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<経済レポート> 安定なら進めも:FOMC展望

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1月以降の金融市場変動で米経済に下方リスクが高まったと見ていたが、これまで公表された経済指標は思いのほか堅調で、長期景気循環による減速以上に経済の悪化を示唆するものはない。この環境において3月の定例FOMC会合での利上げ決定は極めて微妙な判断となりそうだ。月利上げの可能性は相当に後退したと見ざるを得ないものの、市場がこのまま安定すれば、将来の金融政策ののりしろ確保のために利上げ実施との選択肢はまだのこっている。

1月FOMC議事要旨はハト派的な内容だった

米国の金融政策を決定するいくつかの要因のうち、主にファンダメンタルズに係る指標は1月以降の金融市場変動にも拘わらず思いのほか堅調である。一方で金融市場変動はまだ収拾されたとは言えず、中期的な経済サイクルは今後1~2年でピークになる可能性が高い。この環境において、昨年12月に7年ぶりにゼロ金利政策を解除して+0.25%のFF金利誘導目標引上げを実施したFRBの今後の利上げペース決定は極めて難しい判断となる。筆者個人はFRBが次回3月定例会合につづき、6、9、12月の定例会合でそれぞれ+0.25%の利上げを実施し、年末のFF金利誘導目標レンジは1.25-1.50%になると予想している(今後のFOMC日程は[第1表]参照)。しかしながら、1月以降の金融市場情勢や議事要旨に見られるFRB公開市場委員会(FOMC)の議論からは、この予想には下方リスクが出てきていると言わざるを得ない。

遡って1月26-27日FOMC定例会合の声明文と議事要旨を点検してみよう。1月FOMCでは予想通りFF金利誘導目標の据え置きが決定された。一方声明文は、1月初からの金融市場変動を受けて内容がハト派的なものに変更された。「委員会はグローバルな経済と金融の動向を注意深く監視しており、労働市場とインフレ並びに経済見通しに対するリスクのバランスに対するその影響を検証している」との新たな文言が挿入された。また従前の声明文にあった「委員会は経済活動と労働市場の見通しに対するリスクはバランスしていると見ている」の文言が削除された。これは、12月の利上げ決定時に比べ経済対する基調判断がやや慎重方向に振れたことの証左であった。また、次回3月会合での利上げを示唆する文言は声明文には見当たらなかった。

17日に公表された1月FOMC定例会合の議事要旨からも、金融市場変動の米経済に与える影響についてハト派的意見が主流だったことが読み取れる。参加者は「商品市場と金融市場動向といくらかの海外経済の重大な軟化の可能性は、潜在的に国内経済活動を更に抑制する可能性がある」と見ている。また「一般的には金融政策はインフレへの一時的なショックに本質的に対応しないのが望ましいが、この考えは長期インフレ期待が安定し続けていることが前提」ともされている。中期的経済見通しへのリスクのバランスについては「ほとんどの参加者が、現状ではインフレと経済成長見通しが本格的に変化したかを判断するのは困難であるが、最近の金融経済動向の結果見通しに対する不確実性は増した」としている。総じて議事要旨の内容は、利上げ開始後初回の会合にしてかなりハト派の雰囲気だったといえる。

[第1表]
20160228表1

労働市場は完全雇用、インフレ上昇はFOMC予測以上のペース

一方で、米国経済のファンダメンタルズ指標を見る限りでは、筆者個人予想の利上げペースを十分に正当化できる条件がそろっている、まず、労働市場指標は依然金融政策正常化継続を支持している。失業率は1月時点で4.9%と、FOMC委員の12月時点の長期均衡失業率予測値にまで低下している。また4.9%は米議会予算局(CBO)が推計する2015年時点の自然失業率とも一致している(CBO「財政・経済見通し」2016年1月、[第1図])。つまり労働市場はFOMCやCBOの見る完全雇用状態をほぼ実現していることになる。1月FOMC議事要旨でも「多くの参加者が、労働市場の余剰は過去1年で著しく低減したと見ており、何人かの参加者はほぼ解消したと見た」とされている。

失業率低下は、FOMCが労働市場とともに重視するインフレにも上方圧力をもたらしつつある。時間当たり賃金は失業率低下にも拘わらず過去1年ほどは上昇ペースが低迷していたが、昨年12月には時間当たり賃金(生産及び非監督労働者)は前年比+2.6%、1月にも+2.5%と上昇率を急激に加速させた。賃金版フィリップス曲線によれば、失業率が5%の自然失業率レベルを割り込むと賃金上昇ペースが加速する傾向がある([第2図])。今後失業率が更に低下すれば時間当たり賃金上昇率も2%台後半に向けて加速する可能性が高いと見る。

FOMCが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の上昇率は、筆者個人予想やFOMC委員予測を上回るペースである。1月のPCEデフレーターは前月比+0.1%(前年比+1.3%)、コアPCEデフレーターは前月比+0.3%(前年比+1.7%)と、12月以降の原油価格再下落にも拘わらず堅調に上昇した。このペースだと、原油価格が1バレル=30ドル台を維持して今後推移した場合、年末のPCEインフレ率は約+1.8%、コアPCEインフレ率は+1.9%に上昇する計算になる([第3図])。これらはいずれも、12月時点のFOMC委員経済予測中央値(PCEインフレ率、コアPCEインフレ率ともに2016年10-12月期に前年同期比+1.6%)を上回っている。

[第1図]
20160228図1

[第2図]
20160228図2

[第3図]
20160228図3

需給ギャップ縮小でテイラー・ルールも利上げ継続を支持

テイラー・ルールによる適正なFF金利水準推計も年末1.5%までの利上げを十分に正当化する結果となる。CBOは2016年1月の「財政・経済見通し」で、米国の潜在GDP推計値を大幅に引き下げた(CBOは全要素生産性の推計値の下方改訂がその要因としている)。結果、米国経済の需給ギャップは2015年10-12月期時点で-2.1%と、従前のCBO推計潜在GDP(2015年8月時点)から算出される需給ギャップ(-3.2%)から+1%以上もマイナス幅が縮小した計算になる。

これをもとに、1999年半テイラー・ルール公式に基づき2016年の適正なFF金利を推計すると、2016年末の適正FF金利は1.8~2.2%との結果になった([第5図])。インフレ率の想定以上の上昇とマイナスの需給ギャップの縮小により、均衡する政策金利水準は昨年時点での推計よりも上昇していることになる。

米実質GDP成長率は10-12月期に前期比年率+1.0%(改訂値)と、潜在成長率を下回る成長にとどまった。しかしながら、個人消費は1月に予想以上の回復を見せており、自動車販売や小売売上の増加が実質個人消費を前月比+0.4%押し上げた。天候要因等で12月、1月の統計には一部歪みが見られるため個人消費の本格回復を見極めるには2月以降の統計を見る必要があることは従前の筆者の見方と不変である。しかしファンダメンタルズ的には、雇用と賃金の上昇ならびにインフレ率低下で消費者の実質購買力は1月のインフレ率上昇後もなお前年比+3%の水準を保っている([第6図])。1月FOMC議事要旨で「多数の(a number of)参加者」が指摘している通り、「最近(1月FOMC時点)の個人消費の減速は家計の実質所得の強い増加継続と整合していない」といえる。

[第4図]
20160228図4

[第5図]
20160228図5

[第6図]
20160228図6

経済見通し変更材料には乏しいが、、3月FOMCは微妙な判断へ

筆者個人は2016年の米国の通年成長率を前年比+2.0%とする個人予想を、下方リスクを認識しつつも維持している。このことはすなわち、FRBの利上げについても従前からの予想を現状では維持しておくことを意味する。実際に、今後1~2年の間に景気循環に伴う経済拡大のピークが訪れる可能性に鑑みれば、ファンダメンタルズ指標が堅調な間に利上げを実施しておくことで、景気転換時の金融政策ののりしろを確保しておくことは適切な政策行動だと考える。更に、12月に今後の連続利上げを示唆しながら金融市場変動だけを理由にその見通しを変更することは金融政策への信認を低下させる虞なしとしない。株価下落はここ1~2週間で一旦落ち着きをとりもどしており、テクニカルにはNYダウは1500ドル台の半ばで3番底をつけたようにも見え([第7図])、1月FOMC時点よりは環境は好転しているといってよい。ここからは、FOMCが3月FOMCにおいて経済予測を大幅に下方シフトさせる根拠には乏しいことになる。FOMCが3月に利上げを見送る場合には、同時に公表される四半期毎のFOMC委員経済予測の相応の下方改訂が伴われねばならないが、現状では経済見通しの下方改訂正当化の材料は少ない。

しかしながら一方で、個人消費についていえば消費者センチメント指数の軟化、企業部門ではISM製造業指数が50%を割り込む状況が続いていることなど、先行性のある景況感指標中心に軟化が見られる。総じて、遅行性のある実体経済指標は予想以上に堅調ながら、消費者センチメントや企業景況感には景気循環を反映した軟化が見られるといってよいだろう。株価についても反転上昇のシグナルが点灯したとはまだ言えない状態で、金融市場変動については引き続き不確実性が高い状況が続いているといえる。

さらに、状況証拠は3月の利上げ見送りを示唆する材料が相応にあるといわねばならない。1月FOMC声明文や議事要旨からは、次回3月利上げを示唆する材料は読み取れなかった。3月15-16日のFOMC定例会合での利上げ如何の判断は極めて微妙な判断になりそうだ。現実的には、2016年の10名のFOMC投票メンバーの内訳は依然ハト派が多数派である。投票メンバーのうちカンザスシティ連銀ジョージ総裁やクリーブランド連銀メスター総裁は従前よりタカ派と目されており、最近の発言からも利上げ継続を主張する可能性はある。しかしながら(おそらく)イエレン議長を始め、1月議事録では多くの参加者が利上げ継続に慎重ともとれる発言をしていることからは、3月利上げの可能性は今や五分五分程度に後退したと見ておきたい。市場がこのまま安定すれば、中期的視野から「金融政策ののりしろ」確保のために、当初の見通し通りの利上げ継続の可能性はまだ残っている。

[第7図]
20160228図7

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