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<経済レポート> 長い下り坂:米経済の生産性上昇率

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4月FOMC議事要旨や5月のカンファレンスボードのレポートが指摘するように、米経済の生産性は低下傾向から脱却できていない。生産性低下は賃金上昇率の抑制要因や潜在成長率低下をもたらす要因である。米経済には余剰生産設備があり、総需要が拡大すれば産出の拡大は可能である。しかし、需要側も拡大ペースが減速する可能性が高いと見ることからは、米経済は引き続き循環的な減速局面に入らざるを得ないと見るのが妥当であろう。

労働生産性、資本生産性ともに中期的な伸び率低下

短期的には米経済にはインフレ圧力が徐々に加速しつつあり、来年にかけて消費者インフレ率や時間当たり賃金上昇率は加速すると見ている。しかしながら、中期的な景気循環上は、米経済はおそらくピークに近いところに位置しており、今後は循環的な減速局面に入りそうだ。さらに、米国の生産性の伸びは依然低下を続けている。生産性の低下は一般に潜在成長率を押し下げるほか、時間当たり賃金の伸びを抑制し、景気減速を加速させる可能性がある。本レポートでは、2015年8月2日付当レポートでみた米国の生産性の状況をアップデートし、これが今後の成長に与える影響につき考察する。

まず、2015年までの年次のデータを基に、米国の労働生産性と資本生産性の推移を見る。労働生産性=実質GDP/労働投入量(非農業部門雇用者数*週平均労働時間)、資本生産性=実質GDP/資本蓄積(=非住宅固定資本*鉱工業設備稼働率)とし、いずれもHPフィルターで平滑化した結果が[第1図][第2図]である。ここから、労働生産性の伸び率は常に資本生産性の伸び率を上回っていること、また労働生産性・資本生産性いずれもが2000年頃をピークに低下傾向を続けていることがわかる。これは、米国の潜在成長率が2000年以降低下を続けていることとも整合している。なお、米労働省生産性及びコスト統計によれば、1-3月期時点の非農業企業部門の労働生産性は前年比+0.6%となっている(5月25日付当レポート参照)。

労働生産性の伸びが資本生産性の伸びを上回っている算術上の背景は[第3図]に示されるとおり、資本蓄積の伸び率が常に労働投入量の伸び率を上回っていたことである。労働投入量は人口増加ペースの制約で年率1~2%の伸びにとどまるのに対し、資本蓄積は設備投資の拡大によりこれを上回る伸びを示していた。結果、実質GDPを労働、資本の各生産要素で除した生産性は労働生産性において資本生産性よりも高いことになる。

[第1図]
20160530図1

[第2図]
20160530図2

[第3図]
20160530図3

全要素生産性の伸びも低下している

次に、複数の生産要素と経済成長の関係をみる。一般に国の潜在成長率は、労働投入量・資本蓄積・全要素生産性の3つの要素で決定されるとされる。そこで、昨年8月2日付当レポートのアップデートとして、労働投入量、資本蓄積、及びトレンド変数を外生変数とする以下のコブ・ダグラス型生産関数を想定し、各変数に対する実質GDPの弾性値を推計する。推計は1967~1990年の24年間と、1991~2014年の24年間に分けて行った。結果は[第2表]の通りである。

ln(Y)=α+β1*ln(L)+β2*ln(K)+ɤ(T)

(Y:実質GDP、L:労働投入量、K:資本蓄積、T:トレンド変数、β1とβ2はそれぞれ、労働投入量と資本蓄積に対する実質GDPの弾性値、γはトレンド変数に対する実質GDPの弾性値すなわち全要素生産性の伸び率を表す)

[第2表]からは、次のことがわかる。まず、資本蓄積は1990年以前においては労働投入量を上回る寄与の生産要素であったが、1991年以降はその意義が著しく後退し、回帰分析上も統計的有意でなくなっているのに対し、労働投入量はほぼその増加率がそのまま成長に寄与していること。次に、トレンド変数の係数である全要素生産性(TFP)の伸びは約+1.4~1.8%であること、つまり技術革新など労働・資本以外の要因で米国の生産性は年率+1.4~1.8%の上昇してきたということである。なお、米議会予算局は、2016年3月の「財政・経済見通し」において、米経済(非農業企業部門)の潜在TFPを、1991-2001年、2002-2007年、2008-2015年につきそれぞれ1.5%、1.9%、0.8%と推計しており、上記の結果はこれと概ね整合するものである。

[第1表]
20160530表1

生産性低下でも2%台の成長は可能

さらに、ここから、全要素生産性の年次の推移の抽出を試みる。[第1表]で導出した推計式による実質GDP推計値と実質GDP実績との乖離(対数値)を、全要素生産性実績のトレンドからの乖離によるものとみなし、この差分の前年比伸び率を上記の+1.8%に加減することで、全要素生産性を年次で算出した。結果は[第4図]の通りである。ここからは、全要素生産性の伸び率が2000年頃をピークに低下トレンドをたどっており、2014年時点では前年比約+0.4%にまで低下していることがわかる。これは上記の米議会予算局の推計の傾向とも整合するものである。つまり、米国の生産性は労働・資本・その他全要素いずれもその伸び率を中期的トレンドとして低下させていることになる。

生産性上昇ペースが継続的に低下している背景はいくつかの点が一般に指摘されている。一つには90年代のIT革命以来目立った技術革新がないこと、一方で最近のICT技術やSNS等の普及で示現しているはずの生産性向上がGDP統計に反映されていないこと、などである(5月30日付FT紙)。

生産性上昇率が現状程度にとどまるとすると、今後の経済成長率も大幅な加速は望みにくい。労働投入量は失業率の低下にともないその拡大ペースは減速せざるを得ず、非農業部門雇用者数の伸びは前年比+2%前後にとどまるだろう。資本蓄積が進んだ場合でも上記の通りこれが成長に寄与はほぼゼロとなる。全要素生産性が+0.4%にとどまるならば、結果今後の経済成長の巡航速度は現状とほぼ同じ+2%台前半~同半ばということになる。

[第4図]
20160530図4

需要減速で結果的には成長は減速局面に入る可能性が高い

もっとも、需要が拡大すれば成長率が更に加速することは可能である。上記の生産関数において資本蓄積は、非住宅ネット民間固定資本に鉱工業設備稼働率を乗じたものである。現在、鉱工業設備稼働率は4月時点で75.4%の低位にある([第5図])。今後雇用増加や賃金上昇により総需要が増加すれば、供給側は設備稼働率を上昇させることで、生産要素の追加的拡大なしに供給力を高めることができ、結果経済成長ペースを加速させることができる。いわば現在の経済減速は実際には主に需要側の要因によるものであって、供給側は依然十分な供給力を有しているといえる。

以上の示唆するところは、冒頭で述べたように、米国の潜在成長率が依然低下傾向にあることから、今後も成長率の急加速は望みにくいこと、及び生産性上昇率の低下は中期的には賃金上昇率ひいてはインフレ率の抑制要因となりうることである。総じて米経済の生産性の伸び率が依然低下傾向にあることは事実である。しかし、米経済にはまだ供給力の余剰があり、これらを活用することで、需要拡大に見合った供給による成長の加速は理屈の上では可能である。ただ、需要サイドにおいて、雇用・海外経済の加速ペースが1~2年後までには循環的ピークを迎える可能性が高いことは、結果的に総需要の伸びも短期的には減速する可能性をも示唆している。

なお、米調査機関カンファレンスボードは26日、米国の2016年の労働生産性の伸び率がゼロかわずかにマイナスの伸びに転化するとの調査結果を発表した(”The Conference Board Total Economy Database TM“, May 2016)。この根拠は、2016年の実質GDP成長率が前年比+1.7%、労働投入量も同じく同+1.7%との予想に基づき、結果労働生産性の伸びはほぼゼロとなるというものである。筆者個人は今年の成長率をカンファレンスボードと同じ同+1.7%、非農業部門雇用者数の伸びを同+2%弱とみている。結果筆者の個人予想からは、2016年の労働生産性の伸びはさらに大幅にマイナスになる計算になる。

[第5図]
20160530図5



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<経済指標コメント> 日本の4月消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年比-0.3%

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[日本]

消費者物価指数(4月、生鮮食品を除く総合)は前月比+0.3%(前年比-0.3%)

4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、いわゆるコアCPI)は前月比+0.3%。ガソリン(同+4.7%)などの上昇が寄与した一方で、電気代(同-1.4%)は下落した。しかしながら、前年比の伸びは-0.3%と2ヶ月連続でマイナスの伸びに転化した。一方で、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコアCPI)は前月比+0.3%、前年比+0.7%と相対的に堅調である。労働市場のタイト化でコアコア指数には上昇圧力がかかっているものの、エネルギー価格の前年比の低下(寄与度-1.11%)がコア指数の伸びを抑制している形である。今後は、エネルギー価格の持ち直しでCPIはコア、コアコアともに堅調に上昇すると見る。2016暦年末のコア指数は前年比+0.3%、コアコア指数は同+0.9%程度となる計算である。2017年初から、今年初の原油価格急落の要因が剥落して前年比の伸びは加速し、2016年度末にはコア同+1.3%、コアコア同+1.5%にまでインフレ率は上昇と見る。日本銀行の4月「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)では、政策委員のコアCPI見通しの中央値が前年度比+0.5%となっているが、年度末月の前年比ではさらに強い加速を見込んでもよさそうである。さすれば展望レポートの見通しのごとく、2017年度中の2%インフレ目標達成も視野に入ってくる。

20160528図1

[米国]

新築住宅販売戸数(4月)は年率619千戸(前月比+16.6%)、在庫期間は4.7ヶ月

4月の新築住宅販売戸数は年率619千戸(前月比+16.6%)と急増、単月では2008年1月以来の水準となった。地域別では北東部同+52.8%、中西部同-4.8%、南部同+15.8%、西部同+18.8%と、中西部を除く3地区で大幅増加となった。一方で販売在庫は243千戸(同-0.4%)と減少、結果在庫期間は4.7ヶ月と2015年2月以来の水準に短期化した。住宅販売増加シーズンに中古住宅と合わせ住宅販売は増加し、再び市場は需給がタイトになっている。総じて米住宅市場は4月に入り活況といえ、4-6月期の成長ペース再加速との見方に沿った結果である。

20160528図2

耐久財受注(4月)は前月比+3.4%、除く運輸関連同+0.4%、非国防資本財受注(航空機を除く)は同-0.8%、同出荷同+0.3%

4月の耐久材受注は前月比+3.4%と2ヶ月連続の増加。ただし、振れの大きい民間航空機受注増が全体を押し上げており、運輸関連を除くベースでは同+0.4%。企業設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(航空機を除く)は同-0.8%と3ヶ月連続の減少となった。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同+0.3%と実に7ヶ月ぶりに小幅増加に転じた。総じて企業部門の回復は個人消費に比べて依然緩慢である。GDP統計では設備投資が1-3月まで2四半期連続マイナス成長となったが、4-6月期についても明かな反発の兆しはまだ見えない。

20160528図3


実質GDP成長率(1-3月期、改定値)は前期比年率+0.8%

1-3月期の実質GDP成長率(改定値)は前期比年率+0.8%と、速報値の同+0.5%から小幅上方改訂。需要項目別内訳は、個人消費同+1.9%(速報値同+1.9%)、設備投資同-6.2%(同-5.9%)、住宅投資同+17.1%(同+14.8%)、政府支出同+1.2%(同+1.2%)、在庫投資寄与度同-0.20%(同-0.33%)、純輸出寄与度同-0.21%(同-0.34%)。上方改訂の主因は在庫投資と輸出のマイナス幅の縮小である。3月企業在庫統計により在庫投資の上ブレの可能性をみていたことと整合的な結果である。総じてこの改定による米経済成長予想に対する影響は限定的である。2016年通年の成長率は前年比+1.7%、またFOMCが6月、12月の定例会合でそれぞれ+0.25%の利上げを実施するとの個人予想を維持する。

20160528図4

<経済レポート> 6月利上げ予想に整合:4月FOMC議事要旨

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4月FOMC議事要旨は思いのほかタカ派な内容であり、筆者個人の6月追加利上げ実施予想を支持するものであった。また4月分の米経済指標も4-6月期の成長ペース回復予想に沿ったものである。6月、12月にそれぞれ+0.25%の利上げ実施との個人予想を維持する。

4月FOMCは利上げ見送り:利上げ主張する参加者もいた

FRBは、先月4月26、27日の連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合で追加利上げを見送った。その議事要旨が18日に公表されている。結論的にはその内容は思いのほかタカ派的であった。本レポートでは、4月FOMC定例会合議事要旨の内容から今後の金融政策を占うとともに、FOMCにおける経済見通しの議論、そして生産性の議論をみていく。

まず、議事要旨の中からFF金利誘導目標の引上げに関する参加者の議論をみていく。FF金利を本会合(4月)で引き上げることが正当化されるかとの議論において、ほとんどの(most of)参加者は「国内消費の減速は一時的なもの」と判断した。しかしながら、多数の(a number of)参加者は「インフレ見通しへのリスクは下方」と判断、また多くの(many)参加者は「海外動向からくる下方リスクは後退したものの注意深い監視が必要」と述べた。こうして参加者は総じてFF金利誘導目標を本会合では据え置くことが妥当とみたとされている。

一方で、2、3名の(a couple of)参加者は「更なるFF金利引き上げ行動の延期は、市場を混乱させ、委員会の政策決定に影響を与える経済判断につき市場を混乱させ、潜在的に委員会の信用を悪化させるかもしれないことを懸念」した。また、何人か(a few)の参加者は本会合でFF金利誘導目標を引き上げることが適切と判断した。これらよい、投票メンバー以外の参加者を含む議論では、何人かの参加者が利上げを適切とみるなど、結果的に利上げは見送ったものの、FOMC内では利上げ積極派も相応に存在したことがわかる。

ほとんどの参加者が6月利上げの可能性をみている

次に、次回利上げのタイミングについては、ほとんどの(most of)参加者が「今後入手されるデータが、経済成長の第2四半期の加速、労働市場の強まりの継続、インフレの委員会の2%目標への進捗と整合的ならば、委員会が6月の会合でFF金利誘導目標レンジを引き上げるのが適切になる可能性が高い」と判断したとされた。これは、3月時点のFOMC委員の経済予測における適切なFF金利予測と整合的であり、また当レポートの見方とも一致する内容である。

4月FOMC会合以降の米経済指標をみると、これまでのところ6月定例会合での利上げを支持する状況といえる。4月非農業部門雇用者数は前月比+160千人にとどまったが、失業率は5%の低位にあり、時間当たり賃金上昇率は加速した。また4月小売売上高は前月比+1.3%の強い伸びを示し、4-6月期に個人消費が前期比年率+2%台に再加速するとの筆者個人の見方を支持する結果となっている([第1図])。

インフレについては、4月会合の議事要旨では数人の(several)参加者が、ここ1、2年の調査ベースの長期インフレ期待の低下をインフレへの下方リスク要因としてあげている。ミシガン大学消費者センチメント調査によれば、確かに5年先の期待インフレ率はじりじりと低下傾向にあるものの、一方で短期の12ヶ月先の期待インフレ率は3月、4月に上昇に転じており、原油価格の持ち直しとあいまって、インフレ率が今後上昇に転じる要因となりうることを示唆している([第2図])。4月の消費者物価指数は前年比+1.1%、同コア指数は同+2.1と、コア指数は2%以上の上昇率を維持している。また、筆者個人は個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比の伸びが今年末には+1.5%、コアPCEデフレーターが同+1.9%に上昇すると見ている。

[第1図]
20160525図1

[第2図]
20160525図2

6月利上げ予想を維持する

世界金融市場も現在は安定している。年初に始まった株価の大幅下落から、現在では米株価はほぼ昨年末の水準に回復している。3月の利上げ見送りの背景となった世界金融経済動向について議事要旨では「参加者は総じてグローバルな経済と金融の動向からくるリスクは後退した」とみているとされた。またこれらからくる経済見通しに対する下方リスクも後退したと見ている。

これらの状況証拠から判断して、6月、12月にそれぞれ+0.25%の利上げが行われるとの筆者の従前からの個人予想を維持することとする。米経済は年初の金融変動や天候要因により、1-3月期に一時的に減速したものの、雇用の堅調な伸びと賃金上昇による購買力の拡大で個人消費を中心に再加速するだろう。また、労働市場ののりしろの縮小によりインフレ圧力はじりじり高まっていくはずである。これらはFOMC委員がみる利上げの条件を満たす方向である。

ところで、4月FOMC議事要旨からは、参加者が生産性の動向について議論したことが読み取れる。議事要旨によれば「雇用と総労働時間は相対的に強いが、産出の拡大は適度であり、結果生産性の伸びは年率平均+0.5%をやや下回っている」「多くの参加者は、予測比低い生産性の伸びがもたらす結果につき様々な可能性を述べた」とされた。「幾人かの参加者は、実質GDP成長が相対的に緩やかにとどまっても、生産性上昇率が今後数四半期の間雇用拡大にもかかわらず失望的でありつづけるならば、失業率がより早く低下しインフレがより早く上昇する可能性」があるとのべた。一方で、「低い生産性の上昇はかえって予想より低い家計所得及び企業売上の伸びにつながり、結果失業率とFF金利は現状予想とほぼ不変になる」ともされた。さらに「数人の参加者は、生産性上昇の趨勢が恒常的に低下するならば、数四半期の間動向把握が困難になり、金融政策への示唆はより長期均衡FF金利の低下となる」と述べた。

労働生産性上昇率低下のインプリケーション

米国の労働生産性の推移は[第3図]の通りであり、米労働省統計によれば、今年の1-3月期を含む過去3四半期の間、労働生産性上昇率(非農業企業部門)は前年比+0.6%と低位横ばいにとどまっている。労働生産性上昇率低下の背景は、90年代後半のIT革命期に見られた技術革新がその後みられないこと、また2007-8年の景気後退期の雇用削減による一時的な見かけの労働生産性向上要因が剥落したことが考えられる。労働生産性上昇率低下の成長への示唆としては、筆者個人は成長率及びインフレ率の下押し要因とみている。[第4図]のとおり、産出量を労働生産性と労働投入量に分解した場合、生産性の伸び率低下は産出の押し下げ要因となる。さらに、今後雇用拡大ペースが徐々に減速すれば、更なる生産低下要因になる。また労働生産性の低下は時間当たり賃金上昇率の抑制要因ともなる(2015年5月11日付当レポート参照)。

別な観点からは、以下の点が指摘されうる。すなわち、今後2,3年にわたり失業率が-0.2%ポイントの低下(労働投入量にして約+0.2%の増加)にとどまりながら、いかにして+2%台の成長を継続しうるか([第1表])。労働投入量が1%を割る成長だった場合、+1%を超える生産性上昇率がなければ+2%成長は困難となる計算になる。

筆者個人も失業率低下ペースは今後減速するにも関わらず、成長率は概ね+2%を維持できると考えている。一方で上記の通り労働生産性上昇率の急な加速は見込みにくい。それでもなお成長率維持が可能とみる背景は2つある。まず、企業の設備稼働率に余裕があることである。産出量を決定する要因には、労働投入量と生産性のほか資本蓄積(稼働率勘案後)がある。現在の鉱工業設備稼働率は75%台の低位にあり、標準的な80%レベルに稼働率を上げれば産出量は数%上昇可能である。次に、失業率低下を起因とする賃金圧力の遅効的な上昇圧力の高まりが見込まれることである。これは労働力人口への再流入につながり、結果失業率は横ばいでも実際の就業者数の増加は前年比+2%弱を確保できうる。結果、生産性上昇率の低下にかかわらず、今後+2%レベルの成長は可能である。結果FRBの金融政策が予想比緩和的になる可能性は低いということになる。

[第3図]
20160525図3

[第4図]
20160525図4

[第1表]
20160525表1

<経済指標コメント> 日本の1-3月期実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+1.7%

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[日本]

実質GDP成長率(1-3月期、1次速報値)は前期比年率+1.7%

1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.7%と、筆者の個人予想(同横ばい)を大幅に上回り、2四半期連続のマイナス成長を免れた。需要項目別内訳は、家計消費支出同+1.9%、住宅投資同-3.0%、企業設備同-5.3%、公的需要同+2.6%、企業在庫寄与度同横ばい、純輸出寄与度同+0.7%。家計消費と公的需要の大幅な増加が全体を押し上げている。予想との対比では、家計消費、公的需要、純輸出が大幅に上振れ、企業設備はほぼ予想通りのマイナス成長だった。家計消費は、3月の家計調査が堅調だったことでGDP統計での上振れの可能性をみていたが、これが示現した形である。もっとも1-3月期の実質GDPは閏年要因で押し上げられている。今年の1-3月期の暦日は91日あり、平年の90日よりも約+1.1%多い。家計消費のうち日数に比例すると考えられる品目(食料、光熱・水道、交通・通信、教育・娯楽)のGDPに対する比率は約27%であり、結果1-3月期の実質GDPは前期比約+0.3%、前期比年率で約+1.2%押し上げられている計算になる。実質GDPの実力は同+0.5%程度、うち家計消費は同+0.7%程度となることになる。ともあれ、1-3月期の成長率の上ぶれで、2016年暦年成長率は前年比+0.6%程度を実現できる計算になる。もっとも、4月分の経済指標は、景気ウォッチャー調査がさらに低下するなど芳しくはなく、4-6月期の成長率は同+1%を割り込むレベルに減速すると見る。

20160522図1

機械受注(3月、船舶・電力を除く民需)は前月比+5.5%(前年比+3.2%)

3月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+5.5%(前年比+3.2%)と前月の同-9.2%から反発した。内訳は、製造業(同+19.7%)特に非鉄金属(同+270.4%)からの受注増が全体を押し上げている。機械受注(同)の3ヶ月移動平均は前月比+3.2%と3ヶ月連続上昇、前年比の伸びも+5.6%とプラスを維持しており、機械受注の伸びは低位ながら底堅いと見ることができる。しかしながら、その伸び率はまだ高くはなく、企業設備投資の回復が今後も緩やかなものにとどまるとの見方を支持している。

20160522図2

[米国]

消費者物価指数(4月)は前月比+0.4%(前年比+1.1%)、同コア指数は前月比+0.2%(前年比+2.1%)

4月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.4%と2ヶ月連続の上昇。原油価格の持ち直しを反映して、ガソリン(同+8.1%)などエネルギー価格が上昇したのが指数全体を押し上げた。前年比でも+1.1%と3ヶ月ぶりに伸びを加速させた。食品及びエネルギーを除くコア指数は前月比+0.2%と上昇を継続、前年比でも+2.1%と6ヶ月連続で+2%を上回る伸び率を維持している。総じてCPIインフレ率の回復は当レポートの見通し通りであり、労働市場のタイト化と原油価格の持ち直しで今後もインフレ圧力は継続すると見る。年末には総合CPIは前年比+1.3~1.5%、コアCPIは同+2%強になると見る。インフレ率の継続上昇は6月FOMCで2回目の利上げが実施されるとの筆者個人の予想をも支持する結果である。

20160522図3

住宅着工戸数(4月)は年率1172千戸(前月比+6.6%)、住宅着工許可件数は同1116千件(同+3.6%)

4月の住宅着工戸数は年率1172千戸(前月比+6.6%)と増加に転じた。6ヶ月移動平均も同1157.2千戸(同+1.4%)と上昇に転じ、総じて堅調な住宅着工の趨勢を示唆している。住宅着工許可件数は同1116千件(同+3.6%)とこれも上昇し、今後の着工が増加継続する可能性を示唆している。年初の天候要因で振れの大きかった住宅着工も、その要因が剥落して再び巡航速度の増加ペースに回帰したといえる。タイトな需給を背景に今後も住宅着工は堅調な拡大を継続すると見る。

20160522図4

鉱工業生産指数(4月)は前月比+0.7%、設備稼働率は75.4%

4月の鉱工業生産指数は前月比+0.7%と強い伸びで3ヶ月ぶりの上昇に転じた。内訳は製造業同+0.3%、鉱業同-2.3%、公益事業同+5.8%。原油安の影響で鉱業は依然低下、振れの大きい電力・ガスなどの公益事業の上昇が全体の指数を押し上げた形。製造業は一進一退の状況にあり、前年比の伸び率は+0.4%と依然低位である。設備稼働率は75.4%(前月比+0.5%ポイント)と3ヶ月ぶりに上昇したが、これも公益事業の稼働率上昇が主因である。総じて米国の生産拡大ペースは依然緩やかであり、企業部門の生産回復は今後も緩やかにとどまると見る。

20160522図5

中古住宅販売戸数(4月)は年率5450千戸(前月比+1.7%)、在庫期間は4.7ヶ月

4月の中古住宅販売戸数は年率5450千古(前月比+1.7%)と2ヶ月連続の増加。ただし地域別内訳にはばらつきっがあり、北東部同+2.8%、中西部同+12.1%、南部同-2.7%、西部同-1.7%となっている。また販売戸数の3ヶ月移動平均は同5293.3千戸(同-0.1%)と2ヶ月連続低下。中古住宅販売は高水準ながら増加ペースは一進一退といえる。販売在庫は2140千古(同+9.2%)と4ヶ月連続で増加し、結果在庫期間は4.7ヶ月と、昨年12月のボトム3.9ヶ月から相応に長期化した。しかしながら在庫期間の水準は適正とされる6ヶ月に比べてまだ短く、中古住宅販売市場の需給は依然タイトといえる。中央販売価格は前年+6.3%と適正からやや強め。総じて中古住宅販売市場は今後も堅調に拡大を続けると見たいが、供給不足や、ここ1年の販売戸数の横ばい傾向からは、拡大ペースの加速は見込みにくい。公表元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「低い住宅ローン金利と在庫積み上げの季節要因で消費者は住宅探しや購入を活発化させている」としている。住宅販売市場が最も活発な春のシーズンに、例年通りの市場活況がみられている模様だ。

20160522図6

<経済レポート> 削減努力は続く:米企業在庫

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米企業在庫率は金融危機後最高の水準にまで上昇し、企業部門の生産抑制要因となっている。中期的な在庫循環からも、現在は在庫投資のピークにある可能性が高い。設備投資循環と合わせ企業在庫も米経済の中期サイクルにおける減速局面入りの可能性が高いことを示唆する材料である。

企業在庫率の水準は金融危機以降で最高

米国の企業在庫が、金融危機以降最高の比率にまでつみあがっている。海外景気の減速とドル高による輸出の低迷が在庫水準の上昇をもたらしていると考えられる。結果、企業は厳しい在庫調整による生産抑制を強いられていると見られ、これが鉱工業生産の抑制につながっている。在庫調整は成長率に対しても1-3月期まで3四半期連続でマイナスの寄与となっている。本レポートでは、米企業在庫の状況を概観し、今後の成長率への影響をみることとする。

企業在庫は金融危機時に深い調整が行われたのち、景気後退終了後はほぼ一定の循環を繰り返しながらも増加基調を維持していた。在庫循環の周期は概ね1年半~2年である。しかしながら、2015年ころからこの周期が短期化する傾向を見せている。さらに、2015年12月から今年の2月にかけては、金融危機以降初めて企業在庫の3ヶ月前対比の残高がマイナスに転じた。在庫売上高比率は、金融危機の時期に大幅に上昇したのち危機前の水準に低下したが、その後今日にいたるまでほぼ一貫して上昇、3月現在では1.41倍と金融危機以降最高の水準に上昇している([第1図])。

より長期の米企業の在庫売上高比率の推移をみると[第2図]のようになる。90年代から2007年の金融危機まで、在庫売上高比率は一貫して長期的な低下基調にあった。これは、企業の在庫管理手法や物流管理の高度化により、より少ない手持ち在庫で出荷需要に応えることができるようになったことが背景と考えられる。その意味では金融危機以降の在庫売上高比率の上昇はこの長期トレンドの転換をも意味する可能性がある。

[第1図]
20160517図1

[第2図]
20160517図2

原油安・ドル高・海外景気が製造業在庫を押し上げている

金融危機以降については、2014年以降の在庫売上高比率の上昇加速が顕著である。この背景は主に、企業売上の急激な減速に求めることができる。[第3図]によれば、企業売上高は2014年のなかばから減速をはじめ、2014年末に大幅なマイナスになったあと、2015年にいったんプラスに転じたものの現在再びマイナスの伸びに転化して現在に至っている。この企業売上高の増減は原油価格の下落及び反転(2014年半ばに1バレル=100ドルを割り込んで同40ドル台にまで下落ののち2015年にいったん持ち直すもののその後同30ドルレベルにまで下落)による物価変動とほぼ一致している。また原油価格下落と同時に為替市場ではドル高が進み、FRBの集計する名目貿易加重平均米ドルレート(広域通貨)が2015年にそれまでの100ポイント台から120ポイントレベルに急上昇したこととも一致している。

[第3図]に見られるように、企業売上高の減少に対し、企業在庫の調整ペースは緩慢である。すでにストックとなった在庫の簿価の引き下げにはラグが生じるうえ、資源価格低下ペースに対して生産数量と生産価格の調整は遅行せざるを得ないこともその一因であろう。

物価下落に加えて、ドル高による輸出の減速が2014年以降顕著であることも、在庫売上高比率の上昇の要因となっている。企業売上高の推移を業種別にみたのが[第4図]である。これによれば、海外需要の影響を受けやすい製造業と卸売業の売上の減少ペースが、内需の影響を受けやすい小売業の売上減速に常に先行していることがわかる。企業在庫の積み上がりは、堅調な内需よりも、減速の明らかな海外経済の影響による部分が大きいことがここからも見て取れる。

[第3図]
20160517図3

[第4図]
20160517図4

在庫調整局面は当面継続する見込み

次に、在庫循環図の状況を見てみよう。[第5図]は金融危機直前の2007年から現在までの在庫循環図である。金融危機の際には企業在庫は前年比-14%近いマイナスまでの深い調整があった。現在(2016年第1四半期)の位置は、循環図上在庫調整局面にあるといえるものの、その深さは金融危機の調整ほどには深くはない。今年に入り企業売上高減少ペースがやや緩んだことから、在庫調整局面もマイナス入りすることなく終了する可能性があるように見える。在庫循環図からは今回の在庫調整が浅いものに終わる可能性が見て取れる。在庫売上高比率も、2009年に最大1.48倍に上昇したのと比べて現在の1.41倍は相対的にはまだ低く、現在の在庫水準は景気後退期にくらべれば穏当だといえる。

しかしながら一方で、中期的な在庫循環が過去のピークと同レベルにまで在庫積み上げが進んでいると見える証跡もある。[第6図]は、GDP統計上の在庫投資(企業在庫の前期比増減)の対GDP比率の推移をみたものである。サイクルを抽出するために20四半期の移動平均ととってみると、現在は同比率が0.4%と、金融危機直前のレベルと同水準にまで上昇している。中期的な在庫循環からは、今後は在庫変動サイクルが下方に転じる可能性が高いことがここに示唆されている。

3月の企業在庫統計によれば、企業在庫の対3ヶ月前の伸びは4か月ぶりのプラスに転じたが、これをもって在庫調整が終了に近づいていると見るのは早計であろう(5月16日付<経済指標コメント>参照)。企業売上高も3月には前月比で9ヶ月ぶりのプラスの伸びに転じたものの、3ヶ月前対比の伸びは依然マイナス域にあり、企業売上の回復の兆しはまだ見られないといえる。高い企業売上高比率を押し下げるために、今後も在庫調整は継続すると見るべきであろう。

[第5図]
20160517図5

[第6図]
20160517図6

在庫調整の遅れは今後の成長下振れ要因になる

GDP統計上は、20164年1-3月(速報値)まで3四半期連続で企業在庫が成長にマイナス寄与を続けている([第7図])。3月企業在庫統計による在庫増は、1-3月期に限って言えばこれの上方改訂要因である。しかし、上記で述べたように企業在庫調整を今後も継続するとみられ、成長率に対してはマイナスの寄与を今年いっぱいは継続する可能性が高いと見る。

筆者個人は、1-3月期にさらに深い在庫調整が行われて4-6月期には一旦在庫増加ペースが加速することにより成長へのプラス転化を見込んでいた。一方、3月企業在庫統計では企業在庫が6ヶ月ぶりに、企業売上高が9か月ぶりに前月比増加に転じた。高い在庫売上高比率を勘案すれば、この3月の在庫増加はむしろ在庫調整の遅れを示唆するとみるのが妥当であろう。その意味では、3月企業在庫統計の上ぶれは今後の成長予想に対してはむしろ下振れ要因となる。

過去の当レポートでは、設備投資循環がすでにピークアウトした可能性を見た(4月25日付当レポート参照)が、在庫循環も同様にピークアウトの可能性が高いとなると、今後米経済が循環的な減速局面に入っていくとの見方に対するもう一つの支持材料となる。企業は今後も厳しい在庫調整を強いられることで生産抑制が続き、企業部門は今年いっぱい成長に対する下方圧力であり続けるとの見方を維持したい。

[第7図]
20160517図7

<経済指標コメント> 米4小売売上高は前月比+1.3%

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[日本]

景気ウォッチャー調査(4月):現状判断DIは43.5(前月比-1.9ポイント)、先行き判断DIは45.5(同-1.2ポイント)

4月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは43.5(前月比-1.9ポイント)と2か月ぶりの低下、また横ばいを示す50を9ヶ月連続で下回った。家計動向関連、企業動向関連、雇用関連DIのいずれもが低下した。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは45.5(同-1.2ポイント)と3ヶ月連続の低下、横ばいを示す50を9か月連続で下回った。家計動向・企業動向・雇用関連DIのいずれもが低下した。4月の景気ウォッチャー調査には、3月の熊本地震の影響も少なからずみられる。地域別DIをみると、九州のDIが現状判断同-13.4ポイント、先行き判断同-6.9ポイントと大幅に低下している。ただし、熊本地震の影響を除いても街角景気に弱さがみられることには変わりない。1-3月期の日本の成長率を筆者個人は前期比ほぼ横ばいとみているが、4月以降も回復ペースは鈍いものにとどまる可能性を示唆する結果である。調査先の回答には「中間層は消費にシビアであり、可処分所得が増えない中で生活防衛意識は依然強く、必 要最小限以外のものに関する購買はより慎重(小売業)」との回答がみられたほか、熊本地震による悪影響(旅行代理店、輸送用機械製造)や、大手自動車メーカーの燃費不正問題による雇用への影響への言及がみられる。一方で北海道新幹線開業の効果(観光名所)に期待する声も聴かれている。

20160516図1

[米国]

小売売上高(4月)は前月比+1.3%、除く自動車関連同+0.8%

4月の小売売上高は前月比+1.3%と、前月の同-0.3%から大幅増加に転じた。除く自動車関連も同+0.8%と強い伸びだった。米個人消費が一時的な減速にも関わらず再び堅調な拡大継続するとの見方に沿った結果である。内訳は、4月の新車販売増加を反映した自動車及び同部品ディーラー同+3.2%、原油価格の持ち直しを反映したガソリンスタンド同+2.2%のほか、家具店同+0.7%,
家電店同+0.5%、食品店同+0.9%、衣服店同+1.0%など、多くの業種が売上を増加させた。自動車・ガソリン・レストランを除くコアの小売売上高も同+0.7%と強い伸びとなった。今後も雇用拡大と賃金上昇による購買力の増加で、個人消費は堅調に拡大すると見る。

20160516図2

企業在庫(3月)は前月比+0.4%、企業売上高は同+0.3%、在庫売上高比率は1.41倍

3月の企業在庫は前月比+0.4%と6か月ぶりの前月比増加、3ヶ月前対比でも4か月ぶりに増加に転じた。企業売上高も同+0.3%と9か月ぶりの増加となった。もっとも在庫売上高比率は1.41倍と高水準で横ばい推移している。企業在庫と売上高は単月で増加に転じたものの、依然在庫水準は高く、在庫循環は在庫調整局面にある。今後も在庫調整圧力が企業部門の生産拡大を抑制する要因になりそうだ。

20160516図3

<経済レポート> 転換点には見えない:4月雇用統計と労働市場概観

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4月の一時的な米雇用拡大ペース減速にかかわらず、今後も雇用市場は堅調な拡大を少なくとも年内は継続すると見たい。業種別には小売、建設、専門サービス業が雇用拡大をささえており、「隠れた労働余剰」も解消してきている。ほぼ完全雇用の下で今後賃金上昇ペースは加速して、雇用市場は個人消費を中心とする米経済の拡大を底支えすると見る。

景気底支えセクターの雇用増は好調

先週6日に公表された米4月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+160千人と予想を下回り、3ヶ月ぶりに同+200千人を下回った。しかしながら、単月の雇用拡大ペース減速はまだ米雇用市場の転換点とはいえず、非農業部門雇用者数は今後も巡航速度の同+200千人強の増加を今後年内一杯は継続すると見たい。本レポートでは4月雇用統計の内容をいくつかの観点から点検する。

まず、非農業部門雇用者数の業種別内訳をみる。前月比+160千人のうち、民間部門が同+171千人、政府部門が同-11千人と、全体の数字を押し下げたのは主に政府部門であることがわかる(政府部門の前月実績は同+24千人)。一方、民間部門は前月の同+184千人から減速はしたものの、3ヶ月移動平均は同+192.3千人と前月の同+187.0千人から上向きに転じている。つまり民間部門だけで同+200千人の雇用増加を実現できる趨勢に現在はあるといえる。

民間部門の業種別内訳をみると、民間部門全体の前年比増加率+2.2%を上回る雇用増加ペースを保っているのが、建設業(同+4.1%)、小売業(同+2.2%)、専門ビジネスサービス(同+3.6%)、教育・医療業(同+3.1%)などである。需給タイト化による住宅建設増加を反映した建設業の雇用増や、個人消費の堅調な拡大を示唆する小売業の雇用増は米経済を底支えする業種として堅調な成長維持見通しを支持する内容である。また景気敏感セクターである専門ビジネスサービスと、ディフェンシブ業種である教育・医療がいずれも増加していることは、雇用拡大が特定業種に偏することなく分散されて拡大していることを示唆している。もっともいいかえれば、4月の雇用者数増減は業種によるばらつきが大きいと言わざるを得ず、雇用拡大ペースが今後加速するとみるのは難しいだろう。雇用拡大ペースが前年比でマイナスとなっている業種は製造業や鉱業で、外需減速による生産の抑制、原油価格下落による関連業種への悪影響が見て取れる([第1図]、[第2図])。

[第1図]
20160511図1

[第2図]
20160511図2

隠れた労働余剰は縮小、労働力人口に再流入している

次に、失業率と労働参加率の推移をみる。失業率は4月時点で5.0%と、米議会予算局が推計する自然失業率4.9%にほぼ近く、米雇用市場が概ね完全雇用にあることを示唆している。失業率に現れない労働市場の余剰を表す指標として、筆者は「就業意欲のある非労働力人口」の推移をみている。[第3図]によれば、就業意欲のある非労働力人口の増加ペースは、非労働力人口全体の増加ペースを下回っている。つまり、失業率低下の要因となる非労働力人口の増加は、近々労働市場に回帰する可能性の高いいわば隠れた労働余剰によって押し上げられているのではなく、したがって非労働力人口に占める余剰労働力の割合は決して高くはない状態になったといえる。

一方で、労働参加率はここ半年間にこれまでの継続的低下から反転上昇に転じている([第4図])。労働参加率の上昇は、労働力人口への流入が再開し、上記の隠れた余剰労働力が労働力人口に再流入していることを示唆している。これは上記の非労働力人口の内訳の分析とも整合する。これらの隠れた労働余剰が労働力人口にカウントされるようになったことで、労働力余剰が今や失業率指標にも反映されるようになったことになる。労働力人口への余剰労働力の再流入にもかかわらず失業率が5%レベルの低水準を維持していることは、失業率の低位安定が労働市場の拡大を伴うよい低下であることを示唆するとともに、その背景には労働需給がほぼ均衡水準にありながらさらにタイト化の方向にあることを示唆している。

もっとも、失業率が自然失業率に接近したことで、失業率低下ペースは今後減速せざるを得ない。昨年8月以降失業率の前年比の低下幅は縮小方向にある。また、失業率変化の要因分解によれば、労働参加率がその上昇により2月以来失業率の押し上げ要因に転じている。これを上回る就業者数の増加が失業率を低下させているのだが、就業者数増加ペースが今後加速しない限り、失業率低下ペースは減速せざるを得ないだろう([第5図])。

[第3図]
20160511図3

[第4図]
20160511図4

[第5図]
20160511図5

賃金上昇は今後加速すると見る

次に、賃金上昇率をみる。4月時点の時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比の伸び率は+2.5%と、過去3四半期に続いて上昇ペースは加速過程にある。失業率と時間当たり賃金上昇率の関係を見たシンプルなフィリップス曲線によれば、現在の賃金上昇率は失業率が同水準だった2005年の水準にほぼ接近している([第6図])。さらに2005年の傾向からは、失業率が自然失業率の5%を下回ると賃金上昇ペースが加速することが憶測できる。

[第7図]はこの事象を別な観点から検証したものである、2007-8年の景気後退期(リセッション)以前の48四半期データによる回帰分析では、賃金上昇率を加速も減速もさせない失業率(賃金版自然失業率ともいえる)は約5%で、失業率が5%を下回ると賃金上昇率が加速するとの結果が見て取れる。2007年のリセッションによりこの関係は一時崩れ賃金版自然失業率は7%台に上昇したが、現在では再びリセッション以前の回帰曲線に回帰している。

つまり、今後緩やかながら失業率が5%を下回ってくると賃金上昇ペースは加速し、これが雇用増加と合わせて消費者の名目購買力の拡大を促すことが予想できる。ちなみに、雇用増加と賃金上昇から試算した現在の名目購買力は前年比約+4.4%で、今後インフレ率が2%に上昇したとしても、実質ベースで同+2%以上の購買力を維持できる計算になる。

[第6図]
20160511図6

[第7図]
20160511図7

ISM雇用DIも上昇中

最後に、雇用についての先行指標でもあるISM指数の雇用DIをみる。雇用DIは製造業・非製造業ともに今年の2月以降反転上昇傾向にあり、1月に見られた(天候要因とも考えられる)雇用の一時的な急減速時に比べて企業の雇用動向はむしろ改善している。雇用者数の大半を占める非製造業の雇用DIが50%を回復して上昇に転じたことは、今後も内需関連サービス業を中心に、雇用拡大が当面持続する可能性を示唆している([第8図])。

以上より、米雇用市場は、4月単月の減速にかかわらず、今後も堅調な拡大を継続し、個人消費の源泉として経済拡大を少なくとも年内は底支えすると見る。FRBの金融政策については、今回の減速が追加利上げに対するネガティブ材料であることは間違いないものの、次回6月の定例会合までにはさらに5月分の雇用統計が公表される予定であることから、4月単月の結果のみをもって6月会合での利上げ予想を見直す必要性は低い。次回6月の定例会合で+0.25%の追加利上げが実施されるとの個人予想は維持する。

これらの見方に対するリスクシナリオは、循環的な景気減速局面が予想より早く到来することである。4月25日付当レポートで見たように、米経済は約10年サイクルの循環的な減速局面に入りつつあるといえる。筆者個人の見方ではこれが顕在化するのは来年以降とみているが、海外景気や商品価格動向により、この減速ペースが予想外に急激に加速する可能性はリスク要因としては見込んでおくべきであろう。

[第8図]
20160511図8

<経済指標コメント> 米4月非農業部門雇用者数は前月比+160千人

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[米国]

ISM製造業指数(4月)は50.8%(前月比-1.0%ポイント)、非製造業指数は55.7%(同+1.2%ポイント)

4月のISM製造業指数は50.8%(前月比-1.0%ポイント)と4か月ぶりの低下。総合DIを構成する5つのDIの内訳は新規受注55.8%(同-2.5)、生産54.2%(同-1.1)、雇用49.2%(同+1.1)、入荷遅延49.1%(同-1.1)、在庫45.5%(同-1.5)。雇用を除く4つのDIが低下し、総合DIは景気判断の分かれ目を示す50%に再び接近した。企業部門の今後の回復も緩やかであるとの見通しに沿った結果である。ただし、依然業種ごとの調査先の回答内容にはばらつきがあり、「原油価格はやや回復したが当業界は苦戦中(コンピューター及び電気製品)」「自動車業界は依然強い(機械)」などの回答がみられる。また3ヶ月移動平均は50.7%(同+0.9%)と上向きであり、これまでの縮小の反動で一時的には製造業景況感も一旦年央にかけては持ち直しがありうべしとみる。非製造指数は55.7%(同+1.2%ポイント)と2か月連続の上昇で相対的に高水準を保っている。総合DIを構成する4つのDIの内訳は事業活動58.8%(同-1.0%)、新規受注59.9%(同+3.2)、雇用53.0%(同+2.7)、入荷遅延51.0%(同横ばい)。非製造業の景況観は持ち直し傾向にある。調査先の回答にも「非熟練労働力が不足(建設業)」「事業は改善を続けている(卸売業)」「減速の季節だが昨年同時期よりもやや増加すると慎重に楽観視している(小売業)」など、非製造業はエネルギー価格低下の恩恵も受けて良い景況感のものが目立つ。総じて原油価格の低下と外需減速が外需関連業種にマイナス、原油価格低下と内需の強さが内需関連にプラスの影響をもたらす構造とみえる。

20160508図1

新車販売台数(4月、乗用車および軽トラック)は年率17.32百万台(前月比+0.9%)

4月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率17.32百万台(前月比+0.9%)と前月の同-1.0%から反発して同17百万台台を回復した。前年比でも+3.7%の増加。1-3月期に一時的に減速した個人消費が今後は堅調に回復するとの見方に沿った結果である。もっとも、年率17百万台を超えるレベルでは販売市場に飽和感もでてくることから、今後は概ね前年並みの販売台数で推移すると見たい。

20160508図2

雇用統計(4月):非農業部門雇用者数は前月比+160千人、失業率は5.0%

4月雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+160千人の伸びにとどまり、3か月ぶりに同+200千人を下回った。内訳は、民間部門同+171千人(前月同+184千人)、政府部門同-11千人(前月同+24千人)と、政府部門の減少が全体を押し下げており、民間部門は相対的には堅調である。民間部門では、建設業(同+1千人)、小売業(同-3.1千人)、などが雇用を減速または減少させた一方、自動車及び同部品製造(同+6.1千人)、専門ビジネスサービス(同+65千人)、教育・医療(同+54千人)などが雇用拡大を加速させており、内容にはばらつきがある。非農業部門雇用者数の前月比の伸びの3か月移動平均は+200.3千人と200千人台を保っており、まだ雇用の急減速の兆しは見られないといってよい。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.5%と前月の同+2.4%からわずかに伸びが加速、労働市場のタイト化が賃金上昇に遅効的に徐々に波及しつつある。家計調査による失業率は5.0%と前月比横ばい。内訳をみると労働力人口、就業者数のいずれもが減少しており、労働参加率は59.7%(前月比-0.2%ポイント)と低下した。総じて、単月の指標としては予想を下回る内容だったが、雇用市場に著変が生じている証跡はなく、今後も雇用は前月比+200千人強の巡航速度で増加を継続すると見たい。失業率が自然失業率に接近していること(米議会予算局推計の現在の自然失業率は4.9%)から、労働市場はタイトであり、今後賃金上昇圧力が継続するとの見方も不変である。

20160508図3

<経済レポート> 消費は再び堅調に:米4月FOMCとGDP統計

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4月FOMCでは追加利上げが見送られたものの、声明文の微妙なバランスからはFOMC内でも今後の金融政策の行程につき引き続き広範囲な意見があったと憶測できる。米経済成長率は3月時点の見通しよりもやや下振れているものの、個人消費を牽引役に堅調な拡大に回帰、インフレ率も年末にかけて上昇するとの当レポートの見方は不変である。年内+0.25%の利上げが2回実施されるとの個人予想を維持したい。

4月FOMCは利上げ見送り:米経済は減速するも労働市場は改善

FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、4月26-27日の定例会合で予想通りFF金利誘導目標レンジの引上げを見送り、現状の0.25-0.50%に維持することを決定した。会合後に公表された声明文のポイントは大きく3点ある。まず、基調判断において経済成長の減速が認識されたが労働市場については改善が認識されていること、次に、世界経済動向が米国経済に与えるリスクについての言及が削除されたこと、最後に、しかしながら声明文に次回利上げ時期を示唆する文言は挿入されなかったこと、である。

まず、基調判断では「労働市場は更に改善された」とされたが「経済活動は減速したようだ」「家計消費は軟化した」とされ、会合ののちに公表された1-3月期GDP統計とほぼ整合する判断が示されている。しかし「家計の実質所得は堅調なペースで増加し消費者センチメントは引き続き高い」と個人消費の決定要因が強い環境にあると判断されている。「企業設備投資と純輸出は弱い」と前回同様の判断、インフレについても従前同様「一部に原油価格下落とエネルギー以外の輸入価格下落で委員会の2%の長期目標を下回って推移」とされた。

これらの基調判断は、会合以降に公表された1-3月期GDP統計や、これまでの当レポートの見方ともほぼ整合するものである。当レポートでも、1-3月期に個人消費は一時的に減速(前期比年率+1.9%と前期の同+2.4%から減速)したものの、実質可処分所得は3月時点で前年比+3.1%と強い伸びとなっていることから、今後個人消費は堅調な拡大をすると見ている([第1図])。インフレ率については、個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比伸び率は今年末に+1.5%、同コア指数は同+1.9%にまで上昇すると見ている(4月30日付<経済指標コメント>参照)。

[第1図]
20160501図1

グローバル経済金融のリスク文言は削除、次回利上げ示唆文言はなし

次に、FOMCの金融政策スタンスに関する記述では、前回声明文で挿入された「グローバルな経済と金融の動向が(米国経済に)リスクを引続きもたらしている」との文言が削除され、代わりに「委員会はインフレ指標とグローバル経済及び金融動向を引き続き注意深く監視する」と、従前のインフレに加えてこれを注意深い監視の対象とする文言に置き換えられた。

これは、3月会合時点に比べ世界経済が米国に与えるリスクがいくぶん軽減したとのFOMCの判断の反映とも考えられる。しかしながら、委員会の経済見通しに対するリスクのバランスは今回も記載されなかった。見通しに対するリスク判断が声明文に記載されなかったのは、1月定例会合声明文で「リスクはほぼバランス」との文言が削除されて以来3会合連続となる。

最後に、4月の声明文でも次回の利上げについて示唆する文言は挿入されなかった。12月にFOMCが利上げを実施した際にはその前の10月会合声明文で「次の会合で(FF金利)誘導目標レンジを引き上げることが適切かどうかを決定するにあたり、、」との文言を採用し、次回会合での利上げの可能性を示唆していた。その意味では今回の声明文は、次回6月会合での利上げ予想を確固たるものにする内容ではなかったことになる。一方で、FOMCは今後の金融政策正常化の行程につき引き続きフリーハンドを残したといえる。なお、金融政策維持についてはカンサスシティ連銀のジョージ総裁が前回3月会合に続き反対票を投じた。基調判断から投票に至るまでの議論の過程には、これまで同様にタカ派・ハト派間に広範囲な意見が見られたと憶測する。これについては3週間後の議事要旨で確認したい。

消費を牽引役に今後成長は堅調に回復

1-3月期のGDP統計を受けた米経済見通しについては、筆者個人はこれまでの個人予想を大きく変更することなく、2016年通年で前年比+1.7%の成長を引き続き見ている。成長の牽引役は依然個人消費と見る。4月時点での非農業部門雇用者数は前年比+2.0%、時間当たり賃金上昇率(生産及び非監督労働者)は同+2.3%である。これらを合わせた雇用者所得の伸びは約+4%強であり、今後2%にむけてインフレ率が上昇しても2%を超える実質購買力の維持が可能である。上記で見たように、3月時点で家計は前年比+3.1%の実質可処分所得の伸びをたもっている。

FOMC声明文が指摘するように、消費者センチメントも高水準にある。4月のミシガン大学消費者センチメント指数は89.0ポイント(前月比-2.0ポイント)と4ヶ月連続の低下となった。しかしこの水準は、過去の相関からは実質個人消費約+2.7%の伸びに相当する高水準である([第2図])。今後は雇用の伸びが循環的な減速局面に入ると見られる(4月25日付当レポート参照)ことから、個人消費の伸びも昨年のように3%台は期待できず(2016年通年の実質個人消費は前年比+3.1%)、今年は同+2%台半ばに留まると見ているが、それでも経済の潜在成長率を超えるペースの拡大を支えるには十分である。

一方で、企業部門の設備投資や企業在庫、そして純輸出は成長抑制要因とならざるを得ない。企業設備投資の先行指標である非国防資本財受注は1-3月期に2四半期連続マイナスとなる前期比-4.9%だった。鉱工業の設備稼働率は3月時点で74.83%と2010年以来の低水準にある。企業ネットキャッシュフローは10-12月期に前年比-10.0%と2四半期連続のマイナスの伸びとなった。企業在庫期間は2009年以来の高水準にあり、在庫調整が今後も成長を抑制しよう。それでも、個人消費の拡大や企業部門の減速反動が4-6月期以降に見こめば、今後2%レベルの成長継続は十分に可能である。

[第2図]
20160501図2

年内2回利上げ予想を維持する

以上4月FOMC声明文の内容と、今後の米経済見通しを合わせて、筆者個人の金融政策予想を点検してみる。まず、経済成長見通しは、3月時点のFOMC委員経済予測よりも下振れしていると言わざるを得ない。3月時点のFOMC委員見通し中央値は2016年成長率が+2.2%(第4四半期前年同期比)だった。これに対し、1-3月期GDP統計後の筆者の見通しは+1.7%程度である。一方で、2016年PCEインフレ率は3月FOMC委員予測中央値+1.2%(同)に対し、3月実績を踏まえた筆者個人の見通しは+1.3%とわずかにFOMC予測を上回っている。現時点での筆者個人見通しをもとにテイラー・ルールによる2016年10-12月期の適正FF金利を試算すると0.88%となり、従前の1%超よりも下振れている。しかしながらこの水準でも、年内+0.25%の利上げを6月、12月の2回実施(年末FF金利誘導目標レンジ0.75-1.00%)との予想が正当化できることになる。

従って、筆者個人の金融政策予想である上記の予想は現時点では維持しておきたい。FOMCが3月定例会合で利上げを見送った際にも、その理由は「海外経済・金融の米経済への影響」が主なもので、その定量的な根拠は明示的なものではなかった。海外経済は中国を中心に確かに減速はしているものの、一方で金融市場はいまのところ安定を取り戻し、原油価格も1バレル=40ドル台にまで回復している。1月に見られたような市場混乱は既に収拾されているといっていいだろう。

以上の見方に対するリスク要因は以下である。第1に、FOMC内では依然としてハト派の投票メンバーが相対的には多いこと。4月定例会合ではカンサスシティ連銀のジョージ総裁が3月定例会合に続いて+0.25%の利上げを主張して金融政策維持に反対票を投じた。投票メンバーの中ではタカ派よりと見られるセントルイス連銀のブラード総裁やクリーブランド連銀のメスター総裁は4月会合では金融政策維持に投票した。これら3名のタカ派に加えて今後早期の利上げを支持する可能性のあるのはフィッシャーFRB副議長かパウエル理事と憶測できるが、これでもまだ過半数には至らない状況である。また、市場が年内2回の利上げを必ずしも織り込んでいないことに対し、サプライズを避ける配慮をハト派が重視する可能性もある。第2に、FOMCのリスク認識通り海外経済の悪化が米経済の成長を更に下押しするリスクが考えられる。筆者自身は海外経済の急減速は強くは想定していないが、例えば中国経済に加えて欧州金融システムや新興国信用リスク問題が顕在化することで、経済・金融が再び1月のような混乱になるリスクはなしとしない。特に株価が年間でピークアウトしやすいとされる5月を経て夏場にかけての金融市場の動向には、経験則からも留意はしておくことが妥当であろう。また、海外経済減速が企業収益を通じて更なる生産の減速やこれに伴う株価低下をもたらすシナリオもリスクとしては見ておく必要があろう。

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