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<経済レポート> 一人成長は続く:米国経済定点観測

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米経済は今年後半にも2%台半ばの成長を維持すると見る。直近の経済指標はこの見方を支持する結果となっており、かつこれはFOMCの年内利上げ予想をも支持するものである。リスク要因として海外景気減速、株価下落、ドル高が考えられるが、いずれも米経済成長に現在のところは重大な悪影響は与えないものと見たい。

個人消費は3%の拡大を維持すると見る

25日に公表された米4-6月期実質GDP成長率(確報値)は前期比年率+3.9%と、ソフトパッチのあった1-3月期(同+0.6%)から力強い回復を見せた。年後半はこの反動でやや成長率は減速するものの、潜在成長率を超える2%台半ばの成長を継続すると筆者個人は引き続き見ている。本レポートでは直近の経済指標をもとに7-9月期以降の米経済成長率予想を点検することとする。

個人消費は年後半も引続き3%レベルの成長を続け、米経済の牽引役になると見る。GDP統計確報値によれば4-6月期の実質個人消費は前期比年率+3.6%と、改訂値の同+3.1%から大幅に上方改訂された。改訂値時点で8、9月の実質個人消費が前月比+0.2%の増加の場合7-9月期の実質個人消費は前期比年率+2.5%となる計算であった。4-6月期確報値の上方改訂による発射台の上ブレで、7-9月期の個人消費は+3%台の成長が十分可能になる。雇用・賃金も個人消費の追い風だ。8月時点で非農業部門雇用者数は前年比+2.1%、実質賃金は同+1.7%の伸びを示しており、これらを合わせた実質購買力は同+3.8%の伸びとなる。過去3四半期の消費者の限界消費性向は約0.9であり([第2図])、従って雇用と賃金の伸びからは実質個人消費は潜在的に3%台の拡大が可能な条件にある。

一方で、8月の世界同時株安に伴い消費者センチメントや株の資産効果の低減が考えられる。ミシガン大学消費者センチメント指数は9月時点で87.2ポイントと3ヶ月連続で低下している。実質個人消費の前年比の伸び率と消費者センチメント指数の間にはある程度の相関が認められる([第3図])。2012年から現在までの月次データに基づく相関からは、87.2ポイントの消費者センチメント指数は上記よりもやや弱めの実質個人消費前年比の伸び+2.5%に相当する。従って今後の個人消費は+3%を大きく上回る消費者購買力の伸びより低めの伸び率を想定しておく必要はあるだろう。これらを勘案し、7-9月期のGDP統計上の実質個人消費の伸びを前期比年率+3.0%と個人予想しておく。

[第1図]
20150928図1

[第2図]
20150928図2

[第3図]
20150928図3

企業設備投資は目先加速へ:中期的には緩やかな拡大

企業設備投資は4-6月期に前期比年率+4.1%の伸びだったが、7-9月期には同+7%台に加速すると見る。設備投資のうちの機器投資の基礎統計を見ると、8月までの7-9月期非国防資本財出荷(航空機関連を除く)は前期比年率+3.6%の伸びとなっている。過去20四半期のデータに基づく相関からは、これを基礎統計とするGDP統計上の機器投資は同+6.4%の伸びになる計算になる。また構造物投資について、7月建設支出統計によれば7-9月期の民間非住宅建設支出は前期比年率+9.1%となるペースで、これは前期の同+44.4%からは大きな減速となる([第4図])。しかし、前期に積み上げた建設支出はまだ4-6月期GDPに計上されていないと見られることから、7-9月期の構造物投資も前期並みの前期比年率+6%台の伸びが期待できる。これらに知的財産投資を合わせると7-9月期の企業設備投資は前期比年率+7%台の成長ができる計算になる。

企業の設備投資意欲も不悪である。9月フィラデルフィア連銀製造業景況感調査によれば、6ヶ月先の設備投資DIは27.2ポイント(前月比+8.8ポイント)と急上昇した。四半期ベースで見ても、同DIの7-9月期平均は17.8ポイントと前期平均の13.6ポイントを上回っている([第5図])。これは7-9月期の企業設備投資の伸びが前期より加速するとの見方を支持している。

もっとも企業収益の動向は、今後も企業設備投資の伸びは緩やかなペースに留まることを示唆している。4-6月期の企業収益(在庫評価・資本減耗調整後)は前年比+0.6%の伸びにとどまり、前期の同+4.6%から大きく減速した。内訳をみると、収益の伸びを抑制したのは原油価格下落の影響をうけた公益事業や石油産業であり、これらを除いた国内非金融機関企業収益は同+17.8%と好調である([第6図])。しかしながら企業全体の収益の伸び減速に加え、企業ネットキャッシュフローの伸びも4-6月期には前年比+0.4%にまで落ち込んでいる。企業設備投資の源泉となる企業ネットキャッシュフローが低迷している間は企業設備投資の急激な拡大は望みにくいだろう。また、鉱工業設備稼働率の低下(8月時点で77.6%と1972-2014平均の80.1%を大幅に下回っている)も企業の設備投資意欲を今後抑制する要因とならざるを得ない。

[第4図]
20150928図4

[第5図]
20150928図5

[第6図]
20150928図6

住宅投資も前期並みの成長、貿易赤字も7-9月期は縮小ペース

住宅投資は7-9月期も前期並みの前期比年率+9%レベルの成長を維持すると見る。基礎統計となる7-9月期住宅着工戸数は8月までで前期比-1.2%とマイナス圏にある([第7図])。しかしこれは前期の住宅着工の急増(同+18.4%)からの反動であり、かつ前期にはこれらの着工がすべてGDP統計に反映されていない可能性が高い。前期からの積み残し分の計上も勘案すれば、7-9月期に前期並みの住宅投資の拡大は十分に考えられる。

在庫投資は7-9月期から成長にマイナス寄与すると見る。企業在庫統計によれば、7月に企業在庫の3ヶ月前対比の伸びは大幅に減速した。また在庫売上高比率は1.36倍と引続き高水準にある(9月20日付<経済指標コメント>参照)。在庫循環図上は現在の在庫循環は「在庫調整」局面に入りつつある。4-6月期GDP統計では企業在庫の成長への寄与度が+0.02に減速している。これらの状況からは今後2四半期程度にわたり在庫調整は成長の抑制要因となるだろう。

純輸出は7-9月期のGDPにわずかながらプラスの寄与をすると見る。海外経済の減速とドル高により中期的に輸出が減速している状況であることは確かである。しかし、7月までの貿易収支統計によれば過去4ヶ月間の実質ベースの財の貿易収支赤字は概ね横ばい状態にある([第8図])。四半期ベースでは、7-9月期の実質ベースの貿易収支赤字は前期に比べて縮小するペースとなっている。

[第7図]
20150928図7

[第8図]
20150928図8

中国減速の影響は限定的、ドル高も企業に有利

以上より、7-9月期の実質GDP成長率についての筆者個人の予想を前期比年率+2%台半ばとする。その後10-12月期も+2%台の成長を継続すると見ることから、結果2015年通年の成長率は前年比+2%半ばとなる計算になる。この成長率は米議会予算局(CBO)が推計する今年の潜在成長率(+1.7~1.8%)を上回るペースであり、米経済が巡航速度以上の成長を継続することを意味する。またこの予想は、9月21日付当レポートで見た、FOMCの年内利上げ開始予想の前提とも整合しており、金融政策についても従前の予想(年内利上げ開始)を維持することとする。

この予想に対するリスク要因はむろん、8月の世界同時株安の影響である。筆者個人は、NYダウが15000ドルを大きく下回らない限り株価は再び上昇トレンドに回帰すると見ており、これまでのところ株価はこの見通しに沿った動きとなっている。世界同時株安は中国を中心とする海外経済減速という実体経済上のマイナス要因の表象に過ぎないとの考え方からは、むしろ海外経済減速とドル高の米経済への影響を考えることが妥当であろう。しかしその観点からも、9月21日付当レポートでみたように米経済の中国経済との相関はほとんどなく、中国経済減速による米経済への影響は限定的といってよいだろう。

ドル高も総合的に見れば米経済にプラスの影響をもたらすはずである。フィラデルフィア連銀製造業景況感調査における製造業の受取価格DIから支払価格DIを差し引いた交易条件の推移を見ると、ドル高が始まった昨年後半からこれが更に改善し、7-9月期時点では2002年以来の高水準にまで上昇している([第9図])。ドル高による輸出の減速は統計上成長押し下げ要因であるが、交易条件の好転は総合的な企業の利鞘拡大につながり得ることから企業収益の底支え要因となる可能性はある。これが引いては賃金上昇を通じた米経済拡大を支えるという波及は十分にありそうな仮定である。

[第9図]
20150928図9



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<経済指標コメント> 日本の8月消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年比-0.1%

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[日本]

全国消費者物価指数(8月、生鮮食品を除く総合)は前月比横ばい(前年比-0.1%)

8月の全国消費者物価指数は前月比+0.2%(前年比+0.2%)、生鮮食品を除く総合指数(コア指数)は前月比横ばい(前年比-0.1%)。コア指数は2013年4月以来の前年比マイナスの伸びに転化した。前月比の指数下落に寄与した費目は電気代(前月比-1.7%)、衣料(同-1.4%)など。一方、生鮮食品(同+4.2%)は上昇が続いている。前年比の伸び率では、エネルギー(前年比-10.5%)が引続き低下して総合指数の前年比伸び率を-0.99%押し下げている。総じて2%のインフレ目標への到達は数字上更に困難になっているといえる。しかしながら、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コアコア指数)は前月比+0.3%(前年比+0.8%)と上昇ペースを加速させた。前年比+0.8%の伸び率は消費税影響を除けば1998年以来の高水準である。コアコア指数の前年比の伸びを押し上げているのは主にサービス(前年比寄与度+0.27%)価格である。エネルギー価格下落がコア指数の伸びを押し下げているものの、コアコア指数の前年比上昇率はじりじり高まっており、これは失業率低下による経済全体の需給の引き締まりがインフレ圧力を徐々に高めている可能性を示唆している。

20150926図1

[米国]

中古住宅販売戸数(8月)は年率5310千戸(前月比-4.8%)、在庫期間は5.2ヶ月

8月の中古住宅販売戸数は年率5310千戸(前月比-4.8%)と4ヶ月ぶりの減少。しかし販売戸数は6ヶ月連続で年率5000千戸を上回りかつ3ヶ月移動平均は同5457千戸と高水準にある。販売在庫は2290千戸(同+1.3%)と増加し、結果在庫期間は5.2ヶ月(前月4.9ヶ月)に長期化、わずかに需給は緩和している。中央販売価格は前年比+4.7%(前月は同+4.6%)と、4月のピーク同+8.5%から上昇ペースが減速している。公表元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「在庫不足が販売に影響した」「ここ2ヶ月の価格上昇ペースの減速は朗報」と述べている。8月に一時的な減少となったものの、引き続き中古住宅販売は好調で、需給はまだタイトといえる。NARの述べる通り、在庫が増加して需給が緩和すれば、住宅価格上昇率は適度なものにとどまり、更に需要を喚起する好循環になるだろう。

20150926図2

新築住宅販売戸数(8月)は年率552千戸(前月比+5.7%)、在庫期間は4.7ヶ月

8月の新築住宅販売戸数は年率552千戸(前月比+5.7%)の大幅増、2008年2月以来実に7年半ぶりの高水準となった。一方販売在庫は216千戸(同+0.5%)と微増にとどまり、結果在庫期間は4.7ヶ月と昨年2月以来の水準に短期化した。中古住宅市場同様に新築住宅市場も好調な販売で需給はタイトである。一方で住宅着工戸数の伸びが今年に入り総じて加速していることで、今後は徐々に需給も緩和してくると見る。

20150926図3

耐久財受注(8月)は前月比-2.0%、除く運輸関連同横ばい、非国防資本財受注(除く航空機関連)は同-0.2%、同出荷同-0.2%

8月の耐久財受注は前月比-2.0%と前月比減少、除く運輸関連では同横ばい。企業設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(航空機関連を除く)は同-0.2%と3ヶ月ぶりの減少。GDP統計上の機器投資の基礎統計となる同出荷は同-0.2%とこれも3ヶ月ぶりの減少。しかし、8月までの7-9月期の同出荷は前期比+3.6%と、前期の同+0.3%から伸びが加速しており、4-6月期に前期比年率+0.3%の伸びに留まったGDP統計上の機器投資が7-9月期には再加速する可能性が高いことを示唆している。もっとも同出荷の前年比の伸び率は8月時点で-2.5%と昨年1月以来のマイナスの伸びに転化している。また同受注も前年比-5.2%とこちらは7ヶ月連続で前年比マイナスの伸びが続いている。中期的には企業設備投資の拡大ペースはいまだ緩やかなものにとどまっている。8月の世界同時株安、海外経済減速懸念やドル高の影響で企業景況感が短期的に悪化していることと合わせ、今後も企業は設備投資拡大には慎重なスタンスを継続する可能性が高い。一方で、フィラデルフィア連銀製造業景況感調査における設備投資DI(6ヶ月後)は9月に27.2ポイント(前月比+8.8ポイント)の急回復を見せるなど、指標は玉虫色である。

20150926図4

実質GDP成長率(4-6月期、確報値)は前期比年率+3.9%

4-6月期の実質GDP成長率(確報値)は前期比年率+3.9%と、改定値の同+3.7%から更に上方改訂された。需要項目別内訳は個人消費同+3.6%(改訂値同+3.1%)、設備投資同+4.1%(同+3.2%)、住宅投資同+9.3%(同+7.8%)、政府支出同+2.6%(同+2.6%)、企業在庫寄与度同0.02%(同+0.22%)、純輸出寄与度同+0.18%(同+0.23%)。個人消費・設備投資・住宅投資の内需項目がいずれも上方改訂され、これらを合わせた国内最終民間需要は同+3.9%の強い伸び(前期は同+2.0%)となった。個人消費の加速を牽引役に、1-3月のソフトパッチから米経済は大きく回復し、6月までは極めて好調に拡大していたとの結果になった。年後半も2-3%の巡航速度での成長を筆者個人は引き続き予想する。

20150926図5

<経済レポート> 年内利上げ予想は維持:9月FOMC利上げ見送り

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FOMCは9月16、17日の定例会合で利上げ開始決定を見送った。しかし、FOMCの使命である雇用とインフレに関する経済指標は、利上げ開始の条件を既にほぼ満たしていると引き続き見る。ついては、年内利上げ開始との見方は維持し、FOMCが年内1回利上げののち1会合おきに利上げを実施して2016年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%とすることを新たな筆者の個人予想とする。一方で、いわゆる世界同時株安を契機とする金融市場の更なる悪化や資源価格の更なる低下は下方リスク要因である。企業と消費者の景況感に関する指標は先行指標として注目しておきたい。

FOMCは9月利上げを見送った

FRB連邦公開市場委員会(FOMC)は16、17日の定例会合で、9月利上げ開始を見送る決定をした。筆者は、筆者個人の9月利上げ開始予想に既に後倒しリスクを相当に見込んでいたが、このリスクが示現したことになる。当レポートでは、FOMCの声明文、FOMC委員経済予測、イエレンFRB議長記者会見の内容を分析して利上げ見送りの背景を探るとともに、今後のFRB金融政策個人予想を改めて設定することとする。

まず、17日のFOMC声明文の内容を見る。声明文では、経済活動につき「緩やかに拡大」と基調判断を据え置いた。労働市場についても「労働資源の余剰は低減した」と前回7月声明文と同様に労働市場の改善を評価している。しかしながら、「市場ベースのインフレ予想は低下した」とし、更に「最近のグローバルな経済と金融動向は経済活動を幾分抑制するかもしれず、短期的にインフレに更なる下方圧力をもたらす可能性が高い」と8月のいわゆる世界同時株安の動向に関する1文を挿入した。更に、経済見通しのリスクは「ほぼバランス」としながらも「(委員会は)海外の動向を監視している」と海外経済にも新たに言及した。その上で「委員会は0‐0.25%のFF金利目標レンジがなお適切である」と従前通りの文言で金利据え置きを表明した。なお、決定に当たってタカ派と見られるリッチモンド連銀ラッカー総裁が0.25%の利上げを主張して反対票を投じている。

次に、声明文と同時に公表された9月時点の四半期FOMC委員経済予測を見る([第1表])。FOMC委員による実体経済に関する予測は、前回の6月時点の予測に比べ大幅な変化はない。2015年の成長率予測は足元4-6月期の大幅な成長加速(改訂値で前期比年率+3.7%)を反映していくぶん上方シフト、失業率は足元の失業率低下を反映してわずかに下方シフトした。PCEインフレ率予測については、2015年末で総合PCE前年同期比+1.4%、2016年末で同+1.7%。また2%の総合PCEインフレ目標は2018年において達成されるとの予測になっている(数値はいずれも中央値)。

[第1表]
20150921表1

FOMC委員の利上げ予測は下方シフト:見送り理由は「労働市場」と「インフレ率」

FOMC委員の金融政策に関する予測についてはやや下方シフトがみられる。2015年中の利上げ開始を適切とする委員は13人で前回の15人から減少、2016年、2017年を適切とする委員がそれぞれ3人、1人で、前回の2人、0人から増加している([第1図])。また適正なFF金利誘導目標(レンジ中心値)予測の中央値も、2015年末が0.375%(6月予測0.625%)、2016年末が1.375%(同1.625%)とそれぞれ0.25%下方シフトしている([第2図])。これらの予測中央値通りにFF金利誘導目標が引き上げられるためには、年内に0.25%の利上げが1回実施され、来年に更に4回の0.25%利上げが実施される(FOMC定例会合1回おきの利上げ実施)ことが必要となる計算になる。総じて、6月時点で年内2回利上げと来年の4回利上げが予測中央値だったのに対し、9月予測では年内利上げ回数が1回に減少したことが変化要因である。ここから見る限りは委員の予測に本質的な変化はなく、その多数は年内利上げ開始とその後1回おきの利上げ実施という予測を維持していることになる。

次に、声明文と経済予測公表直後に実施されたイエレンFRB議長の定例記者会見内容から、利上げ見送りの経緯と今後の見通しをさらに近づいて見ることにする。イエレン議長は記者会見の冒頭発言で「海外の見通しは最近更に不確実になったと見え、中国や他の新興経済の成長への高まった懸念が金融市場の著しい変動につながった」「これらの動向は米国経済活動をいくぶん制約するかもしれず、短期的インフレに更に下方圧力をもたらす可能性が高い」「米国と海外の経済と金融の重大な相互関係に鑑みれば、海外動向の注視が必要」とのべた。いわゆる世界同時株安の影響につき、声明文・議長発言ともに、米経済全体に与える悪影響については「かもしれない(may)」程度と見ているのに対し、インフレへの下方圧力については「可能性が高い(likely to)」として、インフレ率への悪影響をより強く見ていることが示唆されている。

また同じく冒頭発言でイエレン議長は「会合で我々は(今回会合での利上げの)可能性を議論した」「しかし、海外の高まった不確実性とインフレ予想の軟化に照らし、委員会は、労働市場の更なる改善と中期的にインフレが2%に上昇する確信を支持する更なる証跡を待つのが適切と判断した」と述べた。ここまでの発言は、あくまで今後の利上げ開始の判断は「労働市場」と「インフレ率」であることを示唆している。

[第1図]
20150921図1

[第2図]
20150921図2

イエレン議長は最近の金融経済動向の米国への影響の可能性にも一部言及

しかし、記者会見における質疑応答ではFOMCの使命たる雇用とインフレ以外の論点に関する議長の発言もいくつかみられる。まず、いわゆる世界同時株安が米経済に与える影響を見極めるのに何ヶ月もかかるのではとの趣旨の質問に議長は「ほとんどの参加者は年内利上げを適切と見ている」「金融市場の動向が米国に与える影響を見極めるのにあと少しの時間(a little bit more time)がほしい」と答え、あくまで委員予測は年内利上げを適切と見ているとの委員会としての見方を繰り返した。また別の場面では「労働市場ののしりろが長期間存在していることは少なくとも私個人の従前からの見方であった」と述べ、同時株安にかかわらず労働市場ののりしろの存在が利上げ見送りの重要な要因であることをも示唆した。また金融動向が「インフレに関する確信を著しく阻害するものとは解釈していない」とも述べ、同時株安の影響が一時的なものであるとの個人的な見方を示唆した。

一方で、中国や新興国経済減速の米国経済に対する悪影響についてイエレン議長は、かかるリスクをある程度見ていることを示唆する発言をしている。「我々は、グローバルな経済と金融の動向が、我々の2つの目標(雇用とインフレ)見通しのリスクに如何に影響を与えるかを自らに問うている」「グローバルの動向については、、、特に中国と新興国に焦点を当てている」「リバランスに伴う中国経済成長減速はほとんどのアナリスト同様に我々も既に予想しており、、、これはサプライズではない」「多くのアナリストが予想する以上の重大な減速が起きるかどうかが問題」、また商品価格下落についてはカナダのように資源国かつ米国の貿易相手国に対する悪影響の可能性を見ているとの趣旨の発言をしている。

なお、(IMFなど)外部からの利上げけん制については「データを分析して見通しへの影響を決定するのは委員会の仕事」と述べ、外部圧力による決定への影響を否定した。また為替についても利上げが結果的にドル高をもたらすことで米経済に影響を与えることはあるが、為替自体がFOMCの操作目標ではないことも明言した。

「労働市場」「インフレ率」はほぼ利上げの条件を満たしていると引き続き見る

以上を総合してみると、9月定例会合での利上げ見送りの表面上の判断は、あくまで労働市場の余剰の解消が十分でないとの判断、及びいわゆる世界同時株安を契機とするインフレ率上昇に対する確信のいくらかの低下を判断材料として行われたことになる。一方で声明文やイエレン議長の発言テキストには明示されてはいないものの、中国や新興国経済の減速が米経済ファンダメンタルズに与える影響も今後の判断材料となり得るといえるだろう。

8月のいわゆる世界同時株安以降の経済・金融動向が米経済に与える影響を示唆するデータはまだ多くないが、そのいくつかを見てみる。まずインフレ率については、声明文にも言及されている通り米国債とインフレ連動米国債のスプレッド(TIPSスプレッド)に見られる市場の予想インフレ率がここ2ヶ月間の間にいくぶん低下している([第3図])。しかし、この変動はイエレン議長自身も指摘する通り国債市場の需給要因などにも左右されやすくまた最近の変動はさほど著しいものとは言えない。一方でミシガン大学消費者センチメント調査における予想インフレ率(12ヶ月後)は9月速報時点で2.9%(前月比+0.1%ポイント)と、6ヶ月ぶりの高水準にむしろ上昇している。8月の消費者物価指数(CPI)は前月比-0.1%低下したものの、食品及びエネルギーを除くコア指数は同+0.1%と上昇を継続しかつ前年比伸び率は+1.8%と相対的に高水準で安定している。原油価格が現状の1バレル=40ドル台を下回らない限り、総合CPIの伸び率も来年初には+1.8%レベルに上昇すると筆者個人は見ている(9月20日付<経済指標コメント>参照)。その意味ではインフレ率は利上げの条件をほぼ満たしているといえる。

労働市場ののりしろについては、イエレン議長自身も述べているように議長個人の学説と政策が相対的にFOMC政策により強く反映されているように見える。9月13日付当レポートで見たように、イエレン議長が重視する労働市場ののりしろを表す指標は、金融危機以前の水準には及ばすとも確実に改善を続けている。金融政策が実体経済に影響を与えるまでの時間のラグを勘案すれば、既に労働市場についても利上げ開始の条件が整っていると考えてよいだろう。労働市場に代表される需給ギャップとインフレ率を変数とするテイラー・ルールによる適正FF推計も、年内利上げ開始を支持している(9月2日付当レポート参照)。

[第3図]
20150921図3

年内利上げ個人予想を維持する:リスク要因は海外経済と景況感

海外経済(中国と新興国経済)の米国経済への影響の予想は相対的には困難である。米国経済といくつかの海外経済(中国・カナダ・日本)との過去25年間の相関を見たのが[第4図]である。これによれば米経済成長率は、たとえば隣国かつ北米自由貿易協定(NAFTA)圏内にあるカナダ経済との相関が高い。一方で日本経済との相関は低く、中国経済との相関は数字の上ではほとんど見られない。米国が対中国でネット輸入国であることからは、中国単体の経済変動が米国に直接影響を与える度合いは限定的と考えられる。一方でイエレン議長も指摘するとおり、中国経済の想定以上の減速が新興国からの資金流出を通じて世界的な金融市場混乱をもたらす場合や、中国からの資源需要減退による商品価格の更なる低下による資源国経済悪化を通じて米国経済に影響を与えるリスクは十分にある。これらの影響を本来的に見極めようとすれば、今後数ヶ月分の経済指標の点検が必要なり、年内利上げ予想に対する後倒しリスク要因となる可能性がある(今後のFOMC日程は[第2表]参照)。

更に、一般に経済の先行指標とされる企業景況感指数や消費者センチメント指数を見ると、世界同時株安後に若干の悪化傾向がみられるのも事実である。NY連銀製造業景況感指数とフィラデルフィア連銀製造業景況感指数は8月もしくは9月に大幅低下しており、9月時点ではいずれもが景気判断の分かれ目を下回るマイナス領域に転化している([第5図])。フィラデルフィア連銀指数は現況指数の低下(9月時点で-6.0ポイント)に拘わらず将来指数(同44.0ポイント)は高水準かつ前月比上昇しており、世界同時株安が企業景況感に波及しているとの十分な証跡とは言えない。しかし海外経済懸念から企業景況感が悪化し設備投資意欲が更に軟化するリスクは引き続き見ておくべきだろう。消費者センチメントは依然高水準にあるものの、やや一服感もみられる。ミシガン大学消費者戦センチメント指数(9月速報)は85.7ポイント(前月比-6.7ポイント)と大幅かつ3ヶ月連続低下している([第6図])。筆者個人は、8月小売売上高が依然堅調な拡大を示していることなどから個人消費は年後半も+2%台後半~+3%の強い拡大を継続すると予想しているが、ここにも下方リスクの兆しが垣間見えることには留意しておきたい。

以上より、FOMCが年内に1回の利上げを実施しその後1会合おきに利上げを実施して2016年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%とする、との見方を筆者個人の新たな予想とする。FOMCが重視する雇用とインフレについては利上げ開始の要件をほぼ満たしているとの考え方から、9月の利上げ見送りにかかわらず年内にFOMCが利上げ開始を決定するとの見方は維持する。またFOMC委員予測の傾向から、来年の利上げペースは1会合おきに0.25%との従前の見方も維持する。これらは、9月13日付当レポートにおける「後倒しリスク」シナリオの見方と整合的である。一方で、短期的には金融市場の更なる混乱や資源価格の更なる下落、及び企業と消費者の景況感を表す指標の悪化継続を、この新たな予想に対するリスク要因と見ておきたい。

[第4図]
20150921図4

[第2表]
20150921表2

[第5図]
20150921図5

[第6図]
20150921図6


<経済指標コメント> 米8月小売売上高は前月比+0.2%

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[米国]

企業在庫(7月)は前月比+0.1%、企業売上高は同+0.1%、在庫売上高比率は1.36倍

7月の企業在庫は前月比+0.1%と前月の同+0.7%から大幅に伸びが減速、3ヶ月前対比でも+1.1%と6ヶ月ぶりに伸びを減速させた。企業売上高も前月比+0.1%と前月の同+0.3%から減速した。在庫売上高比率は1.36倍と前月比横ばいながら引き続き高水準にある。総じて企業在庫循環は「意図せざる在庫増」局面から「在庫調整」局面に入ってきており、高い在庫売上高比率からは今後在庫調整が成長押し下げ要因となると見る。GDP統計上は企業在庫が4-6月期まで2四半期連続で成長を+0.22%押し上げたが、来年にかけてマイナス寄与に転換する可能性が高い。一方、企業売上高のトレンドを示す前年比の伸び率は-2.7%と1月以来連続でマイナスの伸び。うち小売業だけは同+1.9%と同じ期間にもプラスの伸びを続けており国内個人消費の堅調さを示唆している。しかし製造業は同-4.9%、卸売業は同-4.2%とマイナスの伸びがつづいており、企業部門や外需の低減を示唆していると考えられる。

20150920図1

小売売上高(8月)は前月比+0.2%、自動車関連を除く売上高は同+0.1%

8月の小売売上高は前月比+0.2%と前月の同+0.7%の強い伸びから減速、自動車関連を除く売上高も同+0.1%と前月の同+0.6%から減速した。しかし内訳をみるとガソリン価格低下を反映したガソリンスタンド売上と、比較的振れのある建設資材店売上の減少が減速の主因であり、見かけほど悪い数字ではない。業種別売上は、自動車及び同部品ディーラー同+0.7%、家電店同+0.2%、薬局同+0.8%、衣服店同+0.4%、スポーツ用品店同+0.3%等主要業種の売上が増加している。一方で、ガソリンスタンド同-1.8%、建設資材店同-1.8%等が売上を減少させている。GDP統計上の個人消費の基礎統計となる「自動車・ガソリン・建設資材・レストランを除く」ベースの売上は同+0.5%と前月の同+0.6%に続き堅調である。総じて個人消費は、好調な自動車販売を牽引力に堅調な拡大を続けているといえる。四半期ベースでは、7-9 月期の小売売上高は8月までで前期比+1.2%と、前期の同+1.7%に近い堅調な増加ペースを維持している。7-9月期の実質個人消費前期比年率+3%レベルの成長シナリオを支持する結果である。海外景気の悪化観測から企業部門が緩やかな拡大から一時減速の兆しもみられるのに対し、国内個人消費は引き続き米経済の牽引役となると見る。

20150920図2

鉱工業生産指数(8月)は前月比-0.4%、設備稼働率は77.6%

8月の鉱工業生産指数は前月比-0.4%と前月の同+0.9%から反落。内訳は製造業同-0.5%、鉱業同-0.6%、公益事業同+0.6%。原油価格下落一服で6、7月にプラスに転じた鉱業生産指数が原油価格再下落でマイナスに転じた。製造業は前月の同+0.9%の強い伸びの反動で同-0.5%に反落。鉱工業生産指数全体の前年比の伸び率は+0.9%と依然低迷している。設備稼働率は77.6%(前月比-0.4%ポイント)に低下。自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)も年率11.47百万台と前月の同13.06百万台から大幅減少した。総じて鉱工業生産は企業部門の海外経済の悪化と景況感悪化を反映して低迷が続いている。9月以降は8月の世界同時株安の影響や在庫調整で更に生産が減速するリスクを見ておきたい。

20150920図3

消費者物価指数(8月)は前月比-0.1%(前年比+0.2%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+1.8%)

米8月消費者物価指数(CPI)は前月比-0.1%と7ヶ月ぶりの前月比低下。主因はエネルギー価格が同-2.0%と4月以来の低下に転じたこと。前年比の伸び率も同+0.2%と引き続き低位にある。しかし、8月の原油価格再下落が現状の1バレル=40ドル台にとどまっていれば、来年初には総合CPIの前年比伸び率は+1.8%レベルにまで上昇すると見る。食品及びエネルギーを除くコア指数は前月比+0.1%と上昇を維持、前年比でも+1.8%と相対的に安定推移しており、原油価格下落のコアへの波及は限定的である。

20150920図4

住宅着工戸数(8月)は年率1126千戸(前月比-3.0%)、着工許可件数は同1170千件(同+3.5%)

8月の住宅着工戸数は年率1126千戸(前月比-3.0%)と7月に続き2ヶ月連続の減少となった。しかしこれは6月の同+13.0%の急増からの反動といえ、着工ペースの減速を示唆するものとは言えないだろう。着工戸数の6ヶ月移動平均は1119千戸と以前上昇基調を保っている。四半期ベースでは、7-9月期の着工戸数は8月までで前期比-1.2%と、前期の同+18.4%の急増の反動でマイナス圏にある。しかし7-9月期GDP統計上は4-6月期の未計上分が上乗せになることで、住宅投資はプラス成長を継続すると見たい。住宅着工許可件数は同1170千件(同+3.5%)と前月の-15.5%減から持ち直しており、今後の住宅着工戸数が堅調に増加することを示唆している。

20150920図5

<経済レポート> ハーフ&ハーフ:FRB金融政策予想

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米経済ファンダメンタルズはFRBによる9月利上げ開始を十分に正当化する条件が整っている。一方で、世界同時株安にかかる状況証拠は必ずしも9月利上げを支持していない。最近のFOMC委員発言や金融市場の不確実性は、むしろ9月の利上げを留保する材料が多い。9月FOMC定例会合における利上げ開始との個人予想は維持するものの、今やその可能性はほぼ50%に近いところにまで低下していると見ざるを得ない。ただし9月利上げ見送りの場合でも、NYダウが15000ドルのテクニカルな節目を大きく下回らないことを条件に、年内には利上げが開始されると見ておきたい。

労働市場は利上げ条件を満たすまでに改善した

9月16、17日にFRB公開市場委員会(FOMC)定例会合が開催される。これに先立ち去る4日に公表された8月雇用統計は、総じて雇用市場の堅調な拡大と労働市場ののりしろ(slack)の縮小を示唆するものだった。失業率は5.1%と、6月時点のFOMC委員経済予測における長期均衡失業率の中心傾向(5.0~5.2%)の範囲内にまで低下した。つまり米国経済はFOMC委員の予測における完全雇用を既に実現していることになる。米議会予算局(CBO)は、8月の「財政・経済見通し」において、2015年の米国の自然失業率の推計値を引き下げて5.1%とした(従前の推計値は5.4%)が、現在の失業率実績はCBOの下方改訂後の自然失業率にも整合する水準である。いずれの指標に照らしても、米国経済はほぼ完全雇用状態にあり、労働市場ののりしろは失業率の観点からは解消したことになる。

イエレンFRB議長の所謂、失業率に表れない労働市場の余剰を表す指標も確実に好転している。イエレン議長は7月10日の講演と7月15日の半期議会宛金融政策報告で、労働市場の循環的な余剰の存在を表す指標として労働参加率、求職意欲喪失者、経済的理由によるパートタイマー、自発的離職者、時間当たり賃金を挙げている。労働参加率は8月に62.6%と3ヶ月連続で同じレベルを維持しており、低下から横ばいに転じる傾向がみられる([第1図])。求職意欲喪失者数の3ヶ月移動平均は660.5千人と4ヶ月ぶりに上昇に転じたものの、3ヶ月連続で700千人を下回る低水準にある。経済的理由によるパートタイマー数の3ヶ月移動平均は6438千人で、3ヶ月連続で低下している。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の伸び率は前年比+1.9%と、2月の同+1.7%をボトムに再び上昇に転ずる兆しがみられる([第2図])。加えて、失業率が自然失業率を下回ったことは今後の賃金上昇ペースが加速する可能性を示唆している。もっとも、自発的離職者数の3ヶ月移動平均はまだ低水準にある。9日に公表された7月求人労働異動調査(JOLTS)でも、自発的離職者数は前月比減少している。この指標のみはまだ労働市場の流動性が完全に回復していないことを示唆するものといえる。

直近の7月29日FOMC声明文は「労働市場のさらにいくらかの改善」がみられることを利上げ開始の条件として挙げていた。直近の労働市場指標はこの条件を満たすものといってよい。求職意欲喪失者数、経済的理由によるパートタイマーいずれもその水準は金融危機以前のレベルにまでは低下していない。しかし、FOMC委員による適正FF金利予測は、利上げ開始からFF金利の長期的均衡水準までの引上げに1年以上かかることを示唆している。その意味では、利上げは労働市場の余剰の縮小が金融危機以前の水準には戻らずとも、その傾向がはっきりした時点で開始するのが妥当といえるだろう。これらは、9月16、17日のFOMC定例会合で利上げ開始が決定されるとの当レポートの見方を支持するものである。

[第1図]
20150913図1

[第2図]
20150913図2

信用市場に緩和の兆しがみられる

インフレについても同様に、2%のFOMC目標への回帰につき「合理的な確信」が持てる状況に近い。資源価格下落に拘わらずコアインフレ率は安定的に推移している。FRBがインフレ指標として参照する個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の伸び率は7月時点で前年比+0.3%の低位にあるが、食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年比+1.2%と相対的に安定推移しており、エネルギー価格のほかの品目価格への影響は限定的である。世界同時株安を契機に原油価格が現在40ドル台にまで再び下落しているが、これ以上の下落がなければ総合PCEも来年初にかけて同+1.7%レベルにまで上昇すると筆者個人は見ている。

成長率も4-6月期(改訂値)に前期比年率+3.7%の強い伸びを示した。前年同期比では実質GDP成長率は5四半期連続で+2%を超える成長を続けており、かつ8四半期連続で潜在成長率(CBO推計ではこの間+1.6%)を上回っている。4-6月期時点の需給義ギャップは約-3.1%と計算され、この水準はまだ大きいもののその縮小傾向は明らかである。現状の需給ギャップとインフレ率をテイラー・ルール公式に代入すると、来年の1-3月期に0.7~1.0%のFF金利水準が正当化される計算になる(9月2日付当レポート参照)。

FOMCの利上げの条件が整いつつあるもう一つの証跡は、信用条件の緩和である。まず消費者信用残高は、2015年4-6月期に前年比+6.6%と、名目GDP成長率(4-6月期で前年比+3.7%)を大幅に上回るペースで増加している。うち主に残高が増加しているのは自動車ローン、学生ローン等のノンリボルビングローンである。特に自動車ローンは、ここ約2年間で同8~9%と他の消費者ローンに比べても急激な増加を示している([第3図])。自動車ローンの信用条件がかなり緩和されてローン借入が容易になっていると考えられることに加え、低金利とガソリン価格下落が自動車販売を押し上げている。新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は8月時点で年率17.7百万台と4ヶ月連続で17百万台台を維持している。年率17百万台は米国の自動車販売台数の一つの上値の目途とされており、自動車ローン及び自動車販売市場は飽和状態に近いところにまで拡大しつつあるともいえるだろう。また、金融危機以降現在まで残高減少が続く住宅ローンの信用基準も緩和に向かう兆しが見られる。7月のFRBシニアローンオフィサーサーベイによれば、GSE適格住宅ローンの信用基準を過去3ヶ月で緩和した銀行は全体の7%、やや下位のQM-Jumboローンは15%の銀行が信用基準を緩和している。この信用基準緩和については7月FOMC議事録でも言及されている。こうした信用市場の緩和方向の開始も、早期の利上げ開始を正当化する材料となるはずである。

[第3図]
20150913図3

世界同時株安のファンダメンタルズへの直接影響は限定的

次に、8月に始まった世界同時株安のFRB金融政策への影響を考える。NYダウは11日現在で16433ドル、同時株安直前の8月17日終値17545ドルから約-6.3%の下落で、水準的には2014年10月頃のレベルに相当する。株価水準の米国実体経済への影響のみの観点からはこの株価水準は利上げ開始のハードルとはならない。株価や住宅等の資産効果が比較的大きいとされる米国個人消費においても、実質個人消費の株価に対する弾性値は0.02と低く、-6%の株価下落は個人消費-0.12%の低下、-10%の株価下落でも個人消費への影響は-0.2%に留まる。テクニカルには、筆者個人はNYダウが15000ドルを大きく下回らない限り株価は再び上昇基調に回帰するとみており、その限りでは世界同時株安は一時的事象と見做せるだろう(8月27日付当レポート参照)。

本来金融政策は株価の一時的変動に左右されるものではなく、より長期的なファンダメンタルズに基づくべきものとすれば、今回の株安が一時的なものであれば、早期の利上げ開始のハードルとはならないであろう。イエレン議長は「年内の利上げ開始が適切となる可能性が高い」との見通しを直近の7月15日議会証言でも繰り返している。短期的な市場変動を理由に長期的な金融政策方針を変更することは中銀金融政策への信頼維持のためには回避することが望ましい。FOMCとしては当初のファンダメンタルズに基づく金融政策の行程見通しを可能な限り維持するであろう。

世界同時株安の発端となった中国株の急落もそれ自体は今後の世界経済にとっての本質的な事象ではなく、その背景にある中国経済ファンダメンタルズ悪化に対する市場の懸念の表面化に過ぎない。中国経済ファンダメンタルズ悪化の世界経済への影響の波及経路が本来的には金融政策を決定付ける要素である。ここで、米国と中国の経済の連関を見てみよう。米国の中国に対する財・サービス収支赤字は継続的に拡大している([第4図])。2014年の米国の対中輸出は1672億ドルで、輸出相手国としてはNAFTA加盟国であるカナダ、メキシコ次ぐ第3位、総輸出額2兆3432億ドルの約7.1%程度である。米国の対中輸入は4823億ドルで、輸入相手国としては最大で(カナダ、メキシコがこれに次ぐ)、総輸入額2兆8515億ドルの16.9%を占める。対中財・サービス赤字は3151億ドルで、これは米国の財・サービス赤字5083億ドルの6割以上に相当する。米国の主な対中国輸出品目は大豆、航空機、自動車など特定の品目に限られている。一方主な中国からの輸入品目はコンピューター及び関連部品、通信機器、携帯電話など主にハイテク関連の完成品である。同時株安によりドル高と資源価格の下落が進んだ場合、中国に対して輸入超過である米国経済にとっては輸入物価の低下によりネットでは有利な状況となる。米国単体で考えた場合、中国経済の減速も利上げ開始の大きなハードルとはならないといえるだろう。

[第4図]
20150913図4

同時株安の評価はまだ不確実、FOMC内勢力図もハト派が優勢

しかしながら一方で、以下の通り金融市場を通じた世界同時株安の経済への影響や、FOMC委員特に投票権を持つメンバーの発言等の状況証拠には無視しえないものがある。中国株下落と世界同時株安そのものが実体経済に与える影響は限定的と考えられる一方、同時株安発生から1ヶ月後の9月定例FOMCではその経済見通しへの影響が十分にされていない可能性は高い。NY連銀ダドリ―総裁は、8月26日の講演で記者の質問に答えて「金融政策正常化は我々が追加的な情報を得られる時期に会合においてより必須なものとなり得る」と述べ、個人的には9月利上げの可能性が低下したとの見方を示した。一方、フィッシャーFRB副議長は8月28日のメディアインタヴューで「(株価下落の影響について)判断するのは時期尚早」と述べ、また29日のカンザスシティ連銀主催ジャクソンホール経済シンポジウム講演では「金融政策は大きな時間ラグをもって実体経済に影響を与える」と述べた。これは市場には年内利上げの可能性を残したものと受け取られた。しかし、ジャクソンホールにおけるインタヴュー等で複数のFOMC委員が9月利上げ開始に慎重ともとれる発言をしている(ミネアポリス連銀コチャラコタ総裁、クリーブランド連銀メスター総裁、アトランタ連銀ロックハート総裁、セントルイス連銀ブラード総裁など、うちロックハート総裁は投票メンバー)。FOMCで現在投票権をもつメンバーのうち明らかにタカ派と見られるのはリッチモンド連銀ラッカー総裁のみである(ラッカー総裁は4日の講演で「米経済データは早期の利上げを正当化するもの」「最近の金融市場の動向は金融政策に影響を与えない」と述べている)。利上げ中立派ながら利上げ支持を以前に表明していたロックハート総裁が同時株安以後やや慎重なスタンスに転じた(「9月の利上げについてはなお議論の余地がある」)ことは、FOMC内勢力図がよりハト派優勢に回帰したことを示唆するものである。

更に、5日のG20財務相・中央銀行総裁会合の共同声明において名指しはさけつつも「経済見通しの改善に合わせ、いくらかの先進経済においては金融政策引締めの可能性がより高いことを我々は認識した」と米国の利上げの可能性に言及されたことの背景には、米国利上げをけん制する動きがあったと報道されている。イエレン議長のこれまでの発言等からは、FRBの金融政策は米国経済についての雇用最大化と物価安定を目標とするものであって海外経済への影響は一義的なゴールではないとのスタンスが憶測できる。その意味では米国利上げに対する海外からの牽制にFOMCが直接に影響される可能性は低いと見たい。しかしながら現実的に世界同時株安の影響の波及状況が16~17日のFOMC会合時点で十分に評価できない可能性はあり、結果的にその影響見極めまで利上げ開始見送りとのハト派委員の判断は十分にあり得るといえるだろう。利上げを正当化する立場からは利上げ開始の1回の遅れは致命的ではないが、金融市場の不確実性への配慮から利上げを見送る立場からは1回の利上げの前倒しが致命的になるリスクが高いことも、利上げ見送りを支持する環境を作っている。

以上より、9月FOMC定例会合における利上げ開始決定との個人予想は維持するものの、この予想は後倒しリスクを相当に孕んでいると考えざるを得ない。利上げ決定の可能性はほぼ50%に近いところにまで低下していると今や見る。ただし9月利上げ見送りの場合でも、NYダウが15000ドルのテクニカルな節目を大きく下回らないことを条件に、年内には利上げが開始されると見ておきたい。

<経済指標コメント> 日本の8月景気ウォッチャー現状判断DIは49.3

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[日本]

実質GDP成長率(4-6月期、2次速報値)は前期比年率-1.2%

4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率-1.2%と、1次速報値の同-1.6%から小幅上方改訂。需要項目別内訳は、家計消費-2.8%(1次速報値同-3.1%)、住宅投資同+8.0%(同+8.0%)、企業設備同-3.6%(同-0.3%)、公的需要同+3.0%(同+3.1%)、企業在庫寄与度同+0.9%(同+0.3%)、純輸出寄与度同-1.5%(同-1.6%)。1次速報値との比較では、企業設備の下方改訂と企業在庫の上方改訂が目立つ。企業設備の下方改訂は資本財出荷の4-6月期の大幅減少(前期比-0.9%)からは違和感なく、鉱工業在庫指数も4-6月期に前期比+1.6%の増加を示していることから、企業在庫の上方改訂も違和感ないところ。結果日本の実質GDP成長率は、4-6月期に3四半期ぶりのマイナス成長となった。マイナス成長の主因は家計消費と企業設備の減少、そして輸出の大幅減少である(財・サービス輸出は前期比年率-16.6%、同輸入は同-10.1%)。筆者個人は7-9月期にプラス成長への回復を見込んでいるが、月次経済指標には成長の大幅反発を示唆するものは今のところ見られない。7月実質家計消費は前月比+0.6%の伸びに留まり、前期比でマイナス圏にある。7月鉱工業生産も前月比-0.6%のマイナス、先行指標となる機械受注も7月に同-3.6%と2ヶ月連続の減少。7-9月期以降年率+1%台への成長回復を見込んでも、2015年暦年の成長率は前年比+1%レベル、2015年度は前年度比1%台半ばの成長となる計算であるが、ここにも下方リスクが出てきている。

20150912図1

景気ウォッチャー調査(8月):現状判断DIは49.3(前月比-2.3ポイント)、先行き判断DIは48.2(同-3.7ポイント)

8月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは49.3(前月比-2.3ポイント)と大き目の低下で、横ばいを示す50を7ヶ月ぶりに下回った。家計動向関連・企業動向関連・雇用関連のすべてのDIは前月比で低下。判断低下の理由として「中国経済減速」「株価低下」「輸出減少」等があげられている。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは48.2(同-3.7ポイント)と3ヶ月連続の低下で横ばいを示す50を8ヶ月ぶりに下回った。家計動向関連・企業動向関連・雇用関連のすべてのDIが前月比で低下。判断悪化理由としては「同時株安によるマインド低下」「食料品値上がりによる売れ行き悪化」「円高による売上への影響」等があげられている。中国景気懸念による同時株安は街角景気に既に相応の悪影響を与えているといえる。4-6月期にマイナス成長に転化した日本経済は7-9月期にプラス成長への回復を見込んでいるが、本指標はその反発が予想比弱いものになるリスクを示唆している。

20150912図2

機械受注(7月、船舶・電力を除く民需)は前月比-3.6%(前年比+2.8%)

7月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-3.6%と2ヶ月連続の減少、前年比でも+2.8%と前月の同+16.6%から大幅に伸び率が低下した。設備投資の先行指標となる本指標の悪化は、4-6月期にマイナス成長に終わった企業設備投資の7-9月期の回復が予想よりも弱くなるリスクを示唆している。公表元の内閣府は「機械受注は、持ち直しの動きに足踏みがみられる」と、前月までの「持ち直している」から基調判断を下方修正している。

20150912図3

<経済指標コメント> 米8月非農業部門雇用者数は前月比+173千人

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[日本]

鉱工業生産指数(7月)は前月比-0.6%

7月の鉱工業生産指数は前月比-0.6%と前月の同+1.1%から反落。出荷指数も同-0.3%と前月の同+0.6%から反落した。在庫指数は同-0.6%、在庫率指数は同-1.1%といずれも低下した。総じて鉱工業生産指数は相対的に低位にあり、その動向は経済産業省の基調判断通り「一進一退」である。一方、生産の減少で在庫調整はやや進行し、在庫循環図上も今後は在庫調整が継続すると見る。なお、企業設備投資の先行指標となる資本財出荷は前月比+2.3%と前月の同-2.3%から増加している。4-6月期に前期比年率-0.3%のマイナス成長に転化したGDP統計上の企業設備は反動でやや増加に転じるペースである。

20150906図1

住宅着工戸数(7月)年率914千戸(前月比-11.5%)

7月の住宅着工戸数は年率914千戸(前月比-11.5%)と前月の同+13.4%増の反動で大幅減少。前月に大幅増加(同+22.1%)した分譲住宅の着工減少(同-31.7%)が主因。着工戸数全体の3ヶ月移動平均は年率953千戸(前月比横ばい)と引続き高水準にあり、住宅建設は総じて増加基調を保っているといえる。

20150906図2

[米国]

ISM製造業指数(8月)は51.1%(前月比-1.6%ポイント)、非製造業指数は59.0%(同-1.3%ポイント)

8月のISM製造業指数は51.1%(前月比-1.6%ポイント)と2ヶ月連続の低下、判断の分かれ目を示す50%に接近し、2013年5月以来の低水準となった。総合DIを構成する5つのDIの内訳は新規受注51.7%(同-4.8)、生産53.6%(同-2.4)、雇用51.2%(同-1.5)、入荷遅延50.7%(同+1.8)、在庫48.5%(同-1.0)。先行性のある新規受注と一致指標である生産・雇用DIの大幅な低下が目立つ。一方、非製造業指数は59.0%(同-1.3%ポイント)とこれも大き目の低下を示すもその水準は依然高い。総合DIを構成する4つのDIの内訳は、事業活動63.9%(同-1.0)、新規受注63.4%(同-0.4)、雇用56.0(同-3.6)、入荷遅延52.5%(同-0.5)。製造業景況感の低迷と非製造業景況感の高水準維持の差は、製造業が海外景気減速による外需減速懸念を反映しているのに対し、非製造業は内需の堅調さを反映しているものと見たい。なお、ISM製造業指数は51.1%の低位にあるが、ISM推計ではこれは年率+2.5%の経済成長に相当する。筆者個人の推計でも、年次ベースの推計(1992~2014年の年次相関)では現在の水準は前年比+2.2%の成長に相当するが、四半期ベースの推計(1995年~2014年の80四半期相関)では前年比+1.1%程度の低成長に相当する計算になる。世界同時株安の影響が本格的に表れる今後の企業景況感指数の動向は引き続き留意が必要である。

20150906図3

新車販売台数(8月、乗用車及び軽トラック)は年率17.7百万台(前月比+0.2%)

8月の新車販売台数は年率17.7百万台(前月比+0.2%)と2ヶ月連続増加かつ4ヶ月連続で17百万台台を維持する好調な結果となった。同17.7百万台の売上は実に2005年7月以来の高水準。雇用と賃金の上昇、低金利、ガソリン価格低下が好調な自動車販売の背景といえる。しかし、年率17百万台台は米国の自動車販売の一つの上値目途とされており、現在の販売は飽和状態に近づいている可能性もある。また、消費者信用残高のうちでは自動車ローンが学生ローンとともに急激な増加をしめしており、自動車ローンの信用条件緩和が販売を押し上げている可能性が高い。自動車販売増加ペースがさらに今後拡大する場合にはかかる背景にも留意が必要となってくるだろう。

20150906図4

雇用統計(8月):非農業部門雇用者数は前月比+173千人、失業率は5.1%

8月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+173千人と5ヶ月ぶりの低い伸びに留まり、筆者個人の予想も下回った。しかしながら6、7月分がそれぞれ同+14千人、+30千人上方改訂されており、ネットでは8月分は同+200千人強の増加に相当するといえる。3ヶ月移動平均も同+221.0千人と低下方向にあるものの、3ヶ月連続で200千人台を維持した。業種別内訳では、製造業が同-17千人と雇用を減少させた(前月は同+12千人)のが目立つ(ただし自動車産業は同+5.7千人の増加)ほか、小売業が同+11.2千人と増加ペースが減速(前月は同+32.4千人)したのが全体の雇用増加ペースを押し下げている。また原油価格の影響を受ける鉱業は同-10千人と雇用減少が続いている。一方、専門ビジネスサービス(同+33千人)、教育・医療サービス(同+62千人)などの内需関連業種は堅調に雇用を拡大させている。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+1.9%と3ヶ月連続横ばいの伸びで、伸び率は相対的に低位であるものの今後の賃金上昇率加速が期待できる位置にある。家計調査による失業率は5.1% (前月比-0.2%ポイント)と2008年4月以来の低水準に低下した。FOMC委員の6月経済予測における長期均衡失業率(中心傾向5.0~5.2%)にまで失業率は低下しており、つまりほぼ完全雇用の状況を示唆する水準である。内訳をみると、前月比で就業者数の増加と失業者の減少を伴うよい失業率低下である。労働参加率は62.6%と引続き低位にあるものの、2ヶ月連続横ばいにとどまり、低下ペースは確実に減速している。その他の労働市場の余剰を示す指標では、経済的理由によるパートタイマー数、縁辺労働者数の3ヶ月移動平均はいずれも低下を示している。総じて、海外経済減速の影響を受ける製造業において雇用の軟化がみられるものの、内需中心に雇用市場は堅調な拡大を継続しているといえる。また労働市場の余剰も失業率で見る限りではほぼ解消済、その他の指標も確実に好転している。FRBによる利上げ開始の条件は、少なくとも雇用市場指標からはほぼ整ったといえるだろう。筆者は9月FOMC定例会合における利上げ開始という個人予想を維持(リスクは後倒し方向)しているが、8月雇用統計はほぼこれを支持する結果である。もっとも世界同時株安に始まる金融市場の不確実性はこの予想に後倒しリスクを引続きもたらしている。

20150906図5

<経済レポート> ふところの深さ:米需給ギャップと労働市場余剰

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米議会予算局は8月の「財政・経済見通し」で、米国のここ数年の潜在成長率推計値を上方改訂した。結果米国経済のマイナスのGDPギャップはこれまでの想定よりも相応に大きかったことになる。しかし、これは経済拡大ペースの予想以上の加速にともなう循環的な部分の調整にすぎず、数字上もFRBの金融政策予想に影響を与えるものではないと見たい。ただし、FRB金融政策についての当レポートの予想は、先月下旬からの世界株価同時安を背景とする後倒しリスクを引き続き孕んでいると言わざるを得ない。

米議会予算局は潜在GDP推計値を引き上げた

米国の実質GDPは4-6月期に前期比年率+3.7%(改訂値)と拡大ペースが急加速した。結果、米経済は前年比で見た場合、5四半期連続で+2%を超える成長率を維持したことになる。一方、米議会予算局(CBO)の推計する2014~2015年の米国の潜在成長率は同約+1.5~1.6%となっている(米議会予算局「財政・経済見通しアップデート 2015年~2025年」2015年8月)。米経済は8四半期連続で潜在成長率を上回る成長を維持していることになる([第1図])。これは、この間米経済のマイナスの需給ギャップが着実に縮小していることを意味する。マイナスの需給ギャップの縮小は、米国経済の需給タイト化とデフレ圧力後退という形で、FRBの金融政策正常化を正当化する材料の一つともなる。

ところで、CBOは2015年8月の「財政・経済見通しアップデート」(以下8月「見通し」)において、米国の推計潜在GDPを今年1月の推計値に比べて上方改訂している。CBO8月推計の2014年の潜在GDP(2009年連鎖価格)は16.615兆ドルと、1月時点の推計値16.523兆ドルに比べて約+0.6%上方改訂されている([第2図])。潜在GDPがこれまでの想定よりも大きかったということは、米国経済のマイナス需給ギャップがこれまでの想定よりも大きいことを意味する。

マイナスの需給ギャップが想定よりも大きいことは、今後のFRBの金融政策やインフレの見通しに影響を与える可能性がある。以下では、新たなCBO推計による米国の需給ギャップ拡大の背景と、これが主に金融政策見通しに与える影響を見ていく。

[第1図]
20150903図1

[第2図]
20150903図2

推計潜在GDP引上げ要因は潜在労働参加率と自然失業率

CBOは8月「見通し」において、最近数四半期分の潜在GDP推計値上方改訂の理由として、①潜在労働力人口推計の上方改訂と、②自然失業率の下方改訂、を挙げている。まず潜在労働力人口の上方改訂の背景として「短期的な潜在労働参加率推計を上方改訂」し「2015年前半において従前の推計よりも0.5%引上げ」た。潜在労働参加率推計引上げの理由としてCBOは「個人が労働市場に参入または再参入しようとする意思が従前よりもより強くなった証跡」と「現在非労働力人口となっている人にとってのより良い雇用見通し」を挙げている。つまりCBOは、現在労働力人口の外部にいる人(過去4週間の間求職活動を行っていない者)が再び労働市場に回帰する見通しが従前より高まりまたそうした人たちの雇用への期待が1月時点より高まっているとしている。8月「見通し」が推計する2014年の潜在労働参加率は64.0%で、同年の労働参加率実績62.8%はこれよりも1.2%低い([第3図])。

またCBOは8月「見通し」で、米国の自然失業率をも下方改訂している。例えば2015年の自然失業率は8月「見通し」で5.1%と推計されている。1月推計では、これが5.4%とされており、失業率実績(7月時点で5.3%)は自然失業率を下回り米国労働市場が既に完全雇用状態にあることになっていた。しかし8月「見通し」の推計では労働市場には余剰(slack)が存在するとの結果になっている([第4図])。自然失業率推計値引き下げの背景としてCBOは「長期失業者の求職性向についての最近の証跡」としており、この証跡は「長期失業が失業者の求職意欲の恒久的喪失やスキル悪化を招くことが従前の推計より少ないこと」を表しているとしている。長期失業者が求職をあきらめずに労働力人口にとどまっていること、すなわち長期失業者が4週毎かそれ以上の頻度で求職活動をし続けていることは、むしろ今後これらの失業者が雇用される可能性が高いことを表しているといっているのである。

当レポートでは労働参加率の低下は主に構造要因によるもので、今後上昇の可能性は低いと見ている(2014年1月13日付当レポート参照)。また、長期失業率も主に雇用ミスマッチ等の構造要因によるもので、自然失業率が以前よりも上昇している可能性もあると見てきた(2014年9月14日付当レポート参照)。例えば、筆者個人は、HPフィルターによるトレンド抽出というシンプルな方法から、2007年から2015年までの約3%の労働参加率の低下はほぼトレンド要因(≒構造要因)により説明できると考えている([第5図])。また、uv曲線の上方シフトは、雇用ミスマッチ等による構造的な失業が金融危機前に比べて増加している可能性を示唆するものである([第6図])。

[第3図]
20150903図3

[第4図]
20150903図4

[第5図]
20150903図5

労働市場余剰拡大方向の改訂は調整の範囲

CBOによる今回の潜在労働参加率上方改訂と自然失業率下方改訂は、これまでの当レポートの見方から乖離する方向にも見える。

しかしながら、以下の理由から、CBOの8月「見通し」における潜在GDP上方改訂や労働市場の余剰を表す指標の改訂は、当レポートのこれまでの見方と不整合となるものではないと見たい。すなわち、CBOによる改訂は主に2010年以降の直近の数年におけるものであり、この間の経済成長が予想以上に強かったというトレンドの上方修正を反映したものに過ぎないと考えられることである。ここ数四半期の間の労働市場のタイト化と成長加速は、中期的には企業をしてより多くの雇用拡大意欲を持たせるに合理的な環境であり、求職者をして今後の雇用への期待拡大から求職活動を継続または拡大させるインセンティブとなっていることは合理的に憶測できる。その結果潜在労働参加率が一時的に上方シフトし、自然失業率が一時的に下方シフトすることは十分に考えられる。

一方で、CBOは潜在労働参加率の上方改訂にも拘わらず、今後の米国の潜在労働参加率については依然低下トレンドを予想している。これは、CBOが労働参加率低下の要因の相応の部分を構造要因によるものと考えていることとも整合する(CBOは、2007年から2015年にかけての労働参加率の約3%の低下のうち、約1%が景気悪化という循環要因、約0.5%が人口動態等の構造要因、約0.5%が長期トレンド要因-若年層の労働参加率低下、長期的な労働市場からの退出、オバマケアといった制度要因など‐としている)。

[第6図]
20150903図6

テイラー・ルールはまだ当レポート金融政策予想を支持している

CBOによる潜在GDPの上方改訂が、これまでの労働市場についての当レポートの見方と大きく乖離するものではないとすれば、マイナスの需給ギャップ縮小に伴うデフレ圧力後退、時間当たり賃金上昇率の今後の加速、そしてFRBの金融政策についての当レポートの見方を基本的に変更する必要はないだろう。ここで、8月「見通し」のCBO推計の潜在GDPをもとに、米国のマイナスの需給ギャップを試算し、これがFRB金融政策予想に与える影響を点検してみよう。

CBOの8月「見通し」及び米商務省のGDP統計(8月の年次改訂反映後)をもとにした筆者の計算によれば、米国のマイナスの需給ギャップは2014年末時点で-3.4%、2015年4-6月月期時点で-3.1%と計算される。CBOの1月見通し及び8月年次改訂前のGDP統計を基にした2014年末時点のGDPギャップは-2.0%と計算されていたから、双方の改訂でマイナスの需給ギャップは-1.4近く拡大したことになる([第7図])。この拡大は一見かなり大きいものに見える。

しかし、2015年4-6月期の成長率急加速によりこの差分も金融政策に与える影響は限定的と見たい。[第8図]は8月改訂後のGDPギャップをテイラー・ルール公式に代入して、適正なFF金利の推計を改めて行ったものである。結果、コアPCEデフレーターをインフレ指標として用いた場合、2015年4-6月期の適正FF金利は0.3%、2016年1-3月期のそれは0.7%との結果になった。これは潜在成長率及びGDP統計改訂前の推計値(それぞれ0.9%、1.4%、6月21日付当レポート参照)よりもいくぶん下方にシフトしている。しかしながら、8月改訂後の推計でも2016年10-12月期の適正FF金利は1.6%と推計される。これは9月に初回の0.25%利上げが実施されその後1会合おきに0.25%の利上げ(2016年末FF金利誘導目標レンジ1.5~1.75%)という筆者個人の予想を依然正当化する結果である(実質GDPとコアPCEデフレーターの今後の推移は筆者個人の予想)。

[第7図]
20150903図7

[第8図]
20150903図8

金融政策予想維持するもリスクは下方

以上より、GDP統計年次改訂による過去の実質GDPの下方改訂及びCBOによる潜在成長率の上方改訂は、米国経済のマイナスの需給ギャップがこれまでの想定よりも大きかったことを示すものの、これらだけをもって金融政策に大きな影響を与えるものではないと見ておきたい。これらの推計値改訂はむしろ、米国経済の懐の深さを示すものといえよう。

もっともこの9月利上げ開始予想には引き続き後倒しリスクがある(8月27日付当レポート参照)。8月の急落後一旦持ち直した世界の株価は今週に入り再び下落している。NYダウが15000ドルを本格的に割り込んだ場合にはテクニカルには更なる下落の可能性が高まる。また、中国の株価下落がBRICS等の新興国金融市場に波及して、先進国をも巻き込んだ更なる世界株価下落をもたらす場合、次に中国やアジアのファンダメンタルズ悪化の顕在化で資源価格の下落を通じて米国ファンダメンタルズやインフレ率への下方リスクが示現する場合、そして中国・アジアの景気減速が同地域への輸出の更なる減速を招いて、実体経済を通じた成長押し下げとなる場合には、金融政策シナリオそのものの見直しも考慮する必要が出てこよう。