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<経済レポート> 利上げペースに下方リスク:3月FOMC

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FOMCは17-18日の会合後の声明文で「忍耐強くいられる」とのフォワードガイダンス文言を削除した。一方で、FOMC委員による経済予測と利上げペース予測の下方シフトは、筆者個人の金融政策予想に下方リスクをもたらす結果となった。FOMCは6月定例会合で初回利上げは想定通り実施するものの、その後のペースについて新たなガイダンスを必要に応じ提供すると見たい。個人の金融政策予想については今後議事要旨の内容も踏まえて下方修正を考慮する。

「忍耐強くいられる」の文言を声明文から削除した

3月17-18日に開催されたFRB連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文では、筆者個人の予想通りフォワードガイダンスが変更され、「忍耐強くいられる」の文言が削除された。しかしながら、同時に公表されたFOMC委員の経済予測によれば、成長率予測が下方シフトし、またFF金利誘導目標レンジ予測も下方シフトしている。筆者個人は6月利上げ開始後定例会合毎に0.25%の利上げが実施されるとこれまで予想してきた。しかしこれらのFOMC委員予測を合わせてみると、6月利上げ開始予想はまだ維持できるものの、その後の利上げペースについては後倒し方向の予想修正を考慮する必要がでてきている。本レポートでは、フォワードガイダンス、成長予測、利上げ予測の3つの観点から3月FOMCの結果を考察する。

第1に、声明文のフォワードガイダンス変更の内容を見る。3月18日のFOMC声明文ではまず冒頭の基調判断パラグラフで大きく2点の変更が見られた。一つは経済成長が「いくぶん緩やかになった」に下方修正されたこと、もう一つは「輸出の伸びが軟化した」との文言が追加されたことである。労働市場については従前通り「更に改善した」、インフレについては「主にエネルギー価格の低下を反映して」FOMCの目標2%から更に低下したとされた。今後の見通しについてのパラグラフで、委員会は「経済は適度なペースで拡大する」と予想、「インフレは短期的には最近の低い水準に留まる」ものの「中期的には2%にむけ徐々に上昇」すると予想している。

金融政策に関するパラグラフでは、フォワードガイダンスを「前回の声明文と整合的に、委員会はFF金利誘導目標レンジの4月FOMC会合での引上げの可能性は依然低いと判断する」に変更、続けて「労働市場の更なる改善が見られ、インフレが2%の中期目標に回帰すると合理的に確信したときに、FF金利誘導目標レンジを引き上げるのが適切と委員会は予想する」とした([第1表])。さらに続けて「このフォワードガイダンス変更は委員会が最初の誘導目標レンジ引上げ時期を決定したことを示唆するものではない」とされた。12月声明文から2回に亘って使用された「忍耐強くいられる」の文言は削除された。なお、イエレン議長は会合後の記者会見で声明文通りの文言に加え「“忍耐強く”の文言を声明文から削除したからといって我々が“忍耐強くなくなる”ことを意味するものではない」「(フォワードガイダンス変更は)6月に利上げが実施されるという意味ではなく、またそれを排除するものではない」と述べている。

[第1表]
20150322表1

フリーハンドを残すフォワードガイダンス:6月利上げ開始予想は維持できる

3月FOMC声明文におけるフォワードガイダンス変更の示唆することは、FOMCが利上げ時期について引き続きフリーハンドを維持しようとしていることにあるといえる。「4月の利上げの可能性は低い」との声明は1月までの「忍耐強くいられる」とのフォワードガイダンスが「今後2回の委員会では利上げはない」ことを意味するとの過去のイエレンFRB議長の説明(12月FOMC後の議長定例記者会見、2月24日議会宛半期金融政策報告における証言)と整合している。時間の経過により「3月、4月の利上げの可能性が低い」から「4月の利上げの可能性は低い」に表現を変更したのみである。

すなわち、最速6月定例会合での利上げの選択肢を残しつつ、環境によっては利上げ時期を後倒しする選択肢をも残す文言であり、この点では1月声明文と基本的なFOMCのスタンスは不変といえる。「インフレ率が2%の中期目標に回帰すると委員会が合理的に確信したときに」利上げを開始するのが適切との文言は、これまでのFOMCのスタンスと整合的ではあるが、昨今のインフレ率低下に鑑み再確認のための条件を付したものと考えられる。

フォワードガイダンス変更だけからは、利上げ開始時期についてFOMCのスタンスに著変は見られない。FOMCは依然中期的にインフレ率が2%に回帰すると予想していることは声明文からも明らかであり、今後6月までにその見方に大きな変更がない限り利上げは6月に開始されると解釈するのが妥当と考える。のちに見るようにFOMCは2015年のインフレ率予測を下方シフトさせているものの、2016年以降に2%近い水準に回帰すると予測しており、少なくとも現状では「合理的確信」を持っているとみるのが自然であろう。

FOMC委員成長予測は下方シフト:ドル高による輸出見通し軟化が背景

第2に、四半期毎のFOMC委員経済予測の内容を見る。3月の経済予測においては、実質GDP成長率、失業率、PCEインフレ率の予測の中心傾向がいずれも下方にシフトしている([第2表])。特に顕著なのは成長率とインフレ率である。まず、2015年成長率予測(第4四半期前年同期比)の中心傾向は2.3~2.7%と、12月時点予測の2.6~3.0%から約-0.3%下方シフトした。下方シフトの理由を示唆するものとして声明文で「輸出の伸びの軟化」が基調判断に加えられたほか、会合後の記者会見でイエレン議長は「経済成長について、参加者は総じて予測を12月から下方修正し、うち多くの参加者は純輸出の見通しの軟化を指摘した」と述べている。インフレ率については、2105年PCEインフレ率(同上)予測の中心傾向が0.6~0.8%(12月時点1.0~1.6%)、コアPCEインフレ率予測の中心傾向が1.3~1.4%(同1.5~1.8%)に下方シフトしている。この背景は、イエレン議長が会合後記者会見でも述べているように「主に原油価格と輸入価格の低下を反映したもの」と考えられる。一方、FOMC委員予測によれば2016年以降インフレ率は上昇し、2016年~2017年にかけてはPCEインフレ率がFOMCの目標である2%に接近するとの予測になっている。

FOMC委員による成長率予測の下方シフトが輸出の減速を要因とする場合、ドル高による輸出減速と、海外経済減速による輸出減速の二つの経路が考えられる。これについてイエレン議長は会合後記者会見の質疑応答で「輸出の伸びが軟化したのはおそらくドル高が一つの要因であろう」と述べている。確かに足元で輸出の伸びは大幅に減速しており、10-12月期には純輸出が成長を-1.15%押し下げる要因となった([第1図]、[第2図])。ドル高は輸出価格上昇を通じて輸出を抑制し、一方で輸入価格低下を通じて輸入増加を促す、さらに個人消費の拡大がその傾向を加速させる可能性がたかい。その意味では、ドル高を背景としたFOMC委員の成長率予測下方シフトは合理的な内容といえる。

一方で筆者個人は、2015年の成長率(第4四半期前年同期比)を直近の試算で約+2.9%と見積もっている。10-12月期の成長率が事前予想をやや下回ったものの、総じて2015年は3%に近い成長が可能との見方は不変である。ドル高による輸出の伸び悩みが今後経済成長を抑制する要因になることはこの予想でも織り込んでおり、四半期毎に純輸出が成長率を-0.3~-0.6%程度押し下げると前提している。これとの比較では、FOMC委員による成長率予測の大幅な引き下げはやや拙速なものにも見える。イエレン議長自身も指摘する通り、ドル高は輸出抑制要因になるものの、インフレ率低下と相まって国内の個人消費を加速させることから、総じて米国経済にはプラスの効果をもたらすものだからである。

[第2表]
20150322表2

[第1図]
20150322図1

[第2図]
20150322図2

FOMC委員の利上げペース予測も大幅下方シフト:利上げは年内2回を示唆

第3に、FOMC委員による金融政策予測を見る。適正なFF金利誘導目標に関する予測も成長率・インフレ率予測とともに大幅下方シフトした。2015年末の「適正FF金利誘導目標レンジの中心値」は予測を0.625%(レンジ0.5%-0.75%に相当)とする委員が7名と最も多く、17人の委員の予測中央値も0.625%となった。これは12月予測の中央値1.125%から-0.5%の大幅な下方シフトである([第1図])。年末のFF金利誘導目標レンジが0.5%-0.75%ということは、1回の利上げが0.25%として年内の利上げ回数はたかだか2回に留まる予測であることを示唆している。これは、12月同予測が年内4回の利上げを示唆していたこと、また2月24、25日の議会証言でイエレン議長が「利上げは、、会合毎に実施すると予想している」と述べたことと比較すると、大幅な見通し変更といえる。このFOMC委員予測から、FOMCは今や利上げ時期を10月に後倒しするかもしくは、6月利上げ開始以降は1会合おきのペースで利上げを行うことが示唆されているといえる([第3表])。

FOMC委員による利上げペース予測の下方シフトの理由について、イエレン議長は会合後記者会見で「ほとんどの参加者はGDP成長率とインフレ率予測の改訂そして長期的定常失業率のいくぶんの下方改訂と整合的に、FF金利の見通しを引き下げた」と述べ、質疑応答でも「各参加者の予測改訂の理由を正確に知るのは困難」としつつ「(経済予測の引き下げと長期失業率予測の引き下げの)双方がFF金利予測引下げのポイントと考える」と述べている。

経済予測の大幅な下方改訂と利上げペース予測の整合性を、イエレン議長が採用する1999年テイラー・ルール公式(注1)を用いて検証してみよう。FOMC委員の2015年PCEインフレ率予測中心傾向の中心値(0.7%)をインフレ率実績、同成長率予測中心値である前年同期比+2.5%から推計した2015年実質GDPをGDP実績、米議会予算局推計(2015年1月現在)の潜在実質GDPを潜在GDPとして、テイラー・ルール公式を用いて推計したところ、2015年末の適正な政策金利は約0.80%との結果を得た。これは3月のFOMC委員予測の中央値0.625%よりもやや高め、レンジとしては0.75-1.00%がなんとか正当化可能な水準である。総合PCEインフレ率に替えてコアPCEインフレ率(2015年の予測中心値は1.35%)を上記テイラー・ルール公式に代入すると、2015年末の適正政策金利は約1.77%との結果になった([第4図])。過去の当レポートでも見たように、現在のエネルギー価格低下による一時的なインフレ率低下は、今のところコアインフレ率への波及は限定的である。すると、金融政策決定の際に総合インフレ率でなくコアインフレ率を参照するという考え方も今回の場合はあり得るはずである。これらより、FOMC委員の利上げペース予測は理論値よりもやや低めに改訂されているということができる。

[第3図]
20150322図3

[第3表]
20150322表3

[第4図]
20150322図4

当レポートの金融政策予想に下方リスク:6月利上げ実施は可能なるもペースは遅く

しかし総合的に見ると、3月のFOMC結果により筆者個人の金融政策予想に対する下方のリスクが出てきたと言わざるを得ない。筆者個人はこれまで、6月の利上げ開始、その後会合毎に0.25%の利上げが実施され年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%と予想してきた。3月FOMC声明文におけるフォワードガイダンス変更とその内容はこの予想を支持するものだった。しかし、FOMC委員の経済予測の下方改訂と利上げペース予測の下方改訂は、利上げ開始後の利上げペースが予想比遅くなるかまたは利上げ開始時期自体が後倒しになる可能性を示唆している。上記で見たようにFOMC委員の利上げペース予測は理論値よりやや低めで、コアインフレ率を参照したテイラー・ルール公式からは筆者個人予想も依然正当化可能ではある。しかし現実のFOMC委員のFF金利予測が下方シフトしていることは、FOMC委員が総合インフレ率の低下を主な判断材料としていることが示唆されていると言わざるを得ない。金融政策予想については4月公表予定の議事要旨も踏まえて修正を考慮する。

上記で述べた通り、FOMCは利上げ開始時期とペースにつきフリーハンドを維持する文言を声明文に採用しており、利上げ開始とペースは6月定例会合までの経済指標、特に原油価格とマクロ経済指標に依存するといえる。経済指標では輸出のほかに全体的に減速傾向にある設備投資や個人消費指標も注目されるだろう。筆者個人としては、米国の中期的な経済成長には懸念なしと見て、短期的な原油価格の動向、ドル高による輸出やインフレ率への影響、そしてロシア等の海外動向を主要なリスク要因として見ておきたい。

個人的には6月会合で初回利上げを実施することがFOMCの信認と政策継続性維持のためには適切な方策であると考える。6月利上げ開始はある程度市場の期待に織り込まれていた。確かに17日の声明文公表後のFF金利先物価格に見る市場の利上げ期待は後退し、20日現在で6月利上げ期待は大幅低下、+0.25%の利上げ期待は10月に後倒しになっている。しかしFOMCは6月利上げ期待を払しょくする強いメッセージを市場との対話で明示したわけではない。6月利上げを見送った場合、利上げ開始時期に関する市場の期待形成に混乱をもたらすおそれなしとしない。6月の利上げは実施し、同時に今後のペースについて必要に応じ声明文でフォワードガイダンスを提供するというのが最も適切なやり方と考える。


注1) テイラー・ルールの一般的公式は以下:
      it=2+πt+α(πt-π*)+β(yt-yt*)
itは適切な政策金利、πtはインフレ率実績、π*はインフレ率目標、ytはGDP実績、yt*は潜在GDPである。係数をα=0.5、β=0.5とするのが1993年テイラー・ルール、α=0.5、β=1.0とするのが1999年テイラー・ルールである(2012年6月6日イエレンFRB副議長(当時)講演:Janet L. Yellen, “Perspectives on Monetary Policy”, June 6, 2012)。
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