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<経済レポート> 需要はまだある:米住宅市場需給

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米住宅市場が販売・着工ともに活況である。金融危機後数年間の住宅着工減少と、ここ数年間の世帯増加ペースの再加速もあり、潜在的には住宅市場の需給はタイトな状況にある。一方で、持家比率の低下とその背景と考えられる厳格な住宅ローン信用条件が住宅需要を出口で抑制する要因となっている。ただ、信用条件には緩和の兆しも見られることから、今後も米住宅市場は堅調な拡大を継続すると見る。

住宅市場は販売・着工ともに好調

米住宅市場関連指標の改善が目立っている。販売市場では、7-9月期の中古住宅販売戸数が年率5477千戸と、2007年1-3月期以来8年半ぶりの高水準になった。中古住宅の在庫期間は、標準的とされる6ヶ月を下回る状態が続いており、需給はかなりタイトだといえる。しかしながら一方で住宅価格の上昇ペースは適度である。S&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は8月時点で前年比+5.1%の伸びに留まっており、中古住宅在庫期間との相関から推計される上昇率(筆者推計では同+11%レベル)をかなり下回っている。これは消費者にとっては住宅を購入しやすい環境であるとともに、住宅市場の需給タイト感にも拘わらずバブルの兆候はないことの証跡と見ることができる。

需給がタイトな中、住宅の供給すなわち住宅着工戸数も好調に増加している。7-9月期の着工戸数は年率1163千戸と、2007年10-12月期以来の高水準に回帰している。GDP統計上の実質住宅投資は7-9月期に前年比+8.9%の伸び、4四半期連続で+8%台の安定した拡大を続けている。しかしこの伸び率は2004年頃の住宅バブル期の+10%を超える伸びに比して緩やかである。

これらの状況から、住宅市場は今後も安定的な拡大を続ける可能性が高いと見ることができる。以下では、マクロ環境も含めた住宅需要の状況を見ていくこととする。

[第1図]
20151108図1

住宅資本のネットストックは金融危機以降頭打ち状態

[第2図]は米国の世帯増加数と住宅着工戸数の関係を見たものである。これによれば、2000年代前半頃までは世帯増加数と住宅着工戸数がほぼ見合っていたが、2006年頃の住宅バブル最盛期には世帯増加数の減速にも拘わらず住宅着工がこれを上回って増加していた。住宅バブル崩壊から金融危機の間は世帯増加数が減速する伴い住宅着工も減少したが、総じて着工が世帯増加数を上回っていた。しかしながら、2010年以降世帯増加数が再び加速すると今度は住宅着工が世帯増加数を下回り、そのまま現在に至っている。2014年時点の5年移動平均は、世帯増加数が前年比+1209千世帯、住宅着工戸数が同+782千戸、差引-428千戸の着工戸数過小になっている。少なくとも過去5年間においては、住宅着工戸数が世帯数の増加に追いついていない、つまり住宅建設市場が需要超過になっている可能性が憶測できる。

次に、GDP統計上の住宅投資のストックの推移を見る。[第3図]は住宅資産ネットストックとその対GDP比率の推移である。住宅資産ネットストックは2000年代前半には前年比+2~3%のペースで増加していたが、住宅バブル崩壊後の2000年代後半からほぼ横ばいに転じた。2013~2014年にはやや持ち直して同+0.6~0.7%の伸びになっている。住宅資産ネットストックの対GDP比率は2009年の109.5%をピークに低下を続け、2014年時点では2000年代以降最低の100.5%にまで低下している。住宅資産のストックは2000年時点と比較しても低位にあり、潜在的な供給が過小である可能性を示唆している。なお米国勢調査局によれば、2014年時点の全米の世帯数は1億2323万世帯、住宅戸数は1億3396万戸であり、数の上では住宅戸数が世帯数を約8.7%上回っているが、この住宅戸数余剰幅は2010年時点の12.1%を下回るものである。

住宅着工が2010年代以降増加しているにもかかわらずネットストックが増加しないのは、統計上常に住宅の資本減耗がストックのマイナス要因として計上されているからである。GDP統計上、毎期住宅ネットストックの約-2.4%が資本減耗計上されており、グロス住宅投資から資本減耗を差し引いたネット住宅投資は2009~2011年の間はほぼゼロに近い。ネット住宅投資は2014年時点で1066億ドルと、2005年のピークの約5分の1にとどまっている([第4図])。以上から、米国では世帯数増加ペースや経済規模に比して住宅建設や住宅資本が過小で、潜在的には住宅需要は供給よりも大きいと考えられる。

[第2図]
20151108図2

[第3図]
20151108図3

[第4図]
20151108図4

住宅市場の需給を表す指標は需給の引き締まりを示唆している

住宅需給を決定する他の要因は次の通りである。まず、持家比率(占有住宅総数のうち持家保有者により占有されている住宅の割合)は2004~2005年の69%台をピークに一貫して低下傾向を辿っており、今年の7-9月には63.5%と90年代以降で最低の水準にある([第5図])。持家比率の低下は、消費者の住宅購入意欲の低下の反映ともいえ、結果的に住宅着工戸数を抑制する要因になる。

持家保有が拡大しない要因として、住宅ローンの残高の伸び悩みがある。FRBの資金循環統計によれば、2015年4-6月期時点の住宅ローン残高は88.7兆ドルで、2013年以降ほぼ横ばいにとどまっている([第6図])。金融危機以降減少の一途をたどった住宅ローン残高は、底入れしたとはいえまだ増加には転じていない。銀行の信用条件がまだ相対的に厳格であることが住宅ローンの伸びを抑制している要因であると推測できる。

次に、持家と賃貸住宅それぞれの需給を示す空室率の状況を見る。空室率は持家・貸家いずれも2010年以降一貫して低下傾向にあり、住宅市場の需給が持家・賃貸いずれもタイト化を続けていることが示唆されている。特に貸家空室率は今年の4-6月期に6.8%、7-9月期に7.3%と、90年代の標準である8%を下回るレベルにまで低下しており、賃貸市場においてより需給がタイトであることが示唆されている([第7図])。また、住宅売買市場の需給を表す在庫期間も、売買市場の9割を占める中古住宅市場において9月時点で4.9ヶ月と、標準とされる6ヶ月を大幅に下回っている。住宅販売市場の需給も極めてタイトだといえる。

[第5図]
20151108図5

[第6図]
20151108図6

[第7図]
20151108図7

持家比率低下が住宅投資の抑制要因:信用条件は緩和の兆し

ここで、人口要因、持家比率要因、賃貸需給要因(貸家空室率)、販売需給要因(中古住宅販売在庫期間)の4つの決定要因を外生変数として、GDP統計上の実質住宅投資の要因分解を試みる。結果は[第8図]、[第1表]の通りである。ここからは、持家比率が住宅投資の重要な決定要因となっていて、同比率の低下が住宅投資の押し下げ要因となっていることがわかる、一方販売需給、賃貸需給は、上記の通りまだタイトな状況であるが、2015年に入ってからタイト化ペースが減速した(在庫期間は低位ながら2012年以降はほぼ横ばい、貸家空室率は7-9月期に+0.5%の大幅な上昇を示した)ことから、実質住宅投資押し上げ効果は直近では低減している。

上記の要因分解からは、今後の米住宅市場はタイトな需給を反映して今後も堅調に拡大するものの、持家比率の低下を主因として、過度な増加ペースになることはなさそうだといえる。背景として、住宅ローン残高の増加の兆しが見られないことが、持家保有を通じた住宅投資に対する抑制要因となると考えられる。米住宅市場は潜在的な需要に牽引されて拡大を続けているが、今のところバブルな要素は数値上も状況証拠上もなく、適度な拡大スパイラルを描きつつあるといえるだろう。

なお、住宅ローンの信用条件については一部にこれを緩和する動きも見られる。10月時点のFRBシニア・ローンオフィサー・サーベイによれば、住宅公社保証適格の住宅ローンの信用条件を過去3ヶ月間に緩和したとする回答が全体の12.1%を占め、この割合は前回7月調査の11.3%を上回っている。住宅価格の回復と個人所得の増加に伴い、住宅ローンの信用条件はこれまでの厳格化方向から徐々に緩和方向に転じつつある。この傾向が適度に継続すれば、消費者の持家保有意欲が上昇し、住宅市場はより加速したペースでの拡大も可能である。2015年通年のGDP統計上の住宅投資は前年比+8%強の伸びとなり、昨年の同+1.8%の不振から大幅に加速する結果になる見込みである。2016年については、2015年の加速の反動による減速を見込んでも、信用条件の緩和により住宅投資はほぼ同じく、10%をやや下回るペースでの拡大を続けると個人的には見ている。こうして住宅供給が拡大すれば、住宅価格の伸び率も前年比+10%を下回る適度なペースでの上昇に留まると見たい。

[第8図]
20151108図8

[第1表]
20151108表1


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