<経済レポート> 加速へのギアシフト:3月FOMC

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FOMCは3月の定例会合で予想通り+0.25%の利上げを決定した。FOMC委員経済予測では、減税法案の成立を反映して成長予測は上方シフトした。年内の利上げ予測は3回と前回予測から不変であったが、全体としてFOMCがタカ派にシフトしていることがわかる。パウエル新FRB議長は金融政策において「ルール」が有効としていることも、今後利上げペースが加速する可能性を示唆している。今回を含め年内3回以上の利上げが決定されるとの個人予想を維持する。

FOMCは+0.25%の利上げを決定:年内利上げ予測は3回にとどまった

FRB連邦公開市場委員会(FOMC)は3月20-21日の定例会合で、予想通りFF金利誘導目標レンジを+0.25%引き上げ1.50-1.75%とすることを決定した。FOMCの利上げ決定は昨年12月定例会合以来のこととなる([第1図])。会合後に公表された声明文の内容は、前回1月定例会合のそれから本質的な変更はなかった。基調判断のパラグラフでは、1月以降の消費統計や資本財出荷統計の軟化を反映して「家計消費と設備投資の成長ペースが第4四半期の強い数字から軟化した」とされたが、経済見通しのパラグラフでは「経済見通しは最近強まった」との新たな文言が挿入されたうえ「経済活動は中期的に適度なペースで拡大」し「労働市場は強くあり続けると予想している」「12ヶ月のインフレ率はここ数ヶ月で上昇し、中期的には委員会の2%目標付近で安定するだろうと予想している」と従前の見通しを維持した。その上で上記の利上げが決定された([第2表])。

声明文と同時に公表されたFOMC委員の四半期経済予測においては、前回昨年12月予測に比べていくつかの大きな変化がみられた。まず実質GDP成長率(第4四半期前年同期比)の予測中央値が2018年+2.7%(12月予測+2.5%)、2019年+2.4%(同+2.1%)と上方シフトした。次に失業率(第4四半期平均)予測中央値も下方シフトし、2018年3.8%(同3.9%)、2019年3.6%(同3.9%)となった。PCEインフレ率予測中央値は12月予測と不変で、2018年前年比+1.9%、2019年同2.0%と、来年にかけてFOMCの目標値2%が達成されるとの予測が維持された。適正なFF金利水準は2018年については2.1%と前回予測比不変であったが、2019年については2.9%(前回2.7%)、2020年も3.4%(同3.1%)から上方シフトした。長期的均衡FF金利は2.9%(同2.8%)とわずかに上方シフトした([第1表][第2図])。

今回のFOMC委員経済予測では昨年末の減税法案成立が反映されて、成長率と失業率が好転方向に改訂された。利上げ見通しについては、今年の利上げ回数はこれまでと同様に年3回にとどまったものの、来年については上方シフトしている。年内の利上げ回数については3回以下とみる委員が8人、4回以上とみる委員が7人おり、両者は拮抗しているうえ、利上げ回数を4回以上とみる委員の数は12月予測比増加している([第3図])。これは減税法の成立によりFOMC委員の経済見通しと金融政策見通しがタカ派シフトしたことの証跡である。これらは従前からの当レポートの見方とも整合している。

[第1図]
20180325b図1

[第1表]
20180325b表1

[第2図]
20180325b図2

[第3図]
20180325b図3

経済成長予測は上方シフト:FOMCはタカ派に

3月FOMC定例会合は、2月に就任したパウエル氏のFRB議長として最初の会合であった。当レポートでは、パウエル氏は基本的にこれまでのイエレン氏の路線を継承しこれを調整していく政策をとると見ていた。パウエル氏は経済学者出身ではなく、共和党政権財務次官などを歴任した行政官である。しかしFRB理事として6年近くその任にあり、FOMCの運営についてはバランス感覚をもってこれを実施しうる十分な経験があるといえる。金融政策について特定の学説は持っておらず、基本的には中立路線を歩むと考えられる。しかしながら、リベラル派の経済学者であったイエレン前議長の金融政策との比較、また昨年末からの経済見通しの好転や需給の引き締まりの状況、また多数のFOMC委員がトランプ政権になってから交代していることからは、FOMCはタカ派にシフトしていくと見る。

3月FOMC会合の声明文やパウエル議長記者会見の内容はこうした見方を裏付けるものであった。声明文の構成や内容は議長交代にも関わらず従前の書式をほぼ踏襲したものであった。記者会見の内容もいわば安全運転といってよく、特段の注目すべき発言は見られなかった。一方でFOMC委員経済予測は従前比タカ派色が強かったといってよい。

パウエル氏は特段の金融政策に関する特定の学説はもっていないとしたが、同氏は就任直後の議会証言で興味深い発言をしている。2月27日の米議会下院金融サービス委員会における半期金融政策報告においてパウエル氏は「金融政策スタンスの評価においてFOMCは、政策処方箋と我々の使命に関係する変数とを結びつける金融政策ルールを定期的に参照している」「私は個人的にルール処方箋を有用なものとみている」と述べている。これは、パウエル議長が金融政策の遂行に当たりルールを重視していること、また同氏率いるFOMCが従前のイエレン前議長でのFOMCよりもタカ派しシフトする可能性を示唆するものである。

金融政策ルールによれば適正FF金利はより高い水準になる

FRBが議会宛に提出する半期金融政策報告書には、前回の2017年7月報告書以来、複数の金融政策ルールに基づく適正FF金利の推計値が掲載されている。2月の金融政策報告においては、金融政策ルールとして5通りの公式が示され、これらに基づく2017年第4四半期時点での適正FF金利推計値はゼロ%~3%の間に位置するとされている。これらの中で最も高い適正FF金利を推計する公式は「バランスト・アプローチ・ルール」(テイラー・ルールの一種)とされている公式で、2017年第4四半期の適正FF金利が約3%との推計結果になっている。また「テイラー・ルール(1993)」公式による推計値もほぼ3%を指している。最も低い適正FF金利を推計する公式は「価格レベル・ルール」とされているもので、2017年第4四半期の適正FF金利は約ゼロ%と推計されている。一般に適正FF金利の推計において、需給ギャップ(労働市場ギャップ)の比率を高く見る公式(バランスト・アプローチ・ルールやテイラー・ルール)」は、需給ギャップがマイナス(失業率が自然失業率を上回る)の時期には適正FF金利が低めに推計され、需給ギャップがプラス(失業率が自然失業率を下回る)時期には適正FF金利が高めに推計される。FRB金融政策報告書によれば、需給ギャップを相対的に重視する公式では高めの適正FF金利が推計され、インフレ率を重視する公式では低めの適正FF金利が推計されている。

パウエル議長が金融政策決定において金融政策ルールを重視し、またその際にテイラー・ルールまたはその修正版を用いた場合、今後FOMCは、3月時点の委員予測よりもさらに利上げペースを加速させる可能性がある。テイラー・ルールによれば2017年末の適正FF金利水準は実績値よりもかなり高い水準であり、さらに2018年の成長加速とインフレ率上昇を勘案すれば、2018年の適正FF金利は更に高水準になる計算になる。

テイラー・ルール公式を用いた当レポートにおけるこれまでの筆者個人の適正FF金利推計値もこれらと同様の傾向を示している。自然利子率を0.8%とした場合の筆者による適正FF金利推計値は、2017年末が2.6-2.8%、2018年末が3.3%-4%である([第4図])。これはFRBの内部推計の結果とも方向性を一にするものである(なお、当レポートで「99年版」テイラー・ルールとしている公式はFRB金融政策報告では「テイラー・ルール(1993)」とされている。当レポートでの「1993年版」に相当する公式はFRB金融政策報告には記載されていない)。

[第4図]
20180325b図4

年内3回以上の利上げ予想を維持する

以上より、FOMCが3月利上げを含め年内3回以上の利上げを決定するとの当レポートの個人予想を維持する(年末のFF金利誘導目標レンジは2.00-2.25%またはそれ以上)。筆者個人の成長率及びインフレ率予想はFOMC委員予測とほぼ整合している([第5図])うえ、上記の通りテイラー・ルールによる適正FF金利推計値は2018年末に3%以上を示唆している。パウエルFRB議長の発言も今後FOMCが利上げを加速する可能性を示唆している。

インフレ率の上昇に対して中央銀行がビハインド・ザ・カーブになるリスクを、FOMCは今後より重視することになるだろう。1月FOMC定例会合の議事要旨によれば、インフレの上方リスクに対する参加者発言が複数出されている。現状すでに米経済は需要超過の状態にあり、伸び悩んでいる時間当たり賃金も今後上昇ペースが加速する可能性が高いと見る。昨今の為替市場におけるドル安に加え、3月にトランプ大統領が決定した鉄鋼・アルミニウムに対する輸入制限は、米国の輸入物価を上昇させる可能性が高い。

一方で、上記個人予想に対する下方リスク要因は、米経済の予想外の減速である。大型減税による購買力拡大が内需ではなく輸入拡大につながった場合は成長が予想通りに加速しない可能性がある。また米トランプ政権の内政・通商問題による混乱も下方リスクである。トランプ大統領が決定した輸入制限は「企業部門の懸念事項」とパウエル議長も記者会見で述べている。トランプ政権の混乱は引続き米経済及び金融政策予想への下方リスク要因であり続けそうだ。

[第5図]
20180325b図5

[第2表]
20180325b表2

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<経済指標コメント> 日本の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年比+1.0%

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[日本]

全国消費者物価指数(2月、生鮮食品を除く総合)は前月比+0.1%(前年比+1.0%)

2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、いわゆるコアCPI)は前月比+0.1%と上昇継続。前年比では+1.0%と前月の同+0.9%から伸びが加速した。前年比+1.0%は、消費税影響を除くと2014年8月以来の高い伸び率となった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(いわゆるコアコアCPI)は前月比+0.1%(前年比+0.5%)と2ヶ月連続で前年比伸び率を拡大させた。前月比での伸び率に寄与した費目は電気代(前月比+5.8%)、診療代(同+3.5%)など。前年比伸び率への寄与度はエネルギーが依然高く、前年比伸び率を+0.51%押し上げている。総じて需給の引き締まりとエネルギー価格の安定でコアCPIは当レポート見通し通りの上昇を続けているといえる。年内コアCPIインフレ率は前年比+1%前後で推移、コアコアCPIインフレ率は今後もじり高となり年末に+0.8%レベルにまで上昇すると見る。

20180325図1

[米国]

中古住宅販売戸数(2月)は年率5540千戸(前月比+3.0%)、在庫期間は3.4ヶ月

2月の中古住宅販売戸数は年率5540千戸(前月比+3.0%)と3ヶ月ぶりに反発した。もっとも3ヶ月移動平均は同5493.3千戸(同-1.1%)と2ヶ月連続で小幅低下しており、総じて中古住宅販売の増加ペースは昨年来の減速が継続しているといえる。中央販売価格は前年比+5.9%とやや高めの伸びが続いている。在庫期間は3.4ヶ月と前月並みだったが、適正値とされる6ヶ月を大幅に下回っており、依然需給はタイトである。公表元の全米不動産業協会(NAR)はプレスリリースで「健全な米国経済と労働市場が住宅購入意欲を創出しているが、価格上昇と供給不足が課題となっている」と述べている。

20180325図2

新築住宅販売戸数(2月)は年率618千戸(前月比-0.6%)、在庫期間は5.9ヶ月

2月の新築住宅販売戸数は年率618千戸(前月比-0.6%)と3ヶ月連続の減少、もっとも6ヶ月移動平均は同643.2千戸(同+1.6%)と上昇しており、新築住宅販売の増加基調は継続している。在庫期間は5.9ヶ月と適正値とされる6ヶ月レベルにある。ただし中央販売価格は2月で前年比+9.7%、同6ヶ月移動平均は+10.6%と、新築住宅価格の上昇が加速している。中古住宅とともに新築住宅においても価格上昇が販売抑制要因になっている可能性はある。

20180325図3

耐久財受注(2月)は前月比+3.1%、除く運輸関連同+1.2%、非国防資本財受注同+1.8%、同出荷同+1.4%

2月の耐久財受注は前月比+3.1%、除く運輸関連同+1.2%。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注同+1.8%と3ヶ月ぶりかつ大幅な増加に転じた。GDP統計上の設備投資(機器投資)の先行指標となる同出荷は同+1.4%とこれも大幅な伸び。設備投資は年末年初の減速から再び拡大ペースを回復している。トランプ政権による法人税減税との関連は明瞭ではないが、今後減税効果が設備投資の押し上げ要因として示現する可能性は十分にある。

20180325図4


<経済指標コメント> 米2月小売売上高は前月比-0.1%

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[日本]

機械受注(1月、船舶・電力を除く民需)は前月比+8.2%(前年比+2.9%)

1月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比+8.2%と、前月の同-9.3%から大幅に回復した。前年比では+2.9%とプラスの伸びに転化、同3ヶ月移動平均も同+0.7%となんとかプラスの伸びを保っている。GDP統計上の設備投資は10-12月期まで5四半期連続プラス成長と堅調に拡大しているが、1-3月期も先行指標の走りはまず順調である。

20180318図1

[米国]

消費者物価指数(2月)は前月比+0.2%(前年比+2.2%)、同コア前月比+0.2%(前年比+1.8%)

2月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%とプラスの伸びを維持、前年比では+2.2%と前月の同+2.0%から伸びが加速し、6ヶ月連続で+2%台の伸び率を確保した。食料及びエネルギーを除く同コア指数は前月比+0.1%と堅調、前年比でも+1.8%と上昇基調を保った。前月比の伸びでは、ガソリン(同-0.9%)、灯油(同-3.6%)価格の低下に対し、電気代(同+0.4%)、ガス(同+4.7%)価格が上昇、また衣服(同+1.5%)、運輸サービス(同+1.0%)価格が上昇した。CPIインフレ率は当レポートの予想通りにじり高傾向を保っている。2018年の総合CPIインフレ率は、年内にいったん+2%台後半に上昇したのち、年末に+2%台前半に着地すると見る。FRBが年内3回以上の利上げを決定するとの見方を支持する内容である。

20180318図2

企業在庫(1月)は前月比+0.6%、企業売上高は同-0.2%、在庫売上高比率は1.34倍

1月の企業在庫は前月比+0.6%と前月の同+0.6%に続き強めの伸び。一方企業売上高は同-0.2%と減少に転じた。結果在庫売上高比率は1.34倍と14ヶ月ぶりに上昇した。在庫循環図は「在庫積み増し」局面から「意図せざる在庫増」局面に一時的に移行しつつある。2018年も在庫投資は成長の押し上げ要因となりそうだ。

20180318図3

小売売上高(2月)は前月比-0.1%、除く自動車関連同+0.2%

2月の小売売上高は前月比-0.1%と2ヶ月連続の減少。除く自動車関連では同+0.2%とプラスの伸びを維持した。業種別内訳は、新車販売の減少を反映した自動車及び同部品ディーラーが同-0.9%、ガソリン価格の低下を反映したガソリンスタンドが同-1.2%、他に家具店同-0.8%などの売上が減少、一方で建築資材店同+1.9%、スポーツ用品店等同+2.2%などの売上が増加、内容はまちまちであった。総じて、自動車販売の減速に加え自動車以外の小売売上も昨年12月から伸びが低下または鈍化している。2018年の個人消費は所得税減税効果で+2%台後半の伸びを見込んでいるが、年初の走りはややこの予想を下回っていると言わざるを得ない。

20180318図4

住宅着工戸数(2月)は年率1236千戸(前月比-7.0%)、着工許可件数同1298千戸(同-5.7%)

2月の住宅着工戸数は年率1236千戸(前月比-7.0%)と大幅反落。ここのところ住宅着工戸数は振れの大きい動きが続いている。しかし6ヶ月移動平均は同1248.5千戸(同+0.9%)と上昇しており、住宅着工の基調は堅調といえる。先行指標となる2月の住宅着工許可件数は同+1298千戸(同-5.7%)とこれも減少したが、6ヶ月移動平均は同1303.2千戸(同+0.3%)と上昇している。需給のタイト化状況から住宅着工への需要は依然強いと見たい。

20180318図5

<経済レポート> 新重商主義の顕在化:米大統領の鉄鋼・アルミ輸入制限

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トランプ米大統領は、鉄鋼製品・アルミニウムについての輸入制限措置を決定した。これは保護貿易主義をいわば標榜する同氏の政策に則った措置といえる。輸入制限措置は現実には国内産業の育成に貢献するとは限らずむしろ米製品の競争力低下を招くリスクがある。もっとも、輸入制限の例外適用により、これを政治的交渉のカードとして大統領が使用するにとどめれば、経済的な悪影響が抑制されるシナリオは想定可能である。

鉄鋼製品25%、アルミニウム10%の関税による輸入制限を決定

トランプ米大統領は8日、大統領宣言(Presidential Proclamation)を発出し、米通商拡大法232条に基づく商務省報告書に基づき、鉄鋼製品とアルミニウムの輸入が米国の国家安全保障を損なう脅威となっていることを理由に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課す輸入制限措置の実施を表明した。輸入関税は3月23日より実施される。またカナダとメキシコは同関税の対象外とされ、安全保障関係にある国とは交渉の余地を残した。

米通商拡大法232条は、商務省に対し国家安全保障への脅威となりうる輸入に関する調査と大統領への報告の権限を、また大統領に対し報告受領後90日以内にその結論を判断し輸入の調整のための行動をとる権限を付与している。例えば鉄鋼につき、1月11日に大統領に提出された商務省報告書「鉄鋼輸入の国家安全保障への効果(The Effect of Imports of Steel in the National Security)」は、「現在の鉄鋼製品輸入とグローバルな過剰生産能力が米国内経済を弱体化させている」、また鉄鋼製品輸入拡大が「国内鉄鋼生産設備の閉鎖の継続的脅威となり、国家緊急事態における安全保障のための生産能力を縮小させている」として、鉄鋼の輸入拡大が「商拡大法232条に定義された国家安全保障を損なう脅威となっている」と結論づけている。同報告書では、輸入調整のための関税引き上げなどの複数の選択肢を提言している。

同報告書を受けてトランプ大統領は、上記の通りの鉄鋼製品とアルミニウムに対する輸入関税を決定した。トランプ大統領は既に1日、鉄鋼・アルミニウム業界との懇談会の席で、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課することを表明済であった。ただ8日の大統領宣言では「安全保障関係にある国は、輸入の脅威による国家安全保障棄損への代替的な対応策をもって協議することを歓迎する」として、日本などの同盟国については米国安全保障を他の手段で確保する案の提示を条件に交渉の余地を残した。また、カナダ、メキシコについては「我々の共有する(安全保障やグローバル過剰生産能力への対応に関する)コミットメント、産業基盤の類似性、これらの国家間の健全な経済的統合」党を背景に輸入制限措置の対象外とすることを表明した。

鉄鋼輸入上位はカナダ、ブラジル:中国のシェアは低い

以下では、同輸入制限措置の国別の影響を見る。まず、2017年の米国による鉄鋼製品輸入相手国の上位は、①カナダ、②ブラジル、③韓国、④メキシコ、⑤ロシアとなっており、中国は11位である(同報告書による、[第1図])。また2011年から2017年にかけての輸入量変化はカナダ+5%、ブラジル+66%、韓国+42%、メキシコ+24%、ロシア+146%である。中国からの輸入は-31%減少している。またアルミニウム輸入の上位相手国は①カナダ、②ロシア、③アラブ首長国連邦、④中国、⑤バーレーン、となっている([第2図])。ここでは2016年から2017年にかけての輸入数量増加率がカナダ+9.0%、ロシア-0.4%、アラブ首長国連邦+30.8%、中国+24.8%、バーレーン+39.0%となっている。

トランプ大統領は選挙戦時より、国内鉄鋼業等の保護のために保護貿易主義政策をとることを明言していた。今回の輸入制限措置はその政策に則ったものといえる。特に中国の過剰生産能力を祖の背景に挙げていることは、同氏の対中国通商問題に対する厳しい姿勢と一致している。商務省報告書でも「グローバルな過剰生産能力」において特に中国の生産能力拡大を指摘している。もっとも米国による中国からの鉄鋼製品輸入シェアは小さくかつ減少していることから、ことさらに中国の鉄鋼製品を批判の対象にする理由は計数上見当たらない。中国に対するスタンスは計数よりも大統領個人の政治的思惑が先行している感が強い。

一方で、北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国であるカナダ、メキシコについては輸入制限の対象外とする配慮を見せた。NAFTAについては米国がここからの離脱も辞さないとの強硬な姿勢で輸入割当等の見直しを交渉中であるが、グローバルな一律関税の対象外とすることで3国間の交渉の継続を示唆した形である。

保護主義による弊害

輸入制限措置の効果については次のように考えられる。米商務省報告書は、鉄鋼とアルミニウムについて、米国内での需要増加以上に輸入が増加していることにより、国内同産業の設備稼働率が低下していることを指摘している。例えば鉄鋼製品への輸入制限措置発動により、国内産業の設備稼働率が現状の72.3%から80%に上昇した場合、米国内鉄鋼生産は約10.6%増加すると試算されている。こうした試算は、輸入制限により国内製品への需要を拡大することで、国内産業の回復と雇用拡大を意図するという、米国にとってはある意味合理的な措置ともいえる。

しかし現実には、輸入制限措置が米国産業を支援するとは限らない、輸入鉄鋼製品を使用する米国内製造業にとっては、代替的な国内製品の品質と数量が確保できるまでの間は、従前の輸入製品を使用する可能性が高い。これは国内製品の価格上昇をもたらし、米国製品の競争力低下につながるリスクがある。自動車・航空機・建設機械製造業は鉄鋼やアルミニウムの輸入制限措置によりコスト上昇というマイナスの影響を受ける。米大手オートバイ製造会社は5日に「(大統領の提案する)輸入関税措置は鉄鋼とアルミニウムを用いた製品のコストを上昇させる」との声明を公表した(報道による)。

公正な貿易の観点からも今回の輸入制限措置は世界経済への悪影響要因となりうる。諸外国も同様の認識である。日本の外務省は9日、米国が「輸入制限措置を決定したことは遺憾です」との声明を公表、欧州委員会(EC)のユンケル委員長も1日「今回の決定は、安全保障からの正当化ではなく米国国内産業の保護のための露骨な介入であり極めて遺憾」と述べた。報道によれば、EUと日本は、それぞれの地域と国を同輸入制限の対象外とすることを米国に申し入れる意向である。

[第1図]
20180311b図1

[第2図]
20180311b図2

保護主義は経済産業にマイナス:選択適用で悪影響抑制のシナリオもある

保護貿易主義は、トランプ大統領就任時に当レポートで指摘した「新重商主義」の一環をなすものであり、今回の輸入制限措置は保護貿易主義の最大の目玉の実現ということになる。ただ、輸入制限措置がトランプ大統領の意図する国内産業の育成に寄与する可能性は低いと見たい。まず、鉄鋼製品・アルミニウム産業に特化した保護主義は、他の製造業の原材料調達の最適化の機会を奪うことになる。結果、鉄鋼製品・アルミニウムを部品・原材料とする自動車、建設機械、航空機などの米国の主要製造業はコスト高による競争力低下の可能性が高い。また国際貿易の観点からも、米国の輸入制限措置は製品等の公正な競争を阻害して国際貿易の収縮を招く可能性がある。

しかしながら、同輸入制限措置の悪影響を最小限にとどめるシナリオはまだある。トランプ大統領はカナダとメキシコを輸入制限の対象から除外した。これは、NAFTAに基づき両国から部品や原材料を輸入する米国の製造業にとっては大きな緩和措置である。また日本は日米安全保障条約を通じて米国と同盟関係にある。したがってトランプ大統領の宣言にいわゆる「安全保障関係にある国」との代替的手段の交渉の対象となる可能性がある。EUも北大西洋条約機構(NATO)に基づく同盟関係に基づき適用除外の可能性がのこっている。

仮に日本やEUが輸入制限の対象外になった場合、主に影響を受ける輸出国は、ブラジル、ロシア、韓国、中国、そして中東各国ということになる。ブラジルはオバマ政権時代に通貨安を通じた貿易戦争(通貨戦争)の急先鋒となった国である。また韓国・中国・中東はいずれもトランプ政権と政治的緊張関係にある国である。トランプ氏は本来ロシアのスタンスを明確にしていたが、ロシアゲート事件の捜査進展の状況からは従前の様な個人的人脈による関係を維持しうるとは考えにくい。こうした状況からは、トランプ大統領が輸入制限措置を選択的に適用することで、相手国に対する政治的スタンスとの整合性を確保することは可能である。輸入制限措置を政治的交渉のカードとして使用するにとどめるならば、世界経済への悪影響が最小限にとどまるシナリオを描くことは可能である。

<経済指標コメント> 米2月非農業部門雇用者数は前月比+313千人

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[日本]

実質GDP成長率(10-12月期、2次速報値)は前期比年率+1.6%

10-12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比年率+1.6%と、1次速報値の同+0.5%から大幅上方改訂された。需要項目別内訳は、家計消費同+2.1%(1次速報値同+1.9%)、設備投資同+4.2%(同+2.8%)、住宅投資同-10.1%(同-10.2%)、公的需要同横ばい(同-0.5%)、在庫投資寄与度同+0.3%(同-0.4%)、純輸出寄与度同-0.3%(同-0.3%)。在庫投資が大幅上方改訂されて成長にプラス寄与に転じたことと、家計消費、設備投資の上方改訂が主な上振れ要因。家計消費・設備投資・住宅投資を合わせた国内最終民間需要は同+2.0%と前期の同-1.4%から大幅回復した形も不変である。総じて10-12月期の経済成長は潜在成長率を上回る強い伸びといえる。2017暦年成長率は前年比+1.7%と1次速報値から不変。また、2017年度成長率は前年度比+1.9%レベルの強い伸びに着地する計算になる。

20180311図1

景気ウォッチャー調査(2月):現状判断DIは48.6(前月比-1.3ポイント)、先行き判断DIは51.4(同-1.0ポイント)

2月の景気ウォッチャー調査、3ヶ月前と比較しての景気の現状に対する判断DIは48.6(前月比-1.3ポイント)と3ヶ月連続の低下で、横ばいを示す50を2ヶ月連続で下回った。2~3ヶ月先の景気の先行きに対する判断DIは51.4(同-1.0ポイント)と4ヶ月連続の低下。景気判断理由には「野菜価格の高騰で、家族客からは様々な買い渋りの声が聞かれる(スーパー)」「仕入原料のプラスチックの価格が上昇し、利益が減少している(化学工業)」「株価の不安定要因もあり、引き続き高額品の動きが厳しいと想定される(百貨店)」などがみられる。生鮮食品や原油価格上昇などが現状判断を低下させ、株価下落などが先行き判断を低下させている。現状判断DIは2014年初の消費税率引き上げ前の駆け込み需要期水準にまで上昇していたが、やや過熱感があった。年初はその反動で街角景気は調整局面にあると言わざるを得ない。

20180311図2

実質家計消費支出(1月、二人以上の世帯)は前月比+2.8%(前年比+2.0%)

1月の実質家計消費支出(二人以上の世帯)は前月比+2.8%と前月の同-1.6%から大幅反発、前年比でも+2.0%と昨年7月以来の伸びとなった。設備器具、国内・外国パック旅行費、移動電話通信料などが前年比の伸びを押し上げた。一方価格高騰を反映して野菜の消費が減少した。2018年の家計消費のスタートは順調といえる。しかしながら、勤労者世帯の実質実収入は前年比-3.3%と大幅減少している。1月の街角景気の悪化や2月以降の株価下落からは、2月以降は家計消費が減速するリスクを見ておく必要があろう。

20180311図3

[米国]

雇用統計(2月):非農業部門雇用者数は前月比+313千人、失業率は4.1%

2月の雇用統計、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比+313千人と、2016年7月以来の大幅な増加。3ヶ月移動平均は同+242.3千人と3ヶ月連続上昇した。業種別では建設業(同+61千人)、小売業(同+50.3千人)、専門ビジネスサービス業(同+50千人)など、景気敏感業種中心に押しなべて雇用が増加した。時間当たり賃金(生産及び非監督雇用者、季節調整値)は前年比+2.5%と前月の同+2.4%から伸びが加速した。家計調査による失業率は4.1%と前月比横ばいだったが、労働参加率が60.4%と前月比+0.3%の上昇。総じて労働市場は拡大が加速しており、労働需給のタイト化を労働参加率上昇が緩和している形である。

20180311図4

<経済指標コメント> 米1月実質個人消費は前月比-0.1%

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[日本]

鉱工業生産指数(1月)は前月比-6.6%(前年比+2.7%)

1月の鉱工業生産指数は前月比-6.6%と4ヶ月ぶりかつ大幅な低下。乗用車などの輸送機械工業の生産が同-14.1%低下した。前年比でも+2.7%と前月の同+4.4%から減速した。同出荷指数は前月比-5.6%、在庫指数は同-0.6%、在庫率指数は同+3.0%。生産、出荷の大幅低下で在庫率が上昇した形。年初の企業部門の出だしは低調となったといえる。もっとも設備投資の先行指標となる資本財出荷は同-1.9%と小幅低下にとどまった。公表元の経済産業省は「生産は緩やかに持ち直している」と基調判断を下方修正した。

20180304図1

住宅着工戸数(1月)は年率856千戸(前月比-8.6%)

1月の住宅着工戸数は年率856千戸(前月比-8.6%)と大幅減少。持家は同+1.5%、貸家は同+1.1%と増加したが、マンションなどの分譲住宅が同-17.4%と大幅減少した。マンション建設の減速が鮮明になっており、今後住宅投資が成長を押し下げる下方リスク要因となる可能性が出てきている。

20180304図2

完全失業率(1月)は2.4%

1月の完全失業率は2.4%と前月の2.7%から-0.4%ポイント低下、1993年4月以来の低水準となった。筆者試算の労働参加率は60.9%と2003年7月以来の水準に上昇した。労働参加率上昇が労働市場を緩和しているものの、労働需給はタイトさを増しているといえる。

20180304図3

[米国]

新築住宅販売戸数(1月)は年率593千戸(前月比-7.8%)、在庫期間は6.1ヶ月

1月の新築住宅販売戸数は年率593千戸(前月比-7.8%)と2ヶ月連続の大幅減少。地区別内訳は、北東部同-33.3%、中西部同+15.4%、南部同-14.2%、西部同+1.0%。在庫期間は6.1ヶ月と前月の5.5ヶ月から長期化、2011年9月以来の水準となった。1月までの販売減は天候要因など一時的なもとのも考えられる。中古住宅を含めた住宅販売市場自体の需給はタイトであり、今後は再び販売が増加に転ずると見たい。しかし、2月以降の長期金利上昇は住宅販売にとっては向かい風となりうる。

20180304図4

耐久財受注(1月)は前月比-3.7%、除く運輸関連同-0.3%、非国防資本財受注(除く航空機)同-0.2%、同出荷同+0.1%

1月の耐久財受注は前月比-3.7%、除く運輸関連同-0.3%。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注(除く航空機)同-0.2%と2ヶ月連続のマイナス。GDP統計上の設備投資(機器投資)の基礎統計となる同出荷は同+0.1%。1-3月期の企業部門はやや減速スタートとなった。

20180304図5

実質GDP成長率(10-12月期、改訂値)は前期比年率+2.5%

10-12月期の実質GDP成長率(改訂値)は前期比年率+2.5%と、速報値の同+2.6%から小幅下方改訂。需要項目別内訳は個人消費同+3.8%(速報値同+3.8%)、設備投資同+6.6%(同+6.8%)、住宅投資同+13.0%(同+11.6%)、政府支出同+2.9%(同+3.0%)、在庫投資寄与度同-0.70%(同-0.67%)、純輸出寄与度同-1.13%(同-1.13%)。個人消費・設備投資・住宅投資を合わせた国内最終民間需要は同+4.6%(同+4.6%)。2017年通年の成長率は前年比+2.3%と、速報値から不変であった。改訂幅は限定的で、内需が極めて強い伸びを示しており、在庫投資と輸入増加が見かけの成長を押し下げている形は不変である、今後の米経済見通しへの影響はなく、2018通年成長率が前年比+2%台後半に加速するとの個人予想を維持する。もっとも1月の各経済指標の下ブレは下方リスク要因である。

20180304図6

実質個人消費(1月)は前月比-0.1%、PCEデフレーターは前月比+0.4%(前年比+1.7%)、同コア前月比+0.3%(前年比+1.5%)

1月の実質個人消費は前月比-0.1%と5ヶ月ぶりの前月比マイナス成長。内訳は、新車販売の減少を反映した耐久財消費が同-1.6%、非耐久財消費同横ばい、サービス消費同+0.1%。1-3月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+2%台前半を見込んでいるが、1月のマイナス成長はこれに対する下方リスク要因となった。減税法の効果はまだ個人消費には反映されていないようだ。FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前月比+0.4%(前年比+1.7%)と前年比の伸びは前月並み、食品及びエネルギーを除く同コアは前月比+0.3%(前年比+1.5%)。総合PCEデフレーターの伸びはFRBの目標である前年比+2%に接近しており、FOMCが年内に3回以上の利上げを決定するとの当レポートの予想に沿った動きである。PCEデフレーターは年内に一時前年比+2%を超え、年末には+2%レベルに着地すると見る。

20180304図7

新車販売台数(1月、乗用車及び軽トラック)は年率16.96百万台(前月比-0.6%、前年比-2.1%)

1月の新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は年率16.96百万台(前月比-0.6%、前年比-2.1%)と2ヶ月連続の前月比減少、前年比では4ヶ月連続のマイナスの伸びとなった。自動車販売は2016年末に同18百万台台でピークアウトののち減速局面に入っている。今後は所得税減税の効果で新車販売も押し上げられると見たい。

20180304図8