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<経済レポート> 不確実性で利上げ見送り:6月FOMC

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6月14-15日のFOMC定例会合では追加利上げが見送られ、FF金利誘導目標レンジは0.25-0.50%に据え置かれた。のみならず今後の利上げペースについてのFOMC委員予測は大幅下方シフトした。成長・雇用・インフレ見通しが大きく悪化していないにもかかわらず利上げペース予測がシフトした背景には、英国EU離脱リスクなど目先の海外要因と、中立金利低下という中長期的構造要因があることがイエレン議長会見から判明した。当レポートにおける年内2回利上げの個人予想はいったん維持するものの、状況証拠は利上げが年内1回にとどまるという下方リスクを強く示唆していると言わざるを得ない。

6月FOMCは追加利上げ見送り:金利予測は下方シフト

FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、6月14-15日の定例会合で追加利上げを見送り、FF金利誘導目標レンジを従前の0.25-0.50%に据え置いた。筆者個人の6月利上げ予想は、事前の5月雇用統計やその後のイエレンFRB議長講演のハト派基調から大きなリスクにさらされていたが、これが示現した形である。本レポートでは、6月FOMC声明文と会合後のイエレンFRB議長の定例記者会見から、利上げ見送りの背景と今後の金融政策予想を点検する。

6月FOMC声明文の内容は、前回4月声明文から本質的な変更はなかったといえる。冒頭の基調判断では「労働市場の改善は減速した」と4月、5月の雇用統計悪化を背景に判断を下方修正、一方で「経済活動の成長は加速したと見える」「家計消費は強まった」として個人消費加速を背景に4-6月期の成長加速を評価している。総じて経済の基調判断は中立といえる。金融政策に関する記述では「委員会はインフレ指標とグローバルな経済と金融動向を注意深く監視していく」との文言が存置された。経済見通しへのリスクバランスに関する記述は引き続き記載されず、また次回定例会合での利上げを示唆する文言も挿入されなかった。FF金利誘導目標レンジを維持する決定は投票メンバーの全会一致だった(前回4月定例会合で利上げを主張して反対票を投じたカンザスシティ連銀ジョージ総裁も6月会合では利上げ見送りに賛成)。

声明文と同時に公表されたFOMC委員の経済予測は[第1表]の通りである。これによれば、成長率・失業率・インフレ率についての予測中央値は前回3月定例会合時点での予測値から大きな変化はない。足元の指標を反映して、2016年の成長率がやや下方シフト、PCEインフレ率とコアPCEインフレ率がやや上方シフトしているのみである([第1図])。一方で、適正なFF金利については、2016年末の水準についての予測中央値は0.875%と3月比不変であるものの、17人の委員のうち年末FF金利0.625%(年内の利上げが1回にとどまる)と予測する委員の数が前回3月時点の1人から、6月には6人に急増している([第2図])。さらに、2017~2018年にかけての適正なFF金利予測値と、長期的なFF金利予測が大幅に下方シフトしている([第3図])。

[第1表]
20160619b表1

[第1図]
20160619b図1

[第2図]
20160619b図2

[第3図]
20160619b図3

利上げ見送り判断の理由は声明文からは明らかでない

次に、会合後に実施されたイエレン議長の定例記者会見の内容をみていく。冒頭発言で議長は「第1四半期の家計消費の減速は一時的なものだったと見られ、第2四半期のこれまでの指標は相応の反発を示唆している」として、経済成長には相対的に楽観的である。一方で「労働市場の改善は明かに減速した」と述べた。金融政策については「短期金利が依然ゼロに近いことを勘案すれば、慎重さがもっとも適切である」「グローバル経済の脆弱性は残っている」と述べた。この冒頭発言の内容は声明文や従前のFOMCの公式スタンスをいわばなぞったものにすぎないといえる。

今回の6月FOMC会合までには、金融政策予想をめぐりいくつかの経緯があった。5月18日に公表された4月FOMC議事要旨では、6月会合での利上げにつき、ほとんどの(most of)参加者が「今後入手されるデータが、経済成長の第2四半期の加速、労働市場の強まりの継続、インフレの委員会の2%目標への進捗と整合的ならば、委員会が6月の会合でFF金利誘導目標レンジを引き上げるのが適切になる可能性が高い」と判断したとされ、6月利上げ予想を支持する大きな材料となった(5月25日付当レポート参照)。しかしながら、6月3日に公表された5月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比+38千人にとどまり、6月利上げへの下方リスク要因となった(6月5日付当レポート参照)。さらに、6日の米フィラデルフィアでの講演でイエレン議長は「金曜の雇用統計は失望させるものだった」「経済見通しには重要な不確実性がある」「適度に緩和的な金融政策スタンスが適切」とのべ、ハト派色の強いメッセージで6月利上げ予想への下方リスクが高まった。

しかしながら総じて、6月FOMC声明文そのものや、イエレン議長定例記者会見の冒頭発言テキストは、会合での利上げ見送り理由や今後の金融政策見通しに関して多くを語っていない。成長、失業率、インフレ率に関する経済予測が大きく変わっていないにも関わらず、年内の利上げ予測が下方シフトしたことや長期的なFF金利行程が下方シフトしたことについては、これらでは十分に説明されていないといえるだろう。

イエレン議長記者会見のキーワードは「Brexit」と「中立金利低下」

一方、イエレン議長記者会見の質疑応答からは、声明文には明記されなかったいくつかの判断材料が見えてくる。まず短期的材料として、英国のEU離脱(Brexit)リスクへの言及がなされた。Brexitについてイエレン議長は記者の質問に答え「(Brexitは)我々が(会合で)議論した重要な事項であった」「Brexitが本日の決定の一つの要素であると言うのが適切であろう」と述べ、6月会合での利上げ見送りに際してBrexitリスクが一つの判断材料であったことを明かした。声明文上は「グローバルな経済と金融の動向」の中にBrexitも含まれると読み取ることができる。しかしながら、6月会合直前の世論調査集計で、EU離脱派がEU残留派を一時的に上回ったこと(6月13日付FT紙調査では離脱45%残留43%、なお19日時点の同調査では双方44%で拮抗)によるリスクの高まりは声明文には反映されていない。

次に、中期的なFF金利の動向に関する材料として、イエレン議長は中立金利の低下を挙げた。「成長率予測が不変なのに金利予測が大幅下方改訂されているのはなぜか」との趣旨の記者の問いに対して議長は「多くの経済統計他の研究は、いわゆる中立金利、つまり完全雇用に近い趨勢での経済成長に整合するFF金利の水準、が歴史的に大きく低下していることを示唆していると私は考える」「多くの推計はインフレ調整後の実質中立金利がゼロに近いとしていると思われる」と述べた。また、中立金利の低下要因として議長は、金融危機による向かい風に加えて「生産性の低下」を挙げている。

6月時点のFOMC委員経済予測によれば、長期的な適切なFF金利水準の中央値は3.0%とされており、これは3月時点予測の3.3%からは-0.3%、1年前の2015年6月時点の同3.8%からは-0.8%引き下げられている。FOMC委員の予測による長期FF金利は、FOMCの使命である物価安定(目標はインフレ率+2%)と雇用最大化における適切なFF金利とされており、これは上記のイエレン議長のいう中立金利の水準とほぼ同義である。成長予想が変化していないにもかかわらず金融政策予測が下方シフトしているのは、完全雇用における中立金利の適正水準の推計値が以前に比べ低下していることの反映だと議長は述べているわけだ。

状況証拠からは年内2回利上げ予想には下方リスク

中立金利の低下についてややパラフレーズしておくと、これは米国の潜在成長率の低下とも言いかえることができる。中立的な金利は、潜在成長率にインフレ率を加えたものと考えられる(自然利子率=潜在成長率とする場合)。た例えば、潜在成長率が2%で、期待インフレ率が2%とした場合、中立金利はこれらを加えた4%となる。FOMC委員の見る長期的な中立金利が過去の約4%から6月時点で3%に低下したことは、期待インフレ率(望ましいインフレ率=FOMCのインフレ目標)が一定とした場合、潜在成長率が約+2%から約+1%に低下したことを意味する。自然利子率の低下については過去のFOMC議事要旨からも時々議論されており(例えば今年の3月FOMC定例会合では、「多数の(a number of)参加者は「成長を抑制し自然利子率を押し下げる向い風の低減は遅い可能性が高い」と述べている」、これが長期的なFOMC委員の金融政策見通しに影響を与えていることは想像に難くないことである。

現状の米国の潜在成長率をシンプルなオークンの法則で推計すると[第4図]のようになる。20四半期ローリング回帰による2016年1-3月期時点の潜在成長率は前期比年率+1.5%、40四半期ローリングによるそれは同+1.3%となった。いずれも2%を大幅に下回りかつここ2年間で低下傾向にある。ちなみに米議会予算局(CBO)推計による現在の潜在成長率は同+1.5%で、この推計ともほぼ一致している(CBO「財政・経済見通し」2016年1月)。つまり、望ましいインフレ率を2%とした場合、これに潜在成長率を加えた中立金利水準は現在では概ね3%前半から半ばということになり、かつその水準は低下方向にあるということになる。これはFOMC委員経済予測における長期適正FF金利水準予測とも整合する(もっとも、潜在成長率はその推計方法により異なり、たとえば1992年以降の四半期データをHPフィルターで平滑化したトレンドから推計した2016年1-3月期潜在成長率は同+2.1%と、オークンの法則やCBOによる推計値よりも高めに出ている―[第5図]参照)。また、米国の生産性の低下については5月30日付当レポートなどで論じたように、これが潜在成長率低下の一つの要因であることもイエレン議長の述べたことと同様の見方を当レポートもとっている。

さて、以上の材料から今後のFRB金融政策予測を点検してみる。まず、ファンダメンタルズ指標について、成長率やインフレ見通しは、声明文や議長記者会見で述べられているように継続的な利上げ実施を正当化するものである。不確実要因として4-5月に悪化した雇用指標の回復を6月指標以降に確認する必要はあるだろう。次にグローバル経済については、Brexitという不確実要因はあるものの、これは6月23日の英国民投票で結果が判明する。つまり、次回7月26-27日のFOMC定例会合時点では、ファンダメンタルズとグローバル経済に関する不確実要因は相応に払拭されていることになる。次に、中立金利低下が年内の利上げペースの低下を促す可能性については、筆者個人はやや否定的である。金融政策の正常化は「徐々に」「慎重に」進めることがFOMCの基本スタンスであるが、正常化の最終目標水準が仮に低下しても、これにより足元にまでさかのぼって利上げペース低下方向に調整する必要は必ずしもない。経済活動の拡大が順調な場合はむしろ正常化実現時期を早めることで、その後の経済変動に対する金融政策ののりしろを確保できるからである。しかしながら最後に、FOMC委員経済予測などの状況証拠からは、年内2回の利上げの可能性はかなり後退したと言わざるを得ない。6人の委員が年内1回の利上げ意見に傾いていること、FF金利の長期中立水準への回帰は2019年以降ということになっていること、また前回4月定例会合で利上げを主張したカンザスシティ連銀のジョージ総裁が6月会合では利上げ見送りに賛成票を投じたこと、などは、FOMC全体がハト派に傾いている可能性を示唆している。ついては筆者個人の年内2回利上げ予想は維持し、その時期を7月及び12月定例会合に修正する。しかしこの予想は依然下方リスクにさらされていると言わざるを得ない。

[第4図]
20160619b図4

[第5図]
20160619b図5

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