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<経済レポート>タイト感強まる~米国労働市場

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失業率6.3%の米国労働市場の需給に関する見方は大きく2つに分かれる。労働市場は見かけよりも多くの余剰を抱えているとする見方と、労働市場は見かけよりもタイトになっているとの見方である。26週以下の短期失業率の低下や求人比率の上昇などからは、労働市場はタイト感が高まっていると見たい。タイトな労働市場は年後半に消費者インフレ率を適度なレベルにまで押し上げ、来年にはFOMCによる金利正常化を正当化することになるだろう。

6.3%の失業率に対する評価は分かれている

米国の失業率は5月時点で6.3%と、米議会予算局の推計する自然失業率5.9%にあと0.4%にまで低下している。この状況についてFOMC委員内の評価は分かれている。イエレンFRB議長は5月7日の米議会合同経済委員会での証言で「労働市場条件は目に見えて改善したが、依然として満足には程遠い」と述べている。その理由として「失業率は、最近の低下にも関わらず高いままである」「労働人口のうち6ヶ月以上失業している人口のシェアと、フルタイム職を志向しつつパートタイムで働く労働者数が歴史的な高水準にある」ことを挙げている。

遡って4月29-30日のFOMC議事録によれば「多くの参加者は労働市場の稼働率の低さに関するいくつかの指標―低い労働参加率、長期失業者比率の高さ、経済的理由でパートタイム雇用されている労働者の比率の高さを含む―は、失業率で捕捉されるより多くののりしろslackが労働市場に存在することを示唆している」とイエレン議長と同様の見解を示した。

しかし、いくらかの参加者は「自身の地区のコンタクト先はいくらかの業種や職種で労働者の不足を示唆した」と述べた。またある一人の参加者は「労働市場間の移動率を勘案した指標による労働市場稼働率は」十分に低下していると述べている(これは4月にリッチモンド連銀が公表したレポート注1) に基づくラッカー総裁の意見と思われる)。3月に米ブルッキングス研究所の発表した調査 注2)は、2009年以降の長期失業者はインフレ率などに影響を与えておらず、むしろ短期失業者を対象とした失業率の方が労働市場の条件を計測するのに適していると述べている。

短期失業率でみると労働市場はすでにタイト

本レポートでは上記の資料等を参考に、現在の米国の労働市場のタイト感につき考察する。筆者はイエレン議長が述べるよりも労働市場はタイト化しており、年後半にかけての賃金上昇とインフレ率上昇の背景となると考えている。まず、イエレン議長やブルッキングス研究所が採用する長期失業者の状況を見てみる。5月時点で27週間以上の長期失業者数は3,374千人で、2010年4月のピーク6,770千人から約半減している。しかし金融危機前には同失業者数が2,000千人を超えることはまれであった。同じく長期失業者数の総失業者数に占める割合は4月で34.4%と、2010年のピーク46%からは大幅低下している。しかし金融危機前はこの割合は30%を超えることはなかった。その意味では、27週以上の長期失業者数およびその割合は改善しているものの引き続き高い水準にあるということができる([第1図])。

次に、こうした高水準の長期失業者数が、循環的要因によるものか構造的要因によるものかが課題になる。ここでは、かくも長期間にわたり高水準を保っている長期失業者は構造的要因によるものと見る。その背景として考えられるのはまず雇用のミスマッチである。製造業の雇用者数は長期的に減少トレンドにあるが、金融危機で自動車産業が大きな打撃を受け減少ペースは更に加速した。自動車産業地域で同業に長らく携わっていた労働者が他の業種に転職できる可能性は低いと推測できる。また雇用ミスマッチは、失業率と欠員率(=(未充足求人数)÷(雇用者数+有効求人数))との関係を示すUV曲線の上方シフトからも推測できる。[第2図]によれば、金融危機からの回復にともない欠員率が上昇している、つまり求人は増加しているにも関わらず、失業率は過去の同じ欠員率の時にくらべて高止まりしている。これは労働市場の需要と供給がマッチしない状況が続いていることを示唆している。

この仮定を前提に、循環要因による失業率、ここでは26週以下の短期失業者を対象にした失業率の推移を見てみよう。[第3図]によれば、全体の失業率は過去10年の平均値よりもまだ高い水準にあるのに対し、26週以下の短期失業者を対象にした失業率は、既に過去10年の平均値を下回る水準にまで低下している。つまり循環要因による失業率からは、労働市場はすでに平均よりもタイトな状況にあることが推測できる。

[第1図]
20140618図1

[第2図]
20140618図2

[第3図]
20140618図3


求人増加、労働時間の長期化も労働市場のタイト化を示唆

再び上述[第2図]のUV曲線に戻ると、欠員率は4月時点で3.1%と、2008年1月以来6年半ぶりに3%台に上昇した。これは未充足求人の割合が増加していることを表しており、労働市場のタイト化を示唆する指標である。また、米国の需給ギャップと過去の失業率との相関から現在の失業率を推計すると、筆者計算では約7.5%との結果になる。つまり現在の6.3%の失業率は、需給ギャップとの比較ではやや低すぎる水準である。

更に、労働市場のタイト化を示唆する指標として週平均労働時間の長期化があげられる。労働市場がタイトになると、まず労働時間が長期化し、次に雇用が増加、最後に賃金が上昇するのが通常の波及経路である。週平均労働時間は5月時点で33.7時間と、金融危機からの経済回復後のピークの水準にある([第4図])。

短期失業率のトレンド以下への低下は、労働市場が見かけの失業率よりも実際にはタイトであることを推測させるものであり、また求人増加、労働時間の長期化は少なくとも労働市場かタイト化の度合いを高めつつあることを示唆するものである。現在の失業率や長期失業者数は確かに労働市場の余剰がまだ相応にあることを表してはいるものの、これらが構造要因であるとするならば、実態的には労働市場のタイト化はかなり明らかである。

[第4図]
20140618図4

タイト化する労働市場は賃金と物価の上昇をもたらす

次に、このタイトな労働市場が賃金と物価に与える影響を見てみる。5月現在の時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の時間当たり賃金は前年比+2.4%で、2000年代半ばの3~4%の上昇率に比べればまだ低い。しかし、失業率と時間当たり賃金の関係を示すシンプルなフィリップス曲線を描いてみると、失業率低下に遅行して、2012年半ばから時間当たり賃金の伸び率が徐々に上昇しているのがわかる([第5図])。また、時間当たり賃金伸び率の上昇に遅行して、コア消費者物価指数の前年比の伸び率がここ2~3ヶ月で上昇に転じている([第6図])。実際に消費者物価指数の前年比の伸びは、5月時点で総合指数が+2.1%、コア指数が+2.0%と、16ヶ月ぶりに両指数がそろって2%を超えた。ここからは、タイト化した労働市場が賃金上昇を通じてインフレ率を上昇させる波及経路を読み取ることができる。

コア個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)と失業率の関係はより当てはまりが良く、両者には強めの相関関係がみられる([第7図])。単純な回帰式では現在の6.3%の失業率は約+1.8%のコアPCEインフレ率に相当する。失業率を需給ギャップに置き換え、さらに期待インフレ率を変数に加えた回帰式では更に当てはまりが良く、そこでも現在のコアPCEインフレ率は約+1.7%と推計される(5月11日付当レポート参照)。4月時点のPCEインフレ率は総合指数が1.4%、コア指数が+1.3%といずれも上昇に転じている。FOMCがインフレ指標として用いているPCEインフレ率は年末にかけて+1.7%にまで上昇すると筆者は個人的に予想している。

なお、上記のブルッキングス研究所調査では、26週以下の短期失業率の方が失業率全体よりも失業率と物価の関係をよく説明できること、また短期失業率を用いたUV曲線は金融危機の前後でシフトせず安定していることから、金融危機以降の長期失業者は実際には経済や物価変動に影響を与えておらず、むしろ縁辺労働者(非労働力人口)と見るべきとしている。筆者の見方もこれに近いものではあるが、同調査が1976年から現在までの長期を分析の対象としているのに対し、筆者は1992年以降の中期を分析の対象としている。この期間については少なくとも、短期失業率が物価上昇率をよりよく説明するという結果は得られなかった。従って、労働市場が表面の失業率よりもタイトであるとの見方は維持しつつ、以上の分析では全体の失業率を用いてその効果を計測することとした。

[第5図]
20140618図5

[第6図]
20140618図6

[第7図]
20140618図7

大きなマイナス需給ギャップによりインフレ高進は穏当にとどまる

また、労働市場がタイト化していることは、経済全体の余剰が十分に縮小していることを必ずしも意味しない。米議会予算局の推計する潜在GDPをもとに筆者が試算した米国の需給ギャップは、1-3月期時点で-4.3%と日本に比べてまだ大きい([第8図])。労働市場がタイト化しているにも関わらず大きなマイナス需給ギャップが存在する背景は、米国の設備投資がまだ過剰な状態にあることである(6月9日付当レポート参照)。その意味では、米国のインフレ率は上昇するとはいえ穏当な水準にとどまる可能性が高く、量的緩和によって大幅なインフレの懸念があると見るのは時期尚早であろう。

以上、米国の労働市場のタイト化により今後賃金上昇圧力とインフレ圧力が継続的に高まり、PCEインフレ率はFOMCが目標とする2%に来年前半には達すると見る。これは米国経済が好循環に入っていることを示唆するものである。これらより、現在のFOMCの量的緩和政策は着実に縮小され、年内に資産購入停止、またインフレ率が2%に近づく来年には利上げが開始されるとの筆者の個人予想を維持する。

[第8図]
20140618図8

注1)Andreas Hornstein, et al, “A New Measure of Resource Utilization in the Labor Market”, April 18 2014, Federal Reserve Bank of Richmond.
注2)Alan B. Krueger, et al, ”Are the Long-Term Unemployment on the Margins of Labor Market?” March 20-21 2014, Brookings Panel on Economic Activity.
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