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<経済レポート> 短期決戦へマインド良好:米ホリデー商戦予想

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2016年の米ホリデー商戦売上高は前年比+4.0%と、昨年の同+3.0%からの大幅加速を個人予想する。個人所得の伸び率は低減しているものの、長めの商戦期間、直近の小売売上の加速、高い限界消費性向、そして米大統領選挙後の消費者センチメントの上昇が、短期決戦であるホリデー商戦の強い追い風になると見る。各業界団体も同様に、今年の商戦は昨年以上の伸びを予想している。

米ホリデー商戦始まる

2016年のホリデー商戦(クリスマス商戦)が本格的に開始された。ホリデー商戦は米国の個人消費の動向を占う重要な商戦とされている。同商戦は通常、感謝祭翌日の金曜日(=ブラックフライデー、今年は11月25日)からクリスマス前日(12月24日)までの期間を指す。今年の場合この期間の日数は昨年より2日多い30日間である。ホリデー商戦の期間としては標準的な長さであり、2012年以降では最も長い商戦期間である。

報道等によれば、小売業はこのホリデー商戦期間にかかわらず販促を早期に開始する傾向が数年間続いており、ホリデー商戦期間やブラックフライデーの意義は年々薄れているともされる。早期の値引き販売、オンラインショッピング拡大、感謝祭休日の開店の拡大などがその背景である。

しかしながら、今年のブラックフライデーの動向はまずまずだったようだ。米調査会社ShopperTrakは、ブラックフライデーの翌日26日のプレスリリースで「2016年の感謝祭とブラックフライデーを合わせた集客数は前年比-1%の減少、ブラックフライデー1日の買物客数は前年比横ばい」「ここ数年、感謝祭休日の開店がブラックフライデーの買物客数を減らしてきた」「しかし、今年は感謝祭開店の減少などでその反動があった」「ブラックフライデーが依然無視し得ない重要な意義のある日であることをデータは示しており、総じてポジティブなメッセージである」と述べている。

10月の小売売上増加は商戦への好材料

筆者個人は、2016年のホリデー商戦売上高を前年比+4.0%と、前年の同+3.0%から大幅に加速すると予想する([第1図])。以下では直近の小売り売上動向、個人所得や消費性向の動向、消費者センチメントの観点から、この予想の背景を見ていく(筆者は、ホリデー商戦期間売上として「自動車・ガソリンスタンド・レストランを除く小売売上高の11月、12月合計」という定義を用いている。また後に述べる米小売業界団体もそれぞれやや異なる小売売上の範囲による11月、12月売上合計をホリデー商戦売上としている)。

まず、小売売上高の増加が直近の月において加速していることはホリデー商戦へのプラスの要素である。10月小売売上高(自動車・ガソリン・レストランを除く)は前月比+0.9%と2015年7月以来の強い伸びだった。同前年比の伸び率も+4.3%と、過去2年間の伸び率のレンジの上限レベルにまで回復している([第2図])。7、8月に一時小売売上高の伸びは大幅に減速したが、9、10月でこれらを十分カバーする回復を見せた。

このペースだと、自動車・ガソリン・レストランを除く小売売上高が11、12月にそれぞれ前月比+0.2%増加すれば、2016年のホリデー商戦売上高は前年比+4.0%となる計算になる。前月比+0.2%の同売上高増加は現在の小売売上増加ペースからは十分に可能なものである。また、ホリデー商戦期間の日数が前年に比べ2日間長いことも、商戦にとっては有利である。ついてはこれを持って当レポートの個人予想とする。

[第1図]
20161127図1
[第2図]
20161127図2

可処分所得の伸びは減速も、消費者意欲は強い

一方で、個人所得の動向はホリデー商戦にとっては向かい風と言わざるを得ない。個人の実質可処分所得の前年比伸び率は9月時点で+2.1%と、ここ2年間ほぼ一貫して低減傾向にある([第3図])。これに応じて実質個人消費の伸び率も減速を続けている。前年比+2%レベルの実質可処分所得の伸びは、個人消費の巡航速度といえる前年比+2%の伸びを何とか維持できるギリギリの水準である。

実質可処分所得の伸び率低下の要因をみるために、名目ベースの個人可処分所得の伸びの要因分解を行ったのが[第4図]である。これによれば、雇用増加ペースの減速で雇用者報酬の寄与度が昨年の前年比+3%台から今年は+2%台に低減したこと、また、失業保険給付や社会保障などの移転所得の寄与度が低減したことが、全体の可処分所得の伸びを低下させていることがわかる(利子・配当所得の伸び低減は税金の低減でほぼ相殺された形)。ここに、今年に入ってからの消費者インフレ率の上昇という要因が加わった結果、実質可処分所得の伸び率が低下したと考えられる。

ただし、貯蓄率や限界消費性向の動向を見ると、消費者が所得の伸び低減に対して消費に慎重になっている様子は見られない。貯蓄率は7-9月期現在で5.7%と、ここ2年間はほぼ横ばいにとどまっている([第5図])。限界消費性向(所得の増加1単位に対する消費の増加)は現状約0.9と計算され、消費者は所得増加のほぼ9割を消費に振り向ける傾向がある([第6図])。個人の消費意欲はまだ強いといえる。

[第3図]
20161127図3

[第4図]
20161127図4

[第5図]
20161127図5

[第6図]
20161127図6

消費者センチメントは大統領選後に上昇

最後に、消費者センチメントが極めて高い水準にあることは、商戦にとっての強い好材料である。ミシガン大学消費者センチメント指数(確報)は11月に93.8ポイント(前月比+7.6%)と大幅上昇した([第7図])。同指数は、11日の速報値では87.2ポイントだったが、米大統領選挙結果を反映した23日の確報値で大幅に上方改訂された。これは、トランプ氏の次期大統領当選を消費者がまずはポジティブに受け止めていることを示唆している。消費者センチメント指数と実質個人消費の伸び率の間には相応の相関関係がみられるが、ここ1年ほどは、消費者センチメントの安定に比べて実質個人消費の伸び率が下方乖離する傾向にある([第7図])。これは言い換えれば、今後実質個人消費が消費者センチメントに合わせて伸びを加速する可能性を示唆している。

各種業界団体も同様に今年のホリデー商戦の加速を予想している。全米小売業連盟(NRF)は、10月4日のプレスリリースで、2016年のホリデー商戦売上高を前年比+3.6%(昨年実績は同+3.2%)と予想している。この背景としてNRFは「堅調な雇用と所得増加は消費者信頼感の高まりと消費者信用の増加をもたらしており、これはホリデーシーズンの消費増加の前兆である」としている。また、国際ショッピングセンター評議会(ICIS)は、同じく10月4日のプレスリリースで、今年のホリデー商戦売上を前年比+3.3%(前年実績同+2.2%)への加速を予想している。

消費者センチメント指数の公表元のミシガン大学は「トランプ氏のポピュリスト政策見通しに照らせば、選挙後の消費者の経済見通しの急好転は驚くに当たらない」「この好転は、同氏のサプライズ勝利と、選挙が終了したとの安堵感からおそらく誇張されているだろう」と述べている。確かに、消費者センチメントの上昇や、直近の小売売上高の増加加速の持続性には疑問が残る。雇用増加率の低減や自動車販売台数の飽和水準への増加から、個人消費の伸びは来年にかけては減速せざるを得ないと筆者は見ている。しかしながら、11、12月の短期決戦であるホリデー商戦にとっては、一時的であるにせよ現在の消費者センチメントの上昇は強い追い風になるだろう。

[第7図]
20161127図7


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<経済指標コメント> 日本の10月全国コアCPIは前年比-0.4%

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[日本]

全国消費者物価指数(10月、生鮮食品を除く総合)は前月比+0.2%(前年比-0.4%)

10月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、いわゆるコアCPI)は前月比+0.2%と6ヶ月ぶりの上昇、前年比でも-0.4%と前月の同-0.5%からマイナス幅をわずかながら縮めた。食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコアCPI)は前月比+0.2%と上昇、前年比でも+0.2%と前月の横ばいから上昇率を回復した。家庭用耐久財(前月比+2.8%)、テレビなどの教養娯楽用耐久財(同+2.9%)、宿泊料(同+3.3%)などが指数の上昇に寄与した。エネルギーは前月比横ばい(前年比-7.9%)だった。総じてCPIインフレ率の低下傾向は不変であり、2016年度末(2017年3月)のコアCPI上昇率は前年比+0.8%、コアコアCPIは同+0.9%程度にとどまる見通しだ。今年前半時点で当レポートは、2017年3月頃にコアインフレ率が+1.5%レベルに上昇すると見ていたが、実績はこれを相当に下回りそうだ。日本銀行が11月1日に公表した政策委員のインフレ率見通し中央値は2017年度+1.5%、2018年度+1.7%と、7月時点の見通しに比べそれぞれ-0.2%下方シフトした。実績値の推移はかかる見方と整合している。

20161126図1

[米国]

中古住宅販売戸数(10月)は年率5600千戸(前月比+2.0%)、在庫期間は4.3ヶ月

10月の中古住宅販売戸数は年率5600千戸(前月比+2.0%)と2ヶ月連続の増加、2007年2月以来およそ10年ぶりの高水準となった。一方販売在庫は2020千戸(同-0.5%)と伸び悩み、在庫期間は4.3ヶ月と昨年12月以来の水準に短期化した。住宅販売は総じて堅調であることは間違いないが、その増加ペースは明かに低下している。供給不足もその理由の一つと考えられる。公表元の全米不動産業協会(NAR)は「積み上がり需要(pent-up demand)の実現が売上げを押し上げた」「労働市場のタイト化による賃金押し上げ圧力、経済拡大ペースの加速、住宅ローン金利の低位安定が消費者の購入意欲を押し上げた」という趣旨の見方プレスリリースで述べている。

20161126図2

耐久財受注(10月)は前月比+4.8%、除く運輸関連同+1.0%、非国防資本財受注(航空機を除く)同+0.4%、同出荷同+0.2%

10月の耐久財受注は前月比+4.8%、除く運輸関連同+1.0%。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(航空機を除く)同+0.4%と過去5ヶ月で4回目の前月比増加。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同+0.2%と3ヶ月連続の増加。同出荷が3ヶ月連続増加したのは2011年8月以来である。トレンドを示す前年比の伸び率はまだ同受注、出荷ともにマイナス圏にあるが、マイナス幅は徐々に縮小している。総じて企業部門は在庫調整の終了と輸出の回復で徐々に底入れしつつあるといえる。10月の同出荷は7-9月期平均を+1.8%上回っており、10-12月期の同出荷はプラス成長でスタートした。GDP統計上の機器投資は今年の7-9月期まで4四半期連続でマイナス成長が続いたが、10-12月期にはプラス成長に転ずると見る。

20161126図3

新築住宅販売戸数(10月)は年率563千戸(前月比-1.9%)、在庫期間は5.2ヶ月

10月の新築住宅販売戸数は年率563千戸(前月比-1.9%)と小幅減少したものの依然高水準にある。在庫期間は5.2ヶ月と、適正値とされる6ヶ月よりやや短期化している。中古住宅同様新築住宅販売市場も順調に拡大している。ただし増加ペースの持続性については、中古住宅販売の減速からやや慎重に見ておきたい。

20161126図4

<経済レポート> プロビジネス、プロ成長:トランプ米次期大統領の政策

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トランプ米次期大統領の政策は、マクロ経済に対してプラス・マイナスの両面がある。現状の材料からはネットでいくぶんプラスの効果があり、来年以降の米経済成長ペースをこれまでの想定よりも+0.4%程度加速させる可能性があると見たい。さらに、成長加速はFRBの利上げペースを予想以上に加速させる可能性も孕んでいる。しかしながら、同氏の政策の実現性には不確実性が高いため、現状では前提を置いた暫定的な推測との位置づけとしておく。

トランプ氏勝利で株高・金利高・ドル高

8日に実施された米大統領選挙では、大方の予想に反して共和党のトランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利した。選挙人獲得数は、トランプ氏290人、クリントン氏232人(CNN集計、22日現在、ミシガン州は未確定)。議会選挙では、上院・下院ともに共和党が議席数は減らしたものの過半数を維持した。22日時点の確定議席数は、上院が共和党51:民主党48、下院が共和党238:民主党194、となっている(CNN)。

選挙結果を受けて9日のアジア市場では日経平均が-900円以上下落するなど一時はリスクオフが進行した。しかしながら、同日のNY市場でNYダウは約+250ドル上昇して18589ドルで引け、長期金利も選挙前の1.8%台から2%台に上昇した。その後も先進国市場では株高と長期金利上昇が続き、22日時点でNYダウは19023ドルの史上最高値、米国債10年物利回りは2.32%とほぼ1年ぶりの高水準に上昇している。日経平均も22日時点で18162円と1月以来の高値、日本国債10年物利回りは0.03%と、2月以来続いていたマイナス金利からプラスに転化した、為替市場ではドル高が進行、22日時点でドル円は1ドル=111円台(選挙前は同104円台)、ユーロ/ドルは1ユーロ=1.0630ドル(同1.1026ドル)となっている。

一方、新興国市場はネガティブに反応した、9日にメキシコ・ペソは1ドル=20ペソを超える史上最安値に急落して現在に至っている。株式市場でも、NAFTA(北米自由貿易協定)加盟国のメキシコ、中南米ではブラジルなどの株価指数が選挙結果を受け大幅下落し、現在も選挙前の水準を下回っている。

選挙公約の実現度はまだ不確実

トランプ氏はその過激な発言印象から同氏当選は経済・金融への下方リスク要因と見られていた。しかし、同氏のプロ・ビジネスな側面が企業活動にプラスとの思惑が上記の当初の金融市場の株式市場に反映されたと思われる。一方、同氏が財政拡大を公約していることが長期金利上昇(債券価格下落)の背景といえる。米長期金利上昇が金利差を通じてドル高につながった。また、同氏の保護主義的な通商政策が与える悪影響が新興国の株価下落につながったといえる。

トランプ氏の経済・財政政策が今後の米国成長率に与える影響はまだ定かとは言えない。トランプ氏の選挙前の公約がどの程度実現するかは現状では不透明だからである。以下本レポートでは、トランプ次期大統領の政策のうち主に経済成長にかかわるものを採り上げ、来年以降の米経済成長への影響を見ていく。

トランプ氏が選挙戦中に掲げた主な公約は[第1表]の通りである(10月22日のペンシルバニア州ゲティスバーグでの同氏演説「ドナルド・トランプの米国有権者との契約」で言及された政策を基に、同氏HPや報道等情報を加え作成)。同氏の選挙公約には、企業減税、エネルギー・インフラ法案等財政拡大政策、金融規制緩和など成長への追い風となりうる政策が含まれている。一方、移民規制強化、保護貿易主義など、マクロ経済に抑制的となりうる政策もある。なお、同氏は選挙終了後に従前の過激な政策発言を徐々に現実路線に転換しつつあるともされている。11月21日に公開したビデオ演説で同氏は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱を明言した一方で、移民政策に関する政策は「ビザの不正使用の調査」に表現を緩めるなど、発言に微妙な変化もみられる([第2表])。

[第1表]
20161124表1

[第2表]
20161124表2

政治的には保守主義、経済的には供給と成長重視

トランプ氏の政策の特徴は大きくは以下の2点に整理できる。すなわち、①政治的には対外保守主義(保護主義)、②経済的には供給サイドと成長重視、である。まず、①政治的対外保守主義については、同氏の「米国を再び偉大に」「米国第一」のキャッチフレーズに象徴されるように自国を重視し他国を排斥する保守主義が明瞭である。この政治的保守主義は、TPP・NAFTA離脱などの保護貿易政策、移民に対する厳しい政策、中国を為替操作国に認定するなどの政策に現れている。この政治的保守主義はいわゆるグローバリズムに逆行するものとされている。さらにこの政策は、米国を世界の盟主とする旧来の米国外交政策からの転換でもある。防衛費の拡大は自国の防衛を重視する一方で、日米同盟に対する懐疑的な発言からは、米国は世界の警察の地位をもはや目指すのではなく、自国利益を優先するいわば功利主義的な政策ともいえる(トランプ氏のロシア政府やシリア政府との接近もこの功利主義で説明可能である)。

②成長と供給サイド重視は、現在の民主党政権の配分重視の政策からは大きな転換である。エネルギー産業への制約廃止、財政出動(その多くは所得再配分ではなくエネルギー産業インフラ整備に充てられるとしている)、などは成長重視を表象する経済的保守政策である。教育機会の拡大や子女育成政策などを除き、配分政策(低所得層への給付拡大など)は同氏の政策には見られない。供給サイド重視政策は「所得税・法人税減税」や小さな政府を目指す「政府職員採用凍結」などがあげられる。さらにオバマケア(Affordable Care Act)の廃止やドッド・フランク法廃止政策も、企業活動の自由をより保障するものであり、オバマ政権が推進した低所得者保護や消費者保護政策からの転換を示唆する。一方でトランプ氏は1兆円の財政出動を実施するとしており、これは見かけ上むしろ需要サイドの政策でありかつ減税による小さな政府とは逆方向の政策である。もっとも同氏の掲げる財政出動は所得再配分というよりも米国の国力向上を目的としている(インフラ整備の多くはエネルギー政策や交通インフラに充てられると見られる)いることから、これをリベラルな需要サイド重視の経済政策とは言いにくいだろう。

なお、党派的には、トランプ氏の政策は共和党的政策と民主党的政策が混在しているともいえる。財政拡大は見かけ上民主党的政策であり、また、雇用の海外流出防止策、教育政策や子育て支援はオバマ政権での政策と似通ったところがある。政治的にも共和党内でトランプ氏を支持した有力共和党議員は限定的であった。それでも、トランプ氏と共和党の共通の政策は数多くある。「減税」「エネルギー産業重視」「厳しい移民政策」などは伝統的な共和党政策であり、「オバマケア廃止」「ドッド・フランク法廃止」はオバマ政権下での共和党政策であった。一方で、トランプ氏と議会のねじれが発生する政策は主に「財政拡大」になるであろう。共和党議員には財政均衡を政策とする財政保守主義の伝統がある。

成長押し上げも財政赤字拡大:NAFTA、減税、インフラ投資

筆者は現状、トランプ氏の政策は来年以降の米経済成長をいくぶん加速する効果があると見ている。ここでは、通商政策のうちの「NAFTA離脱」「所得税・法人税減税」「10年間で1兆ドルのインフラ投資」をみていく。まず、NAFTAからの離脱は米国経済に大きな影響を与えると見られる。NAFTAは米国・カナダ・メキシコの間での自由貿易協定である。米国の財・サービス輸出入合計額に占めるカナダの割合は2015年時点で13.3%、メキシコのそれは11.8%で、2か国あわせ米国の財・サービス輸出入の約4分の1を占める([第1図])。財・サービス収支は対カナダが61.2億ドルの黒字、対メキシコが-57.9億ドルの赤字である。NAFTAに加えメキシコの産業育成策であるマキラドーラ(メキシコにおける輸出製品生産のための原材料等輸入に対する関税優遇措置)の効果で、メキシコは米国自動車産業の生産拠点として発展し、メキシコで生産された自動車が米国に輸出される仕組みが拡大した。結果米国の対メキシコ財・サービス収支は赤字幅が拡大する傾向にある([第2図])。トランプ氏は、NAFTAが雇用の海外流出と貿易赤字を拡大するものとしてここからの離脱を政策に掲げている。仮に米国がNAFTAを離脱した場合、米国の対カナダ・メキシコの貿易取引が大幅に縮小することが考えられる。特に、米国にとっての貿易赤字国であるメキシコについては、数字の上では貿易縮小は米国の成長にプラスになる。対メキシコ貿易赤字は米国の名目GDP(2015年18兆366億ドル)の約0.3%に相当するから、仮に対メキシコの貿易赤字が現在の3分の2に減少したとすれば、これはGDPを約+0.2%押し上げる結果になる。

次に、所得税減税と法人税減税の影響について見る。トランプ氏は、個人所得税の課税所得階層の簡素化による減税と、法人税の35%から15%への引き下げを公約している。減税による消費刺激と企業設備投資刺激策は、共和党の大統領候補が従前より掲げてきた政策と同種のものである。減税により個人消費と設備投資が拡大されれば、米経済成長にとってプラスの要因となる。米調査機関Tax Policy Centerは、2018財政年度において、個人所得税の課税所得階層見直しは約1254億ドル、法人税率引下げは約2076億ドルの減税効果があると推計している(“An Analysis of Donald Trump’s Revised Tax Plan “, Tax Policy Center, October 18, 2016)。簡便化のため個人の限界消費性向を1、企業の設備投資/キャッシュフロ―比率を100%とすると、これらの減税は単年でGDPを実に約+1.8%押し上げる効果がある計算になる。

最後に、財政政策について見る。トランプ氏は、上記の減税政策に加えて、10年間で1兆ドルのインフラ投資を実施するとしている。年間平均1000億ドルの投資は、GDPを年間約+0.5%押し上げる効果がある。一方で、財政支出拡大と上記の減税は、財政赤字拡大の要因となる。米財務省によれば、2016財政年度の米連邦政府財政赤字は-5873億ドル(対GDP比率-3.2%)と5年ぶりの赤字拡大となった([第3図])。上記の減税政策で年間合計約-3330億ドルの歳入減少、さらにインフラ投資で約-1000億ドル歳出拡大がされると、年間約-4330億ドルの財政赤字拡大要因になる。最近の米国の大型財政政策の例として、リーマンショック直後の2009年2月にオバマ政権下で成立した2009年景気対策法がある。同法では減税と財政支出を合わせて7872億ドルの財政出動がなされ、2009財政年度の財政赤字はそれまでの約-4600億ドルから一気に-1兆4000億ドルレベルに急拡大した。トランプ氏の政策の場合、財政赤字は初年度で約-1兆ドルに達し、2年目でリーマンショック後の水準に達する計算になる(もっとも減税等による上記のGDP拡大効果が同時に示現すれば、租税収入の増加により赤字拡大幅は縮小することになる)。

[第1図]
20161124図1

[第2図]
20161124図2

[第3図]
20161124図3

金利上昇とドル高は成長抑制要因:ネットの成長押し上げは+0.4%程度

また、トランプ氏の経済政策のマイナス面にも留意しておく必要がある。マイナス面は主に金融市場を通じて波及すそうだ。財政赤字の拡大は長期金利の上昇をもたらす。1992年からリーマンショック直前の2007年までの四半期データを用いて、実質GDP成長率、FF金利誘導目標、長期期待インフレ率を外生変数とする米国債10年物利回りの決定要因回帰分析を行い現在の長期金利水準を推計すると、約3.3%との計算になる([第4図][第3表])。これまでの長期金利は、FRBの金融緩和政策とその継続期待から推計値よりも低位に押さえられてきたといえる。大統領選挙後の長期金利上昇は、成長期待から金融引き締め期待が高まり、長期金利が本来の均衡水準に回帰しつつあることを示唆している。長期金利の上昇は自動車ローン・住宅ローン・企業ローン金利上昇を通じ個人消費・住宅投資・設備投資の抑制要因となる。個人消費について見ると、長期金利が選挙前の1.65%レベルから3.3%に上昇(上昇率+100%)したとすると、個人消費の長期金利に対する弾性値(約-0.02と筆者は推計している)からは、個人消費は約-2%押し下げられ、GDPを約-1.4%押し下げる計算になる。上記の個人所得税・法人税減税によるGDP押し上げ効果+1.8%からこれを差し引くと、ネットの成長率押上げ効果は約+0.4%との計算になる。また、長期金利の上昇は、ドル高を通じて米国の輸出の抑制要因となる。上記で見たNAFTA離脱が仮に実現した場合の貿易赤字縮小効果、並びに財政出動による成長押し上げ効果は、ドル高による輸出減少で概ね相殺されることになりそうだ。通商政策と財政政策による内需拡大と、ドル高による輸出減速は概ねネットでニュートラルになると憶測し、結果トランプ氏の政策の経済効果は約+0.4%といくぶんプラスになると暫定的に見ておく。

金融政策については、トランプ氏の政策は来年のFRBの利上げペースを加速させる要因になる可能性がある。筆者は現在、FRBが12月に+0.25%の追加利上げを決定ののち、来年は+0.25%ずつ2回の利上げを決定する(2017年末のFF金利誘導目標レンジは1.00-1.25%)と個人予想している。筆者個人の現状のインフレ予想と成長予想(2017年約+1.5%)に基づけば、テイラー・ルール公式による適正FF金利水準もほぼ同じ水準になる計算である。仮に来年の成長率が現状の予想から+0.4%上ブレすると、需給ギャップは約+0.3%縮小し、テイラー・ルールによる適正FF金利水準は同じく+0.3%上昇する計算になる。つまり、トランプ氏の政策は、来年の利上げ回数見通しを3回または4回に上ブレさせる可能性を孕んでいる。

以上、トランプ氏の政策は、米国マクロ経済にいくぶんのプラス、金融政策には引き締め加速をもたらしうるものであることを見てきた。しかしながら、現状では上記シナリオの不確実性はまだ高い。トランプ氏の公約した政策が就任後にどれほど実現されるかは現状では不透明であるからである。トランプ氏の政策は来年1月の就任までにより明確になると見られ、今後成長への影響もより明瞭になるだろう。現状ではトランプ氏の経済政策のマクロ経済への影響については、あくまで前提を置いた暫定的な推測との位置づけとしておく。

[第4図]
20161124図4

[第3表]
20161124表3

<経済指標コメント> 日本の7-9月期実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+2.2%

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[日本]

実質GDP成長率(7-9月期、1次速報値)は前期比年率+2.2%

7-9月期の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+2.2%と、筆者個人予想(同+0.4%)を大幅に上回る強い伸びとなった。これは3四半期連続のプラス成長かつ2015年1-3月期以来の高成長となる。しかし内訳をみると、成長の大半が外需であり上ぶれはほぼこれで説明できる一方、内需はむしろ減速しほぼ予想通りの結果であった。需要項目別内訳は、家計消費同+0.2%、住宅投資同+9.6%、設備投資同+0.1%、公的需要同+0.8%、企業在庫寄与度同-0.3%、純輸出寄与度同+1.7%。財・サービス輸出の増加(前期比年率+8.1%)が全体を押し上げ、純輸出だけで成長が同+1.7%押し上げられた。家計消費、設備投資は前期比微増にとどまっている。家計消費・住宅投資・設備投資を合わせた国内最終民間需要は同+0.5%と前期の同+1.0%から減速、2四半期連続の減速となった。総じて、見かけほどには成長拡大ペースは強くなく、実態的には潜在成長率並みの拡大ペースだといえる。もっとも数字の上では今回の上ブレで、2016暦年成長率は前年比+1%レベル、2016年度は前年度比+1.4%レベルの強い伸びが期待できる。

20161120図1

[米国]

企業在庫(9月)は前月比+0.1%、企業売上高は同+0.7%、在庫売上高比率は1.38倍

9月の企業在庫は前月比+0.1%と弱めの伸び、3ヶ月前対比の伸び率は+0.3%と、6月末の同+0.5%から減速した。一方企業売上高は前月比+0.7%と強い伸び。結果在庫売上高比率は1.38倍と2015年8月以来の水準に低下した。輸出の回復と内需拡大で企業売上は増加し、在庫調整が進行したことを示唆している。在庫循環図は「意図せざる在庫減」局面にあり、今後在庫積み上げが再開される可能性を示唆している。なお、9月の企業在庫統計は7-9月期で在庫積み上げペースが低下したことを示唆しており、速報値で在庫投資が成長にプラス寄与したGDP統計が改定値では下方改訂される可能性がある。

20161120図2

小売売上高(10月)は前月比+0.8%、除く自動車関連同+0.8%

10月の小売売上高は前月比+0.8%と強い伸び。自動車関連を除くベースで+0.8%、自動車・ガソリン・レストランを除く売上も同+0.9%の伸びとなった。新車販売増加やガソリン価格上昇の影響を除いても個人消費が予想以上に強いペースで拡大しているとの結果になった。内訳は、自動車及び同部品ディーラー同+1.1%、建設資材店同+1.1%、ガソリンスタンド同+2.2%、衣服店同+0.6%、巣ポーツ用品店等同+1.3%、家電店同+0.2%など主要業種が軒並み売上を拡大した。10‐12月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+1.7%程度への減速を個人予想しているが、10月の小売売上はこれを上回るペースの増加である。

20161120図3

鉱工業生産指数(10月)は前月比横ばい、設備稼働率は75.3%

10月の鉱工業生産指数は前月比横ばい、内訳は製造業同+0.2%、鉱業同+2.1%、公益事業(電力・ガス)同-2.6%。振れの大きい公益事業の低下が全体を押し下げており、製造業は2ヶ月連続の上昇、原油価格回復を反映して鉱業が大幅に上昇している。内容は見かけほど悪くないといえる。設備稼働率は75.3%と前月比-0.1%ポイントの低下で依然低位にあるものの、これも製造業及び鉱業では上昇している。自動車生産台数(乗用車及び軽トラック)は年率12.11百万台(同+1.1%)と増加した。総じて、輸出の回復と原油価格の安定化で企業部門の生産は底入れが見えてきているといえる。

20161120図4

住宅着工戸数(10月)は年率1323千戸(前月比+25.5%)、着工許可件数は同1229千件(同+0.3%)

10月の住宅着工戸数は年率1323千戸(前月比+25.5%)の急増、過去2ヶ月の大幅減少をカバーする増加となった。内訳は1世帯住宅同869千戸(同+10.7%)、前月に一時的な急減を見せた集合住宅(5世帯以上)同445千戸(同+74.5%)と、いずれも増加。地区別には北東部同+44.8%、中西部同+44.1%、南部同17.9%、西部同+23.2%と押しなべて増加している。住宅着工許可件数は同1229千件(同+0.3%)と堅調な増加。総じて住宅建設市場は堅調な拡大を継続しているといえる。もっとも10月の急増は過去数ヶ月に見られる統計のブレの一部である可能性も高く、11月にはこの反動もみられる可能性がある。

20161120図5

消費者物価指数(10月)は前月比+0.4%(前年比+1.6%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+2.1%)

10月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.4%と強めの伸び。ガソリン(同+7.0%)価格の上昇が全体を押し上げた。前年比の伸び率も+1.6%と3ヶ月連続で上昇した。食品及びエネルギーを除くコア指数は前月比+0.1%(前年比+2.1%)と堅調に上昇している。総じてCPIインフレ率の上昇ペースは当レポートの見通し通りであり、FOMCが12月定例会合で追加利上げを決定するとの個人予想を支持する結果である。

20161120図6

<経済レポート> トランプに惑わず:米国経済定点観測と米大統領選結果

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米経済はほぼトレンドGDPに沿ったペースで拡大している。直近の7-9月期成長率は当レポートの従前の見方よりも加速した。10-12月期にも2%成長を継続し、2016年通年の実質GDP成長率は前年比+1.6%を個人予想する。FOMCは12月の定例会合で追加利上げを実施すると引き続き予想する。8日の米大統領選挙では、大方の予想に反し共和党トランプ候補が勝利した。同候補は過激な言動からの不確実性リスクをマクロ経済にもたらしうる一方、同氏のプロ・ビジネスな側面のポジティブ面をも合わせ、現状の米経済予想への影響はニュートラルとしておく。

米経済の需給ギャップは相当に縮小した

米経済は7-9月期に前期比年率+2.9%の強い拡大を示した。これは今年1-3月期の同+0.8%をボトムに2四半期連続の成長ペース加速である。本レポートでは、年内の米成長率個人予想をアップデートするとともに、8日の大統領選の結果をも踏まえ、来年にかけての米経済を見通していく。

まず、現在の米経済の中長期的なトレンドとサイクルの状況を見る。実質GDP実績をHPフィルターで平滑化して抽出した実質GDPのトレンドと、実質GDP実績とを比較すると[第1図]の様になる。ここから次の2点がわかる。まず、HPフィルター推計による現在のトレンドGDPは約16.7兆ドルと計算され、これは7-9月期のGDP実績値約16.7兆ドルとほぼ同額である。つまり、現在の米経済はトレンドとほぼ同水準で、景気サイクルは中立の位置にあるといえる。次に、HPフィルター推計によれば、2016年7-9月期現在のトレンド成長率は約+2%と計算される。筆者個人は2016年の通年成長率を前年比+1.6%とみている。つまり現在の米国の成長ペースはトレンド成長率をやや下回っていることになる。

HPフィルター平滑化によるトレンドGDP潜在GDPとみなすと、現在の米経済の需給ギャップが推計できる。[第2図]は、トレンド推計による米潜在GDPと、米議会予算局(CBO)推計の米潜在GDPとを用いて米経済の需給ギャップの推移をそれぞれ算出したものである。CBO推計の潜在GDPを基にすると、現在の米経済の需給ギャップは-1.5%のマイナス、つまり依然需要不足の状態となる。一方、HPフィルター推計の潜在GDPを基にすると需給ギャップは+0.1%のプラス、つまり需要超過と計算される。なお、金融危機以降の直近でプラスの需給ギャップ(需要超過)の割合がもっとも高かったのは2015年4-6月期の+0.7%である。HPフィルター推計に基づくトレンドは、より短期のトレンドを反映しやすい。米経済は、短期的なトレンドに対してはすでに均衡状態にあり、見方によってはピークを過ぎた減速サイクルに入っている可能性もあるということになる。もっとも、2015年のプラスの需給ギャップの水準は金融危機以前のピーク(2007年10-12月期の+2.4%)にくらべてはるかに低い。需要超過といっても、いわゆる景気過熱状態にはないといえる。

[第1図]
20161113b図1

[第2図]
20161113b図2

潜在成長率は1.5%程度にある:景気サイクルに過熱感なし

同様に、CBO推計による潜在成長率、実質GDP実績からのHPフィルター推計によるトレンド成長率(潜在成長率)、そして、実質長期金利(米国債10年物利回りと消費者物価指数前年比伸び率の差分)のHPフィルター推計によるトレンドを比較したのが[第3図]である。これらはいずれも、いわゆる実質中立金利の推移と言い換えられる。CBO推計潜在GDPから算出される現在の実質中立金利は年率+1.5%、トレンド実質GDPからのそれは同+2.1%、実質長期金利からのそれは同+1.2%と計算される。

また、いずれの方式による実質中立金利も、90年代からの長期の趨勢は低下傾向にある。ただし、いずれも2008年の金融危機前後でボトムをつけたのちに反転上昇に転じている。つまり、現在の米国の潜在成長率は年率+1.2%~同+2.1%の間にあり、長期的には低下傾向にあるものの、日本のようにゼロにまでは低下していないことがわかる。潜在成長率は推計方法によりかなりの幅があるものの、概ねこの3通りの推計値の中央値である+1.5%程度とみておいてよさそうだ。

以上より、米経済はほぼ需給が均衡に近づくまでに拡大していること、景気サイクルはほぼ中立局面にあること、現在の成長ペースは潜在成長率とほぼ同じペースであることが推測できる。この状態は、米経済に過熱感はなく、したがって景気サイクルが下降(後退)に入るにはまだ時間の余裕があることを示唆している。ただし、2007年のプラスの需給のピークが需給ギャップのサイクルのピークであった場合は、景気後退はより早めに来る可能性はある。ただしその場合でも、ピークにおける景気過熱度合が低いことから、景気後退もきわめて浅いものになる可能性が高い。

[第3図]
20161113b図3

今後個人消費はやや減速、企業部門は回復:10-12月期も2%成長へ

次に、実体経済指標から、個人消費、企業部門、外需の動向を見ておく。個人消費は7-9月期に前期比年率+2.1%と堅調な拡大を見せた。しかし、これまで消費拡大をけん引してきた自動車販売台数がほぼ飽和状態で、今年通年の売り上げ台数は前年比ほぼ横ばいにとどまる可能性が高い。また、雇用市場でも、非農業部門雇用者数は堅調に増加しているものの、その前年比の伸び率は低減している。非農業部門雇用者数の伸び率は、2015年の前年比+2.1%から2016年には同+1.7%程度に低下しそうだ。雇用の伸び低減にインフレ率の上昇も加わり、実質可処分所得の伸び率の低下はもはや趨勢になっている([第4図])。9月現在の実質可処分所得の伸び率は前年比+2.1%であり、それでも上記の潜在成長率を超える伸びを維持している。10-12月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+1.5%への減速を見込み、2016年通年では前年比+2.5%の伸びを見込む。しかし、個人消費は来年には同+2%前後にさらに減速しそうだ。

企業部門は長い低迷を経てようやく底入れの兆しがみられる。海外経済減速やドル高を背景とした輸出減速、原油価格下落によるエネルギー産業の生産低下、これらを背景とした在庫調整の継続、並びに鉱工業全体の設備稼働率の低さ、を背景に、GDP統計上の設備投資(機器投資)は2016年7-9月期まで実に4四半期連続のマイナス成長が続いた。しかしながら、設備投資はようやく底入れの兆しがみられる。まず、企業在庫統計に基づく在庫循環図は「在庫調整」局面から「意図せざる在庫減」局面に入っており、長い在庫調整がようやく終了したことが示唆されている。次に、この背景として米国の輸出が大幅に回復している([第5図])。結果、設備投資の先行指標である非国防資本財受注(航空機を除く)が、7-9月期には3四半期ぶりに前期比プラスの伸びに転化した([第6図])。10-12月期のGDP統計上の設備投資(機器投資)は5四半期ぶりのプラス成長に転化しそうだ。

そのほかの実体経済指標も合わせ、筆者個人の米経済成長予想を10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.7%、2016年通年の同成長率は前年比+1.6%とした(11月4日付当レポート[第1表]参照)。これは、7月時点の個人予想との比較では概ね不変だが、その後当レポートで見通しを下方にシフトさせていたのと比較すると上方修正になる。これは、7-9月期の成長率が予想以上に大きく反発したことが主因である。

[第4図]
20161113b図4

[第5図]
20161113b図5

[第6図]
20161113b図6

インフレ・労働市場は堅調:12月のFOMC追加利上げ予想維持

インフレ率は、当レポートの従前の見通し通り、年末にかけてFRBの目標である2%に接近すると見る。現在の試算では、12月に個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の伸び率は前年比+1.6%、同コアは同+1.9%に上昇する計算になる([第7図])。原油価格の安定化とマイナスの需給ギャップの縮小、また失業率低下による賃金上昇率の加速がインフレ上昇圧力となり、来年にはPCEインフレ率は同2%の水準に達すると見たい。

労働市場は堅調に拡大しており、今後は拡大ペースを減速させつつも、労働市場のタイト化が進むと見る。もっとも失業率の低下ペースは今年に入り減速しており、この傾向は年末にかけても継続せざるを得ないだろう。12月の失業率は4.8%程度を見込む。

年内のFRBの金融政策については、これらの背景から従前の個人予想を維持する。すなわち、FOMCは12月の定例会合で+0.25%の追加利上げを決定し、FF金利誘導目標レンジを0.50-0.75%に引き上げると予想する。しかしながら、2017年の利上げペースについては、これを+0.25%ずつ2回に下方修正する。9月FOMCで示されたFOMC委員の経済予測における適正FF金利の中央値の下方シフトがその背景である(10月2日付当レポート参照)。結果、2017年末のFF金利誘導目標レンジは1.00-1.25%とみる。

[第7図]
20161113b図7

トランプ氏の大統領選勝利は年内経済見通しに影響なし

最後に、8日に実施された米大統領選挙結果の経済見通しへの影響について触れておく。8日の米大統領選挙では、大方の予想に反し、共和党のトランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利し、次期大統領になることが決定した。大統領選挙の結果は、選挙人獲得数がトランプ氏290人、クリントン氏232人(CNN集計、13日現在、ミシガン州は未確定)。事前予想で接戦州とされていたフロリダ州、サウスカロライナ州、オハイオ州、ペンシルベニア州などをほぼすべてトランプ氏が獲得、また従前の民主党の基盤であった中西部の州も(現オバマ大統領の地元であるイリノイ州を除き)トランプ氏がほぼ独占した。議会選挙では、上院・下院ともに共和党が議席数は減らしたものの過半数を維持した。13日時点の確定議席数は、上院が共和党51:民主党48、下院が共和党238:民主党193、となっている(CNN)。

選挙結果を受けて9日のアジア市場では日経平均が-900円以上下落するなど、一時急激はリスクオフが進行した。しかしながら、同日のNY市場でNYダウは約+250ドル上昇、長期金利も選挙前の1.8%台から2%台に上昇した。10日には東京市場で日経平均が+1000円以上反発、NYダウは続伸して史上最高値を更新した。11日の終値は、NYダウ18847ドル(史上最高値)、米国債10年物2.15%で引けている。一方で、新興国の金融市場はネガティブに反応した。9日にメキシコ・ペソは1ドル=20ペソを超える史上最安値に急落した。株式市場でも、NAFTA加盟国のカナダとメキシコ、中南米ではブラジル、アジアでは香港などの株価指数が選挙結果を受け大幅下落して越週した。

トランプ氏はその過激な発言印象から同氏当選は経済・金融への下方リスク要因と見られていた。しかし、同氏のプロ・ビジネスな側面はマクロ経済には追い風となりうる。同氏の選挙公約には、企業減税(企業所得税の15%への引き下げ)、エネルギー・インフラ法案などの財政拡大政策、金融規制緩和(ドッド・フランク法廃止)、などの成長への追い風となる政策が含まれている。一方、移民規制強化、保護貿易主義(TPP・NAFTAからの脱退)など、マクロ経済に抑制的とみられる政策もある。これらの選挙公約が就任後にどれほど実現するかは現状不確実である。また共和党多数の議会といっても、選挙戦中はトランプ氏を支持する有力共和党議員は限定的であり、大統領と議会の変則的なねじれ状態が現出する可能性もある。現状、米国経済予想への影響は概ねニュートラルと見て、選挙前の4日現在の個人予想を選挙後の現在も維持することとする。

<経済指標コメント> 日本の10月景気ウォッチャー調査、先行き判断DIは51.4

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[日本]

景気ウォッチャー調査(10月):現状判断DIは49.3(前月比+3.0ポイント)、先行き判断DIは51.4(同+1.5ポイント)

10月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは49.3(前月比+3.0ポイント)と4ヶ月連続の上昇。家計動向関連・企業動向関連・雇用関連すべてのDIが前月比上昇した。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは51.4(同+1.5ポイント)とこれも4ヶ月連続の上昇で、横ばいを示す50を10ヶ月ぶりに上回った。景気判断理由としては「今年はインバウンドも含めた団体客が非常に多い(都市型ホテル)」「天候に恵まれて来客数が多(い)(商店街)」「公共工事、民間建築工事とも、受注量が順調に確保できている(建設業)」「前年に比べて早い時期からの予約が取れている(高級レストラン)」「大手企業の冬季ボーナスが前年よりも増していると言われているため、ボーナス商戦に期待(家電量販店)」など、天候要因に加え今後の消費拡大への期待がみられる。街角景気は底入れの兆しが見えてきたといえる。なお、10月分統計より、内閣府は同DIを季節調整値メインで公表している。

20161113図1

機械受注(9月、船舶・電力を除く民需)は前月比-3.3%(前年比+4.3%)

9月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比-3.3%(前年比+4.3%)。前月比では2ヶ月連続の減少だったが、前年比では3ヶ月連続プラスの伸びを確保、同3ヶ月移動平均も2ヶ月連続でプラスの伸びとなった。7-9月期の同受注は前期比+7.3%と前期の同-9.2%から大幅に回復した。企業部門は今年に入り設備投資や受注の低迷が続いていたが、ようやく持ち直しの兆しがみられる。海外景気減速を背景とする輸出の低迷が一段落し、在庫調整もほぼ一巡したことから、企業部門は長い低迷からようやく脱却できそうだ。

20161113図2

<経済指標コメント> 米10月非農業部門雇用者数は前月比+161千人

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[日本]

鉱工業生産指数(9月)は前月比横ばい

9月の鉱工業生産指数は前月比横ばい。出荷指数は同+1.1%、在庫指数は同-0.4%、在庫率指数は同+1.5%。生産指数及び出荷指数の3ヶ月移動平均はいずれも2ヶ月連続で上昇しており、公表元の経済産業省の基調判断通り「生産は緩やかな持ち直しの動き」といえる。在庫循環図は「意図せざる在庫減」局面に入っており、在庫調整が終了しつつあることを示唆している。企業設備投資の先行指標となる資本財出荷は同+0.4%と2ヶ月連続の上昇。7-9月期の同出荷は前期比-0.2%とわずかにマイナスになったものの、前期の同+4.5%増加がラグを伴いGDP統計に計上されることで、7-9月期のGDP統計上の企業設備は3四半期ぶりのプラス成長に転化したと見る。総じて企業部門は、在庫調整の終了により長い低迷からの一時的な脱却が近いといえる。

20161108図1

住宅着工戸数(9月)は年率984千戸(前月比+3.0%)

9月の住宅着工戸数は年率984千戸(前月比+3.0%)と反発。内訳は持家同-4.6%、貸家同+0.4%、分譲住宅同+24.1%と振れの大きい分譲住宅の増加が全体を押し上げた。7-9月期の住宅着工戸数は前期比-2.4%と3四半期ぶりのマイナス成長となったが、前期までの着工大幅増のラグにより、7-9月期のGDP統計上の住宅投資は2四半期連続のプラス成長になると見る。総じて住宅着工戸数は増加ペースに減速は見られるものの高水準にあるといえる。

20161108図2

[米国]

実質個人消費(9月)は前月比+0.3%、個人消費支出価格指数は前月比+0.2%(前年比+1.2%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+1.7%)

9月の実質個人消費は前月比+0.3%と強めの伸び。内訳は自動車販売増加を反映した耐久消費財が同+1.8%と全体を押し上げた一方で、非耐久消費財は同-0.1%の減少、サービスは同+0.1%と小幅増にとどまった。8月分の下方改訂も伴い、7-9月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+2.1%にとどまった。個人消費はやや減速しつつあるものの、想定通りの堅調な拡大を続けているといえる。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比+0.2%(前年比+1.2%)、同コア指数は前月比+0.1%(前年比+1.7%)。いずれもインフレ率の2%目標に向けて上昇基調を保っている。年末のインフレ率はPCEデフレーターが前年比+1.6%、同コアが同+1.9%となると試算できる。FOMCの12月追加利上げ予想を支持する内容である。

20161108図3

ISM製造業指数(10月)は51.9%(前月比+0.4%ポイント)、非製造業指数は54.8%(同-2.3%ポイント)

10月のISM製造業指数は51.9%(前月比+0.4%ポイント)と2ヶ月連続の上昇で、景気判断の分かれ目を示す50%を2ヶ月連続で上回った。総合DIを構成する5つのDIの内訳は、新規受注52.1%(同-3.0)、生産54.6%(同+1.8)、雇用52.9%(同+3.2)、入荷遅延52.2%(同+1.9)、在庫47.5%(同-2.0)とまちまち。生産DIの上昇と在庫DIの低下は企業の在庫調整が進んでいることを示唆しており、企業在庫統計の傾向とも整合している。非製造業指数は54.8%(同-2.3%ポイント)と反落。総合DIを構成する4つのDIの内訳は事業活動57.7%(同-2.6)、新規受注57.7%(同-2.3%)、雇用53.1%(同-4.1)、入荷遅延50.5%(同+0.5%)と、3つのDIが低下した。製造業指数、非製造業指数いずれも3ヶ月移動平均は前月比で低下している。総じて企業景況観は方向感なくまちまちである。実体経済指標において非国防資本財受注の増加と企業在庫調整が終了局面に入ったことは企業部門の低迷が持ち直しに入ることを示唆しているが、先行性のある景況観指標にはその持続性を明確には示唆していない。

20161108図4

雇用統計(10月):非農業部門雇用者数は前月比+161千人、失業率は4.9%

10月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+161千人と予想をやや下回ったものの想定の範囲内の堅調な増加。一方で前月9月分は同+191千人と速報の同+156千人から大幅上方改訂された。10月の業種別内訳は、専門ビジネスサービス同+43千人、教育・医療同+52千人と、コア業種の雇用が増加。一方小売業が同-1.1千人と減少したのはやや期待はずれであった。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者、季節調整済)は前年比+2.4%と、前月の同+2.7%から伸びが減速したものの、賃金上昇率がじりじり上昇している状況は不変である。家計調査による失業率は4.9%と前月の5.0%から低下。こちらは、労働力人口、就業者数ともに前月比減少しており、労働参加率は62.8%(前月比-0.1%ポイント)と一時低下した。総じて雇用市場は12月のFRB追加利上げを正当化するに十分な拡大ペースである。ただし、雇用市場拡大ペースが低下していること(非農業部門雇用者数の3ヶ月移動平均は同+176千人と2ヶ月連続低下、前年比の伸びは+1.7%と昨年の+2%ペースから減速)は事実であり、個人消費もこれに応じて拡大ペースは減速しよう。なお、10月分統計はハリケーンの影響で統計が乱れている可能性があり、来月に大幅な改訂の可能性がある。

20161108図5

<経済レポート> 熱すぎず冷めすぎず:日本経済定点観測

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日本経済は、7-9月期に前期比年率+0.4%と、潜在成長率にほぼ近い拡大を見せたと個人予想する。その後年度末にかけての経済対策効果を見込めば今年度末にはマイナスの需給ギャップはほぼ解消する計算になる。一方で、インフレ率の2%目標達成は、足元のインフレ率上昇ペースの低下もありさらに遠のいたと言わざるを得ない。

家計消費は低迷:実質所得増で今後は回復へ

日本経済は、ほぼ潜在成長率に近い巡航速度で拡大している模様だ。14日に公表予定の7-9月期の実質GDP成長率は、前期比年率+0.4%の成長になったと見る。もっとも以下でみるように、家計消費はマイナスの伸びに転じ、企業設備と住宅投資の過去の着手分が成長を押し上げるにとどまる見込みである。その後は、内需にやや持ち直しがみられるうえに政府経済対策の効果で成長率は加速し、2016暦年では前年比+0.7%、2016年度は前年度比+1.1%の成長を見込む([第1図])。以下では需要項目ごとに、主に7-9月期の成長率を占っていく。

家計消費は7-9月期に2四半期連続のマイナス成長になった見込みだ。家計調査による実質家計消費支出(二人以上の世帯)は7-9月期に前期比-0.5%と2四半期連続前期比マイナス成長となった([第2図])。家計消費を取り巻く環境は悪くはなく、家計消費の低迷の要因は定かではない。雇用市場では失業率は3%の低位にまで低下しており、実質賃金上昇率は今年に入ってから前年比プラスの伸びを維持している([第3図])。また、勤労者世帯の実収入は9月時点で前年比+2.7%と2ヶ月連続の上昇をしている。

実質購買力は拡大していると見られることから、ここ2四半期の家計消費不振は一時的なものとみたい。10-12月期以降は購買力の拡大を背景に家計消費はプラス成長に回帰すると見ておく。

[第1図]
20161104図1

[第2図]
20161104図2

[第3図]
20161104図3

企業部門も今後回復が見込める

企業設備は7-9月期に3四半期ぶりのプラス成長に回帰した見込みだ。企業設備の先行指標となる資本財出荷指数は7-9月期に前期比-0.2%とわずかにマイナス成長に転じた([第4図])。しかしながら、前期の同+4.5%の大幅増加分が7-9月期のGDP統計にラグを伴って計上されると見られることから、7-9月期のGDP統計上の企業設備は前期比年率+3%レベルのプラス成長を見込む。

今後についても企業部門にはようやく回復が見込める。設備投資の先行指標となる機械受注(船舶・電力を除く民需)が7-9月期に大幅増加(前期比+8.9%)している。また在庫循環図も「在庫調整」局面から「意図せざる在庫減」の局面に入っている。海外景気減速を背景とする輸出の低迷が一段落し、在庫調整もほぼ一巡したことから、企業部門は長い低迷からようやく脱却できそうだ。

住宅投資は7-9月期に前期並みの2桁のプラス成長になると見る。住宅着工戸数は7-9月期に前期比-2.4%と3四半期ぶりの減少となったが、過去2四半期の大幅増加分とGDP統計とのラグからは、7-9月期もGDP統計上の住宅投資はプラス成長が見込める([第5図])。

[第4図]
20161104図4

[第5図]
20161104図5

2%インフレ目標達成はあと倒し:来年にかけ経済対策が成長押し上げ

純輸出は7-9月期のGDP成長率にプラス成長を見込む。9月までの貿易統計によれば、貿易収支はほぼ安定した黒字基調にあり、7-9月期のそれは前期に比べてわずかに拡大している([第6図])。

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、いわゆるコアCPI)の前年比の伸び率は従前の筆者個人の見通しをやや下回って推移している。原油価格が今年初をボトムに上昇に転じたにも関わらず、電気代等が遅効的に低下を続けているほか、食品(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコアCPI)の上昇ペースが年央から鈍っている。現状の試算では、コアCPIインフレ率は2016年度末(2017年3月)には+0.7%程度の伸びにとどまる見込みである([第7図])。これは、日銀の2%インフレ目標が来年中に視野に入るとのこれまでの見方に対する下方リスクである。実際日本銀行は、1日の金融政策決定会合後に公表した「経済・物価情勢の展望」で、「「(消費者物価の前年比が)2%程度に達する時期は、、2018年度になる可能性が高い」として、従前の見通し(2017年度)を下方修正した。

以上から、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.4%程度の、潜在成長率に近い成長を見込む。その後は、上記の通り内需が再び巡航速度に回帰するとともに、政府支出が成長を押し上げると見る。8月2日に閣議決定、10月11日に第2次補正予算として成立した「未来への投資を実現する経済対策」経済対策のうち、いわゆる真水にあたる2016年度の国費歳出は約4.6兆円(GDPの約0.9%)。このうち現実に2016年度の成長率に寄与する割合を約半分(成長率を約+0.5%押し上げ)とみておく。結果、2016年度の成長率はベースライン個人予想の前年度比+0.6%を約+0.5%押し上げるとみて、前年度比約+1.1%と見ておく。

[第6図]
20161104図6

[第7図]
20161104図7

現在の成長ペースはほぼ巡航速度といえる

総合的に見て、日本の経済成長は潜在成長率(内閣府推計では年率+0.3%)にほぼ近い速度での拡大を7-9月期までの3四半期の間継続することになる。また需給もほぼ均衡している。4-6月期時点のGDPギャップは、内閣府推計では約-1.0%とされており、この状況は7-9月期においてもほぼ同様になる見込みだ。

今後、政府の経済対策により潜在成長率を上回る成長が10-12月期以降2四半期継続すれば、GDPギャップは2016年度末(2017年3月)にはほぼ解消する計算になる。失業率については、現在の失業率3%は、CPIインフレ率の変化と失業率実績から推計される自然失業率(筆者推計で約3.8%)を大幅に下回っていることになる([第8図])

つまり、現在の日本経済の需給はほぼ均衡水準にあるといってよく、この状態がほぼ巡航速度だということになる。熱すぎず冷めすぎない巡航速度の経済成長ペースである。ただ、労働市場は(自然失業率の低下により緩和されてはいるものの)かなりタイトな状態にあるといえる。さらに上記の通り今年度末に需給ギャップは需要超過になる可能性が高い。にもかかわらず、インフレ率の2%への高進は、現在の日本のフィリプス曲線の形状からは簡単には実現し得ない。失業率とインフレ率の関係を示すフィリップス曲線からは、2%インフレの実現には失業率が1%レベルにまで低下する必要があると計算されるからである([第9図])。さらに、現在のインフレ率は、フィリップス曲線のトレンドをさらに下回る水準にまで低下している。今後失業率が3%を割り込んで低下すれば、インフレ率は加速が見込めるものの、その実現時期は日本銀行の見通し通り、2018年度を待たねばならない可能性が高い。

なお、筆者個人の経済・金融予想のアップデートを[第1表]に示す。

[第8図]
20161104図8

[第9図]
20161104図9

[第1表]
20161104表1