FC2ブログ

<経済レポート> トレンド回帰はまだ遠い:日本経済定点観測

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
日本の実質GDP成長率は10-12月期に3四半期ぶりのプラス成長に転化したが、需給ギャップの解消にはまだ時間がかかる。インフレ率は消費税影響除きでゼロ%に低下し、2%インフレ率の達成も引き続き困難である。もっとも、円安やインフレ率低下は家計消費の持ち直しを促進し、また企業部門の設備投資や輸出が経済を牽引する形で、日本経済は回復基調を今後も継続すると見る。

-2.2%の需給ギャップ解消には3%成長が必要

日本の10-12月期実質GDP成長率は前期比+1.5%と、3四半期ぶりのプラス成長に回復した。内容は家計消費が前期比年率+2%近い伸びで成長を牽引、また輸出増加もネットで成長率を+1.1%押し上げた。これらが設備投資や住宅投資の減少及び在庫調整による成長押し下げをカバーした形になる(3月14日付<経済指標コメント>参照)。今後についてもインフレ率の低下が家計消費の追い風となり、またこれまでの資本財出荷の積み上がりが統計上の設備投資をプラス成長に転化させるなど、内需の堅調な拡大が見込まれる。また円安も背景として輸出増加が成長を引き続き押し上げると見る。

しかしながら一方で、現在の日本のGDP水準は昨年4月の消費税率引上げの反動減から回復したとは言えない。まず10-12月期の実質GDPの水準(524.6兆円)は2013年1-3月期の水準をようやく上回ったレベルで、消費税率引上げ前の駆け込み需要発生前の水準にもまだ回帰していないことになる。GDPギャップは10-12月期時点で依然-2.3%のマイナスで(内閣府推計)、これを今後1年間で解消するには、2015年通年で潜在成長率(内閣府推計では+0.6%)を+2.3%上回る成長つまり約3%弱の成長が実現される必要がある計算になる。

別な観点から日本の潜在GDP(トレンドGDP)と潜在成長率(トレンド成長率)を推計し、これに対する現在のGDP実績の位置を見てみよう。トレンドGDPの抽出は次の3通りの方法で行う。すなわち①第2次安倍政権発足直前の2012年10-12月期から2014年10-12月期の9四半期の実質GDPを線形回帰([第1図])、②1994年1-3月期から2014年10-12月期の84四半期の実質GDPを線形回帰([第2図])、③1994年1-3月期から2014年10-12月期の84四半期の実質GDPをHPフィルターで回帰([第3図])、の3つである(2014年8月31日付当レポート参照)。

[第1図]
20150329b図1

[第2図]
20150329b図2

[第3図]
20150329b図3

短期トレンド成長率は+0.4%に大幅低下した

それぞれの推計から抽出された日本のトレンドGDP、トレンド成長率及びトレンドGDP回帰に必要な1-3月期成長率をまとめたのが[第1表]である。この表からは以下のことがわかる。まず、2012年10-12月期から直近までの短期のトレンド成長率が年率+0.4%に大きく低下している。安倍政権発足の2012年10-12月期から消費税率引上げ直後の2014年4-6月期までのトレンド成長率は年率約+2%に加速していた(2014年8月31日付当レポート参照)。しかしながら消費税率引上げ後の成長の低迷で、短期トレンド成長率は大幅に低下したことになる。低下した短期のトレンドGDPに対しては、1-3月期に前期比年率+3.1%の成長が実現できればトレンド回帰が可能な計算になる。

つぎに、1984年から直近までの線形回帰による長期トレンド成長率は年率+0.8%レベルで、これは昨年4-6月期までの推計と不変である。またこれは内閣府の推計する潜在成長率+0.6%とほぼ近い水準である。消費税率引上げ前の駆け込み需要及びその反動減は結果的に長期トレンド成長率を変化させていない。この長期トレンドGDPへの回帰に必要な1-3月期成長率は年率+6.9%と計算され、低下した短期トレンドへの回帰に比べて大幅にハードルが高くなる。更に、1984年から直近までのHPフィルターによる長期トレンド成長率は年率0.8%と、昨年4-6月期までの推計である同+1.0%からやや低下している。HPフィルターによるトレンド抽出は直近の変動を織り込みやすい傾向にあり、消費税率引上げ後の成長低迷が反映されたことによりトレンド成長率が低下したことになる。このトレンドGDP回帰に必要な1-3月期成長率は前期比年率+4.1%と計算される。

消費税率引上げによる影響が成長にとって中立であるといえるためには、基本的には長期線形回帰による潜在GDPを達成することが必要である。短期線形回帰によるトレンドやHPフィルターによるトレンド抽出は直近の反動減による成長低下を大き目に織り込んでいるため、これらへの回復をもって消費税率引上げ影響が解消されたと見るのは難しいであろう。1-3月期に前期比年率+6.9%の成長は今や非現実的である。日本経済が消費税率引上げ影響を克服してトレンドに回帰するにはあと1年以上はかかると言わざるを得ない。

[第1表]
20150329b表1

低インフレ率は継続、賃金上昇加速も需給要因のみで説明できる

成長率のトレンド回帰に続き、インフレ動向を占ってみる。生鮮食品を除く総合消費者物価指数の前年比の伸び率(コアインフレ率、消費税率引上げ影響を除く)と失業率の関係を見た物価版フィリップス曲線が[第4図]である。これによれば、消費税率引上げのあった2014年4-6月期に一時的にインフレ率がトレンドから上方に乖離する動きがあったが、2月時点では消費税率影響を除くコアインフレ率が前年比横ばいにまで低下している。つまり、2014年に一時的に上昇したインフレ率は多分に金融緩和によるアナウンスメント効果によるものであって、この効果が剥落したあとは再びインフレ率は低下、つまり政策の目指したフィリップス曲線の上方シフトはいまだ実現していないことになる。

一般に、フィリップス曲線にはフラット化の傾向があり、失業率が自然失業率を下回るとインフレ率が上昇ペースを速める傾向がある。そこで、シンプルな方法で日本の自然失業率を推計してみることにする。[第5図]はコアインフレ率の前年比の変化幅と失業率の関係から、インフレ率を変動させない失業率(NAIRU)を推計することで日本の自然失業率を推計したものである。このグラフによれば、長期的な日本の自然失業率は約4.3%と推計され、現在の失業率(2月時点で3.5%)は既に自然失業率を大幅に下回っていることになる。自然失業率の推計を20四半期のローリング回帰で行い、失業率実績と比較したものが[第6図]である。これによれば、既に2012年頃から日本の失業率は自然失業率を下回る水準に低下していたことになる。にも拘わらすインフレ率の高進が見られない現状も、フィリップス曲線が少なくとも上方シフトはしていないことを示唆している(もっともこの推計による自然失業率は一般に日本の自然失業率とされる3%台半ばよりもかなり高めに出ていることには留意)。

次に賃金と失業率の関係を見てみよう。現金給与総額(所定内給与)は物価に比べて上昇ペースの加速が顕著である。所定内給与は2014年6月以降ほぼ一貫して前年比プラスの伸びを保っており、1月時点の所定内給与は前年比+0.8%の伸びとなっている。これはアベノミクスの一貫として政府が企業に対して賃金引上げを要請した結果2014年から企業においてベア実施が復活したことの成果とも見られている。一方で、失業率と所定内給与の前年比伸び率の関係を示す賃金版フィリップス曲線を描いてみると、インフレ率と失業率の関係よりも強い相関がみられる([第7図])。このフィリップス曲線によれば、3.5%の失業率に対応する賃金上昇率は前年比+0.7%と推計される。つまり、政府による賃金引上げの要請がなくとも所定内給与は労働市場需給により+0.7%程度の上昇は実現されていたはずであり、これは従来からのフィリップス曲線に沿った動きに過ぎないことになる。ここからも、アベノミクス以降で賃金と失業率の関係が大きく変化する兆しは見られないことになる。

[第4図]
20150329b図4

[第5図]
20150329b図5

[第6図]
20150329b図6

[第7図]
20150329b図7

これからは企業部門が成長を牽引:2015年の1%成長を見込む

以上より、日本の経済が消費税率引上げ前からのトレンドに回帰するには今しばらくの時間がかかること、また2014年以降の経済政策は日本のフィリップス曲線をシフトさせるには至らず、労働市場のタイト化にもかかわらずインフレ率上昇の加速はみられないため2%のインフレ目標の達成は引き続き困難であることが憶測できる。

今後の日本の成長率の行方を最新の指標から占ってみよう。総じて個人消費が軟化しているのに対し、設備投資や輸出等の企業部門は好調である。まず家計消費の回復はまだ鈍い。総務省の家計調査によれば2月の家計消費支出(2人以上の世帯)は前月比+0.8%の強めの伸びを示した(3月29日付<経済指標コメント>参照)。賃金上昇とインフレ率の抑制により個人消費を取り巻く環境は悪くはない。1-3月期の内閣府消費総合指数は1月時点で前期比マイナスの伸びにあり([第8図])家計消費の減速を示唆しているが、2-3月に消費回復が見られれば、1-3月期のGDP統計上の家計消費は前期比年年率+3%成長も何とか可能な位置にある。一方で企業設備投資の先行指標となる資本財出荷は1月にかけて大幅に増加しており、1-3月期GDP統計上の企業設備が4四半期ぶりにプラス成長になる可能性が高いことを示唆している。また、円安による輸出増加が見込まれることも成長の押し上げ要因である。

街角景況感もようやく回復しており、内閣府景気ウォッチャー調査では2月の現状判断DIと先行き判断DIのいずれもが横ばいを示す50を上回った。1-3月期の日本の実質GDP成長率は前期比年率2%台に加速すると見る。また2015年暦年では前年比+1%、2015年度前年度比では+1.7%の成長を見込むこととする。

[第8図]
20150329b図8

[第9図]
20150329b図9



スポンサーサイト

<経済指標コメント> 日本のコア消費者物価指数は前年比+2.0%

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
[日本]

消費者物価指数(2月)は前月比-0.2%(前年比+2.2%)、生鮮食品を除く総合指数は同-0.6%(前年比+2.0%)

2月の消費者物価指数、総合指数は前月比-0.2%(前年比+2.2%)と2ヶ月連続前月比低下、前年比の伸び率は4ヶ月ぶりに低下した。前月比の指数低下に寄与した主な品目はガソリン(前月比-5.1%)、生鮮野菜(同-5.1%)など。生鮮食品を除く総合指数(コア指数)は前月比-0.1%と4ヶ月連続の低下、前年比では+2.0%と消費税率引上げ影響を除くとゼロ%の伸びに低下した。食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コアコア指数)は前月比+0.1%と小幅上昇したものの前年比では+2.0%と前月比横ばいの伸び、消費税影響除きでは2ヶ月連続でゼロ%の伸びとなった。コアコアインフレ率(消費税影響を除く)が前年比0%にまで低下するのは2013年9月以来のことである。日本においては、エネルギー価格下落の一時要因を除いてもインフレ率が再びゼロ%に低下する状況にある。日銀による2%のインフレ目標達成は引き続き困難と見る。

20150329図1

完全失業率(2月)は3.5%(前月比-0.1%ポイント)

2月の完全失業率は3.5%(前月比-0.1%ポイント)と小幅反落。内訳を見ると、労働力人口と就業者数は前月比ほぼ横ばい、完全失業者数は前月比減少した(季節調整値)。労働市場の需給は引き続きタイトな状況にあるといえる。一方、筆者試算による労働力化率は59.7%と3ヶ月連続で横ばい。労働力化率は中期的には上昇傾向にあり、失業率低下に反映される労働市場の需給タイト化を潜在的に緩和する動きもみられる。

20150329図2

実質家計消費支出(2月、2人以上の世帯)は前月比+0.8%、前年比-2.9%

2月の実質家計消費支出(2人以上の世帯)は前月比+0.8%と前月の同-0.3%から反発、過去6ヶ月で5回の増加を示した。しかし前年比では-2.9%と昨年4月の消費税率引上げ以来11ヶ月連続でマイナスの伸び。家計消費は駆け込み需要本格化前の水準に回帰していない。家計消費は持ち直しの傾向が続いているものの、消費税率引上げ後の反動減からの回復はまだ十分でないといえる。なお、内閣府の消費総合指数によれば、1月の消費総合指数は前月比-0.5%と2ヶ月連続の低下で、1-3月期のGDP統計上の実質家計消費が前期比マイナスの伸びになるリスクを示唆している。もっとも家計調査に見られるように2月に個人消費が反発増加している可能性が高く、個人予想としては1-3月期家計消費の伸び予想+3%を現状では維持しておく。

20150329図3

[米国]

中古住宅販売戸数(2月)は年率4880千戸(前月比+1.2%)、在庫期間は4.6ヶ月

2月の中古住宅販売戸数は年率4880千戸(前月比+1.2%)と2ヶ月ぶりの増加、しかし前月の同-4.9%の大幅減分の回復には至らず、3ヶ月移動平均も4ヶ月連続で低下している。昨年10月をピークに中古住宅販売は軟化傾向が続いているといえる。販売在庫は1890千戸(前月比+1.6%)と単月で増加したものの中期的減少傾向にあり、結果在庫期間は4.6ヶ月(前月比横ばい)の低水準にとどまっている。中央販売価格は前年比+7.5%と前月の同+5.2%から上昇ペースがやや加速した。公表元の全米不動産業協会(NAR)は「不十分な供給が消費者の購入意欲をそぎ、価格上昇が消費者に適合しない水準になっている」「冬の悪天候が北東部と中西部の住宅販売に影響を与えた」としている。中古住宅販売の伸び悩みが悪天候要因ならば販売の軟化は一時的なものといえるが、米経済指標全体の軟化と軌を一にしているのはやや気になるところである。

20150329図4

新築住宅販売戸数(2月)は年率539千戸(前月比+7.8%)、在庫期間は4.7ヶ月

2月の新築住宅販売戸数は年率539千戸(前月比+7.8%)と3ヶ月連続となる大幅増加。一方販売在庫は210千戸(同-1.4%)と前月比減少、結果在庫期間は4.7ヶ月と2013年6月以来の水準に短期化した。中古住宅販売の軟化に比して新築住宅販売は好調な増加を続けているが、新築住宅の市場規模は中古の約10分の1であり、また新築市場でも供給不足が目立っている。

20150329図5

消費者物価指数(2月)は前月比+0.2%(前年比横ばい)、同コア指数は前月比+0.2%(前年比+1.7%)

2月の消費者物価指数は前月比+0.2%と5ヶ月ぶりの前月比上昇、前年比では横ばいと、前月の同-0.1%からやや持ち直した。前月比ではガソリン価格が同+2.4%と上昇に転じたのが主因。食品及びエネルギーを除くコア指数は前月比+0.2%と上昇基調を保っており、前年比でも+1.7%と相対的に堅調に推移している。エネルギー価格低下による一時的なインフレ率低下のコア品目への影響は引き続き限定的である。3月は再びガソリン価格の低下で総合インフレ率の再低下が見込まれるが、総じてコアインフレ率の推移は堅調といえる。

20150329図6

耐久財受注(2月)は前月比-1.4%、除く運輸関連同-0.4%、非国防資本財受注(航空機関連を除く)同-1.4%、同出荷同+0.2%

2月の耐久財受注は前月比-1.4%と2ヶ月ぶりの減少、運輸関連を除くベースでは同-0.4%と5ヶ月連続の減少となった。民間設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(航空機関連を除く)は同-1.4%と実に6ヶ月連続の減少で、米企業部門の設備投資の軟化が継続することを示唆している。GDP統計上の機器投資の基礎統計となる同出荷は同+0.2%と2ヶ月ぶりに増加したものの、2月までの1-3月期同出荷は前期比マイナスの伸びにとどまっている。ちなみに建設支出統計における民間非住宅投資も1月に前月比-1.5%と減少しており、構造物投資も軟調であることが示唆されている。1-3月期の企業設備投資は構造物投資・機器投資・知的財産投資を合わせて前月比プラス数%の伸びを見込んでいるが、ここに下方リスクが出てきたといえる。

20150329図7

実質GDP成長率(10-12月期、確報値)は前期比年率+2.2%

10-12月期の実質GDP成長率(確報値)は前期比年率+2.2%と改定値から不変。需要項目別内訳は個人消費同+4.4%(改定値同+4.2%)、設備投資同4.7%(同+4.8%)、住宅投資同+3.8%(同+3.4%)、政府支出同-1.9%(同-1.8%)、企業在庫寄与度-0.10%(同+0.12%)、純輸出寄与度-1.03%(同-1.15%)。企業在庫が改訂値までのプラス寄与から確報値でマイナス寄与に下方改訂されたことと、財・サービス輸出が前期比年率+4.5%(改定値同+3.2%)に上方改訂された結果純輸出寄与度が乗用改訂された以外は大きな改訂はない。雇用拡大と物価下落を追い風に個人消費は依然巡航速度を上回る拡大が期待できることから、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率2%台半ばの伸びを個人予想しているが、企業部門にここのところ軟化傾向が見られることからやや下方リスクが出てきている。もっとも2015年通年での3%成長は十分射程内にある。

20150329図8


<経済レポート> 利上げペースに下方リスク:3月FOMC

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
FOMCは17-18日の会合後の声明文で「忍耐強くいられる」とのフォワードガイダンス文言を削除した。一方で、FOMC委員による経済予測と利上げペース予測の下方シフトは、筆者個人の金融政策予想に下方リスクをもたらす結果となった。FOMCは6月定例会合で初回利上げは想定通り実施するものの、その後のペースについて新たなガイダンスを必要に応じ提供すると見たい。個人の金融政策予想については今後議事要旨の内容も踏まえて下方修正を考慮する。

「忍耐強くいられる」の文言を声明文から削除した

3月17-18日に開催されたFRB連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文では、筆者個人の予想通りフォワードガイダンスが変更され、「忍耐強くいられる」の文言が削除された。しかしながら、同時に公表されたFOMC委員の経済予測によれば、成長率予測が下方シフトし、またFF金利誘導目標レンジ予測も下方シフトしている。筆者個人は6月利上げ開始後定例会合毎に0.25%の利上げが実施されるとこれまで予想してきた。しかしこれらのFOMC委員予測を合わせてみると、6月利上げ開始予想はまだ維持できるものの、その後の利上げペースについては後倒し方向の予想修正を考慮する必要がでてきている。本レポートでは、フォワードガイダンス、成長予測、利上げ予測の3つの観点から3月FOMCの結果を考察する。

第1に、声明文のフォワードガイダンス変更の内容を見る。3月18日のFOMC声明文ではまず冒頭の基調判断パラグラフで大きく2点の変更が見られた。一つは経済成長が「いくぶん緩やかになった」に下方修正されたこと、もう一つは「輸出の伸びが軟化した」との文言が追加されたことである。労働市場については従前通り「更に改善した」、インフレについては「主にエネルギー価格の低下を反映して」FOMCの目標2%から更に低下したとされた。今後の見通しについてのパラグラフで、委員会は「経済は適度なペースで拡大する」と予想、「インフレは短期的には最近の低い水準に留まる」ものの「中期的には2%にむけ徐々に上昇」すると予想している。

金融政策に関するパラグラフでは、フォワードガイダンスを「前回の声明文と整合的に、委員会はFF金利誘導目標レンジの4月FOMC会合での引上げの可能性は依然低いと判断する」に変更、続けて「労働市場の更なる改善が見られ、インフレが2%の中期目標に回帰すると合理的に確信したときに、FF金利誘導目標レンジを引き上げるのが適切と委員会は予想する」とした([第1表])。さらに続けて「このフォワードガイダンス変更は委員会が最初の誘導目標レンジ引上げ時期を決定したことを示唆するものではない」とされた。12月声明文から2回に亘って使用された「忍耐強くいられる」の文言は削除された。なお、イエレン議長は会合後の記者会見で声明文通りの文言に加え「“忍耐強く”の文言を声明文から削除したからといって我々が“忍耐強くなくなる”ことを意味するものではない」「(フォワードガイダンス変更は)6月に利上げが実施されるという意味ではなく、またそれを排除するものではない」と述べている。

[第1表]
20150322表1

フリーハンドを残すフォワードガイダンス:6月利上げ開始予想は維持できる

3月FOMC声明文におけるフォワードガイダンス変更の示唆することは、FOMCが利上げ時期について引き続きフリーハンドを維持しようとしていることにあるといえる。「4月の利上げの可能性は低い」との声明は1月までの「忍耐強くいられる」とのフォワードガイダンスが「今後2回の委員会では利上げはない」ことを意味するとの過去のイエレンFRB議長の説明(12月FOMC後の議長定例記者会見、2月24日議会宛半期金融政策報告における証言)と整合している。時間の経過により「3月、4月の利上げの可能性が低い」から「4月の利上げの可能性は低い」に表現を変更したのみである。

すなわち、最速6月定例会合での利上げの選択肢を残しつつ、環境によっては利上げ時期を後倒しする選択肢をも残す文言であり、この点では1月声明文と基本的なFOMCのスタンスは不変といえる。「インフレ率が2%の中期目標に回帰すると委員会が合理的に確信したときに」利上げを開始するのが適切との文言は、これまでのFOMCのスタンスと整合的ではあるが、昨今のインフレ率低下に鑑み再確認のための条件を付したものと考えられる。

フォワードガイダンス変更だけからは、利上げ開始時期についてFOMCのスタンスに著変は見られない。FOMCは依然中期的にインフレ率が2%に回帰すると予想していることは声明文からも明らかであり、今後6月までにその見方に大きな変更がない限り利上げは6月に開始されると解釈するのが妥当と考える。のちに見るようにFOMCは2015年のインフレ率予測を下方シフトさせているものの、2016年以降に2%近い水準に回帰すると予測しており、少なくとも現状では「合理的確信」を持っているとみるのが自然であろう。

FOMC委員成長予測は下方シフト:ドル高による輸出見通し軟化が背景

第2に、四半期毎のFOMC委員経済予測の内容を見る。3月の経済予測においては、実質GDP成長率、失業率、PCEインフレ率の予測の中心傾向がいずれも下方にシフトしている([第2表])。特に顕著なのは成長率とインフレ率である。まず、2015年成長率予測(第4四半期前年同期比)の中心傾向は2.3~2.7%と、12月時点予測の2.6~3.0%から約-0.3%下方シフトした。下方シフトの理由を示唆するものとして声明文で「輸出の伸びの軟化」が基調判断に加えられたほか、会合後の記者会見でイエレン議長は「経済成長について、参加者は総じて予測を12月から下方修正し、うち多くの参加者は純輸出の見通しの軟化を指摘した」と述べている。インフレ率については、2105年PCEインフレ率(同上)予測の中心傾向が0.6~0.8%(12月時点1.0~1.6%)、コアPCEインフレ率予測の中心傾向が1.3~1.4%(同1.5~1.8%)に下方シフトしている。この背景は、イエレン議長が会合後記者会見でも述べているように「主に原油価格と輸入価格の低下を反映したもの」と考えられる。一方、FOMC委員予測によれば2016年以降インフレ率は上昇し、2016年~2017年にかけてはPCEインフレ率がFOMCの目標である2%に接近するとの予測になっている。

FOMC委員による成長率予測の下方シフトが輸出の減速を要因とする場合、ドル高による輸出減速と、海外経済減速による輸出減速の二つの経路が考えられる。これについてイエレン議長は会合後記者会見の質疑応答で「輸出の伸びが軟化したのはおそらくドル高が一つの要因であろう」と述べている。確かに足元で輸出の伸びは大幅に減速しており、10-12月期には純輸出が成長を-1.15%押し下げる要因となった([第1図]、[第2図])。ドル高は輸出価格上昇を通じて輸出を抑制し、一方で輸入価格低下を通じて輸入増加を促す、さらに個人消費の拡大がその傾向を加速させる可能性がたかい。その意味では、ドル高を背景としたFOMC委員の成長率予測下方シフトは合理的な内容といえる。

一方で筆者個人は、2015年の成長率(第4四半期前年同期比)を直近の試算で約+2.9%と見積もっている。10-12月期の成長率が事前予想をやや下回ったものの、総じて2015年は3%に近い成長が可能との見方は不変である。ドル高による輸出の伸び悩みが今後経済成長を抑制する要因になることはこの予想でも織り込んでおり、四半期毎に純輸出が成長率を-0.3~-0.6%程度押し下げると前提している。これとの比較では、FOMC委員による成長率予測の大幅な引き下げはやや拙速なものにも見える。イエレン議長自身も指摘する通り、ドル高は輸出抑制要因になるものの、インフレ率低下と相まって国内の個人消費を加速させることから、総じて米国経済にはプラスの効果をもたらすものだからである。

[第2表]
20150322表2

[第1図]
20150322図1

[第2図]
20150322図2

FOMC委員の利上げペース予測も大幅下方シフト:利上げは年内2回を示唆

第3に、FOMC委員による金融政策予測を見る。適正なFF金利誘導目標に関する予測も成長率・インフレ率予測とともに大幅下方シフトした。2015年末の「適正FF金利誘導目標レンジの中心値」は予測を0.625%(レンジ0.5%-0.75%に相当)とする委員が7名と最も多く、17人の委員の予測中央値も0.625%となった。これは12月予測の中央値1.125%から-0.5%の大幅な下方シフトである([第1図])。年末のFF金利誘導目標レンジが0.5%-0.75%ということは、1回の利上げが0.25%として年内の利上げ回数はたかだか2回に留まる予測であることを示唆している。これは、12月同予測が年内4回の利上げを示唆していたこと、また2月24、25日の議会証言でイエレン議長が「利上げは、、会合毎に実施すると予想している」と述べたことと比較すると、大幅な見通し変更といえる。このFOMC委員予測から、FOMCは今や利上げ時期を10月に後倒しするかもしくは、6月利上げ開始以降は1会合おきのペースで利上げを行うことが示唆されているといえる([第3表])。

FOMC委員による利上げペース予測の下方シフトの理由について、イエレン議長は会合後記者会見で「ほとんどの参加者はGDP成長率とインフレ率予測の改訂そして長期的定常失業率のいくぶんの下方改訂と整合的に、FF金利の見通しを引き下げた」と述べ、質疑応答でも「各参加者の予測改訂の理由を正確に知るのは困難」としつつ「(経済予測の引き下げと長期失業率予測の引き下げの)双方がFF金利予測引下げのポイントと考える」と述べている。

経済予測の大幅な下方改訂と利上げペース予測の整合性を、イエレン議長が採用する1999年テイラー・ルール公式(注1)を用いて検証してみよう。FOMC委員の2015年PCEインフレ率予測中心傾向の中心値(0.7%)をインフレ率実績、同成長率予測中心値である前年同期比+2.5%から推計した2015年実質GDPをGDP実績、米議会予算局推計(2015年1月現在)の潜在実質GDPを潜在GDPとして、テイラー・ルール公式を用いて推計したところ、2015年末の適正な政策金利は約0.80%との結果を得た。これは3月のFOMC委員予測の中央値0.625%よりもやや高め、レンジとしては0.75-1.00%がなんとか正当化可能な水準である。総合PCEインフレ率に替えてコアPCEインフレ率(2015年の予測中心値は1.35%)を上記テイラー・ルール公式に代入すると、2015年末の適正政策金利は約1.77%との結果になった([第4図])。過去の当レポートでも見たように、現在のエネルギー価格低下による一時的なインフレ率低下は、今のところコアインフレ率への波及は限定的である。すると、金融政策決定の際に総合インフレ率でなくコアインフレ率を参照するという考え方も今回の場合はあり得るはずである。これらより、FOMC委員の利上げペース予測は理論値よりもやや低めに改訂されているということができる。

[第3図]
20150322図3

[第3表]
20150322表3

[第4図]
20150322図4

当レポートの金融政策予想に下方リスク:6月利上げ実施は可能なるもペースは遅く

しかし総合的に見ると、3月のFOMC結果により筆者個人の金融政策予想に対する下方のリスクが出てきたと言わざるを得ない。筆者個人はこれまで、6月の利上げ開始、その後会合毎に0.25%の利上げが実施され年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%と予想してきた。3月FOMC声明文におけるフォワードガイダンス変更とその内容はこの予想を支持するものだった。しかし、FOMC委員の経済予測の下方改訂と利上げペース予測の下方改訂は、利上げ開始後の利上げペースが予想比遅くなるかまたは利上げ開始時期自体が後倒しになる可能性を示唆している。上記で見たようにFOMC委員の利上げペース予測は理論値よりやや低めで、コアインフレ率を参照したテイラー・ルール公式からは筆者個人予想も依然正当化可能ではある。しかし現実のFOMC委員のFF金利予測が下方シフトしていることは、FOMC委員が総合インフレ率の低下を主な判断材料としていることが示唆されていると言わざるを得ない。金融政策予想については4月公表予定の議事要旨も踏まえて修正を考慮する。

上記で述べた通り、FOMCは利上げ開始時期とペースにつきフリーハンドを維持する文言を声明文に採用しており、利上げ開始とペースは6月定例会合までの経済指標、特に原油価格とマクロ経済指標に依存するといえる。経済指標では輸出のほかに全体的に減速傾向にある設備投資や個人消費指標も注目されるだろう。筆者個人としては、米国の中期的な経済成長には懸念なしと見て、短期的な原油価格の動向、ドル高による輸出やインフレ率への影響、そしてロシア等の海外動向を主要なリスク要因として見ておきたい。

個人的には6月会合で初回利上げを実施することがFOMCの信認と政策継続性維持のためには適切な方策であると考える。6月利上げ開始はある程度市場の期待に織り込まれていた。確かに17日の声明文公表後のFF金利先物価格に見る市場の利上げ期待は後退し、20日現在で6月利上げ期待は大幅低下、+0.25%の利上げ期待は10月に後倒しになっている。しかしFOMCは6月利上げ期待を払しょくする強いメッセージを市場との対話で明示したわけではない。6月利上げを見送った場合、利上げ開始時期に関する市場の期待形成に混乱をもたらすおそれなしとしない。6月の利上げは実施し、同時に今後のペースについて必要に応じ声明文でフォワードガイダンスを提供するというのが最も適切なやり方と考える。


注1) テイラー・ルールの一般的公式は以下:
      it=2+πt+α(πt-π*)+β(yt-yt*)
itは適切な政策金利、πtはインフレ率実績、π*はインフレ率目標、ytはGDP実績、yt*は潜在GDPである。係数をα=0.5、β=0.5とするのが1993年テイラー・ルール、α=0.5、β=1.0とするのが1999年テイラー・ルールである(2012年6月6日イエレンFRB副議長(当時)講演:Janet L. Yellen, “Perspectives on Monetary Policy”, June 6, 2012)。

<経済指標コメント> 米2月住宅着工戸数は前月比-17.0%

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
[米国]

鉱工業生産指数(2月)は前月比+0.1%、設備稼働率は78.9%(前月比-0.2%ポイント)

2月の鉱工業生産指数は前月比+0.1%と小幅な伸びに留まり、1月(同-0.3%)までの2ヶ月連続の低下をカバーできなかった。内訳は製造業同-0.2%、鉱業同-2.5%、公益事業同+7.3%と、振れの大きい公益事業だけが全体を押し上げた形。製造業は3ヶ月連続の指数低下となった。また自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)は年率10.82百万台(同-5.5%)と3ヶ月連続で減少した。設備稼働率は78.9%(前月比-0.2%ポイント)と3ヶ月連続低下した。総じて鉱工業生産は昨年末以降軟調に推移している。悪天候、西海岸港湾停滞、ドル高による海外需要減速見通しなどが背景にあると憶測できるが定かではない。1-3月期の経済の拡大ペースが筆者の予想をやや下回っていることを示唆する指標である。

20150321図1

住宅着工戸数(2月)は年率897千戸(前月比-17.0%)、着工許可件数は同1092千件(同+3.0%)

2月の住宅着工戸数は年率897千戸(前月比-17.0%)と大幅減少。地域別内訳は北東部同-56.5%、中西部同-37.0%、南部同-2.5%、西部同-18.2%と程度に大きなばらつきはあるもののすべての地域で着工が減少した。本来住宅着工戸数は月次の振れの大きな指標であり、2月はその幅が大きいものの天候もしくは統計上の一時要因と見ておきたい。着工許可件数が年率1092千件(同+3.0%)と比較的に堅調な推移であることから潜在的な住宅需要に大きな変化はないと見たい。もっとも米国経済指標の相対的な軟化と軌を一にしている点は気になる。

20150321図2

<経済指標コメント> 米2月小売売上高は前月比-0.6%

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
[日本]

10-12月期実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率+1.5%

10-12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率+1.5%と、1次速報値の同+2.2%から下方改訂された。2014年通年成長率は前年比0.0%と1次速報値から不変。需要項目別内訳は家計消費同+1.9%(1次速報値同+1.1%)、住宅投資同-4.6%(同-4.8%)、企業設備同-0.3%(同+0.4%)、公的需要同+1.3%(同+0.4%)、企業在庫寄与度同-0.6%(同+0.6%)、純輸出寄与度同+1.1%(同+1.1%)。1次速報からの大きな下方改訂は企業在庫で、この改訂で成長率が約-1.2%押し下げられている。一方家計消費は大幅上方改訂され、当初予想の2%に近い成長に回帰している。結果、国内最終民間需要は同+1.3%と、1次速報値時点の同+0.8%から上方改訂されたことになる。2次速報値は見かけほど悪い数字ではなく、寧ろ内需の拡大が加速していることを示唆するものとなった。もっとも前年同期比では-0.7%と3四半期連続のマイナス成長、消費税率引上げ前の水準にまだ回帰していない。2015年の成長率は筆者予想よりやや下振れているペースで、2015年成長率は前年比+1%強、年度成長率は前年度比2%をやや割り込む計算になる。

20150314図1

景気ウォッチャー調査(2月):現状判断DIは50.1(前月比+4.5ポイント)、先行き判断DIは53.2(同+3.2ポイント)

2月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは50.1(前月比+4.5ポイント)と3ヶ月連続上昇、横ばいを示す50を7ヶ月ぶりに上回った。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは53.2(同+3.2ポイント)と3ヶ月連続上昇、2ヶ月連続で50を上回った。もっとも成長率のプラス転化にくらべて街角景況感の回復は遅れている。全体の回復がようやく街角に浸透し始めたところだといえる。

20150314図2

機械受注(1月、船舶・電力を除く民需)は前月比-1.7%(前年比+1.9%)

1月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-1.7%と3ヶ月ぶりの小幅減少、前年比では+1.9%と伸び率を低下させた。集計元の内閣府は基調判断を「緩やかな持ち直しの動きがみられる」に据え置いている。前年比の伸びの3ヶ月移動平均は-0.4%とほぼゼロ近辺にあり、海外景気の影響をうける企業設備投資の拡大ペースが家計消費に比べてまだ弱いことを示唆している。

20150314図3

[米国]

小売売上高(2月)は前月比-0.6%、除く自動車関連同-0.1%

2月の小売売上高は前月比-0.6%と3ヶ月連続の減少、自動車関連を除くベースでも同-0.1%と3ヶ月連続減少となった。主な内訳は、新車販売の減少の影響で自動車及び同部品ディーラーが同-2.5%、家電店同-1.2%、建設資材店同-2.3%、ガソリンスタンド同+1.5%、百貨店同-1.4%。2月はガソリン価格の下げ止まりでガソリンスタンド売上が増加したが、その他の主要業種では押しなべて売上が減少している。もっとも、GDP統計上の個人消費の基礎統計となる「自動車・ガソリン・建設資材・レストランを除く」ベースでは同+0.1%と3ヶ月ぶりに売上が増加しており、インフレ率低下を勘案すれば実質ベースの個人消費は拡大基調を保っているといえる。

20150314図4

企業在庫(1月)は前月比横ばい、企業売上高は同-2.0%、在庫売上高比率は1.35倍

1月の企業在庫は2ヶ月連続で前月比横ばいと、在庫調整の継続を示唆する内容。3ヶ月前対比の在庫の伸びは更に縮小した。企業売上高は同-2.0%と4ヶ月連続の減少。在庫売上高比率は1.35と2009年7月以来の高水準に上昇している。売上の減少はドル高による輸出の伸び悩みや物価下落の反映と考えられる。在庫売上高比率の上昇は今後も在庫調整の継続を示唆している。

20150314図5

<経済レポート> 賃金上昇率低下のかげに:米労働生産性

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
米国では失業率が5.5%に低下したにも拘わらず、時間当たり賃金の伸び率が一時2%を下回る水準に低迷している。この理由として、労働需給に対する賃金変化の遅行性やインフレ率低下のほかに、労働生産性上昇率の低下があると考えられる。失業率・インフレ率・労働生産性を外生変数とする時間当たり賃金の要因分解によれば、労働生産性の賃金伸び率への寄与度が相当程度に高いことがわかる。時間当たり賃金の上昇ペース加速には、これまでの当レポートの想定よりも時間がかかる可能性がある。

失業率低下にも拘わらず賃金上昇率は更に低下した

6日に公表された米雇用統計によれば、2月の失業率は5.5%と2008年5月以来の低水準に低下した。非農業部門雇用者数の堅調な増加とともに、米国雇用市場が順調に拡大していることを示唆する内容だった(3月7日付<経済指標コメント>参照)。しかしながら同統計には一つのネガティブなポイントがあった。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比伸び率が+1.6%と2013年11月以来の低水準にまで減速したことである。

時間当たり賃金の伸び率が低迷していることは、FRB連邦公開市場委員会(FOMC)会合でもしばしば議論になっている。1月FOMC議事要旨によれば「何人かの参加者は、名目賃金の伸びの弱さは総合及びコアインフレ率が2%の委員会目標に回帰するのにより長期間かかることを示唆している」とのべ、また「2~3人の参加者は、名目賃金は物価上昇率の将来の挙動にほとんど有効な情報とならない」としている。また参加者は、失業率上昇時に賃金が十分に下方調整されなかったことによる積上がり賃金デフレ(pent-up wage deflation)が現在の賃金上昇を抑制している可能性を議論したとされる(2月22日付当レポート参照)。

賃金上昇率と失業率の関係を示すシンプルなフィリップス曲線を描いてみると、現在の失業率は景気拡大期の2004年とほぼ同水準にあるにも関わらず、当時の賃金上昇率+2%台を大きく下回っている([第1図])。筆者はこれまで賃金上昇率の失業率に対する遅行性をこの乖離の要因と見てきた。しかし、いまや賃金上昇率の低迷が最近さらに顕著になってきたことの背景には、賃金上昇率の遅行性以外の要因があると見た方がよさそうである。以下では、賃金上昇率を決定する要因として①失業率のほかに、②労働生産性、③インフレ率を想定して考察する。

[第1図]
20150311図1

現在の失業率5.5%はほぼ完全雇用に近い

まず失業率について、本来5.5%の失業率は賃金上昇の加速を促すに十分な低さだといえる。2014年12月時点のFOMC委員経済予測における長期失業率予測の中心傾向は5.2-5.5%であった。また米議会予算局(CBO)は2015年1月の「財政・経済見通し」で2014年時点の自然失業率を5.4%と推計している。つまり5.5%の失業率は、米労働市場がほぼ完全雇用に近いことを示唆する水準である。

失業率とインフレ率変化のシンプルな関係から米国の自然失業率を推計してみよう。[第2図]は過去20年の失業率とインフレ率変化(コア消費者物価指数前年比伸び率の前年比変化幅%ポイント)との関係を見たものである。自然失業率を「インフレを加速も減速もさせない失業率」とすると、グラフのY切片が20年間のデータから推計される自然失業率になる。このグラフによれば、米国の自然失業率は約6%と推計できる。これは、上記のFOMCやCBOによる自然失業率よりもやや高めである。この背景として、金融危機以降米国の自然失業率が上方シフトした可能性があることが考えられる。[第3図]は過去20年間を2007年末のリセッション入り前とリセッション入り後に分けてプロットしたグラフである。これによれば、1994年から2007年までのデータから推計される自然失業率は約5%、いっぽう2008年以降のデータによる推計では自然失業率は8%近くになる計算になる。金融危機後の自然失業率上昇が観測される背景としては、雇用のミスマッチによる構造的な失業の増加が考えられる(2011年に欧州財政問題で景気が低迷したにも関わらず商品価格上昇でインフレ率が上昇した時期のはずれ値が推計をゆがめている可能性もある)。

いずれにせよ、現在の5.5%の失業率は自然失業率近辺、または金融危機以降の標準では自然失業率を相当に下回る水準といえる。この失業率低下は少なくとも最近の時間当たり賃金上昇率に上方の圧力をかけている要因であることは確かである。

[第2図]
20150311図2

[第3図]
20150311図3

賃金上昇率低迷の背景に低インフレ率

次にインフレ率と時間当たり賃金上昇率との関係を見る。過去数年については、消費者インフレ率と時間当たり賃金上昇率の間には明確な相関関係は見られない。しかし長期時系列のデータを見ると、時間当たり賃金上昇率とインフレ率の間にはある程度の連関が見てとれる([第4図])。時間当たり賃金は失業率に代表される労働市場の需給のみならず、インフレ率もある程度参照して決定されている可能性は現実的にも十分にありそうな事である。

金融危機直前の2007年と現在ではインフレ率に大きな差がある。2007年当時の消費者物価指数の前年比の伸び率は原油など商品価格の高騰もあり約4%に達していた。これに比べて2014年のインフレ率は原油価格の直近のピーク時でも2%強にとどまった。2014年後半から現在にかけては原油価格の急落でインフレ率はゼロに近いところにまで低下している。

時間当たり賃金上昇率が金融危機前の同じ失業率に比べて低いことの背景には低インフレ率があると言えそうだ。

[第4図]
20150311図4

労働生産性低下も賃金上昇率低迷の重要な要因

最後に労働生産性と賃金上昇率の関係を見る。一般に賃金上昇率は労働生産性上昇率と密接な関係があるとされる。労働生産性上昇率が賃金上昇率を上回っている間は、企業は賃金を引き上げることで雇用を拡大しても、産出の増加がコストの増加を上回る。労働生産性が賃金上昇率を下回ると、逆に企業は賃金上昇率を抑制して生産増による利潤を維持することになる。一般に米国の労働生産性は技術革新の停滞により長期的には低下傾向にあり、これが賃金上昇率の抑制要因となっている可能性があるといえる。

米労働生産性統計から実際の労働生産性と労働コストの関係を見てみよう。まず、労働生産性上昇率の変動は単位労働コスト上昇率と対称の動きをする傾向があることが統計の動きからわかる(([第5図])、なお労働生産性は総労働時間1単位当たりの産出量、単位労働コストは産出量1単位にかかる労働コスト)。労働生産性上昇率が単位労働コスト上昇率を上回っている間は、企業には賃金を引き上げて雇用を拡大し労働投入量を増やすインセンティブがある。労働生産性上昇率が単位労働コスト上昇率を下回ると、企業にとって賃金上昇率を抑制するインセンティブとなる。米国の労働生産性(非農業部門)は、金融危機後のリセッション期の急激な雇用調整で一時的に上昇した時期を除けば、長期的に低下トレンドにある。現在でもなお、労働生産性上昇率は単位労働コスト上昇率を下回っている。つまり、現在の単位労働コストは労働生産性にくらべてまだ割高な水準にあるということができる。

賃金上昇率が労働生産性上昇率に連関していることは、労働生産性の中期的低下トレンドと軌を一にして、時間当たり報酬の伸び率も低下していることからもわかる([第6図])。のみならず、労働生産性の伸び率が時間当たり報酬の伸び率を下回る状況がこの期間支配的である。以上から、時間当たり賃金には失業率低下に代表される労働需給要因からの上昇圧力があるが、一方で労働生産性の低下が時間当たり賃金の抑制圧力となっていることが推測できる。

[第5図]
20150311図5

[第6図]
20150311図6

労働生産性改善まで賃金上昇率は抑制される可能性がある

これら3つの決定要因すなわち、①失業率(労働需給要因)、②消費者物価指数(物価要因)、③労働生産性(労働生産性要因)を外生変数とした時間当たり賃金の回帰分析結果が[第1表]である(1993年~2014年)。これによれば、時間当たり賃金上昇率への寄与度が最も高い要因は物価要因、次に労働生産性要因である。これに対し労働需給要因は意外にも時間当たり賃金上昇率への寄与度は低い。この1993年からの推移を見ても、労働生産性の伸び率が賃金伸び率に相当程度寄与していることが見て取れる(第7図)。労働生産性伸び率が低下した現在では、賃金押し上げ要因が一つ剥落しつつある環境にあるといえる。

これらより、時間当たり賃金上昇ペースが加速のためには、インフレ率の回復とともに労働生産性の上昇が必要であることが推測できる。労働需給がタイト化したにもかかわらず時間当たり賃金上昇率が低迷している背景には、インフレ率低下という一時要因のほかに、中期的な労働生産性の低下がある。そうすると、賃金上昇率が金融危機前のペースに戻るには、これまでの当レポートの想定以上の時間がかかる可能性があるといえる。

しかしながら、時間当たり賃金上昇ペースの加速がより短期的に起きる可能性もまだ残っている。一般に失業率が自然失業率を下回ると、時間当たり賃金の上昇ペースが急に加速を始めることが経験則からみられる。米国の失業率が今後自然失業率を下回るまでに低下した場合に、時間当たり賃金の伸び率が加速するかどうかがその後の時間当たり賃金上昇率の動向を占うに重要な判断材料とあるだろう。

[第1表]
20150311表1

[第7図]
20150311図7

(訂正)5月10日、[第1表]及び関連記述を訂正しました。

<経済指標コメント> 米2月非農業部門雇用者数は前月比+295千人

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
[米国]

実質個人消費(1月)は前月比+0.3%、PCEデフレーターは前年比+0.2%、同コアは同+1.3%

1月の実質個人消費は前月比+0.3%と強めの伸びで前月の同-0.1%から反発した。内訳は自動車販売の増加を反映した耐久消費財消費が同+0.2%、非耐久消費財消費同+0.2%、サービス同+0.4%と押しなべて上昇。1月の小売売上高は名目ベースで前月比マイナスの伸びだったが、物価下落で実質ベースの個人消費は増加していたことになる。1-3月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+2%台半ばとなるペースだ。雇用増と物価下落を背景に個人消費は今後も堅調に拡大すると見る。FOMCが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比-0.5%と3ヶ月連続の低下、うちエネルギー関連の財・サービス価格が同-10.4%と7ヶ月連続となる大幅低下となったのが主因。PCEデフレーターの前年比の伸び率は+0.2%と前月の同+0.8%から更に低下した。しかし、食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前月比+0.1%と上昇を維持、前年比でも+1.3%と相対的に堅調である。エネルギー価格低下の他の費目への波及は現状限定的といえる。コアインフレ率は今後も堅調に推移して現在の筆者試算均衡水準である+1.7%に年内に回帰すると見る。原油価格の下げ止まりもこの見方を支持する要因である。

20150307図1

ISM製造業指数(2月)は52.9%(前月比-0.6%ポイント)、非製造業指数は56.9%(同+0.2%ポイント)

2月のISM製造業指数は52.9%(前月比-0.6%ポイント)と4ヶ月連続の低下。総合DIを構成する5つのDIの内訳は新規受注52.5%(同-0.4)、生産53.7%(同-2.8)、雇用51.4%(同-2.7)、入荷遅延54.3%(同+1.4)、在庫52.5%(同+1.5)と生産・雇用の低下が目立つ。企業の回答内容を見ると「西海岸港湾の問題」が引続き企業活動に影響を与えているとの回答が複数みられる。製造業景況感の低下は西海岸港湾労働争議による事業停滞という一時要因が主因の模様である。一方、非製造業指数は56.9%(同+0.2)と2ヶ月連続の上昇。総合DIを構成する4つのDIの内訳は事業活動59.4%(同-2.1)、新規受注56.7%(同-2.8)、雇用56.4%(同+4.8)、入荷遅延55.0%(同+1.0)。ここでも港湾問題により事業活動や受注が減少しているが、雇用拡大により製造業に比べて指数は堅調である。総じて企業景況感の停滞は港湾問題による一時的なもので、米経済の堅調な拡大基調には変化なしと見る。

20150307図2

新車販売台数(2月)は年率16.2百万台(前年比+5.4%)

2月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率16.2百万台(前年比+5.4%)と高水準を維持した。しかし前月比では-0.4%と3ヶ月連続の減少。昨年11月に同17百万台を超えたところで自動車販売ペースはやや飽和感がある。3月以降は前年比でマイナスの伸びになる可能性が高い。もっともガソリン価格下落は引き続き自動車販売の追い風であり、今後見込まれる金利上昇を勘案しても、自動車販売は堅調に推移しそうだ。

20150307図3

雇用統計(2月):非農業部門雇用者数は前月比+295千人、失業率は5.5%

2月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+295千人と好調な伸びだった。建設業同+29千人、製造業同+8千人、小売業同+32千人、教育・医療+54千人、娯楽・宿泊同+66千人。景気に敏感な建設・小売・娯楽等と、米雇用増のベースとなる教育・医療のいずれもが増加しており、経済活動の幅広い拡大を示唆している。非農業部門雇用者数の前年比の伸び率は+2.4%と4ヶ月連続で2%を上回り、筆者の予想を大きく上回るペースとなっている。もっとも時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は20.80ドルと前月比横ばい、前年比では+1.6%と2012年11月以来の伸び率に低下した。しかし、雇用増加と賃金上昇率の伸びに週平均労働時間の伸び(前年比+0.9%)を加えると消費者の購買力は前年比+4.8%となり、コアインフレ率を差し引いても3%を超える強い拡大をしていることになる。家計調査による失業率は5.5%(前月比-0.2%)と2008年5月以来の低水準。内容を見ると前月比で雇用者数が増加、失業者数が減少しており、良い失業率低下であるが、一方で労働力人口は前月比小幅減少し、労働参加率は62.8%(前月比-0.1%ポイント)と低下基調不変である。なお5.5%の失業率は自然失業率にほぼ近く、米雇用市場が完全雇用に近い状態であることを示唆している(米議会予算局の2015年1月財政経済見通しにおける推計自然失業率は5.4%、2014年12月時点のFOMC委員経済予測における長期失業率予測の中心傾向は5.2-5.5%)。総じて米雇用市場はタイト化が進んでおり、また実質購買力の拡大により経済成長は堅調な動きが続こう。一方で原油価格下落にかかわらずコアインフレ率の前年比の伸び率は安定している。FOMCが3月に声明文のフォワードガイダンスを変更し、6月に利上げを開始するとの個人予想を維持する。

20150307図4

<経済レポート> さほどハトにあらず:イエレンFRB議長議会証言

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
イエレンFRB議長の議会証言は市場の反応ほどにはハト派的ではないと見る。むしろ今後の利上げ時期について、6月の可能性を含めたFOMCの選択肢にフリーハンドを保持したものと見るべきであろう。結果的に証言の内容は当レポートのこれまでの予想を支持する内容である。FOMCが3月にフォワードガイダンスを変更、6月に利上げ開始、その後は会合毎に0.25%の利上げを実施して今年年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%となるとの個人予想を維持する。

イエレン議長半期議会宛金融政策報告:予想インフレ率低下は期待インフレ率低下ではない

イエレンFRB議長は2月24、25日の両日、米議会宛の半期金融政策報告を行った。この議会証言は、FOMCによる12月の声明文フォワードガイダンス変更「委員会は金融政策スタンスの正常化開始に忍耐強くいられる」後初めての議会証言であり、今後のFRB金融政策についての示唆があるかが注目であった。市場ではこの議会証言が予想外にハト派的であったとの受け止め方もあったようで、24、25日の両日NYダウは続伸で反応した。しかし、筆者個人はこの議会証言はFRBの金融正常化の行程に関するこれまでの筆者個人予想と整合的であり、これまでの金融政策予想を変更する材料にはならないと見る。以下ではイエレン議長の議会証言テキストに基づき、主に雇用・インフレ・金融政策に関する発言中心にその内容を見ていく。

まず雇用について、議長は昨年7月の議会証言以来「米国の雇用状況は多くの面で改善した」と基調判断を述べた。失業率は5.7%に低下し、非農業部門雇用者数は昨年前半に月平均240千人、年後半に月平均280千人の増加を示した。のみならず議長が重視する雇用指標すなわち、長期失業率、経済的理由によるパートタイマー数も改善し、また自発的離職ペースもリセッション前の水準に近いところに回復した、とされた([第1図])。もっとも労働参加率低下や、賃金上昇率が低位にとどまっていることは依然雇用の弱さを示唆するものとされ、「雇用市場は更なる改善の余地がある」とされた。

次にインフレについて、議長は「米国のインフレ率は委員会の2%目標を下回って推移している」「最近の総合個人消費支出価格(PCE)インフレ率の軟化は原油価格の下落を反映している」としながら一方で「コアPCEインフレ率も一部に多くの輸入物価の下落とおそらくエネルギー価格のいくらかのコア消費者物価への転嫁により昨夏から軟化している」としている。しかし、FOMC声明文や議事録でもテーマになった市場ベースの予想インフレ率の低下については「予想インフレ率の低下は主に長期インフレ期待の低下以外の要因を主に反映している」として、市場ベースの予想インフレ率低下がインフレ期待低下によるものとの考えを排除している。

[第1図]
20150302図1

[第2図]
20150302図2

当レポートの見方:労働参加率低下は主に構造要因、コアインフレ率は堅調推移すると見る

かかるイエレン議長の雇用・物価に関する見方は当レポートの見方を比較してみよう。まず雇用について、筆者個人は雇用市場が堅調な回復を続けており、労働市場ののりしろ(slack)は縮小していると見ている。一方、イエレン議長が依然循環要因として「改善の余地がある」とした労働参加率についてはこの低下を主に構造要因によるものと考えている。また賃金上昇率が低位にとどまっているのは議長の指摘する通り事実であるが、失業率低下に遅行する形で賃金も徐々に上昇ペースを加速させると筆者は見ている。

次にインフレ率について、筆者個人はコアPCE物価への原油価格下落の転嫁は今のところ限定的と見ている。例えば通常ガソリンなど燃料価格の影響を受けやすいとされる運輸サービスの価格は、ガソリン価格の下落にも関わらず1月まで相対的に堅調に推移している([第3図])。エネルギー価格上昇時の価格転嫁に比べてエネルギー価格下落時の価格転嫁は遅めになる傾向がある可能性もあが、基本的にコア消費者物価指数は今後も1%台後半で堅調に推移すると筆者個人は見ている。

また、市場の予想インフレ率低下については、議長の見るとおり少なくとも長期期待インフレ率の低下を反映しているものではないと筆者個人も見ている。米国債利回りと米物価連動債利回りの差(TIPSスプレッド)に見る市場の予想インフレ率は国債市場の需給などに左右されやすいことから、一時的に縮小・拡大することがあるからである。1月FOMC議事要旨によれば、この予想インフレ率と期待インフレ率の関係については今後も監視継続とされている。筆者個人は、短期の期待インフレ率(ミシガン大学調査の12月先期待インフレ率)低下が最近観測されておりこれが実際のインフレ率を低下させる要因にはなるものの、成長加速による需給ギャップの縮小がこれを補って、結果コアインフレ率は原油価格下落にかかわらず1%台後半で推移すると見ている。

[第3図]
20150302図3

金融政策についての議長証言:文言変更後はいつでも利上げ開始可能かつ利上げは会合毎

次にイエレン議長の「金融政策」に関する証言を見る。議長は現在の「忍耐強くいられる」というフォワードガイダンス設定の経緯につき説明ののち、このフォワードガイダンスを「少なくとも今後2回a couple of のFOMC会合でFF金利誘導目標レンジを引き上げることを経済条件が保証する可能性は低いと委員会は考えている」という意味であると説明した。これは昨年12月にFOMC会合後の定例記者会見の質疑応答で「今後2回の委員会では利上げはない」と答えたのと同じ文言である。昨年12月の記者会見から2ヶ月後にも同じ「2回」という時間軸を用いていることが、利上げ時期後倒しの示唆とも受け取られる可能性がある。しかし筆者はむしろ今回の「少なくとも今後2回」は、3月、4月の定例会合での利上げがないとともに、むしろ6月会合での利上げの選択肢を保持したものと見たい。

イエレン議長は更に、利上げの時期やペースについても示唆のある証言をしている。すなわち、利上げ前に委員会はフォワードガイダンスを変更する旨述べたのちに、「委員会は、、(利上げを)会合毎に実施すると期待している」と証言、さらに「(フォワードガイダンス変更は)委員会がその後2回の会合で誘導目標レンジを引上げる必要があると読まれるべきではない」「(フォワードガイダンスの)変更は、経済条件が改善しFF金利誘導目標レンジ変更がいつの会合でも正当化されうる状態が近いとの委員会の判断を反映したものと理解されるべきである」と述べている。前者は、利上げ開始後は会合毎に利上げを行うことの示唆、後者はフォワードガイダンスが変更されればいつの会合でも利上げ開始があり得るとの示唆である。

これらの証言はいずれも、今後の金融政策につきフリーハンドを残そうとする議長の意図の反映と考えられるとともに、いずれも当レポートの見方と整合している。筆者は今年6月に最初の利上げが行われ、各会合で0.25%の利上げが実施されると個人的に予想している。イエレン議長の上記の証言はこの見方を正に支持する内容である。

3月フォワードガイダンス変更、6月利上げ開始との予想を維持する

以上より、イエレン議長の議会証言後もなお、筆者個人のFRB金融政策に関する予想を維持することとする。すなわち、FOMCは3月会合でフォワードガイダンスを変更し、6月に利上げを開始すると見る。その後は会合毎に0.25%の利上げを実施、今年年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%と予想する。3月の新たなフォワードガイダンスについては確たる予想は困難ではあるが、2004年5月に当時のグリーンスパン議長が「忍耐強くいられる」からの変更として用いた「慎重なペースで at a pace that is likely to be measured」は一つの候補といえる([第1表])。

この予想に対するリスク要因は主に米国外の環境である。イエレン議長は今回の議会証言で「海外の経済動向」の一節を設けて、中国・ユーロ圏の経済動向が米国経済へのリスク要因となる可能性を述べている。ただし、現在の米国は内需中心に拡大しており、輸出の減速は既に昨年後半から顕著になっていることから、ドル高や輸出が新たなリスクとなるわけではない。しかしFRB利上げを先取りしたドル高が更に過度に進む場合や、中国・ユーロ圏経済が更に減速する場合は間接的に米国経済への影響もありうべしである。もっともかかる海外経済要因のリスクは6月までの短期間に示現するとは考えにくい。むしろ短期的にリスクが顕在化する可能性のあるものとして、ロシア・ウクライナの地政学リスク、トロイカからの支援2ヶ月延長後4月末の再延長の際のギリシャユーロ離脱リスク、などに留意しておくべきであろう。

さらに、1月FOMC議事要旨のハト派的内容(2月22日付当レポート参照)やFOMC投票メンバーの入替により1月からハト派投票メンバーが相対的に増加していることも引き続きこの予想に対するリスク要因である。また、米国経済指標が年末から年初にかけてやや軟化傾向にあることも引き続き経済見通し面からの下方リスク要因と言わざるを得ないだろう。


[第1表]
20150302表1

<経済指標コメント> 日本の1月コア消費者物価指数は前年比+2.2%

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
[日本]

消費者物価指数(1月)は前月比-0.2%(前年比+2.4%)、生鮮食品を除く総合指数は前月比-0.6%(前年比+2.2%)

1月の消費者物価指数は前月比-0.2%と過去4ヶ月で3回目の前月比下落、前年比では+2.4%と3ヶ月連続横ばいの伸び率だった。生鮮食品を除く総合指数(コア指数)は前月比-0.6%と3ヶ月連続下落となる大幅下落、前年比では+2.2%と6ヶ月連続の伸び率低下。消費税影響を除くコア指数の前年比伸び率は+0.2%にまで低下している。また、食品(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コアコア指数)も前月比-0.5%の大幅下落、前年比では+2.1%の伸びに低下している。指数の前年同月比の変動に寄与した項目はエネルギーが寄与度差-0.30%(うちガソリン同-0.24%)、家庭用耐久財同-0.03%、教育娯楽用耐久財同-0.02%。引き続き原油価格下落を背景にしたエネルギー価格下落の寄与度が大きいものの、耐久財などその他の項目でも価格下落が目立ってきている。エネルギー価格下落に加えて家計消費の低迷がインフレ圧力を抑制する構造になっている可能性がある。2%の物価目標の達成は引き続き困難なものと見る。

20150301図1

完全失業率(1月)は3.6%(前月比+0.2%ポイント)

1月の完全失業率は3.6%(前月比+0.2%ポイント)と4ヶ月ぶりに小幅上昇した。内訳は労働力人口・就業者数とも前月比ほぼ横ばい、完全失業者数が前月比増加している(季節調整値)。季節調整前の数値の前年比の動きを見ると、労働力人口・就業者数ともに増加が継続し、完全失業者は減少しており、労働市場のタイト化の趨勢は不変といえる。筆者試算による労働力化率は59.7%と引き続き上昇傾向にある。

20150301図2

実質家計消費支出(1月、二人以上の世帯)は前年比-5.1%、季節調整済前月比-0.3%

1月の実質家計消費支出は前年比-5.1%と昨年4月の消費税率引上げ時から10か月連続の前年比マイナス、また2ヶ月連続でマイナス幅を拡大させた。季節調整済前月比も-0.3%と5ヶ月ぶりに減少に転じた。家計消費は引き続き消費税率引上げ幅を上回る減少傾向を継続している。GDP統計でも家計消費が予想比下振れる傾向が2四半期連続で続いている。原油価格下落による物価下落にも関わらず家計消費の不振が続いている背景は定かではないが、家計部門の回復ペースが遅いことはインフレ率上昇をさらに抑制する要因になり得る。

20150301図3

住宅着工戸数(1月)は年率864千戸(前月比-2.1%)

1月の住宅着工戸数は年率864千戸(前月比-2.1%)と前月の同+1.1%から反落。住宅着工戸数はここ数ヶ月の間低位での一進一退の動きが続いている。住宅着工戸数は消費税率引上げの反動減からまだ本格的な回復に至っていないといえる。

20150301図4

鉱工業生産指数(1月)は前月比+4.0%

1月の鉱工業生産指数は前月比+4.0%と2ヶ月連続上昇となる大幅上昇。出荷指数も同+5.8%の大幅上昇。これに伴い在庫指数は同-0.6%、在庫率指数は同-3.5%といずれも低下している。また、企業設備投資の先行指標となる資本財出荷も同+10.3%と大幅な伸びを示した。家計部門の不振に比べて企業部門は回復が顕著である。このペースで生産・出荷増と在庫調整が進行すれば生産部門は拡大スパイラルに回帰出来る可能性が高い。なお集計元の経済産業省は「生産は緩やかな持ち直しの動き」として、12月に引き上げた概況判断を1月も据え置いている。

20150301図5

[米国]

中古住宅販売戸数(1月)は年率4820千戸(前月比-4.9%)、在庫期間は4.7ヶ月

1月の中古住宅販売戸数は年率4820千戸(前月比-4.9%)と大幅減少。中古住宅販売も他の米経済指標と同じく一進一退であるが、3ヶ月移動平均が5000千戸を割り込みかつ3ヶ月連続低下しているのも、他の経済指標軟化傾向と整合していると言わざるを得ない。在庫期間は4.7ヶ月と前月の4.4ヶ月からやや長期化した。集計元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「今年はいくぶん失望させられるスタート」としながらも「1月の指標は変動が大きくなりやすい」「1月の全米の(天候要因による経済活動)低下」をその要因として挙げている。住宅市場が引き続き堅調な拡大を続けるとの個人予想は維持するものの、米国の経済活動全体の軟化傾向、長期金利の上昇はこれに対するリスク要因である。

20150301図6

新築住宅販売戸数(1月)は年率481千戸(前月比-0.2%)、在庫期間は5.4ヶ月

1月の新築住宅販売戸数は年率481千戸(前月比-0.2%)とほぼ前月比横ばい。新築住宅販売市場はここ数ヶ月概ね堅調な増加を示しており、住宅市場の基調が堅調であることを示唆している。

20150301図7

消費者物価指数(1月)は前月比-0.7%(前年比-0.1%)、コア指数は前月比+0.2%(前年比+1.6%)

1月の消費者物価指数は前月比-0.7%と3ヶ月連続前月比低下。前年比では-0.1%と2009年10月以来のマイナスの伸びとなった。一方食品・エネルギーを除くコア指数は前月比+0.2%と上昇を継続、前年比でも+1.6%と前月比横ばいの伸び率を維持している。前月比の内訳ではエネルギーが-9.7%と引き続き物価押し下げ要因となっている。一方でコア指数を構成する運輸サービスは前月比+0.3%と上昇を続けている。総合指数はエネルギー価格下落で低下しているものの、コア指数への波及は現状限定的といえる。WTI原油先物価格は2月に1バレル=約50ドルレベルで下げ止まりの傾向を示しており、前年比の下落率は約-50%と1月からほぼ横ばいにとどまっている。原油先物価格が今後横ばいで推移すれば総合インフレ率はゼロ近辺で今後推移すると見られる。一方でコアインフレ率は今後も1%台後半で堅調に推移すると個人的には予想する。

20150301図8

耐久財受注(1月)は前月比+2.8%、非国防資本財(除く航空機関連)受注は同+0.6%、同出荷同-0.3%

1月の耐久財受注は前月比+2.8%と前月の同-3.7%から持ち直し。振れの大きい民間航空機受注増が全体を押し上げたが、運輸関連を除くベースでも同+0.3%と前月の同-0.9%からプラスに転じた。企業設備投資の先行指標となる非国防資本財(除く航空機関連)受注は同+0.6%と5ヶ月ぶりに増加に転じた。GDP統計上の機器投資の基礎統計となる同出荷は同-0.3%と減少したものの、10-12月期平均を上回っており、設備投資が10-12月期の不振から持ち直しつつあることを示唆している。1-3月期のGDP統計上の設備投資は10-12月期の前期比年率+4.8%からいくぶん加速すると見込む。

20150301図9

10-12月期実質GDP成長率(改定値)は前期比年率+2.2%

米10-12月期実質GDP成長率(改訂値)は前期比年率+2.2%と、速報値の同+2.6%から下方改訂された。しかし主な下方改訂要因は企業在庫(寄与度+0.12%、速報値同+0.82%)で、内需関連需要項目の改訂幅は限定的。他の需要項目の内訳は、個人消費同+4.2%(速報値同+4.3%)と小幅下方改訂に留まり。設備投資同+4.8%(同同+1.9%)は上方改訂、住宅投資は同+3.4%(同同+4.1%)、政府支出同-1.8%(同同-2.2%)、純輸出寄与度-1.15%(同-1.02%)。個人消費・設備投資・住宅投資を合わせた国内民間最終需要は同+4.3%(同同+3.9%)と寧ろ上方改訂となる結果。総じて米経済見通しへの影響は限定的で、2015年通年の成長率前年比+3%強との個人予想を維持する。なお、イエレンFRB議長は2月24-25日の議会宛半期金融政策報告で「少なくとも今後2回a couple of のFOMC会合でFF金利誘導目標レンジを引き上げることを経済条件が保証する可能性は低いと委員会は考える」「(利上げ前に)委員会はフォワードガイダンスを変更する」「委員会は、、(利上げを)会合毎に実施すると期待している」「(フォワードガイダンス変更は)経済条件が改善しFF金利誘導目標レンジ変更がいつの会合でも正当化されうる状態が近いとの委員会の判断を反映したものと理解されるべき」と証言した。雇用市場の堅調な拡大、コアインフレ率の安定、堅調な経済成長を合わせてみるとこの証言はこれまでの筆者の金融政策予想を支持する内容である。FOMCは3月会合でフォワードガイダンスを変更、6月に利上げを開始しその後会合毎に0.25%の利上げを実施、今年年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%、とする筆者個人の予想を維持する。

20150301図10