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<経済レポート> 循環加速トリガー:英国のEU離脱選択

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23日の英国国民投票はEU離脱支持が多数を占めた。中長期的には、正式なEU離脱に係る手続は最速2年を要し、離脱後の構造変化の効果が出るのはまだ先である。一方短期的には、金融市場変動や英国・欧州の実体経済を通じて日米の経済への影響が考えられる。内需中心の米経済への影響は限定的とみるが、FRBの利上げペースは個人予想比後倒しとならざるを得ない。日本については相対的に脆弱な経済拡大ペースに円高が加わり、成長に相応の影響があろう。グローバルには景気循環が減速局面に入りつつあるタイミングでのBrexit選択は、このサイクルを前倒しにするトリガーになる可能性をも孕んでいる。

英国は国民投票でEU離脱を選択

6月23日に実施された英国のEU離脱に係る国民投票結果は、離脱支持が51.9%、残存支持が48.1%と、離脱支持が多数を占めた。英国のEU離脱(Brexit)は当レポートにとっての下方サプライズであり、筆者個人の経済成長見通しに下方リスクをもたらしうるものと言わざるを得ない。本レポートでは、英国のEU理離脱が世界経済に与える影響を主に短期的視点から大まかに見るとともに、今年の日米経済個人予想へ影響を考察する。

英国のEU離脱選択の他国への影響は、短期的なものと中長期的なものに分けられる。短期的影響は主に金融市場変動と欧州経済悪化を通じた影響、中長期的影響は主に英国EU離脱に伴う通商関係・労働市場の変動や、他国への政治的波及を通じた影響が考えられる。EUの基本条約であるリスボン条約第50条には、離脱を決定した国はEUにこれを通知、EUは当該国とEUとの将来の関係の枠組みを考慮した交渉を行ったうえで離脱契約を締結すること、離脱契約締結には欧州理事会の過半数の賛成と欧州議会の同意が必要とされることが定められている。また同条では、離脱契約の発効から2年後、または離脱契約が成立しなかった場合離脱国による通知から2年後に、当該国に対する同条約が失効する旨定められている。なお一般に、英国の離脱後のEUとの関係の枠組みには、ノルウェーやアイスランド、リヒテンシュタインのようにEU非加盟ながら欧州経済圏(EEA)にとどまることで単一市場に参加する方法、スイスのようにEEA非加盟ながらEUとの個別貿易協定とシェンゲン・ビザによる人の移動を可能とする方法、トルコのようにEUと関税協定を締結する方法、さらに多国間協定によることなく個別にFTA等を締結する方法、などがありうるとされる(6月11日付英Economist誌等による)。

英国が国民投票でEU離脱を選択したといってもその本来的な法的効果は最速で2年後、またEU離脱発効後も英国のEUとの経済関係にはさまざまな選択肢がありうる。したがって、今回の国民投票結果がただちに経済構造変化のチャネルを通じて実体経済に波及するわけではない。最速2年後の正式な英国EU離脱をにらんだ企業や労働市場の行動変化もその決定には相応に時間がかかる。経済構造変化による中長期的な実体経済への影響は年内にただちに示現するとは考えにくい。

短期影響は金融市場と英・欧実体経済を通じ波及

一方で、短期的影響の波及には留意する必要がある。まずは金融市場を通じた短期影響について見ていく。金融市場への影響は国民投票結果が明かになった24日に現れた。24日の日経平均株価は前日比-1286円安の14952円、NYダウは前日比-610ドル安の17400ドルで引けた。為替市場では、ドル円が前日の1ドル=106円レベルから一時同100円を割り込むなど急激な円高が進行し、NY市場では同102円レベルで引けた。英ポンドは前日の1ポンド=1.50ドルレベルから、一時同=1.35ドルレベルにまで急落ののち、同=1.36ドルレベルで引けた。債券市場では長期金利が低下、日本国債10年物利回りが-0.196%と前日の-0.140%からマイナス幅が拡大、米国債10年物利回りは1.56%と前日の1.74%から急低下した。またこの国民投票結果に対しては、各国中銀・政府当局者からも強い関心と配慮が示された。24日、日本の財務省・日銀は「英国のEU離脱問題に関する財務大臣・日本銀行総裁共同談話」を公表、「この結果が、世界経済や金融・為替市場に与えるリスクについて懸念しており、引き続き注視していく」「外貨流動性の不足といったリスク、、、については、主要国の中央銀行が結んでいる通貨スワップ網、、を活用し、必要に応じて対応を行う」と述べた。米国のFRBは「FRBはグローバルな金融市場動向を注意深く監視する」との声明を公表、同様に資金流動性に対しては中銀間の通貨スワップ協定等をも活用して対処する旨を表明した。こうした金融市場変動は企業や個人のセンチメントや資産効果を通じて英国・欧州及び日米等他国の実体経済に影響するリスクがある。

今後の金融市場については政治動向等により波乱含みになりうる。ただし、実体経済への波及が中長期にわたるものであることから、英国民投票結果要因に起因する当初の市場変動は数週間以内の比較的早期に収拾されるとみておきたい。その後年内については暫定的に以下の様に見ておく。為替市場では円高、ユーロ安が進行しそうだ。金融市場の不確実性の高まりで安全資産とされている円が買われやすくなるだろう。一方で欧州経済への懸念からユーロは売られやすい地合いになろう。米ドルは基本的には中立であるが、ユーロに対してはドル高になる。株式市場では、日経平均の24日終値は2月の年初来安値とほぼ同レベルをサポートに下げ止まった形、一方NYダウは5月の安値レベルまでの下げでとどまっており、2月の年初来安値の15660ドルに比べまだ高水準にある。テクニカルには、日経平均は14900円を割り込めば更なる下落がありうるが、NYダウは高値からの調整程度にとどまっており、短期的に年初来安値を下回るシグナルはない。日米の長期金利は、日銀追加緩和期待とFRBの利上げ後倒し観測から今後弱含みで推移せざるを得ないだろう。

欧州の実体経済を通じた短期的影響は、主に英国とユーロ圏の年内の成長率低下という形で示現し、これが日米経済に波及する経路をとると考えられる。主に対英国・欧州への輸出減を通じた日米実体経済への下方リスクは高まったといえる。しかし、短期的な年内の実体経済への影響は英国において最も大きく、ユーロ圏においては限定的と見たい。したがってのちに述べるように、内需中心の米国経済への短期影響は相対的に限定的、日本については本来の経済の脆弱性と円高進行により、短期的な経済成長に相応の下方インパクトがあると見ておく。なお、その他の短期的波及経路としては、他のEU加盟国の追随離脱への懸念拡大が考えられる。オランダ及びフランスの極右政党はEU離脱国民投票実施の政策を表明、イタリアでもEU離脱派がローマ市長に選出された。26日にはスペインでの総選挙が実施され、EU懐疑派の議席増の可能性も報じられている。これらの懸念が実体経済を通じて英国・ユーロ圏経済の悪化を加速する可能性はある。

年内米国成長見通しへの影響は限定的:ただし追加利上げは困難に

以下では、4月3日付当レポートで示した今年の日米経済・金融個人予想に対する今回の英国民投票結果の影響を見る。まず、米国の成長率については、今回の国民投票の直接的影響は相対的には小さいと見たい。現在筆者個人は2016年の米成長率を前年比+1.7%と予想しているが、これを大幅に下方修正する必要は現状ないと考える。米国経済は主に個人消費を中心とする内需が牽引役となっているからだ。筆者個人は現在、GDPのうち個人消費が雇用拡大・賃金上昇による購買力の増加を背景として通年で前年比+2.3%拡大するとみている。雇用拡大ペースが現状の前年比+2%前後を維持し、賃金上昇率が+2%台半ばを維持すればこの予想は達成可能である。個人消費の株価に対する弾性値は相対的に小さい。実質個人消費の要因分析によれば、個人消費のNYダウ変化率に対する弾性値は0.01程度であり、NYダウの-10%の下落は個人消費を-0.1%程度抑制するに過ぎない(2015年12月13日付当レポート参照)。経験則的には仮に今後株価下落があったとしても個人消費への影響は限定的とみる。なお、NYダウの24日の下落率は前日比-3.39%と、日経平均の同-7.92%、DAXの同-6.82%にくらべ相対的に小幅にとどまった(24日NYダウ終値は17400ドル)。4月時点の筆者個人予想である年末18000ドルには下方リスクが出てきたともいえるが、現在において更なる下落の加速方向に判断を修正するには時期尚早とみる。企業部門の回復は英国・欧州経済減速により遅れることとなろうが、もともと企業設備投資は2016年通年でマイナス成長を見込んでおり、ここからの限界的な下方修正は今後の指標次第としておく。対欧州輸出はユーロ安・ポンド安・ドル高によりさらに減速が見込まれるものの、2015年の米国の名目輸出額(2兆2612億ドル)に占める対EU輸出(5007億ドル)の割合は約22.1%、対英国輸出(1235億ドル)の割合は約5.5%程度である。対EU輸出が仮に-5%減少した場合でも、名目GDPに与える影響は-0.15%程度にとどまる計算になる。減速による成長率の下振れは現状個人予想からの主な下方リスク要因として見ておくにとどめる。

一方で、FRBの金融政策予想については下方修正を考慮せざるを得ない。15日の6月FOMC定例会合後の記者会見でイエレンFRB議長は、Brexitのリスクが同会合での利上げ見送りの一つの判断材料だったと述べている。今回そのリスクが示現したことを勘案すれば、状況証拠的には早期の追加利上げは正当化しにくい環境になってきたと言わざるを得ない。年内の経済成長とインフレ推移がFOMC委員予測通りだった場合、テイラー・ルール公式が依然年内の追加利上げを正当化していることに変わりはない。しかし、不確実性の環境は追加利上げ判断を困難にする方向にシフトしている。そこで、年内2回の利上げという個人予想は下方修正を考慮する。ただし、米実体経済成長見通しは年内大きく下振れすることは考えづらいことから、年内1回の利上げは実施される可能性が依然高いと見ておく。またこれに合わせ、年末に2%台への上昇を見込んでいた米国債10年物利回り予想も下方修正を考慮する。

米経済・金融についての上記の見方に対するリスクシナリオとしては、英国民投票結果をトリガーに企業の雇用意欲が後退して、4、5月の雇用統計で表面上悪化した雇用拡大ペースがさらに低下し、実体経済成長を下振れさせる可能性を見ておく必要があろう。その意味では、7月8日公表予定の6月雇用統計で4、5月の悪化が回復していることを確認するのみならず、英国民投票結果を反映した7月以降の雇用市場の状況も基調判断には重要になってくる。6月分雇用も悪化が続いている場合には上記の個人予想の修正も必要となる可能性があるうえ、6月で回復しても7月以降の雇用市場状況は常に点検していく。なお政治的には、11月の米大統領選の動向にBrexitが影響を与える可能性も見ておく必要はあろう。Brexitの一つのモチベーションが移民流入の排斥という政治的保守の考え方であったことを勘案すれば、今回の英国民投票結果は米国において同様の政策を掲げる共和党トランプ候補にとっては好材料になる。英国国民投票直前の世論調査では、民主党クリントン候補の支持率(45.3%)がトランプ候補のそれ(38.4%)を上回っている(Real Clear Politics社調査、6月22日時点)が、英国民投票結果後の世論調査の推移には注目したい。

日本経済は相対的にショックに弱い:円高が更に重石に

次に、日本経済の成長率個人予想については下方リスクが高まったといえる。従前より日本経済条件は米国のそれに比べ相対的に減速が明らかで、今回のBrexitなどの外部ショックの影響を受けやすいこと、また円高による輸出や企業収益への悪影響は日本経済により強い下方リスクとなることがその背景である。24日の日経平均は世界の主要株価指数の中で最も大きく下落したことにもこのリスクは現れている。1-3月期の成長率が前期比年率+1.9%と4月時点の個人予想よりも上振れしたことで、2016年の成長率は4月3日時点の予想(同+0.3%)よりも上振れして前年比+0.6%レベルを実現できるペースだった。しかしながら、今回の英国EU離脱選択による円高と株安リスクで、+0.6%成長シナリオには黄信号がともったといえる。もっとも、財政政策の発動等により年後半の成長が大幅にマイナス成長になるとは考えにくく、暫定的には今年の暦年成長率を前年比横ばい~+0.6%の範囲内と見ておきたい。金融市場については、日銀の追加緩和期待から長期金利予想は下方へ、為替市場についてはドル円を円高方向への修正を考慮する。株価については、テクニカルには日経平均が2月年初来安値の14900円を大きく下回る場合は更なる下落方向に個人予想を修正する必要が出てくる。

金融政策については、日本銀行による追加的金融緩和の可能性が高まりつつあるといわざるを得ない。マイナス金利拡大の実体経済を通じた限界的効果については限定的と見るものの、英国のEU離脱という相応に大きなイベントへの対処という中央銀行のコミットメントを明確化するアナウンスメント効果を目的に追加緩和は正当化可能ではある。1月に初のマイナス金利政策導入を決定した際に日銀は「(世界的な金融市場の不安定のため)、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大している」ことをその背景として挙げた。今回の金融市場変動は1月と同様であり、ここからの波及リスクへの対処という位置づけで追加緩和を決定する可能性はあるといえる。一方で財政政策としては、新たな財政出動が実施される可能性が高い。5月26、27日の伊勢志摩G7サミットでは「新たな危機に陥ることを回避するため、、、適時に全ての政策対応を行う」ことが合意された。6月1日の記者会見で安倍首相は2017年4月に予定されていた消費税率の8%から10%への引き上げを30ヶ月延期し、2019年10月とすることを表明した。同時に安倍首相は「日本として構造改革の加速や財政出動など、あらゆる政策を総動員」する、とのべた。Brexitは追加的財政出動を今や正当化しうる契機となる。

日米経済への中長期的影響については、今後の英国の対EU交渉等を通じて見ていくこととする。欧州経済にとって英国のEU離脱は単一経済のメリットの大幅な後退であり、英国経済の空洞化や、企業機能や労働力の欧州大陸へのシフト等が考えられる。ただ本レポートでは、景気循環の観点からその下方リスクを指摘するにとどめる。世界経済成長は英国民投票以前からすでに緩やかな減速局面にすでに入りつつあったといえる(4月25日付当レポート参照)。米国経済成長は従前より、昨年までの2%成長から1.7%成長への減速を見込んでいる。ちなみに、今年の6月は、直近の景気の山である2007年12月からかぞえて102ヶ月になる。過去3回の米国の景気後退が概ね100ヶ月強のサイクルで始まっていることを考えれば、経験則的にはそろそろ次の景気の山が視野に入る時期ということになる。日本経済は、リーマンショックによる2008年~2009年の景気後退の後、2010年~2011年(東日本大震災)、2012年(欧州危機)、2014年(消費税率引き上げ)の3回テクニカルリセッション(2四半期以上連続のマイナス成長)を経験した。このうち内閣府による景気基準日付で景気後退とされたのは2012年のみであり、景気の山は2012年3月とされている。日本の場合、景気の山から山の間隔は米国のそれよりやや短く数年程度である。景気循環上、日本でも来年以降に次の景気の山が視野に入ってくる。直近では、今年の1-3月期までの4四半期のうち2四半期においてマイナス成長となっており、特に2014年の消費税率引き上げ以降家計消費を中心に回復力は弱まっている。日米のかかる景気循環局面下での英国EU離脱選択は結果的に、来年以降の景気の下降サイクルへの転換を前倒しさせる心理的トリガーとなる可能性を孕んでいる。

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<経済指標コメント> 米5月中古住宅販売戸数は前月比+1.8%

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[米国]

中古住宅販売戸数(5月)は年率5530千戸(前月比+1.8%)、在庫期間は4.7ヶ月

5月の中古住宅販売戸数は年率5530千戸(前月比+1.8%)と3ヶ月連続の増加。中古住宅販売は堅調に増加している。販売在庫は2150千戸(同+1.4%)とこれも増加を続け在庫期間は4.7ヶ月(前月比横ばい)、需給は徐々に緩和されている。不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「春のきわめて低い住宅ローン金利が住宅購入インセンティブとなった」ものの「第1の推進力は、持家保有者が持家の純資産額の増加に気づいた」ことで買い替えが進んだためとしている。

20160625図1

新築住宅販売戸数(5月)は年率551千戸(前月比-6.0%)、在庫期間は5.3ヶ月

5月の新築住宅販売戸数は年率551千戸(前月比-6.0%)と前月の同+12.3%の大幅増の反動もあり減少。しかしながら6ヶ月移動平均は541.3千戸(同+1.3%)と上昇しており、販売増加基調は続いているといえる。在庫期間は5.3ヶ月と前月の4.9ヶ月から長期化、需給もほぼ適正な水準の範囲内にある。

20160625図2

耐久財受注(5月)は前月比-2.2%、除く運輸関連同-0.3%、非国防資本財受注(除く航空機)同-0.7%、同出荷同-0.5%


5月の耐久財受注は前月比-2.2%、除く運輸関連同-0.3%。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)は同-0.7%と2ヶ月連続の減少。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同-0.5%と3ヶ月ぶりに減少、5月までの4-6月期同出荷は前期比-0.5%と3四半期連続マイナスの伸びとなるペースである。企業部門の設備投資は依然回復力が弱く、減速が続いているといえる。

20160625図3

<経済レポート> 不確実性で利上げ見送り:6月FOMC

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6月14-15日のFOMC定例会合では追加利上げが見送られ、FF金利誘導目標レンジは0.25-0.50%に据え置かれた。のみならず今後の利上げペースについてのFOMC委員予測は大幅下方シフトした。成長・雇用・インフレ見通しが大きく悪化していないにもかかわらず利上げペース予測がシフトした背景には、英国EU離脱リスクなど目先の海外要因と、中立金利低下という中長期的構造要因があることがイエレン議長会見から判明した。当レポートにおける年内2回利上げの個人予想はいったん維持するものの、状況証拠は利上げが年内1回にとどまるという下方リスクを強く示唆していると言わざるを得ない。

6月FOMCは追加利上げ見送り:金利予測は下方シフト

FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、6月14-15日の定例会合で追加利上げを見送り、FF金利誘導目標レンジを従前の0.25-0.50%に据え置いた。筆者個人の6月利上げ予想は、事前の5月雇用統計やその後のイエレンFRB議長講演のハト派基調から大きなリスクにさらされていたが、これが示現した形である。本レポートでは、6月FOMC声明文と会合後のイエレンFRB議長の定例記者会見から、利上げ見送りの背景と今後の金融政策予想を点検する。

6月FOMC声明文の内容は、前回4月声明文から本質的な変更はなかったといえる。冒頭の基調判断では「労働市場の改善は減速した」と4月、5月の雇用統計悪化を背景に判断を下方修正、一方で「経済活動の成長は加速したと見える」「家計消費は強まった」として個人消費加速を背景に4-6月期の成長加速を評価している。総じて経済の基調判断は中立といえる。金融政策に関する記述では「委員会はインフレ指標とグローバルな経済と金融動向を注意深く監視していく」との文言が存置された。経済見通しへのリスクバランスに関する記述は引き続き記載されず、また次回定例会合での利上げを示唆する文言も挿入されなかった。FF金利誘導目標レンジを維持する決定は投票メンバーの全会一致だった(前回4月定例会合で利上げを主張して反対票を投じたカンザスシティ連銀ジョージ総裁も6月会合では利上げ見送りに賛成)。

声明文と同時に公表されたFOMC委員の経済予測は[第1表]の通りである。これによれば、成長率・失業率・インフレ率についての予測中央値は前回3月定例会合時点での予測値から大きな変化はない。足元の指標を反映して、2016年の成長率がやや下方シフト、PCEインフレ率とコアPCEインフレ率がやや上方シフトしているのみである([第1図])。一方で、適正なFF金利については、2016年末の水準についての予測中央値は0.875%と3月比不変であるものの、17人の委員のうち年末FF金利0.625%(年内の利上げが1回にとどまる)と予測する委員の数が前回3月時点の1人から、6月には6人に急増している([第2図])。さらに、2017~2018年にかけての適正なFF金利予測値と、長期的なFF金利予測が大幅に下方シフトしている([第3図])。

[第1表]
20160619b表1

[第1図]
20160619b図1

[第2図]
20160619b図2

[第3図]
20160619b図3

利上げ見送り判断の理由は声明文からは明らかでない

次に、会合後に実施されたイエレン議長の定例記者会見の内容をみていく。冒頭発言で議長は「第1四半期の家計消費の減速は一時的なものだったと見られ、第2四半期のこれまでの指標は相応の反発を示唆している」として、経済成長には相対的に楽観的である。一方で「労働市場の改善は明かに減速した」と述べた。金融政策については「短期金利が依然ゼロに近いことを勘案すれば、慎重さがもっとも適切である」「グローバル経済の脆弱性は残っている」と述べた。この冒頭発言の内容は声明文や従前のFOMCの公式スタンスをいわばなぞったものにすぎないといえる。

今回の6月FOMC会合までには、金融政策予想をめぐりいくつかの経緯があった。5月18日に公表された4月FOMC議事要旨では、6月会合での利上げにつき、ほとんどの(most of)参加者が「今後入手されるデータが、経済成長の第2四半期の加速、労働市場の強まりの継続、インフレの委員会の2%目標への進捗と整合的ならば、委員会が6月の会合でFF金利誘導目標レンジを引き上げるのが適切になる可能性が高い」と判断したとされ、6月利上げ予想を支持する大きな材料となった(5月25日付当レポート参照)。しかしながら、6月3日に公表された5月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比+38千人にとどまり、6月利上げへの下方リスク要因となった(6月5日付当レポート参照)。さらに、6日の米フィラデルフィアでの講演でイエレン議長は「金曜の雇用統計は失望させるものだった」「経済見通しには重要な不確実性がある」「適度に緩和的な金融政策スタンスが適切」とのべ、ハト派色の強いメッセージで6月利上げ予想への下方リスクが高まった。

しかしながら総じて、6月FOMC声明文そのものや、イエレン議長定例記者会見の冒頭発言テキストは、会合での利上げ見送り理由や今後の金融政策見通しに関して多くを語っていない。成長、失業率、インフレ率に関する経済予測が大きく変わっていないにも関わらず、年内の利上げ予測が下方シフトしたことや長期的なFF金利行程が下方シフトしたことについては、これらでは十分に説明されていないといえるだろう。

イエレン議長記者会見のキーワードは「Brexit」と「中立金利低下」

一方、イエレン議長記者会見の質疑応答からは、声明文には明記されなかったいくつかの判断材料が見えてくる。まず短期的材料として、英国のEU離脱(Brexit)リスクへの言及がなされた。Brexitについてイエレン議長は記者の質問に答え「(Brexitは)我々が(会合で)議論した重要な事項であった」「Brexitが本日の決定の一つの要素であると言うのが適切であろう」と述べ、6月会合での利上げ見送りに際してBrexitリスクが一つの判断材料であったことを明かした。声明文上は「グローバルな経済と金融の動向」の中にBrexitも含まれると読み取ることができる。しかしながら、6月会合直前の世論調査集計で、EU離脱派がEU残留派を一時的に上回ったこと(6月13日付FT紙調査では離脱45%残留43%、なお19日時点の同調査では双方44%で拮抗)によるリスクの高まりは声明文には反映されていない。

次に、中期的なFF金利の動向に関する材料として、イエレン議長は中立金利の低下を挙げた。「成長率予測が不変なのに金利予測が大幅下方改訂されているのはなぜか」との趣旨の記者の問いに対して議長は「多くの経済統計他の研究は、いわゆる中立金利、つまり完全雇用に近い趨勢での経済成長に整合するFF金利の水準、が歴史的に大きく低下していることを示唆していると私は考える」「多くの推計はインフレ調整後の実質中立金利がゼロに近いとしていると思われる」と述べた。また、中立金利の低下要因として議長は、金融危機による向かい風に加えて「生産性の低下」を挙げている。

6月時点のFOMC委員経済予測によれば、長期的な適切なFF金利水準の中央値は3.0%とされており、これは3月時点予測の3.3%からは-0.3%、1年前の2015年6月時点の同3.8%からは-0.8%引き下げられている。FOMC委員の予測による長期FF金利は、FOMCの使命である物価安定(目標はインフレ率+2%)と雇用最大化における適切なFF金利とされており、これは上記のイエレン議長のいう中立金利の水準とほぼ同義である。成長予想が変化していないにもかかわらず金融政策予測が下方シフトしているのは、完全雇用における中立金利の適正水準の推計値が以前に比べ低下していることの反映だと議長は述べているわけだ。

状況証拠からは年内2回利上げ予想には下方リスク

中立金利の低下についてややパラフレーズしておくと、これは米国の潜在成長率の低下とも言いかえることができる。中立的な金利は、潜在成長率にインフレ率を加えたものと考えられる(自然利子率=潜在成長率とする場合)。た例えば、潜在成長率が2%で、期待インフレ率が2%とした場合、中立金利はこれらを加えた4%となる。FOMC委員の見る長期的な中立金利が過去の約4%から6月時点で3%に低下したことは、期待インフレ率(望ましいインフレ率=FOMCのインフレ目標)が一定とした場合、潜在成長率が約+2%から約+1%に低下したことを意味する。自然利子率の低下については過去のFOMC議事要旨からも時々議論されており(例えば今年の3月FOMC定例会合では、「多数の(a number of)参加者は「成長を抑制し自然利子率を押し下げる向い風の低減は遅い可能性が高い」と述べている」、これが長期的なFOMC委員の金融政策見通しに影響を与えていることは想像に難くないことである。

現状の米国の潜在成長率をシンプルなオークンの法則で推計すると[第4図]のようになる。20四半期ローリング回帰による2016年1-3月期時点の潜在成長率は前期比年率+1.5%、40四半期ローリングによるそれは同+1.3%となった。いずれも2%を大幅に下回りかつここ2年間で低下傾向にある。ちなみに米議会予算局(CBO)推計による現在の潜在成長率は同+1.5%で、この推計ともほぼ一致している(CBO「財政・経済見通し」2016年1月)。つまり、望ましいインフレ率を2%とした場合、これに潜在成長率を加えた中立金利水準は現在では概ね3%前半から半ばということになり、かつその水準は低下方向にあるということになる。これはFOMC委員経済予測における長期適正FF金利水準予測とも整合する(もっとも、潜在成長率はその推計方法により異なり、たとえば1992年以降の四半期データをHPフィルターで平滑化したトレンドから推計した2016年1-3月期潜在成長率は同+2.1%と、オークンの法則やCBOによる推計値よりも高めに出ている―[第5図]参照)。また、米国の生産性の低下については5月30日付当レポートなどで論じたように、これが潜在成長率低下の一つの要因であることもイエレン議長の述べたことと同様の見方を当レポートもとっている。

さて、以上の材料から今後のFRB金融政策予測を点検してみる。まず、ファンダメンタルズ指標について、成長率やインフレ見通しは、声明文や議長記者会見で述べられているように継続的な利上げ実施を正当化するものである。不確実要因として4-5月に悪化した雇用指標の回復を6月指標以降に確認する必要はあるだろう。次にグローバル経済については、Brexitという不確実要因はあるものの、これは6月23日の英国民投票で結果が判明する。つまり、次回7月26-27日のFOMC定例会合時点では、ファンダメンタルズとグローバル経済に関する不確実要因は相応に払拭されていることになる。次に、中立金利低下が年内の利上げペースの低下を促す可能性については、筆者個人はやや否定的である。金融政策の正常化は「徐々に」「慎重に」進めることがFOMCの基本スタンスであるが、正常化の最終目標水準が仮に低下しても、これにより足元にまでさかのぼって利上げペース低下方向に調整する必要は必ずしもない。経済活動の拡大が順調な場合はむしろ正常化実現時期を早めることで、その後の経済変動に対する金融政策ののりしろを確保できるからである。しかしながら最後に、FOMC委員経済予測などの状況証拠からは、年内2回の利上げの可能性はかなり後退したと言わざるを得ない。6人の委員が年内1回の利上げ意見に傾いていること、FF金利の長期中立水準への回帰は2019年以降ということになっていること、また前回4月定例会合で利上げを主張したカンザスシティ連銀のジョージ総裁が6月会合では利上げ見送りに賛成票を投じたこと、などは、FOMC全体がハト派に傾いている可能性を示唆している。ついては筆者個人の年内2回利上げ予想は維持し、その時期を7月及び12月定例会合に修正する。しかしこの予想は依然下方リスクにさらされていると言わざるを得ない。

[第4図]
20160619b図4

[第5図]
20160619b図5

<経済指標コメント> 米5月小売売上高は前月比+0.5%

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[米国]

企業在庫(4月)は前月比+0.1%、企業売上高は同+0.9%、在庫売上高比率は1.40倍

4月の企業在庫は前月比+0.1%と2ヶ月連続の増加。企業売上高は同+0.9%と2ヶ月連続かつ2014年2月以来の大幅増加となった。内訳は製造業同+0.5%、小売業同+1.4%、卸売業同+1.0%と、4月の小売売上急増が全体を押し上げている。結果在庫売上高比率は1.40倍と13カ月ぶりに小幅低下した。単月指標としては、在庫積み上げを上回る売上増で在庫調整が進んだ形である。しかし、4月の在庫調整は家計部門の反動増によるところが大きく、また在庫売上高比率は依然高水準であり、在庫循環図はいまだ在庫調整局面にある。外需や設備投資など企業部門における売上高が本格回復するまでは在庫調整圧力は継続し、生産抑制圧力となると見たい。

20160619図1

小売売上高(5月)は前月比+0.5%、除く自動車関連同+0.4%

5月の小売売上高は前月比+0.5%と、前月の同+1.3%の急増後も依然堅調な増加で、個人消費が年初の減速から確実に回復しているとの結果になった。自動車関連を除く売上高も同+0.4%と堅調。業種別内訳は、自動車及び同部品ディーラー同+0.5%、家電店同+0.3%、ガソリンスタンド同+2.1%、衣服店同+0.8%など、多くの業種で売り上げが増加している。ガソリン価格の上昇を反映してガソリンスタンド売上が大幅増となっているが、自動車・ガソリンスタンド・レストランを除くベースでも同+0.2%と、前月の同+0.7%急増につづき堅調な拡大である。5月までの4-6月期小売売上高は前期比+1.5%と、1-3月期の同+0.7%から加速している。総じて個人消費は、雇用拡大と賃金上昇を背景に堅調な拡大に回帰しているといえる。

20160619図2

鉱工業生産指数(5月)は前月比-0.4%、設備稼働率は74.9%

5月の鉱工業生産指数は前月比-0.4%と前月の同+0.6%から反落。内訳は製造業同-0.4%、鉱業同+0.2%、公益事業同-1.0%。原油価格の持ち直しで鉱業が底入れの兆しがあるものの、製造業は依然低調、前年比では-0.1%と5ヶ月ぶりのマイナス成長に転じた。鉱工業設備稼働率は74.9%(前月比-0.4%ポイント)と低下。自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)は年率11.06百万台(前月比-7.1%)の大幅減。自動車販売が年率17百万台台の飽和状態に近いことから、生産の伸びは減速していると見られる。総じて企業部門の生産は需要低迷と在庫調整で弱含みが続いているといえる。

20160619図3

消費者物価指数(5月)は前月比+0.2%(前年比+1.0%)、同コア指数は前月比+0.2%(前年比+2.2%)

5月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%と3ヶ月連続の上昇。原油価格の持ち直しを反映して、ガソリン(同+2.3%)が大幅上昇したほか、衣服(同+0.8%)、医療サービス(同+0.5%)、運輸サービス(同+0.3%)などが上昇した。前年比では同+1.0%と前月の同+1.1%からやや伸びが減速したものの、概ね予想の範囲内である。食品及びエネルギーを除くコアCPIは前月比+0.2%、前年比+2.2%と引き続き堅調に上昇している。総じて米国のインフレ圧力は、失業率低下などに見られる経済ののしりろの縮小と、原油価格の持ち直しを背景に、じりじり高まっているといえる。年末の総合CPIは前年比+1.6%、コアCPIは同+2.2%のレベルになると見る。インフレ動向はFRBの金融緩和政策解除継続を正当化する動きである。

20160619図4

住宅着工戸数(5月)は年率1164千戸(前月比-0.3%)、住宅着工許可件数は同1138千件(同+0.7%)

5月の住宅着工戸数は年率1164千戸(前月比-0.3%)の微減。同6ヶ月移動平均は同1157.5千戸(同-0.1%)とわずかに下降に転じたが、前年比では+10.3%と2桁の伸びを維持している。5月までの4-6月期住宅着工戸数は前期比+1.2%と2四半期連続の増加ペースを維持している。先行指標となる住宅着工許可件数は同1138千件と2ヶ月連続の増加で、6月以降も着工が堅調に増加することを示唆している。総じて住宅着工戸数は堅調な拡大を続けているものの、中期的にはそのペースはやや減速しつつあると言わざるを得ない。

20160619図5

<経済指標コメント> 日本の4月機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-11.0%

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[日本]

実質GDP成長率(1-3月期、2次速報値)は前期比年率+1.9%

1-3月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率+1.9%と、1次速報値の同+1.7%から上方改訂された。需要項目別内訳は、家計消費支出同+2.6%(1次速報値同+1.9%)、住宅投資同-2.9%(同-3.0%)、設備投資同-2.6%(同-5.3%)、公的需要同+2.0%(同+2.6%)、企業在庫寄与度-0.4%(同-0.7%)、純輸出寄与度同+0.7%(同+0.7%)。家計消費と設備投資の上方改訂が全体を押し上げた。1次速報値でも上方サプライズだった実質GDP成長率は、主に家計消費の世増以上の拡大でさらに押し上げられた形。もっとも実質GDPの前年比の伸びは横ばいと4四半期ぶりの低成長、うち家計消費も同-0.6%と2四半期連続のマイナス成長で、成長トレンドはまだ下向きである。2四半期連続のマイナス成長を免れて、日本経済は総じてなんとか家計消費中心にそこいれの可能性がでてきたところ。もっとも企業部門は3四半期連続で成長にマイナス寄与となった長い在庫調整と、設備投資抑制でまだ回復は見られない。

20160611図1

景気ウォッチャー調査(5月):現状判断DIは43.0(前月比-0.5ポイント)、先行き判断DIは47.3(同+1.8ポイント)

5月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは43.0(前月比-0.5ポイント)と2ヶ月連続の低下。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは47.3(同+1.8ポイント)と4カ月ぶりの上昇。いずれも横ばいを示す50を10ヶ月連続で下回った。現状判断理由にままだ熊本地震の影響がみられる一方、先行き判断では猛暑予想による夏物需要増や復旧需要への期待がみられる。街角景気はまだ弱いと言わざるを得ないが、先行きDIの上昇は底入れの兆しとも見ることができる。

20160611図2

機械受注(4月、船舶・電力を除く民需)は前月比-11.0%(前年比-8.2%)

4月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-11.0%と、前月の同+5.5%から大幅減少。前年比の伸びは同-8.2%、また3ヶ月移動平均の前年比の伸びは-1.0%と2014年12月以来のマイナスの伸びに転化した。設備投資の先行指標となる機械受注は振れの大きい動きながら弱含み基調が続いていると言わざるを得ない。在庫調整と外需減速により企業部門の減速はまだ続きそうだ。

20160611図3

<経済レポート> 土壇場のサプライズ:米5月雇用統計

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5月雇用統計は大きな下方サプライズであり、単月指標としては失望感あるものと言わざるを得ない。しかしその内訳や他の経済指標を合わせると、6月以降の雇用の反動増は十分に期待できる。今後年内は雇用の2%程度の増加継続との見方を維持する。一方で、6月FOMCで追加利上げ実施との筆者個人予想に対しては、本指標は大きなリスク要因になったと言わざるを得ない。インフレ、成長率も含めたファンダメンタルズからは利上げ実施が適切と個人的には見るものの、雇用重視のハト派FOMC委員にとっては利上げ見送り支持材料となりうる。

5月の雇用統計は大幅悪化したが、、

3日に公表された5月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比+38千人の伸びにとどまる下方サプライズとなった。もっとも、大手通信会社の労働者が4月後半から5月末まで約7週間の大規模ストライキを実施しており、これが5月の非農業部門雇用者数を-35千人押し下げている(米労働省による)。しかし、この一時要因を除いてもなお、5月の雇用増は同+73千人にとどまった計算になる(6月6日付<経済指標コメント>参照)。他のファンダメンタルズ指標からは雇用の急減速を示唆するものは見られない一方でほぼ完全雇用状態にある雇用市場は、今後拡大減速が予想されるのも事実である。本レポートでは、5月雇用統計の内容を点検し、今後の労働市場と金融政策に関する予想への影響を見ていく。

5月雇用統計の事業所調査における非農業部門雇用者数の伸び急減速には、直感的には違和感を禁じ得ず、今後改訂や6月統計での反動増の可能性を見ておきたい。その証跡の一つとして、米ADP社の公表する非農業部門民間就業者数調査と雇用統計を比較してみる。2日に公表されたADP社5月民間就業者数は前月比+173千人の増加で、これは前月の同+166千人よりも増加ペースが加速している。同社はプレスリリースで「雇用増はエネルギー企業と製造業の雇用削減で軟化した」「小売業も採用には慎重である」「最近の減速にかかわらず雇用増は失業率を低下させるに十分な強さを維持している」と評価している。これに比較して、労働省雇用統計における非農業部門の民間雇用者数の急減はかなりの乖離がある([第1図])。雇用統計に統計上の何等かの他の一時要因があった可能性も考えられる。

また、労働省雇用統計によれば、5月の業種別雇用増減内訳は、鉱業同-11千人、建設業同-15千人、製造業同-10千人、小売業同+11千人、情報同-34千人(うちストライキの影響を受けた通信が同-37.2千人)、専門ビジネスサービス同+10千人、教育・医療同+67千人などとなっており、小売や教育・医療を除くほぼすべての業種で雇用が減少または減速している。特に、景気変動の影響を受けやすいとされる専門ビジネスサービスの雇用減速が全体の数字を押し下げている([第2図])。一方で、ADP社調査の業種別内訳は、建設業同+13千人、製造業同-3千人、専門ビジネスサービス同+43千人などとなっている。製造業の雇用減は両社で整合しているものの、建設業、専門ビジネスサービスの分野では雇用統計がADP社調査よりも大幅に悪い数字になっていることがわかる。

[第1図]
20160605b図1

[第2図]
20160605b図2

他の指標では雇用市場急転換を強く示唆するものは見られない

ADP社調査と雇用統計との、前月比増減ベースの民間雇用者数データの相関は必ずしも高くはないものの、ラグを伴いつつ概ね同じ傾向は示している。また、ADP社調査のほうがより数値が安定する傾向にある(過去24ヶ月の前月比増減幅の標準偏差はADPが41千人、雇用統計が71千人)。このことからは、雇用統計における非農業部門雇用者数が6月分において5月の減速をカバーする増加になる可能性は十分にあるといえる。特に、雇用統計で雇用ペースの減速の大きかった専門ビジネスサービスの内訳を見ると、人材派遣業が同-21.0千人(前月は同+5千人)とマイナスに大きく寄与している。ここからも、5月の雇用減が一時的な要因による可能性が示唆されており、6月以降の雇用反動増は十分に期待できる。

また、最近のファンダメンタルズ指標は、1-3月期の一時的成長減速のあと4月以降の経済拡大ペースの再加速を示唆するものが多い。個人消費関連では4月実質個人消費が前月比+0.6%の急増を見せた。4月時点の実質可処分所得は前年比+3.3%の強い伸びとなっており、潜在的には今後+3%台の個人消費の伸びが期待できる所得が確保されている。5月の自動車販売も年率17百万台を維持する好調を維持している。また、4月にかけて一時軟化傾向を見せた消費者センチメントも5月には大幅に回復している([第3図])。建設関連では、4月の住宅着工許可件数は前月比+3.6%の堅調な増加を示し、5月以降の住宅建設の増加を示唆している。

こうした経済指標は、今後内需を中心とする需要拡大が雇用市場における需要をも喚起する可能性を示唆するものである。短期的には、米雇用はこのまま減速するものではなく、6月以降には反動による増加ペースの拡大があると見ておきたい。

[第3図]
20160605b図3

人材派遣業の雇用減速には要注意:ISM雇用指数も50%割れ

一方で、振り返ってみると、雇用市場へのリスク要因がすでに一部の先行指標に見られていたことも事実である。上記で5月の雇用急減には人材派遣業の雇用減少が寄与していると述べたが、人材派遣業雇用の拡大ペースはここ1年の間に減速が続いており、5月時点で前年比+0.6%にまで伸び率が低下している。人材派遣業の雇用は雇用市場の先行指標とされており、この業種の雇用がさらに継続的に減少することになると、雇用市場の転換点が近づいている可能性が出てくる。特に人材派遣業の雇用が前年比でマイナスになることは、景気後退期が近いことを示唆するというのが経験則であることには注意が必要である([第4図])。

ISM指数においては、雇用DIが5月時点で製造業、非製造業いずれも判断の分かれ目を示す50%を割り込んでいた([第5図])。経験的には同指標の50%割れは必ずしも労働市場の転換点を表すものではないが、これが5月雇用統計の悪化の予兆だったともいえる。ストライキ要因が剥落した6月以降もISM指数の雇用DI悪化傾向が継続するようであれば、中期的な雇用市場の循環のピークアウトが近づいたことを示唆するものになる可能性もある。

新規失業保険申請件数は、4月30日〆週と5月7日〆週に急増し、その後2週には減少に転じた([第6図])。4月末からの急増は通信会社のストライキの影響による一時的なものと考えられる。しかしながら、同申請件数の4週移動平均が4月23日〆週には256千件と、90年代以降では最低水準にまで低下していることは、雇用市場がかなりの需要超になっている可能性を示唆している。失業率が自然失業率である5%を下回っていることと合わせ、循環的な雇用市場のピークが近いことを支持する材料といえよう。

[第4図]
20160605b図4

[第5図]
20160605b図5

[第6図]
20160605b図6

6月利上げ予想には大きな下方リスク:中期的労働市場循環に今後も留意

雇用統計の家計調査による失業率は、5月に4.7%と、前月の5%から大幅に低下した。しかしながら、これは労働参加率の62.6%への低下(前月比-0.2%ポイント)が主因であり、見かけほどには良い失業率低下とは言えない([第7図])。失業率を構成する要素の内訳は、労働力人口が前月比-458千人、失業者同-484千人、就業者数同+26千人であり、失業者のうち500千人弱が労働市場から退出したことが失業率低下の主因であることがわかる。一方で就業者数の伸びは同+26千人にとどまっており、前月の同-316千人と合わせると、ここ2ヶ月で家計調査上の就業者数は-290千人減少していることになる。

5月雇用統計は単月指標としては失望感のあるものだったと言わざるを得ず、また中期的な労働市場の循環からも、今後労働市場の拡大ペースの減速の可能性が高いことも事実である(5月11日付当レポート参照)。しかしながら、この単月指標をもってすでに雇用市場のサイクルが転換したと見るのは早計であろう。ストライキ等の一時要因やその波及度を見極めるには6月以降の指標を点検したい。また上記の通り他の経済指標では雇用市場の転換を示唆するものは見られない。よって、非農業部門雇用者数の前年比の伸び率は5月に+1.7%にまで低下したが、今後はこれがこれまでの巡航速度である前年比+2%程度の拡大ペースに回帰し、これが年内は継続するとの見方を現状では維持しておく。

FRBの金融政策について筆者個人は、6月FOMC定例会合での+0.25%のFF金利誘導目標レンジ引き上げを予想してきたが、5月雇用統計の結果はこれに対する大きな下方リスクと言わざるを得ない。もっとも、インフレ率や成長については利上げ条件を十分に満たす環境が整っていることから、5月単月指標をFOMC委員がどこまで重視するかが6月利上げの判断のポイントになってくる。雇用を最大限に重視するイエレンFRB議長やその他リベラル派委員のスタンスからは、雇用指標悪化は利上げ見送りの十分な理由とはなりうる。また、雇用統計を受けて市場の利上げ期待が大幅後退した場合にこれと乖離する政策決定を回避する意向が一部委員には働くだろう。なお、6日にはイエレンFRB議長の講演が予定されており、これは雇用統計を踏まえた議長の政策スタンス示唆の可能性のある機会として重要さを増した(なお、6月14、15日の定例会合前の1週間はブラックアウト期間であり、FOMC委員が5月雇用統計を踏まえた市場対話を行う日程はこれ以外にない)。一方で、これまでの利上げ可能性示唆発言からの急転換は、中銀の信用低下をもたらす懸念があり、また中期的な効果を狙う金融政策が単月指標に影響されることは望ましくないとの見方もFOMC内には出てくるだろう。個人的には、将来の金融政策ののりしろを確保するためにも、ファンダメンタルズが堅調なうちにFF金利誘導目標を引き上げておくのが得策であると考えている。現状では6月利上げの個人予想は維持するものの、見送りリスクがかなりに高まってきた、と見ておく。

[第7図]
20160605b図7

<経済指標コメント> 米5月非農業部門雇用者数は前月比+38千人

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[日本]

実質家計消費支出(4月)は前月比+0.2%(前年比-0.4%)

4月の家計調査、実質家計消費支出は前月比+0.2%と3ヶ月連続の増加、前年比でも-0.4%とマイナス幅を縮めた。1-3月期にGDP統計上で前期比年率+1.9%と、閏年要因もあり予想以上の伸びを示した実質個人消費だが、4月に入っても堅調な拡大が継続している。勤労世帯の実質実収入は前年比+1.0%と2ヶ月連続の増加に転じ、これも家計消費を底支えする要因となりうる。2014年4月の消費税率引上げ後永く低迷してきた家計消費にようやく底入れの兆しが見えつつある。もっとも実質消費支出指数の水準(2013年=100)は94.4にとどまり、消費税率引き上げ前の水準を-5%以上下回っている。

20160605図1

完全失業率(4月)は3.2%

4月の完全失業率は3.2%と前月比横ばい、1995年以来の低水準を保っている。内訳を見ると、就業者数、労働力人口のいずれもが増加しており、筆者試算の労働力化率は59.8%(前月比+0.2%ポイント)と上昇している。労働市場はかつ労働力人口への流入が継続しつつ拡大を続けているが、労働需給は依然タイトである。

20160605図2

住宅着工戸数(4月)は年率995千戸(前月比+0.2%)

4月の住宅着工戸数は年率995千戸(前月比+0.2%)と4ヶ月連続の増加で、2月の急増後の高水準を維持した。内訳は持家同-4.7%、貸家同+10.6%、分譲住宅同-6.0%と、貸家の増加が全体の数字を押し上げている。

20160605図3

鉱工業生産指数(4月)は前月比+0.3%

4月の鉱工業生産指数は前月比+0.3%と2ヶ月連続の増加。しかしながら前月の同+3.8%からは上昇ペースが減速、また3か月移動平均も依然下向きであり、生産の力強さはまだ見られない。出荷指数は同+1.5%、在庫指数は同-1.7%、在庫率指数は同-2.2%。出荷の増加で在庫、在庫率ともに低下している。総じて生産抑制により在庫調整が進行している状況だが、在庫循環図はまだ在庫調整局面から脱却しておらず、今後も在庫調整に伴う生産抑制は継続すると見られる。公表元の経済産業省は「生産は一進一退」と基調判断を据え置いている。設備投資の先行指標となる資本財出荷は前月比+1.0%とこれも2ヶ月連続の上昇。GDP統計で1-3月期に前期比年率-5.3%の大幅マイナス成長となった設備投資には底入れの兆しも見られる。

20160605図4

[米国]

実質個人消費(4月)は前月比+0.6%、個人消費支出価格指数は前月比+0.3%(前年比+1.1%)、同コア指数は前月比+0.2%(前年比+1.6%)

4月の実質個人消費は前月比+0.6%の急増。内訳は耐久財消費同+2.2%、非耐久財消費同+0.7%、サービス消費同+0.4%。4月の堅調な新車販売や小売売上の急増と整合する結果である。これにより、4-6月期の実質個人消費は+3%成長への上ブレがありうるペースとなる。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比+0.3%(前年比+1.1%)、同コア指数は前月比+0.2%(前年比+1.6%)と堅調推移。筆者試算では、年末のPCEデフレーター前年比伸び率は+1.6%、コアPCEデフレーターは同+1.9%にまで上昇する計算になる。消費、インフレの観点からは6月FOMCでの利上げ実施個人予想を支持する内容である。

20160605図5

ISM製造業指数(5月)は51.3%(前月比+0.5%ポイント)、同非製造業指数は52.9%(同-2.8%)

5月のISM製造業指数は51.3%(前月比+0.5%ポイント)と2ヶ月ぶりの上昇で、景気判断の分かれ目を示す50%割れを回避した。総合DIを構成する5つのDIの内訳は、新規受注55.7%(同-0.1)、生産52.6%(同-1.6)、雇用49.2%(同横ばい)、入荷遅延54.1%(同+5.0%)、在庫45.0%(同-0.5)とまちまち。同非製造業指数は52.9%(前月比-2.8%)と3か月ぶりの低下。総合DIを構成する4つのDI内訳は、事業活動55.1%(同-3.7)、新規受注54.2%(同-5.7)、雇用49.7%(同-3.3%)、入荷遅延52.5%(同+1.5%)と、入荷遅延を除く主要な3つのDIがいずれも低下した。総じて、好調な家計部門に比べて企業部門の回復が遅い状況が読み取れる。企業景況観は内容にばらつきがあり方向感がみられないものの、持続的改善の兆しはないといえる。弱い外需を背景に低迷していた製造業がやや持ち直した一方、強い内需を背景にこれまで高水準を保ってきた非製造業が弱含むという構図である。

20160605図6

新車販売台数(5月、乗用車及び軽トラック)は年率17.37百万台(前月比横ばい)

5月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率17.37百万台と前月比ほぼ横ばいの高水準を維持した。前年比では前年同月の急増(同17.6百万台)との比較でマイナスの伸びとなった。自動車販売は依然好調で高水準を維持しているものの、その増加ペースは落ちてきている。年率17百万台レベルでは市場が飽和状態に近く、今後増加ペースは減速せざるを得ないとの見方に沿った動きである。

20160605図7

雇用統計(5月):非農業部門雇用者数は前月比+38千人、失業率は4.7%

5月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+38千人の増加にとどまり、大きな下方サプライズとなった。非農業部門雇用者数の伸びは結果3ヶ月連続の減速となった。米大手通信会社のストの影響によるマイナス影響約-35千人(米労働省による)を除いても同+73千人の増加にとどまった計算になる。主な業種別内訳は、鉱業同-11千人、建設業同-15千人、製造業同-10千人、小売業同+11千人、情報同-34千人、専門ビジネスサービス同+10千人、教育・医療同+67千人など、小売や教育・医療を除くほぼすべての業種で雇用が減少または減速している。一方で、時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.4%と前月の同+2.5%からやや減速したものの、金融危機以降の最高水準レベルを維持しており、賃金上昇圧力がじりじり高まっていることを示唆している。家計調査による失業率は4.7%(前月比-0.3%ポイント)と2007年11月以来の低水準に低下した。もっとも内訳を見ると、労働力人口が前月比で大幅減少し、労働参加率は62.6%(同-0.2%ポイント)に低下しており、見かけほどよい失業率低下ではない。総じて単月の指標としては失望させられるものと言わざるを得ない。しかしながら、他のファンダメンタルズ指標の堅調さと比較して5月の雇用急減速の数字にはやや違和感を禁じ得ない。予兆としては、5月ISM指数における雇用DIが製造業・非製造業ともに50%を下回っていたこと、また新規失業保険申請件数が5月に増加傾向を見せていたこと(同4週移動平均は4月30日時点で258千件、5月28日時点で276.75千件)、などがあるが、いずれも、上記ストライキ要因を勘案すれば雇用市場のトレンド転換の兆しとは言いにくい。筆者個人は、雇用市場が完全雇用に近いことから、中期的には今後雇用拡大ペースは徐々に減速していくと見ている(5月11日付<経済レポート>参照)ものの、現在がその転換点かを見極めるには6月以降の指標の点検が必要と考える。個人消費を含む需要拡大、堅調なインフレ率の観点からは、6月FOMC定例会合での+0.25%利上げ個人予想は維持したい。しかし、5月雇用統計がこれに対する下方リスク要因となったことは否めない。

20160605図8