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<経済レポート> 転換点には見えない:4月雇用統計と労働市場概観

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4月の一時的な米雇用拡大ペース減速にかかわらず、今後も雇用市場は堅調な拡大を少なくとも年内は継続すると見たい。業種別には小売、建設、専門サービス業が雇用拡大をささえており、「隠れた労働余剰」も解消してきている。ほぼ完全雇用の下で今後賃金上昇ペースは加速して、雇用市場は個人消費を中心とする米経済の拡大を底支えすると見る。

景気底支えセクターの雇用増は好調

先週6日に公表された米4月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+160千人と予想を下回り、3ヶ月ぶりに同+200千人を下回った。しかしながら、単月の雇用拡大ペース減速はまだ米雇用市場の転換点とはいえず、非農業部門雇用者数は今後も巡航速度の同+200千人強の増加を今後年内一杯は継続すると見たい。本レポートでは4月雇用統計の内容をいくつかの観点から点検する。

まず、非農業部門雇用者数の業種別内訳をみる。前月比+160千人のうち、民間部門が同+171千人、政府部門が同-11千人と、全体の数字を押し下げたのは主に政府部門であることがわかる(政府部門の前月実績は同+24千人)。一方、民間部門は前月の同+184千人から減速はしたものの、3ヶ月移動平均は同+192.3千人と前月の同+187.0千人から上向きに転じている。つまり民間部門だけで同+200千人の雇用増加を実現できる趨勢に現在はあるといえる。

民間部門の業種別内訳をみると、民間部門全体の前年比増加率+2.2%を上回る雇用増加ペースを保っているのが、建設業(同+4.1%)、小売業(同+2.2%)、専門ビジネスサービス(同+3.6%)、教育・医療業(同+3.1%)などである。需給タイト化による住宅建設増加を反映した建設業の雇用増や、個人消費の堅調な拡大を示唆する小売業の雇用増は米経済を底支えする業種として堅調な成長維持見通しを支持する内容である。また景気敏感セクターである専門ビジネスサービスと、ディフェンシブ業種である教育・医療がいずれも増加していることは、雇用拡大が特定業種に偏することなく分散されて拡大していることを示唆している。もっともいいかえれば、4月の雇用者数増減は業種によるばらつきが大きいと言わざるを得ず、雇用拡大ペースが今後加速するとみるのは難しいだろう。雇用拡大ペースが前年比でマイナスとなっている業種は製造業や鉱業で、外需減速による生産の抑制、原油価格下落による関連業種への悪影響が見て取れる([第1図]、[第2図])。

[第1図]
20160511図1

[第2図]
20160511図2

隠れた労働余剰は縮小、労働力人口に再流入している

次に、失業率と労働参加率の推移をみる。失業率は4月時点で5.0%と、米議会予算局が推計する自然失業率4.9%にほぼ近く、米雇用市場が概ね完全雇用にあることを示唆している。失業率に現れない労働市場の余剰を表す指標として、筆者は「就業意欲のある非労働力人口」の推移をみている。[第3図]によれば、就業意欲のある非労働力人口の増加ペースは、非労働力人口全体の増加ペースを下回っている。つまり、失業率低下の要因となる非労働力人口の増加は、近々労働市場に回帰する可能性の高いいわば隠れた労働余剰によって押し上げられているのではなく、したがって非労働力人口に占める余剰労働力の割合は決して高くはない状態になったといえる。

一方で、労働参加率はここ半年間にこれまでの継続的低下から反転上昇に転じている([第4図])。労働参加率の上昇は、労働力人口への流入が再開し、上記の隠れた余剰労働力が労働力人口に再流入していることを示唆している。これは上記の非労働力人口の内訳の分析とも整合する。これらの隠れた労働余剰が労働力人口にカウントされるようになったことで、労働力余剰が今や失業率指標にも反映されるようになったことになる。労働力人口への余剰労働力の再流入にもかかわらず失業率が5%レベルの低水準を維持していることは、失業率の低位安定が労働市場の拡大を伴うよい低下であることを示唆するとともに、その背景には労働需給がほぼ均衡水準にありながらさらにタイト化の方向にあることを示唆している。

もっとも、失業率が自然失業率に接近したことで、失業率低下ペースは今後減速せざるを得ない。昨年8月以降失業率の前年比の低下幅は縮小方向にある。また、失業率変化の要因分解によれば、労働参加率がその上昇により2月以来失業率の押し上げ要因に転じている。これを上回る就業者数の増加が失業率を低下させているのだが、就業者数増加ペースが今後加速しない限り、失業率低下ペースは減速せざるを得ないだろう([第5図])。

[第3図]
20160511図3

[第4図]
20160511図4

[第5図]
20160511図5

賃金上昇は今後加速すると見る

次に、賃金上昇率をみる。4月時点の時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比の伸び率は+2.5%と、過去3四半期に続いて上昇ペースは加速過程にある。失業率と時間当たり賃金上昇率の関係を見たシンプルなフィリップス曲線によれば、現在の賃金上昇率は失業率が同水準だった2005年の水準にほぼ接近している([第6図])。さらに2005年の傾向からは、失業率が自然失業率の5%を下回ると賃金上昇ペースが加速することが憶測できる。

[第7図]はこの事象を別な観点から検証したものである、2007-8年の景気後退期(リセッション)以前の48四半期データによる回帰分析では、賃金上昇率を加速も減速もさせない失業率(賃金版自然失業率ともいえる)は約5%で、失業率が5%を下回ると賃金上昇率が加速するとの結果が見て取れる。2007年のリセッションによりこの関係は一時崩れ賃金版自然失業率は7%台に上昇したが、現在では再びリセッション以前の回帰曲線に回帰している。

つまり、今後緩やかながら失業率が5%を下回ってくると賃金上昇ペースは加速し、これが雇用増加と合わせて消費者の名目購買力の拡大を促すことが予想できる。ちなみに、雇用増加と賃金上昇から試算した現在の名目購買力は前年比約+4.4%で、今後インフレ率が2%に上昇したとしても、実質ベースで同+2%以上の購買力を維持できる計算になる。

[第6図]
20160511図6

[第7図]
20160511図7

ISM雇用DIも上昇中

最後に、雇用についての先行指標でもあるISM指数の雇用DIをみる。雇用DIは製造業・非製造業ともに今年の2月以降反転上昇傾向にあり、1月に見られた(天候要因とも考えられる)雇用の一時的な急減速時に比べて企業の雇用動向はむしろ改善している。雇用者数の大半を占める非製造業の雇用DIが50%を回復して上昇に転じたことは、今後も内需関連サービス業を中心に、雇用拡大が当面持続する可能性を示唆している([第8図])。

以上より、米雇用市場は、4月単月の減速にかかわらず、今後も堅調な拡大を継続し、個人消費の源泉として経済拡大を少なくとも年内は底支えすると見る。FRBの金融政策については、今回の減速が追加利上げに対するネガティブ材料であることは間違いないものの、次回6月の定例会合までにはさらに5月分の雇用統計が公表される予定であることから、4月単月の結果のみをもって6月会合での利上げ予想を見直す必要性は低い。次回6月の定例会合で+0.25%の追加利上げが実施されるとの個人予想は維持する。

これらの見方に対するリスクシナリオは、循環的な景気減速局面が予想より早く到来することである。4月25日付当レポートで見たように、米経済は約10年サイクルの循環的な減速局面に入りつつあるといえる。筆者個人の見方ではこれが顕在化するのは来年以降とみているが、海外景気や商品価格動向により、この減速ペースが予想外に急激に加速する可能性はリスク要因としては見込んでおくべきであろう。

[第8図]
20160511図8

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