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QE縮小の意思と数値ハードル~FRB議長議会証言

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FOMCによるQE縮小プロセス検討が具体化している。今年後半からFRBが資産購入ペース縮小を開始、2014年前半に量的緩和終了。FF金利誘導目標引上げは2015年と筆者個人は見ている。ただし、および直近の経済指標からはそこにいくつかのハードルも見える。

FRB議長「今後数回の会合」で緩和ペース減速の可能性を示唆

バーナンキFRB議長は22日、米議会の合同経済委員会で証言を行った。証言テキストによれば議長は「金融政策」と題するパートで、フォワードガイダンスと資産購入による「代替的金融緩和政策」(いわゆるQE)が、低金利を通じた設備投資や耐久財消費の促進とデフレ圧力の緩和という形で、現在の経済に「著しい利益をもたらしている」と評価した。

同時に議長は「委員会は長期にわたる低金利がコストとリスクを孕むことを認識している」と述べた。具体的なコストとリスクとして「預金や国債からの金利所得に依存する貯蓄者が極めて低いリターンしか得られない」こと、そして「極めて深刻な」コストとして「超低金利が長期間維持されすぎると金融安定を損なう可能性がある」を挙げた。後者について「低リターンに満足できない投資家やポートフォリオマネージャーがより高い信用リスク、デュレーションリスク、レバレッジをとることで”イールドを追求する“」可能性に言及した。

しかし、最後の部分で議長は「残念ながら、金融緩和をこの状況で解除することがこうした(高い金利と整合的な)経済環境を生み出す可能性は極めて低い」「期が熟す前の金融引締めは金利を一時的に上昇させうるが、経済回復を減速または終了させインフレ率を更に下落させる重大なリスクを孕んでいる」として、金融緩和の早期解除には否定的と取れる証言を行った。

なお、質疑応答でブレイディ下院議員の「いつ(緩和解除のプロセスを)開始するのか」との質問に対し、議長は「継続的な改善とそれが持続的であるとの確信がもてれば今後数回の会合で資産購入のペースを落とすことはありうる」「ただしそうしたとしても我々が自動的に資産購入の完全終了を目指すことを意味するものではない」と述べた。

5月FOMC議事要旨ではハト派がやや優位と読める

さて、同日公表された5月1日FOMC会合の議事要旨によれば、引続き緩和解除に関する議論が委員の間でなされていたことが分かる。過去3回の会合議事要旨から読み取れる緩和解除に関するタカ派・ハト派の主な発言は[第1表]の通りである。

これによれば、タカ派発言として直近5月1日会合では多くのa number of参加者が「経済情報が十分に強く成長が持続的との証左を示すならば6月会合にでも資産購入フローを下方に調整する意思を表明した」とされている。一方でハト派発言として、多数のmany参加者が「資産購入ペース減速の前に、労働市場の継続的改善、見通しへの確信、または下方リスクの後退が必要」と資産購入ペースの減速に慎重な姿勢を見せている。ここから見る限り、1月、3月に比べてハト派の意見の方が多くなっていると読める。

[第1表]
20130528表1

失業率低下ペースは今後減速しそう

FOMCは、ゼロ金利解除の条件として「失業率が6.5%を上回っている限り」「1、2年先のインフレ率見通しが2%を0.5%以上上回らない」限り、ゼロ金利政策を続けるとしている。さらにそれ以前にゼロ金利解除には「資産購入プログラム終了ののち相当の期間」をおくのが妥当としている。

ここで、FOMCが条件としている失業率とインフレ率の状況を見てみよう。失業率は4月時点で7.5%と、過去1年間で約0.6%低下、FOMCの目標である6.5%にあと1%と迫っている。ところが、需給ギャップから推計される失業率と実際の失業率を比較してみると、実際の失業率が推計値以上に低下していることが分かる([第1図]参照)。これは2009年~2011年にかけてリーマンショックの影響で理論値以上に失業率が上昇していた反動と考えられる。今後仮に実際の失業率が推計値に収れんしていくとするならば、失業率低下ペースは過去1年に比べてかなり遅くなることが予想される。今後米国経済が2~3%の成長を続けたとしても、失業率が7%を割り込むのは2015年を待たねばならない計算になる。

[第1図]
20130528図1

インフレ率は低下傾向にある

インフレ率として、FOMCが指標として採用しているコア個人消費支出価格指数(コアPCEデフレーター)を見てみる。コアPCEデフレーターで見たインフレ率は過去1年間低下傾向をたどり、3月現在で前年比+1.1%と、FOMCが目標とする2%を大きく下回っている。

インフレ率低下の要因としては、原油等商品価格の低下などの循環要因も考えられるが、より構造的な要因はマイナスの需給ギャップ水準がまだまだ大きいことである。米議会予算局推計による米国の潜在GDPと実際のGDPから計算してみると、現在の米国経済の需給ギャップは約-5.6%と計算できる。これはリーマンショック後のマイナス需給ギャップ拡大幅を半分も回復していない水準である。因みに日本の需給ギャップは2013年1-3月期時点で-2.3%にまで縮小している(内閣府)。デフレが続く日本よりも米国の需給ギャップの方が大きい状態が続いている。

[第2図]
20130528図2

[第3図]
20130528図3

追加的な量的緩和の効果は低減している

こうして見ると、早期の量的緩和ペース減速を主張するタカ派の意見よりも、量的緩和ペース減速に慎重なハト派の意見に分があるようにも見える。しかしながら一方で、資産購入によるFRBのバランスシート拡大によるデメリットにも留意が必要だ。そのひとつは、バランスシート拡大の限界的効果の問題である。

FRBの量的緩和により、マネタリーベースは過去4年間で約1.7倍に増加した。しかし一方でマネーストック(M2)は同期間に約1.2倍にしか増加していない([第4図])。その間通貨乗数(マネーストック/マネタリーベース)は低下ののち3倍半ばで推移し、直近はやや低下気味に推移している([第5図])。つまり、追加的な量緩和がマネーストックの増加に寄与する度合いは、量的緩和が進むにつれ低減している。量的緩和の追加的な拡大が実体経済に及ぼす影響度は中期的に減少していると言える。

[第4図]
20130528図4

[第5図]
20130528図5

市場の過度なリスクテイクなどのコストも勘案される

次に量的緩和継続のデメリットとしてFOMC委員が重視していると考えられるのは、投資家の過度なリスクテイクの復活の可能性である。このリスクはすでに1月FOMC議事録でも言及されていたものである。22日にバーナンキ議長は議会証言で、投資家・ファンドマネージャーが低金利下でより高い利回りを追求することが「金融安定を損なう可能性」につながりうるとの見解を述べている。

こうして見ると、数値上は量的緩和ペースの縮小開始には相当の(少なくとも半年程度の)期間を置くべきとの見方はありうる。しかし、量的緩和オペレーションそのものにかかるコスト、市場のリスクテイクから生じるリスクと、追加的な量的緩和の限界的効果を比較すると、効果よりもコストが勝っているとの考えも十分に成り立ちえる。

日米中銀総裁発言からは金融政策変更の明確な示唆は読み取りにくい

バーナンキ議長の22日の発言(質疑応答における「今後数回の会合で」)をきっかけにグローバルな株価下落と金利上昇が始まったと一般には報道されている。特に日本では、同じ22日に日銀金融政策決定会合と黒田総裁会見があり、そこで長期金利安定のための政策に言及がなかったことも翌日以降の株価急落の要因ともされているようだ(各種報道による)。

しかし、日銀総裁、FRB議長発言のいずれからも、将来の金融政策変更についての明確な示唆を読み取ることは困難である。これらの発言は特定の方向への金融政策転換のバイアスを表現したものではなく、あくまで金融政策の一般論を述べたもとの受け取るべきであろう。特にバーナンキ議長の「今後数回」発言は、議員の極めて具体的な質問に対して受動的に答えたたまでである。さらに緩和ペース減速検討には「持続的な改善」など複数の条件を付けている。ただ質疑応答における議長発言が、5月FOMC議事要旨に見られるタカ派意見と類似の表現であることは、議長自身はややタカ派方向に傾いている可能性を示唆するとも考えられる。

筆者はFOMCが今年後半に資産購入ペースを縮小開始、2014年前半に資産購入を停止、2015年に利上げ開始との見方をしている。これは、マイナスの需給ギャップ解消に至る時期を年率3%成長の前提で計算すると2015年頃との結果が出ることと整合している。FOMC委員の経済予測(3月時点)によれば、次の利上げ時期を2015年と予測する委員が13名と最も多かったという結果とも整合している。しかし、失業率・インフレ率という数値目標に照らせば資産購入ペースを今年中に縮小することを正当化することにはハードルがあると言わざるを得ない。現実にはFOMCは数値基準のみならず将来のコストをも踏まえた総合的判断をするものと見たい。


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