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<経済レポート> ナイーブなカーブ:日銀「長短金利操作付き量的・質的緩和」

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日本銀行は21日、イールドカーブ・コントロールを含む新たな金融緩和政策の導入を決定した。同政策は長期金利の水準を操作目標として設定する新たな枠組みである。これは、金融緩和政策の副作用の排除、より広範囲な金利に働きかける政策、コミットメント強化、との観点からはポジティブな内容といえる。一方、従前の政策と比べた限界的な効果は今回の決定内容からは限定的であり、その効果は今後の運用に依存する。インフレ率は来年にかけて一時2%に向け上昇する可能性があるが、安定的な推移にはまだ時間を要するとの見方は維持する。

日銀は「長短金利操作付き」緩和導入を決定

日本銀行は20-21日の金融政策決定会合で、「金融緩和強化のための新しい枠組み『長短金利操作付き量的・質的緩和』」(以下「同政策」)の導入を決定・公表した([第1表])。市場の一部で期待されていた日銀当座預金マイナス付利金利の引下げ(いわゆる「深堀り」)は実施されなかった。同時に日銀は、「『量的・質的緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」(以下「総括」)を公表、2013年4月に導入された量的・質的緩和の効果と影響の検証を行った。本レポートでは、「長短金利操作付き量的・質的緩和」政策の内容を概観し、その物価安定目標達成への効果を見ていく。

同政策の主な内容は「長短金利操作」「オーバーシュート型コミットメント」の2つである。まず「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」は、政策金利として日銀当座預金のうちの政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を付利、さらに長期金利(10年物国債金利)にゼロ%程度の操作目標を設定する。長短金利操作のため「日本銀行が指定する利回りによる国債買入れ(指値オペ)」を新たに導入する。対象年限は2、5、10、20、30、40年債である。国債買入れは日銀の保有残高が「年間約80兆円」増加するペースをめどとする。次に「オーバーシュート型コミットメント」とは、日銀が2%の「物価安定の目標」の実現を目指しこれを安定的に持続するために必要な時点まで同政策を継続することに加え、新たに「マネタリーベースを消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続する」ものである。

なお日銀は声明文で、今後の追加的な緩和手段として、①短期政策金利の引き下げ、②長期金利操作目標の引き下げ、③資産買入れの拡大、④マネタリーベースの加速、を挙げ、今後の追加緩和の可能性も示唆している。

[第1表]
20160925表1

ポイントは「長期金利操作目標」と「適合的な期待形成」強化

同政策の、従前の政策と比較した変更点は以下の2つに整理できる。第1に、短期政策金利の設定に加え新たに長期金利の水準を金融政策の中間操作目標に設定したことである(マネタリーベースの数値目標は廃止)。現状先進国の金融政策で操作目標として長期金利水準の数値を設定している例はなく、これは新たな試みといえる(2002年11月に当時のバーナンキFRB理事が講演でゼロ金利制約下の追加緩和政策の選択肢の一つとして「中長期国債金利への上限設定」を挙げたことがある)。具体的には、年限毎の指値オペ(固定利回り方式)により、市場のイールドカーブを日銀の想定する水準(“概ね現状程度”と日銀は想定している)に維持することを目指している。政策金利と10年金利を固定したうえで、イールドカーブの水準と形状を正当化するには理論上の工夫が必要であり、これがのちに述べる課題となりうる。

第2に、「適合的な期待形成」のために「インフレ実績」をより重視したフォワードガイダンスの強化である。日銀は「総括」において、日本の予想物価上昇率の形成において「適合的な期待形成」のウエイトが他国に比べ高い(短期インフレ予想の約7割が現実のインフレ率で説明できる)ことを検証している。「インフレ実績が安定的に2%を超えるまでマネーサプライを拡大」は、従前のフォワードガイダンスをいくぶん強めたものといえる(これはフォワードガイダンス状況条件ガイダンスState-contingent guidanceといえる)。

ただし今回の決定は、従前の緩和政策との比較では「追加緩和」とはいいにくい。10年物国債利回りは従前よりゼロ%以下で推移していた。これをゼロ%に固定することは、長期金利の水準を従前よりもむしろ引き上げることを意味する。イールドカーブ・コントロールは、枠組みとしては長期金利を中銀の直接の操作目標とすることで量的・質的緩和よりも強力といえるが、現状の数値目標設定ではむしろ引き締め方向である。これは、イールドカーブのフラットニングに伴う副作用(「総括」補論9)に配慮した運用といえる。「年間80兆円の国債保有残高増加」は、実質的には従前の「マネタリーベース年間約80兆円増」と同等であり、量の観点からは緩和の程度は従前と同じである。

副作用緩和はポジティブ、本来的な限界効果は限定的

従前の緩和政策と比較した同政策の2%物価安定目標達成への限界的な効果は以下にまとめられる。第1に、政策金利の深堀りを見送りかつイールドカーブのスティープ化が促されることで、イールドカーブのフラットニングによる副作用は緩和され、物価安定目標への進捗は現状比加速されることになるだろう。

しかしながら第2に、今回の決定そのものによるインフレ率引上げの限界的効果は限定的と見ざるを得ない。金融緩和政策の拡大が経済に与える限界的効果は低減しておりかつ今回の緩和の程度は従前比ほぼ同等とみられる。日本銀行は「総括」において、マクロ経済モデルを用いた分析により、実質金利押し下げ政策効果が需給ギャップ縮小とインフレ率上昇に有意に寄与したと結論づけている。ただし、例えば2013年2Q以降の実質金利低下の需給ギャップへの政策効果は13年度+0.1%、14年度+0.4%、15年度+0.6%とされ、限界的政策効果は低減している(「総括」補論6)。一方「総括」では、金利の期間構造による経済・物価への影響につき「実質金利1単位の低下が需給ギャップに与える影響については、1~2年がはっきりおおきく、年限が長くなるにつれて小さくなる」と結論している(「総括」補論8)。つまり、長期金利を引き下げても、その効果は比較的短い年限においては大きいが、中長期の年限においては限定的ということである。一般に、短期の政策金利設定と約1~2年後の金融政策期待を市場に織り込ませることで、中央銀行は2年程度までの市中金利に影響を及ぼすことができる。長期金利を中間操作目標とするイールドカーブ・コントロール導入の限界的効果は、主にイールドカーブの過度なフラットニングを抑制することで金融緩和政策の副作用を低減させることと見ておきたい。

第3に、今回のフォワードガイダンス強化は、従前の政策の即効性の向上を狙ったものとはいえない。「オーバーシュート型コミットメント」は適合的な期待形成に働きかけることでよりフォワードルッキングなインフレ予想を引き上げようとするものであるが、従前の「2年で2%」とのフォワードガイダンスからの較差は大きいものではない。

カーブの引き方:曲率の頂点は手前に引き寄せるのが効果的

同政策の運用上の課題は、「イールドカーブ・コントロール」で設定する具体的イールドカーブの水準と形状である。日本銀行が「総括」で分析しているとおり、イールドカーブは「水準」「傾き」「曲率」の3つの要素で決定される。政策金利と10年金利を固定することはこのうち「水準」と「傾き」を定義することになる。残る「曲率」については、曲率が最大となる曲率の頂点となる年限と水準が設定できれば、具体的イールドカーブの定義が可能になる。

現状の日本国債のイールドカーブをみると、1年物から10年物の期間はほぼフラットに近く、10年物を境にカーブが急激にスティープ化している([第1図])。つまりイールドカーブの曲率の頂点が10年物近辺に位置している。これは、マイナス金利付き量的・質的緩和が長期金利低下に及ぼす影響が概ね10年までとの市場の期待を反映していると見られる。なお、21日の政策決定後の国債イールドカーブは決定前よりスティープ化し、20年以上の利回りが上昇、5年以下の年限の利回りが低下している(同上)。これは、新たな金融政策において、日銀が特に10年以上の超長期の金利を引上げ、5年以下の中期金利を引下げる操作を行うとの市場の期待の反映といえる。これは10年物利回りゼロ%が今後のイールドカーブ導出における曲率の頂点の役割をも同時に果たすとの期待と言い換えられる。日銀はイールドカーブを「概ね現状程度の水準から大きく変動することを防止する」ことを想定しており(「2016 年9月中の長期国債買入れ等の運営について」)、現状イールドカーブを追認しているように見える。

しかしながら、実質金利の引き下げの経済への効果が主として1~2年において大きいとすれば、イールドカーブの曲率の頂点はこうした短期の年限におくことがより効果的と考えられる。3年以上の年限のカーブをフラット化させたままだと、上記の副作用が依然として3~10年物の金利期間において残存することになる。日銀公表内容からは、今後の長短金利操作においてイールドカーブの曲率の頂点をどの年限におくかは明示的ではない(シンプルには現状通り10年物を想定しているとも読める)。市場へのショックを極小化するために、政策開始当初は「現状程度」の水準をイールドカーブとして想定することは合理的な判断である。しかし、今後の政策運営においてその水準を必要に応じ変更することは可能である。政策の効果を優先すればおのずとイールドカーブは現状からやや頂点を期近方向に移行させることが適当ということになる。

[第1図]
20160925図1

インフレ率は来年度に一時2%に接近も:安定的な実現はまだ先

総合的にみて同政策は、従前の「量的・質的緩和」継続を前提とした政策枠組み変更としては適切といえる。緩和政策の副作用への配慮、イールドカーブに働きかけるより広範囲な金融政策、そしてフォワードガイダンスの強化というポジティブな要素がひとわたりそろっている。一方、その運用のポイントは具体的イールドカーブの設定であり、上記の曲率の頂点の設定がその効果を大きく左右する。

なお、インフレ率が2017年中には2%に向けて一時的に接近するものの持続的な2%インフレの実現にはさらに時間がかかるとの筆者個人の見通しは同政策決定後も維持する。まず筆者試算によれば、原油価格が今後1バレル=40ドル台で安定的に推移した場合、生鮮食品を除く総合消費者物価指数(いわゆるコアCPI)の前年比上昇率は2016年度末には概ね+1%程度に上昇する([第2図])。その後日本経済が潜在成長率を上回る成長を継続すれば、需給ギャップの縮小を背景に同インフレ率が2%に一時的に接近しうる。

しかし、需給ギャップとコアインフレ率との関係からは、2%のインフレ率を安定的に実現するには、需給ギャップが+4%の需要超過になる必要がある計算になる([第3図])。内閣府によれば、2016年4-6月期現在の日本のGDPギャップは-1.0%、潜在成長率は約+0.3%とされている。需給ギャップが4%以上の需要超過になることは今後2~3年では考えにくい。インフレ率が2%を安定的に超えるケースとして想定されるのは、インフレ率の実績が1%を超えてくることにより日銀のいう「適合的な期待形成」が加速することで予想インフレ率が上昇し、需給ギャップの縮小が加速するケース、あるいは失業率が自然失業率を下回ってさらに低下することが賃金上昇ペースの加速をもたらし、これがインフレスパイラルを示現するケースである。

[第2図]
20160925図2

[第3図]
20160925図3

米国ではFOMCが利上げ見送り:12月利上げ個人予想は維持

最後に、米国の金融政策につき本レポートでは簡単に触れておく。21日、FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、FF金利誘導目標レンジの据え置き(0.25-0.50%)を決定した。声明文及びFOMC委員経済予測、並びにイエレンFRB議長の定例記者会見のポイントは以下の通りである。うち、①、②、④は年内利上げ予想を支持する要素、一方⑤、⑥は来年以降の利上げペース減速を示唆するハト派的要素である。
 ①3人の投票メンバーが利上げを主張し決定に反対
 ②声明文で「経済見通しのリスクは概ねバランス」の文言が復活
 ③同「FF金利引上げの根拠は強まったと判断するが、目標への進捗継続の更なる証左を当面待つことに決定」
 ④FOMC委員経済予測では14人の委員が年内追加利上げを予測
 ⑤来年2017年末の適正FF金利予測中央値は1.1%に低下(6月予測は1.6%)
 ⑥イエレン議長は「労働市場余剰縮小ペース低下」「金融政策の非対称性」を利上げ見送り理由とし、「中立利子率低下」にも改めて言及

9月FOMCの結果は、利上げ見送り支持が利上げ支持を票読みで上回るとの筆者個人の予想に沿ったものであり、次回利上げは12月との個人予想を維持する。一方、来年の利上げペースについては、FOMC委員の予測中央値が+0.50%(+0.25%の利上げを2回)に下方シフトしている。これはこれまでの筆者個人の想定よりペースダウンであり、この点については見通しの修正を考慮せざるを得ない。

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<経済指標コメント> 米8月中古住宅販売戸数は年率5330千戸(前月比-0.9%)

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[米国]

住宅着工戸数(8月)は年率1142千戸(前月比-5.8%)、着工許可件数は同1139千件(同-0.4%)

8月の住宅着工戸数は年率1142千戸(前月比-5.8%)と3ヶ月ぶりの減少。6月移動平均は同1157.5千戸(同-1.0%)とこれも3ヶ月ぶりに低下に転じた。GDP統計上の住宅投資は4-6月期に9四半期ぶりのマイナス成長に転じたが、その後の着工回復はまだ強くはない。住宅着工許可件数は同1139件(同-0.4%)と2ヶ月連続の減少、6ヶ月移動平均は7ヶ月連続の低下である。住宅着工は今年の前半までは堅調に増加してきたが、現状やや減速の兆しがみられ先行指標も弱含みと言わざるを得ない。

20160924図1

中古住宅販売戸数(8月)は年率5330千戸(前月比-0.9%)、在庫期間は4.6ヶ月

8月の中古住宅販売戸数は年率5330千戸(前月比-0.9%)、2007年以来の高水準となった6月から2ヶ月連続で減少した。販売在庫は2040千戸(同-3.3%)と過去3ヶ月で2回目の減少、結果在庫期間は4.6ヶ月と前月の4.7ヶ月から短期化した。中央販売価格は前年比+5.1%とほぼ横ばいの伸びが続いている。総じてここ2ヶ月の販売減は6月までの急増の反動減の可能性が高く、低金利と雇用増を背景に住宅需要は堅調とみたい。一方で在庫不足が依然販売の抑制要因となっている模様だ。公表元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで同趣旨の見解を述べている。

20160924図2

<経済レポート> ニュー・ノーマルの研究:FRBブレイナード理事講演

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ブレイナードFRB理事の12日の講演は、同氏及びFOMC内のハト派の考え方を包括的に提示した内容だった。状況証拠的には9月FOMCでの利上げ決定の可能性は後退したといえ、次回利上げは12月との個人予想は維持する。一方で当レポートでは米国経済は利上げ開始の条件が整っていると見ている。ブレイナード理事の講演内容に見られるニュー・ノーマルの考え方を点検し、これを当レポートの見方と比較検討する。

ブレイナード理事講演はハト派:9月利上げ可能性は低下したが。。

12日にブレイナードFRB理事はシカゴで「“ニュー・ノーマル”とその金融政策への意味」と題する講演を行った。FRB高官から利上げに積極的と受け取られる発言が相次ぐ中、FRB連邦公開市場委員会(FOMC)委員の中でハト派と目される同理事の講演は、9月の利上げ決定如何を占う重要な材料とされていた。結果は、同理事の従来の主張通りハト派的・リベラル的な内容の講演であった。ブレイナード理事は、「ニュー・ノーマル」下にある経済につき5つの特徴を上げ、「金融緩和政策の解除は慎重に」すべきとの考えを表明した。これは、FRBの執行部(FRB議長を含む理事5名)の中には依然利上げに慎重な意見が存在することを示唆している。

FOMCにおいて理事が決定に反対票を投じたのは、2005年9月20日のオルソン理事(当時のFRB議長はグリーンスパン氏)が最後である注1)。しかもこの反対票は、同8月に米国に大きな被害をもたらしたハリケーン・カトリーナの影響を見極めるべく利上げを停止すべきとの一時的な要因を背景とする意見。その後、バーナンキ議長、イエレン議長の時代において、議長・理事間で票が分かれたことはない。FOMCの10名の投票メンバーのうち、イエレンFRB議長を含む5名のFRB理事及びNY連銀総裁の計6名の票は分裂させないと前提すれば、20-21日のFOMCでは利上げ見送り票が過半数となる計算となる。この前提に立てば、9月20-21日のFOMCでの利上げ決定は考えづらい。よって従来の当レポートの筆者個人予想である、次回利上げ決定は12月FOMC定例会合との予想を維持する。

一方で、ブレイナード理事の講演には、FOMC内のハト派の主張根拠がほぼすべて整理された形で盛り込まれている。すなわち、①フィリップス曲線の平坦化、②労働市場ののりしろ、③海外経済減速、④中立利子率の低下、⑤金融政策の非対称性、の5つである。本レポートでは、同理事の講演を基に、同氏がニュー・ノーマルと称する米経済の現状を点検する。

自然失業率を下回ればインフレ加速が期待できる

ブレイナード理事は、現状の経済は「ニュー・ノーマル」状態にあり、「10年以上前の過去」の金融政策のセオリーが妥当しないケースが多いとしている。まず、「①フィリップス曲線の平坦化」につき同理事は、「フィリップス曲線は過去に比べ信頼度の低い道標」であるとして「フィリップス曲線の平坦化と期待インフレ率の低下」が「インフレの継続的な下ぶれ」を招く可能性があると述べている。

しかし、指標を見る限り、フィリップス曲線が全体に平坦化している証跡は見られない。[第1図]は、2005年から直近までのインフレ率と失業率の関係を示すシンプルなフィリップス曲線である(インフレ率はコア個人消費支出価格指数を用いた)。実際、2013年~現在にかけて、失業率は約7.5%から約5%に低下したが、インフレ率は1.5~2%で横ばい推移している。これは確かに曲線の平坦化である。しかし、筆者個人は、この平坦化は失業率が自然失業率を上回っている領域においてみられる現象であり、失業率が自然失業率を下回る領域では曲線は再び傾斜を強める(失業率の低下に対するインフレ率上昇ペースが加速する)とみている。これは賃金版フィリップス曲線においてより明かである([第2図])。フィリップス曲線は失業率が5%を下回る領域では傾斜が強くなり、かつ過去数四半期に失業率が5%に近づくにつれ、賃金上昇ペースが加速していることがわかる。

つまり、今後失業率が緩やかながら自然失業率を下回って低下すれば、これまでよりもインフレ率及び賃金上昇率は上昇し、FOMCの2%目標は視野に入ってくると個人的には見る。

[第1図]
20160919図1

[第2図]
20160919図2

自然失業率は5%弱と推計:現在は完全雇用に近い

次に同理事は「②労働市場ののりしろ」について述べている。同理事によれば「自然失業率は不確実であり時間とともに変化する」「自然失業率推計値が今後さらに低下する可能性を否定できない」として、現在の失業率実績(8月時点で4.9%)、が自然失業率(2016年6月FOMC委員経済予測による長期均衡失業率の中央値は4.8%)に接近しているにも関わらず、労働市場ののりしろは見かけ以上に大きい可能性があることを指摘している。

しかし、当レポートでは、米国の現在の自然失業率は5%前後だと見ている。第3図は「コア個人消費支出価格指数(PCE)インフレ率を変動させない失業率の水準」との観点から、米国の自然失業率を推計したものである。失業率とコアインフレ率の関係を示す回帰曲線は2008年の金融危機前後に大きくシフトしている。1995年~2007年のデータに基づく自然失業率は約5%と推計される一方、2007年~現在のデータに基づくそれは約7.3%に上昇している。しかしながら、2016年にかけて失業率が5%に向けて低下するにつれ、インフレ率と失業率の関係は2007年以前のデータに基づく回帰曲線に再接近していることがわかる。すなわち、金融危機の影響を排したデータに基づけば、米国の自然失業率は5%前後であることが推測できる。この結果は、米議会予算局(CBO)の推計する自然失業率(2016年時点で4.7%)ともおおむね一致している。またCBOは、自然失業率が2026年まで4.7%で横ばい推移すると推計している(CBO「財政・経済見通しアップデート」2016年8月)。

つまり、現状の米国経済は約5%弱の自然失業率を前提としてほぼ完全雇用に近いと言ってよく、また今後自然失業率が大幅に低下するという確たる根拠は現状みられないことになる。

[第3図]
20160919図3

中立金利低下でも利上げは可能な水準

次にブレイナード理事がニュー・ノーマルの特徴として挙げる「④中立金利の低下」をみる。同理事は「中立金利は金融危機以前に比べ大幅に持続的に低下した」として「現在のFF金利水準は10年前の同じ水準に比べてより引き締め的である」と述べている。中立金利の低下の反映として「7年感の景気拡大において加速がみられない」こと、また背景として「海外需要の軟化」「生産性上昇率の低下(1950年~200年の期間には+2.5%、過去5年平均は+0.5%)」を上げている。

確かに当レポートでも、米国の中立金利は低下していると見ている。[第4図]は、米国の実質中立金利(=潜在成長率)を3通りの方法で推計したものである。①はCBOによる潜在成長率推計値、②は実質GDP実績値をHPフィルターで平滑化した推計値、③は長期金利からインフレ率を差し引いた長期実質金利実績値をHPフィルターで平滑化したものである。これによれば、現在の米国の(実質)中立金利は約+1.5%~+2%の間と推計される。やや保守的に見ても、米国の中立金利は+1.5%レベルには位置しており、これは金融危機以前の水準に比べて低下しているものの、一部のFOMC委員がいうように「ゼロ」にはなっていないことになる。+1.5%の中立金利を前提としたテイラー・ルールに基づく適正FF金利水準は2016年第4四半期において約0.5%と推計され、これは年末の追加利上げを正当化できる材料である(9月11日付当レポート参照)。

米国の中立金利が低下していることは事実であるが、その水準は保守的に見ても+1.5%程度はあり、この保守的な水準を前提としても年内の利上げは正当化可能である。

[第4図]
20160919図4


金融政策の非対称性は克服可能

最後に、ブレイナード理事がニュー・ノーマルの特徴として挙げる「③海外経済減速」「⑤金融政策の非対称性」につき簡単に触れる。海外経済減速の影響について同理事は「欧州、日本、中国」の成長減速を挙げ、さらに金融市場、特にFRB利上げに伴うドル高を通じた米経済への悪影響のリスクを述べている。筆者個人は、内需を中心とする米国の実体経済は相対的には海外経済の影響を受けにくく、これが原油価格や株価の大幅下落を伴う金融市場を通じた波及をもたらさない限り、米国経済は堅調に推移すると見る。為替影響は輸出減速を通じて米国の成長に影響を与えるものの、その程度は内需に比して限定的である。

「金融政策の非対称性」は、過去に3月FOMCなどでも議論されたテーマである(4月17日付当レポート参照)。政策金利をマイナスにできないゼロ金利制約下の金融政策においては、金利引き上げは金利引き下げよりも慎重に実施すべきとの考え方である。3月FOMC議事要旨からは、「多くの」参加者が金融政策の非対称性を根拠に利上げに慎重なスタンスを示し、またイエレンFRB議長も3月30日の講演でこの点に触れている。ブレイナード理事の講演内容はほぼこれらの議論に即した意見となっている。

しかし、すでに8月の一連のFRB高官発言が利上げ開始を支持する内容にシフトしていることからは、この非対称性を克服しうるだけの利上げ正当化根拠がFOMC内に相当に根付いていることが推測できる。なお、当レポートではむしろ、利上げは早期に実施し、将来の金融再緩和実施に備えて金融政策ののりしろを維持しておくのが有効だと考えている。


注1)セントルイス連銀 “Making Sense of Dissents: A History of FOMC Dissents”2014年9月15日

<経済指標コメント> 米8月小売売上高は前月比-0.3%

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[日本]

機械受注(船舶・電力を除く民需、7月)は前月比+4.9%(前年比+5.2%)

7月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+4.9%と前月の同+8.3%に続き2ヶ月連続の増加、前年比でも+5.2%と4ヶ月ぶりの増加に転じた。もっとも前年比増加率の3ヶ月移動平均は-1.1%と4ヶ月連続のマイナス圏にあり、機械受注の減速傾向はまだ継続していると言ってよい。鉱工業生産統計の出荷指数が前年比で依然マイナス圏にあり、在庫調整の途上であることから、機械受注も今後急激な回復は見込みにくい。企業部門の減速は年後半にも継続しそうだ。

20160918図1

[米国]

小売売上高(8月)は前月比-0.3%、除く自動車関連同-0.1%

8月の小売売上高は前月比-0.3%と5ヶ月ぶりの前月比減少、除く自動車関連は同-0.1%と2ヶ月連続の減少となった。内訳は自動車及び同部品ディーラー同-0.9%、家具店同-0.7%、家電店同+0.1%、ガソリンスタンド同-0.8%、衣服店同+0.7%などまちまち。4-6月期に急反発した個人消費が7-9月期にはやや減速するとの見方に沿った動きではあり、個人消費の状況に著変は見られないといってよい。しかし、新車販売の減少で全体のマイナスは想定通りであるものの、除く自動車関連の減少はやや弱めと言わざるを得ない。自動車・ガソリン・レストランを除くコアの小売売上高は-0.3%と2ヶ月連続のマイナスに転じている。雇用増加ペースの減速と実質可処分所得の伸びの減速で、個人消費は循環的な減速局面に入っている可能性が高く、これが想定以上に減少した場合は今年の成長見通しへの下方リスクとなるが、現在はまだそのリスクは小さく、今後の指標で継続点検したい。

20160918図2

企業在庫(7月)は前月比横ばい、企業売上高は同-0.2%、在庫売上高比率は1.39倍

7月の企業在庫は前月比横ばい、企業売上高は同-0.2%と5ヶ月ぶりの減少、在庫売上高比率は1.39倍と前月比横ばいとなった。3月以降増加に転じていた企業売上高が減少に転じ、在庫調整は単月で一服感がある。在庫売上高比率は依然高水準であり、在庫循環図も依然在庫調整局面にある。引き続き今年いっぱいは在庫調整が生産の抑制要因となりそうだ。

20160918図3

鉱工業生産指数(8月)は前月比-0.4%、設備稼働率は75.5%

8月の鉱工業生産指数は前月比-0.4%と3ヶ月ぶりの低下。内訳は製造業同-0.4%、鉱業同+1.0%、公益事業同-1.4%。原油価格の持ち直しで鉱業生産が4ヶ月連続の上昇に転じた一方で、製造業は過去4ヶ月間で2回目の低下とやや減速感がみられる。設備稼働率は75.5%と前月比-0.4%ポイントの低下。総じて鉱工業生産は底入れ感がでてきていたが、在庫調整や外需の減速を反映して、その回復ペースはまだ鈍いといえる。自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)は年率12.02百万台(前月比+2.1%)と、前月の同-3.2%減からやや持ち直した。

20160918図4

消費者物価指数(8月)は前月比+0.2%(前年比+1.1%)、同コア指数は前月比+0.3%(同+2.3%)

8月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%(前年比+1.1%)と上昇、食品及びエネルギーを除くコア指数は同+0.3%(同+2.3%)。ガソリンが前月比-0.9%と低下ペースを減速させたうえ、医療財(同+1.1%)、医療サービス(同+0.9%)などが上昇した。一方中古車(同-0.6%)は6ヶ月連続の下落。総じてCPIインフレ率は当レポートの見通しに沿った堅調な上昇を続けており、年末のCPIは前年比+1.5%、コアCPIは同+2.3%レベルの伸びを引き続き見込む。インフレ率の推移は年内のFRB利上げを正当化する材料である。

20160918図5

<経済レポート> 引締めGO:米国潜在成長率と需給ギャップ

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米議会予算局の最新の推計では、米国の経済ののりしろは従前の推計値に比べて縮小している。これは年内の利上げ予想を支持する材料である。一方で状況証拠からは、利上げ開始時期については当レポート予想の12月FOMCからの前倒しリスクが高まっている。ハト派FRB高官の利上げ支持示唆発言がその後も継続しており、FOMC投票メンバーの9月利上げ支持・不支持勢力図はかなり拮抗している可能性がある。

米議会予算局は成長加速・需給ギャップ縮小を予想

8月23日、米議会予算局は「財政・経済見通しアップデート 2017-2026」を公表した。ここでは、前回1月の財政見通しと経済見通しに対する改訂がなされている。うち経済見通しの部分につき概要を見る。まず成長率予想についてみると、CBOの8月時点の2016年実質GDP成長率予想は前年比+1.9%(1月時点予想同+2.5%)と大幅下方改訂。2016年第4四半期の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年比+1.5%(同+1.5%)、同コア指数は同+1.8%(同+1.5%)と1月予想比ほぼ不変。失業率は第4四半期に4.6%(同4.5%)とこれもほぼ不変となっている。なお、2017年の成長率につきCBOは同+2.7%と成長加速を予想している。

今後2年間の経済拡大についてCBOは、「未使用の経済資源または経済の“のりしろ”は低減する」「20015年末時点のGDP実績は潜在GDPに比べ約1.8%低かった」「2018年までにこの需給ギャップは過去平均よりも低い水準に縮小すると予想」「結果経済改善が更なる雇用を喚起し、失業率は2017年に4.5%に低下、労働賃金とベネフィットに上昇圧力をもたらす」と述べている。

FRB金融政策についてCBOは、「FRBはFF金利を2016年12月から徐々に引き上げ開始」し「2017年第4四半期に1.1%に、2018年第4四半期に1.8%に引き上げると予想」している。また、米国の潜在GDPについてCBOは、その水準を1月時点推計に比べわずかに引き下げている。潜在GDPの低下は、同じGDP実績に対してマイナスの需給ギャップが従前推計比縮小していることを表す。例えば2016年4-6月期時点の需給ギャップは、1月推計ベースでは約-2.2%だったが、8月推計ベースではこれが約-1.8%に縮小していることになる([第2図])。なお、2016年4-6月期時点のCBO推計による潜在成長率は約+1.5%と計算される。以下では、成長率、インフレ率、需給ギャップの動向につき、CBO「見通し」と当レポートの見方を比較し、今後の経済・金融政策予想へのインプリケーションを考察する。

[第1図]
20160911図1

[第2図]
20160911図2

成長予想はやや楽観的:インフレ予想はほぼ同じ

まず、CBOの2016年成長予想(前年比+1.9%)は、7月時点の当レポート予想とほぼ同じであるが、その後の筆者の暫定見通しに比べかなり楽観的といえる。当レポートでは、4-6月期GDP統計公表前の時点で2016年の通年成長率を前年比+1.8%と個人予想していた(7月10日付当レポート参照)。その後4-6月期成長率が前期比年率+1.2%に下振れしたことから、現在では通年成長率は同+1.3%程度に下振れすると暫定的に見ている。CBOは、2016年成長率予想の同+1.9%への引き下げの要因を「主に年前半の成長が予想を下回ったこと」としている。年前半の成長率の下振れにより通年成長率見通しを引き下げた点で両者は同じであるが、ベースラインの成長ペースにつき、CBO予想は当レポート比強めの見方をしているといえる。ちなみに、2016年実質GDP成長率のうち個人消費の予想はCBOの+2.6%(第4四半期前年同期比)である。これに対し筆者個人は、個人の可処分所得の伸び率の低下と雇用拡大ペースの減速を背景に、年後半には個人消費は減速を見こんでおり、個人消費は同+2.1%と予想している。両予想の差は個人消費に対する見方のみでも説明可能である。

需給ギャップの今後の見通しにもこの成長予想の違いが現れている。経済ののりしろ(マイナスの需給ギャップ)につき、CBOはこれが今後2年間で縮小方向に向かうと予想し、またマイナスの需給ギャップの縮小が失業率低下と賃金上昇を加速すると見ている。一方当レポートでは、今年年後半の成長率が+1%半ばの潜在成長率に近いペースにとどまることから、年後半にはマイナスの需給ギャップはほぼ横ばいで推移すると見ている。また当レポートでは、労働市場の拡大ペースが今後減速することから失業率の低下ペースは減速し、年末の失業率は4.8%までの低下にとどまると見ている。

一方で、成長に関する予想の違いにもかかわらずインフレ率についてのCBO見通しは当レポート予想とほぼ同じである。当レポートでは、PCEデフレーターが2016年12月に前年比+1.5%(第4四半期前年同期比+1.3%)に、コアPCEデフレーターが同+1.8%(同+1.8%)に上昇するとみている([第3図])。前提として、原油価格が現在の1バレル=40ドル台で安定推移することと食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターが需給ギャップの縮小を背景に安定的に上昇することを想定している。これらの見方はCBOの予想においても概ね同様である。

[第3図]
20160911図3

現在の失業率・需給ギャップ水準でインフレ率は上昇する

失業率低下ペースが減速するにも関わらずインフレ率が上昇すると筆者が見る背景は、すでに現在の需給ギャップ(またはその代替指標としての失業率)が今後遅行的にインフレ率や賃金上昇率を上昇させるに十分とみているからである。まず、需給ギャップとコアPCEデフレーターの関係を見る。両者間には相応の相関がみられ([第4図])、現在の需給ギャップ水準(-1.8%)に相当するコアPCEインフレ率は前年比+1.8%と計算される。つまり、現在の需給ギャップ水準でも、コアPCEインフレ率が2%目標に近い水準にまで上昇する見通しは十分に正当化されるわけだ。

次に、失業率が自然失業率(CBO推計では2016年第2四半期現在で4.7%)に接近したことにより、今後は賃金上昇ペースが今後遅行的に加速すると筆者は個人的に見ている。失業率と時間当たり賃金上昇率(生産及び非監督労働者)の関係を示すシンプルなフィリップス曲線によれば、失業率の低下に遅行して賃金上昇率が上昇すること、また失業率が自然失業率に接近すると賃金上昇ペースが加速することが読み取れる([第5図]、[第6図])。ちなみに8月現在の失業率(4.9%)は2005年末時点のそれとほぼ同水準であり、その時点の時間当たり賃金上昇率は前年比約+3%であった。賃金上昇の遅行性からは、今後失業率低下ペースが減速しても、賃金上昇率が+3%に向けて上昇することは十分に可能である。

総じて、CBO予想と当レポート予想との間に今後の成長拡大ペースに関する違いはあるものの、マイナスの需給ギャップ縮小認識とそのインフレ率押し上げ効果についての見方に大きな差はないといってよい。

[第4図]
20160911図4

[第5図]
20160911図5

[第6図]
20160911図6

年内利上げ予想を支持する材料:開始前倒しリスクは高まる

最後に、FRB金融政策予想についてみる。筆者個人もCBOと同様、今年の12月にFRBがFF金利誘導目標レンジの継続的引き上げを開始すると見ている。この見通しに対する支持材料として、CBOが米国の潜在GDP推計値を引き下げ、結果マイナスの需給ギャップが従前推計よりも縮小した点があげられる。テイラー・ルール公式に8月時点の新たなCBO推計潜在GDPを用いて適正なFF金利水準を推計しなおしてみた。テイラー・ルール公式はイエレンFRB議長が採用する99年版(インフレギャップよりも需給ギャップを重視)、自然利子率は1.5%(FOMC内の中立実質金利低下の議論やCBO推計の潜在成長率を勘案)を用いた。

PCEデフレーターの10-12月期の前年同期比の伸び率を+1.3%とすると、2016年第4四半期の適正FF金利は+0.5%強となった([第7図])。これは、従前の筆者推計(同+0.4%)よりもいくぶん上昇している。需給ギャップ推計値が従前よりも縮小したことが適正金利押し上げ要因、一方で7月のPCEデフレーターが前月比横ばいとやや上昇ペースを落としたことが下げ要因である。なお、PCEインフレ率に今年12月単月の筆者個人予想値(前年比+1.5%)を用いると、適正FF金利水準は+0.8%と推計される。さらに、インフレ率にコアPCEデフレーターを用いると、年末の適正FF金利は+1.2%と推計できる。需給ギャップがCBO推計通り従前想定よりも縮小しているならば、年内のFF金利引き上げ正当化は以前よりも容易になったといえる。以上より、FRBが12月に連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合で利上げを決定するとの個人予想を維持する。

むしろ、9月20-21日のFOMC定例会合で利上げが決定されるとの上方リスクは、8月下旬のジャクソンホールでのFRB高官の一連の発言後、ここ2週間でさらに高まったと言わざるを得ない。直近では、今年のFOMCの投票メンバーかつハト派とみていたボストン連銀ローゼングレン総裁が9日の講演で「私個人の見方では、、金融政策の徐々の正常化を検討する合理的な根拠がありうる」「(緩和的金融政策は)経済過熱の可能性を増大させる」「完全雇用を維持しようとすれば徐々の引き締めが適切である可能性が高い」と述べた。特に同総裁は、商業不動産価格上昇等を引き合いに、金融引き締めの遅れにともなうリスクを強調した。これはハト派投票メンバーのタカ派的発言と受け取られ、市場では米国債10年物利回りが約8bps上昇、NYダウは前日比-394ドル下落した。筆者自身も同氏を投票メンバー中のハト派にカウントしている(8月29日付当レポート参照)、仮に同氏が9月定例会合で利上げ支持に回れば、委員会内のハト・タカ勢力図はほぼ拮抗する。8月29日付レポート時点では、一連のFRB高官発言は年内利上げ見送り観測へのけん制にすぎないと見ていたが、こうした状況証拠はFRB高官が9月利上げを真剣に考慮している可能性をもいまや示唆している。最終的にはイエレン議長ほかFRB理事が構成する執行部の意向がFOMCの判断を決定することになる。その意味では12日のブレイナードFRB理事(イエレン議長に近いリベラルなハト派)の講演には注目であり、その内容次第では上記予想の修正も考慮する可能性がある状況だ(なお、上記12月利上げ予想にかかわらず筆者個人は利上げをより早期に開始するのが望ましいと考えていることは過去の当レポートでも述べた通りである)。

[第7図]
20160911図7




<経済指標コメント> 米8月ISM非製造業指数は51.4%

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[日本]

実質GDP成長率(4-6月期、2次速報値)は前期比年率0.7%

4-6月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率+0.7%と、1次速報値の同+0.2%から上方改訂された。需要項目別内訳は、家計消費同+0.6%(1次速報値同+0.6%)、住宅投資同+21.6%(同+21.3%)、設備投資同-0.6%(同-1.5%)、公的需要同+2.2%(同+2.4%)、企業在庫寄与度+0.2%(同-0.1%)、純輸出寄与度同-1.0%(同-1.0%)。上方改訂に寄与したのは企業在庫がマイナスからブラスへの改訂と企業設備のマイナス幅縮小。他の需要項目は総じて1次速報から大きな変化はなく、経済見通しへの影響は限定的である。2016年暦年成長率は前年比+0.7%、2016年度成長率は前年度比+1.0%程度とみる暫定見通しを維持する。

20160910図1

景気ウォッチャー調査(8月):現状判断DIは45.6(前月比+0.5ポイント)、先行き判断DIは47.4(同+0.3ポイント)

8月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは45.6(前月比+0.5ポイント)と2ヶ月連続の上昇。しかし横ばいを示す50を13ヶ月連続で下回った。家計動向関連44.1(同-0.4)、企業動向関連47.2(同+2.0)、雇用関連52.1(同+2.9)と、企業DIと雇用DIの上昇が全体を押し上げた。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは47.4(同+0.3ポイント)とこれも2ヶ月連続上昇、ただし横ばいを示す50を13ヶ月連続で下回った。内訳は家計動向関連46.3(同-0.3)、企業動向関連48.7(同+0.9)、雇用関連52.4(同+2.8)。景気判断理由には「猛暑やオリンピックの影響か、来店が少ない(百貨店)」「景気先行き不安から、消費者が節約(スーパー)」「補正予算に加え災害復旧工事が本格化してくる(建設機械サービス)」など、天候・オリンピック・復興需要など一時要因による影響がまちまちに見られる。総じて、6月の英国のEU離脱選択ショックから街角景気は持ち直しているものの、景況観は横ばいを依然下回っており、また上昇の持続性にはまだ不確実性がのこっているといえる。

20160910図2

[米国]

ISM非製造業指数(8月)は51.4%(前月比-4.1%ポイント)

8月のISM非製造業指数は51.4%(前月比-4.1%ポイント)と2ヶ月連続の低下、2010年2月以来の低水準となり、景気判断の分かれ目を表す50%に接近した。総合DIを構成する4つのDIの内訳は、事業活動51.8%(同-7.5)、新規受注51.4%(同-8.9%)、雇用50.7%(同-0.7)、入荷遅延51.5(同+0.5)と、主要DIである事業活動と新規受注の大幅な低下が目立つ。調査対象先の回答は「相対的に安定(宿泊・飲食)」「石油ガス産業は総じて様子見で、原油価格低下は投資に多大な影響(建設)」「事業環境はやや軟化(小売)」などやや景況観の軟化を示すものがみられるものの、総じてここ2ヶ月の間の顕著な変化は読み取れない。ISM指数は製造業指数・非製造業指数ともにここ2ヶ月で大幅に低下かつ製造業指数は50%を8月に割り込んだ。FRBの利上げ観測が景況観に影響している可能性もあるがその明確な証跡は見られない。この2ヶ月間の企業景況観悪化の背景は定かではなく、景気サイクルの転換を表すものとは思えない。しかし経済見通しへの不確実要因の一つとして今後の同指標の動向は注視したい。

20160910図3

<経済指標コメント> 米8月非農業部門雇用者数は前月比+151千人

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[日本]

実質家計消費支出(二人以上の世帯、7月)は前月比+2.5%(前年比-0.5%)

7月の実質家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比+2.5%と3ヶ月ぶりの前月比増加、前年比でも-0.5%とマイナス幅を縮めた。前年比の実質家計消費伸び率にプラス寄与した項目は住居(寄与度+0.51%)、家具・家事用品(同+0.40%)、マイナス寄与した項目は自動車等関係費(同-0.85%)、教育娯楽サービス(同-0.39%)など。家計消費の水準は依然2014年の消費税率引き上げ前の水準を依然下回っているが、減速には歯止めがかかりつつある。7-9月期のGDP統計上の実質家計消費も3四半期連続のプラス成長との個人予想には整合する結果である。一方、勤労者世帯の実収入は(実質)は前年比-1.8%と依然伸び悩んでいる。

20160904図1

完全失業率(7月)は3.0%

7月の完全失業率は3.0%と実に1995年以来の水準に低下。内訳をみると、労働力人口前年比+1.2%、就業者数同+1.5%、完全失業者数同-8.6%と、労働市場の拡大と伴う失業率低下となっている。筆者試算の労働参加率は60.3%と2ヶ月連続で60%台を維持して上昇基調を保っている。労働市場は依然タイトではあるが、労働力人口への流入で相応にタイト化は緩和されているといえる。

20160904図2

鉱工業生産指数(7月)は前月比横ばい(前年比-3.8%)

7月の鉱工業生産指数は前月比横ばい(前年比-3.8%)、3ヶ月移動平均は同-0.1%と3ヶ月ぶりにわずかに下向きに転じた。出荷指数は同+0.9%(同-3.8%)、在庫指数同-2.4%(同-1.8%)、在庫率指数同+0.9%(同+3.8%)。出荷増で在庫は単月で減少したものの、在庫率は依然高水準にある。公表元の経済産業省は「生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」と、前月に引上げた基調判断を維持している。ただ鉱工業生産は昨年来の低下傾向は脱しつつあるものの、移動平均の伸び悩みに見られるように生産持ち直しペースは遅く、また高い在庫率で引き続き在庫調整圧力は強い。もっとも在庫循環図はようやく在庫調整局面を脱し、積み上げ局面に入ろうとしている。

20160904図3

住宅着工戸数(7月)は年率1005千戸(前月比+0.1%)

7月の住宅着工戸数は年率1005千戸(前月比+0.1%)と反転増加。内訳は持家(同+1.3%)、貸家(同+6.8%)、分譲住宅(同-8.4%)。前年比でも+8.9%と高水準を保っている。水準的にはやや飽和状態にあるものの、住宅着工は堅調に推移しているといえる。

20160904図4

[米国]

実質個人消費(7月)は前月比+0.3%、個人消費支出価格指数は前月比横ばい(前年比+0.8%)、同コアは前月比+0.1%(前年比+1.6%)

7月の実質個人消費は前月比+0.3%と前月の同+0.4%に続き堅調な伸び。内訳は新車販売の増加を反映した耐久消費財が同+1.9%、一方で弱めのコア小売売上を反映して非耐久消費財が同-0.1%のマイナスの伸び、サービス消費は堅調に同+0.2%。今後は、8月に新車販売台数が減少していることから実質個人消費全体の伸びも減速しそうだ。4-6月期に前期比年率+4.4%の強い伸びだったGDP統計上の個人消費も、7-9月期には減速するとの見方は維持する。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比横ばい(前年比+0.8%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+1.6%)と、総合PCEの上昇ペースがやや鈍ったものの概ね当レポートの予想通りの動きである。年末のPCEインフレ率は総合PCEが前年比+1.4%、コアPCEが同+1.8%を見込む。インフレ率の観点からは年内のFRB追加利上げが十分に正当化できる動向といえる。

20160904図5

新車販売台数(8月)は年率17.0百万台(前月比-0.8%)

8月の新車販売台数は年率17.0百万台(前月比-0.8%)と反落。前年比では-3.9%と大幅な減少となった。3ヶ月移動平均は同17.2百万台と、過去6ヶ月間概ね横ばいで推移している。新車販売台数は昨年一時年率18百万台を超えたところで飽和感がでていたが、今年に入り販売が増加から横ばいに転じる傾向が明らかになっている。自動車ローンの信用条件緩和や低金利など新車販売を取り巻く環境は依然悪くはないが、需給の緩和と今後のFRB利上げ見通しからは、自動車販売は今後減速せざるをえないと見ておきたい。

20160904図6

ISM製造業指数(8月)は49.4%(前月比-3.2%ポイント)

8月のISM製造業指数は49.4%(前月比-3.2%ポイント)と大幅低下、景気判断の分かれ目を示す50%を6ヶ月ぶりに割り込んだ。総合DIを構成する5つのDIの内訳は、新規受注49.1%(前月比-7.8%ポイント)、生産49.6%(同-5.8)、雇用48.3%(同-1.1)、入荷遅延50.9%(同-0.9)、在庫49.0%(同-0.5)。新規受注と生産DIの大幅低下が目立ち、5つのDIのうち4つのDIが50%を割り込んだ。調査先の回答は「照会は多いが受注につながらない(化学製品)」「事業は総じて横ばい(コンピューター及び電子製品)」「原油価格は依然底を見定める状況で、リグ数は緩やかに増加(石油及び石炭製品)」など、前月までに比べやや弱めであるものの総じて急激に事業環境が変化した証跡は見当たらない。ISM製造業指数の50%割れはただちに景気サイクルの転換を示唆するものとはいえず、今回の単月指標で経済見通しを変更する必要性はないとみる。来月以降の同指標を引き続き点検したい。

20160904図7



雇用統計(8月):非農業部門雇用者数は前月比+151千人、失業率は4.9%

8月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+151千人と、前月の同+275千人から増加ペースを減速させた。もっとも3ヶ月移動平均は同+232千人と3ヶ月連続上昇かつ6ヶ月ぶりの+200千人台に乗せており、総じて雇用は堅調と言ってよい。業種別には、製造業(同-14千人)、専門ビジネスサービス(同+22千人)、政府(同+25千人)などの雇用減少ないし減速が主因。一方、小売(同+15.1千人)は雇用増加ペースを加速させているなど、内容はまちまち。総じて雇用市場環境に著変があったとは言えない。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.5%と前月の同+2.6%からやや上昇ペースを弱めた。また、先行性のある週平均労働時間が前年比-0.3%と、一時の横ばいから減少に転じている。家計調査による失業率は4.9%と2ヶ月連続前月比横ばい。内訳は労働力人口と就業者のいずれもが増加しており、内容は良い。総じて、雇用市場は依然堅調に拡大しているが、非農業部門雇用者数の前年比の伸び率が+1.7%と5ヶ月連続で+2%を割り込むなど、増加ペースは予想をやや上回る減速を示している。また先行性のある週平均労働時間の減少はやや下方リスク要因である。FRB金融政策への影響については、本指標が5月の雇用市場悪化が一時要因であったことの証跡といえることから、年内のFRB追加利上げを支持する材料である。利上げ時期については、9月FOMC定例会合での利上げ実施の判断はいまや相当に微妙といえる水準にまで高まりつつあり、9月利上げ見送り予想には上方リスクが出てきていると言わざるを得ず、またフォワードルッキングな観点から早期の利上げが適切と個人的には考える。しかしながら、FOMC投票メンバーの票読み的には依然ハト派優勢にて、9月見送り個人予想は維持しておく。事実上FRB理事票を取りまとめることができると思われるイエレンFRB議長の判断が結果的に9月FOMC判断になりそうだ。

20160904図8