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<経済レポート> インフレ期待低下の影響は限定的:FOMC展望

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16-17日に開催予定のFOMC定例会合では、フォワードガイダンスから「相当の期間」の文言が削除され、来年6月からの利上げ開始への地ならしがされると個人的には予想している。一方で、10月FOMCでは市場の期待インフレ率低下に懸念を示す議論がなされたことが議事録から読み取れる。インフレ率はFOMC委員予測を下回るリスクなしとしない指標であるが、需給ギャップの縮小で今後インフレ率は再上昇し、予想通り利上げは開始されると考える。

12月FOMCでは「相当の期間」削除を予想:テイラー・ルールは利上げ時期前倒しを示唆

12月16-17日にFRB公開市場委員会(FOMC)定例会合が開催される。12月会合は資産購入終了を決定した10月会合以降初の定例会合でありまた今年最後の定例会合、さらにFOMC委員の経済予測改訂及びイエレン議長記者会見を伴う注目度の高い会合となる。筆者個人は、12月会合で現在のフォワードガイダンス「0-0.25%のFF金利誘導目標レンジを資産購入終了後も相当の期間維持することが適切である可能性が高い」が改訂され、少なくとも「相当の期間」の文言は削除されると予想している。また、FOMCは来年6月の定例会合で初回の利上げを決定すると予想している(11月3日付当レポート参照)。

「相当の期間」文言削除予想の理由は2点ある。一つは、10月に資産購入が既に終了した後の一定の期間(3月19日FOMC後のイエレン議長の記者会見質疑応答発言によれば約6ヶ月)を「相当の期間」と表現していると見做すならば、その期間は時間とともに短縮してくためいずれはこの文言は修正されねばならないことである。次に、11月19日に公表された10月FOMCの議事要旨によれば「相当の期間」の文言の存置如何についてはかなりの議論がされており、いくらかの(some)参加者が「相当の期間」文言の削除を志向していることだ。これらの参加者は「こうした表現は委員会の決定がデータに依存しないとの誤解を招く可能性」を懸念している。しかし他の参加者はこの文言が政策意図を表現にするのに有用であるまたは委員会の決定はデータ依存であるとの他の文言を加えるのがよい、とした。英イングランド銀行の分類に倣えば、「相当の期間」というフォワードガイダンスは「オープンエンドガイダンス」に相当するあくまで定性的なガイダンスである。しかし現実には上記の通りこれが一定の期間を示す「時間条件ガイダンス」と現在の市場が見做している可能性が高い。これを回避するためにも、同文言の削除は妥当とFOMC内でも結論される可能性は高そうだ。

来年半ばの利上げ開始予想は、インフレ率と需給ギャップに関するこれまでの実績と今後の筆者個人予想をテイラー・ルールに当てはめた結果で推測できる。ここで改めてテイラー・ルールによる適正政策金利推計をアップデートしてみる。[第1図]はテイラー・ルールによるFF金利誘導目標の適正水準を推計したものである。ここではイエレン議長に倣いテイラー・ルールを2通り設定した注1)。一つは「1993年テイラー・ルール」と議長が呼ぶもので、政策金利決定要因としてのインフレギャップと需給ギャップを同等に勘案するジョン・テイラー氏本来のテイラー・ルールである。もう一つは「1999年テイラー・ルール」とイエレン議長が呼ぶもので、政策金利決定に当たり需給ギャップをより重視するようにパラメーターを同議長が変更したものである。イエレン議長はそのリベラルな背景からインフレ率よりも需給ギャップ(特に労働市場の余剰)を重視する立場をとっている。同じインフレ率・需給ギャップの場合、1999年ルールの方が適正な政策金利水準は低めに出る。試算の結果、現在(2014年10-12月期時点)の適正FF金利は1993年ルールで2.1%、1999年ルールで0.6%となった。オリジナルのテイラー・ルール1993年では現在で既にゼロ金利政策が終了していてしかるべきとの結果であるのに対し、イエレン議長が採用する1999年ルールの場合、現在ようやくゼロ金利解除が正当化されることになる。いずれにしても、イエレン流のテイラー・ルールにおいてすら現在かかなり近い直後の時期の利上げが正当化されることになる。なお直近2四半期の成長率が予想を上回るものだったことから、従前の試算(8月24日付当レポート参照)に比べて1999年ルールによる適正な利上げ時期は2四半期ほど前倒しになっている。筆者は現在初回利上げを2015年6月会合と予想しているが、テイラー・ルールからはこの時期は前倒しも正当化可能ということになる。ちなみに、2015年末の適正なFF金利誘導目標は、1993年ルールの場合3%、1999年の場合2%と計算される。

[第1図]
20141207図1

成長・雇用は前回会合以降も好調、インフレ率は下振れリスクの可能性も

10月定例会合以降の経済指標も好調である。10月FOMC以降に公表された7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.9%(改定値)と、前期の同+4.9%に続く強い伸びをしめした。筆者個人の予想では、10-12月期の実質GDP成長率の前年同期比の伸び率は+2.4%となる見込みである。これは9月時点のFOMC委員経済予測における2014年成長率予測(10-12月期前年同期比)の中心傾向である+2.0~+2.2%を優に上回る水準ということになる。

雇用市場も10月FOMC以降順調な拡大を続けている。11月非農業部門雇用者数は前月比+321千人と雇用増加ペースが大きく加速した。11月時点の失業率は5.8%と、9月時点のFOMC委員予測中心傾向(5.9~6.0%)を既に下回る水準に改善している(12月6日付<経済指標コメント>参照)。労働市場の余剰を表す指標も改善を続けている。11月の「経済的理由によるパートタイマー」数は6850千人と、2008年10月以来初めて7000千人を割り込む水準に減少した。27週以上の長期失業者数は11月時点で2815千人と4ヶ月連続で3000千人を下回りかつ4ヶ月連続で減少している。10月FOMC声明文での「労働市場の余剰は低減しつつある」との状況は10月以降も妥当しているといえる。なお、11月の労働参加率は62.8%と引き続き低水準にとどまり、また時間当たり賃金上昇率も前年比+2.2%と伸び悩んでいる。しかし、労働参加率低下は循環要因というよりむしろ構造要因である可能性が高く、また時間当たり賃金は今後失業率低下に遅行して上昇ペースを速めると個人的には考えている。

一方で、インフレ率についてはやや懸念なしとしないのが実情である。10月FOMC声明文では「市場のインフレ期待指標はいくぶん低下し、調査に基づく長期インフレ期待は安定を続けている」との新たな文言が挿入され、労働市場に対する判断改善に替えて低インフレ率に対する配慮が示された。FOMCがインフレ指標とする個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は10月時点で前年比+1.4%と、10月FOMC委員経済予測の中心傾向1.5~1.7%を下回っている([第2図])。筆者個人は年末時点のPCEデフレーターの伸び率が前年比+1.7%にまで再加速し、来年いっぱいはFRBが目標とする同+2%レベルで推移すると予想して上記のテイラー・ルール推計の前提としている。総合PCEデフレーターの伸び率が低下から横ばいに転じ、またコアPCEデフレーターの伸び率が拡大に転じていることからは、食品・エネルギーを除く消費者インフレ率は一旦底入れしたと見られる。しかしながら、外部環境は原油価格の下落が依然止まらない状況で、今後のインフレ率反転上昇見通しには下方リスクが出てきている可能性もあると言わざるを得ない。同時に市場の期待インフレ率も原油・商品価格下落に伴いここ何ヶ月かで低下傾向にある。

[第2図]
20141207図2

市場の期待インフレ率の低下が10月会合で議論になった

インフレ率なかんずく期待インフレ率については、10月会合でもさまざまな議論がなされた。10月FOMC議事要旨によれば、ほとんどの参加者は「インフレ率は石油ほかの商品価格と輸入物価の低下により短期的には低下する」ものの「インフレ期待の安定の中、資源余剰の逓減とともに中期的には委員会の2%目標に回帰する」と予想している。しかしながら一方で、「調査によるインフレ期待は安定している」が「今後5年間、及び5年後に始まる5年間の市場のインフレ期待は前回会合以降低下した」ことが10月FOMCでの議論になっている。実際、5年物米国債利回りと5年物物価連動米国債の利回り差(TIPSスプレッド)から算出される期待インフレ率(BEI)は、5年後で約1.5%、5年後スタートの5年後(5年先5年)で約2.3%となっており、これらは今年の7月をピークに低下傾向にある([第3図])。

市場のインフレ期待低下の背景については10月FOMCでは様々な意見が出された。議事要旨によれば、ある意見は「インフレリスク確率の低下や物価連動債の流動性を反映したインフレリスクプレミアムの低下」をその背景として挙げた。またある意見は「市場のインフレ期待がインフレリスクプレミアムの反映であってインフレ期待低下の反映ではないとしても、こうした変化が、低インフレを伴う経済減速の悪い結果についての投資家のコンセンサスの拡大を反映している可能性があることから、政策当局はこうした変化を勘案するべき」との意見があったとされる。総じて、TIPSスプレッドに表象される市場のインフレ期待が、単に市場流動性や需給の反映と見るか、それとも実体経済における期待インフレ率を反映したものと見るかで意見が分かれているということができる。

一般に、TIPSスプレッドに表される期待インフレ率(BEI)は、米国債や物価連動国債の短期的・中期的な需給に左右されることが多いため、厳密に市場の期待インフレ率を表しているとは限らない。従って筆者自身は、インフレ率決定要因として期待インフレ率を変数に用いる際はTIPSスプレッドではなく、ミシガン大学消費者センチメント調査における12ヶ月後の消費者期待インフレ率を用いている(10月26日付当レポート参照)。もっとも、ミシガン大調査における期待インフレ率もここ3ヶ月間は低下傾向にある([第4図]。こうした環境からは、インフレ期待の低下が将来のインフレ率上昇を抑制する要因になる可能性なしとはしないことになる。

[第3図]
20141207図3
[第4図]
20141207図4

インフレ率が2%に向けて再上昇するとの予想を維持する:需給ギャップ縮小が要因

しかしながら、筆者個人は引き続き米国の消費者インフレ率が、年末から来年にかけて2%のFOMC目標値に向けて上昇していくとの見方を維持しておきたい。筆者個人の見方は上記議事要旨に見られるFOMCの多数意見に近く、需給ギャップの縮小がインフレ率上昇の主要因と考えるものである。10月26日付当レポートの分析によれば、インフレ率に与える影響は需給ギャップの方が期待インフレ率よりも大きい。同分析によれば、マイナスの需給ギャップ+1%の縮小はインフレ率を約+0.12%押し上げる効果がある。実際に、2014年7-9月期の需給ギャップ-3.4%は前年同期に比べて+0.8%縮小している。現在の米国の潜在成長率が2%弱であることを考えれば、今後米経済が潜在成長率を上回るペースで成長し、需給ギャップが縮小していくことは計算上も可能である。これに対し同分析では、期待インフレ率-0.1%の低下はインフレ率を高々-0.02%程度押し下げるに過ぎない。期待インフレ率の変動幅からみても、需給ギャップの縮小によるインフレ押し上げはインフレ期待低下による押し下げ効果を上回る可能性が高いのである。

従って、インフレ率についても現在のFOMCの多数意見である「中期的には2%目標に回帰する」が12月定例会合でも維持されるとともに、来年6月定例会合で最初の金利引上げ決定、その後定例会合毎に0.25%の利上げが行われ、2015年末にはFF金利誘導目標レンジが1.25-1.50%に引き上げられるとの予想を維持したい。実際、FOMC委員の中でハト派に属するNY連銀ダドリー総裁ですら、12月1日の講演で「利上げが2015年半ばに実施されるとの市場の期待は私には合理的に見える」「私の見方は10月FOMC会合前にNY連銀により実施されたプライマリー・ディーラーと投資家に対する調査と大きく違わない」として市場の期待を容認する発言をしている注2)

上記予想に対するリスク要因は、市場や調査によるインフレ期待の低下が更に進行して実際のインフレ率を予想以上に低下させることのほか、原油・商品価格の更なる低下が考えられる。更に最近の傾向として、金利格差拡大期待からくるドル高傾向がある。ドル高は輸入物価の低下の形で国内のインフレ率を抑制する効果がある。米国の輸入物価は、石油関係を除けばまだ上昇基調からピークアウトの兆しがみられるに過ぎない([第5図]。しかしながら、今後ドル高の効果が徐々に顕在化することによって、輸入物価が更に低下に転じる可能性なしとはしない。輸入物価の上昇は交易条件の好転という形で企業収益にはプラス効果となるが、インフレ目標達成に対してはネガティブな要因とならざるを得ないだろう。

[第5図]
20141207図5


注1) テイラー・ルールの一般的等式は以下:
      it=2+πt+α(πt-π*)+β(yt-yt*)
itは適切な政策金利、πtはインフレ率実績、π*はインフレ率目標、ytはGDP実績、yt*は潜在GDPである。ここでは、インフレ率としてPCEデフレーターの前年同期比の伸び率を用い、2015年1-3月期にこれが2%に達したのち2015年いっぱい2%で推移すると前提する。インフレ率目標は2%とする。GDPについては、2014年10-12月期は筆者個人予想、2015年は3%成長と前提する。潜在GDPは米議会予算局の8月時点の推計値を用いる。係数をα=0.5、β=0.5とするのが1993年テイラー・ルール、α=0.5、β=1.0とするのが1999年テイラー・ルールである(2012年6月6日イエレンFRB副議長(当時)講演Janet L. Yellen, “Perspectives on Monetary Policy”, June 6, 2012)。

注2) NY連銀による「プライマリー・ディーラー調査(2014年10月)」によれば、利上げ開始時期としてプライマリー・ディーラーの28%が2015年4-6月期を、25%が同7-9月期を予想、利上げ時期予想の中央値は2015年6月だった。また「市場参加者調査(同)」によれば、投資家の32%が2015年7-9月期の利上げ開始を予想、利上げ時期予想の中央値は2015年7月だった。
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