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<経済レポート> 「ソフトパッチ」にすぎない:米個人消費動向

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米経済拡大ペースは年初以降大幅に減速している。個人消費についても、4月小売売上高の予想外の不振や消費者センチメントの急落など、懸念材料が目立つことは確かである。しかし、雇用拡大と賃金上昇率を背景とする個人の実質購買力はまだ十分な拡大ペースを保っており、また消費に慎重な消費者のスタンスも堅調な消費拡大を妨げるほどのインパクトはない。2015年における2%台後半の個人消費拡大を見込む筆者個人の予想は維持しておきたい。

年初から米経済指標の軟化が続く

今年に入り米経済指標の軟化が顕著である。1-3月期の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+0.2%と、前期の同+2.2%から大幅に減速した。速報後に公表された3月分経済指標では、貿易赤字の拡大と企業在庫の積み上げペース減速が明らかになり、1-3月期成長率は今後マイナス成長に下方改訂される可能性が高い。4月に入っても軟化は継続している。まず企業部門では、ISM製造業指数は3月まで5ヶ月連続で低下ののち4月も51.5%と前月比横ばいにとどまり、2013年3月以来の低水準となっている。4月鉱工業生産指数は前月比-0.3%と5ヶ月連続の低下を示した。

また、家計部門も減速を示す指標が続いている。直近の経済指標でネガティブサプライズとなったのが4月小売売上高である。4月小売売上高は前月比横ばい、自動車・ガソリン・レストランを除くいわゆるコア小売売上も同+0.1%にとどまった。昨年末に始まった原油価格下落によるインフレ率低下も名目売上高の減速の一要因であることは確かであるが、消費者物価指数を用いて実質化した実質ベースの小売売上高も、1月の前年比+4.9%をピークに4月時点で同+1.1%にまで伸び率が低下している([第1図])。

更に、消費者センチメントも低下に転じている。ミシガン大学消費者センチメント指数は1月に98.1ポイントでピークアウトしたのち下降に転じ、4月には前月比-7.6%の大幅低下で88.6ポイントとなり、昨年10月以来の低水準となった。筆者個人は、2015年通年の実質個人消費を前年比+2.8%と予想している。実質ベースの小売売上高が前年比+1%台にまで減速したことや消費者センチメントの低下は、この見通しに対する下方リスク要因といえる。

[第1図]
20150519図1

賃金上昇率軟化とインフレ率底入れが実質購買力の伸び鈍化要因

しかしながら、筆者個人は米国経済成長がこのまま年末まで軟化を続けるとは見ていない。1-3月期の成長鈍化の背景には、悪天候や西海岸港湾スト等の一時要因が含まれている。これらの要因は企業部門特に製造業の景況感悪化や設備投資の減速の要因でもある。家計部門については、雇用拡大ペースが4月にほぼ巡航速度に回帰したほか、NYダウは4月~5月を通じ概ね18000ドル前後の高水準を維持するなどむしろ追い風となる要因が多い。かかる状況証拠からは、個人消費が大きく鈍化する理由は見当たらない。以下では、個人消費を中心に指標軟化の要因と今後の見通しを考察する。

まず、足元の消費者センチメントの軟化の要因を見てみよう。ミシガン大学消費者センチメント指数は過去約1年半の間消費者の実質購買力の伸び加速と軌を一にして上昇してきた。実質購買力の伸びは1月に前年比+5.0%でピークに達したのち4月には同+4.0にまで伸び率が低下している。これは消費者センチメント指数の1月ピークアウトと整合している([第2図])。センチメントの悪化の背景は消費者の実質購買力の拡大が一服したことと考えられる(なお、ここでいう実質購買力とは、雇用の伸び、週平均労働時間、及び実質賃金の伸びを合わせたものであり、これら3つの構成要素の推移は[第3図]の通りである)。

次に、センチメント悪化の要因と思われる実質購買力の伸び鈍化の要因を見る。実質購買力の主要構成要素といえる実質時間当たり賃金の伸び率は、約1年半の上昇基調ののち今年1月をピークに低下に転じている。実質賃金の伸びを名目時間当たり賃金と消費者物価上昇率に分解したのが[第4図]である。名目時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比伸び率は昨年8月にピークの+2.1%にまで上昇し、実質ベースの時間当たり賃金を押し上げてきた。その後名目時間当たり賃金の伸び率は緩やかに低下に転じたが、ほぼ同時に原油価格の急落でインフレ率が急低下したことで実質賃金の伸び率は上昇を継続した。今年に入ってからはインフレ率が低下から横ばいに転じるも名目時間当たり賃金上昇率は低下傾向を維持しており、結果実質時間当たり賃金は今年に入って伸び率が低下に転じている。名目時間当たり賃金の伸び悩みをインフレ率低下がカバーしていたが、今年に入りインフレ率が前年比ほぼゼロで下げ止まったことで、実質時間当たり賃金伸び率が下降に転じたわけだ。

[第2図]
20150519図2

[第3図]
20150519図3

[第4図]
20150519図4

購買力伸び率と消費性向からは消費回復が期待できる

消費者センチメントの悪化の背景に、中期的な名目時間当たり賃金の伸び鈍化があることが上記から推測できる。一方、消費者センチメントと小売売上高にはある程度の連動関係がみられることから、5月の消費者センチメント低下は今後の小売売上と個人消費の更なる悪化を示唆するものともみられうる。

しかし以下の通り、足元の消費者センチメント悪化が主に実質購買力の伸び率低下であるならば、今後個人消費は再び2%台の伸びへの回復が十分に可能である。まず、実質購買力の伸び率は足元低下したとはいえ、前年比+4.0%の高水準を保っている。これは数字の上では実質ベースの個人消費が4%成長を続けることも可能であることを示唆している。今後インフレ率が上昇に転じれば実質購買力の伸びは更に低下することが考えられるが、雇用拡大ペースの再加速当を勘案すれば、原油価格下落前の伸び率である2%台半ば~3%の伸びは十分期待できる。

消費者が消費拡大に過度に慎重になっているとの証跡も消費関連指標からは見られない。貯蓄率は2015年1-3月期時点で5.5%と、前期の4.6%から上昇しており、物価下落によるメリットを貯蓄に回している可能性も示唆されている。しかし、5%台の貯蓄率は過去の動きに照らせば決して高い水準ではない([第6図])。また筆者推計によれば、追加的な可処分所得のうち消費に振り向ける所得の割合を示す限界消費性向は2015年1-3月期時点で約0.9の高水準にある。計算上は、2%台半ば~3%の実質購買力の伸びがあれば、限界消費性向勘案後でも2%台の実質個人消費の伸びは十分期待できることになる。

[第5図]
20150519図5

[第6図]
20150519図6

2015年通年の個人消費2%台成長予想を維持する

以上より、賃金上昇と雇用拡大を背景とした個人の購買力拡大ペースと消費性向からは、米国の個人消費が今後趨勢的に減速する可能性は低いといえる。足元の消費減速の理由は、悪天候等の外的要因やインフレ率低下に対する一時的貯蓄率上昇に見られる消費者の相対的に慎重な消費態度であって、今後解消が十分に考えられるものである。足元の消費鈍化はいわゆる「ソフトパッチ」に過ぎない可能性が高い。今年通年の実質個人消費を前年比+2%台後半とする筆者個人の予想は維持しておきたい。

一方で、今後更に消費拡大ペースが加速するためには、個人の借入拡大が必要になる。実際に、消費者信用残高は3月時点で前年比+6.9%の強い伸びを示している。うち自動車ローンは1-3月期時点で前年比+9%増加しており、これが高水準の自動車販売を支えている。しかし、住宅ローンの信用条件は引き続き厳格で、住宅ローン残高は金融危機以降2014年まで依然前年比減少を続けている。住宅を担保に消費のための借入をするいわゆるホームエクイティローンが拡大する環境にはない。今後の消費拡大ペースはあくまで雇用と賃金を背景にした、健全な家計バランスシートの下での堅調で持続的なものとなるだろう。

以上の予想に対するリスク要因は次の通りである。まず、4月に回復した雇用拡大ペースが今後再び鈍化すること。ISM製造業指数の雇用DIが4月までで4ヶ月連続で低下し、4月には判断の分かれ目を示す50%を割り込んだことはこのリスクの顕在化を示唆するものである。次に、4月の新車販売台数の減少が示唆するように、自動車販売の牽引する消費拡大の息切れリスクである。自動車ローン拡大に支えられた消費拡大は、信用条件がひとたび厳格化されればその底支え要因を失う可能性なしとしないことには留意しておくべきであろう。

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