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<経済レポート> 循環加速トリガー:英国のEU離脱選択

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23日の英国国民投票はEU離脱支持が多数を占めた。中長期的には、正式なEU離脱に係る手続は最速2年を要し、離脱後の構造変化の効果が出るのはまだ先である。一方短期的には、金融市場変動や英国・欧州の実体経済を通じて日米の経済への影響が考えられる。内需中心の米経済への影響は限定的とみるが、FRBの利上げペースは個人予想比後倒しとならざるを得ない。日本については相対的に脆弱な経済拡大ペースに円高が加わり、成長に相応の影響があろう。グローバルには景気循環が減速局面に入りつつあるタイミングでのBrexit選択は、このサイクルを前倒しにするトリガーになる可能性をも孕んでいる。

英国は国民投票でEU離脱を選択

6月23日に実施された英国のEU離脱に係る国民投票結果は、離脱支持が51.9%、残存支持が48.1%と、離脱支持が多数を占めた。英国のEU離脱(Brexit)は当レポートにとっての下方サプライズであり、筆者個人の経済成長見通しに下方リスクをもたらしうるものと言わざるを得ない。本レポートでは、英国のEU理離脱が世界経済に与える影響を主に短期的視点から大まかに見るとともに、今年の日米経済個人予想へ影響を考察する。

英国のEU離脱選択の他国への影響は、短期的なものと中長期的なものに分けられる。短期的影響は主に金融市場変動と欧州経済悪化を通じた影響、中長期的影響は主に英国EU離脱に伴う通商関係・労働市場の変動や、他国への政治的波及を通じた影響が考えられる。EUの基本条約であるリスボン条約第50条には、離脱を決定した国はEUにこれを通知、EUは当該国とEUとの将来の関係の枠組みを考慮した交渉を行ったうえで離脱契約を締結すること、離脱契約締結には欧州理事会の過半数の賛成と欧州議会の同意が必要とされることが定められている。また同条では、離脱契約の発効から2年後、または離脱契約が成立しなかった場合離脱国による通知から2年後に、当該国に対する同条約が失効する旨定められている。なお一般に、英国の離脱後のEUとの関係の枠組みには、ノルウェーやアイスランド、リヒテンシュタインのようにEU非加盟ながら欧州経済圏(EEA)にとどまることで単一市場に参加する方法、スイスのようにEEA非加盟ながらEUとの個別貿易協定とシェンゲン・ビザによる人の移動を可能とする方法、トルコのようにEUと関税協定を締結する方法、さらに多国間協定によることなく個別にFTA等を締結する方法、などがありうるとされる(6月11日付英Economist誌等による)。

英国が国民投票でEU離脱を選択したといってもその本来的な法的効果は最速で2年後、またEU離脱発効後も英国のEUとの経済関係にはさまざまな選択肢がありうる。したがって、今回の国民投票結果がただちに経済構造変化のチャネルを通じて実体経済に波及するわけではない。最速2年後の正式な英国EU離脱をにらんだ企業や労働市場の行動変化もその決定には相応に時間がかかる。経済構造変化による中長期的な実体経済への影響は年内にただちに示現するとは考えにくい。

短期影響は金融市場と英・欧実体経済を通じ波及

一方で、短期的影響の波及には留意する必要がある。まずは金融市場を通じた短期影響について見ていく。金融市場への影響は国民投票結果が明かになった24日に現れた。24日の日経平均株価は前日比-1286円安の14952円、NYダウは前日比-610ドル安の17400ドルで引けた。為替市場では、ドル円が前日の1ドル=106円レベルから一時同100円を割り込むなど急激な円高が進行し、NY市場では同102円レベルで引けた。英ポンドは前日の1ポンド=1.50ドルレベルから、一時同=1.35ドルレベルにまで急落ののち、同=1.36ドルレベルで引けた。債券市場では長期金利が低下、日本国債10年物利回りが-0.196%と前日の-0.140%からマイナス幅が拡大、米国債10年物利回りは1.56%と前日の1.74%から急低下した。またこの国民投票結果に対しては、各国中銀・政府当局者からも強い関心と配慮が示された。24日、日本の財務省・日銀は「英国のEU離脱問題に関する財務大臣・日本銀行総裁共同談話」を公表、「この結果が、世界経済や金融・為替市場に与えるリスクについて懸念しており、引き続き注視していく」「外貨流動性の不足といったリスク、、、については、主要国の中央銀行が結んでいる通貨スワップ網、、を活用し、必要に応じて対応を行う」と述べた。米国のFRBは「FRBはグローバルな金融市場動向を注意深く監視する」との声明を公表、同様に資金流動性に対しては中銀間の通貨スワップ協定等をも活用して対処する旨を表明した。こうした金融市場変動は企業や個人のセンチメントや資産効果を通じて英国・欧州及び日米等他国の実体経済に影響するリスクがある。

今後の金融市場については政治動向等により波乱含みになりうる。ただし、実体経済への波及が中長期にわたるものであることから、英国民投票結果要因に起因する当初の市場変動は数週間以内の比較的早期に収拾されるとみておきたい。その後年内については暫定的に以下の様に見ておく。為替市場では円高、ユーロ安が進行しそうだ。金融市場の不確実性の高まりで安全資産とされている円が買われやすくなるだろう。一方で欧州経済への懸念からユーロは売られやすい地合いになろう。米ドルは基本的には中立であるが、ユーロに対してはドル高になる。株式市場では、日経平均の24日終値は2月の年初来安値とほぼ同レベルをサポートに下げ止まった形、一方NYダウは5月の安値レベルまでの下げでとどまっており、2月の年初来安値の15660ドルに比べまだ高水準にある。テクニカルには、日経平均は14900円を割り込めば更なる下落がありうるが、NYダウは高値からの調整程度にとどまっており、短期的に年初来安値を下回るシグナルはない。日米の長期金利は、日銀追加緩和期待とFRBの利上げ後倒し観測から今後弱含みで推移せざるを得ないだろう。

欧州の実体経済を通じた短期的影響は、主に英国とユーロ圏の年内の成長率低下という形で示現し、これが日米経済に波及する経路をとると考えられる。主に対英国・欧州への輸出減を通じた日米実体経済への下方リスクは高まったといえる。しかし、短期的な年内の実体経済への影響は英国において最も大きく、ユーロ圏においては限定的と見たい。したがってのちに述べるように、内需中心の米国経済への短期影響は相対的に限定的、日本については本来の経済の脆弱性と円高進行により、短期的な経済成長に相応の下方インパクトがあると見ておく。なお、その他の短期的波及経路としては、他のEU加盟国の追随離脱への懸念拡大が考えられる。オランダ及びフランスの極右政党はEU離脱国民投票実施の政策を表明、イタリアでもEU離脱派がローマ市長に選出された。26日にはスペインでの総選挙が実施され、EU懐疑派の議席増の可能性も報じられている。これらの懸念が実体経済を通じて英国・ユーロ圏経済の悪化を加速する可能性はある。

年内米国成長見通しへの影響は限定的:ただし追加利上げは困難に

以下では、4月3日付当レポートで示した今年の日米経済・金融個人予想に対する今回の英国民投票結果の影響を見る。まず、米国の成長率については、今回の国民投票の直接的影響は相対的には小さいと見たい。現在筆者個人は2016年の米成長率を前年比+1.7%と予想しているが、これを大幅に下方修正する必要は現状ないと考える。米国経済は主に個人消費を中心とする内需が牽引役となっているからだ。筆者個人は現在、GDPのうち個人消費が雇用拡大・賃金上昇による購買力の増加を背景として通年で前年比+2.3%拡大するとみている。雇用拡大ペースが現状の前年比+2%前後を維持し、賃金上昇率が+2%台半ばを維持すればこの予想は達成可能である。個人消費の株価に対する弾性値は相対的に小さい。実質個人消費の要因分析によれば、個人消費のNYダウ変化率に対する弾性値は0.01程度であり、NYダウの-10%の下落は個人消費を-0.1%程度抑制するに過ぎない(2015年12月13日付当レポート参照)。経験則的には仮に今後株価下落があったとしても個人消費への影響は限定的とみる。なお、NYダウの24日の下落率は前日比-3.39%と、日経平均の同-7.92%、DAXの同-6.82%にくらべ相対的に小幅にとどまった(24日NYダウ終値は17400ドル)。4月時点の筆者個人予想である年末18000ドルには下方リスクが出てきたともいえるが、現在において更なる下落の加速方向に判断を修正するには時期尚早とみる。企業部門の回復は英国・欧州経済減速により遅れることとなろうが、もともと企業設備投資は2016年通年でマイナス成長を見込んでおり、ここからの限界的な下方修正は今後の指標次第としておく。対欧州輸出はユーロ安・ポンド安・ドル高によりさらに減速が見込まれるものの、2015年の米国の名目輸出額(2兆2612億ドル)に占める対EU輸出(5007億ドル)の割合は約22.1%、対英国輸出(1235億ドル)の割合は約5.5%程度である。対EU輸出が仮に-5%減少した場合でも、名目GDPに与える影響は-0.15%程度にとどまる計算になる。減速による成長率の下振れは現状個人予想からの主な下方リスク要因として見ておくにとどめる。

一方で、FRBの金融政策予想については下方修正を考慮せざるを得ない。15日の6月FOMC定例会合後の記者会見でイエレンFRB議長は、Brexitのリスクが同会合での利上げ見送りの一つの判断材料だったと述べている。今回そのリスクが示現したことを勘案すれば、状況証拠的には早期の追加利上げは正当化しにくい環境になってきたと言わざるを得ない。年内の経済成長とインフレ推移がFOMC委員予測通りだった場合、テイラー・ルール公式が依然年内の追加利上げを正当化していることに変わりはない。しかし、不確実性の環境は追加利上げ判断を困難にする方向にシフトしている。そこで、年内2回の利上げという個人予想は下方修正を考慮する。ただし、米実体経済成長見通しは年内大きく下振れすることは考えづらいことから、年内1回の利上げは実施される可能性が依然高いと見ておく。またこれに合わせ、年末に2%台への上昇を見込んでいた米国債10年物利回り予想も下方修正を考慮する。

米経済・金融についての上記の見方に対するリスクシナリオとしては、英国民投票結果をトリガーに企業の雇用意欲が後退して、4、5月の雇用統計で表面上悪化した雇用拡大ペースがさらに低下し、実体経済成長を下振れさせる可能性を見ておく必要があろう。その意味では、7月8日公表予定の6月雇用統計で4、5月の悪化が回復していることを確認するのみならず、英国民投票結果を反映した7月以降の雇用市場の状況も基調判断には重要になってくる。6月分雇用も悪化が続いている場合には上記の個人予想の修正も必要となる可能性があるうえ、6月で回復しても7月以降の雇用市場状況は常に点検していく。なお政治的には、11月の米大統領選の動向にBrexitが影響を与える可能性も見ておく必要はあろう。Brexitの一つのモチベーションが移民流入の排斥という政治的保守の考え方であったことを勘案すれば、今回の英国民投票結果は米国において同様の政策を掲げる共和党トランプ候補にとっては好材料になる。英国国民投票直前の世論調査では、民主党クリントン候補の支持率(45.3%)がトランプ候補のそれ(38.4%)を上回っている(Real Clear Politics社調査、6月22日時点)が、英国民投票結果後の世論調査の推移には注目したい。

日本経済は相対的にショックに弱い:円高が更に重石に

次に、日本経済の成長率個人予想については下方リスクが高まったといえる。従前より日本経済条件は米国のそれに比べ相対的に減速が明らかで、今回のBrexitなどの外部ショックの影響を受けやすいこと、また円高による輸出や企業収益への悪影響は日本経済により強い下方リスクとなることがその背景である。24日の日経平均は世界の主要株価指数の中で最も大きく下落したことにもこのリスクは現れている。1-3月期の成長率が前期比年率+1.9%と4月時点の個人予想よりも上振れしたことで、2016年の成長率は4月3日時点の予想(同+0.3%)よりも上振れして前年比+0.6%レベルを実現できるペースだった。しかしながら、今回の英国EU離脱選択による円高と株安リスクで、+0.6%成長シナリオには黄信号がともったといえる。もっとも、財政政策の発動等により年後半の成長が大幅にマイナス成長になるとは考えにくく、暫定的には今年の暦年成長率を前年比横ばい~+0.6%の範囲内と見ておきたい。金融市場については、日銀の追加緩和期待から長期金利予想は下方へ、為替市場についてはドル円を円高方向への修正を考慮する。株価については、テクニカルには日経平均が2月年初来安値の14900円を大きく下回る場合は更なる下落方向に個人予想を修正する必要が出てくる。

金融政策については、日本銀行による追加的金融緩和の可能性が高まりつつあるといわざるを得ない。マイナス金利拡大の実体経済を通じた限界的効果については限定的と見るものの、英国のEU離脱という相応に大きなイベントへの対処という中央銀行のコミットメントを明確化するアナウンスメント効果を目的に追加緩和は正当化可能ではある。1月に初のマイナス金利政策導入を決定した際に日銀は「(世界的な金融市場の不安定のため)、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大している」ことをその背景として挙げた。今回の金融市場変動は1月と同様であり、ここからの波及リスクへの対処という位置づけで追加緩和を決定する可能性はあるといえる。一方で財政政策としては、新たな財政出動が実施される可能性が高い。5月26、27日の伊勢志摩G7サミットでは「新たな危機に陥ることを回避するため、、、適時に全ての政策対応を行う」ことが合意された。6月1日の記者会見で安倍首相は2017年4月に予定されていた消費税率の8%から10%への引き上げを30ヶ月延期し、2019年10月とすることを表明した。同時に安倍首相は「日本として構造改革の加速や財政出動など、あらゆる政策を総動員」する、とのべた。Brexitは追加的財政出動を今や正当化しうる契機となる。

日米経済への中長期的影響については、今後の英国の対EU交渉等を通じて見ていくこととする。欧州経済にとって英国のEU離脱は単一経済のメリットの大幅な後退であり、英国経済の空洞化や、企業機能や労働力の欧州大陸へのシフト等が考えられる。ただ本レポートでは、景気循環の観点からその下方リスクを指摘するにとどめる。世界経済成長は英国民投票以前からすでに緩やかな減速局面にすでに入りつつあったといえる(4月25日付当レポート参照)。米国経済成長は従前より、昨年までの2%成長から1.7%成長への減速を見込んでいる。ちなみに、今年の6月は、直近の景気の山である2007年12月からかぞえて102ヶ月になる。過去3回の米国の景気後退が概ね100ヶ月強のサイクルで始まっていることを考えれば、経験則的にはそろそろ次の景気の山が視野に入る時期ということになる。日本経済は、リーマンショックによる2008年~2009年の景気後退の後、2010年~2011年(東日本大震災)、2012年(欧州危機)、2014年(消費税率引き上げ)の3回テクニカルリセッション(2四半期以上連続のマイナス成長)を経験した。このうち内閣府による景気基準日付で景気後退とされたのは2012年のみであり、景気の山は2012年3月とされている。日本の場合、景気の山から山の間隔は米国のそれよりやや短く数年程度である。景気循環上、日本でも来年以降に次の景気の山が視野に入ってくる。直近では、今年の1-3月期までの4四半期のうち2四半期においてマイナス成長となっており、特に2014年の消費税率引き上げ以降家計消費を中心に回復力は弱まっている。日米のかかる景気循環局面下での英国EU離脱選択は結果的に、来年以降の景気の下降サイクルへの転換を前倒しさせる心理的トリガーとなる可能性を孕んでいる。

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