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<経済レポート> 積み上げの行く末:米企業設備投資

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米国では労働生産性に比して資本生産性の伸びは常に劣後している。資本生産性の低下は、新たな設備投資意欲を抑制し、今後の設備投資拡大ペースを緩やかなものにとどめる要因となる可能性がある。一方で労働市場はその余剰がほぼ解消し、労働需給は引き続きタイトになると見る。

米国の潜在成長率は長期的に低下トレンド

米国の企業設備投資の伸び率は、金融危機からの回復後も緩やかなものにとどまっている。また長期的に見ても、設備投資(フロー)の対GDP比率の長期トレンドは低下方向にある([第1図])。これは、経済拡大における設備投資の重要度が下がってきた可能性を示唆する現象である。この背景として、過去に比べ現在では生産の資本への依存度合が低下し、代わって労働への依存度合が高まってきたという説明が考えられる。産業が資本集約的な生産から労働集約的な生産に転化してきたことがその背景といえる。本レポートではいくつかのマクロ指標から、資本集約的生産から労働集約的生産への転換の背景を概観する。

産出のための生産要素は通常、労働投入量と資本蓄積(設備投資のストック)の2つがあげられる。国が生産要素を最大限に活用した場合の潜在産出量つまり潜在GDPは、労働投入量・資本蓄積により決定され、潜在成長率はこれに全要素生産性を加えた3つの要素により決定されるとされる。労働投入量に労働生産性を、資本蓄積に資本生産性をそれぞれ乗じたものの伸び率に、全要素生産性の伸び率を加えたものが潜在成長率ということになる。

まず、米国の潜在成長率の推移を見る。米国の潜在成長率は長期的に低下トレンドにある。実質GDP成長率と失業率の四半期データに基づき、オークンの法則を用いて米国の潜在成長率を推計してみると、2015年4-6月期時点で約2%との結果になった([第2図])。もっともこの推計による潜在成長率は2000年をピークに長期的には低下トレンドにあり、2008年の金融危機を経て2013年に1%台前半にまで低下しており、その後やや上昇に転じた位置にあるにすぎない。これは、米議会予算局(CBO)の推計(CBO「財政・経済見通し2015-2025」2015年1月)による米国の潜在成長率が、長期的低下して2010年にボトムに達し、その後やや上昇に転じているのとほぼ整合している。

次に、生産における労働力と資本の寄与を見るために、潜在成長率をこれらの要素に分解した結果を見る。CBOの潜在成長率推計(非農業部門)によれば、70年代から2001年にかけては労働投入量の潜在成長率への寄与度が継続的に低下する一方で資本蓄積の寄与度はほぼ一定、その後2007年の金融危機直前にかけて資本蓄積の寄与度が低下していることとなっている([第1表])。

[第1図]
20150802図1

[第2図]
20150802図2

[第1表]
20150802表1

資本蓄積増加ペースは労働投入量を常に上回っている

以上の潜在成長率とその内訳の推計に対し、以下では実績ベースの労働投入量と資本蓄積の状況と生産性を見る。まず。1970年以降の実績ベースの長期的な実質GDPと労働投入量及び資本蓄積(ストック)の推移が[第3図]である(ここで、労働投入量は非農業部門雇用者数に週平均労働時間を乗じたもの、資本蓄積は2009年基準で実質化した民間非住宅固定資産に鉱工業設備稼働率を乗じたものを用いる)。これによれば、70年以降、資本蓄積はほぼ実質GDP増加と同じペースで増加し、90年代後半からそのペースをやや落としている。一方労働投入量の増加ペースは実質GDPの増加ペースに比べてはるかに遅い。

[第4図]は、実質GDP、労働投入量、資本蓄積の前年比の伸び率を比較したものである(各数値はHPフィルターで平滑化後前年比伸び率を算出)。これによれば、成長率、資本蓄積、労働投入量いずれもが90年代以降伸びを減速させていることで共通している。一方、労働投入量の伸びは常に資本蓄積の伸びを下回っている。

これらは、CBOの潜在GDP推計において資本蓄積の寄与度が2000年までほぼ潜在GDPに一定の寄与を続けたのち2000年代以降寄与度を低下させていること、また労働投入量の寄与度はほぼ一貫して低下していることと整合している。労働投入量の伸びには人口動態や労働力人口、また就業時間などの外的制約があるため、資本蓄積ほどに拡大ができないことが上記の要因の一つであろう。一方でかかる制約の少ない資本蓄積が90年代以降急激にその拡大ペースを落としていることには、企業の設備投資意欲を減退せしめる内的要因があったと考えられる。

[第3図]
20150802図3

[第4図]
20150802図4

資本生産性の伸びは労働生産性の伸びを常に下回っている

次に、実績ベースでの労働生産性と資本生産性の推移を見る。上記のデータから、シンプルに労働生産性と資本生産性を算出した結果が[第5図][第6図]である(労働生産性=実質GDP/労働投入量、資本生産性=実質GDP/資本蓄積、いずれもHPフィルターで平滑化)。これによれば、労働生産性の伸び率、資本生産性の伸び率いずれも2000年頃をピークに低下傾向にある。これは、米国の潜在成長率が2000年以降低下を続けていることとも整合している。

また、労働投入量の伸びが資本蓄積の伸びを常に下回っていることから、おのずと労働生産性の伸び率は資本生産性の伸び率を常に上回っている。更に注目すべきは、資本生産性の伸び率は80年代及び2010年代においてマイナスに転化していることである。ここからは、単に算術上の計算のみならず、資本の生産性が労働生産性に劣る構造がある可能性が示唆されている。

ここで、労働投入量、資本蓄積、及びトレンド変数を外生変数とする以下のコブ・ダグラス型生産関数を想定し、各変数に対する実質GDPの弾性値を推計する。

ln(Y)=α+β1*ln(L)+β2*ln(K)+ɤ(T)

Yは実質GDP、Lは労働投入量、Kは資本蓄積、Tはトレンド変数。β1とβ2はそれぞれ、労働投入量と資本蓄積に対する実質GDPの弾性値である。推計は1967~1990年の24年間と、1991~2013年の23年間に分けて行った。結果は[第2表]の通りである。ここからはまず、主に60年代後半~90年においては労働投入量と資本蓄積が実質GDPに寄与しており、その弾性値は資本蓄積に対しての方が大きかった(実質GDPの労働投入量、資本蓄積に対する弾性値はそれぞれ0.299、0.378)ことがわかる。つまりこの期間においては、資本蓄積を1単位増加させることの方が労働投入量1単位を増加させるよりも高い生産の伸びを実現できたことになる。一方90年代から現在に至る時期においては、資本蓄積は実質GDP決定要因として有意でなく、その弾性値もわずかにマイナスになっている。一方で労働投入量に対する実質GDPの弾性値が大幅に高まっている。つまり90年代以降においては資本よりも労働投入量増加の方がより高い生産を挙げることができる状況になったことになる。

[第5図]
20150802図5

[第6図]
20150802図6

[第2表]
20150802表2

生産性低下と余剰資本が設備投資拡大ペースを抑制、労働市場はタイト化へ

以上の分析から次のことが憶測できる。すなわち、90年代初までは資本蓄積1単位の産出への寄与が労働投入1単位の産出への寄与よりも大きく、企業にとっては雇用増加よりも設備投資拡大の方がより効率的な生産拡大をもたらしていたこと。しかし次に、90年代以降はこの関係が逆転して資本生産性が大幅に低下し、企業にとっては設備投資よりも雇用拡大の方がより効率的な生産拡大をもたらすようになったことである。

資本生産性が低下し、労働生産性が上昇した背景としては、産業のサービス化、なかんずく90年代のIT革命により、資本集約的産業(製造業など)中心の産業構造から労働集約的な産業(情報技術など)中心の産業構造への転換が起きたことが考えられる。重厚長大な生産設備による生産拡大よりも、熟練した情報技術者の採用と安価なIT投資によりIT企業等はより効率的なサービス生産を拡大できるようになったと考えられる。

これが正しいとすると、以下のインプリケーションが考えられる、第1に、資本生産性の低下により米国の潜在成長率はトレンド比いくぶん低い可能性があること。第2に、資本生産性低下は今後企業の設備投資意欲を抑制し、雇用拡大を選好する背景となる可能性が高いこと。第3に、米国におけるこれまでの資本蓄積の継続は現在の需要に対して依然過大であること。実際に、上記では資本蓄積に含まれない企業設備の余剰は大きい。鉱工業設備稼働率は現在78~79%の水準で推移しており、1972年から現在までの平均である80.1%を大幅に下回っている。米経済全体のマイナスの需給ギャップはこの資本の余剰が相応に寄与していると思われる。これらからも、米企業設備投資の拡大ペースは成長トレンドを超えない緩やかなものに留まる可能性が高い。最後に、企業の設備投資に対する雇用の選好が続けば、設備稼働率とは逆に雇用市場は需給が更にタイト化するであろうこと。実際に設備稼働率の低さとは対照的に失業率は既に自然失業率(CBO推計によれば2015年時点で5.4%)にまで低下している。もっとも雇用市場タイト化により賃金上昇圧力が高まるであろうことが、労働投入量の調整と設備利用への回帰をもたらす可能性はある。

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