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<経済レポート> トレンド回帰はまだ遠い:日本経済定点観測

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日本の実質GDP成長率は10-12月期に3四半期ぶりのプラス成長に転化したが、需給ギャップの解消にはまだ時間がかかる。インフレ率は消費税影響除きでゼロ%に低下し、2%インフレ率の達成も引き続き困難である。もっとも、円安やインフレ率低下は家計消費の持ち直しを促進し、また企業部門の設備投資や輸出が経済を牽引する形で、日本経済は回復基調を今後も継続すると見る。

-2.2%の需給ギャップ解消には3%成長が必要

日本の10-12月期実質GDP成長率は前期比+1.5%と、3四半期ぶりのプラス成長に回復した。内容は家計消費が前期比年率+2%近い伸びで成長を牽引、また輸出増加もネットで成長率を+1.1%押し上げた。これらが設備投資や住宅投資の減少及び在庫調整による成長押し下げをカバーした形になる(3月14日付<経済指標コメント>参照)。今後についてもインフレ率の低下が家計消費の追い風となり、またこれまでの資本財出荷の積み上がりが統計上の設備投資をプラス成長に転化させるなど、内需の堅調な拡大が見込まれる。また円安も背景として輸出増加が成長を引き続き押し上げると見る。

しかしながら一方で、現在の日本のGDP水準は昨年4月の消費税率引上げの反動減から回復したとは言えない。まず10-12月期の実質GDPの水準(524.6兆円)は2013年1-3月期の水準をようやく上回ったレベルで、消費税率引上げ前の駆け込み需要発生前の水準にもまだ回帰していないことになる。GDPギャップは10-12月期時点で依然-2.3%のマイナスで(内閣府推計)、これを今後1年間で解消するには、2015年通年で潜在成長率(内閣府推計では+0.6%)を+2.3%上回る成長つまり約3%弱の成長が実現される必要がある計算になる。

別な観点から日本の潜在GDP(トレンドGDP)と潜在成長率(トレンド成長率)を推計し、これに対する現在のGDP実績の位置を見てみよう。トレンドGDPの抽出は次の3通りの方法で行う。すなわち①第2次安倍政権発足直前の2012年10-12月期から2014年10-12月期の9四半期の実質GDPを線形回帰([第1図])、②1994年1-3月期から2014年10-12月期の84四半期の実質GDPを線形回帰([第2図])、③1994年1-3月期から2014年10-12月期の84四半期の実質GDPをHPフィルターで回帰([第3図])、の3つである(2014年8月31日付当レポート参照)。

[第1図]
20150329b図1

[第2図]
20150329b図2

[第3図]
20150329b図3

短期トレンド成長率は+0.4%に大幅低下した

それぞれの推計から抽出された日本のトレンドGDP、トレンド成長率及びトレンドGDP回帰に必要な1-3月期成長率をまとめたのが[第1表]である。この表からは以下のことがわかる。まず、2012年10-12月期から直近までの短期のトレンド成長率が年率+0.4%に大きく低下している。安倍政権発足の2012年10-12月期から消費税率引上げ直後の2014年4-6月期までのトレンド成長率は年率約+2%に加速していた(2014年8月31日付当レポート参照)。しかしながら消費税率引上げ後の成長の低迷で、短期トレンド成長率は大幅に低下したことになる。低下した短期のトレンドGDPに対しては、1-3月期に前期比年率+3.1%の成長が実現できればトレンド回帰が可能な計算になる。

つぎに、1984年から直近までの線形回帰による長期トレンド成長率は年率+0.8%レベルで、これは昨年4-6月期までの推計と不変である。またこれは内閣府の推計する潜在成長率+0.6%とほぼ近い水準である。消費税率引上げ前の駆け込み需要及びその反動減は結果的に長期トレンド成長率を変化させていない。この長期トレンドGDPへの回帰に必要な1-3月期成長率は年率+6.9%と計算され、低下した短期トレンドへの回帰に比べて大幅にハードルが高くなる。更に、1984年から直近までのHPフィルターによる長期トレンド成長率は年率0.8%と、昨年4-6月期までの推計である同+1.0%からやや低下している。HPフィルターによるトレンド抽出は直近の変動を織り込みやすい傾向にあり、消費税率引上げ後の成長低迷が反映されたことによりトレンド成長率が低下したことになる。このトレンドGDP回帰に必要な1-3月期成長率は前期比年率+4.1%と計算される。

消費税率引上げによる影響が成長にとって中立であるといえるためには、基本的には長期線形回帰による潜在GDPを達成することが必要である。短期線形回帰によるトレンドやHPフィルターによるトレンド抽出は直近の反動減による成長低下を大き目に織り込んでいるため、これらへの回復をもって消費税率引上げ影響が解消されたと見るのは難しいであろう。1-3月期に前期比年率+6.9%の成長は今や非現実的である。日本経済が消費税率引上げ影響を克服してトレンドに回帰するにはあと1年以上はかかると言わざるを得ない。

[第1表]
20150329b表1

低インフレ率は継続、賃金上昇加速も需給要因のみで説明できる

成長率のトレンド回帰に続き、インフレ動向を占ってみる。生鮮食品を除く総合消費者物価指数の前年比の伸び率(コアインフレ率、消費税率引上げ影響を除く)と失業率の関係を見た物価版フィリップス曲線が[第4図]である。これによれば、消費税率引上げのあった2014年4-6月期に一時的にインフレ率がトレンドから上方に乖離する動きがあったが、2月時点では消費税率影響を除くコアインフレ率が前年比横ばいにまで低下している。つまり、2014年に一時的に上昇したインフレ率は多分に金融緩和によるアナウンスメント効果によるものであって、この効果が剥落したあとは再びインフレ率は低下、つまり政策の目指したフィリップス曲線の上方シフトはいまだ実現していないことになる。

一般に、フィリップス曲線にはフラット化の傾向があり、失業率が自然失業率を下回るとインフレ率が上昇ペースを速める傾向がある。そこで、シンプルな方法で日本の自然失業率を推計してみることにする。[第5図]はコアインフレ率の前年比の変化幅と失業率の関係から、インフレ率を変動させない失業率(NAIRU)を推計することで日本の自然失業率を推計したものである。このグラフによれば、長期的な日本の自然失業率は約4.3%と推計され、現在の失業率(2月時点で3.5%)は既に自然失業率を大幅に下回っていることになる。自然失業率の推計を20四半期のローリング回帰で行い、失業率実績と比較したものが[第6図]である。これによれば、既に2012年頃から日本の失業率は自然失業率を下回る水準に低下していたことになる。にも拘わらすインフレ率の高進が見られない現状も、フィリップス曲線が少なくとも上方シフトはしていないことを示唆している(もっともこの推計による自然失業率は一般に日本の自然失業率とされる3%台半ばよりもかなり高めに出ていることには留意)。

次に賃金と失業率の関係を見てみよう。現金給与総額(所定内給与)は物価に比べて上昇ペースの加速が顕著である。所定内給与は2014年6月以降ほぼ一貫して前年比プラスの伸びを保っており、1月時点の所定内給与は前年比+0.8%の伸びとなっている。これはアベノミクスの一貫として政府が企業に対して賃金引上げを要請した結果2014年から企業においてベア実施が復活したことの成果とも見られている。一方で、失業率と所定内給与の前年比伸び率の関係を示す賃金版フィリップス曲線を描いてみると、インフレ率と失業率の関係よりも強い相関がみられる([第7図])。このフィリップス曲線によれば、3.5%の失業率に対応する賃金上昇率は前年比+0.7%と推計される。つまり、政府による賃金引上げの要請がなくとも所定内給与は労働市場需給により+0.7%程度の上昇は実現されていたはずであり、これは従来からのフィリップス曲線に沿った動きに過ぎないことになる。ここからも、アベノミクス以降で賃金と失業率の関係が大きく変化する兆しは見られないことになる。

[第4図]
20150329b図4

[第5図]
20150329b図5

[第6図]
20150329b図6

[第7図]
20150329b図7

これからは企業部門が成長を牽引:2015年の1%成長を見込む

以上より、日本の経済が消費税率引上げ前からのトレンドに回帰するには今しばらくの時間がかかること、また2014年以降の経済政策は日本のフィリップス曲線をシフトさせるには至らず、労働市場のタイト化にもかかわらずインフレ率上昇の加速はみられないため2%のインフレ目標の達成は引き続き困難であることが憶測できる。

今後の日本の成長率の行方を最新の指標から占ってみよう。総じて個人消費が軟化しているのに対し、設備投資や輸出等の企業部門は好調である。まず家計消費の回復はまだ鈍い。総務省の家計調査によれば2月の家計消費支出(2人以上の世帯)は前月比+0.8%の強めの伸びを示した(3月29日付<経済指標コメント>参照)。賃金上昇とインフレ率の抑制により個人消費を取り巻く環境は悪くはない。1-3月期の内閣府消費総合指数は1月時点で前期比マイナスの伸びにあり([第8図])家計消費の減速を示唆しているが、2-3月に消費回復が見られれば、1-3月期のGDP統計上の家計消費は前期比年年率+3%成長も何とか可能な位置にある。一方で企業設備投資の先行指標となる資本財出荷は1月にかけて大幅に増加しており、1-3月期GDP統計上の企業設備が4四半期ぶりにプラス成長になる可能性が高いことを示唆している。また、円安による輸出増加が見込まれることも成長の押し上げ要因である。

街角景況感もようやく回復しており、内閣府景気ウォッチャー調査では2月の現状判断DIと先行き判断DIのいずれもが横ばいを示す50を上回った。1-3月期の日本の実質GDP成長率は前期比年率2%台に加速すると見る。また2015年暦年では前年比+1%、2015年度前年度比では+1.7%の成長を見込むこととする。

[第8図]
20150329b図8

[第9図]
20150329b図9



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