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<経済レポート> 長期金利の正常化を決めるもの~米国債利回り

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米国の長期金利は量的緩和継続期待の剥落と利上げ期待で上昇局面にある。成長率・期待インフレ率・政策金利を変数とする回帰分析によれば、現在の米国債10年物利回りは3%台が適正との結果になった。来年6月の利上げ開始等を前提に、今後米国債10年物利回りは年末に3%台半ば、来年には4%レベルに上昇すると見る。下方リスク要因はインフレ期待の低下と利上げペースの遅れである。

FRBの正常化開始で長期金利は上昇へ

FRBは間もなく金融政策を正常化する段階に入ろうとしている。10月の定例FOMCではFRBの資産購入停止が決定される見込みであり、また来年2015年6月のFOMCでは初回のFF金利誘導目標の引上げが決定されると筆者個人は予想している。米国の長期金利(米国債10年物利回り)は現在2%台半ばの低位で推移しており、30年物住宅ローン金利も4%レベルと低位にとどまっている([第1図])が、今後長期金利は金融引締めや成長加速期待などで上昇に転じると考えられる。

量的緩和が実施されている現在と、利上げが見込まれる来年にかけての適正な長期金利水準はどのくらいか。長期的金利水準としては、名目長期金利を実質GDP成長率(実質利子率)とインフレ期待の合計とするシンプルなフィッシャーの方程式を想定することでその水準を概算できる。9月時点のFOMC委員の経済予測によれば、米国の長期の実質GDP成長率は2.0~2.3%、長期的なPCEインフレ率は2%と予測されている(いずれも中央値)。この予測を前提とするならば、米国の長期的な均衡名目金利は約4%強ということになる。

一方で、2008年の金融危機以来FRBが断続的に実施してきた量的緩和([第1表])が長期金利水準を押し下げている可能性がある。9月17日FOMC後に公表された「金融政策正常化の諸原則と計画」によれば、FRBのバランスシート縮小は主に償還元本の再投資停止による予定で、積極的な国債や住宅ローン担保証券の売却は現状では想定していない(9月21日付当レポート参照)。従って、資産購入停止や利上げの後もFRBの保有する長期国債や住宅ローン担保証券は償還分のみしか減少しないことになる。現在FRBが保有する有価証券約4.2兆ドル(米国債約2.5兆ドル、住宅ローン担保証券約1.7兆ドル)のうち、償還期限が1年以内のものは約80億ドル、5年以内のものも1兆ドル強に過ぎない。つまり、資産購入停止から5年を経ても、FRBの保有有価証券はその太宗が残存する計算になる。FRBのバランスシート規模が長期金利を抑制しているとすれば、その効果は利上げ後も長期間持続することになる。

[第1図]
20141005図1
[第1表]
20141005表1

長期金利の決定要因:期待成長率・期待インフレ率・政策金利

さらに上記の要素に加え、政策金利も長期金利を決定する要素と考えられる。そこで以下ではまず、実質GDP成長率・インフレ期待・政策金利を外生変数とする長期金利の回帰分析を行い、現在の均衡長期金利水準を推計する。その次に、FRBのバランスシート規模を変数に加えて量的緩和が長期金利に与えた影響を考察することにする。

長期金利としては米国債10年物利回りを用いる。外生変数として、実質GDP成長率は四半期毎の前年同期比の伸び率([第2図])、期待インフレ率はフィラデルフィア連銀が四半期毎に実施する”Survey of Professional Forecasters”における民間エコノミストの10年後インフレ率予想の中央値([第3図])、政策金利はFF金利誘導目標の四半期平均値([第4図])をそれぞれ用いた。ちなみに、フィラデルフィア連銀調査による民間エコノミストの10年後インフレ率予想は1998年以降概ね2.5%で安定推移していたが、2009年の金融危機以降やや低下方向に振れる傾向があり、現在では2.25%となっている。

なお、長期金利は現実には今後の成長率・インフレ率・FF金利誘導目標の市場の期待に応じて変動するとも考えられる。ここでは、市場が当該四半期の成長率とFF金利誘導目標を正確に予想できると仮定し、各期の成長率とFF金利誘導目標と実績値を変数として用いることとする。また観測期間は、1992年から金融危機直前の2007年までの64四半期(推計①)と、金融危機後までを含む1992年から2013年までの88四半期(推計①’)の2通りを実施した。

[第2図]
20141005図2
[第3図]
20141005図3
[第4図]
20141005図4

現在の米国債10年物利回りは低すぎる

実質GDP成長率・期待インフレ率・FF金利誘導目標の3つを外生変数とする回帰分析の結果は本レポート末尾の[第1表]の通りである。まず、金融危機の時期を含まない2007年までの観測期間による回帰分析結果([第1表]の①)では、3つの変数がいずれも統計的に有意となり、決定係数(補正R^2)は0.83と、長期金利水準の約83%がこれらの3つの変数で説明可能との結果になった。これらの変数のうちで長期金利水準にもっとも大きな影響を与える要素は長期期待インフレ率である。これにより得られた回帰式をもとに均衡長期金利水準を推計すると(推計値①)、2013年末現在で3.5%との結果になった。推計値①と実績値を比較すると、金融危機以降の期間で実績値が推計値①を下回って推移しているが、2013年以降その格差は縮小傾向にある([第5図])。

さらに推計値①の回帰式を用いて2015年までの長期金利水準を推計したのが[第6図]である。2014年第3四半期以降は、実質GDP成長率を筆者個人の予想値(2015年は各四半期前期比年率+2.5%)、期待インフレ率を2.5%で一定とし、FF金利誘導目標は6月から0.25%ずつ引上げられて年末に1.5%になるとの前提で試算した。結果米国債10年物利回りは2014年末に3.8%、2015年末に4.0%にまで上昇するとの結果になった。

ここからはまず、現在の長期金利水準が成長率・インフレ期待・政策金利から推計される均衡水準よりもかなり低いレベルにあり、しかしその乖離は徐々に解消されつつあるということが言える。従って、2014年末時点の米国債10年物利回り水準は、その推計値である3.8%、またはやや低いところにある3.5%と予想することはこの回帰式からは合理的ということになる(9月23日付当レポート参照)。また来年2015年については、成長率が2.5%で安定しかつFF金利誘導目標引き上げが筆者個人予想通りに実施されれば、米国債10年物利回りは長期の長期金利均衡水準にほぼ近い4.0%にまで上昇することが期待できることになる。なお、同じ3変数で金融危機およびその後の期間を含む2013年までの推計期間による回帰分析では([第2表]①‘)では、実質GDP成長率が統計的に有意な変数とならないため、ここでは推計値として採用しない。

[第5図]
20141005図5
[第6図]
20141005図6

FRBのバランスシートを勘案した分析

次に、FRBの量的緩和効果を勘案した分析を行う。上記推計値①によれば、長期金利の実績値は金融危機以降推計値を下回って推移している。この下方乖離がFRBの量的緩和政策によるバランスシート拡大の効果である可能性が考えらえる。そこで、上記3つの外生変数にFRBのバランスシート規模を加えた4つの外生変数による回帰分析を試みる。FRBのバランスシート残高は金融危機直前に1兆ドル弱であったが、現在では約4.5兆ドルに拡大している。FRBバランスシート残高の対GDP比率は金融危機までは概ね6~7%で安定推移していたが、QE1終了時点で約16%、QE2終了時点で約18%、現在では約26%にまで上昇している。ここでは、FRBのバランスシート規模としてFRBの資金循環統計における「金融当局」部門の資産残高を名目GDPで除した比率を用いる([第7図])。

これらの4変数による分析(推計期間は1992年~2013年)の結果、FRBバランスシートは有意な変数となり、当てはまりも①より良い結果が得られた([第2表]の②)。しかし、上記①’と同様実質GDP成長率が有意な変数とならない。更に、2008年の金融危機以降の期間を見ると実績値は推計値②からかなり大幅に上下に振れており、この推計式が実績をよく説明できているとは言いにくい([第7図])。ちなみに、金融危機以降の2009年~2013年までの20四半期について同じ回帰分析を行っても、決定係数は0.2程度にとどまり、この4変数ではほとんど長期金利水準を説明できないとの結果になった。

従って現在の長期金利の低位安定(推計値①からの下方乖離)は、FRBのバランスシート規模水準の効果によるというよりも、量的緩和のアナウンスメント効果や量的緩和継続期待によるものと考えた方がよさそうだ。

[第7図]
20141005図7
[第8図]
20141005図8

米長期金利は今年末に3.5%、来年末に4%への上昇を予想する

この場合、FRBのバランスシート規模自体が今後数年以上にわたり高水準にあり続けるとしても、それ自体が長期金利を抑制する効果を維持する要因にはならないとの推測ができる。実際[第5図]に見られるように長期金利の実績値がFRBバランスシート要因を含まない推計値に接近しつつあることは、量的緩和拡大継続のアナウンスメント効果剥落により長期金利が均衡水準に回帰しつつあるプロセスだと見ることができる。

ついては、今後の長期金利は推計値①の回帰式に基づく推計値に向かって上昇を継続すると見ておきたい。結果、米国債10年物利回りは今年末に3.5%、2015年末に4%レベルにまで上昇するとの個人予想を維持することとする。なお、8月15日付当レポートで試算したところでは、個人消費の住宅ローン金利に対する弾性値は0.03程度であり(金利水準1割の上昇で個人消費は-0.1%低下)現在約4%の住宅ローン金利が5%に上昇しても、個人消費への影響は約-0.75%程度であり、住宅価格が前年比+5%の上昇を続けることができればこれを十分にカバーできる。S&Pケース・シラー住宅価格指数は伸びが減速しつつも7月時点で前年比+6.7%であり、家計資産価格の上昇は長期金利の相応の上昇にも耐えうる状況ということができる。

この長期金利予想に対するリスクはしかしやや下方にあると言わざるを得ない。一つには期待インフレ率が上記の想定のように2.5%で安定推移しないリスクがあることだ。FRBは2012年1月のFOMCで長期のインフレ目標を2%と定めており、直近のFOMC委員経済予測でも長期インフレ率は2%と予測されている。上記前提の通り民間エコノミストの長期インフレ率予想が2.5%で推移するということは、FRBの目標以上のインフレ高進を民間エコノミストが見る状況になる。実際のインフレ率がFRBの目標水準に安定するかそれ以下であるとの期待を市場が持つ場合は長期金利の上昇は抑制されることになる。次に、来年の経済成長が上記前提ほどに加速しないかまたは利上げペースが筆者個人予想よりも遅くなる(または市場がその様に予測し始める)場合である。特に、来年はFOMCの投票メンバー勢力図がハト派優位方向にシフトする。今年の投票メンバーのうち2名のタカ派委員(フィラデルフィア連銀プロッサー総裁、ダラス連銀フィッシャー総裁)が来年は投票メンバーから外れる(なお、いずれも来年3月~4月に各連銀総裁からも退任の意向を示している)。一方来年は、シカゴ連銀エバンス総裁、サンフランシスコ連銀ウィリアムス総裁の2名のハト派が投票メンバーになるのに対し、投票メンバーに新たに加わるタカ派はリッチモンド連銀ラッカー総裁のみである。

[第2表]
20141005表2

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