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<経済レポート> 消費と交易条件にメリット:原油価格と米経済

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原油価格の急落の要因はエネルギー需給の悪化と米ドル為替レート上昇と考えられる。現在の需給環境とドル上昇が継続すれば原油価格は更に下落すると試算される。一方原油価格下落は、個人消費拡大や交易条件の好転を通じネットでは米国経済にプラスの効果をもたらす。期待インフレ率の低下はリスク要因であるが、成長加速による需給ギャップ縮小がこれを相殺し、コアインフレ率は安定的に推移すると見る。

需給要因では50ドル割れの原油急落は説明できない

原油価格(WTI先物)は1月初めに1バレル=50ドルを割り込むまでに下落し、リーマンショック後の2009年以来の低水準となった。ガソリン価格も同様に、昨年12月には1ガロン=3ドルを割り込んで2010年以来の低価格となっている。原油価格やガソリンなどエネルギー価格下落はインフレ率低下を通じて個人消費の拡大ペースを加速させるほか、原材料価格の低下により輸入企業にはプラスの貢献となるだろう。一方で、エネルギー産業にはマイナスの影響を与えるほか、インフレ率がFRBの目標である2%から大幅下方乖離してデフレ圧力が経済に悪影響を与えるリスクもある。イエレンFRB議長は昨年12月17日FOMC定例会合後の記者会見で「米国経済見通しの観点からは原油価格の下落はネットでプラス」と述べており、筆者も同様に考えている。当レポートでは原油価格下落の背景とこれが米国経済に与える影響を分析する。

まず、原油価格を決定要因で回帰分析することにより原油下落の背景と今後の動向を試算する。今回の原油価格急落は主に供給側の要因とされている。昨年11月27日に、石油輸出国機構(OPEC)が原油価格低下にもかかわらず減産を行わないことを決定したことがその後の急落の原因とされる。WTI原油先物価格は11月下旬まで1バレル=70ドル台で推移していたが、上記のOPEC決定後に急落し、約1ヶ月で-20ドルを超える下落を示した。

原油市場の需給を表す指標として、米エネルギー情報局(EIA)が集計する「世界のネット石油在庫増減」(EIA「短期エネルギー見通しShort Term Energy Outlook」2014年12月)と原油先物価格とを比較してみよう([第1図])。これによれば、原油価格と石油需給の間には相応の連関がある。しかし、現在の原油先物価格50ドル割れは需給要因に比較するとかなり下げすぎの感がある。IEAの推計によれば現在石油需給は供給超過(ネットで在庫が増加)の状況にあるが、その水準はリーマンショック後に比較するとかなり小さい。またリーマンショック後は金融危機により世界経済が大幅な後退局面にあった。これに比べれば現在の石油需給や経済状況は遥かに好環境にある。にも拘わらず金融危機並みの原油価格急落が起きていることには別の要因があると考えられる。

[第1図]
20150112図1

ドル高要因が続けば原油価格は40ドルにまで下落も

原油価格の下落を招いているもう一つの要因がドル高である。他国に比べて大幅に加速している米経済成長率や、FRBの量的緩和終了及び今年の利上げ開始観測から、米ドル為替レートは、1ドル=120円レベル、1ユーロ=1.2ドル割れと急伸している。FRBの推計する貿易加重平均対広域通貨米ドルレートインデックス(名目)は1月2日現在で111.8ポイントと、2010年の欧州財政危機によるユーロ安局面を上回り、2005年のFRB利上げ開始時期における円安・ユーロ安・ドル高局面に迫る水準となっている。[第2図]は米ドル為替レートと原油先物価格の関係を見たものである。これによれば、現在のドル高水準からは金融危機後並みの原油安も説明できそうだ。

世界の石油在庫ネット増減と米ドル為替レートとを説明変数として原油先物価格を回帰分析した結果が[第1表]である。いずれの変数も統計的に有意で原油先物価格の変動を約75%説明できるとの結果になった。これによれば、たとえば米ドル為替レートの1%の上昇は原油先物価格を約3.5%押し上げる計算になる。

更に、上記で得られた回帰式に基づき、2015年の原油先物価格見通しを試算したものが[第3図]である。前提として、石油在庫増減はEIAの12月時点の予測を用いた。EIAは、2015年も石油は供給超過が継続し、世界の石油在庫は2015年第3四半期にかけ最大1日当たり0.84百万バレル増加ののち、第4四半期に需要超過に転ずると予測している。米ドル為替レートは筆者の個人予想に沿って2015年末にかけ現状から約3%ドルが増価すると想定した。結果、原油先物価格は2015年中もややペースを落としながらも下落傾向が続き、2015年末には1バレル=40ドルレベルにまで下落するとの試算になった。これらからは、原油価格は今年いっぱいインフレ抑制要因となり続ける可能性が高いといえる。

[第2図]
20150112図2

[第1表]
20150112表1



[第3図]
20150112図3

インフレ率1%の低下は個人消費を0.3%押し上げる

次に、原油価格下落の個人消費への影響を考える。消費者物価指数(総合指数)の伸び率は昨年11月現在で前年比+1.3%にまで低下している。筆者試算によれば、実質個人消費の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)に対する弾性値は約-0.3である(2014年12月14日付当レポート参照)。つまり消費者インフレ率の-1%の低下は実質個人消費を約+0.3%押し上げることになる。筆者個人の2015年米経済成長率予想では、PCEインフレ率を保守的に2%での推移と前提している。従ってインフレ率がこれを1%下回る前年比+1%レベルで推移するならば、実質個人消費はこの予想を約+0.3%上回り、実質GDP成長率を約+0.2%上ブレさせる要因となる([第4図])。

今後原油先物価格が上記の試算の通り今年末に40ドルレベルまで下落すると、原油価格の伸び率は今後前年比約-50%となる計算になる。原油価格下落率のうち消費者エネルギー価格へ転嫁される比率を約半分の-25%とし、消費者物価指数におけるエネルギーのシェア(100分の8.886)を勘案すると、原油価格下落は消費者インフレ率を約-2.2%押し下げる計算になる。計算上はエネルギーを除く消費者物価指数の上昇を勘案しても、2009年同様に総合消費者物価指数の前年比の伸び率は一時的にマイナスになる可能性がある。

現実には、原油市場は今後需給調整などの実施によりIEAの予測よりも需給が好転する可能性が高いと見る。需給要因が好転すれば米ドル為替レートが上昇しても原油価格は50ドルレベルでいったん底入れする可能性が高いのではないか。筆者個人の予想としては、消費者インフレ率は大きく変動するものの、PCEデフレーターベースで前年比+1%~1%台半ばで推移するとの見方を維持しておきたい。上記の2%インフレ率を前提とした実質個人消費予想との差分は上方リスク要因とする。もっともインフレ率が大幅に低下すると賃金上昇率が伸び悩むことでインフレ率低下を相殺する可能性もあることには留意しておく必要がある。

[第4図]
20150112図4

交易条件の好転を通じ総合的には企業部門にも有利と見る

次に企業部門への影響につき考察する。原油価格下落は原油のネット輸入国である米国にとり原油価格下落はネットでプラス影響となるはずである。まず輸入物価と輸出物価の推移を見てみよう。米国の輸入物価のうち値動きの大きい品目は石油製品、輸出物価のうち値動きの大きい品目は農産物である。経験則ではこれらを合わせた指数の変動は輸入物価指数の方が輸出物価指数よりも大きく、原油価格下落局面で輸入物価指数が低下するペースは、輸出物価指数低下ペースよりも大きい([第5図])。つまり、米国は原油価格下落局面においては輸出・輸入価格の差(交易条件)のメリットを享受できる立場にあるわけだ。もっとも最近は、輸出入物価指数は世界的なデフレ傾向からいずれも前年比ゼロに近い水準で推移しており、ここからは交易条件の好転は顕著ではない。

しかし、企業景況感調査からは、原油価格下落もしくはドル高による交易条件の好転の兆しがみられる。フィラデルフィア連銀製造業景況感調査における、支払価格DIと受取価格DIの推移を見ると、支払価格DIが昨年夏以降急激に低下しているのに対し、受取価格DIはインフレ率低下にもかかわらずむしろ上昇基調にある([第5図])。支払価格DIから受取価格DIを差し引いて算出した交易条件は、過去半年間上昇傾向にあり、2009年の原油安・ドル高局面以来のプラス水準にまで後一歩まで迫っている。以上より、米企業全体ではドル高を伴う原油価格下落は交易条件の好転という形でメリットとなるといえそうだ。

一方、貿易収支においては原油安・ドル高は貿易赤字拡大要因と言わざるを得ない。ドル高による輸出への悪影響と、物価安による輸入の増加は、米国内需の拡大加速と相まって貿易収支赤字を拡大させる要因である。現在のところまだこの傾向は顕著ではないものの、輸出の鈍化と輸入の回復は統計にもその兆しがみられる([第7図])。

[第5図]
20150112図5

[第6図]
20150112図6

[第7図]
20150112図7

インフレ期待低下は需給ギャップ縮小で相殺される

最後に、インフレ期待を通じたインフレ率への影響を見る。原油価格下落を契機に市場の期待インフレ率は低下ペースを速めている。10年物米国債利回りと10年物インフレ連動米国債利回りの差であるTIPSスプレッドは昨年12月現在で約+1.7%と、3ヶ月前の同9月の+2.1%から約-0.4%も低下した。ミシガン大学消費者センチメント調査における12ヶ月後の期待インフレ率は昨年12月調査で+2.8%と、同9月比-0.2%低下している。

しかし、現在のところ期待インフレ率の低下を通じたインフレ率実績への影響は限定的と見ておきたい。ミシガン大学調査の期待インフレ率と需給ギャップを説明変数とする回帰式によれば、コアPCEデフレータの前年比の伸びは現状でも約+1.7%が適正であるとの結果になっている([第8図])。期待インフレ率が低下する一方で、成長率の加速によりマイナス需給ギャップが急速に縮小していることで、適正なインフレ率はほぼ従前と同じ水準を維持している。原油価格変動により総合インフレ率は低下または低位にとどまる可能性が高いものの、食品及びエネルギーを除くコアインフレ率は需給ギャップの縮小が底支えする形で今年も1%台後半で推移するとの見方を維持する。

なお、筆者はインフレ率推計の際の期待インフレ率にミシガン大学調査におけるいわゆる「サーベイ・ベース」の数値を使用している。米国債のTIPSスプレッドに表れる「市場ベース」のインフレ期待は、FOMC声明文も指摘する通りサーベイ・ベースのインフレ期待よりも低下ペースが大きいことには留意しておくべきであろう。またFOMCでは、期待インフレ率低下の理由につき様々な議論がなされているものの(昨年10月、及び12月FOMC定例会合議事要旨)意見にはばらつきがあり、今後も継続審議とされている。こうした市場ベースの期待インフレ率急低下は、インフレ実績安定との見方に対するリスク要因といえる。

[第8図]
20150112図8

訂正) 1月18日に[第1表]ほか関連する記述を訂正しました。誤)(IEA調査による)「世界の石油在庫増減」→正)「OECD加盟国の石油在庫増減」
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