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<経済レポート> 慎重姿勢を維持:金融市場変動と米実体経済

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年初来の株価急落や原油価格下落で、金融市場や景気見通しに不確実性が出てきている。しかし、直近の市場動向からは株価は一旦底入れすると想定し、また原油安も今後は30ドル台で安定との米政府機関予測を採用するならば、経済見通しの大幅な変更は現状では不要と考える。ただし、短期的には10-12月期の成長率が年初の筆者個人予想より更に下振れる可能性が高くなってきたこと、また年初予想時のリスク要因がいまだ存在することには留意すべきであろう。

NY株は昨年の同時株安水準まで一旦下落した

2016年の金融市場は波乱の開始となった。昨年末に17425ドルで終了したNYダウは、20日に終値ベースで15766ドルの年初来安値にまで下落した。今回の株価下落のきっかけは4日の中国株と人民元の急落だった。また、上海・深圳両証券取引所で今年初から導入されたサーキットブレーカー制度が取引開始直後に発動される事態がつづき、7日に取引所が同制度の停止を行ったことも混乱に拍車をかけたと見られる。さらに、原油先物価格が昨年末からの再下落を続け、WTI原油先物価格が1月半ばには一時1バレル=30ドルを割り込んだことも株安加速の要因と見られる。21日の欧州中央銀行(ECB)理事会後の定例記者会見冒頭声明でドラギ総裁が「金融政策スタンスを次回3月上旬の理事会でおそらく見直す」と述べて追加緩和を強く示唆したことで株価は反発し22日には16093ドルで引けている([第1図])。本レポートでは株価、原油価格の動向を確認するとともに、短期的な実体経済指標を見ていくこととする。

株価動向についての材料はまちまちと言わざるを得ない。今回の株価下落を昨年8月の世界同時株安と比較してみよう。昨年8月の世界同時株安は、中国人民元の連続切り下げを一つのきっかけとして中国経済減速懸念等が要因だったといえる。昨年8月の場合、NYダウは下落開始前の17600ドルレベルから、終値ベースで15666ドル(8月25日終値)にまで下落ののち、10月に急反発してほぼ元の水準を回復した。今回の下落のきっかけも中国株と人民元であり、下落開始の水準もほぼ同じである。

22日までの株価推移を見ると、終値ベースでの安値は20日の15766ドルであり、8月同時株安の安値にはまだ達していない。テクニカルにはこのままNYダウが反発を継続すれば再び上昇基調に回帰することは可能ということになる。しかしながら、S&P500、ナスダックはいずれも18日の週に昨年の安値を下回る終値をつけている。テクニカルには、仮に株価が上昇に転じたとしても、昨年の年初来高値を上回る上昇基調に転ずるかどうかはやや不確実になってきたといえる。

[第1図]
20160124図1

昨年末レベルへの株価回復シナリオは描ける

一方で、バリュエーション的には株価はほぼ調整されたとみていいだろう。S&P500の昨年12月31日時点での株価収益率は19.40倍で、これは90年代後半から2000年にかけてのバブル期や2008年からの金融危機時の企業収益急悪化時を除いて概ね過去の天井圏であった。21日時点の株価収益率は17.52倍にまで低下しており(S&P資料による)、例えば2000年代前半の同比率の安定推移期の水準である。しかし、今後の米企業収益の見通しは明るいとは言えない。原油価格下落でエネルギーセクターの収益は今後も悪化しそうである。ドル高と海外景気減速で海外部門収益減少が引き続き予想される。堅調な内需で内需関連部門は増益も期待できる一方、自動車販売が年率18百万台とほぼ飽和状態にある可能性があることから、これまで内需の牽引役だった自動車関連セクターは今後伸び悩むだろう。結果、エネルギーや公益事業を除いた国内非金融機関部門の企業収益の伸びもすでにピークアウトしている可能性がある([第2図])。

なお、S&P500のセクター別の年初来騰落率(15日まで)をみると、最も大きく下げたのが素材(-11.9%)、次いで金融(-10.3%)、情報技術(-9.0%)、エネルギー(-8.8%)の順となっている。セクター別には必ずしもエネルギーが最大の下げではなく、いわゆる景気敏感セクターが率先して下げている構造は、これらのセクターが上昇率上位にあった昨年とは逆のパタンであり(昨年の情報技術セクターは年間+4.3%上昇)、今回の株価下落が経済実体に比して買われすぎていた可能性を示唆している([第3図])。

筆者個人は2016年末のNYダウを18000ドル(2015年末比約+3%の上昇)と予想している(1月3日付当レポート参照)。年初の動きからは既にこの予想には下方リスクが出てきているとも見ることができる。予想が経済全体の減速を同時に見込んでいることからは、この予想はやや強気なものともいえるだろう。ただ、ドル高・原油安が総合的には米経済にプラスの影響をもたらすと考えれば、企業収益全体が2016年中にはプラスの伸びに転じ、これに合わせて株価が巡航速度の上昇に回帰することはあり得るとみて、現状ではこの予想は維持したい。

[第2図]
20160124図2

[第3図]
20160124図3

原油価格は30~40ドルで今後安定と想定したい

原油価格の見通しも不確実と言わざるを得ない。WTI原油先物価格は昨年12月のOPECによる増産見送り決定を契機に、それまでの1バレル=40ドル台から再び下落、1月には一時30ドルを割り込み、その後22日には30ドル台を回復している([第4図])。原油価格下落は、インフレ率低下により内需拡大を促す一方で世界経済減速懸念を助長し、またエネルギー産業や輸出産業の収益悪化や設備投資抑制につながり得る。米エネルギー情報局(EIA)は1月20日付「短期エネルギー見通し」において、2016年のWTI原油先物価格平均を38.54ドルと予想している(2015年平均は48.67ドル)。また、2016年の世界の原油需給については、2016年通年では供給増加が需要増加をわずかに上回り、0.74百万バレル/日の在庫増と予想している。供給の増加要因は主にOPECによる生産維持とイランの核開発に係る制裁解除に伴う原油輸出開始である。

原油価格についてはその予想は困難であるものの、1バレル=30ドル割れで一旦底入れし、その後は30~40ドルのレンジで推移すると一旦見ておきたい。この場合、原油価格は2016年一杯ほぼ前年比でマイナスの伸びとなり、インフレ率に対してはマイナスの寄与を継続することになる。

この結果、エネルギーや素材を中心とした産業の企業収益はマイナスとならざるを得ないものの、内需関連セクターの収益がインフレ率低下の恩恵でプラス成長を保ち、結果企業収益は全体でプラスの伸びに回帰すると見ておく。インフレ率に対しては、1月までの原油価格下落で個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は12月、1月に前月比低下するだろう。その後の原油価格安定を見込んでも2016年末のPCEデフレーターの前年比の伸びは+1.5%程度に留まる計算にならざるを得ない。しかしながら、コアPCEへの波及が限定的とのこれまでの実績が継続するならば、コアPCEデフレーターの前年比の伸びは2016年間末で+1.8%まで上昇することが可能である。上記の前提に従うならば、年初の原油価格下落はFRB金融政策予想に影響を与えないとのシナリオを十分に成り立つ。

[第4図]
20160124図4

成長予想は維持するも、慎重姿勢崩さず

金融市場変動が近々収拾されるとしても、短期的に米経済ファンダメンタルズ指標が軟化している点には留意が必要である。筆者は10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率+1.2%と、前期の同+2.0%から大幅減速と個人予想しているが、この予想に更に下方リスクが出てきている。まず、12月の小売売上高は前月比-0.1%と3ヶ月ぶりの減少、自動車・ガソリン・レストランを除くベースでも同-0.2%と8ヶ月ぶりの減少となった。結果、2015年のホリデー商戦売上高は前年比+2.7%と、2009年以来の低い伸びに留まった([第5図])。12月の小売売上の不振の原因は、暖冬で冬物消費が鈍ったことと、ドル高で観光客宛売上が伸びなかったこととされている(1月16日付<経済指標コメント>参照)。この結果、12月の実質個人消費は前月比横ばい程度の伸びに留まる可能性が高く(暖冬による電力・ガス消費の伸び悩みも勘案すればマイナスの伸びもありうる)、10-12月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+1.8%に急減速する計算になる(現状の筆者の個人予想は同+2.2%)。さらに、企業在庫調整の深さや住宅着工の減少を勘案すると、10-12月期の成長率は同+1%を割り込む可能性が高くなっていると言わざるを得ない(10-12月期GDP統計は29日公表予定)。

しかし、今後米国の個人消費がこのまま失速する可能性は低い。雇用拡大と賃金上昇と低インフレ率で、個人の実質可処分所得は11月時点で前年比+3.5%の強い伸びを続けている([第6図])。これに対する実質個人消費の伸び同+2.5%は、まだ個人の所得に今後消費を拡大する十分な余裕があることを示唆するものである。また、株価下落にも拘わらず、消費者センチメントは低下の兆しもなく、高水準を保っている([第7図])。消費者センチメントが維持されているのは、主に雇用環境の良好さとインフレ率低下による消費者心理の好転が、株価下落等の悪化によるそれを上回っているためと考えられる。

以上から、現状では今年の米経済の見通しの変更を考慮する必要はないと考える。もっとも、2016年の米経済につき当レポートではやや減速方向を既に予想していること、またこの予想に対するリスクは下方であると見ていることには留意すべきである(2015年12月30日付当レポート参照)。リスクシナリオとして筆者は、原油価格の更なる下落と、海外景気の更なる減速を想定しているが、このリスクの存在する状況は現在でも変わっていない。経済見通しについては引き続き慎重な姿勢を維持しておく。

[第5図]
20160124図5

[第6図]
20160124図6

[第7図]
20160124図7

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