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<経済レポート> ハト派の巻き返し:1月FOMC議事要旨

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1月FOMC会合の議事要旨は、多くの参加者がゼロ金利の長期化に傾いているとの記述があるなど予想外にハト派的な内容だった。また原油価格下落によるインフレ率低下も利上げ後倒しのリスク要因となりうる。しかしながら、成長加速による需給ギャップの縮小を背景に年半ば利上げは正当化可能とみて、6月利上げ開始との個人予想を維持する。モデルによるインフレ率推計やテイラー・ルールも年内利上げ開始を依然支持している。

多くの参加者はゼロ金利長期化に傾いた

18日に公表された1月27-28日のFRB公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によれば「多くのmany参加者は、彼らの金融政策正常化開始時期に関するリスクのバランスの評価が、FF金利を実質的な下限により長期間維持する方向に傾いていると表明した」とされた。これはFOMC内の議事がややハト派方向に移行しつつある可能性を示唆するものである。本レポートでは同議事録の内容から、今後のFRBの金融政策の方向を占うこととする。

1月議事要旨の内容に先立ち、昨年10月FOMCでのQE3終了決定以後のFOMC声明文のフォワードガイダンスの推移を見ておく。資産購入終了が決定された10月会合では声明文のフォワードガイダンスが「相当の期間」に維持されたが、次の12月声明文ではこれが「忍耐強くいられる」に変更された(2014年12月23日付当レポート参照)。その後1月声明文では「忍耐強くいられる」とのフォワードガイダンスが維持された([第1表])。また資産購入停止を決定した10月には原油価格の下落が始まっており、10月声明文では「市場のインフレ予想指標はいくぶん低下し、調査による長期インフレ期待は安定したままである」と市場のインフレ期待に初めて言及がなされた。また12月声明文では、従前の「インフレ率が持続的に2%を下回って推移する可能性はいくぶん低減した」との文言が削除され、代わって「委員会はインフレの動向を引き続き注意深く監視していく」との文言が追加された。またインフレ率とインフレ率の低下については様々な議論が交わされていた。10月、12月の議事要旨からは「5年間及び5年先スタートの5年間の市場ベースの期待インフレ率の低下」につき様々な意見があったことが読み取れる(2014年12月7日付当レポート参照)。

なお、フォワードガイダンス「忍耐強くいられる」が維持された1月声明文は、12月声明文に比べて他にも本質的な変更はなく「経済活動が堅固なペースで拡大している」と経済の基調判断が従来の「適度なペース」から上方改訂されたことと、「インフレ率は短期的には更に低下すると予想される」とインフレについての基調判断がやや下方修正されたことが主な変更点であった。

[第1表]
20150222表1

コアインフレ率・賃金上昇率・市場予想インフレ率が議論された

1月FOMC議事要旨によれば、最も議論に多くの時間が割かれたと見られるのがインフレについての議論であった。そこでは主に、「インフレ率」「時間当たり賃金」「市場ベースの予想インフレ率」の3つの観点から議論がなされている。第1にインフレ率につき「多数の参加者はインフレ期待が安定している限りはエネルギー価格の下落はインフレ率全体に持続的な影響を与えない」と見ている。また数人の参加者は「エネルギー価格を除いたインフレ指標もここ数ヶ月低下しているが、これは輸入物価下落やエネルギー価格低下の非エネルギー品目への転嫁を含む一時的な要因」と述べている。総じてエネルギー価格下落について参加者はインフレ見通しに影響を大きな影響を与えない一時要因と見ている模様である。特にエネルギー価格下落がコアインフレ率に与える影響は限定的との意見は、これまでの当レポートでの見方とも一致している。

第2に賃金について、「何人かの参加者は、名目賃金の伸びの弱さは総合及びコアインフレ率が2%の委員会目標に回帰するのにより長期間かかることを示唆している」とのべた。一方で「2~3人の参加者は、名目賃金は物価上昇率の将来の挙動にほとんど有効な情報とならない」としている。また参加者は、失業率上昇時に賃金が十分に下方に調整されなかったため、これによる積み上がり賃金デフレ(pent-up wage deflation)が景気回復期の賃金上昇を抑制している可能性を議論し、この場合間もなく労働市場ののりしろと整合的な形で賃金上昇率ペースは高まるはずとした。そして、ほとんどの参加者は「資源ののりしろの減少の継続がインフレ率の2%への回帰を助ける」と予想した。当レポートでは賃金についてもこのFOMCでの議論と同様の見方をしている。「積み上がり賃金デフレ」の存在は明瞭ではないが、失業率低下に遅行して間もなく時間当たり賃金上昇ペースは加速すると個人的には見ている。なお、やや興味深いのは2~3名の参加者が言及した賃金上昇率とインフレ率の関係である。過去の両者の推移を見ると確かに時間当たり賃金上昇率とコアインフレ率との間には明確な相関関係は見て取れない([第1図])。賃金上昇率はインフレ率に遅行すると一般的に筆者は考えており、賃金上昇は購買力の増加を通じて消費を加速させ、需給の引き締まりを通じて2次的にインフレ率を上昇させる潜在要因だと見ている。しかし、短期的なインフレ率予想においては賃金上昇率が有効な変数とならないことは事実のようだ。

第3に、10月会合以降毎回会合で様々な議論が交わされた市場ベースの予想インフレ率低下につき1月も議論が行われた。5年物米国債利回りと5年物物価連動米国債利回りから算出される市場ベースの予想インフレ率は12月会合以降も更に低下を続けている([第2図])。かかる状況につきまず多数の参加者は「(市場ベースの予想インフレ率低下は)名目利子率に含まれるリスクプレミアム低下の反映であってインフレ期待の低下ではない」と判断している。つまり米国債利回り低下は米国ソブリンリスクに対するプレミアムの低下によるものであって、その結果米国債利回りと物価連動国債利回りの差(TIPSスプレッド)が縮小したことで、見かけ上予想インフレ率が低下したように見えるに過ぎないというわけだ。しかしながらその他の参加者は「(市場ベースの)予想インフレ率の低下が期待インフレ率の低下の反映である可能性を重視」している。さらにこれらの参加者は、調査ベースの期待インフレ率は(インフレ期待についての)確証を十分に提供しないとして、日本の1990年代から2000年代初ディスインフレ時期においも、調査による長期期待インフレ率が目立った低下を見せなかったことを挙げている。かように今回もインフレ予想に関する見方は一致せず「市場ベースの予想インフレ率の動向は注意深く監視されるべき」と合意されるにとどまった。

[第1図]
20150222図1

[第2図]
20150222図2

インフレ率は間もなく1.7%レベルに回帰すると個人的には予想する

ここで、予想インフレ率とインフレ実績についての筆者個人の見方を再整理しておきたい。筆者個人は市場ベースの予想インフレ率すなわちTIPSスプレッドにあまり重きを置いていない。TIPSスプレッドは市場の米国債需給(とりわけ発行量が相対的に少ない物価連動米国債)に左右されやすく、また上記の多数の参加者が述べているように、米国債のリスクプレミアムの変動に左右される可能性が高いためである。FOMCの1月会合が開催された時期の米国債10年物利回りは1.8%と2%を割り込む水準にまで低下していた。筆者個人はこの利回り低下の原因を、欧州財政問題やロシア・中東などの地政学リスクを背景にした米国以外の地域のリスクの高まりにより米国債のリスクプレミアムが相対的に縮小したことだと見ている。米国経済成長期待や利上げ期待からくる利回り上昇圧力を質への逃避による資金流入による利回り低下圧力が一時的に上回っていることが米国債利回り低下の背景と考える(1月FOMC議事要旨によれば、会合ではこの長期金利低下についても議論がなされており、予想インフレ率と同様に意見が分かれたままとなっている)。

筆者個人は予想インフレ率としてミシガン大学消費者センチメント調査における12ヶ月後の期待インフレ率を用いている。この指標は調査ベースであるが、上記議事要旨で言及された日本の期待インフレ率調査に比べると消費者のインフレ期待をよく反映していると言える。予想期間が短期であることからその時点の消費者の期待インフレ率を相応に反映しうるためだ。実際にここ数ヶ月間、同調査における期待インフレ率は低下を続けている([第3図])。ミシガン大学の消費者期待インフレ率と需給ギャップ(米議会予算局推計の潜在GDPから算出)を外生変数とし、コア個人消費支出価格指数(コアPCEデフレーター)の前年比伸び率を内生変数とする回帰分析を直近指標によりアップデートしたのが[第2表]である(推計期間は44四半期)。

この推計によれば、2014年10-12月期時点の推計コアPCEインフレ率は約+1.7%との結果になった。期待インフレ率が低下したにも関わらず、成長加速によるマイナスの需給ギャップ縮小がこれを相殺し、結果的にはこれまで同様に均衡インフレ率が+1.7%に維持されていることになる。現状のコアPCEインフレ率(12月時点で+1.3%)はこの水準からかなり下方乖離している([第4図])。従って筆者個人の予想としては、主に需給ギャップの縮小により今後インフレ率が1.7%レベルにまで上昇するとの見方を維持する。外部環境もこの見方を支持している。すなわち原油価格の下落が1月で一段落し、一時1バレル=50ドルを割り込んだ原油先物価格は2月に入ってからは50ドル台前半に回復して推移している。原油価格がこの水準で推移すれば期待インフレ率も下げ止まることが十分に考えられる。

[第3図]
20150222図3

[第2表]
20150222表2

[第4図]
20150222図4

インフレ率低下でもテイラー・ルールは年内利上げを支持

さて、1月FOMC会合の議事要旨に戻り、金融政策に関する議論の箇所を見る。そこではまず、金融政策正常化を遅くした場合と早くした場合のそれぞれのリスクのトレードオフにつき議論がなされている。まず数人の参加者は、正常化の遅延には「金融政策スタンスが過度に緩和になることにより望ましくないインフレ率上昇」のリスクがあるとした。一方で多くの参加者は「早すぎる利上げは実体経済と労働市場の見かけの堅調な回復を阻害する」可能性があるとした。その他の発言も合わせると、利上げ早期化のリスクを重視するハト派的発言の方が数の上では多かった模様である。この結果、冒頭に掲げた「多くの参加者は彼らの金融政策正常化開始時期に関するリスクのバランスの評価が、FF金利を実質的な下限により長期間維持する方向に傾いていることを表明」した。1月議事要旨がハト派トーンとされる根拠はこの記述にある。しかしながら、ここに至るまでの成長率・インフレ・労働市場を含む経済見通しに関する参加者の議論とこのハト派的金融政策志向の高まりとの関係は議事要旨を見る限りでは明らかではない。経済見通しに関する議論では意見は分かれていたものの、経済成長・インフレ・労働市場にかんして悲観的な見方をする発言が従前に比べて明らかに増加した証跡は見当たらない。更に上記記述に続けて「いくらかの参加者は、、FF金利は既にその下限に十分な期間維持されており、短期間のうちに引締めを開始することが適切かもしれない」と述べている。数の上では相対的に少ないものの、早期利上げ開始を主張する参加者も依然存在するのである。

ここで、テイラー・ルールによる適正なFF金利誘導目標の推計を改めて行っておく。テイラー・ルールはいわゆる1993年版と1999年版の2通りを用いる。1993年版はJ.テイラー氏のオリジナルの公式に基づくもの、1999年版はイエレン現FRB議長が労働市場ギャップをより重視する形でこれを改変したものである(2014年12月7日付当レポート参照)。2014年末までは需給ギャップとPCEデフレーターの実績値、2015年の需給ギャップは筆者個人の成長予想に基づく数値、2015年PCEデフレーターはここではやや保守的に2015年いっぱい前年比伸び率が1%で推移するとした。その結果、相対的にタカ派的な1993年版では2015年末の適正FF金利は1.5%、ハト派的な1999年版テイラー・ルールにおいても0.5%と、いずれも年内の利上げ開始を正当化する結果となった([第5図])。実際には原油価格の下げ止まりでコアインフレ率は1%台半ばから後半で推移する可能性が高い。従ってこれまでの原油価格下落を反映してもなお年半ばの利上げ開始は正当化可能である。1月FOMC議事要旨の内容はこれだけで金融政策予想を変更する大きな材料にはなりにくい。従ってこれまでの筆者個人の金融政策予想(6月利上げ開始、12月時点のFF金利誘導目標レンジ1.25-1.50%)を維持することとする。

もっともこの個人予想には下方(利上げ後倒し)リスクがある。1月FOMC議事要旨のハト派的内容、そしてFOMC投票メンバーの入替により1月からハト派投票メンバーが相対的に増加していることは、この予想に対するリスク要因と言わざるを得ない。次の金融政策スタンスの判断ポイントは次回3月17-18日のFOMC定例会合である。ここで示される声明文やFOMC委員の経済予測が大幅にハト派方向にシフトした場合はこの個人予想の修正を考慮する必要が出てくるかもしれない。また小売売上、資本財受注、企業景況感などの米国経済指標が年末から年初にかけてやや軟化傾向にあることも経済見通し面からの下方リスク要因と言わざるを得ないだろう。

[第5図]
20150222図5


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