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<経済レポート> 3%台へ上伸と見る:FRB利上げ開始後の長期金利

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FRBの利上げ開始が近いと見られているにも拘わらず米国の長期金利は低位で安定している。筆者個人は年末に3%台への長期金利上昇を予想している。成長率・FF金利誘導目標・長期期待インフレ率を決定要因とする分析は筆者個人予想を支持する結果になっている。しかしFRBバランスシート規模のストック効果が今後も長期金利抑制効果を維持する可能性は、筆者の見方に対するリスク要因である。

米国債10年物利回りを再度要因分析

FRBが年内に利上げを開始すると見られている(筆者個人の予想は9月定例FOMCで利上げ開始、年末FF金利誘導目標レンジ0.75-1.00%)にも拘わらず、米長期金利はまだ低水準に抑制されている。28日現在で米国債10年物利回りは2%近辺にあり、年初来ピークである3月の2.2%レベルを依然下回っている。筆者個人は年末の米国債10年物利回りを3%台半ばと個人予想している(4月7日付当レポート参照)。この個人予想は、米国の成長率が2%台で堅調に推移しかつインフレ期待が大きく低下しないとの前提に上記のFF金利誘導目標予想を加味したものである。以下では、過去の2014年10月5日付当レポートの手法に基づき、改めて長期金利の要因分析と予測を行う。

長期金利の決定要因としてまず、実質GDP成長率、FF金利誘導目標、長期期待インフレ率の3つを考える。実質GDP成長率は2014年まで3年連続で前年比2%台半ばの成長を維持しており、中期的には極めて安定的に推移している。ここでは四半期毎の前年同期比の伸び率を成長率指標として用いる([第1図])。FF金利誘導目標は金融危機後の2008年12月に現在の0-0.25%レンジに引き下げられて以来今日までこの実質ゼロ水準が維持されている([第2図])。今後年末にかけて同目標レンジは0.75-1.00に上昇し、長期金利押し上げ要因となると考えられる。

期待インフレ率としては、フィラデルフィア連銀が四半期毎に実施する”Survey of Professional Forecasters“における民間エコノミストによる10年後のインフレ率予想を用いる。同調査によれば、2015年第1四半期時点の民間エコノミストによる10年後のインフレ率予想の中央値は2.1%と、前四半期の2.2%からわずかに低下している。しかし原油価格下落による足元インフレ率の大幅低下に比べて相対的に安定している([第3図])。FOMCが声明文で「調査ベースのインフレ期待は安定している」と述べているのも、長期的インフレ期待のこの安定を指しているものと思われる。

[第1図]
20150429図1

[第2図]
20150429図2

[第3図]
20150429図3

成長率・FF金利・長期インフレ期待による回帰では現状の長期金利は低すぎる

これら3つの決定要因を外生変数とし、1992年から2007年(2008年のFRBによる量的緩和開始直前)までの64四半期を観測期間として回帰分析を行った結果が末尾の[第1表]の①、この回帰式をもとに推計した長期金利とその実績値を2014年末まで比較したのが[第4図]である。回帰式①による現在の長期金利の推計値は約3.2%となり、実績値である2%に比べて1%以上も上回っている。この回帰分析による限りでは、現在の長期金利は理論値よりもかなり低いところにあることになる。更に、2015年についてこの回帰式①に実質GDP(筆者個人予想)、FF金利誘導目標(同)、長期期待インフレ率(2.2%で推移と想定)を代入すると、2015年末の長期金利は約3.5%と、筆者個人予想とほぼ同じレベルの結果が得られる。

もっともこの推計式①には一つの難点がある。観測期間をFRBの量的緩和以前に限っているため、量的緩和開始後の長期金利の動きをうまく説明できない点である。実際、観測期間を1992年から2014年の92四半期に拡大すると、実質GDP成長率が統計的に有意な変数とならないという不具合が生じる([第1表]の①’)。

そこで、FRBの量的緩和が長期金利に与える影響を考察するために、FRBのバランスシートを外生変数に加えてみる。FRBのバランスシートは、FRB資金循環統計における「通貨当局の金融資産」額を名目GDPで除したものを用いる。FRBバランスシートの対GDP比率は2008年の量的緩和以前は約5%レベルで推移していたが、量的緩和拡大とともに上昇し、2014年に25%を超える水準となった。その後2014年10月に資産購入が停止されたことで、現在この比率は25%レベルで安定推移している([第5図])。今後は名目GDPの拡大に対してFRBバランスシートがほぼ横ばいで推移、また利上げ開始後いずれかの時点で償還金再投資が停止される(2014年9月17日FRBプレスリリース「金融政策正常化の原則と計画」)ことから、この比率は徐々に低下すると考えられる。

[第4図]
20150429図4

[第5図]
20150429図5

FRBバランスシートを決定要因に加えるとほぼ現状金利は適正

成長率、FF金利誘導目標、長期期待インフレ率及びFRBバランスシートの4変数による回帰分析(1992年~2014年の92四半期)の結果が[第1表]の②’である。これによれば、FRBのバランスシート規模は統計的に有意な変数となり、FRBの量的緩和が長期金利抑制要因になっていたことが推測される結果になった。もっともここでもGDP成長率は有意な変数とならない。そこで成長率を除いた3つの変数で回帰を行った結果が[第1表]②である。この回帰式②による2014年までの長期金利の推計結果が[第6図]である。

この回帰式②によれば、現在の長期金利水準は約2%と推計され、現在の実績値に極めて近い結果を表している。また、上記前提に基づく2015年末の長期金利水準は約2.4%と推計される。外生変数にFRBバランスシート規模を加えた推計式の方が当てはまりもよく、現在の金利水準をよく推計している。さらにFRB量的緩和が長期金利を抑制する効果があったことはありそうなことである。

しかし、この回帰式②にも難点がある。実質GDP成長率が長期金利の決定要因から外れるというのは一般的な金利水準決定の論理からはかなり乖離している。また、実際に量的緩和が開始されて以降の期間においてはこの推計値②でも実績値から大幅に乖離する場面がある。ちなみに2008年から2014年までだけの期間を観測期間としてみると、回帰式②は実績長期金利をほとんど説明できていないとの結果になった。

[第6図]
20150429図6

今後は緩和開始以前の回帰式をもとに予想するのが妥当と見たい

さて、回帰式①と回帰式②による今後の長期金利予想の推計値を並べたのが[第7図]である。量的緩和の時期とFRBバランスシート拡大を勘案しない回帰式①による今年末長期金利推計値は3.5%、量的緩和とFRBバランスシートを勘案するが成長率を勘案しない回帰式②による今年末長期金利推計値は2.4%である。1%以上も乖離のあること2つの推計値のいずれをとるべきかは難問であるが、筆者個人は回帰式①の方をとりたい。FRBの量的緩和はそのバランスシート残高によるストック効果で長期金利を押し下げたというよりも、そのアナウンスメント効果がより長期金利を押し下げる効果を示した可能性が高いことが、量的緩和開始後の回帰式の当てはまりの悪さからは憶測できるからである。

従って現在の長期金利水準は成長率・FF金利・長期期待インフレ率を決定要因と見た場合に均衡水準よりも大幅に低い位置にあり、この乖離は資産購入停止により徐々に解消されていくはずだと考えたい。さらにFOMCが9月以降に継続的に利上げを実施すれば、長期金利は3%台に向けて徐々に上昇しているこの見方を維持する。

この見方に対するリスクシナリオは、拡大したFRBのバランスシートのストック効果が長期金利を抑制する効果を維持すること、つまり回帰式②に示されるごとく成長安定を凌駕する量的緩和ストック効果が継続することである。足元の長期金利低位安定はこのリスクが示現する可能性が相応にあることを示唆していると言わざるを得ないものの、いったん利上げが開始されて後は長期国債の流動性が確保されている限り、金利上昇ペースは今の市場期待以上に早いと見ておきたい。

[第7図]
20150429図7

[第1表]
20150429表1

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