐる各国要人同士の牽制発言は続く可能性が高い。

日本の金融緩和自体を牽制することはこの声明からは正当化できず、従って金融緩和の継続について日本は各国の理解を得たとの主張が可能だ。しかし金融効果の「波及効果」として円安の他国への悪影響の検証がされうる可能性が声明から読み取れる。また、結果的に今後さらに円安が進んだ場合、これに対する分散的牽制を正当化しうる声明であることも確かだ。

従って今回の声明は、筆者個人の為替見通しを変更する新たな材料にはなりにくい。ドル円についていえば、1ドル=95円を超えてドル高円安が続くことはなく、3月にかけてドル安円高方向への調整があるとの筆者個人の見方(1月13日付当レポート参照)を維持する。むろん、週明けの市場で声明解釈をめぐり当初一時的に為替が大きな値動きをする可能性は想定の範囲内である。

リスクシナリオとして、仮に1ドル=95円を大きく超えてドル高円安が進行した場合には、今年のレンジ上限を1ドル=100円に引き上げる方向で予想修正の可能性を考慮しておくことにする。


スポンサーサイト