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<経済レポート> 企業の設備投資拡大は緩やかに:米国内部門ISバランス

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米国では昨年後半以来財・サービス赤字の拡大傾向が続いているが、赤字の規模は過去に比べれば相対的に低水準である。経常収支赤字拡大要因として、企業部門の貯蓄・投資バランスが2014年に投資超過に転じていることがあげられる。この背景は企業の設備投資意欲拡大とも見られるが、企業収益の伸び減速も要因の一つである。今後も企業の設備投資拡大ペースは緩やかにとどまり、住宅投資の急激な拡大や財政政策の急拡大がない限り、経常赤字の拡大ペースは緩やかなものに留まると見たい。

経常赤字は歴史的には低水準にある

[第1図]は米国の経常収支の推移とその内訳である。経常収支は財・サービス収支、所得収支、経常移転収支からなり、財・サービス収支がその太宗を決定する。米国の経常収支赤字の対GDP比率は金融危機前の住宅バブル期である2005年に-6%を超える最大レベルとなり、その後内需の縮小により大幅縮小したのち、現在に至るまで-2%台と相対的に低位で安定している。

2014年の後半から輸出の伸び悩みと輸入の増加により財・サービス収支赤字は拡大を始めている([第2図])。輸出伸び悩みの要因としては海外経済の減速、輸入拡大の要因としては内需の拡大が考えられる。また最近のドル高も輸出減速と輸入拡大の要因と憶測できる。しかし、為替レートと米国の貿易収支の関係の証跡は明確ではない。今後も海外経済減速と国内需要の拡大により財・サービス赤字は拡大が続くとは見るものの、そのペースは2005年の国内景気過熱期ほどにはならないと個人的には見ている。

経常収支赤字を別な側面から見てみよう。[第3図]は、米国の国内の経済主体別の貯蓄・投資バランス(ISバランス)の推移である。国内の経済主体である家計・企業・政府部門の貯蓄と投資の差額(バランス)合計は経常収支に等しいという恒等関係がある。米国の場合ISバランスのマイナス(投資超過)つまり経常収支赤字が海外部門のISバランスのプラス(貯蓄超過)により賄われるという傾向が続いている。[第3図]によれば、金融危機後の大幅な財政出動により拡大した政府部門の投資超過は、歳出増加要因の剥落と景気回復による税収増で縮小が続いている。また家計部門は金融危機前には一時投資超過となっていたのが、金融危機以降は貯蓄超過に転じたまま現在に至っている。また注目すべきは、政府部門の投資拡大によりクラウドアウトされていた企業部門が、政府部門の投資超過縮小とともに2014年には投資超過に転じていることである。

[第1図]
20150506図1

[第2図]
20150506図2

[第3図]
20150506図3

家計部門は貯蓄超過が続こう

家計部門が現在でも貯蓄超過になっている要因は二つある。一つは金融危機前に比べ現在の家計貯蓄率が相対的に高いことである。金融危機前の住宅バブル期には住宅を担保にした借入で家計が消費を拡大し、貯蓄率は2%台にまで低下していた。金融危機後は住宅担保借入が困難になり家計が借入を返済するバランスシート調整に入ったことから貯蓄率は上昇し、現在では約5%前後の水準にある。

家計部門が貯蓄超過を続けているもう一つの要因は住宅建設の減速である。家計部門の投資の太宗は住宅投資である。2014年の住宅着工戸数は年率1001千戸と7年ぶりの1000千戸台を回復したものの、その水準はピークである2005年の2073千戸の半分にも満たない。住宅ローン残高は金融危機以降現在もなお減少を続けている。低金利にも関わらず住宅ローン残高が増加しないのは、住宅ローン返済軽減にための更改に伴う金融機関のコスト上昇や、金融機関の信用基準が依然厳格であることが背景と考えられる。

上記の通り、政府部門のISバランスと企業部門のISバランスは相互補完的に動く傾向があるため、米国全体のISバランスつまり経常収支は主に家計部門のISバランスに依存する傾向が強い。現在の住宅着工ペースが今後住宅バブル期のペースに再拡大するとは当面考えにくい。家計貯蓄率は物価下落のメリットをとる消費拡大がインフレ率低下にやや遅行して発生することにより今後はやや低下に転じると見る。しかしネット見た場合、家計の貯蓄超過は今後しばらく継続すると考えられる。

企業部門は投資超過に転じたが今後の投資拡大は限定的と見る

次に企業部門のISバランスの内訳をみる。企業部門は金融危機直後より設備投資を縮小して手元資金を厚めに持つことにより2008年以降大幅な貯蓄超過に転じた。その後2009年をピークに設備投資の回復とともに貯蓄超過幅は縮小が続いていた。2014年に入りそのバランスは逆転して投資超過に至っている([第4図])。

企業部門のISバランスが投資超過方向に転じた要因は二つある。一つは設備投資が緩やかながら継続的に拡大を続けていること。ここには政府部門の投資拡大ペースの低下にともない政府部門を代替する投資が企業部門に移転したことが考えられる。次に、企業の貯蓄すなわち外部流出しない企業収益の伸びが鈍化していることである。

外部流出しない企業収益に設備投資の資本減耗を加えた企業ネットキャッシュフローと名目設備投資の推移をみたのが[第5図]である。これによれば、企業ネットキャッシュフローは2010年をボトムに回復に転じているものの、その伸びは2012年頃から鈍化しており、総じて横ばい傾向が続いている。これに対し企業設備投資は一貫して増加を続けている。2014年には設備投資が企業キャッシュフローを上回る水準となっている。設備投資/キャッシュフロー比率は歴史的には、好景気時には100%を超える傾向があるが、総じて同比率は長期的には低下傾向にある([第6図])。また[第4図]に見られるように企業部門の純投資の対GDP比率は既に3%台と金融危機以前のピークに程近いところにまで達している。

[第4図]
20150506図4

[第5図]
20150506図5

[第6図]
20150506図6

経常赤字の悪化は悲観するレベルにはならないと見る

従って、企業部門の投資超過傾向が今後更に拡大ペースを速めるとは考えにくく、米国全体のISバランスも政府支出の大幅拡大政策がとられない限り更なる投資超過の拡大は考えにくいことになる。米議会予算局(CBO)の「財政・経済見通し(2015年3月)」によれば、現行法制下での米財政赤字の対GDP比率は2014年の-2.8%から2017年には-2.3%に縮小すると推計されている。その背景は、景気の拡大により歳入増加ペースが歳出増加ペースを上回ることである。CBOの前提とする経済成長率は2015年、2016年いずれも+2.9%(第4四半期前年同期比)であり、これは筆者個人の予想と概ね整合するものである(実際には1-3月期GDP成長率の予想比下振れで、筆者予想は現在2%台前半レベルになる計算になる)。

ドル高がこのまま財・サービス赤字の拡大をもたらすというよりもむしろ輸出企業の収益を圧迫し、企業キャッシュフローを悪化させる方向に働くと仮定すれば、今後企業設備投資が緩やかな拡大ペースに留まるとの筆者個人の見方とも一致する。昨今の企業景況感の悪化の背景には、ドル高による企業収益悪化があることがISM製造業指数の調査結果からも読みとれる(5月3日付<経済指標コメント>参照)。海外経済の減速と国内需要の拡大で結果的には財・サービス赤字の拡大は今後1年続くと見る。しかしこれによる経常収支の悪化は歴史的には低水準であり悲観に及ぶレベルにはならないと見る。
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