FC2ブログ

<経済レポート> NAIRU探訪:9月FOMC議事要旨

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
9月FOMC議事要旨のポイントのひとつは「自然失業率の低下」に関する議論、もう一つは、「中立実質金利の低下」に関する議論である。いずれも利上げペース抑制方向の材料である。自然失業率についてはこれが従前推計以上に低下している証跡はいまのところ見つけにくい。一方、中立実質金利は潜在成長率の低下などを背景に90年代に比べて低下していると言わざるを得ない。中立実質金利低下がFOMC内のコンセンサスとなっている模様であることは、来年の利上げ幅が+0.5%程度にとどまることを支持する状況証拠であると言わざるを得ない。

9月FOMC議事要旨は「自然失業率」と「中立金利」の議論がポイント

9月20-21日のFRB公開市場委員会(FOMC)定例会合の議事要旨が12日に公表された。9月定例会合では追加利上げ見送りが決定、また同時に公表されたFOMC委員の四半期経済予測では、2016年内に+0.25%利上げが示唆されたものの、来年2017年の追加利上げ予測は+0.50%レベルに下方シフトしていた。これは、12月のFOMC定例会合で+0.25%の追加利上げが決定されるとの当レポート予想を支持する一方、来年2017年の利上げペースは従前の見方の下方修正を考慮せざるを得ない内容だった(10月2日付当レポート参照)。本レポートでは、9月FOMCの議事要旨の内容から、今後のFRB利上げペースに係る材料を点検していく。

9月FOMC議事要旨のポイントは2つある。ひとつは、「自然失業率の低下」に関する議論、もう一つは、「中立実質金利の低下」に関する議論である。後者は従前のFOMC議事要旨やイエレンFRB議長の発言でもしばしば言及されていた。しかしながら、前者はこれまでのFOMC議事要旨や議長発言ではあまり言及された形跡はなく、新たにハト派が慎重は利上げ判断の材料として提出したものと憶測できる。

まず、自然失業率に関する議論を見る。議事要旨によれば、「参加者は、長期的な失業率が現在の予測以上に低下する可能性とその費用・便益について考慮した」とされ「多数の(a number of)参加者は、失業率が長期的均衡水準をいくぶん下回り推移すると予想し、今後数年間での金融政策引き締めが適切と見た」とされた。また「何人か(a few)の参加者は、失業率が長期的均衡失業率推計値を大幅に下回ったと見られる過去の例に言及し、かかる時期の金融引き締めは景気後退と失業率上昇につながったと見た」とされた。これは、失業率が自然失業率を大幅に下回らないうちに金融引き締めを実施するのが適切との意見である。失業率が自然失業率を大幅に下回った状態はすでに景気過熱状態に近く、その後の景気サイクル反転が近いことから新たな引き締めは回避すべきとの見方である。これらは、目先の利上げを早期に実施するべきとのいわばタカ派の意見といえる。

失業率低下ペース減速は労働参加率上昇が要因

これに対し、「いくらかの(some)参加者は、かかる過去の経験は現状の環境には適用しにくいと判断した」「なぜなら、経済はトレンドをわずかに上回って成長しているにすぎず、インフレ率は委員会の2%目標を下回りまたインフレ期待は低い、これらは過去の事例と大きく異なっているからである」さらに「ここ1年で労働人口への参加率が上昇していることは、労働市場に過度な圧力を与えずにより強い経済拡大が可能であることを示唆している」「長期的均衡失業率は従前に考えられていたよりも低下している可能性がある」と述べたとされた。これらは、労働参加率が上昇していることで、経済が拡大して雇用が増加しても労働市場はタイト化しない(失業率が低下しない)こと、または自然失業率が現在の予想(FOMC委員予測中央値は4.8%)よりも低下している可能性から、現在の労働市場の余剰は見かけよりも大きいとの意見で、いわば利上げに慎重なハト派の意見といえる。

かかる議論に照らして、現在の失業率と自然失業率の関係を点検してみる。米国の失業率は9月現在で5%であり、FOMC委員予測による長期均衡失業率4.8%や、米議会予算局の推計する自然失業率(4.7%)にほぼ近いところにあり、この数値からは米労働市場はほぼ完全雇用にあるといえる([第1図])。一方で、失業率が自然失業率を大きく下回っていないということは、労働市場に過熱感はないことを表す。例えば直近では、2006年から2007年にかけて失業率は4.4%レベルにまで低下し、当時の自然失業率5%を-0.5%以上下回っていた。かかる状態は労働市場がやや過熱していることを示唆している。当時のFRBは失業率が自然失業率を下回っている状態において利上げを継続し、2006年6月にはFF金利誘導目標を5.25%に引き上げた。その後、2007年のいわゆるパリバショックを契機に、米経済は2007年12月から景気後退に入った。この事例は、外形的には9月FOMC議事要旨にいうタカ派の意見である「労働市場が過熱してからの利上げは景気後退を招く」との見解を裏付けるものである。この見解はこれまでの当レポートの見方(利上げは早期に実施するのが望ましい)と類似した見方といえる。

一方で、ハト派の見解も相応に指標により裏付けられている。失業率は2016年に入ってから明かに低下ペースを弱めており、年初来ほぼ4.9~5.0%の水準で横ばい推移している。同時に労働参加率は年初の62.7%から9月時点で62.9%に上昇している([第2図])。失業率の前年比変化の要因を「生産年齢人口要因」「就業者数要因」「労働参加率要因」に要因分解してみると、今年にはいってから、労働参加率上昇が失業率低下を抑制する大きな要因となっていることがわかる([第3図])。つまり、雇用が拡大し就業者数が増加しても、労働力人口に労働力が流入することで新たな見かけの失業者が増加し、結果失業率が低下しない仕組みになっているわけだ。労働市場に新たに流入した失業者増加は将来の就業者予備軍として労働市場のタイト化を緩和する役割を果たす。労働参加率が今後も上昇すれば失業率はこのまま横ばい推移し、したがって利上げを急ぐ必要性は薄れるというわけだ。しかしながら、労働参加率が今後継続的に上昇するとの根拠はなく、就業者数が労働力人口増加ペース(過去1年平均で前年比+1.2%、月間約180千人)を超えて増加継続すれば、計算上失業率はさらに低下しうる。

[第1図]
20161018図1

[第2図]
20161018図2

[第3図]
20161018図3

ハト派の自然失業率低下論

自然失業率が現在予測されている4.8%よりも低下する可能性については、FOMCの審議ではこれまで大きく取り上げられた形跡はないようである。もっともブレイナードFRB理事は、9月12日の講演で自然失業率の低下の可能性に言及している。自然失業率が4.8%よりも低い水準にあるならば、現在の労働市場はまだ余剰があることになり、利上げを急ぐ必要はないということになる。この意見は、FOMCにおいては、同理事に代表される利上げに慎重なハト派の意見だといえる。

しかし、9月19日付当レポートでみたように、コアインフレ率変化と失業率との関係から推計される米国の自然失業率は現在5%水準にあり、これが低下しているとの証跡は現状見当たらない([第4図])。また、自然失業率が5%よりも相当低い水準にあるならば、現在の失業率は自然失業率(インフレを加速も減速もさせない失業率=NAIRU)を相応に上回っている状態で、したがってインフレ率はまだ低下傾向にあるはずである。しかるに、食品及びエネルギーを除くコアインフレ率は過去1年ほぼ横ばいで堅調に推移している。インフレ率が横ばいであることは、現在の失業率が自然失業率に近い水準にあることを示唆している。

当レポートではしたがって、自然失業率が現在4.7~5.0%であるとの見方から、自然失業率の低下を理由に利上げを先延ばしする必要性は薄いと見ておきたい。

[第4図]
20161018図4

中立実質金利の低下は来年の利上げペース抑制要因

最後に、中立実質金利低下の議論を見る。議事要旨からはFOMC内では中立実質金利が低下していることがほぼコンセンサスとなっていることがうかがわれる。議事要旨によれば、「参加者はここ何年かの中立実質金利の低下の理由を議論した」「その理由としては、生産性上昇率の低下、人口動態のシフト、世界の過剰貯蓄があげられた」としている。「数人の(several)参加者は、低位な中立実質金利がどの程度長く続くかは不確実」「一人は、、、中立実質金利の低位は当面続くと示唆した」「多数の参加者は経済予測において長期中立実質金利予測を下方改訂した」とされた。

筆者個人も、米国の中立実質金利が長期的に低下傾向にあると見ている。[第5図]は、中立実質金利を3通りの方法で推計したものである(①CBO推計の潜在成長率、②実質GDP実績の平滑化、③実質長期金利実績の平滑化)。これによれば、現在の中立実質金利は1.5~2.0%の水準にあることになる。

中立実質金利低下は来年の利上げペースの低下を示唆する。テイラー・ルールによれば、適正なFF金利の水準は中立実質金利とパラレルに上下する。たとえば、中立実質金利が従前よりも-0.5%低下すれば、適正なFF金利水準は-0.5%低下する。通常用いられるテイラー・ルール公式は、中立実質金利を2%と想定していることが多い。しかし、実際の中立実質金利が1.5%だった場合、適正なFF金利水準は従前の(中立実質金利2%の)公式から導かれる水準よりも-0.5%低いことになる。実際、実質中立金利を+1.5%、2017年末のインフレ率を1.9%、2017年の実質GDP成長率を前年比+1.5%と置いた場合、2017年末の適正FF金利は1.2~1.3%となる計算になる。これは9月FOMC委員のFF金利予測中央値に近い数値である。これはこれまでの筆者個人の想定よりペースダウンであり、この点については見通しの修正を考慮せざるを得ない(10月2日付当レポート参照)。

[第5図]
20161018図5

スポンサーサイト