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<経済レポート> 年内利上げ予想を維持:FRB高官発言

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ジャクソンホールなどでの最近のFRB高官発言を、総じてタカ派なものと市場は受け止めている。これらの発言は年内利上げの可能性を強く示唆しているが、必ずしも次回9月FOMC会合での利上げを強く示唆するものではない。また各々のFOMC投票メンバーのスタンスからも9月利上げの可能性は半分以下といえる。したがってこれらは、年内利上げなしと予想していた向きにとっては予想変更材料となりうるが、次回利上げを今年12月としていた当レポート予想にとっては中立材料である。利上げ前倒しのリスクは認識しつつも、次回利上げは12月との個人予想を維持する。

年内利上げを示唆するFRB高官発言が続く

ここ2週間の間に、ジャクソンホールでのイエレンFRB議長講演ほか、金融政策に関し多くのFRB高官が講演・メディア発言を行った。これらの発言のトーンは一貫して、年内にFF金利誘導目標引き上げが実施されるとの予想を支持する内容であった。実際、市場ではこれらの発言(特に26日のフィッシャーFRB副議長発言)を受けて、株価が小幅ながら下落、長期金利は上昇した。

一方でこれらは、次回9月のFOMC定例会合での利上げを必ずしも示唆するものではない。一連のFRB高官発言はある共通の意図のもとになされたものと憶測しているが、仮に9月利上げが内定しているのであれば「次回会合」など、より強い示唆文言がイエレン議長の発言テキストに挿入されていてしかるべきだからである。

9月利上げの是非についてはいまだFOMC委員の意見が分かれていると見る。のちに述べるように、7月FOMC議事要旨によれば、2~3人の参加者が7月会合での利上げを選好したとされる。さらにここ2週間のFRB高官発言は、9月FOMC定例会合で利上げが議題に上る可能性がさらに高まったことを示唆している。しかし、特にイエレン議長からのメッセージが9月利上げを強く示唆するものではなく、またFRB理事は原則議長に同調すると思われることから、最終的に投票メンバーの過半数が9月会合で利上げに賛成するとは考えにくい。本レポートでは、かかる観点から、7月FOMC定例会合の議事要旨、及びここ2週間のFRB高官発言を検証する。

7月FOMC議事要旨では利上げ実施の意見も

まず、18日に公表された7月FOMC議事要旨を見る。ここからは、利上げのタイミングについて様々な意見があったことがわかる。議事要旨によれば、直前の6月会合で利上げ見送りの判断となった「雇用市場」「英国EU離脱選択」という懸念要因は「減退」したとの認識が示された。代わって利上げ見送り派の主根拠は今やインフレ率の下振れ懸念に移行した模様が読み取れる。

一方で利上げ積極派の意見も明確な形で示されている。追加利上げの条件に関する議論の中で、2~3名の(a couple of)参加者が「同会合での利上げを支持した」とされた。もっとも、多くの(many)参加者は利上げには「追加的な情報を待つのが適切」との考えであり、7月は利上げ見送り意見が多数であった。投票メンバーによる金融政策に関する審議では、2~3人のメンバーは「インフレ率が2%に上昇しこれが持続する更なる根拠を待つことを選好」したが、幾人か(some)の他のメンバーは「経済条件は金融緩和解除のもう一段のステップをまもなく正当化すると予想」したとされた。また、1名のメンバー(カンザスシティ連銀ジョージ総裁)は「当会合での利上げを選好」した。

FOMCでは、上記の様に7月時点ですでに複数の委員が利上げ実施すべきと考えていた。また、投票メンバーのうち「幾人か」が7月時点で近い将来の利上げの可能性を予想しており、その後の経済指標実績に照らせば、9月には幾人かのメンバーのいう利上げの条件が満たされる可能性は高い。これは9月定例会合での利上げがありうるとの見方を支持しうる。しかしながら、議事要旨の記述からはその人数は「幾人か」にとどまり、決して過半数ではないと見られる。

ジャクソンホールのイエレン議長講演:9月利上げの示唆はなし

次に、直近のFRB高官発言を振り返る。まず8月16日、アトランタ連銀ロックハート総裁はテネシー州での講演において、第2四半期の実質GDP成長率の下振れにかかわらず年後半にはリバウンドがあるとの予想を述べたうえで「経済に関する私の考えが正当化されれば、年後半に少なくとも1回の政策金利引き上げが適切だと私は考える」と述べた。同16日、NY連銀ダドリー総裁はメディア(Fox News)の取材に答えて「我々は更なる利上げが適切となる時期に近づいている」「(9月FOMC会合での利上げの)可能性はある」と述べた。18日にはサンフランシスコ連銀ウィリアムズ総裁がアラスカにおける講演で「広い意味での米国経済はよい形」「我々は完全雇用にあり、インフレは目標が視野にありこれに達する過程にある」「かかる環境下、FRBが金利をより正常な水準に向けて徐々に引き上げる意味がある」と述べた。

ワイオミング州ジャクソンホールの金融会合ではさらにいくつかの注目発言があった。まず26日、セントルイス連銀ブラード総裁はメディア取材に応え「9月は利上げの良いタイミングかも知れない」と述べた(CNBC)。最も注目されていたのは、26日のイエレンFRB議長講演であった。イエレンFRB議長は講演で「労働市場の継続的に堅調な実績と我々の経済及びインフレに関する見通しに照らせば、FF金利を引き上げる根拠はここ何ヶ月かの間に強まったと考える」と述べた。しかしながら講演の他の部分は概ね従前からのFOMCの公式見解に沿ったものであり、7月FOMC以降に何等かの認識変更があった形跡は見られない。さらに、イエレン議長講演の後に、フィッシャーFRB副議長はメディアの取材に答えて「次回の8月雇用統計は我々の判断に重要となるだろう(CNBC)」と述べた。なお、フィッシャー副総裁はジャクソンホールに先立つ21日のコロラド州における講演で、米国経済について“目標に近づいた”とポジティブな評価をしたほか、自然利子率と生産性上昇率低下をも指摘している。

これら一連の発言のポイントは以下である。まず、ほぼすべての発言者が「完全雇用状態」や「利上げの可能性」に言及していること、特にハト派とされるダドリー総裁、ウィリアムズ総裁が利上げ可能性に能動的に言及するのは利上げに向けた前進材料といえる。次に、しかしながら具体的な利上げ時期についての発言はまちまちで、9月利上げへの言及はダドリー総裁とブラード総裁のみであることである。これらの状況証拠から、一連の発言は年内利上げ見送りという過度にハト派な市場予想をけん制し、年内の利上げの可能性を市場に伝達する意図があったと推測できる。一方で、具体的な利上げの時期と回数についてのコミュニケーションは意図されていなかったと考える。

次回利上げは12月との個人予想維持:上方リスクはあり

以上から、次回利上げは12月との筆者個人の予想は維持する。ただし、この予想に対するリスクは上方であり、利上げ時期前倒しのリスクはやや高まったといえる。ちなみに、上記の発言をも踏まえた9月FOMCでの投票メンバーの投票行動を推測すると以下のようになる。すなわち、利上げを支持する可能性のあるタカ派メンバーが3名(ジョージ総裁、ブラード総裁、クリーブランド連銀メスター総裁)、利上げ見送り支持のハト派は5名(イエレン議長、ダドリー総裁、ブレイナード理事、タルーロ理事、ボストン連銀ローゼングレン総裁)。利上げが過半数で決定されるには、上記以外の中立派の2名(フィッシャー副議長、パウエル理事)がいずれも利上げに賛成し、かつ9月利上げの可能性に言及したダドリー総裁が利上げ賛成に回る必要がある([第1表])。現実的にはこの可能性は低い。FRB議長と、同副議長及びNY連銀総裁との票が分かれることはFRB執行部の運営上考えにくいからである。

もっとも筆者個人の意見はといえば、上記の予想にかかわらず、利上げを早期に実施するのが適当だと考えている。過去の当レポートでみたように、自然利子率を1.5%とした場合、筆者個人の成長予想とインフレ予想を基にテイラー・ルールによる2016年末の適正なFF金利水準は約+0.4%と計算され、年内の利上げは正当化されない。これは第4四半期の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)を前年比+1.4%とする予想に基づく(7月31日付当レポート参照)。一方、インフレ率としてコアPCEデフレーターを用いた場合(第4四半期に同+1.8%と予想)は、適正なFF金利水準は第2四半期で約+0.7%、第4四半期で約+1%と計算される。つまり、インフレ指標としてコアPCEデフレーターを用いた場合はすでに追加利上げが正当化される水準にあることになる([第1図])。

また、FOMCでは自然利子率の低下は確かにFOMCにおける主要課題の一つであるが、これを現実的にどこまで重視すべきかには議論の余地がある。自然利子率自体計測手法が一定しているわけではなく、したがって自然利子率の変動が都度の金融政策に影響を与えることは政策の安定性からは望ましいことではない。少なくとも今後インフレ率が2%に向けて上昇するとの見通しに立つならば、適正なFF金利水準は自然利子率1.5%にインフレ率2%を加えた3.5%程度には上昇するはずである(実際にはテイラー・ルール公式上はここから需給ギャップの半分が差し引かれる)
。この均衡水準に向けての利上げ行程は、テイラー・ルールにそのまま従うというよも、よりフォワードルッキングな見地に立つことが望ましいことは26日にフィッシャー副議長も発言している通りである。さらには、景気サイクルによる景気減速が来年以降訪れた際に備え、金融政策ののりしろ(利下げの余地)を残しておくことが有効だと見る。

[第1表]

20160829表1

[第1図]
20160829図1
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<経済指標コメント> 日本の7月全国コアCPIは前年比-0.5%

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[日本]

全国消費者物価指数(7月、生鮮食品を除く総合)は前月比-0.2%(前年比-0.5%)

7月の全国消費者物価指数、生鮮食品を除く総合指数(いわゆるコアCPI)は、前月比-0.2%と5ヶ月ぶりの下落。電気代(同-1.1%)、ガソリン(同-0.6%)などのエネルギーと、衣料(同-3.2%)、家庭用耐久財(同-2.2%)など広い費目で価格が下落した。コアCPIの前年比の伸び率は-0.5%と、前月の同-0.4%からマイナス幅が拡大。食品(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコアCPI)は前月比-0.2%と2ヶ月連続の下落、前年比では+0.3%と前月の同+0.4%から上昇幅を低下させた。総じてCPIは予想比やや弱めの推移で前月比マイナスの伸びとなっている。これまで、筆者は、来年にはコア及びコアコアCPIインフレ率が同+1%台に上昇すると見込んできたが、ここのところの指数の伸び悩みはこれに対する下方リスクになりつつあるといえる。

20160827図1

[米国]

新築住宅販売戸数(7月)は年率654千戸(前月比+12.4%)、在庫期間は4.3ヶ月

7月の新築住宅販売は年率654千戸(前月比+12.4%)の大幅増、実に2007年9月以来の水準となった。地域別には南部の大幅増(同398千戸、前月比+18.1%)が全体を押し上げている。販売在庫は233千戸(同-2.9%)と減少、結果在庫期間は4.3ヶ月と前月の4.9ヶ月から大幅に短期化した。低金利を背景に住宅販売は依然好調であり、これに対する供給が追い付かず市場は依然タイトである。

20160827図2

中古住宅販売戸数(7月)は年率5390千戸(前月比-3.2%)、在庫期間は4.7ヶ月

7月の中古住宅販売戸数は年率5390千戸(前月比-3.2%)と5ヶ月ぶりの減少。3ヶ月移動平均は5490千戸(同-0.2%)と3ヶ月ぶりに低下に転じた。2007年以来の販売戸数となった前月からの反動減ともいえる。公表元の全米不動産業協会(NAR)は「在庫不足」が販売減の主因としており、潜在的な需要はさらに高いとの見方を示している。

20160827図3

耐久財受注(7月)は前月比+4.4%、除く運輸関連同+1.5%、非国防資本財受注(除く航空機)は同+1.6%、同出荷同-0.4%

7月の耐久財受注は前月比+4.4%、除く運輸関連同+1.5%。企業設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)は同+1.6%と2ヶ月連続の増加。一方で、GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同-0.4%と3ヶ月連続減少した。7-9月期の同出荷の走りは、GDP統計上の設備投資(機器投資)が4四半期連続マイナス成長となるペースであることを示唆している。同受注は2ヶ月連続で増加したものの、前年比の伸びは依然マイナスであり、その反発力はまだ弱い。企業部門の回復はまだ緩やかなものにとどまりそうだ。

20160827図4

実質GDP成長率(4-6月期、改定値)は前期比年率+1.1%

4-6月期の実質GDP成長率(改定値)は前期比年率+1.1%と、速報値の同+1.2%から小幅下方改訂。需要項目別内訳は、個人消費同+4.4%(速報値同+4.2%)、設備投資同-0.9%(同-2.2%)、住宅投資同-7.7%(同-8.1%)、政府支出同-1.5%(同-0.9%)、在庫投資寄与度同-1.26%(同-1.16%)、純輸出寄与度同+0.10%(同+0.16%)。いずれの改訂も小幅にとどまっており、今回の改訂の経済見通しへの影響は僅少である。米経済が筆者の現在の予想通り年後半に+1%台半ばの成長になるとした場合、2016年通年成長率は前年比+1%台となる計算であり、通年同+1.8%との7月時点の筆者個人予想に下方リスクがある状態は速報値時点と不変である。

20160827図5

<経済指標コメント> 日本の4-6月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率+0.2%

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[日本]

実質GDP成長率(4-6月期、1次速報値)は前期比年率+0.2%

1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.2%と、筆者個人の7月時点の予想同+0.8%を下回った。需要項目別内訳は、家計消費同+0.6%、住宅投資同+21.3%、企業設備同-1.5%、公的需要同+2.4%、民間在庫寄与度同-0.1%、純輸出寄与度同-1.0%。家計消費は同+1%台半ばを見込んでいたが下振れ、企業設備は資本財出荷増からプラス成長を見込んでいたがマイナスに下振れ、純輸出はプラス寄与を見込んでいたが財貨・サービス輸出の予想以上の減少でマイナス寄与となった。総じて、家計消費は2四半期連続のプラス成長を維持し(閏年効果による反動減も含む)堅調といえる一方、企業設備投資は2四半期連続のマイナス成長で依然低迷、輸出は円高や海外景気減速の悪影響を受けているとの結果になった。今後は、可処分所得の伸びから家計消費は堅調、機械受注の低迷や円高により企業設備や輸出は低迷が続きそうだ。一方で政府の経済対策(2016年度国費財政措置約4.6兆円)の効果により年度後半には若干の成長押し上げが期待できる。今のところ、2016暦年成長率は前年比+0.7%、2016年度成長率は前年度比+1.0%程度と暫定的に見ておく。

20160820図1

[米国]

住宅着工戸数(7月)は年率1211千戸(前月比+2.1%)、着工許可件数は同1152千戸(同-0.1%)

7月の住宅着工戸数は年率1211千戸(前月比+2.1%)と2ヶ月連続の増加、6ヶ月移動平均も同1167.7千戸(同+1.2%)と2ヶ月連続の上昇。住宅着工は依然堅調な増加を見せている。一方、着工許可件数は同1152千戸(同-0.1%)と4ヶ月ぶりに小幅減少、6ヶ月移動平均は同-0.5%と6ヶ月連続低下が続いている。堅調な住宅着工ではあるがその増加ペースはやや低減しており、先行指標も低下中である。短期的にはタイトな需給と住宅ローン金利の低下を背景に住宅市場は堅調に拡大すると見るものの、中期的景気循環からは減速感が見えつつあるといえる。

20160820図2

消費者物価指数(7月)は前月比横ばい(前年比+0.8%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+2.2%)

7月の消費者物価指数は前月比横ばい、前年比では+0.8%と前月の同+1.0%から伸び率を低下させた。食品及びエネルギーを除くコア指数は前月比+0.1%(前年比+2.2%)と堅調に推移している。ガソリン(前月比-4.4%)価格が5ヶ月ぶりに低下に転じたこと、中古車(同-1.0%)価格の低下が指数全体を押し下げた。しかしながらコア指数の前年比伸び率が9ヶ月連続+2%を上回っていることは、失業率低下など経済ののりしろの縮小がインフレ圧力となっていることを示唆している。今後原油価格が1バレル=40ドル台で安定推移すれば、年末には総合指数前年比+1.5%、コア指数同+2.1%レベルを個人的には見込んでいる。インフレの観点からはFRBの追加利上げ条件は整っていると見る。

20160820図3

鉱工業生産指数(7月)は前月比+0.7%、設備稼働率は75.9%

7月の鉱工業生産指数は前月比+0.7%と2ヶ月連続の上昇、内訳は製造業同+0.5%、鉱業同+0.7%、公益事業同+2.1%。原油価格の底入れで鉱業が過去3ヶ月中2ヶ月で上昇に転じていることが指数全体の底入れにつながっている。鉱工業生産指数の前年比の伸び率も-0.5%と11ヶ月連続マイナスがつづいているものの、マイナス幅は着実に縮小している。原油価格下落が鉱工業生産に与える影響は徐々に剥落しているといえる。設備稼働率は75.9%(前月比+0.5%)と2ヶ月連続の上昇。一方、自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)は年率11.87百万台(同-2.4%)と前月の同+9.8%の大幅増から反落した。

20160820図4


<経済レポート> 消費拡大のかげに:米個人所得動向

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米個人消費は、7月小売売上高の減速にも関わらず今後も堅調な拡大を維持すると予想する。しかしながら、その背後にある個人所得の伸びの減速は、中期的に景気循環が減速局面に入りつつある可能性を示唆するものである。雇用者報酬の伸びが低下していることは、雇用拡大ペースの循環的減速と整合的な動きである。短期的には年内の個人消費は2%成長が可能であるが、その後は中期的な減速局面に入ると見ておきたい。

消費者センチメントと金融市場は個人消費の追い風

7月の小売売上高は前月比横ばいとやや失望感のある結果に終わった。自動車販売は前月比+1.1%と増加したが、自動車・ガソリン・レストランを除くいわゆるコアの小売売上高は同-0.1%と11ヶ月ぶりのマイナスの伸びとなった(8月13日付<経済指標コメント>参照)。4-6月期の個人消費の急回復の反動による消費減速という当レポートの見方に沿った減速ではあり、GDP統計上の実質個人消費は7-9月期に前期比年率+2%を達成できる位置にある。今後も雇用拡大と賃金上昇を背景に個人消費は堅調な拡大を続けるとの見方は不変である。ただし、中期的な景気循環の転換点が近い中、経済拡大を支える個人消費を取り巻く環境は定期的な点検が必要であろう。本レポートでは、個人消費の決定要因につき現状の点検を試みる。

まず、消費者センチメントは堅調に推移しているといえる。8月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報)は90.4ポイント(前月比+0.4ポイント)と2ヶ月ぶりに上昇し、相対的に高水準で横ばいの推移を維持している([第1図])。6月の英国EU離脱選択(Brexit)を機に一時同指数が低下に転じたが、その後の金融市場の回復などもあり、消費者信頼感への影響は限定的といえる。消費者センチメントとの比較では、3月にかけての個人消費の減速がむしろ下方乖離であり、その後の消費の伸びの回復は実績がセンチメントに追いつきつつある過程といえる。

株価は8月に入りNYダウが史上最高値を更新するなど、Brexit後の一時的下落から回復して順調に上昇している。長期金利はFRBの利上げ観測にも関わらず低位安定している。金融市場環境も個人消費には追い風の環境だといえる。また、住宅価格も、5月時点のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前年比+5.2%の適度の上昇ペースを保っており、株価と合わせ個人の資産価格は順調に増加しているといえる。

[第1図]
20160814図1

個人所得の伸びが急減速している

一方で、個人所得の動向にはやや留意が必要だ。今年に入り、個人所得統計における実質可処分所得の動向に変化がみられる。個人所得統計によれば、実質可処分所得の前年比の伸び率は6月現在で+2.2%と、昨年12月の同+3.0%から伸びが急激に減速している。実質個人消費の伸び率は6月で同+2.8%と堅調に伸びを加速させているが、すでにそのペースが実質可処分所得伸びを上回っていることになる([第2図])。この個人消費拡大ペースの持続可能性に対するリスク要因となりうる。

実質可処分所得の伸びの減速の要因の一つはインフレ率上昇にあると考えられる。消費者物価指数(CPI)の前年比伸び率は、2015年第4四半期にほぼゼロだったのが、6月時点で同約+1%に上昇している。2015年末の原油価格の急落要因が今年に入り剥落したためである。実際の個人所得統計における名目可処分所得は6月時点で前年比+3.1%で、実質可処分所得の伸び率同+2.2%との差はほぼインフレ率に相当する([第3図])。しかしながらここで注目すべきは、名目可処分所得の伸び率も継続的に低下傾向にあることである。名目可処分所得は昨年12月時点で同+3.6%だったのが、6月現在で同+3.1%に低下している。実質可処分所得の伸び低下はあながちインフレ要因のみによるものではなく、所得の伸びそのものの低下に背景があるといえる。

名目可処分所得の太宗を占める雇用者報酬の伸び率は昨年末で前年比+5.1%だったのが今年の6月には同+3.3%に減速している([第4図])。名目可処分所得の前年比伸び率に対する昨年12月から今年6月までの寄与度差をみると、雇用者報酬が-1.3%、賃貸所得が-0.1%、移転所得が-0.2%、税金が+0.9%。つまり、雇用・賃金を背景とする雇用者報酬の伸び率が継続的に低下していることが、個人所得の伸びを減速させている主要因だということになる([第5図])。

[第2図]
20160814図2
[第3図]
20160814図3
[第4図]
20160814図4
[第5図]
20160814図5

雇用者報酬の伸びが雇用・賃金に比して低迷している:貯蓄率は低下中

上記の可処分所得の伸び低下は、これまで当レポートが前提としてきた消費者購買力の伸びよりも、実際の所得増加ペースが低い可能性を示唆するものである。雇用統計における非農業部門雇用者数、時間当たり賃金、週平均労働時間それぞれの伸びから算出される名目購買力は7月時点で前年比約+4.3%と計算される([第6図])。個人所得統計上の名目雇用者報酬の伸び同+3.3%はこの想定よりも約-1%低いことになる。また雇用・賃金から算出される購買力からインフレ率を差し引いた実質購買力は6月時点で同約+3.3%と計算される。個人所得統計から算出される実際の実質可処分所得の伸び(実質+2.2%)はこれよりも約-1%以上も低い伸びだということになる。なお、実質可処分所得の前年比の伸びに対する社会保障費及び税金の寄与度はそれぞれ-0.3%、ゼロであり、政府宛支払いによる可処分所得の伸びへの影響は同-0.3%にすぎず、可処分所得に与える税金等の影響は限定的である。

実質可処分所得の伸び率が低下するとともに、貯蓄率が今年に入り低下に転じている。6月現在の貯蓄率は5.3%と、昨年末の6%台から-0.7%ポイントの大幅低下である([第7図])。これは、収入の伸びが低下してもなお消費を拡大することで、収入に対する貯蓄の割合が低下していることを示唆している。つまり、今年に入ってから消費者は所得の伸びが減速したにも関わらず消費意欲が旺盛で、貯蓄の割合を減らすことにより消費を拡大させているということになる。

所得の伸び減速と消費の伸び拡大、これにともなう貯蓄率低下の示唆するものは次の通りである。すなわち、現状において個人は良好な市場環境や消費者センチメントを背景に消費を拡大させているものの、その背後には所得の伸び減速があり、結果個人は所得の伸び以上の消費拡大を行っていること。したがって短期的には個人消費が引き続き経済拡大を底支えするものの、中期的な景気循環のもとでは、雇用拡大ペースが今後減速することを背景に個人消費も減速サイクルに入る可能性が高いこと、である。なお、個人所得減速を補完する機能を果たす消費者信用の残高の伸びは、依然所得の伸びを大きく上回る伸びを維持しているものの、昨年頃からその伸びにはピークアウト感がみられる([第8図])。

[第6図]
20160814図6
[第7図]
20160814図7
[第8図]
20160814図8

短期的には消費拡大継続、中期的には循環的減速へ

以上より、金融市場や消費者センチメントは依然個人消費にとって追い風要因であるものの、消費の源泉となる個人所得の伸びには減速感があるといえる。個人所得の伸びの減速は、景気循環が中期的な減速サイクルに入りつつあるとの当レポートの見方とも整合するものである。短期的には個人消費は今後も約2%台の堅調な拡大を継続すると見るが、来年以降についてはその減速感がより明瞭になってくる可能性があるといえるだろう。

なお、FRBの金融政策については、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で+0.25%の利上げが決定されるとの個人予想を維持する。ただ、金融政策の動向には今や下方リスクのみならず上方リスクもあると言わざるを得ない。上方リスクとはすなわち、9月または11月のFOMC定例会合で利上げが前倒し実施されるリスクである。6月の定例会合における利上げ見送り要因であった「雇用」と「Brexit」の懸念は、今や相当に後退したと言ってよい。一方でインフレ率は、来年の2%台乗せが視野に入る水準にまで順調に上昇している。6月の利上げ見送り要因の剥落とインフレ率上昇は、十分に9月の利上げをも正当化しうる状況である。

しかしながら、FOMC内では依然ハト派が優勢であること、4-6月期のGDP成長率が予想を下回ったこと、また中期的な自然利子率低下の議論がFOMC内にあることは、依然として利上げが年末まで見送られる可能性が依然高いことを示唆している。17日には7月FOMC定例会合の議事要旨が公表されることから、この内容も点検の上、9月利上げの可能性は再検証することとしたい。

<経済指標コメント> 米7月小売売上高は前月比横ばい

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[日本]

景気ウォッチャー調査(7月):現状判断DIは45.1(前月比+3.9ポイント)、先行き判断DIは47.1(同+5.6ポイント)

7月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは45.1(前月比+3.9ポイント)と4ヶ月ぶりの上昇、2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは47.1(同+5.6ポイント)と2ヶ月ぶり上昇。現状判断、先行き判断DIいずれも横ばいを示す50を12ヶ月連続で下回ったものの、いずれも強めの上昇となった。景気判断の理由として「セール品中心に順調に推移(百貨店)」「天候にも恵まれ、早めに立ち上がった晩夏物や初秋物の定価商品も、堅調に推移(同)」「売上も伸びているのは猛暑の影響で、一時的なもの(コンビニ)」と、天候要因による消費の堅調さが反映されている一方持続性には疑問がみられる。「欧州の政情不安が一段落し、株価が戻ってきた(百貨店)」など、英国EU離脱選択の一時的不安の解消も判断好転の要因のようだ。総じて猛暑の影響とBrexit不安解消で街角景気は反転したものの、今後の持続性はまだ不確実といえる。

20160813図1

機械受注(6月、船舶・電力を除く民需)は前月比+8.3%(前年比-0.9%)

6月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+8.3%と3ヶ月ぶりの大幅増加。しかしながら過去2ヶ月の減少をカバーできず、4-6月期の同受注は前期比-9.2%と2四半期ぶりに大幅マイナス成長となった。GDP統計上の設備投資は、1-3月期までの受注積み上げによりプラス成長への転化を見込んでいるが、その後は再び減速して年後半はほぼゼロ成長にとどまるとの見方に沿った動きである。

20160813図2

[米国]

小売売上高(7月)は前月比横ばい、除く自動車関連同-0.3%

7月の小売売上高は前月比横ばいと、前月の同+0.8%から大幅に減速した。内訳は、新車販売の増加を反映した自動車及び同部品ディーラーが同+1.1%と大幅増加したものの、家電店同-0.1%、食品店同-0.6%、ガソリンスタンド同-2.7%、衣服店同-0.5%、スポーツ用品店等同-2.2%など主要業種が売上を減少させた。売上が増加したのは家具店同+0.2%、薬局同+0.1%など。自動車関連を除く売上高は同-0.3%、また自動車・ガソリン・レストランを除くコア売上高は同-0.1%とマイナスの伸びに転化した。4-6月期の個人消費急増の反動で7月以降はいったん消費が減速するとの見方には沿った動きである。一方でコア小売売上高のマイナス転化はやや予想外の悪化。総じて雇用増と賃金上昇で個人消費をめぐる環境はよく、今後も個人消費は堅調な拡大を続けるとの見方は不変である。7-9月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+2%レベルの伸びを引き続き見込む。

20160813図3

企業在庫(6月)は前月比+0.2%、企業売上高は同+1.2%、在庫売上高比率は1.39倍

6月の企業在庫は前月比+0.2%と小幅な増加。一方企業売上高は同+1.2%と2013年2月以来の大幅な増加となった。結果在庫売上高比率は1.39倍と依然高水準ながら徐々に低下に転じている。企業の在庫調整が徐々に進行している証跡ではあるが、在庫循環図はいまだ在庫調整局面にあり、今後も在庫調整が生産の抑制要因となろう。

20160813図4

<経済指標コメント> 米7月非農業部門雇用者数は前月比+255千人

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[米国]

ISM製造業指数(7月)は52.6%(前月比-0.6%ポイント)、非製造業指数は55.5%(同-1.0%ポイント)

7月のISM製造業指数は52.6%(前月比-0.6%ポイント)と3ヶ月ぶりに小幅反落。ただし3ヶ月移動平均は52.4%(同+0.6%ポイント)と6ヶ月連続の上昇を維持、製造業景況感の回復基調に著変はない。総合DIを構成する5つのDIの内訳は、新規受注56.9%(前月比-0.1%ポイント)、生産55.4%(同+0.7)、雇用49.4%(同-1.0)、入荷遅延51.8%(同-3.6)、在庫49.5%(同+1.0)。入荷遅延DIの低下が全体を押し下げている。調査先の回答には「第2四半期の業績は昨年を下回るものの予想より強い(コンピューター及び電気製品)」などポジティブなものが目立つ。英国のEU離脱選択(Brexit)については「事業への影響を注意深く見守る(化学製品)」「これまで業績に影響はなし(食品及び飲料)」など景況観への影響は引き続き軽微といえる。非製造業指数は55.5%(同-1.0%ポイント)と反落。しかし製造業指数に比して相対的に高水準にあり、3ヶ月移動平均も上向きを維持している。総合DIを構成する4つのDIの内訳は、事業活動59.3%(同-0.2%ポイント) 新規受注60.3%(同+0.4)、雇51.4%(同-1.3%)、入荷遅延51.0%(同-3.0)とまちまち。調査先の回答には「売上は強気予想にほぼ沿った動き」とのポジティブな内容のほか「原油価格が設備投資の減少を通じ事業に影響(建設)」など原油価格低下による減速が継続しているとの見方がありまちまちである。英国のEU離脱選択については「Brexitは金融業に影響を与えるがその内容を語るのは時期尚早(金融業)」など、具体的な景況観悪化には依然直結していない模様だ。

20160807図1

実質個人消費(6月)は前月比+0.3%、PCEデフレーターは前月比+0.1%(前年比+0.9%)、同コアは前月比+0.1%(前年比+1.6%)

6月の実質個人消費は前月比+0.6%と強めの伸び。内訳は耐久消費財同+0.4%、非耐久消費財同+0.3%、サービス同+0.3%と押しなべて強い。結果4-6月期の実質個人消費は前期比年率+4.2%と前期の同+1.6%から急回復した。米国の個人消費は雇用拡大と賃金上昇を背景に堅調であり1-3月期の減速は一時的なものだったといえる。個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比+0.1%(前年比+0.9%)、コアPCEデフレーターは前月比+0.1%(前年比+1.6%)といずれも堅調に上昇している。原油価格が現状の1バレル=40ドル台で推移した場合、年末の前年比上昇率は総合PCEデフレーターが+1.6%、コアPCEデフレーターが+1.9%レベルに上昇すると見る。インフレ率の観点からはFRBの年内追加利上げを十分に正当化できる状況といえる。

20160807図2

新車販売台数(7月、乗用車及び軽トラック)は年率17.77百万台(前月比+1.1%)

7月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率17.77百万台(前月比+1.1%)と3ヶ月ぶりの前月比増加、水準も昨年10月以来の高水準となった。ガソリン価格の低位安定と自動車ローンの信用条件緩和が好調な自動車販売を支えているといえる。しかし、販売台数が同17百万台台になると市場が飽和状態に近くなるとの経験則からは、ここから先の増加ペース加速は期待しにくい。

20160807図3

雇用統計(7月):非農業部門雇用者数は前月比+255千人、失業率は4.9%

7月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+255千人と前月の同+292千人に続き2ヶ月連続の強い伸びで、5月の低迷が一時的な減速であったとの見方を支持する結果となった。3ヶ月移動平均も同+190.3千人と巡航速度の約200千人に近いところまで回復した。業種別には、建設業同+14千人、小売業同+14.7千人、専門ビジネスサービス同+70千人、医療サービス業同+36千人など広い業種で雇用が増加した。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.6%と前月の同+2.5%から伸びが加速。家計調査による失業率は4.9%と前月比横ばいながら、労働力人口と就業者数の増加を伴う良い内容であり、労働参加率は62.8%と2ヶ月連続で上昇した。総じて雇用市場は4、5月の雇用減速から再び堅調な拡大ペースに回復したと見ることができる。雇用市場の動向もFRBの年内追加利上げを支持する材料といえる

20160807図4