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「2年で2%」再考~期待インフレ率の効果

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日本では期待インフレ率のデータに相応の制約がある。しかし、いくらかの仮定のもとでの分析によれば、期待インフレ率を引き上げることで実際のインフレ率を上昇させることができるとの結果がでた。もっとも計算上今の立ち位置から実際のインフレを2%に引き上げるまでにはかなりの距離がある。労働市場流動化など更なる方策によるデフレ脱却実現に期待する。

インフレ率の決定要因に期待インフレ率を追加する

5月4日付当レポートでは、日本の需給ギャップとインフレ率の相関だけからは「2年で2%」のインフレ率の達成は困難と見ざるを得ないことを論じた。同時に、インフレ期待を高めることやフィリプス曲線を上方シフトさせることにより2%達成の可能性はあると述べた。

日本銀行は4月26日の「経済・物価情勢の展望」で、「消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間の後半にかけて『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高いと見ている」と述べている。ここでは日銀は消費者物価の前年比(インフレ率)の主な決定要因として「需給ギャップ」と「予想物価上昇率」(期待インフレ率)の2つを想定している。

本レポートでは、需給ギャップに加え期待インフレ率を決定要因とした場合の実際のインフレ率への影響を考察する。

期待インフレ率を物価連動国債利回りから求める

日本の期待インフレ率の指標として、10年物利付国債利回りと10年物物価連動国債から求められるブレークイーブンインフレ率〔=(物価連動国債利回り)-(利付国債利回り)〕を用いる。10年物物価連動国債の発行が開始された2004年から、発行が停止された2009年までの間は、ブルームバーグ社が集計・公表するブレークイーブンインフレ率を用いることとする。

2008年をもって日本では一旦物価連動国債の発行が停止された。従って、2009年以降の期待インフレ率の算定には制約が生じる。一般に、2009年以降のブレークイーブンインフレ率としては2008年に最後に発行された10年物物価連動国債第16回債と、10年物利付国債第293回債の利回り差が用いられる。本レポートでもこれに倣うこととする。

こうして求めた、2004年から2012年までの四半期ごとの期待インフレ率と、同期間の需給ギャップ、実際のインフレ率(生鮮食品を除く消費者物価指数前年比の伸び)をグラフにしたのが[第1図]である。

[第1図]
20130518図1


期待インフレ率と実際のインフレ率の相関

まず、期待インフレ率とインフレ率の間の相関関係を見てみる。単純に両者の相関を計算しても、、決定計数R^2は極めて低く、両者の間にはほとんど相関関係が認められない([第2図])。

期待インフレ率が実際のインフレ率に影響するには相応のタイムラグがあるとみて、実際のインフレ率を2四半期遅行させて回帰してみると、決定計数は若干上昇するものの、有意な相関関係は認められない([第3図])。

次に、期待インフレ率と需給ギャップを外生変数、インフレ率を内生変数とする重回帰分析を行う。上記及び5月4日付当レポートの結果から、インフレ率を2四半期遅行(需給ギャップと期待インフレ率を2四半期先行)させて回帰を行ってみると、期待インフレ率はインフレ率の決定要因として統計的に有意とならなかった([第1表]の①)。期待インフレ率をインフレ率と同じく2四半期遅行させても同じく有意とはならなかった([第1表]の②)。


[第2図]
20130518図2


[第3図]
20130518図3


[第1表]
20130518表1


いくつかの条件のもとで期待インフレ率は有意なインフレ決定要因になる

そこで、期待インフレ率の数値に多少の補正を試みる。[第1図]を見ると、期待インフレ率は概ねインフレ率に先行する動きを示しているものの、2007年後半から2008年前半にかけてインフレ率が急上昇した局面において、先行指標としてこれを捕捉していない様子が読み取れる。2007年後半から2008年前半は、原油価格の急騰で世界のインフレ率が急上昇した時期である。原油価格の高騰が急激であったため、期待インフレ率の上昇がこれに十分についていけなかった、という想定は成り立つ。

そこで、2007年第3四半期~2008年第2四半期のデータを外れ値としてこれらを除いたデータで回帰してみると、期待インフレ率とインフレ率の相関関係は一気に強いものとなった([第4図])

また、需給ギャップ、期待インフレ率にこの4四半期についてダミー変数を加えてみた。重回帰分析の結果、定数項がほぼゼロの回帰式が求められ、これらの外生変数のいずれもが統計的に有意な決定要因となり、かつこの3変数で実際のインフレ率の80%以上を説明できるとの結果になった(上記[第1表]の③)。

以上より、いくつかの制約条件つきではあるが、日本においても期待インフレ率が実際のインフレ率に影響を及ぼしているとの結果になった。つまり期待インフレ率を引き上げることにより、実際のインフレ率を上昇させることは可能と考えてよい。期待インフレ率を引き上げることはデフレ脱却の有効な手段の一つだといえる。

[第4図]
20130518図4


実際には2%インフレまでには距離

ただ、今の環境では、2年で2%のインフレ実現には依然として困難が伴う。[第1表]によれば期待インフレ率のインフレ率に対する回帰係数は約0.26、[第4図]によれば回帰係数は0.53程度である。つまり、インフレ率を1%引き上げるにはその2~4倍のインフレ期待を起こさせる必要があることになる。

[第1表]の③の回帰式より、2%のインフレ率を実現するための需給ギャップと期待インフレ率の組み合わせを示したのが[第5図]である。2012年第4四半期現在の両指標の実績値(需給ギャップ-3.1%、インフレ期待0.67%)と比較すると、2%インフレ実現にはかなりの距離があることになる。たとえば、現在約-3%の需給ギャップをゼロにまで縮小させたとしても、2%のインフレ率実現には期待インフレ率を+8%近くにまで引き上げねばならない計算になる。

[第5図]
20130518図5

2%実現のための方策

この困難の克服のためには、需給ギャップとインフレ率の関係、期待インフレ率とインフレ率の関係そのものをシフトさせることが必要である。5月4日付レポートで述べたように、「需給ギャップとインフレ率の関係」を別の切り口でみた「失業率と賃金の関係」をシフトさせ(「フィリプス曲線の上方シフト」)、失業率の低下に対する賃金の反応を大きくする方策を探ること、労働市場の流動化を図ることなどが、量的・質的緩和を成功させる鍵になりそうだ。


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