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「2年で2%」は困難と見る~4月日銀展望レポート

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4月の日銀展望レポートでは、2015年度に約2%のインフレ目標達成可能との見通しが示された。しかし、成長率見通しと需給ギャップの関係からはこの目標達成は疑問と言わざるを得ない。しかし、2%目標自体は妥当であり、今後市場原理に基づく成長と健全な物価上昇を目指す政策には期待したい。

4月展望レポート「2015年度に1.9%のインフレ率見通し」

4月26日の日銀金融政策決定会合は、4月4日の「量的・質的緩和」の導入決定後初の会合だった。結果は「マネタリーベースが年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」とされ、前回会合で決定した金融政策が維持された。

同日公表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)でも、量的・質的緩和導入後初の経済・物価の見通しが示された。消費者物価上昇率については「マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみている」とされた。

政策委員見通しの中央値は、2013年度の実質GDP成長率が前年比+2.9%、14年度同+1.4%、15年度同+1.6%となった。消費者物価指数の伸び(消費税の影響を除くベース)は14年度同+1.4%、15年度同+1.9%となっており、約3年後には2%のインフレ目標が達成できる見通しとなっている([第1表])。

当レポートでは、このインフレ目標達成の現実性を、主に需給ギャップや失業率とインフレ率との関係から考察してみる。

[第1表]
20130504表1

2%インフレには需給ギャップが大幅な需要超過に転ずる必要がある

インフレ率の決定要因として、需給ギャップ(GDPギャップ)及び失業率がしばしば用いられる。[第1図]は、日本のGDPギャップ・失業率・インフレ率の推移を見たものである。内閣府の推計によれば、2012年第4四半期時点の需給ギャップは-3.1%、総務省「消費者物価指数」統計によれば、2012年第4四半期時点の消費者物価指数(除く生鮮食品)の伸びは前年同期比-0.1%、2013年第1四半期は同-0.3%である。

一般にインフレ率はGDPギャップに比例し、失業率に反比例して動くとされる。[第1図]からは、GDPギャップにほぼ2四半期遅行してインフレ率が変動する様子が見て取れる。[第2図]は、GDPギャップとインフレ率の相関関係を、インフレ率を2四半期遅行させて回帰分析したものである。この回帰式〔(インフレ率)=0.2887*(GDPギャップ)+0.4685)によれば、2%のインフレ率達成のためには需給ギャップが約5.3%のプラス(需要超過)に転じたのち2四半期を経る必要があるとの計算になる。

需給ギャップを現在の-3.1%から+5.3%に引き上げるためには、潜在成長率を2%以上上回る成長を4年継続する必要がある。これは、現在の日本の潜在成長率を+0.5%としても(3月24日付当レポート参照)
、約3%レベルの成長が4年続くことを意味する。この条件が実際に満たされることは現実的とはいえず、2015年に2%のインフレ目標達成は困難と言わざるを得ない。

[第1図]
20130504図1

[第2図]
20130504図2

楽観シナリオでも2015年の2%インフレは非現実的

やや楽観的なシナリオを考えてみよう。[第2図]における、GDPギャップがプラスの領域に注目すると、GDPギャップがプラスに転じるとともにインフレ率の上昇ペースが加速していることに気づく。つまり、GDPギャップがマイナスのときはGDPギャップの上昇に対するインフレ率上昇率が小さく、GDPギャップがプラスになるとGDPギャップ上昇に対するインフレ率の上昇率が大きくなる傾向があると見られる(フィリプス曲線のフラット化)。実際、1990年代前半にはGDPギャップ約+4%、1990年代後半にはGDPギャップ約+1%でそれぞれインフレ率が2%だった時期があった注1)

この経験則から、仮にGDPギャップが+2%にまで上昇したときに2%のインフレ率の実現が可能だとしてみよう。それでも、現在の-3.1%のGDPギャップからは約5%の隔たりがあり、このギャップ解消のためには2年連続3%成長、または3年連続2.5%成長を必要とし、2%のインフレ率に達するにはそこからさらに2四半期を経る必要があることになる。ここからも2015年度の2%インフレ目標達成はかなり非現実的と言わざるを得ない。

「展望レポート」のGDP成長率見通しの数値からは、2015年までの需給ギャップの縮小はたかだか3%程度との計算となる。つまり、展望レポートの成長見通しから導かれる2015年度末の需給ギャップは漸くゼロということになる。[第2図]においてGDPギャップゼロに対応するインフレ率は約+0.5%程度である。

失業率は1.6%まで低下する必要がある

別な観点からインフレ率の達成如何を見てみよう。[第3図]は失業率とインフレ率の関係を示したいわゆる物価版フィリプス曲線である。

こちらは上記よりやや長期間の過去20年の四半期データで回帰を行った。回帰式〔(インフレ率)=-0.7589*(失業率)+3.2446〕から、2%のインフレ率に相当する失業率は約1.6%との結果になった。しかるに、1981年を最後に現在まで日本の失業率が2%を割ったことはない。ここまでの失業率低下を2年で達成することもまた現実的でないと言えるだろう。

需給ギャップや失業率の物価との相関からは、展望レポートの物価見通しの実現は困難といわざるを得ず、当レポートでは2%インフレ率の達成には4年以上を要すると基本的には見ておきたい。

[第3図]
20130504図3

2%インフレ目標自体は妥当

しかし、これは2%インフレ目標自体の妥当性を否定するものではなく、また2%インフレ率の達成が不可能ということを意味するものではない。1月21日付当レポートで論じたように、2%のインフレ率は、景気悪化の際の利下げの余地を保った市中金利を維持する(「金融政策ののりしろ」)ために、また経済主体の購買意欲を前倒しさせて経済活動拡大を促すために有効なインフレ率である。

2%のインフレ率実現も、成長だけではなく他の決定要因により可能になりえる。失業率とインフレ率の関係を示すフィリプス曲線を上方シフトさせる政策である。ひとつはインフレ期待を上昇させること、次に労働市場の流動化により失業率低下に対する賃金上昇の比率を高めることである。これらはいずれも日銀・政府により企図されている政策だ。ただしこれらは市場原理に則った形で行われる必要がある。特に後者は政治的圧力ではなく、労働市場機能を活性化させることで実現されるべきだろう。


注1)[第1図]は内閣府「今週の指標No.1061」「今週の指標No.1010」から実数値が取得可能な時期(2001年~2012年)のみをプロットした。ただし同「今週の指標」のグラフからは1990年にGDPギャップが+4%弱、1996年頃に約+1%であったことが読み取れる。
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