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<経済レポート> 対話の言葉は「次回会合」:10月FOMC議事要旨

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10月FOMC定例会合の議事要旨からは、投票メンバーが12月利上げ開始を適切と見る強い意図をもって声明文を変更したことが読み取れる。筆者個人の12月利上げ開始予想と整合的な内容であるとともに、その後に公表された経済指標もこの個人予想を更に支持するものである。12月15-16日のFOMCで0.25%の利上げ、その後1会合おきに利上げが実施され、2016年末のFF金利誘導目標レンジを1.25-1.50%とする個人予想を維持する。

労働市場の累積的改善を評価する意見が優勢:10月に雇用は改善済

FRB連邦公開市場委員会(FOMC)は10月27、28日の定例会合でFF金利誘導目標レンジ引上げを見送ったが、声明文には「次の会合で(FF金利)誘導目標レンジを引き上げることが適切かどうかを決定するにあたり、、」との文言を新たに採用、12月利上げ開始の可能性を示唆した(11月1日付当レポート参照)。18日に公表された同会合の議事要旨からは、労働市場、インフレ率、金融市場変動の影響、そして適切な利上げ開始時期とその後のペースについての議論の経緯が読み取れる。本レポートではこれらの項目に沿って、12月利上げ開始との個人予想の点検を行う。

まず、労働市場と賃金について。10月定例会合時点で雇用統計は9月分まで公表済で、公表時点では同月の非農業部門雇用者数が前月比+142千人に減速していた。これを踏まえた10月FOMCの議論では、多数の(a number of)参加者が「最大雇用と完全に整合する労働条件には更なる進捗が必要」と述べ、10月利上げは時期尚早との意見で概ね一致している。ハト派的意見として数人の(several)参加者から「最近の労働市場統計は労働市場見通しの不確実性を増した」との慎重な見方もあった。しかしながら、他の(others)参加者は「最近の広範囲な労働市場指標は余剰の更なる縮小を示唆していると見ており、また今年初めからの労働市場の著しい累積的改善の重要性を強調した」とされた。またいくらかの(some)参加者は「労働市場の余剰は無いか僅少と判断」したと述べた。また「9月の雇用増ペースは労働市場余剰の安定か縮小を示すペースを上回っている」「雇用増加の減速は労働市場のタイト化の証跡」として、9月雇用統計結果をも労働市場余剰縮小の証と見做す意見もあった。数の上では(つまり数名のseveral参加者を除いては)、9月雇用統計時点でもなお労働市場は改善しているとの意見が優勢だったといえる。また賃金上昇率については、多数の(a number of)参加者が「緩やかな賃金上昇率は、、生産性上昇率の低下が労働市場余剰による賃金上昇圧力を相殺したことの反映」と、当レポート同様の意見(5月11日付当レポート参照)を述べているほか、「企業コンタクト先のいくらかは、採用の困難さが増して賃金上昇圧力になっている」ことが多数の参加者から報告された。

10月会合時点で一部に見られた労働市場余剰と賃金についての懸念は、その後公表された10月雇用統計でほぼ払しょくされたといえる。11月6日に公表された10月非農業部門雇用者数は前月比+271千人に急増した。また、心強いのは賃金上昇率の加速である。10月の時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)の前年比上昇率は+2.2%と、コア消費者物価指数の上昇率に歩調を合わせる形で昨年11月以来の水準に上昇した([第1図])。これは、失業率(10月時点で5%)が自然失業率(FOMC委員の9月時点の経済予測による長期均衡失業率中央値は4.9%)に接近したことで、賃金上昇率が加速を始めたことの証と見ることができる。

[第1図]
20151123図1

代替的インフレ指標は2%レベルの高水準を維持:原油価格・ドル高要因は一時的

次に、インフレ率についての議論を見る。議事要旨によれば、個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)、コアPCEデフレーターのいずれもが現状では2%のFOMCインフレ目標を下回っているとしながらも、「Trimmed mean PCE、同CPIのいずれもが、コアPCEインフレを上回って推移している」との指摘がされた。“Trimmed mean PCE”はダラス連銀が公表する指数で、PCEデフレーター構成費目のうち変動の大きい費目上位と小さい費目上位を除いて作成された指標である。同指標は9月時点で前年比+1.9%と推計されている([第2図])。同指標はかつてタカ派の代表であったダラス連銀フィッシャー前総裁(本年9月で退任、キャプラン現総裁と交代)がしばしば引用していた指標であり、今回の指摘も同連銀のキャプラン総裁、ないし同様にTrimmed mean CPIを公表しているクリーブランド連銀のこれもタカ派とされるメスター総裁によるものと想像される。また、何人かの(a few)参加者は「9月の消費者物価指数(CPI)データはインフレ率のいくぶんの強まりと整合的」とのべた。さらに参加者は、エネルギー価格下落やドル高によるインフレ率低下は「一時的」と見る点で一致している。総じてインフレ率についてもタカ派的見方が優勢だった模様だ。一方で、数人の(several)参加者からは、市場ベースのインフレ期待低下から「インフレの下方リスク」を見るハト派的意見もあったとされた。

更に、グローバルな金融市場の変動については「前回のFOMC会合以降後退した」とされ、8月の世界同時株安に端を発する金融市場変動は一旦終了したとの見方をFOMCはとっている。更に、信用スプレッド拡大、レバレッジドローンや不動産価格上昇、さらにプエルト・リコの財政問題も金融システムへの課題として議論されたが、いずれも金融市場へのシステミックリスクは限定的と評価されている。

これらの見方が現状でも妥当することは、10月FOMC会合後の指標等からも明らかである。会合後に公表された10月分コアCPIは前年比+1.9%と相対的に高水準の上昇率で推移しており、エネルギー価格等の一時的下落要因を除けばインフレ率はFOMCの目標である2%に近い水準で推移しているといえる(11月22日付<経済指標コメント>参照)。また、原油価格が1バレル=40ドルを超える水準が維持できれば、総合PCEデフレーターの伸びも来年には2%水準にまで上昇すると筆者は試算している。この観点からは、インフレ見通しはほぼ利上げ開始を正当化できるところにまで安定しているということができるだろう。金融市場については、NYダウは11月20日時点で17823ドルと、同時株安開始直前を上回る水準にまで回復している。小売売上はこの影響からか8、9月に一時低迷したが、10月にはわずかながら増加に転じており、またミシガン大学消費者信頼感指数も10月、11月と連続して上昇に転じている。これらは株価下落による消費マインドへの影響が一時的であったことを示唆している。

[第2図]
20151123図2

「次回会合」文言は12月利上げ開始示唆の意図で挿入された

最後に、利上げ開始時期とその後の利上げペースについての議論を見る。議事要旨によれば、ほとんどの(most)参加者は「彼らの現状の経済状況評価と経済活動及び労働市場の見通しによれば、(金融政策正常化開始の)条件は次回会合までに十分に満たされるだろうと予想した」とされている。この議事要旨においてはこの文言が12月利上げ開始を強く示唆するものの一つである。ただしその後に続けて、他の幾人かの(some)参加者は「12月までの情報ではFF金利誘導目標レンジ引上げを正当化する可能性は低いと判断した」と慎重な意見が記され、利上げ積極派と慎重派の意見が相応の紙数を割いて記されている。

早期利上げ積極派の意見として、多数の(a number of)参加者が、利上げ開始の遅れにつき「市場参加者にとっての不確実性を増す」「長期にわたる低金利政策後の金融市場の不均衡を更に増長する」リスクがあるとされたほか、「委員会の目的に向けた(利上げ条件に対する)進捗の評価はこれまの累積的な改善に照らして評価されるべきで、月次変動に重きを置きすぎるべきでない」との意見が出された。一方で、利上げ慎重派の意見として数人の(several)参加が「経済活動とインフレの明らかな下方リスクが残存している」「インフレ率が2%以下に長期間とどまった場合、時期尚早な利上げが委員会のインフレ目標への信頼を損なう可能性がある」と述べた。さらに「追加緩和の選択肢を示す」ことが健全との意見までもが数人の参加者から出されている。

しかしながら、声明文に「次回会合において利上げ判断」との文言を追加することについて議事要旨は「投票メンバーは、この文言変更が、決定はされていないものの次回会合において正常化プロセスを開始することが適切になるであろうとの意味を持たせるものであることを強調した」とした。声明文文言が単に利上げ開始判断に中立な意図でなく、12月利上げ開始を強く示唆する意図をもって挿入されたことがここから明らかである(もっともこの文言に対しても2、3名のa couple of投票メンバーから12月利上げを強く示唆しすぎるものとして懸念が表明された)。この議事要旨の記述こそが、投票メンバーの大半による12月利上げ予想を市場に発信する強い意図を反映したものと見たい。

12月FOMCでの利上げ開始予想を維持:一部ハト派メンバーは反対の可能性も

以上より、12月15、16日の定例会合でFOMCが0.25%の利上げを実施するとの従前の筆者個人予想を維持する。また議事要旨内で、その後の利上げペースは従前通り「徐々に」とされていることからも、来年以降の利上げは0.25%ずつ1会合おきに実施され、2016年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%と引き続き予想する。また、「次回会合」文言挿入は、今後も会合毎の利上げ実施如何につき市場期待を適切に形成するための、いわば新たな対話文言といえよう。「次回会合」または「次々回会合」文言は今後も声明文で期待形成の文言として使用される可能性がある。

12月利上げ開始を主張する意見についていくらかコメントしよう。議事要旨によれば、利上げ開始時期の遅れによるリスクとして市場期待に対するFOMCの信頼低下や、緩和政策による不均衡是正の遅れを挙げる意見が見られた。筆者個人は、これに加えて提出された「(利上げ条件に対する)進捗の評価はこれまの累積的な改善に照らして評価されるべきで、月次変動に重きを置きすぎるべきでない」との意見に重きを置きたい。金融政策は何年かの周期において実施されるものであり、単月の指標に左右されるべきではない。その意味では、失業率の低下は既に労働市場の余剰がほぼ解消されたことを示唆するものであり、この静態は多少の景気ノイズでは変動しにくい。更に、利上げ開始からその効果が発言するまでのラグを考えれば、ゼロ金利政策からの正常化開始は労働市場等の完全正常化に先んじて実施されるのが適切である、また、今後の景気循環で次の景気減速局面が来た際に、利下げの余地を残すためにはある程度の政策金利の水準が必要である(いわゆる「政策金利ののりしろ」)。

議事要旨の内容から、12月利上げ開始に対する慎重な意見が相応にあったこと(利上げ時期とペースの議論において1パラグラフを割いて数人の(several)参加者の意見が議事要旨に記されたこと)、また「労働市場の“更なる改善”の程度について投票メンバーが異なる見方を示した」ことから、12月会合の利上げは全会一致にならない可能性を見ておくべきであろう。本議事要旨に頻繁に登場するこの数人の(several)参加者(おそらくそのうちの2、3名a couple ofは投票メンバー)に含まれるのは、従来からハト派の代表とされるシカゴ連銀エバンス総裁、また10月に利上げに消極的ともとれる発言をしたタルーロ理事やブレイナード理事(10月19日付当レポート参照)だろうと推測できる。

なお、2014年にFRBが公表した「金融政策正常化の原則と計画」によれば、FF金利誘導目標レンジの引上げは、一義的には超過準備預金付利金利(IOER)の調整により行われ、オーバーナイトリバースレポ(RRP)はこの補完手段として用いられる予定である。またFRBの保有証券の償還金再投資停止および売却開始は上記レンジの引上げ後に実施される予定である([第1表]、またIOERとRRPがFF金利誘導目標レンジを形成するメカニズムにつき2014年8月24日付当レポート参照)。今後は利上げペースとともに、保有証券の償還金再投資停止や、売却開始のタイミングとペースも、FRB金融政策手段としてより複雑な評価と判断が必要になるだろう。

[第1表]
20151123図3

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