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<経済レポート> 生産性とインフレ低下が重石:米賃金上昇率再考

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米国の労働生産性伸び率の長期的な低下トレンドと、インフレ率の短期的な低下は、伸び悩む米国の賃金上昇率にとっての向い風要因である。失業率低下にも拘わらず賃金上昇率が伸びないのは、これらの構造的要因ならびに短期的変動要因がある。もっとも中期的には労働需給が賃金を決定する可能性が現実には高いとみて、時間当たり賃金の伸びがまもなく2%台に回復するとの見方は現状維持しておきたい。

1-3月の労働生産性は前年比上昇、単位労働コストの伸び低下でインフレ圧力は低下

6日に公表された米1-3月期労働生産性統計によれば、非農業企業部門の労働生産性の伸び率は前年比+0.6%と、前期の同-0.1%からわずかに改善した([第1図])。労働生産性は一単位の労働投入量(総労働時間)で産出される実質産出量であり、その伸びは〔産出量の伸び〕-〔労働投入量の伸び〕であらわされる。1-3月期は前期に比べ産出量の伸びが拡大、一方で3月の非農業部門雇用者数の伸びの急減速が寄与して労働投入量の伸びがやや減速した結果、労働生産性の伸びが加速した(1-3月期実質GDP成長率は前期比年率では+0.2%にとどまり、前期比の労働生産性は-1.9%と2四半期連続マイナスの伸びとなったが、前年同期比の同成長率は1年前のマイナス成長との比較で+むしろ3.0%に成長が拡大しているため、トレンドを表す前年比の労働生産性はむしろ伸びが加速している)。

1-3月期は、労働生産性の伸びが加速したことがインフレ圧力の低減要因ともなっている。単位労働コストは前年比+1.1%と前期の同+2.6%から大幅に減速した([第2図])。単位労働コストは一単位の産出に必要な労働コストであり、単位労働コスト上昇率は時間当たり報酬の伸び率から労働生産性の伸び率を差し引いたものに等しい。時間当たり報酬が上昇しても、時間当たりの産出量が増加すればその分一単位当たりの労働コストは低減されることになる。1-3月期は前期に比べて時間当たり報酬の伸びが減速しかつ労働生産性が上昇したことで、単位労働コストの伸びが減速したことになる([第3図])。

一般に、企業は単位労働コストの上昇を回収するためにこれを販売価格に転嫁する必要がある。しかし、+1.1%の単位労働コスト上昇は、現状のコア消費者物価上昇率の範囲内であり、企業にとっては労働コストを現状以上に価格転嫁する必要はないことになる。

[第1図]
20150511図1

[第2図]
20150511図2

[第3図]
20150511図3

労働生産性伸び率のトレンドは主に非製造業で低下している

次に、中期的な米国の労働生産性の推移を見る。総じて米国では労働生産性の伸び率が90年代後半のIT革命による生産性上昇ののち、2000年以降はほぼ一貫して低下トレンドにある。

その内訳をみると、製造業の労働生産性の伸び率が非農業企業部門全体の労働生産性伸び率を総じて上回っている([第4図])。この背景としては、労働集約的な非製造業よりも、資本集約的な製造業において雇用の抑制と合理化が相対的に容易であることが考えられる。実際、労働投入量の伸びを非農業企業部門全体とうち製造業で比較すると、ほぼ一貫して製造業の労働投入量の伸びは非農業企業部門全体を下回っている([第5図])。

しかしながら、米GDPに占める製造業の割合は2014年10-12月期で12%にすぎない。製造業の労働生産性上昇も、経済全体への寄与は極めて限定的である。先進国においては、資本集約的な製造業がその生産拠点を賃金の安い海外に移転し、国内は専門ビジネスサービス等労働集約的なサービス業が主に拡大している。知的労働を中心とするサービス業の産出維持のためには、製造業に比べて雇用をより高水準に維持することが必要だと考えられる。非製造業主体の産業構造の帰結として、製造業が労働生産性を向上させても米経済全体の労働生産性の伸びは抑制されやすくなっているといえる。

[第4図]
20150511図4

[第5図]
20150511図5

時間当たり賃金は労働生産性とインフレ率の制約を受ける

さて、上記で見たように米国の労働生産性の伸び率は、2008年の金融危機後の一時的な上昇(産出量の減少を上回る雇用減少が主因)ののち2000年以降総じて低下する傾向にある。一方で単位労働コストの伸びも2012年以降はほぼ前年比約+1%の低水準にとどまっている([第5図])。労働生産性の伸びの低下にも拘わらず単位労働コストの上昇が限定的であるのは、労働生産性の伸び低下に合わせて企業が賃金の伸びを抑制してきたことがその背景と考えられる。

4月の雇用統計では、時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比の伸びは+1.9%と、2月のボトムである同+1.7%から底入れの兆しがみられた。しかしながら中期的には失業率の低下に比べて時間当たり賃金の伸び率はまだ相対的に低水準である。失業率と時間当たり賃金伸び率の関係を示すシンプルなフィリップス曲線によれば、現状の賃金上昇率は失業率の低下にも拘わらずむしろ昨年から低下に転じている([第7図])。ここからは現在の賃金上昇率は失業率以外の要因によっても決定されていることが推測できる。

90年代前半からの労働生産性の伸びと時間当たり賃金の伸びを比較してみると、両者の間には長期的に連動関係がみられる。労働生産性の上昇は単位労働コスト引き下げ要因であり企業にとり賃金を引き上げて雇用を拡大し産出を増やすインセンティブとなる。逆に労働生産性の低下は単位労働コストの押し上げ要因であり企業にとり賃金を抑制するインセンティブになる。時間当たり賃金上昇を労働生産性上昇でカバーした残り(単位労働コスト)が外生要因としてのインフレ率の範囲内で価格転嫁できることが時間当たり賃金引上げの条件だとすれば、時間当たり賃金の伸び率は、労働生産性の伸び率にインフレ率を加えた水準に制約されるはずである([第8図])。

[第6図]
20150511図6

[第7図]
20150511図7

[第8図]
20150511図8

賃金上昇率は今年2%台に回復との見方はまだ維持する

ここで、インフレ率・労働生産性・失業率の3つを決定要因とする時間当たり賃金の要因分解を改めて行う(3月11日付当レポート参照)。観測期間は1993年1-3月期から2014年10-12月期までの88四半期、3つの決定要因は時間当たり賃金に対し4四半期先行させた。結果は[第9図][第1表]の通りである。これによれば、失業率の低下が2011年以降時間当たり賃金の押し上げ要因になっているものの、労働生産性の伸び低下が時間当たり賃金上昇率を抑制する要因となっていることがわかる。この動向は[第10図]でより明らかである。

この分析によれば、2015年の各四半期の時間当たり賃金上昇率は10-12月期に同+1.6%に低下する計算になる。これはいうまでもなく、昨年末の原油価格下落によるインフレ率の低下が1年のラグを伴って賃金上昇の抑制要因となる結果である。これは、失業率低下に遅行して時間当たり賃金上昇率もまもなく2%に向けて上昇するとの当レポートの見方に対する下方リスク要因である。また上記の通り、産業のサービス化や先進国への労働集約産業集中という構造要因でもある労働生産性の伸び低下も長期的に賃金上昇率の抑制要因となるだろう。

しかし、労働生産性上昇率低下は10年単位の長期のトレンドであり、原油価格下落は逆に月単位の短期的変動である。今後1年程度の中期の賃金は、現実的には失業率低下による労働市場のタイト化により決定される可能性がまだ高いと見ておきたい。下方リスクは認識しつつも、賃金上昇率の2%への加速という当レポートの見方は今しばらく維持しておきたい。

[第9図]
20150511図9

[第1表]
20150511表1

[第10図]
20150511図10

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