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<経済レポート> 少しづつブレーキ:米経済定点観測

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米経済成長とFRB金融政策に関する筆者個人予想を見直し、成長率予想及びFF金利引上げペース予想を下方に修正する。米経済を取り巻く環境に著変は見られないものの、直近のFOMC結果や各種経済指標といった外形的証跡からは、少なくとも数字上の予想は修正せざるを得ない。いまや2016年通年成長は前年比+1.7%に留まり、FF金利引上げは年内合計+0.50%にとどまると見ざるを得ない。もっとも、インフレの高進とファンダメンタルズは、徐々の金融正常化を支持し、減速しつつも堅調な成長を示唆するものであり、新たな予想に対するリスクはむしろ上方である。

米成長率個人予想を下方修正:2016年成長は+1.7%に

昨年2015年の米実質GDP成長率は前年比+2.4%と、前年2014年と同じ伸び率を維持した。2016年について筆者個人は同+2.0%成長を個人予想していた。しかしながら、以下に述べるように、直近の経済指標は少なくとも計算上はこれを下方修正せざるを得ない環境にある。ついては、今般筆者個人の2016年通年成長率予想を同+1.7%に下方修正することとする。うち1-3月期は前期比年率+1.0%と、前期の同+1.4%にから更に成長減速の見込みである([第1図])。下方修正の主な要因は、個人消費の予想以上の減速と、企業部門の設備投資のマイナス成長の継続である。以下では、需要項目別に1-3月期中心に米成長率予想の背景を見ていく。

GDP統計上の実質個人消費は、1-3月期に前期比年率+1.7%と、前期の同+2.4%から大幅に減速すると見る。これは従前の予想であった同+2%台の伸びから大幅下方修正となる。修正のきっかけは、28日に公表された2月個人消費統計における1月分の下方改訂である。2月の実質個人消費は前月比+0.2%と堅調な拡大を見せたものの、前月1月の実質個人消費が同横ばいに大幅下方改訂された(速報値は同+0.4%)。これにより、いまや3月に同+0.2%の成長を見込んでも1-3月期の伸びは前期比年率+1.7%に留まる計算になる。個人消費統計の内訳をみると、内容にかなりの歪みと思われる点がある。昨年12月と今年の1月は天候変動もあり大きな改訂幅だった。2月分も、自動車販売減速にかかわらず耐久消費財が前月比+0.3%増、小売売上の堅調さにかかわらず非耐久消費財が同-0.3%の減少と、基礎統計とやや不整合もみられ、次回の個人消費統計でも同様の大幅改訂の可能性はある。しかし数字上は、個人消費が予想比下振れしていることは事実である。

さらに、個人消費を取り巻く環境も徐々に従前の上昇基調から下方に転換している。確かに実質可処分所得は2月時点で前年比+2.7%と、依然2%台後半の力強い成長を実現できるレベルにある。しかしながら、PCEインフレ率が上昇に転じたことで、実質可処分所得の伸び率は一時の3%台からは大幅低下しており、かつ実質個人消費の伸び率からの上方乖離はほぼ解消している([第2図])。これは消費に対する可処分所得の余裕がほぼなくなったことを意味する。4-6月期には今期の反動もあり一旦個人消費の伸びは加速するものの、雇用の伸び率の循環的な減速とインフレ率の上昇で、年後半には再び減速に回帰すると見る([第3図])。

[第1図]
20160330図1

[第2図]
20160330図2

[第3図]
20160330図3

収益悪化で企業部門は拡大見込みにくい

企業部門は更に減速が明瞭である。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる非国防資本財出荷(航空機を除く)は2月までで前期比年率-7.2%と2四半期連続のマイナスの伸びとなっている。10-12月期に4四半期ぶりのマイナス成長に転化したGDP統計上の機器投資は、1-3月期にも2四半期連続のマイナス成長になるリスクを孕んでいる。3月の出荷の反転増を見込んでも、1-3月期の同需要項目は前期比横ばい程度になると見込まれる。

建物等の構造物投資も、1月までで前期比年率-1.2%のマイナス成長で、同需要項目は1-3月期にも3四半期連続のマイナス成長になるペースである。同じく2-3月の反転を見込んで1-3月期では同横ばいと見ておく。一方、企業在庫は1月にむしろ増加を見せており、GDP統計上は成長にわずかにプラスに寄与する可能性が高い。しかし、在庫増に比して企業売上高は減少を続けており、在庫売上高比率は1月時点で1.4倍と実に2009年5月以来約7年ぶりの高水準に上昇している。これは、4-6月期以降再び在庫調整が成長抑制要因になる可能性が高いことを示唆している。

企業部門の不振は、主に海外景気の減速と原油価格低下、そしてドル高が要因と考えられる。更にこうした背景から、10-12月期の企業収益(在庫評価・資本減耗調整後)は前年比-11.5%と2四半期連続の減益、内訳も国内金融機関・同非金融機関・海外の3つの部門いずれもが減益となっている([第5図])。設備投資の原資となるネット・キャッシュフローも同-10.0%と2四半期連続の減少となった。これらの企業部門指標は、今後の企業設備投資の急回復が見込みにくいことを示唆するとともに、製造業中心にISM指数等の企業景況感が低下を続けていることとも整合している。

[第4図]
20160330図4

[第5図]
20160330図5

インフレ率は堅調に上昇と見る

住宅投資は唯一底堅い拡大を続けている。住宅市場は需給がひっ迫しており、この需要にも牽引されて1-3月期の住宅着工戸数は2月までで前期比+1.2%とプラスを維持している。GDP統計上の住宅投資は1-3月期に8四半期連続のプラス成長、前期比年率で+10%レベルを実現すると見る([第6図])。その後も住宅販売市場の継続的なタイト化を背景に、住宅投資は毎四半期同+10%弱の成長を継続すると見る。しかしながら、住宅投資のGDP成長率への寄与度は前期比年率約+0.3%と限定的であり、経済成長を加速する力は期待しにくい。

純輸出は2016年一杯成長にマイナスの寄与を続けると見る。海外経済減速の影響で1月の財輸出は前年比-3.8%と、金融危機後の2009年以来の落ち込み幅となっている([第7図])。この傾向は年内一杯続くとみられ、GDP統計上の財・サービス輸出の減少が成長抑制要因になると見る。ただし財輸入もその伸びを徐々に減速させており、結果貿易赤字幅は緩やかな拡大ペースにとどまるだろう。

一方で、こうして成長が緩やかに減速する中でも、インフレ率はほぼ予想通り堅調に上昇している。2月の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比-0.1%(前年比+1.0%)と原油価格の再下落を反映して一時的に低下したが、3月以降は原油価格持ち直しにより再び上昇基調に回帰する見込みだ。食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターは2月時点で前年比+1.7%と、FRBが目標とする2%にじりじり接近している。筆者試算によれば、2016年末に総合PCEインフレ率は前年比+1.5%、コアPCEインフレ率は同+1.9%に上昇する計算になる([第8図])。これは1月時点のFOMC委員による経済予測の数値とほぼ整合するものである。

[第6図]
20160330図6

[第7図]
20160330図7

[第8図]
20160330図8

金融政策:FF金利引上げ幅は+0.50%に

以上を総合してFRB金融政策予想を再点検する。1月時点で筆者は年内4回合計+1.0%のFF金利誘導目標レンジ引上げを個人予想していた。テイラー・ルールによれば、インフレ見通しと成長見通しは上記修正後もなお、今年末時点で1.40-1.80%のFF金利を正当化する計算になる。また、今後の景気減速の可能性に鑑みれば、成長が減速しつつも堅調かつインフレ率が上昇基調を保っている間に利上げを行うことが、将来景気悪化が顕著になった際の利下げの余地を確保する意味でも有効と個人的には考える。

しかしながら現実には。3月のFRB連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合で利上げが見送られたことから、この予想はもはや修正せざるを得ない。今後の金融政策行程について現実的には、3月FOMC後の委員経済予測の中央値である年内合計+0.50%(時期はおそらく6月、12月の2回)と見るのが自然であろう。ついては、筆者個人のFRB金融政策予想を年内2回合計+0.50%の利上げ、年末のFF金利誘導目標レンジを0.75-1.00%に下方修正する。

上記の新たな個人予想は、従前の見方に比べやや大幅に成長率、金融政策行程を下方修正しており、当レポートで提示してきた予想の中ではやや保守的なものといえる。予想に対するリスクは従ってむしろ上方と見たい。2,3月の個人消費統計(及び改訂)によっては、数字上の個人消費見通しの再上ブレはあり得る。金融政策についても、年央6月時点で減速が一段落すれば、その後9月、12月の利上げすなわち年内+0.75%の利上げを実施することはシナリオとしては考えうる。客観的に見ても、インフレ率が1~2%の間にありかつ成長率見通しが2%前後にある環境で、依然ほぼゼロ金利に近い金融政策を維持することはシミュレーション上正当化しにくい。


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<経済指標コメント> 日本の2月コア消費者物価指数は前年比横ばい

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[日本]

全国消費者物価指数(2月、生鮮食品を除く総合)は前月比横ばい(前年比横ばい)

2月の全国消費者物価指数(CPI)、生鮮食品を除く総合指数(いわゆるコア指数)は前月比横ばい。生鮮野菜(同+6.5%)が上昇した一方、原油価格再下落でガソリン(同-4.1%)などが下落した。前年比では横ばいと、コアインフレ率は昨年5月以来前年比で±0.1%の範囲でほぼゼロ近辺で横ばい推移している。食品(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコア指数)は前月比+0.2%と、3ヶ月ぶりの前月比上昇。衣料(同+1.9%)、教育娯楽(同+0.9%)などがコアコア指数の前月比上昇に寄与した。前年比のコアコア指数の伸び率は+0.8%と3ヶ月ぶりに伸びが加速した。総じて、原油価格再下落でコアCPIインフレ率はゼロ近辺にとどまっているが、コアコアCPIインフレ率は相対的に堅調に推移している。3月以降は原油価格の底入れでコアインフレ率も持ち直しが期待できる。コアコアインフレ率の上昇は失業率低下など経済ののりしろの縮小を反映しているといえるが、1月以降の原油価格再下落のCPIへの影響は思いのほか大きかったといえる。いまや2016年末のコアインフレ率は前年比+0.2%、コアコアインフレ率は前年比+0.5%に留まる計算になる。これは年初に見込んでいた1%台への上昇から大幅な下振れである。

20160326図1

[米国]

中古住宅販売戸数(2月)は年率5080千戸(前月比-7.1%)、在庫期間は4.4ヶ月

2月の中古住宅販売戸数は年率5080千戸(前月比-7.1%)と3ヶ月ぶりかつ大幅な減少。ここ数ヶ月間中古住宅販売戸数は振れの大きい動きが続いているが、トレンドを表す3ヶ月移動平均は同5333千戸(同+1.4%)と3ヶ月連続で上昇しており、総じて中古住宅販売は堅調に増加中といってよさそうだ。もっとも移動平均を見ると昨年9月のピーク以降はここを超えておらず、中期的には販売増加ペースは減速しているといえる。販売在庫は1880千戸(同+3.3%)と2ヶ月連続増加したものの、それ以前の4ヶ月連続減少により在庫水準は昨年9月をピークにまだ減少傾向にある。結果在庫期間は4.4ヶ月と極めてタイトな需給にある。中央販売価格は前年比+4.4%と前月の同+8.1%から上昇ペースが大幅に低下、2014年8月以来の低い伸び率となった。公表元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「1月の東海岸の寒波が契約数を抑制したことや株価下落が2月の販売契約成立数に影響を与えたかもしれない」「しかし、より継続的に重大な問題は供給不足と住宅価格上昇」としている。総じて中古住宅販売市場は供給不足による需給タイト化が販売増加の抑制要因となっているといえる。

20160326図2

新築住宅販売戸数(2月)は年率512千戸(前月比+2.0%)、在庫期間は5.6ヶ月

月新築住宅販売戸数は年率512千戸(前月比+2.0%)と前月の同-7.0%から持ち直した。トレンドを表す6ヶ月移動平均は同500.3千戸(同+0.2%)と3ヶ月連続で上昇を維持している。もっとも昨年5月時点の6ヶ月移動ピーク511.2千戸にはまだ届かず。中古住宅販売の中期的減速とともに、昨年後半から経済全体の成長ペースが鈍化しているとの見方に整合している。販売在庫は240千戸(同+1.7%)と7ヶ月連続で増加し、在庫期間は5.6ヶ月とほぼ適正な需給関係にある。新築住宅市場は、短期的には住宅着工の増加にともなう供給増で堅調な拡大を続けているといえる。

20160326図3

耐久財受注(2月)は前月比-2.8%、除く運輸関連同-1.0%、非国防資本財受注(航空機を除く)は同-1.8%、同出荷同-1.1%

2月の耐久財受注は前月比-2.8%、除く運輸関連同-1.0%といずれも大幅減。設備投資の先行指標となる非国防耐久財受注(刻空気を除く)は同-1.8%と過去4ヶ月で3回目の前月比減少。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同-1.1%と2ヶ月連続の減少。結果2月までの1-3月期同出荷は前期比-7.2%と2四半期連続のマイナスの伸びとなっている。GDP統計上の機器投資は10-12月期に前期比年率-7.2%と4四半期ぶりのマイナス成長に転化したが、1-3月期も2四半期連続となるマイナス成長になるリスクが出てきた。海外景気減速と原油価格低下で企業設備投資は減速が続いているといえる。

20160326図4

実質GDP成長率(10-12月期、確報値)は前期比年率+1.4%

10-12月期の実質GDP成長率(確報値)は前期比年率+1.4%と、改訂値の同+1.0%から上方改訂された。需要項目別内訳は、個人消費同+2.4%(改訂値同+2.0%)、設備投資同-2.1%(同-1.9%)、住宅投資同+10.1%(同+8.0%)、政府支出同+0.1%(同-0.1%)、企業在庫寄与度同-0.22%(同-0.14%)、純輸出寄与度同-0.14%(同-0.25%)。個人消費と輸出の上方改訂が全体の上方改訂の主な要因である。結果、2015年通年の成長率は前年比+2.4%と前年と同じ伸びとなった。総じて改訂に伴う米経済見通しへの影響は限定的である。個人消費が成長全体を底支えしているものの、輸出減少、設備投資減少、そして在庫調整がこれを抑制している構図は不変。2016年通年の成長率個人予想は前年比+2.0%レベルを維持する。もっとも1-3月期については資本財出荷の減少や小売売上の減速が予想に対する下方リスクとなっていることは否めない。

20160326図5

<経済レポート> 利上げ見送り、ペース予測低下:3月FOMC

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FOMCは3月定例会合でFF金利誘導目標引上げを見送った。また、FOMC委員による適正なFF金利予測は年内利上げ幅が+0.50%に留まるとの内容に下方シフトした。「グローバルな経済・金融動向」が利上げ見送り判断に与えた影響経路は明示的ではなく、FOMC委員の多数を占めるリベラル派スタンスの反映と見たい。ファンダメンタルズ等の条件は依然年内+1%利上げを正当化しているものの、筆者個人の利上げ予想も状況証拠に合わせて下方修正せざるを得ない。

「グローバルな経済・金融動向のリスク」に鑑み利上げ見送り

FRBは15-16日の連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合で、FF金利誘導目標レンジの引上げを見送り現状の0.25-0.50%に据え置く決定をした([第1図])。本レポートではこの決定の内容を精査するとともに、今後の金融政策見通しを改めて提示することとする。まず、声明文の内容を見てみよう。15日のFOMC声明文冒頭の基調判断のパラグラフでは、経済成長につき「ここ数ヶ月のグローバルな経済と金融の動向にもかかわらず経済活動は適度なペースで拡大した」として、前回1月声明文の「年末に経済活動は減速した」から判断を引き上げている。労働市場については、「強い雇用増加」を含む最近の労働市場指標が「労働市場の追加的な強まり」を示唆しているとした。インフレについては「インフレは最近加速した」としている。

一方、金融政策の判断に関するパラグラフでは、従前通り「委員会は金融政策スタンスの緩やかな調整に伴い、経済活動は適度なペースで拡大し労働市場指標は強まり続けると予想する」としつつも、「しかしながら、グローバルな経済と金融動向はリスクをもたらし続けている」として市場変動のもたらす下方リスクを明言した。さらに「委員会はインフレ動向を注意深く監視し続ける」との文言がつづいている。ただし、前回1月声明文で「委員会はグローバルな経済と金融動向を注意深く監視し、その労働市場とインフレならびに見通しへのリスクのバランスに与える影響を評価している」とされていたのに比べて監視の対象は限定的である。「経済見通しのリスクは概ねバランスしている」の文言は1月声明文で削除されたが、今回の声明文でも見通しへのリスクバランスは明示されなかった(なお、イエレンFRB議長は会合後の定例記者会見の質疑応答で、「声明文で見通しへのリスクバランスの言及は行わないこととした」と述べている)。これらを踏まえ、委員会はFF金利誘導目標を現状の0.25-0.50%に据えおくことを決定した。なお、カンサスシティ連銀のジョージ総裁は目標の0.50-0.75%への引上げを主張して決定に反対票を投じた。

声明文を見る限りでは、FOMCは米国経済・労働市場・インフレについて極めてポジティブな現状判断をしている。米成長率は昨年10-12月期に前期比年率+1.0%に減速したが、1月実質個人消費は前月比+0.4%の強い伸び、非農業部門雇用者数は2月時点の3ヶ月移動平均が前月比+228.3千人と堅調、失業率は1月以降5%を割り込み4.9%の低位にあるなど、その後のファンダメンタルズ指標が好調であることとこの判断は整合している。それにもかかわらずFOMCは「グローバルな経済・金融動向がもたらすリスク」の一言をもって利上げを見送っている。グローバルな経済・金融動向が利上げ判断に与える影響の波及経路は声明文からは定かではない。

[第1図]
20160320b図1

経済・インフレ予測は総じて不変、利上げペース予測のみ下方シフト

次に、FOM委員の経済予測の内容を見る。声明文と同時に公表された四半期毎のFOMC委員の経済予測の概要は[第1表]の通りである。ここからはいくつかの示唆が読み取れる。第1に、実質GDP成長率とインフレ率予測は昨年12月予測に比べて大幅な変更がないこと(ただし2016年の総合PCEインフレ率予測中央値は1.2%と昨年12月予測比-0.4%下方シフト)。第2に、失業率予測はさらに下方シフトし、2016年から2018年にかけて失業率は長期均衡失業率(3月予測では4.8%)を下回る水準で推移すると引き続き予測されていること。第3に、上記にもかかわらず適切なFF金利予測値は昨年12月よりも大幅下方シフトしたこと、の3点である。適切なFF金利予測値の中央値は今や2016年末時点で0.875%と、昨年12月時点予測中央値の1.375%から-0.50%下方シフトし、年内の利上げは+0.50%(1回の利上げが+0.25%の場合利上げ回数は年内2回)に留まるとの予測になっている。

適切なFF金利予測値の内訳を見ると、17人の委員のうち2016年末の適正値を0.875%と予測する委員の数は9人と、昨年12月時点の4人から+5人増加した。一方で、昨年12月時点の予測中央値だった1.375%を予測する委員は4人と、12月時点の7人から-3人減少している([第2図])。また、今後の適切なFF金利の推移についても全体に下方シフト、長期均衡FF金利も3.25%と昨年12月時点の3.5%から引き下げられている([第3図])。

声明文とFOM委員経済予測からは、経済見通しやインフレ見通しが大幅に変更されずまた失業率予測は好転しているにもかかわらず、FF金利誘導目標予測のみが下方シフトしたとの構図が見える。年初からの原油価格再下落を受けて2016年のPCEインフレ率予測のみが下方シフトしているものの、FOMCは原油価格下落を一時的なものと見ていることから、これが利上げ予測下方シフトの決定的要因とは考えにくい。ここでも「グローバルな経済・金融変動」と米国金融政策との連関性は明らかでない。

[第1表]
20160320b表1

[第2図]
20160320b図2

[第3図]
20160320b図3

経済・金融動向は信用市場を通じ米経済に影響?:マイナス金利は現在考慮せず

FOMC定例会合後に行われたイエレンFRB議長の定例記者会見においても「グローバルな経済・金融変動」と米国金融政策との連関性は明らかには述べられなかったといえる。冒頭発言でイエレン議長は「年初以来、グローバルな経済見通しに関する懸念が金融市場の変動と米国の金融条件のタイト化をもたらした」「海外経済成長は従前予想よりいくぶん減速した」としながらも「これらの予期していなかった動向は委員会のベースライン見通しに重大な変更をもたらしてはいない」と述べており、グローバル経済・金融変動が米国成長見通しには影響していないとしている。利上げ見送り判断の理由としては「グローバルな経済・金融動向の米経済への示唆」と「金融緩和を慎重に解除することで、海外からのリスクにかかわらず労働市場強化が継続することを検証する時間が与えられる」との2点を挙げている。記者会見の質疑応答では、ほとんどのFOMC委員が利上げペース予測を引下げた背景として「世界経済見通しのいくぶんの下方シフト」「信用スプレッド拡大に見られる信用条件の厳格化」を挙げた。「“グローバルな経済・金融変動が米経済にリスクをもたらしている“ことにつきより具体的に」との質問に対しては、「IMFによる世界経済見通し下方修正」「日本の第4四半期マイナス成長はサプライズ」「ユーロ圏は最近のデータからはやや弱い成長」を挙げたうえで再度「信用スプレッドの拡大が企業借入金利に反映され設備投資判断に影響しうること」が「FF金利引上げ行程を緩めることが適切と考える理由の一つ」と述べている。つまり、世界経済・金融の動向はまだ米経済見通しに影響を与えていないものの、信用条件の厳格化等が将来の見通し変更材料になる可能性を重視したとの見解である。

一方でイエレン議長は、他国の金融政策の緩和方向への変更が米金融政策に与える影響について「米国金融政策が海外金融政策から乖離できないような制約下にあるわけではない」と述べ、ECBや日銀の追加金融緩和にFRBの金融政策が影響されることを否定している。なお、日欧で採用されたマイナス金利政策についてイエレン議長は「(マイナス金利についてFOMCは)活発に議論や考慮をしていない」「他国の経験を見ているが、私は(マイナス金利政策が)一部ポジティブ、一部ネガティブなまちまちな効果をもたらしていると想像している」と述べ、マイナス金利政策導入には現状ではやや消極的な姿勢を示している。

これらの状況証拠からは、グローバル経済・金融動向がFOMCの利上げ見送り及び利上げペース下方修正に影響を与えた経路は依然定かではないと言わざるを得ない。信用スプレッドの拡大や信用条件の厳格化は確かに米国内でも見られる現象であり(3月10日付当レポート参照)、これが今後の米国経済見通しへの下方リスクでもあることは事実である。また年初からの株価下落も今後の米経済への下方リスクとなり得る。しかしながら、これらの要因を背景に経済成長見通しを変更することなく、金融政策見通しのみが変更されたことには一種の不整合感があると言わざるを得ない。

金融政策に関する個人予想も下方修正せざるを得ず

ファンダメンタルズや金融市場動向をも踏まえた筆者個人の米金融政策に関する見方は2月28日付当レポートから概ね不変である。労働市場がほぼ完全雇用にあること、コアPCEインフレ率が1月現在で+1.7%と2%に接近していること(2月CPIインフレ率は既に4ヶ月連続で2%を上回っている)、3月に原油価格が持ち直したことで総合PCEインフレ率も今後約1年で2%に向けて上昇すると見られること、さらにテイラー・ルールに基づく適正FF金利も年末に1.8%レベルを正当化する計算になること([第4図]、なお本試算は2016年末のPCEインフレ率を筆者個人予想の1.6%としたものだが、これを3月FOMC委員予測中央値の1.2%としても約1.2%のFF金利が正当化できる)、これらは依然として従前の筆者の個人予想を支持するものである。筆者自身は米経済個人予想に対して下方リスクを認めている。上記の信用条件厳格化、循環的なファンダメンタルズ指標の減速(個人消費、住宅着工など)、さらに海外経済減速が企業景況感の悪化や設備投資意欲の減退をもたらしていることはかなり明白になっている。それでもなお、主なファンダメンタルズ指標は3月利上げと年内4回の利上げを正当化しているといってよい。

にもかかわらずFOMCが利上げ見送りを決定し利上げペース予測を引き下げたことは、論理的判断というよりも、多数の委員の政治・経済に関する主義に基づく判断だったと憶測するのが妥当であろう。FOMC委員の勢力図は依然としてハト派が優勢である。特に理事会においては政治的にもリベラル派が多数である。イエレン議長、タルーロ理事、ブレイナード理事はいずれも民主党色の強いリベラル派である(パウエル理事は共和党色のある保守派、フィッシャー副議長は中立と見たい)。金融政策におけるハト派、政治的にリベラルがFOMC内で支配的であることの証左を今回の決定は提供しているといえるだろう。

以上を踏まえ、筆者個人のFOMC金融政策に関する個人予想を下方修正することを考慮する。今後のFOMC日程からは、FOMC委員の経済予測に基づけば利上げは年内+0.25%づつ2回、時期は6月、12月の定例会合と見るのが適切であろう([第2表])。もっとも筆者個人は、1年後の経済循環の変化に備えて、ファンダメンタルズが利上げを支持しているうちに利上げを実施しておき、後のために金融政策ののりしろを確保しておくことがより妥当な政策であると個人的には考えている。約1年のスパンで見たときに米経済にも下方リスクがあるからこそ現在の利上げ実施がむしろ有効になり得る。

[第4図]
20160320b図4

[第2表]
20160320b表2


<経済指標コメント> 米2月小売売上高は前月比-0.1%

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[日本]

機械受注(1月、船舶・電力を除く民需)は前月比+15.0%(前年比+8.4%)

1月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+15.0%の大幅増。内訳をみると製造業(同+41.2%)の急増が全体を押し上げており、なかんずく鉄鋼業(同+928.5%)の急増が目立つ。前年比でも+8.4%と大幅な増加となった。しかしながら、機械受注の3ヶ月移動平均(季節調整前)の前年比伸び率は+1.5%と2ヶ月連続低下かつ低位にあり、企業設備投資の先行指標としての機械受注の拡大ペースはまだ弱いと言わざるを得ない。

20160320図1

[米国]

企業在庫(1月)は前月比+0.1%、企業売上高は同-0.4%、在庫売上高比率は1.40倍

1月の企業在庫は前月比+0.1%と4ヶ月ぶりの前月比増加。しかしながら企業売上高は同-0.4%と4ヶ月連続の減少。結果在庫売上高比率は1.40倍と実に2001年10月以来の高水準に上昇した。在庫循環図は依然在庫調整局面にある。在庫売上高比率の上昇は米企業在庫調整がまだ十分でないことを示唆しており、今後も在庫調整が生産拡大の抑制要因になると見る。

20160320図2

小売売上高(2月)は前月比-0.1%、除く自動車関連同-0.1%

2月の小売売上高は前月比-0.1%と2ヶ月連続の減少。除く自動車関連も同-0.1%と2ヶ月連続の減少。さらに、前月分の小売売上高全体が同-0.4%に大幅下方改訂された(速報同+0.2%)。しかしながら、ガソリン価格低下を反映したガソリンスタンド売上高の減少(同-4.4%)が全体を押し下げる要因であり、自動車・ガソリン・レストランを除くコア売上高は同+0.2%とプラスの伸びを維持した。見かけは弱めの指標であるが、2月までの1-3月期コア売上高は前期比+0.5%と、前期の同+0.6%と遜色ない伸びとなっている。雇用増加と賃金上昇を背景に個人消費は堅調な拡大を継続していると見たい。

20160320図3

鉱工業生産指数(2月)は前月比-0.5%、設備稼働率は76.7%

米2月鉱工業生産指数は前月比-0.5%と前月の同+0.8%の大幅上昇から反転低下した。内訳は、製造業同+0.2%、鉱業同-1.4%、公益事業同-4.0%と、1月に寒波の影響で大幅上昇した公益事業が反動で低下したことが指数低下の要因で、製造業は2ヶ月連続の上昇となっている。設備稼働率は76.7%(前月比-0.4%ポイント)と低下したものの、生産指数同様公益事業の稼働率低下が主因。総じて見かけほどには悪くない指標といえる。もっとも企業の在庫調整が進んでいないことから、鉱工業生産は今後も緩やかな伸びに留まると見る。

20160320図4

消費者物価指数(2月)は前月比-0.2%(前年比+1.0%)、同コア指数は前月比+0.3%(前年比+2.3%)

2月の消費者物価指数(CPI)は前月比-0.2%と2ヶ月ぶりの低下、前年比でも+1.0%と5ヶ月ぶりに伸び率を低下させた。内訳をみると、ガソリン(前月比-13.0%)などのエネルギー価格低下が総合CPIを押し下げている。一方、食品及びエネルギーを除くコアCPIは前月比+0.3%と上昇を継続。衣服(同+1.6%)、医薬品(同+0.6%)などの価格が上昇した。コア指数の前年比の伸び率は+2.3%と実に2008年9月以来のレベルに上昇した。原油価格の一時的下落で総合CPIインフレ率は低位にあるものの、コアCPIインフレ率の上昇は確実に進行している。3月の原油価格持ち直しで総合CPIも今後上昇が見込まれる。ほぼ完全雇用にある労働市場に表象される経済ののりしろの縮小により、需給タイト化による米国のインフレ圧力は継続的に高まっているといえる。

20160320図5

住宅着工戸数(2月)は年率1178千戸(前月比+5.2%)、着工許可件数は同1167千戸(同-3.1%)


米2月住宅着工戸数は年率1178千戸(前月比+5.2%)と3ヶ月ぶりに増加。6ヶ月移動平均も同1151.8千戸(同+0.9%)と上昇に転じた。着工許可件数は同1167千戸(同-3.1%)と減少したが、6ヶ月移動平均は上向き。住宅市場の需給ひっ迫を背景に、住宅建設市場は堅調な拡大ペースを保っているといえる。2月までの1-3月期住宅着工戸数は前期比+1.2%と前期の同-2.0%からプラスの伸びに転じており、GDP統計上の住宅投資は1-3月期にもプラス成長が見込まれる。

20160320図6

<経済指標コメント> 日本の10-12月期実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率-1.1%

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[日本]

実質GDP成長率(10-12月期、2次速報値)は前期比年率-1.1%

10-12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率-1.1%。1次速報値の同-1.4%から上方改訂となった。しかし上方改訂の主因は企業在庫の上方改訂で、その他の需要項目は1次速報値とほぼ不変。需要項目別内訳は家計消費同-3.6%(1次速報値同-3.5%)、住宅投資同-4.7%(同-4.8%)、企業設備同+6.3%(同+5.7%)、公的需要同-0.5%(同-0.3%)、企業在庫寄与度同-0.2%(同-0.5%)、純輸出寄与度同+0.3%(同+0.3%)。家計消費のマイナス成長を主因に日本経済は2四半期ぶりのマイナス成長となった。このペースだと、2016暦年成長率は前年比+0.5%、年度成長率は+1.0%程度に留まる計算で、筆者の個人予想を下回って推移している。1月に入っても家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比で-0.6%と減少が続いているなど、景気の基調は弱いままである。1-3月期にはプラス成長への転換を見込んでいるものの、ここにも下方リスクが出てきている。

20160313図1

景気ウォッチャー調査(2月):現状判断DIは44.6(前月比-2.0ポイント)、先行き判断DIは48.2(同-1.3ポイント)

2月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは44.6(前月比-2.0ポイント)と2ヶ月連続の低下、横ばいを示す50を7ヶ月連続で下回った。内訳は、家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが低下した。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは48.2(同-1.3ポイント)と2ヶ月ぶり低下、横ばいを示す50を7ヶ月連続で下回った。内訳はこれも3つのDIがいずれも低下。総じて街角景気は内閣府の基調判断の通り「弱さが見られる」といえる。10-12月期にマイナス成長に転化した日本経済だが、1月以降もその弱さの基調は景況感上継続していると言わざるを得ない。景気判断の理由としては「株価の低迷に伴う消費自体の冷え込み」「為替相場や株安により、先行きに不安」など、1月以降の金融市場変動を起因とする景況感悪化にある模様だ。

20160313図2



<経済レポート> 厳しい条件:米信用市場動向

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米国の家計部門、企業部門のバランスシートは総じて健全な形をしていると考えてよい。しかしながら、企業部門における債務の拡大と銀行の信用条件厳格化の動きは、今後1年位の間に景気の転換点が来るリスクを示唆する内容である。

家計バランスシートは健全に調整されている

米経済は、総じて雇用増加と賃金上昇を背景に個人消費が好調、一方で原油安と海外景気減速を背景に企業部門が減速という状況が続いている。家計部門と企業部門のこうしたミニでカップリングは、各部門のバランスシートにも表れている。本レポートでは、家計部門と企業部門のバランスシート、特に負債の状況につき概観する。

家計部門においては、2008年の金融危機後の債務削減ののち2012年をボトムに家計負債は徐々に増加に転じ、2015年10-12月期現在で2008年のピーク水準にまでほぼ回復している。もっとも借入種類による推移に大きなばらつきが見られる。住宅ローンは金融危機以降現在に至るまでほぼ一貫して残高が減少しているのに対し、消費者ローンは過去ピークをはるかに上回る残高にまで増加している([第1図])。

家計負債が増加した一方、株価指数が史上最高値を更新するなどで家計の金融資産価格が上昇したことで、家計資産も2007年のピーク比約20%増加した。非金融資産価格(住宅等)もほぼ金融危機前のピーク水準にまで回復した。結果、家計純資産(家計資産-家計負債)の家計総資産比率は85.6%と2000年以来の水準にまで上昇している([第2図])。総じて家計においてはバランスシートが健全な方向に向かっているといってよい。

[第1図]
20160311図1

[第2図]
20160311図2

自動車ローンの拡大ペースは減速開始

家計負債の名目GDPに占める比率も低下を続けている。住宅バブルのピークだった2008年には同比率は99%に達していたが、その後低下を続け現在では約85%にまで低下している([第3図])。ここからも、家計バランスシートは健全な形をしているといえる。

家計負債の比率が家計規模や経済規模のいずれに対しても低下しているにも関わらず、GDP統計上の実質個人消費が2015年に前年比+2.4%の成長を実現したことは、現在の米国の個人消費拡大がバブル要素なく安定した拡大要素に基づいていることを示唆している。住宅バブル期には、住宅ローンやホームエクイティローンなどの借入が個人消費拡大の源泉の一つであったのに対し、現在の米個人消費は、雇用・賃金といった実体経済の拡大に基づく成長をしているといえる。個人消費の要因分解によれば、株価や住宅価格に対する個人消費の弾性値は低下傾向にある。いわゆる資産効果の個人消費への寄与は例えば住宅バブル時期に比べて低下している。

一方で、家計負債の内訳をみると、今後の個人消費に対する一つの示唆が見られる。上記の通り、金融危機以降消費者ローンなかんずく自動車ローンの拡大ペースが家計負債全体や住宅ローンの拡大ペースを上回ってきた。自動車ローンの拡大は国内の自動車販売の増加を促し、これが個人消費の牽引役の一つとなってきた。しかしながら、昨年時点で新車販売台数が年率18百万台を超える水準になったことで、自動車販売は一つのピークを迎えた。これに伴い、自動車ローンの伸び率も昨年後半から減速が明らかになっている([第4図])。後に見るように、自動車ローンの伸び率減速は、自動車需要の減速というより自動車ローンの信用条件の厳格化が背景である可能性が高い。その意味では、今後個人消費は雇用・賃金上昇による堅調な拡大を続けつつも、信用拡大による追加的な拡大ペースは剥落せざるを得ないと見たい。

[第3図]
20160311図3

[第4図]
20160311図4

企業部門の債務は過去ピークにまで拡大した

企業部門でも総じて金融危機後に進められたデレバレッジがバランスシートの健全化に寄与したといえる、しかしその様相は家計バランスシートとは異なる。[第5図]は、企業純資産の対総資産比率の推移である。家計部門同様金融危機以降企業純資産の対総資産比率は上昇基調を続けている。金融危機以降の企業のデレバレッジが進行してバランスシート調整が順調に進んでいることをこの推移は示唆している。

しかしながら、企業負債の対名目GDP比率は家計部門と異なり上昇を続けている([第6図])。個別の企業のバランスシートは健全化を続けているものの、経済全体に占める企業負債の比率は過去最大に近いところにまで上昇していることになる。企業負債の内訳をみると、ローン借入は金融危機直前のピークを下回る水準で推移しているが、社債発行残高は金融危機前後を通じ一貫して増加している([第7図])。銀行借入に代わり債券市場の拡大を通じた企業負債の拡大は継続していることになる。

以上より、企業部門において個別企業のバランスシートは健全であるものの、米経済全体に対する企業負債の割合は高い。これは、企業部門において生産能力の余剰が存在していることと整合している。鉱工業設備稼働率は1月現在で77.1%と、直近の2014年11月ピークの79.0%から実に2%も低下した状態である。企業設備投資が金融危機後の2010年以降一貫して拡大を続けてきたことの帰結といえる。

[第5図]
20160311図5


[第6図]
20160311図6

[第7図]
20160311図7

信用条件も今後の景気判断材料

中期的な米経済サイクルを見るにあたり、今後1~2年の間に景気がピークを迎える可能性を支持する要因がある。[第8図]はFRBのシニア・ローン・オフィサー・サーベイによる銀行の信用条件厳格化DIの推移である。これによれば、2013年以降、商工業ローンの信用条件が総じて厳格化方向にあることがわかる、特に2015年10-12月期以降は商工業ローンの信用条件を厳格化した銀行の数が緩和した銀行の数を上回っている。

また、個人消費の牽引役の一つだった自動車販売を支える自動車ローンの信用条件もじりじりと厳格化方向にある。信用条件DI自体はまだマイナス圏にあり、総じて条件緩和が続いているといえる。しかし上記の通り、自動車販売台数増加ペース減速、自動車ローン信用条件緩和ペースの減速、並びに海外経済減速とドル高とが信用条件の厳格化方向へのシフトと同期しつつあることは、中期的に米経済が減速サイクルに入りつつあるとの見方と整合している。

信用条件の厳格化は必ずしもリセッションにつながるとは限らない。2011年のギリシャ財政問題に端を発する信用条件厳格化は、米経済成長率を2011年に前年比+1.6に押し下げたにとどまった。しかしながら、中期的景気循環に鑑みれば、信用条件厳格化が既に兆候のある成長ペース鈍化を加速する可能性には留意しておくべきであろう。


[第8図]
20160311図8

<経済指標コメント> 米2月非農業部門雇用者数は前月比+242千人

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[日本]

鉱工業生産指数(1月)は前月比+3.7%

1月の鉱工業生産指数は前月比+3.7%と3ヶ月ぶりかつ大幅な上昇。出荷指数は同+3.4%、在庫指数は同-0.3%、在庫率指数は同-2.1%。出荷の増加で単月では在庫調整が進行した形である。ただし生産指数の3ヶ月移動平均はまだ低位にあり、生産が上昇に転じたとは言い難い。一方、企業設備投資の先行指標となる資本財出荷は同-0.8%と3ヶ月連続の減少。10-12月期GDP統計では、実質GDPがマイナス成長となる中企業設備投資はプラス成長となったが、1-3月期のそれはマイナス成長に転化するリスクが出てきている。公表元の経済産業省は「生産は一進一退」と基調判断を据え置いている。単月で生産・出荷が増加したとはいえ、在庫率指数はまだ高位にあり、在庫循環図上も在庫調整はまだ端緒であるなど、企業の在庫調整はまだ十分ではない。今年の前半は少なくとも在庫調整が成長抑制及び生産押し下げ要因になると引き続き見る。

20160306図1

住宅着工戸数(1月)は年率873千戸(前月比+1.5%)

1月の住宅着工戸数は年率873千戸(前月比+1.5%)の小幅増加。しかしながら着工戸数は昨年半ばをピークに大幅減ののち小康状態にある。10-12月期GDP統計(1次速報値)では住宅投資が4四半期ぶりにマイナス成長に転じた。2016年に入ってもまだ大きな回復の兆しは見られないといえる。

20160306図2

完全失業率(1月)は3.2%

1月の完全失業率は3.2%(前月比-0.1%)と低下し、1997年以来の最低水準にある。内訳をみると、労働力人口同+0.8%、就業者数同+1.0%、完全失業者数同-4.1%と、労働力人口と就業者数増加を伴う失業率低下となっている。特に労働力人口は2ヶ月連続の前月比増加、前年比でも+1.1%と過去6ヶ月中5ヶ月で前年比増加している。結果筆者試算による労働力化率は60.2%(前月比+0.4%)と2ヶ月連続で大幅に上昇、2009年2月以来の高水準となった。労働需給がタイト化する中、労働力人口への流入がさらに拡大しており、適正な均衡のとれた労働力市場の拡大が続いているといえる。

20160306図3

実質家計消費支出(1月、二人以上の世帯)は前月比-0.6%(前年比-3.1%)

1月の実質家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比-0.6%と過去5ヶ月で4回目の前月比減少、前年比では-3.1%と5ヶ月連続でマイナスの伸びが続いている。10-12月期GDP統計(1次速報値)で前期比年率-3.5%と大幅マイナス成長となった家計消費は、1月に入っても低迷が続いており、2四半期連続のマイナス成長のリスクも出てきているといえる。勤労者世帯の実収入は1月時点で前年比-1.3%と5ヶ月連続の減少。就業者増加にも拘わらず賃金上昇ペースが鈍いことが家計消費の抑制要因になっていると推測できる。なお、厚生労働省の毎月勤労統計によれば、名目賃金(現金給与総額)は1月時点で前年比+0.4%、実質賃金は同+0.4%の伸びに留まっている。

20160306図4

[米国]

ISM製造業指数(2月)は49.5%(前月比+1.3%ポイント)、非製造業指数は53.4%(同-0.1%ポイント)

2月のISM製造業指数は49.5%(前月比+1.3%ポイント)と2ヶ月連続の上昇ながら、景気判断の分かれ目を示す50%を5ヶ月連続で下回った、総合DIを構成する5つのDIの内訳は、新規受注51.5%(同横ばい)、生産52.8%(+2.6)、雇用48.5%(同+2.6)、入荷遅延49.7%(同-0.3)、在庫45.0%(同+1.5)。新規受注DIと生産DIがそれぞれ50%を2ヶ月連続で上回っているなど、内容的には今後の製造業景況感の回復を示唆する兆しも見られる。調査先からは「原油価格低下が業績に影響(石油・石炭製品)」「米国需要は堅調、海外需要は軟化(化学製品)」「極めて強い需要(機械)」など、内容にはばらつきが見られる。非製造業指数は53.4%(同-0.1%ポイント)と4ヶ月連続の低下。総合DIを構成する4つのDIの内訳は事業活動57.8%(同+3.9)、新規受注55.5%(同-1.0%)、雇用49.7%(同-2.4%)、入荷遅延50.5%(同-1.0%)。製造業指数に比べ、海外景気の影響を受けにくい非製造業指数は高位にあるものの、ここ数ヶ月の低下基調は鮮明である。総じて、原油安・海外景気減速・ドル高による輸出への悪影響と、国内需要の堅調さと原油安のメリットとが交錯している。企業景況感は当面方向感のない状況が続きそうだ。

20160306図5

新車販売台数(2月、乗用車及び軽トラック)は年率17.42百万台

2月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率17.42百万台と前月比横ばい、前年比+6.8%の好調な販売を続けている。もっとも昨年10月の同18.12百万台で中期的に自動車販売はピークアウトした感があり、米国内自動車販売はほぼ飽和状態に近いといえる。ガソリン安や自動車ローンの信用条件緩和に支えられてきた自動車販売も、今後は金利上昇や信用条件見直しによりその増加ペースは減速せざるを得ないと見る。

20160306図6

雇用統計(2月):非農業部門雇用者数は前月比+242千人、失業率は4.9%

2月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+242千人と、上方改訂された前月の同+181千人から大幅に増加幅を拡大した。同3ヶ月移動平均も+228.3千人と4ヶ月連続で+200千人以上を確保した。業種別内訳は小売同+54.9千人、教育・医療同+86千人、娯楽・宿泊同+48千人、専門ビジネスサービス同+23千人等が雇用を拡大させた。1月の雇用増加ペース急減速が寒波による一時要因であったとの推測を裏付ける結果だった。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.4%と前月より-0.1%ポイント伸び率が低下したが、それでも総じて賃金上昇ペースは加速基調を保っているといえる。家計調査による失業率は4.9%。FOMC委員予測による長期均衡失業率及び米議会予算局推計の自然失業率と同じレベルで、米労働市場は完全雇用状態にあると言える。内容を見ると、労働力人口と就業者数が増加する良い内容で、労働参加率は62.9%と昨年1月以来の高水準に上昇した。総じて雇用市場は堅調な拡大を続けており、この観点からはFRBの利上げ継続を支持する内容である。もっとも雇用指標は経済の遅行指標であり、現在の好調な労働市場指標が将来の経済拡大加速を示唆するものでは必ずしもないことには留意が必要である。

20160306図7