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<経済レポート> 長い下り坂:米経済の生産性上昇率

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4月FOMC議事要旨や5月のカンファレンスボードのレポートが指摘するように、米経済の生産性は低下傾向から脱却できていない。生産性低下は賃金上昇率の抑制要因や潜在成長率低下をもたらす要因である。米経済には余剰生産設備があり、総需要が拡大すれば産出の拡大は可能である。しかし、需要側も拡大ペースが減速する可能性が高いと見ることからは、米経済は引き続き循環的な減速局面に入らざるを得ないと見るのが妥当であろう。

労働生産性、資本生産性ともに中期的な伸び率低下

短期的には米経済にはインフレ圧力が徐々に加速しつつあり、来年にかけて消費者インフレ率や時間当たり賃金上昇率は加速すると見ている。しかしながら、中期的な景気循環上は、米経済はおそらくピークに近いところに位置しており、今後は循環的な減速局面に入りそうだ。さらに、米国の生産性の伸びは依然低下を続けている。生産性の低下は一般に潜在成長率を押し下げるほか、時間当たり賃金の伸びを抑制し、景気減速を加速させる可能性がある。本レポートでは、2015年8月2日付当レポートでみた米国の生産性の状況をアップデートし、これが今後の成長に与える影響につき考察する。

まず、2015年までの年次のデータを基に、米国の労働生産性と資本生産性の推移を見る。労働生産性=実質GDP/労働投入量(非農業部門雇用者数*週平均労働時間)、資本生産性=実質GDP/資本蓄積(=非住宅固定資本*鉱工業設備稼働率)とし、いずれもHPフィルターで平滑化した結果が[第1図][第2図]である。ここから、労働生産性の伸び率は常に資本生産性の伸び率を上回っていること、また労働生産性・資本生産性いずれもが2000年頃をピークに低下傾向を続けていることがわかる。これは、米国の潜在成長率が2000年以降低下を続けていることとも整合している。なお、米労働省生産性及びコスト統計によれば、1-3月期時点の非農業企業部門の労働生産性は前年比+0.6%となっている(5月25日付当レポート参照)。

労働生産性の伸びが資本生産性の伸びを上回っている算術上の背景は[第3図]に示されるとおり、資本蓄積の伸び率が常に労働投入量の伸び率を上回っていたことである。労働投入量は人口増加ペースの制約で年率1~2%の伸びにとどまるのに対し、資本蓄積は設備投資の拡大によりこれを上回る伸びを示していた。結果、実質GDPを労働、資本の各生産要素で除した生産性は労働生産性において資本生産性よりも高いことになる。

[第1図]
20160530図1

[第2図]
20160530図2

[第3図]
20160530図3

全要素生産性の伸びも低下している

次に、複数の生産要素と経済成長の関係をみる。一般に国の潜在成長率は、労働投入量・資本蓄積・全要素生産性の3つの要素で決定されるとされる。そこで、昨年8月2日付当レポートのアップデートとして、労働投入量、資本蓄積、及びトレンド変数を外生変数とする以下のコブ・ダグラス型生産関数を想定し、各変数に対する実質GDPの弾性値を推計する。推計は1967~1990年の24年間と、1991~2014年の24年間に分けて行った。結果は[第2表]の通りである。

ln(Y)=α+β1*ln(L)+β2*ln(K)+ɤ(T)

(Y:実質GDP、L:労働投入量、K:資本蓄積、T:トレンド変数、β1とβ2はそれぞれ、労働投入量と資本蓄積に対する実質GDPの弾性値、γはトレンド変数に対する実質GDPの弾性値すなわち全要素生産性の伸び率を表す)

[第2表]からは、次のことがわかる。まず、資本蓄積は1990年以前においては労働投入量を上回る寄与の生産要素であったが、1991年以降はその意義が著しく後退し、回帰分析上も統計的有意でなくなっているのに対し、労働投入量はほぼその増加率がそのまま成長に寄与していること。次に、トレンド変数の係数である全要素生産性(TFP)の伸びは約+1.4~1.8%であること、つまり技術革新など労働・資本以外の要因で米国の生産性は年率+1.4~1.8%の上昇してきたということである。なお、米議会予算局は、2016年3月の「財政・経済見通し」において、米経済(非農業企業部門)の潜在TFPを、1991-2001年、2002-2007年、2008-2015年につきそれぞれ1.5%、1.9%、0.8%と推計しており、上記の結果はこれと概ね整合するものである。

[第1表]
20160530表1

生産性低下でも2%台の成長は可能

さらに、ここから、全要素生産性の年次の推移の抽出を試みる。[第1表]で導出した推計式による実質GDP推計値と実質GDP実績との乖離(対数値)を、全要素生産性実績のトレンドからの乖離によるものとみなし、この差分の前年比伸び率を上記の+1.8%に加減することで、全要素生産性を年次で算出した。結果は[第4図]の通りである。ここからは、全要素生産性の伸び率が2000年頃をピークに低下トレンドをたどっており、2014年時点では前年比約+0.4%にまで低下していることがわかる。これは上記の米議会予算局の推計の傾向とも整合するものである。つまり、米国の生産性は労働・資本・その他全要素いずれもその伸び率を中期的トレンドとして低下させていることになる。

生産性上昇ペースが継続的に低下している背景はいくつかの点が一般に指摘されている。一つには90年代のIT革命以来目立った技術革新がないこと、一方で最近のICT技術やSNS等の普及で示現しているはずの生産性向上がGDP統計に反映されていないこと、などである(5月30日付FT紙)。

生産性上昇率が現状程度にとどまるとすると、今後の経済成長率も大幅な加速は望みにくい。労働投入量は失業率の低下にともないその拡大ペースは減速せざるを得ず、非農業部門雇用者数の伸びは前年比+2%前後にとどまるだろう。資本蓄積が進んだ場合でも上記の通りこれが成長に寄与はほぼゼロとなる。全要素生産性が+0.4%にとどまるならば、結果今後の経済成長の巡航速度は現状とほぼ同じ+2%台前半~同半ばということになる。

[第4図]
20160530図4

需要減速で結果的には成長は減速局面に入る可能性が高い

もっとも、需要が拡大すれば成長率が更に加速することは可能である。上記の生産関数において資本蓄積は、非住宅ネット民間固定資本に鉱工業設備稼働率を乗じたものである。現在、鉱工業設備稼働率は4月時点で75.4%の低位にある([第5図])。今後雇用増加や賃金上昇により総需要が増加すれば、供給側は設備稼働率を上昇させることで、生産要素の追加的拡大なしに供給力を高めることができ、結果経済成長ペースを加速させることができる。いわば現在の経済減速は実際には主に需要側の要因によるものであって、供給側は依然十分な供給力を有しているといえる。

以上の示唆するところは、冒頭で述べたように、米国の潜在成長率が依然低下傾向にあることから、今後も成長率の急加速は望みにくいこと、及び生産性上昇率の低下は中期的には賃金上昇率ひいてはインフレ率の抑制要因となりうることである。総じて米経済の生産性の伸び率が依然低下傾向にあることは事実である。しかし、米経済にはまだ供給力の余剰があり、これらを活用することで、需要拡大に見合った供給による成長の加速は理屈の上では可能である。ただ、需要サイドにおいて、雇用・海外経済の加速ペースが1~2年後までには循環的ピークを迎える可能性が高いことは、結果的に総需要の伸びも短期的には減速する可能性をも示唆している。

なお、米調査機関カンファレンスボードは26日、米国の2016年の労働生産性の伸び率がゼロかわずかにマイナスの伸びに転化するとの調査結果を発表した(”The Conference Board Total Economy Database TM“, May 2016)。この根拠は、2016年の実質GDP成長率が前年比+1.7%、労働投入量も同じく同+1.7%との予想に基づき、結果労働生産性の伸びはほぼゼロとなるというものである。筆者個人は今年の成長率をカンファレンスボードと同じ同+1.7%、非農業部門雇用者数の伸びを同+2%弱とみている。結果筆者の個人予想からは、2016年の労働生産性の伸びはさらに大幅にマイナスになる計算になる。

[第5図]
20160530図5



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