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QE縮小の意思と数値ハードル~FRB議長議会証言

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FOMCによるQE縮小プロセス検討が具体化している。今年後半からFRBが資産購入ペース縮小を開始、2014年前半に量的緩和終了。FF金利誘導目標引上げは2015年と筆者個人は見ている。ただし、および直近の経済指標からはそこにいくつかのハードルも見える。

FRB議長「今後数回の会合」で緩和ペース減速の可能性を示唆

バーナンキFRB議長は22日、米議会の合同経済委員会で証言を行った。証言テキストによれば議長は「金融政策」と題するパートで、フォワードガイダンスと資産購入による「代替的金融緩和政策」(いわゆるQE)が、低金利を通じた設備投資や耐久財消費の促進とデフレ圧力の緩和という形で、現在の経済に「著しい利益をもたらしている」と評価した。

同時に議長は「委員会は長期にわたる低金利がコストとリスクを孕むことを認識している」と述べた。具体的なコストとリスクとして「預金や国債からの金利所得に依存する貯蓄者が極めて低いリターンしか得られない」こと、そして「極めて深刻な」コストとして「超低金利が長期間維持されすぎると金融安定を損なう可能性がある」を挙げた。後者について「低リターンに満足できない投資家やポートフォリオマネージャーがより高い信用リスク、デュレーションリスク、レバレッジをとることで”イールドを追求する“」可能性に言及した。

しかし、最後の部分で議長は「残念ながら、金融緩和をこの状況で解除することがこうした(高い金利と整合的な)経済環境を生み出す可能性は極めて低い」「期が熟す前の金融引締めは金利を一時的に上昇させうるが、経済回復を減速または終了させインフレ率を更に下落させる重大なリスクを孕んでいる」として、金融緩和の早期解除には否定的と取れる証言を行った。

なお、質疑応答でブレイディ下院議員の「いつ(緩和解除のプロセスを)開始するのか」との質問に対し、議長は「継続的な改善とそれが持続的であるとの確信がもてれば今後数回の会合で資産購入のペースを落とすことはありうる」「ただしそうしたとしても我々が自動的に資産購入の完全終了を目指すことを意味するものではない」と述べた。

5月FOMC議事要旨ではハト派がやや優位と読める

さて、同日公表された5月1日FOMC会合の議事要旨によれば、引続き緩和解除に関する議論が委員の間でなされていたことが分かる。過去3回の会合議事要旨から読み取れる緩和解除に関するタカ派・ハト派の主な発言は[第1表]の通りである。

これによれば、タカ派発言として直近5月1日会合では多くのa number of参加者が「経済情報が十分に強く成長が持続的との証左を示すならば6月会合にでも資産購入フローを下方に調整する意思を表明した」とされている。一方でハト派発言として、多数のmany参加者が「資産購入ペース減速の前に、労働市場の継続的改善、見通しへの確信、または下方リスクの後退が必要」と資産購入ペースの減速に慎重な姿勢を見せている。ここから見る限り、1月、3月に比べてハト派の意見の方が多くなっていると読める。

[第1表]
20130528表1

失業率低下ペースは今後減速しそう

FOMCは、ゼロ金利解除の条件として「失業率が6.5%を上回っている限り」「1、2年先のインフレ率見通しが2%を0.5%以上上回らない」限り、ゼロ金利政策を続けるとしている。さらにそれ以前にゼロ金利解除には「資産購入プログラム終了ののち相当の期間」をおくのが妥当としている。

ここで、FOMCが条件としている失業率とインフレ率の状況を見てみよう。失業率は4月時点で7.5%と、過去1年間で約0.6%低下、FOMCの目標である6.5%にあと1%と迫っている。ところが、需給ギャップから推計される失業率と実際の失業率を比較してみると、実際の失業率が推計値以上に低下していることが分かる([第1図]参照)。これは2009年~2011年にかけてリーマンショックの影響で理論値以上に失業率が上昇していた反動と考えられる。今後仮に実際の失業率が推計値に収れんしていくとするならば、失業率低下ペースは過去1年に比べてかなり遅くなることが予想される。今後米国経済が2~3%の成長を続けたとしても、失業率が7%を割り込むのは2015年を待たねばならない計算になる。

[第1図]
20130528図1

インフレ率は低下傾向にある

インフレ率として、FOMCが指標として採用しているコア個人消費支出価格指数(コアPCEデフレーター)を見てみる。コアPCEデフレーターで見たインフレ率は過去1年間低下傾向をたどり、3月現在で前年比+1.1%と、FOMCが目標とする2%を大きく下回っている。

インフレ率低下の要因としては、原油等商品価格の低下などの循環要因も考えられるが、より構造的な要因はマイナスの需給ギャップ水準がまだまだ大きいことである。米議会予算局推計による米国の潜在GDPと実際のGDPから計算してみると、現在の米国経済の需給ギャップは約-5.6%と計算できる。これはリーマンショック後のマイナス需給ギャップ拡大幅を半分も回復していない水準である。因みに日本の需給ギャップは2013年1-3月期時点で-2.3%にまで縮小している(内閣府)。デフレが続く日本よりも米国の需給ギャップの方が大きい状態が続いている。

[第2図]
20130528図2

[第3図]
20130528図3

追加的な量的緩和の効果は低減している

こうして見ると、早期の量的緩和ペース減速を主張するタカ派の意見よりも、量的緩和ペース減速に慎重なハト派の意見に分があるようにも見える。しかしながら一方で、資産購入によるFRBのバランスシート拡大によるデメリットにも留意が必要だ。そのひとつは、バランスシート拡大の限界的効果の問題である。

FRBの量的緩和により、マネタリーベースは過去4年間で約1.7倍に増加した。しかし一方でマネーストック(M2)は同期間に約1.2倍にしか増加していない([第4図])。その間通貨乗数(マネーストック/マネタリーベース)は低下ののち3倍半ばで推移し、直近はやや低下気味に推移している([第5図])。つまり、追加的な量緩和がマネーストックの増加に寄与する度合いは、量的緩和が進むにつれ低減している。量的緩和の追加的な拡大が実体経済に及ぼす影響度は中期的に減少していると言える。

[第4図]
20130528図4

[第5図]
20130528図5

市場の過度なリスクテイクなどのコストも勘案される

次に量的緩和継続のデメリットとしてFOMC委員が重視していると考えられるのは、投資家の過度なリスクテイクの復活の可能性である。このリスクはすでに1月FOMC議事録でも言及されていたものである。22日にバーナンキ議長は議会証言で、投資家・ファンドマネージャーが低金利下でより高い利回りを追求することが「金融安定を損なう可能性」につながりうるとの見解を述べている。

こうして見ると、数値上は量的緩和ペースの縮小開始には相当の(少なくとも半年程度の)期間を置くべきとの見方はありうる。しかし、量的緩和オペレーションそのものにかかるコスト、市場のリスクテイクから生じるリスクと、追加的な量的緩和の限界的効果を比較すると、効果よりもコストが勝っているとの考えも十分に成り立ちえる。

日米中銀総裁発言からは金融政策変更の明確な示唆は読み取りにくい

バーナンキ議長の22日の発言(質疑応答における「今後数回の会合で」)をきっかけにグローバルな株価下落と金利上昇が始まったと一般には報道されている。特に日本では、同じ22日に日銀金融政策決定会合と黒田総裁会見があり、そこで長期金利安定のための政策に言及がなかったことも翌日以降の株価急落の要因ともされているようだ(各種報道による)。

しかし、日銀総裁、FRB議長発言のいずれからも、将来の金融政策変更についての明確な示唆を読み取ることは困難である。これらの発言は特定の方向への金融政策転換のバイアスを表現したものではなく、あくまで金融政策の一般論を述べたもとの受け取るべきであろう。特にバーナンキ議長の「今後数回」発言は、議員の極めて具体的な質問に対して受動的に答えたたまでである。さらに緩和ペース減速検討には「持続的な改善」など複数の条件を付けている。ただ質疑応答における議長発言が、5月FOMC議事要旨に見られるタカ派意見と類似の表現であることは、議長自身はややタカ派方向に傾いている可能性を示唆するとも考えられる。

筆者はFOMCが今年後半に資産購入ペースを縮小開始、2014年前半に資産購入を停止、2015年に利上げ開始との見方をしている。これは、マイナスの需給ギャップ解消に至る時期を年率3%成長の前提で計算すると2015年頃との結果が出ることと整合している。FOMC委員の経済予測(3月時点)によれば、次の利上げ時期を2015年と予測する委員が13名と最も多かったという結果とも整合している。しかし、失業率・インフレ率という数値目標に照らせば資産購入ペースを今年中に縮小することを正当化することにはハードルがあると言わざるを得ない。現実にはFOMCは数値基準のみならず将来のコストをも踏まえた総合的判断をするものと見たい。


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投打かみあう回復~日本の1-3月期GDPと見通し

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日本の経済は1-3月期に予想以上に力強く回復が加速した。ここまでの牽引役は家計消費である。今後は企業部門の回復と政府経済対策効果が成長ペースを維持するだろう。筆者個人の日本経済成長率予想を引き上げるとともに、米国ほかについてもアップデートを行う。

日本の1-3月期成長率は3.5%:家計消費が力強く牽引

先週16日に公表された日本の1‐3月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.5%と、2四半期連続となるプラス成長だった([第1図])。成長の牽引役となったのは家計消費である。家計最終消費支出は前期比年率+3.7%と2011年7-9月期以来の強い伸びとなり、成長率を+2.2%押し上げた([第2図])。これで、2012年の事実上のリセッション(4-6月期、7-9月期の2四半期連続マイナス成長)から日本経済はまず立ち直り、さらにその回復ペースは加速したといえる。

好調な家計消費の背景は個人の景況感の好転だといえる。アベノミクスによる景気拡大への期待、連日にわたる株価上昇などが消費者態度指数を急伸させているのはその表れである([第3図])。リセッション後の景気回復初期に家計消費が先行して回復するのは過去にもしばしば見られた回復パタンである。

[第1図]
20130521図1

[第2図]
20130521図2

[第3図]
20130521図3


企業部門も近々底入れと見る

逆に、1-3月期の成長を押し下げたのは引続き企業部門だった。民間企業設備は5四半期連続のマイナス成長となる同-2.6%で、成長率を-0.3%押し下げた。同様に民間在庫も成長率を同-0.7%押し下げる結果となった(前掲[第2図])。

しかし、企業部門の先行きは暗くはない。上記のとおり家計消費に遅行して企業部門が回復するパタンは過去にもある。また直近の経済指標を見ると、企業部門も着実に回復していることが分かる。

設備投資の先行指標となる機械受注(船舶・電力を除く)は約1年ぶりに前年比でプラスの伸びに増加している([第4図])。民間企業設備は4-6月期には6四半期ぶりにプラス成長となり、成長を押し上げる役割を果たせると見る。

民間在庫の減少も、企業部門が拡大に転じるために必要な調整である。企業在庫率は昨年初から欧州財政危機を機に上昇して、意図せざる在庫の積み上がりが進んだ。その後企業在庫率は昨年末頃にピークとなり、以後今日まで順調に低下している([第5図])。企業の在庫調整は相当に進んだといえる。

[第4図]
20130521図4

[第5図]
20130521図5

消費は安定も経済対策効果が成長を維持の見込み:通年成長予想引上げ

1-3月期で3.5%の成長は筆者の3月時点の筆者の個人予想(3月17日付当レポート[第1表]参照)を大幅に上回るものだった。3月時点では、1-3月期の成長は概ね1%程度にとどまると見ていた。しかし、予想外の株価上昇と景況感の改善で、今年の景気の立ち上がりは極めて早い。

もっともベースラインの家計消費の伸びがこのペースで続くとは考えにくい。ここまでの家計消費急伸は主に株価や政策アナウンスメント効果による景況感の好転によるものと考えられる。現金給与の伸びは依然として低迷しているほか、雇用の伸びも今年に入ってプラスに転じているもののまだ力強さは見られない。本格的な消費の回復には、株価上昇のみならず賃金・雇用を合わせた所得の持続的増加が必要となろう。その他の景況感調査でも、景気ウォッチャー調査による判断DIが、現状・先行きともに2-3月にやや伸び悩みを見せているのはやや気になる。

一方で、4-6月期以降政府による財政出動の予算執行が本格化する。筆者は10.3兆円の政府経済対策の成長押し上げ効果を今年通年で約+1.2%と見ている(1月20日付当レポート参照)。今年の後半は企業部門の回復と政府財政が景気を押し上げ、個人消費の伸びの安定化を補うことになるだろう。主に1-3月期の成長率が予想を上回ったことを受けて、筆者個人の2013年暦年の日本の成長率予想を前年比+1.7%に上方修正する([第1表])。

経済・金融市場動向

同時にその他の指標の個人予想も改訂する。米国成長率も1-3月期の予想以上の伸びを反映して通年成長率をわずかに上方修正し+1.9%とする。もっとも政府歳出自動削減の実施と政府債務上限問題により政府部門が成長の足を引っ張ることと、雇用に関する先行指標や企業景況感に若干の陰りも見られることから、4-6月期以降の成長率や若干下方修正した。

金融市場では、日米の株価とドル円相場の個人予想をこれまでの実績に合わせ大幅に上方修正した。日米長期金利が今後年末にかけてじり高に向かうとの方向は不変である。ただし、日銀が4月に実施した「量的・質的緩和」の規模が当初想定を上回るものであったことから、日本国債利回りの水準を若干下方に修正した。

[第1表]
20130521表1



「2年で2%」再考~期待インフレ率の効果

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日本では期待インフレ率のデータに相応の制約がある。しかし、いくらかの仮定のもとでの分析によれば、期待インフレ率を引き上げることで実際のインフレ率を上昇させることができるとの結果がでた。もっとも計算上今の立ち位置から実際のインフレを2%に引き上げるまでにはかなりの距離がある。労働市場流動化など更なる方策によるデフレ脱却実現に期待する。

インフレ率の決定要因に期待インフレ率を追加する

5月4日付当レポートでは、日本の需給ギャップとインフレ率の相関だけからは「2年で2%」のインフレ率の達成は困難と見ざるを得ないことを論じた。同時に、インフレ期待を高めることやフィリプス曲線を上方シフトさせることにより2%達成の可能性はあると述べた。

日本銀行は4月26日の「経済・物価情勢の展望」で、「消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間の後半にかけて『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高いと見ている」と述べている。ここでは日銀は消費者物価の前年比(インフレ率)の主な決定要因として「需給ギャップ」と「予想物価上昇率」(期待インフレ率)の2つを想定している。

本レポートでは、需給ギャップに加え期待インフレ率を決定要因とした場合の実際のインフレ率への影響を考察する。

期待インフレ率を物価連動国債利回りから求める

日本の期待インフレ率の指標として、10年物利付国債利回りと10年物物価連動国債から求められるブレークイーブンインフレ率〔=(物価連動国債利回り)-(利付国債利回り)〕を用いる。10年物物価連動国債の発行が開始された2004年から、発行が停止された2009年までの間は、ブルームバーグ社が集計・公表するブレークイーブンインフレ率を用いることとする。

2008年をもって日本では一旦物価連動国債の発行が停止された。従って、2009年以降の期待インフレ率の算定には制約が生じる。一般に、2009年以降のブレークイーブンインフレ率としては2008年に最後に発行された10年物物価連動国債第16回債と、10年物利付国債第293回債の利回り差が用いられる。本レポートでもこれに倣うこととする。

こうして求めた、2004年から2012年までの四半期ごとの期待インフレ率と、同期間の需給ギャップ、実際のインフレ率(生鮮食品を除く消費者物価指数前年比の伸び)をグラフにしたのが[第1図]である。

[第1図]
20130518図1


期待インフレ率と実際のインフレ率の相関

まず、期待インフレ率とインフレ率の間の相関関係を見てみる。単純に両者の相関を計算しても、、決定計数R^2は極めて低く、両者の間にはほとんど相関関係が認められない([第2図])。

期待インフレ率が実際のインフレ率に影響するには相応のタイムラグがあるとみて、実際のインフレ率を2四半期遅行させて回帰してみると、決定計数は若干上昇するものの、有意な相関関係は認められない([第3図])。

次に、期待インフレ率と需給ギャップを外生変数、インフレ率を内生変数とする重回帰分析を行う。上記及び5月4日付当レポートの結果から、インフレ率を2四半期遅行(需給ギャップと期待インフレ率を2四半期先行)させて回帰を行ってみると、期待インフレ率はインフレ率の決定要因として統計的に有意とならなかった([第1表]の①)。期待インフレ率をインフレ率と同じく2四半期遅行させても同じく有意とはならなかった([第1表]の②)。


[第2図]
20130518図2


[第3図]
20130518図3


[第1表]
20130518表1


いくつかの条件のもとで期待インフレ率は有意なインフレ決定要因になる

そこで、期待インフレ率の数値に多少の補正を試みる。[第1図]を見ると、期待インフレ率は概ねインフレ率に先行する動きを示しているものの、2007年後半から2008年前半にかけてインフレ率が急上昇した局面において、先行指標としてこれを捕捉していない様子が読み取れる。2007年後半から2008年前半は、原油価格の急騰で世界のインフレ率が急上昇した時期である。原油価格の高騰が急激であったため、期待インフレ率の上昇がこれに十分についていけなかった、という想定は成り立つ。

そこで、2007年第3四半期~2008年第2四半期のデータを外れ値としてこれらを除いたデータで回帰してみると、期待インフレ率とインフレ率の相関関係は一気に強いものとなった([第4図])

また、需給ギャップ、期待インフレ率にこの4四半期についてダミー変数を加えてみた。重回帰分析の結果、定数項がほぼゼロの回帰式が求められ、これらの外生変数のいずれもが統計的に有意な決定要因となり、かつこの3変数で実際のインフレ率の80%以上を説明できるとの結果になった(上記[第1表]の③)。

以上より、いくつかの制約条件つきではあるが、日本においても期待インフレ率が実際のインフレ率に影響を及ぼしているとの結果になった。つまり期待インフレ率を引き上げることにより、実際のインフレ率を上昇させることは可能と考えてよい。期待インフレ率を引き上げることはデフレ脱却の有効な手段の一つだといえる。

[第4図]
20130518図4


実際には2%インフレまでには距離

ただ、今の環境では、2年で2%のインフレ実現には依然として困難が伴う。[第1表]によれば期待インフレ率のインフレ率に対する回帰係数は約0.26、[第4図]によれば回帰係数は0.53程度である。つまり、インフレ率を1%引き上げるにはその2~4倍のインフレ期待を起こさせる必要があることになる。

[第1表]の③の回帰式より、2%のインフレ率を実現するための需給ギャップと期待インフレ率の組み合わせを示したのが[第5図]である。2012年第4四半期現在の両指標の実績値(需給ギャップ-3.1%、インフレ期待0.67%)と比較すると、2%インフレ実現にはかなりの距離があることになる。たとえば、現在約-3%の需給ギャップをゼロにまで縮小させたとしても、2%のインフレ率実現には期待インフレ率を+8%近くにまで引き上げねばならない計算になる。

[第5図]
20130518図5

2%実現のための方策

この困難の克服のためには、需給ギャップとインフレ率の関係、期待インフレ率とインフレ率の関係そのものをシフトさせることが必要である。5月4日付レポートで述べたように、「需給ギャップとインフレ率の関係」を別の切り口でみた「失業率と賃金の関係」をシフトさせ(「フィリプス曲線の上方シフト」)、失業率の低下に対する賃金の反応を大きくする方策を探ること、労働市場の流動化を図ることなどが、量的・質的緩和を成功させる鍵になりそうだ。


堅調な雇用に回帰~米国4月雇用統計

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米国4月雇用統計では、予想外に雇用者数の増加が大きく、また過去分も大幅に上方改訂された。米国経済のソフトパッチ入りシナリオは杞憂だったといえる。そこで今後米国消費につき従前の筆者個人の予想を若干上方修正することを考慮する。リスクは5月19日以降の連邦政府債務上限問題と、上昇を続ける株式市場の行方である。

4月雇用統計は上方サプライズ

3日に公表された4月米国雇用統計は、予想外に好調な結果となった。非農業部門雇用者数は前月比+165千人(うち民間部門同+176千人)と、筆者個人が予想していた+100千人弱を大幅に上回った。のみならず過去分も大幅上方改訂され、2月は同+332千人(速報同+268千人)、3月同+138千人(速報同+88千人)となった。3、4月の2ヶ月連続で雇用増が100千人を下回るという「ソフトパッチ」シナリオも想定していたが、これは杞憂となった。

4月分統計と過去分改訂で、雇用市場の現状はかなり様変わりしたといえる([第1図参照])。月次の非農業部門雇用者数の増加幅にはばらつきがある。しかし前月比増減の3ヶ月移動平均は、3月に一旦下降に転じたのち4月にふたたび上昇に転じた。中期的な雇用増加の趨勢を示す前年比の伸びは、ここ4カ月間で+1.5~1.6%と安定して底入れ感も出てきている。

[第1図]
20130506図1


今後の雇用拡大ペースは「安定的」にとどまりそう

しかし、今後の雇用市場の拡大ペースが加速する兆候は見られない。概ね前月比+150~200千人、前年比1.5%程度の増加ペースで安定すると見たい。

まず、企業景況感に見る雇用関連指数が伸び悩んでいる。4月のISM製造業指数、同非製造業指数では、いずれも雇用DIが低下し、増加・減少の分岐点である50%に接近している([第2図]参照)。

次に、労働市場に需給のタイト感が見られない。労働市場の需給を表す求人比率は2月時点で2.8%にまで上昇している。しかし、その動きはまだ一進一退で、過去の好況期に見られた3%台半ばに比較するとまだ低い。さらに、失業率と求人比率の関係を表すUV曲線は、金融危機以降右方にシフトしていて、同じ求人比率でも高い失業率にとどまる傾向が鮮明になっている。これは労働市場のミスマッチを表すものと考えられ、労働力需要があってもそれに見合う雇用が創出されない可能性を示唆している([第3図]参照)。

[第2図]
20130506図2


[第3図]
20130506図3


実質ベースで2%の個人消費の伸びが可能

かかる前提で、今後の雇用は家計にどれほどの所得と購買力をもたらすだろうか。[第4図]で雇用者数、週平均労働時間、そして時間当たり賃金の前年比の伸びの推移を見てみる。これによれば、雇用者数の伸びが前年比約+1.5~1.6%、週平均労働時間の伸びが同ほぼゼロ、時間当たり賃金の伸びは同+1.7~1.8%で推移している。これらを合わせ、労働市場は前年比約+3.2~3.4%レベルの購買力の伸びを生み出すことになる。

ここからインフレ率(3月時点の消費者物価指数の伸びは前年比+1.5%)を差し引くと、実質ベースの個人消費は今後前年比+2%弱の伸びが期待できることになる。これは、当レポートで予想してきたGDP統計上の実質個人消費の伸び(2013通年で前年比+2%)にほぼ沿っている。

[第4図]
20130506図4


今年の成長予想の上方修正を考慮する

もっとも、3月までの実質個人消費の伸びは既にこのペースをかなり上回っている。1-3月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+3.2%の大幅な伸びを見せた。従って4月以降も2%レベルの消費の伸びが続くとすると、通年の個人消費の伸びは2%をかなり上回る計算になる。

ついては、筆者個人の成長予想を若干上方修正することを考慮する。2013年通年の実質GDP成長率は現状予想である前年比+1.8%から、同+2%レベルへの引上げが必要な見込みだ。

この見通しに対するリスクシナリオは2つある。ひとつは連邦政府債務上限撤廃という暫定措置が5月18日に期限を迎えることだ。2月4日に成立した債務上限暫定撤廃法によれば、18日の公的債務額が19日以降の新たな債務上限となる。これによりその後の米国債発行額減額や歳出の一部停止が実施される可能性がある。これは経済成長に新たな下押し要因となりうる。政府債務上限問題の再開を前に、米議会では目立った解決策が合意される様子は今のところない模様だ。

次に金融市場の動向である。3日にNYダウは一時15000ドルを超え、終値でも史上最高値を更新する14973ドルを付けた。この株価上昇が個人消費を心理面で後押ししてきたことは間違いない。所得税増税にも拘わらず消費伸びが加速して結果貯蓄率が低下していることは、1-3月期の個人消費に短期的な資産効果とでもいうべきものが寄与したことが推察できる。しかし、筆者は株価の今年のピークを5月のNYダウ15000ドルレベルだと個人的には見ている。いわゆる「5月売り」が今年も起きれば、今後この短期的資産効果は剥落していくリスクがある。


「2年で2%」は困難と見る~4月日銀展望レポート

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4月の日銀展望レポートでは、2015年度に約2%のインフレ目標達成可能との見通しが示された。しかし、成長率見通しと需給ギャップの関係からはこの目標達成は疑問と言わざるを得ない。しかし、2%目標自体は妥当であり、今後市場原理に基づく成長と健全な物価上昇を目指す政策には期待したい。

4月展望レポート「2015年度に1.9%のインフレ率見通し」

4月26日の日銀金融政策決定会合は、4月4日の「量的・質的緩和」の導入決定後初の会合だった。結果は「マネタリーベースが年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」とされ、前回会合で決定した金融政策が維持された。

同日公表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)でも、量的・質的緩和導入後初の経済・物価の見通しが示された。消費者物価上昇率については「マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみている」とされた。

政策委員見通しの中央値は、2013年度の実質GDP成長率が前年比+2.9%、14年度同+1.4%、15年度同+1.6%となった。消費者物価指数の伸び(消費税の影響を除くベース)は14年度同+1.4%、15年度同+1.9%となっており、約3年後には2%のインフレ目標が達成できる見通しとなっている([第1表])。

当レポートでは、このインフレ目標達成の現実性を、主に需給ギャップや失業率とインフレ率との関係から考察してみる。

[第1表]
20130504表1

2%インフレには需給ギャップが大幅な需要超過に転ずる必要がある

インフレ率の決定要因として、需給ギャップ(GDPギャップ)及び失業率がしばしば用いられる。[第1図]は、日本のGDPギャップ・失業率・インフレ率の推移を見たものである。内閣府の推計によれば、2012年第4四半期時点の需給ギャップは-3.1%、総務省「消費者物価指数」統計によれば、2012年第4四半期時点の消費者物価指数(除く生鮮食品)の伸びは前年同期比-0.1%、2013年第1四半期は同-0.3%である。

一般にインフレ率はGDPギャップに比例し、失業率に反比例して動くとされる。[第1図]からは、GDPギャップにほぼ2四半期遅行してインフレ率が変動する様子が見て取れる。[第2図]は、GDPギャップとインフレ率の相関関係を、インフレ率を2四半期遅行させて回帰分析したものである。この回帰式〔(インフレ率)=0.2887*(GDPギャップ)+0.4685)によれば、2%のインフレ率達成のためには需給ギャップが約5.3%のプラス(需要超過)に転じたのち2四半期を経る必要があるとの計算になる。

需給ギャップを現在の-3.1%から+5.3%に引き上げるためには、潜在成長率を2%以上上回る成長を4年継続する必要がある。これは、現在の日本の潜在成長率を+0.5%としても(3月24日付当レポート参照)
、約3%レベルの成長が4年続くことを意味する。この条件が実際に満たされることは現実的とはいえず、2015年に2%のインフレ目標達成は困難と言わざるを得ない。

[第1図]
20130504図1

[第2図]
20130504図2

楽観シナリオでも2015年の2%インフレは非現実的

やや楽観的なシナリオを考えてみよう。[第2図]における、GDPギャップがプラスの領域に注目すると、GDPギャップがプラスに転じるとともにインフレ率の上昇ペースが加速していることに気づく。つまり、GDPギャップがマイナスのときはGDPギャップの上昇に対するインフレ率上昇率が小さく、GDPギャップがプラスになるとGDPギャップ上昇に対するインフレ率の上昇率が大きくなる傾向があると見られる(フィリプス曲線のフラット化)。実際、1990年代前半にはGDPギャップ約+4%、1990年代後半にはGDPギャップ約+1%でそれぞれインフレ率が2%だった時期があった注1)

この経験則から、仮にGDPギャップが+2%にまで上昇したときに2%のインフレ率の実現が可能だとしてみよう。それでも、現在の-3.1%のGDPギャップからは約5%の隔たりがあり、このギャップ解消のためには2年連続3%成長、または3年連続2.5%成長を必要とし、2%のインフレ率に達するにはそこからさらに2四半期を経る必要があることになる。ここからも2015年度の2%インフレ目標達成はかなり非現実的と言わざるを得ない。

「展望レポート」のGDP成長率見通しの数値からは、2015年までの需給ギャップの縮小はたかだか3%程度との計算となる。つまり、展望レポートの成長見通しから導かれる2015年度末の需給ギャップは漸くゼロということになる。[第2図]においてGDPギャップゼロに対応するインフレ率は約+0.5%程度である。

失業率は1.6%まで低下する必要がある

別な観点からインフレ率の達成如何を見てみよう。[第3図]は失業率とインフレ率の関係を示したいわゆる物価版フィリプス曲線である。

こちらは上記よりやや長期間の過去20年の四半期データで回帰を行った。回帰式〔(インフレ率)=-0.7589*(失業率)+3.2446〕から、2%のインフレ率に相当する失業率は約1.6%との結果になった。しかるに、1981年を最後に現在まで日本の失業率が2%を割ったことはない。ここまでの失業率低下を2年で達成することもまた現実的でないと言えるだろう。

需給ギャップや失業率の物価との相関からは、展望レポートの物価見通しの実現は困難といわざるを得ず、当レポートでは2%インフレ率の達成には4年以上を要すると基本的には見ておきたい。

[第3図]
20130504図3

2%インフレ目標自体は妥当

しかし、これは2%インフレ目標自体の妥当性を否定するものではなく、また2%インフレ率の達成が不可能ということを意味するものではない。1月21日付当レポートで論じたように、2%のインフレ率は、景気悪化の際の利下げの余地を保った市中金利を維持する(「金融政策ののりしろ」)ために、また経済主体の購買意欲を前倒しさせて経済活動拡大を促すために有効なインフレ率である。

2%のインフレ率実現も、成長だけではなく他の決定要因により可能になりえる。失業率とインフレ率の関係を示すフィリプス曲線を上方シフトさせる政策である。ひとつはインフレ期待を上昇させること、次に労働市場の流動化により失業率低下に対する賃金上昇の比率を高めることである。これらはいずれも日銀・政府により企図されている政策だ。ただしこれらは市場原理に則った形で行われる必要がある。特に後者は政治的圧力ではなく、労働市場機能を活性化させることで実現されるべきだろう。


注1)[第1図]は内閣府「今週の指標No.1061」「今週の指標No.1010」から実数値が取得可能な時期(2001年~2012年)のみをプロットした。ただし同「今週の指標」のグラフからは1990年にGDPギャップが+4%弱、1996年頃に約+1%であったことが読み取れる。
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