FC2ブログ

<経済レポート> ハーフ&ハーフ:FRB金融政策予想

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
米経済ファンダメンタルズはFRBによる9月利上げ開始を十分に正当化する条件が整っている。一方で、世界同時株安にかかる状況証拠は必ずしも9月利上げを支持していない。最近のFOMC委員発言や金融市場の不確実性は、むしろ9月の利上げを留保する材料が多い。9月FOMC定例会合における利上げ開始との個人予想は維持するものの、今やその可能性はほぼ50%に近いところにまで低下していると見ざるを得ない。ただし9月利上げ見送りの場合でも、NYダウが15000ドルのテクニカルな節目を大きく下回らないことを条件に、年内には利上げが開始されると見ておきたい。

労働市場は利上げ条件を満たすまでに改善した

9月16、17日にFRB公開市場委員会(FOMC)定例会合が開催される。これに先立ち去る4日に公表された8月雇用統計は、総じて雇用市場の堅調な拡大と労働市場ののりしろ(slack)の縮小を示唆するものだった。失業率は5.1%と、6月時点のFOMC委員経済予測における長期均衡失業率の中心傾向(5.0~5.2%)の範囲内にまで低下した。つまり米国経済はFOMC委員の予測における完全雇用を既に実現していることになる。米議会予算局(CBO)は、8月の「財政・経済見通し」において、2015年の米国の自然失業率の推計値を引き下げて5.1%とした(従前の推計値は5.4%)が、現在の失業率実績はCBOの下方改訂後の自然失業率にも整合する水準である。いずれの指標に照らしても、米国経済はほぼ完全雇用状態にあり、労働市場ののりしろは失業率の観点からは解消したことになる。

イエレンFRB議長の所謂、失業率に表れない労働市場の余剰を表す指標も確実に好転している。イエレン議長は7月10日の講演と7月15日の半期議会宛金融政策報告で、労働市場の循環的な余剰の存在を表す指標として労働参加率、求職意欲喪失者、経済的理由によるパートタイマー、自発的離職者、時間当たり賃金を挙げている。労働参加率は8月に62.6%と3ヶ月連続で同じレベルを維持しており、低下から横ばいに転じる傾向がみられる([第1図])。求職意欲喪失者数の3ヶ月移動平均は660.5千人と4ヶ月ぶりに上昇に転じたものの、3ヶ月連続で700千人を下回る低水準にある。経済的理由によるパートタイマー数の3ヶ月移動平均は6438千人で、3ヶ月連続で低下している。時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の伸び率は前年比+1.9%と、2月の同+1.7%をボトムに再び上昇に転ずる兆しがみられる([第2図])。加えて、失業率が自然失業率を下回ったことは今後の賃金上昇ペースが加速する可能性を示唆している。もっとも、自発的離職者数の3ヶ月移動平均はまだ低水準にある。9日に公表された7月求人労働異動調査(JOLTS)でも、自発的離職者数は前月比減少している。この指標のみはまだ労働市場の流動性が完全に回復していないことを示唆するものといえる。

直近の7月29日FOMC声明文は「労働市場のさらにいくらかの改善」がみられることを利上げ開始の条件として挙げていた。直近の労働市場指標はこの条件を満たすものといってよい。求職意欲喪失者数、経済的理由によるパートタイマーいずれもその水準は金融危機以前のレベルにまでは低下していない。しかし、FOMC委員による適正FF金利予測は、利上げ開始からFF金利の長期的均衡水準までの引上げに1年以上かかることを示唆している。その意味では、利上げは労働市場の余剰の縮小が金融危機以前の水準には戻らずとも、その傾向がはっきりした時点で開始するのが妥当といえるだろう。これらは、9月16、17日のFOMC定例会合で利上げ開始が決定されるとの当レポートの見方を支持するものである。

[第1図]
20150913図1

[第2図]
20150913図2

信用市場に緩和の兆しがみられる

インフレについても同様に、2%のFOMC目標への回帰につき「合理的な確信」が持てる状況に近い。資源価格下落に拘わらずコアインフレ率は安定的に推移している。FRBがインフレ指標として参照する個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の伸び率は7月時点で前年比+0.3%の低位にあるが、食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年比+1.2%と相対的に安定推移しており、エネルギー価格のほかの品目価格への影響は限定的である。世界同時株安を契機に原油価格が現在40ドル台にまで再び下落しているが、これ以上の下落がなければ総合PCEも来年初にかけて同+1.7%レベルにまで上昇すると筆者個人は見ている。

成長率も4-6月期(改訂値)に前期比年率+3.7%の強い伸びを示した。前年同期比では実質GDP成長率は5四半期連続で+2%を超える成長を続けており、かつ8四半期連続で潜在成長率(CBO推計ではこの間+1.6%)を上回っている。4-6月期時点の需給義ギャップは約-3.1%と計算され、この水準はまだ大きいもののその縮小傾向は明らかである。現状の需給ギャップとインフレ率をテイラー・ルール公式に代入すると、来年の1-3月期に0.7~1.0%のFF金利水準が正当化される計算になる(9月2日付当レポート参照)。

FOMCの利上げの条件が整いつつあるもう一つの証跡は、信用条件の緩和である。まず消費者信用残高は、2015年4-6月期に前年比+6.6%と、名目GDP成長率(4-6月期で前年比+3.7%)を大幅に上回るペースで増加している。うち主に残高が増加しているのは自動車ローン、学生ローン等のノンリボルビングローンである。特に自動車ローンは、ここ約2年間で同8~9%と他の消費者ローンに比べても急激な増加を示している([第3図])。自動車ローンの信用条件がかなり緩和されてローン借入が容易になっていると考えられることに加え、低金利とガソリン価格下落が自動車販売を押し上げている。新車販売台数(乗用車及び軽トラック)は8月時点で年率17.7百万台と4ヶ月連続で17百万台台を維持している。年率17百万台は米国の自動車販売台数の一つの上値の目途とされており、自動車ローン及び自動車販売市場は飽和状態に近いところにまで拡大しつつあるともいえるだろう。また、金融危機以降現在まで残高減少が続く住宅ローンの信用基準も緩和に向かう兆しが見られる。7月のFRBシニアローンオフィサーサーベイによれば、GSE適格住宅ローンの信用基準を過去3ヶ月で緩和した銀行は全体の7%、やや下位のQM-Jumboローンは15%の銀行が信用基準を緩和している。この信用基準緩和については7月FOMC議事録でも言及されている。こうした信用市場の緩和方向の開始も、早期の利上げ開始を正当化する材料となるはずである。

[第3図]
20150913図3

世界同時株安のファンダメンタルズへの直接影響は限定的

次に、8月に始まった世界同時株安のFRB金融政策への影響を考える。NYダウは11日現在で16433ドル、同時株安直前の8月17日終値17545ドルから約-6.3%の下落で、水準的には2014年10月頃のレベルに相当する。株価水準の米国実体経済への影響のみの観点からはこの株価水準は利上げ開始のハードルとはならない。株価や住宅等の資産効果が比較的大きいとされる米国個人消費においても、実質個人消費の株価に対する弾性値は0.02と低く、-6%の株価下落は個人消費-0.12%の低下、-10%の株価下落でも個人消費への影響は-0.2%に留まる。テクニカルには、筆者個人はNYダウが15000ドルを大きく下回らない限り株価は再び上昇基調に回帰するとみており、その限りでは世界同時株安は一時的事象と見做せるだろう(8月27日付当レポート参照)。

本来金融政策は株価の一時的変動に左右されるものではなく、より長期的なファンダメンタルズに基づくべきものとすれば、今回の株安が一時的なものであれば、早期の利上げ開始のハードルとはならないであろう。イエレン議長は「年内の利上げ開始が適切となる可能性が高い」との見通しを直近の7月15日議会証言でも繰り返している。短期的な市場変動を理由に長期的な金融政策方針を変更することは中銀金融政策への信頼維持のためには回避することが望ましい。FOMCとしては当初のファンダメンタルズに基づく金融政策の行程見通しを可能な限り維持するであろう。

世界同時株安の発端となった中国株の急落もそれ自体は今後の世界経済にとっての本質的な事象ではなく、その背景にある中国経済ファンダメンタルズ悪化に対する市場の懸念の表面化に過ぎない。中国経済ファンダメンタルズ悪化の世界経済への影響の波及経路が本来的には金融政策を決定付ける要素である。ここで、米国と中国の経済の連関を見てみよう。米国の中国に対する財・サービス収支赤字は継続的に拡大している([第4図])。2014年の米国の対中輸出は1672億ドルで、輸出相手国としてはNAFTA加盟国であるカナダ、メキシコ次ぐ第3位、総輸出額2兆3432億ドルの約7.1%程度である。米国の対中輸入は4823億ドルで、輸入相手国としては最大で(カナダ、メキシコがこれに次ぐ)、総輸入額2兆8515億ドルの16.9%を占める。対中財・サービス赤字は3151億ドルで、これは米国の財・サービス赤字5083億ドルの6割以上に相当する。米国の主な対中国輸出品目は大豆、航空機、自動車など特定の品目に限られている。一方主な中国からの輸入品目はコンピューター及び関連部品、通信機器、携帯電話など主にハイテク関連の完成品である。同時株安によりドル高と資源価格の下落が進んだ場合、中国に対して輸入超過である米国経済にとっては輸入物価の低下によりネットでは有利な状況となる。米国単体で考えた場合、中国経済の減速も利上げ開始の大きなハードルとはならないといえるだろう。

[第4図]
20150913図4

同時株安の評価はまだ不確実、FOMC内勢力図もハト派が優勢

しかしながら一方で、以下の通り金融市場を通じた世界同時株安の経済への影響や、FOMC委員特に投票権を持つメンバーの発言等の状況証拠には無視しえないものがある。中国株下落と世界同時株安そのものが実体経済に与える影響は限定的と考えられる一方、同時株安発生から1ヶ月後の9月定例FOMCではその経済見通しへの影響が十分にされていない可能性は高い。NY連銀ダドリ―総裁は、8月26日の講演で記者の質問に答えて「金融政策正常化は我々が追加的な情報を得られる時期に会合においてより必須なものとなり得る」と述べ、個人的には9月利上げの可能性が低下したとの見方を示した。一方、フィッシャーFRB副議長は8月28日のメディアインタヴューで「(株価下落の影響について)判断するのは時期尚早」と述べ、また29日のカンザスシティ連銀主催ジャクソンホール経済シンポジウム講演では「金融政策は大きな時間ラグをもって実体経済に影響を与える」と述べた。これは市場には年内利上げの可能性を残したものと受け取られた。しかし、ジャクソンホールにおけるインタヴュー等で複数のFOMC委員が9月利上げ開始に慎重ともとれる発言をしている(ミネアポリス連銀コチャラコタ総裁、クリーブランド連銀メスター総裁、アトランタ連銀ロックハート総裁、セントルイス連銀ブラード総裁など、うちロックハート総裁は投票メンバー)。FOMCで現在投票権をもつメンバーのうち明らかにタカ派と見られるのはリッチモンド連銀ラッカー総裁のみである(ラッカー総裁は4日の講演で「米経済データは早期の利上げを正当化するもの」「最近の金融市場の動向は金融政策に影響を与えない」と述べている)。利上げ中立派ながら利上げ支持を以前に表明していたロックハート総裁が同時株安以後やや慎重なスタンスに転じた(「9月の利上げについてはなお議論の余地がある」)ことは、FOMC内勢力図がよりハト派優勢に回帰したことを示唆するものである。

更に、5日のG20財務相・中央銀行総裁会合の共同声明において名指しはさけつつも「経済見通しの改善に合わせ、いくらかの先進経済においては金融政策引締めの可能性がより高いことを我々は認識した」と米国の利上げの可能性に言及されたことの背景には、米国利上げをけん制する動きがあったと報道されている。イエレン議長のこれまでの発言等からは、FRBの金融政策は米国経済についての雇用最大化と物価安定を目標とするものであって海外経済への影響は一義的なゴールではないとのスタンスが憶測できる。その意味では米国利上げに対する海外からの牽制にFOMCが直接に影響される可能性は低いと見たい。しかしながら現実的に世界同時株安の影響の波及状況が16~17日のFOMC会合時点で十分に評価できない可能性はあり、結果的にその影響見極めまで利上げ開始見送りとのハト派委員の判断は十分にあり得るといえるだろう。利上げを正当化する立場からは利上げ開始の1回の遅れは致命的ではないが、金融市場の不確実性への配慮から利上げを見送る立場からは1回の利上げの前倒しが致命的になるリスクが高いことも、利上げ見送りを支持する環境を作っている。

以上より、9月FOMC定例会合における利上げ開始決定との個人予想は維持するものの、この予想は後倒しリスクを相当に孕んでいると考えざるを得ない。利上げ決定の可能性はほぼ50%に近いところにまで低下していると今や見る。ただし9月利上げ見送りの場合でも、NYダウが15000ドルのテクニカルな節目を大きく下回らないことを条件に、年内には利上げが開始されると見ておきたい。

スポンサーサイト



コメント

トラックバック