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<経済レポート> 年内利上げ予想は維持:9月FOMC利上げ見送り

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FOMCは9月16、17日の定例会合で利上げ開始決定を見送った。しかし、FOMCの使命である雇用とインフレに関する経済指標は、利上げ開始の条件を既にほぼ満たしていると引き続き見る。ついては、年内利上げ開始との見方は維持し、FOMCが年内1回利上げののち1会合おきに利上げを実施して2016年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%とすることを新たな筆者の個人予想とする。一方で、いわゆる世界同時株安を契機とする金融市場の更なる悪化や資源価格の更なる低下は下方リスク要因である。企業と消費者の景況感に関する指標は先行指標として注目しておきたい。

FOMCは9月利上げを見送った

FRB連邦公開市場委員会(FOMC)は16、17日の定例会合で、9月利上げ開始を見送る決定をした。筆者は、筆者個人の9月利上げ開始予想に既に後倒しリスクを相当に見込んでいたが、このリスクが示現したことになる。当レポートでは、FOMCの声明文、FOMC委員経済予測、イエレンFRB議長記者会見の内容を分析して利上げ見送りの背景を探るとともに、今後のFRB金融政策個人予想を改めて設定することとする。

まず、17日のFOMC声明文の内容を見る。声明文では、経済活動につき「緩やかに拡大」と基調判断を据え置いた。労働市場についても「労働資源の余剰は低減した」と前回7月声明文と同様に労働市場の改善を評価している。しかしながら、「市場ベースのインフレ予想は低下した」とし、更に「最近のグローバルな経済と金融動向は経済活動を幾分抑制するかもしれず、短期的にインフレに更なる下方圧力をもたらす可能性が高い」と8月のいわゆる世界同時株安の動向に関する1文を挿入した。更に、経済見通しのリスクは「ほぼバランス」としながらも「(委員会は)海外の動向を監視している」と海外経済にも新たに言及した。その上で「委員会は0‐0.25%のFF金利目標レンジがなお適切である」と従前通りの文言で金利据え置きを表明した。なお、決定に当たってタカ派と見られるリッチモンド連銀ラッカー総裁が0.25%の利上げを主張して反対票を投じている。

次に、声明文と同時に公表された9月時点の四半期FOMC委員経済予測を見る([第1表])。FOMC委員による実体経済に関する予測は、前回の6月時点の予測に比べ大幅な変化はない。2015年の成長率予測は足元4-6月期の大幅な成長加速(改訂値で前期比年率+3.7%)を反映していくぶん上方シフト、失業率は足元の失業率低下を反映してわずかに下方シフトした。PCEインフレ率予測については、2015年末で総合PCE前年同期比+1.4%、2016年末で同+1.7%。また2%の総合PCEインフレ目標は2018年において達成されるとの予測になっている(数値はいずれも中央値)。

[第1表]
20150921表1

FOMC委員の利上げ予測は下方シフト:見送り理由は「労働市場」と「インフレ率」

FOMC委員の金融政策に関する予測についてはやや下方シフトがみられる。2015年中の利上げ開始を適切とする委員は13人で前回の15人から減少、2016年、2017年を適切とする委員がそれぞれ3人、1人で、前回の2人、0人から増加している([第1図])。また適正なFF金利誘導目標(レンジ中心値)予測の中央値も、2015年末が0.375%(6月予測0.625%)、2016年末が1.375%(同1.625%)とそれぞれ0.25%下方シフトしている([第2図])。これらの予測中央値通りにFF金利誘導目標が引き上げられるためには、年内に0.25%の利上げが1回実施され、来年に更に4回の0.25%利上げが実施される(FOMC定例会合1回おきの利上げ実施)ことが必要となる計算になる。総じて、6月時点で年内2回利上げと来年の4回利上げが予測中央値だったのに対し、9月予測では年内利上げ回数が1回に減少したことが変化要因である。ここから見る限りは委員の予測に本質的な変化はなく、その多数は年内利上げ開始とその後1回おきの利上げ実施という予測を維持していることになる。

次に、声明文と経済予測公表直後に実施されたイエレンFRB議長の定例記者会見内容から、利上げ見送りの経緯と今後の見通しをさらに近づいて見ることにする。イエレン議長は記者会見の冒頭発言で「海外の見通しは最近更に不確実になったと見え、中国や他の新興経済の成長への高まった懸念が金融市場の著しい変動につながった」「これらの動向は米国経済活動をいくぶん制約するかもしれず、短期的インフレに更に下方圧力をもたらす可能性が高い」「米国と海外の経済と金融の重大な相互関係に鑑みれば、海外動向の注視が必要」とのべた。いわゆる世界同時株安の影響につき、声明文・議長発言ともに、米経済全体に与える悪影響については「かもしれない(may)」程度と見ているのに対し、インフレへの下方圧力については「可能性が高い(likely to)」として、インフレ率への悪影響をより強く見ていることが示唆されている。

また同じく冒頭発言でイエレン議長は「会合で我々は(今回会合での利上げの)可能性を議論した」「しかし、海外の高まった不確実性とインフレ予想の軟化に照らし、委員会は、労働市場の更なる改善と中期的にインフレが2%に上昇する確信を支持する更なる証跡を待つのが適切と判断した」と述べた。ここまでの発言は、あくまで今後の利上げ開始の判断は「労働市場」と「インフレ率」であることを示唆している。

[第1図]
20150921図1

[第2図]
20150921図2

イエレン議長は最近の金融経済動向の米国への影響の可能性にも一部言及

しかし、記者会見における質疑応答ではFOMCの使命たる雇用とインフレ以外の論点に関する議長の発言もいくつかみられる。まず、いわゆる世界同時株安が米経済に与える影響を見極めるのに何ヶ月もかかるのではとの趣旨の質問に議長は「ほとんどの参加者は年内利上げを適切と見ている」「金融市場の動向が米国に与える影響を見極めるのにあと少しの時間(a little bit more time)がほしい」と答え、あくまで委員予測は年内利上げを適切と見ているとの委員会としての見方を繰り返した。また別の場面では「労働市場ののしりろが長期間存在していることは少なくとも私個人の従前からの見方であった」と述べ、同時株安にかかわらず労働市場ののりしろの存在が利上げ見送りの重要な要因であることをも示唆した。また金融動向が「インフレに関する確信を著しく阻害するものとは解釈していない」とも述べ、同時株安の影響が一時的なものであるとの個人的な見方を示唆した。

一方で、中国や新興国経済減速の米国経済に対する悪影響についてイエレン議長は、かかるリスクをある程度見ていることを示唆する発言をしている。「我々は、グローバルな経済と金融の動向が、我々の2つの目標(雇用とインフレ)見通しのリスクに如何に影響を与えるかを自らに問うている」「グローバルの動向については、、、特に中国と新興国に焦点を当てている」「リバランスに伴う中国経済成長減速はほとんどのアナリスト同様に我々も既に予想しており、、、これはサプライズではない」「多くのアナリストが予想する以上の重大な減速が起きるかどうかが問題」、また商品価格下落についてはカナダのように資源国かつ米国の貿易相手国に対する悪影響の可能性を見ているとの趣旨の発言をしている。

なお、(IMFなど)外部からの利上げけん制については「データを分析して見通しへの影響を決定するのは委員会の仕事」と述べ、外部圧力による決定への影響を否定した。また為替についても利上げが結果的にドル高をもたらすことで米経済に影響を与えることはあるが、為替自体がFOMCの操作目標ではないことも明言した。

「労働市場」「インフレ率」はほぼ利上げの条件を満たしていると引き続き見る

以上を総合してみると、9月定例会合での利上げ見送りの表面上の判断は、あくまで労働市場の余剰の解消が十分でないとの判断、及びいわゆる世界同時株安を契機とするインフレ率上昇に対する確信のいくらかの低下を判断材料として行われたことになる。一方で声明文やイエレン議長の発言テキストには明示されてはいないものの、中国や新興国経済の減速が米経済ファンダメンタルズに与える影響も今後の判断材料となり得るといえるだろう。

8月のいわゆる世界同時株安以降の経済・金融動向が米経済に与える影響を示唆するデータはまだ多くないが、そのいくつかを見てみる。まずインフレ率については、声明文にも言及されている通り米国債とインフレ連動米国債のスプレッド(TIPSスプレッド)に見られる市場の予想インフレ率がここ2ヶ月間の間にいくぶん低下している([第3図])。しかし、この変動はイエレン議長自身も指摘する通り国債市場の需給要因などにも左右されやすくまた最近の変動はさほど著しいものとは言えない。一方でミシガン大学消費者センチメント調査における予想インフレ率(12ヶ月後)は9月速報時点で2.9%(前月比+0.1%ポイント)と、6ヶ月ぶりの高水準にむしろ上昇している。8月の消費者物価指数(CPI)は前月比-0.1%低下したものの、食品及びエネルギーを除くコア指数は同+0.1%と上昇を継続しかつ前年比伸び率は+1.8%と相対的に高水準で安定している。原油価格が現状の1バレル=40ドル台を下回らない限り、総合CPIの伸び率も来年初には+1.8%レベルに上昇すると筆者個人は見ている(9月20日付<経済指標コメント>参照)。その意味ではインフレ率は利上げの条件をほぼ満たしているといえる。

労働市場ののりしろについては、イエレン議長自身も述べているように議長個人の学説と政策が相対的にFOMC政策により強く反映されているように見える。9月13日付当レポートで見たように、イエレン議長が重視する労働市場ののりしろを表す指標は、金融危機以前の水準には及ばすとも確実に改善を続けている。金融政策が実体経済に影響を与えるまでの時間のラグを勘案すれば、既に労働市場についても利上げ開始の条件が整っていると考えてよいだろう。労働市場に代表される需給ギャップとインフレ率を変数とするテイラー・ルールによる適正FF推計も、年内利上げ開始を支持している(9月2日付当レポート参照)。

[第3図]
20150921図3

年内利上げ個人予想を維持する:リスク要因は海外経済と景況感

海外経済(中国と新興国経済)の米国経済への影響の予想は相対的には困難である。米国経済といくつかの海外経済(中国・カナダ・日本)との過去25年間の相関を見たのが[第4図]である。これによれば米経済成長率は、たとえば隣国かつ北米自由貿易協定(NAFTA)圏内にあるカナダ経済との相関が高い。一方で日本経済との相関は低く、中国経済との相関は数字の上ではほとんど見られない。米国が対中国でネット輸入国であることからは、中国単体の経済変動が米国に直接影響を与える度合いは限定的と考えられる。一方でイエレン議長も指摘するとおり、中国経済の想定以上の減速が新興国からの資金流出を通じて世界的な金融市場混乱をもたらす場合や、中国からの資源需要減退による商品価格の更なる低下による資源国経済悪化を通じて米国経済に影響を与えるリスクは十分にある。これらの影響を本来的に見極めようとすれば、今後数ヶ月分の経済指標の点検が必要なり、年内利上げ予想に対する後倒しリスク要因となる可能性がある(今後のFOMC日程は[第2表]参照)。

更に、一般に経済の先行指標とされる企業景況感指数や消費者センチメント指数を見ると、世界同時株安後に若干の悪化傾向がみられるのも事実である。NY連銀製造業景況感指数とフィラデルフィア連銀製造業景況感指数は8月もしくは9月に大幅低下しており、9月時点ではいずれもが景気判断の分かれ目を下回るマイナス領域に転化している([第5図])。フィラデルフィア連銀指数は現況指数の低下(9月時点で-6.0ポイント)に拘わらず将来指数(同44.0ポイント)は高水準かつ前月比上昇しており、世界同時株安が企業景況感に波及しているとの十分な証跡とは言えない。しかし海外経済懸念から企業景況感が悪化し設備投資意欲が更に軟化するリスクは引き続き見ておくべきだろう。消費者センチメントは依然高水準にあるものの、やや一服感もみられる。ミシガン大学消費者戦センチメント指数(9月速報)は85.7ポイント(前月比-6.7ポイント)と大幅かつ3ヶ月連続低下している([第6図])。筆者個人は、8月小売売上高が依然堅調な拡大を示していることなどから個人消費は年後半も+2%台後半~+3%の強い拡大を継続すると予想しているが、ここにも下方リスクの兆しが垣間見えることには留意しておきたい。

以上より、FOMCが年内に1回の利上げを実施しその後1会合おきに利上げを実施して2016年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%とする、との見方を筆者個人の新たな予想とする。FOMCが重視する雇用とインフレについては利上げ開始の要件をほぼ満たしているとの考え方から、9月の利上げ見送りにかかわらず年内にFOMCが利上げ開始を決定するとの見方は維持する。またFOMC委員予測の傾向から、来年の利上げペースは1会合おきに0.25%との従前の見方も維持する。これらは、9月13日付当レポートにおける「後倒しリスク」シナリオの見方と整合的である。一方で、短期的には金融市場の更なる混乱や資源価格の更なる下落、及び企業と消費者の景況感を表す指標の悪化継続を、この新たな予想に対するリスク要因と見ておきたい。

[第4図]
20150921図4

[第2表]
20150921表2

[第5図]
20150921図5

[第6図]
20150921図6


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