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<経済レポート> 削減努力は続く:米企業在庫

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米企業在庫率は金融危機後最高の水準にまで上昇し、企業部門の生産抑制要因となっている。中期的な在庫循環からも、現在は在庫投資のピークにある可能性が高い。設備投資循環と合わせ企業在庫も米経済の中期サイクルにおける減速局面入りの可能性が高いことを示唆する材料である。

企業在庫率の水準は金融危機以降で最高

米国の企業在庫が、金融危機以降最高の比率にまでつみあがっている。海外景気の減速とドル高による輸出の低迷が在庫水準の上昇をもたらしていると考えられる。結果、企業は厳しい在庫調整による生産抑制を強いられていると見られ、これが鉱工業生産の抑制につながっている。在庫調整は成長率に対しても1-3月期まで3四半期連続でマイナスの寄与となっている。本レポートでは、米企業在庫の状況を概観し、今後の成長率への影響をみることとする。

企業在庫は金融危機時に深い調整が行われたのち、景気後退終了後はほぼ一定の循環を繰り返しながらも増加基調を維持していた。在庫循環の周期は概ね1年半~2年である。しかしながら、2015年ころからこの周期が短期化する傾向を見せている。さらに、2015年12月から今年の2月にかけては、金融危機以降初めて企業在庫の3ヶ月前対比の残高がマイナスに転じた。在庫売上高比率は、金融危機の時期に大幅に上昇したのち危機前の水準に低下したが、その後今日にいたるまでほぼ一貫して上昇、3月現在では1.41倍と金融危機以降最高の水準に上昇している([第1図])。

より長期の米企業の在庫売上高比率の推移をみると[第2図]のようになる。90年代から2007年の金融危機まで、在庫売上高比率は一貫して長期的な低下基調にあった。これは、企業の在庫管理手法や物流管理の高度化により、より少ない手持ち在庫で出荷需要に応えることができるようになったことが背景と考えられる。その意味では金融危機以降の在庫売上高比率の上昇はこの長期トレンドの転換をも意味する可能性がある。

[第1図]
20160517図1

[第2図]
20160517図2

原油安・ドル高・海外景気が製造業在庫を押し上げている

金融危機以降については、2014年以降の在庫売上高比率の上昇加速が顕著である。この背景は主に、企業売上の急激な減速に求めることができる。[第3図]によれば、企業売上高は2014年のなかばから減速をはじめ、2014年末に大幅なマイナスになったあと、2015年にいったんプラスに転じたものの現在再びマイナスの伸びに転化して現在に至っている。この企業売上高の増減は原油価格の下落及び反転(2014年半ばに1バレル=100ドルを割り込んで同40ドル台にまで下落ののち2015年にいったん持ち直すもののその後同30ドルレベルにまで下落)による物価変動とほぼ一致している。また原油価格下落と同時に為替市場ではドル高が進み、FRBの集計する名目貿易加重平均米ドルレート(広域通貨)が2015年にそれまでの100ポイント台から120ポイントレベルに急上昇したこととも一致している。

[第3図]に見られるように、企業売上高の減少に対し、企業在庫の調整ペースは緩慢である。すでにストックとなった在庫の簿価の引き下げにはラグが生じるうえ、資源価格低下ペースに対して生産数量と生産価格の調整は遅行せざるを得ないこともその一因であろう。

物価下落に加えて、ドル高による輸出の減速が2014年以降顕著であることも、在庫売上高比率の上昇の要因となっている。企業売上高の推移を業種別にみたのが[第4図]である。これによれば、海外需要の影響を受けやすい製造業と卸売業の売上の減少ペースが、内需の影響を受けやすい小売業の売上減速に常に先行していることがわかる。企業在庫の積み上がりは、堅調な内需よりも、減速の明らかな海外経済の影響による部分が大きいことがここからも見て取れる。

[第3図]
20160517図3

[第4図]
20160517図4

在庫調整局面は当面継続する見込み

次に、在庫循環図の状況を見てみよう。[第5図]は金融危機直前の2007年から現在までの在庫循環図である。金融危機の際には企業在庫は前年比-14%近いマイナスまでの深い調整があった。現在(2016年第1四半期)の位置は、循環図上在庫調整局面にあるといえるものの、その深さは金融危機の調整ほどには深くはない。今年に入り企業売上高減少ペースがやや緩んだことから、在庫調整局面もマイナス入りすることなく終了する可能性があるように見える。在庫循環図からは今回の在庫調整が浅いものに終わる可能性が見て取れる。在庫売上高比率も、2009年に最大1.48倍に上昇したのと比べて現在の1.41倍は相対的にはまだ低く、現在の在庫水準は景気後退期にくらべれば穏当だといえる。

しかしながら一方で、中期的な在庫循環が過去のピークと同レベルにまで在庫積み上げが進んでいると見える証跡もある。[第6図]は、GDP統計上の在庫投資(企業在庫の前期比増減)の対GDP比率の推移をみたものである。サイクルを抽出するために20四半期の移動平均ととってみると、現在は同比率が0.4%と、金融危機直前のレベルと同水準にまで上昇している。中期的な在庫循環からは、今後は在庫変動サイクルが下方に転じる可能性が高いことがここに示唆されている。

3月の企業在庫統計によれば、企業在庫の対3ヶ月前の伸びは4か月ぶりのプラスに転じたが、これをもって在庫調整が終了に近づいていると見るのは早計であろう(5月16日付<経済指標コメント>参照)。企業売上高も3月には前月比で9ヶ月ぶりのプラスの伸びに転じたものの、3ヶ月前対比の伸びは依然マイナス域にあり、企業売上の回復の兆しはまだ見られないといえる。高い企業売上高比率を押し下げるために、今後も在庫調整は継続すると見るべきであろう。

[第5図]
20160517図5

[第6図]
20160517図6

在庫調整の遅れは今後の成長下振れ要因になる

GDP統計上は、20164年1-3月(速報値)まで3四半期連続で企業在庫が成長にマイナス寄与を続けている([第7図])。3月企業在庫統計による在庫増は、1-3月期に限って言えばこれの上方改訂要因である。しかし、上記で述べたように企業在庫調整を今後も継続するとみられ、成長率に対してはマイナスの寄与を今年いっぱいは継続する可能性が高いと見る。

筆者個人は、1-3月期にさらに深い在庫調整が行われて4-6月期には一旦在庫増加ペースが加速することにより成長へのプラス転化を見込んでいた。一方、3月企業在庫統計では企業在庫が6ヶ月ぶりに、企業売上高が9か月ぶりに前月比増加に転じた。高い在庫売上高比率を勘案すれば、この3月の在庫増加はむしろ在庫調整の遅れを示唆するとみるのが妥当であろう。その意味では、3月企業在庫統計の上ぶれは今後の成長予想に対してはむしろ下振れ要因となる。

過去の当レポートでは、設備投資循環がすでにピークアウトした可能性を見た(4月25日付当レポート参照)が、在庫循環も同様にピークアウトの可能性が高いとなると、今後米経済が循環的な減速局面に入っていくとの見方に対するもう一つの支持材料となる。企業は今後も厳しい在庫調整を強いられることで生産抑制が続き、企業部門は今年いっぱい成長に対する下方圧力であり続けるとの見方を維持したい。

[第7図]
20160517図7

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