FC2ブログ

<経済レポート> 土壇場のサプライズ:米5月雇用統計

  • カテゴリ:未分類
  • コメント:0件
  • トラックバック:0件
5月雇用統計は大きな下方サプライズであり、単月指標としては失望感あるものと言わざるを得ない。しかしその内訳や他の経済指標を合わせると、6月以降の雇用の反動増は十分に期待できる。今後年内は雇用の2%程度の増加継続との見方を維持する。一方で、6月FOMCで追加利上げ実施との筆者個人予想に対しては、本指標は大きなリスク要因になったと言わざるを得ない。インフレ、成長率も含めたファンダメンタルズからは利上げ実施が適切と個人的には見るものの、雇用重視のハト派FOMC委員にとっては利上げ見送り支持材料となりうる。

5月の雇用統計は大幅悪化したが、、

3日に公表された5月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比+38千人の伸びにとどまる下方サプライズとなった。もっとも、大手通信会社の労働者が4月後半から5月末まで約7週間の大規模ストライキを実施しており、これが5月の非農業部門雇用者数を-35千人押し下げている(米労働省による)。しかし、この一時要因を除いてもなお、5月の雇用増は同+73千人にとどまった計算になる(6月6日付<経済指標コメント>参照)。他のファンダメンタルズ指標からは雇用の急減速を示唆するものは見られない一方でほぼ完全雇用状態にある雇用市場は、今後拡大減速が予想されるのも事実である。本レポートでは、5月雇用統計の内容を点検し、今後の労働市場と金融政策に関する予想への影響を見ていく。

5月雇用統計の事業所調査における非農業部門雇用者数の伸び急減速には、直感的には違和感を禁じ得ず、今後改訂や6月統計での反動増の可能性を見ておきたい。その証跡の一つとして、米ADP社の公表する非農業部門民間就業者数調査と雇用統計を比較してみる。2日に公表されたADP社5月民間就業者数は前月比+173千人の増加で、これは前月の同+166千人よりも増加ペースが加速している。同社はプレスリリースで「雇用増はエネルギー企業と製造業の雇用削減で軟化した」「小売業も採用には慎重である」「最近の減速にかかわらず雇用増は失業率を低下させるに十分な強さを維持している」と評価している。これに比較して、労働省雇用統計における非農業部門の民間雇用者数の急減はかなりの乖離がある([第1図])。雇用統計に統計上の何等かの他の一時要因があった可能性も考えられる。

また、労働省雇用統計によれば、5月の業種別雇用増減内訳は、鉱業同-11千人、建設業同-15千人、製造業同-10千人、小売業同+11千人、情報同-34千人(うちストライキの影響を受けた通信が同-37.2千人)、専門ビジネスサービス同+10千人、教育・医療同+67千人などとなっており、小売や教育・医療を除くほぼすべての業種で雇用が減少または減速している。特に、景気変動の影響を受けやすいとされる専門ビジネスサービスの雇用減速が全体の数字を押し下げている([第2図])。一方で、ADP社調査の業種別内訳は、建設業同+13千人、製造業同-3千人、専門ビジネスサービス同+43千人などとなっている。製造業の雇用減は両社で整合しているものの、建設業、専門ビジネスサービスの分野では雇用統計がADP社調査よりも大幅に悪い数字になっていることがわかる。

[第1図]
20160605b図1

[第2図]
20160605b図2

他の指標では雇用市場急転換を強く示唆するものは見られない

ADP社調査と雇用統計との、前月比増減ベースの民間雇用者数データの相関は必ずしも高くはないものの、ラグを伴いつつ概ね同じ傾向は示している。また、ADP社調査のほうがより数値が安定する傾向にある(過去24ヶ月の前月比増減幅の標準偏差はADPが41千人、雇用統計が71千人)。このことからは、雇用統計における非農業部門雇用者数が6月分において5月の減速をカバーする増加になる可能性は十分にあるといえる。特に、雇用統計で雇用ペースの減速の大きかった専門ビジネスサービスの内訳を見ると、人材派遣業が同-21.0千人(前月は同+5千人)とマイナスに大きく寄与している。ここからも、5月の雇用減が一時的な要因による可能性が示唆されており、6月以降の雇用反動増は十分に期待できる。

また、最近のファンダメンタルズ指標は、1-3月期の一時的成長減速のあと4月以降の経済拡大ペースの再加速を示唆するものが多い。個人消費関連では4月実質個人消費が前月比+0.6%の急増を見せた。4月時点の実質可処分所得は前年比+3.3%の強い伸びとなっており、潜在的には今後+3%台の個人消費の伸びが期待できる所得が確保されている。5月の自動車販売も年率17百万台を維持する好調を維持している。また、4月にかけて一時軟化傾向を見せた消費者センチメントも5月には大幅に回復している([第3図])。建設関連では、4月の住宅着工許可件数は前月比+3.6%の堅調な増加を示し、5月以降の住宅建設の増加を示唆している。

こうした経済指標は、今後内需を中心とする需要拡大が雇用市場における需要をも喚起する可能性を示唆するものである。短期的には、米雇用はこのまま減速するものではなく、6月以降には反動による増加ペースの拡大があると見ておきたい。

[第3図]
20160605b図3

人材派遣業の雇用減速には要注意:ISM雇用指数も50%割れ

一方で、振り返ってみると、雇用市場へのリスク要因がすでに一部の先行指標に見られていたことも事実である。上記で5月の雇用急減には人材派遣業の雇用減少が寄与していると述べたが、人材派遣業雇用の拡大ペースはここ1年の間に減速が続いており、5月時点で前年比+0.6%にまで伸び率が低下している。人材派遣業の雇用は雇用市場の先行指標とされており、この業種の雇用がさらに継続的に減少することになると、雇用市場の転換点が近づいている可能性が出てくる。特に人材派遣業の雇用が前年比でマイナスになることは、景気後退期が近いことを示唆するというのが経験則であることには注意が必要である([第4図])。

ISM指数においては、雇用DIが5月時点で製造業、非製造業いずれも判断の分かれ目を示す50%を割り込んでいた([第5図])。経験的には同指標の50%割れは必ずしも労働市場の転換点を表すものではないが、これが5月雇用統計の悪化の予兆だったともいえる。ストライキ要因が剥落した6月以降もISM指数の雇用DI悪化傾向が継続するようであれば、中期的な雇用市場の循環のピークアウトが近づいたことを示唆するものになる可能性もある。

新規失業保険申請件数は、4月30日〆週と5月7日〆週に急増し、その後2週には減少に転じた([第6図])。4月末からの急増は通信会社のストライキの影響による一時的なものと考えられる。しかしながら、同申請件数の4週移動平均が4月23日〆週には256千件と、90年代以降では最低水準にまで低下していることは、雇用市場がかなりの需要超になっている可能性を示唆している。失業率が自然失業率である5%を下回っていることと合わせ、循環的な雇用市場のピークが近いことを支持する材料といえよう。

[第4図]
20160605b図4

[第5図]
20160605b図5

[第6図]
20160605b図6

6月利上げ予想には大きな下方リスク:中期的労働市場循環に今後も留意

雇用統計の家計調査による失業率は、5月に4.7%と、前月の5%から大幅に低下した。しかしながら、これは労働参加率の62.6%への低下(前月比-0.2%ポイント)が主因であり、見かけほどには良い失業率低下とは言えない([第7図])。失業率を構成する要素の内訳は、労働力人口が前月比-458千人、失業者同-484千人、就業者数同+26千人であり、失業者のうち500千人弱が労働市場から退出したことが失業率低下の主因であることがわかる。一方で就業者数の伸びは同+26千人にとどまっており、前月の同-316千人と合わせると、ここ2ヶ月で家計調査上の就業者数は-290千人減少していることになる。

5月雇用統計は単月指標としては失望感のあるものだったと言わざるを得ず、また中期的な労働市場の循環からも、今後労働市場の拡大ペースの減速の可能性が高いことも事実である(5月11日付当レポート参照)。しかしながら、この単月指標をもってすでに雇用市場のサイクルが転換したと見るのは早計であろう。ストライキ等の一時要因やその波及度を見極めるには6月以降の指標を点検したい。また上記の通り他の経済指標では雇用市場の転換を示唆するものは見られない。よって、非農業部門雇用者数の前年比の伸び率は5月に+1.7%にまで低下したが、今後はこれがこれまでの巡航速度である前年比+2%程度の拡大ペースに回帰し、これが年内は継続するとの見方を現状では維持しておく。

FRBの金融政策について筆者個人は、6月FOMC定例会合での+0.25%のFF金利誘導目標レンジ引き上げを予想してきたが、5月雇用統計の結果はこれに対する大きな下方リスクと言わざるを得ない。もっとも、インフレ率や成長については利上げ条件を十分に満たす環境が整っていることから、5月単月指標をFOMC委員がどこまで重視するかが6月利上げの判断のポイントになってくる。雇用を最大限に重視するイエレンFRB議長やその他リベラル派委員のスタンスからは、雇用指標悪化は利上げ見送りの十分な理由とはなりうる。また、雇用統計を受けて市場の利上げ期待が大幅後退した場合にこれと乖離する政策決定を回避する意向が一部委員には働くだろう。なお、6日にはイエレンFRB議長の講演が予定されており、これは雇用統計を踏まえた議長の政策スタンス示唆の可能性のある機会として重要さを増した(なお、6月14、15日の定例会合前の1週間はブラックアウト期間であり、FOMC委員が5月雇用統計を踏まえた市場対話を行う日程はこれ以外にない)。一方で、これまでの利上げ可能性示唆発言からの急転換は、中銀の信用低下をもたらす懸念があり、また中期的な効果を狙う金融政策が単月指標に影響されることは望ましくないとの見方もFOMC内には出てくるだろう。個人的には、将来の金融政策ののりしろを確保するためにも、ファンダメンタルズが堅調なうちにFF金利誘導目標を引き上げておくのが得策であると考えている。現状では6月利上げの個人予想は維持するものの、見送りリスクがかなりに高まってきた、と見ておく。

[第7図]
20160605b図7

スポンサーサイト



コメント

トラックバック