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<経済レポート> ここまでなら悲観せず:世界株価同時急落

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世界の株価同時下落は主に中国のファンダメンタルズ悪化を背景にした同国為替政策や株価下落を契機として、米国を初めとする先進国の株価にもこの影響が波及したものと見ることができる。テクニカルには株価は週央の安値から持ち直す可能性があると見たい。株価が現状水準ならば米国経済ファンダメンタルズへの影響は限定的である。米国経済個人予想は現状変更しないものの、FOMCの利上げ時期には後倒しリスクを見ておきたい。下方リスク要因は新興国・資源価格を通じた金融市場の更なる悪化と、中国・アジア経済悪化のファンダメンタルズを通じた波及である。

中国発の世界同時株価下落

株価下落が世界市場を席巻している。NYダウは8月17日の終値17545ドルの翌日18日から25日にかけて6日続落、25日の終値は15666ドルで、この間に約-10.7%の下落を見せた。その後26日にはやや値を戻して16285ドルで引けている([第1図])。同じ期間に日経平均は20620円から17806円へと約-13.6%の下落を見せた。その後26、27日と日経平均は反発続伸し、27日は18574円で引けた。為替市場では一時ドル安が急激に進み、17日に1ドル=124円レベルだったドル円は25日に同118円台に、ユーロ/ドルは1ユーロ=1.110ドルから同1.16ドルレベルに、それぞれドルが急落した。

株価急落のきっかけは、11日から13日にかけて3日連続で中国人民銀行が人民元の対米ドル売買基準値を合計約4.5%切り下げたことに遡る。人民元の切り下げは、通貨安政策により中国経済の悪化を食い止めようとする動きと受け取られた。このあたりから中国発の世界経済ファンダメンタルズに対する市場の懸念が広がり始めたといっていい。18日には中国の上海・深圳CSI300指数が前日の4077ポイントから3825ポイントに急落したことをきっかけに世界同時株安が始まった。同指数は26日に3025ポイントと18日から7日間で実に約-25.8%下落した。中国人民銀行は25日、政策金利の-0.25%の引き下げと預金準備率の-0.5%引き下げによる金融緩和を決定、これにより市場では株価下落がいったん収拾されつつある。

今回の株価同時急落は、先進国の経済にとっても突然の不安材料であると言わざるを得ない。しかし、今回の株価急落は、先進国のファンダメンタルズが直接の契機でなく、中国株の下落と中国経済への懸念がその契機であったことが特徴である。そのため先進国経済への影響は、株価下落に伴う資産効果や景況感への影響と、中国のファンダメンタルズを通じた影響とに分けて考える必要があるだろう。以下では米国について、株価下落が米国の個人消費や企業景況感を通じて経済に与える影響を考察する。

[第1図]
20150827図1

NYダウ15000ドルを下回らないことが相場回復の目途値

まず、この株価下落の要因と下値目途を想定する。これまでの米国株はバリュエーション的にやや割高感があったといえる。8月初時点でS&P500の株価収益率(PE)は21倍に達していた。これは金融危機以降での最大値である([第2図])。これを益回り(PEの逆数)に直してみると約4.74%となる。この益回りと米国債10年物利回りとの格差は2.42%となり、これは2010年半ば以来では最低の水準となる([第3図])。つまり、米国株のリスクフリー資産に対する相対価格は、過去10年間との比較ではやや割高だったと考えられる。その意味では、中国株の下落という外部要因を契機にバリュエーション調整が行われたとの説明は可能である。10%下落後のS&P500のPEは19倍程度に低下している計算になり、何とか持続的上昇を維持できる水準である。

また、今回の株価急落には、2010年5月6日のいわゆるFlash Crashのような要因も手伝っていたのではないかと憶測できる。24日にNYダウは寄り付きから-1000ドル以上急落して15370ドルまで下げたのち、日中一時約+1000ドルの戻しがあった。こうした動きは株価下落にシステム売買等の現代トレード手法固有の一時要因を連想させる。結果、テクニカルには24日の長い下ヒゲが相場の底入れを示唆するシグナルとなっている。また、中国株自体は6月の5300ポイントレベルをピークに既に大幅下落が進んでいたことを勘案すれば、18日の下落もその延長に過ぎないといえ、18日以降の急落についてはバリュエーション以外の市場需給要因もあったと見たいところである。

テクニカルには、今回の下げがNYダウで15000ドルを大きく下回らない限り、株価は現在の水準でいったん底入れする可能性を見たい。最近の株価急落の例としては、昨年10月に17000ドル台から16000ドル割れまでの下落があったが、このケースでは株価は同月内に元の水準に回復している。一方、2011年5月から9月にかけ、主にギリシャ財政問題を契機に13000ドル台から11000ドル割れまでの下落したケースでは、元の水準への回復には約半年を要した。今回は短期間の急落という意味で持ち直しもそれなりのスピードで起きると見たい。テクニカルにNYダウの下値の目途としては、昨年10月の16000ドル割れレベル、更にその下は2013年の揉み合いレンジの下限である15000ドルレベルが想定できる。ここでは15000ドルを一つの下値の目途とみて、ここを下回らない限り株価は再び上昇基調に回帰すると見たい。

[第2図]
20150827図2

[第3図]
20150827図3

ここで下げ止まりなら米国経済への影響は限定的

次に、株価下落の米経済ファンダメンタルズへの影響を考察してみよう。まず、株価が資産効果やセンチメントを通じて個人消費に与える影響が考えられる。しかし、過去に筆者が推計したところでは、個人消費の株価に対する弾性値は0.02と相対的に低く、株価10%の下落に対して個人消費の減少は-0.2%程度にとどまる計算になる([第1表]及び2014年8月15日付当レポート参照)。金融危機以降の個人消費は雇用や賃金の伸びに依存する割合が高く、住宅や株価の資産効果や心理効果は相対的には低減していると考えられる。筆者個人は年後半の実質個人消費が+2%前半の堅調な拡大を継続すると個人予想している。株価が現状の水準にとどまったとしても個人消費への影響はさほど大きくはないと見たい。

企業景況感に株価が直接与える影響も限定的と見ておきたい。ISM製造業指数は株価の継続的上昇にも拘わらず昨年末をピークに低下をしている。これは企業景況感が株価そのものよりも海外経済の減速に敏感に反応している可能性を示唆している([第4図])。その意味では今回の株価急落に表象される海外特に中国経済の悪化は企業景況感には織り込み済で、むしろ株価がファンダメンタルズに合わせて調整されたと見るのが妥当であろう。

寧ろ企業にとっては株価急落と同時に起きたドル安による輸出の増加というメリットを享受できる可能性が高い。今年に入ってから米国の実質ベースの財・サービス輸出の減速は鮮明である。昨年1年間は前年比+3.5~4.5%の伸びを続けていた実質輸出は、今年に入り減速をはじめ、7月時点では前年比ほぼ横ばいにまで減速している。輸出減速の傾向は特に昨年後半から米ドルの対広域追加に対する為替レートの上昇開始以降にその傾向が強まっている([第5図])。

[第1表]
20150827表1

[第4図]
20150827図4

[第5図]
20150827図5

FRB利上げ予想に対しては後倒しリスク

最後に、今回の株価急落のFRB金融政策への影響を見る。筆者個人は従前より、9月のFRB公開市場委員会(FOMC)定例会合で利上げ開始が決定されると予想してきた。先週公表された7月28-29日の定例会合議事要旨でも「ほとんどの参加者は引締め政策への条件はまだ達成されていないものの、その地点に近づいている」と述べたとされ、9月利上げ開始を支持する内容が多かった。また、27日に公表された4-6月期実質GDP成長率(改定値)は前期比年率+3.7%と、米経済の拡大ペースが1-3月期の同+0.6%から大幅に加速したとの結果になった。雇用統計でも非農業部門雇用者数は7月時点で3ヶ月連続+200千人を超える増加を示し、労働市場の余剰を表す指標も着実に改善している(8月11日付当レポート参照)。

しかしながら今回の株価急落は9月利上げ予想に対する新たな下方リスク要因になり得ると言わざるを得ない。ダドリ―NY連銀総裁は、26日の講演で記者の質問に答えて「現在のところ、金融政策正常化のプロセス開始を9月会合で決定することは、私にとって数週間前ほどには必須でなくなったと見える」「正常化は我々が追加的な情報を得られる時期に会合においてより必須なものとなり得る」と述べ、個人的には9月利上げの可能性が低下したとの見方を示した。ダドリ―総裁は「追加的情報」を得るまで様子見とのスタンスをとっている。しかし、8月株価急落の影響がわかる経済指標は9月定例会合の行われる9月15-16日時点ではまだ十分ではない。8月中に株価が下げ止まったとしても株価のファンダメンタルズへの影響を見極めるには、10月分位までの経済指標を確認する必要があろう。ダドリ―総裁の言に従えば年内利上げ開始の如何は微妙ということになる。もっともダドリ―総裁はFOMC委員の中でもハト派で知られる人物であり、同氏の個人見解をのみをもって金融政策を占うことはできない。しかし、7月会合に比べ金融市場に悪化が認められた場合に利上げを見送るリスクはあるといえる。また、9月会合時点において依然今後の金融市場の不確実性がある場合、利上げ実施により金融市場に更に悪影響を及ぼすリスクを勘案してFOMCが利上げ開始決定を見送る可能性もある。もっともその場合でも上記の通り10月位までの経済指標を確認の上ファンダメンタルズへの影響が軽微と確認できれば、年内の利上げ開始は可能と見たい。

以上より、世界同時株価下落の米国ファンダメンタルズへの影響は、株価がNYダウで15000ドルを大きく下回らない限り限定的と見ておきたい。ただしFRBの金融政策については、9月利上げ開始に後倒しリスクを見る。これらのシナリオに対する下方リスクシナリオは、まず中国の株価下落がBRICS等の新興国金融市場に波及して、先進国をも巻き込んだ更なる世界株価下落をもたらす場合、次に中国やアジアのファンダメンタルズ悪化の顕在化で資源価格の下落を通じて米国ファンダメンタルズやインフレ率への下方リスクが示現する場合、最後に、中国・アジアの景気減速が同地域への輸出の更なる減速を招いて、実体経済を通じた成長押し下げとなる場合である。

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