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<経済レポート> 孤高の超然主義:米大統領一般教書演説

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オバマ米大統領の一般教書演説は、共和党等への名指し批判は抑えたものの、経済政策の内容は従前同様のリベラルな内容であった。大統領・議会の対立は容易には解消しそうにない。米国経済が自立的拡大ペースを速めていることで政治対立の悪影響は相対的には小さいといえる。ただ、原油価格下落や海外経済要因が米国経済に悪影響を与えた場合は政治のグリッドロックのリスクが顕在化する可能性もある。

名指し批判は影をひそめるも政策は依然リベラル

オバマ米大統領は20日、米議会で2015年の一般教書演説を行った。これは同氏の大統領として7回目の一般教書演説である(1期目就任直後の上下院合同会議演説を含む)。オバマ大統領はリーマンショック直後の2009年に就任、1期目の4年間はほぼ金融危機対応とそれに伴う雇用対策、そして医療保険制度改革(オバマケア)が主な論点であった。2011年の中間選挙ではしかし、下院で共和党が民主党を逆転して過半数議席を獲得し、以後オバマ大統領はねじれ議会と相対することになる。2013年からの2期目には共和党議席は更に拡大した。

オバマ大統領の演説は当初就任時からリベラルな民主党の党派色が強く、共和党・富裕層・金融機関に対する名指し批判もしばしばであった。なかでも民主・共和両党の対立が最も先鋭化した例が、共和党が下院を制した2012年から翌13年にかけての所謂「財政の崖」問題である。2期目における最初の2013年一般教書演説は、主に財政の崖問題につき自動歳出削減の回避を訴えるとともに、予算案を可決しない共和党を名指し批判するなど、大統領演説も先鋭化した。しかしその後、2014年は経済の回復を反映して、また下院議会多数派の共和党への配慮からか、一般教書演説自体が穏当なものにとどまり、あまり見るべきもののない内容となった。

今年2015年の一般教書演説ではさらにその傾向が進んだ。2014年の中間選挙では下院に加え上院でも共和党が過半数議席を獲得し、議会は完全に共和党が制する状況になった。かかる中、20日の演説では共和党などへの名指し批判は影をひそめ、経済政策についても昨年に続き具体性に欠ける表現にとどめている。しかしながら、今年の一般教書演説に示された経済・財政政策は引き続きリベラル色の強く、かつ従前の政策と基本変わるところがない。共和党議会を前にしてもなお政策内容では妥協しないというスタンスだといえる。

経済政策は従来比特段の新味なし:中間層減税・最低賃金引上げ・税の抜け穴解消

オバマ大統領は演説の導入部分で「危機の影は去った、米国は強い国家である」と述べ、2015年を米国の成長拡大へのジャンプスタートjumpstartと位置づけた(因みに昨年の演説では2014年をブレークスルーbreakthroughと位置づけていた)。次に個別政策部分においては経済政策を最初におき、「ミドルクラスの経済Middle-Class Economics」をその標語とした。総じて政策の内容は、従来の雇用重視・ミドルクラス重視・富裕層及び大企業課税拡大路線から不変である([第1表])。経済政策としては、オバマ大統領が従来から提案を繰り返している、ミドルクラス(中間層)税優遇拡大と、連邦政府の定める最低賃金の引き上げが今年も登場した。ただ、中間層への税優遇について演説では児童税優遇年間3000ドルのみを具体的数値として挙げるにとどまった。

また連邦政府の定める最低賃金引上げについても従来は具体的な数字を挙げていたが今回はそれを示さなかった。連邦政府の定める最低賃金はオバマ政権下の2009年に現行の時間当たり7.25ドルに引き上げられて以来改正されていない。米国では連邦政府の定める最低賃金と各州の定める最低賃金の高い方が最低賃金として適用される。各州の最低賃金を連邦政府の定める7.25ドルより高く設定している州が現在29州およびコロンビア特別区、同額の州が14州、低く設定する州が2州ある。うち最も高い最低賃金を定めているのがコロンビア特別区の9.50ドル、次いでワシントン州の9.47ドルである。オバマ大統領は昨年連邦最低賃金を10.10ドルへの引上げを提案したものの、これはすべての州で最低賃金が上昇することを意味することからいまだ立法に至っていない。

またオバマ大統領は従来同様に、税制の簡素化と富裕層の税の抜け穴の解消を提言している。富裕層の税の抜け穴解消について大統領は、一般教書演説に先立ち17日に具体案を公表していた(後述)にも関わらず、演説では具体的な内容には触れなかった。結果この政策についても演説内容は抽象的なものにとどめている。他にオバマ大統領はコミュニティカレッジの無償化というこれだけは目新しいがしかし実現可能性の低い提言を行った。

[第1表]
20150125表1

税制改正案詳細:相続税改正・キャピタルゲイン税率引上げ・大手金融機関外形標準課税

オバマ大統領は、20日の一般教書演説に先立つ17日に「ミドルクラス家庭に確実に投資するより簡素で公平な税制A Simpler, Fairer Tax Code That Responsibly Invests Middle Class Families」と称する政策概要を公表している。ここには上記の中間層税優遇や富裕層の税の抜け穴ふさぎのより具体的な内容が示されている。さらには大手金融機関に対する外形標準課税も提言されている([第2表])。オバマ大統領の政策のリベラルさと共和党への対決姿勢は演説そのものよりもむしろこの政策概要に表れているといえるだろう。

ここで目玉とされる政策はまず、富裕層の相続財産課税ベースの”Step-Up”廃止である。現行税制では、相続した資産を直ちに売却した場合その売却価格が相続価格とみなされる(つまり相続人にキャピタルゲインが発生しなかったと見做される)。これは富裕層に有利な抜け穴としてこれを廃止しようとの提言である。次に、大統領はキャピタルゲインと配当への連邦最高税率を28%にまで引き上げることを提言している。現行の連邦キャピタルゲイン税制では、長期のキャピタルゲイン所得の最高税率を20%(所得200千ドル以上の世帯はさらに3.8%のメディケア寄与課税)としている。このキャピタルゲイン課税率は、同額の所得税率比低いことから富裕層やヘッジファンドなどに有利な税制とされてきたものである。更に同税制概要では、総資産500億ドル以上の銀行に対する外形標準課税をも提言している。中間層への税優遇については従来のオバマ大統領の政策同様に、共働き世帯への税還付、児童をもつ中間層への税優遇などが中心となっている。

これらの税制改革案は、これまでのオバマ大統領の政策を引き継いだもので、共和党の賛同を得られる可能性が極めて低いものばかりである。オバマ大統領の一般教書演説に対し、野党共和党は従来通りに直ちに反対の立場を表明した。共和党のベイナー下院議長は同日の声明で「大統領の提言は増税、大きな政府、そして何より中間層支援に失敗したこれまでの手法と同じである」と述べた。

[第2表]
20150125表2

共和党議会には受け入れられにくいオバマ政策:大統領・議会の対立は継続の見込み

共和党多数の議会に対して先鋭化した直接的批判を避けつつも、議会の反対を承知でリベラルな民主党政策を語るオバマ大統領のスタンスは、孤高の超然主義ともいうべきものである。演説で言及された政策の中共和党と共同歩調がとれる可能性があるのは、環太平洋パートナーシップ(TPP)に関する大統領の貿易促進顕現付与程度である(1月20日付WSJ)。富裕層増税やキャピタルゲイン増税はいずれも共和党のスタンスとは相いれない(もっとも2013年1月に成立したいわゆる「財政の崖回避法」では所得450千ドルを超える世帯の所得税率を35%から39.6%に引き上げる法案が共和党の一部の賛成で可決されたという例はある)。さらに大手金融機関への外形標準課税に至っては、オバマ大統領が2010年1月に提唱した「金融危機責任手数料」案の再来を思わせるものである。いずれも共和党議会での成立の可能性は極めて低いといえるだろう。

一方で共和党も、オバマ大統領の政策への明確な対案を示しているわけではない。上下院で多数を握った共和党は、今年からは民主党の法案ブロックのみならず、能動的な議会多数派としての立法をなすべきであろう。さもなくば米議会は引続き低生産な議会であり続ける可能性が高い(2012-13年の第112回米議会で成立した法案は283本、2013-14年の第113回米議会で成立した法案は296本と、それぞれ戦後の米議会の歴史でワースト1位、2位である―CNBC調べ)。なお、G.W.ブッシュ元大統領の副補佐官だったカール・ロウブ氏は、21日付WSJ紙への寄稿で「共和党はオバマ大統領の政策による空白を、税制簡素化・規制緩和・エネルギー国内生産拡大・歳出抑制・政府債務管理・通商拡大・給付金見直しを行い中間層に焦点を絞る頑健で成長志向のアジェンダで埋めるべきだ」と述べている。

米国経済は現在好調に拡大ペースを加速させており、経済を巡る緊急の課題が目の前にあるわけではない。米経済は自立的な持続的成長が可能な状態にまで回復しており、大統領対議会の対立構造が経済に与える悪影響は金融危機以降のこれまでに比べれば小さいといえる。一方、税制・財政改革が急がれる局面があるとすれば、原油価格下落によるエネルギー産業等への悪影響、また欧州や中国など海外の経済悪化が外的ショックとして米国経済に影響を及ぼす場合である。こうした場合には政治のグリッドロック状態のリスクが顕在化する可能性がある。

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