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<経済レポート> バランスにはあと一歩:7月FOMC

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FOMCは7月定例会合で予想通り追加利上げを見送った。労働市場への基調判断は改善、経済見通しへの「短期的」リスクは後退したとされた。しかし、利上げ時期の前倒しを示唆する文言はなく、4-6月期GDP成長率の下振れや自然利子率低下論はハト派の利上げ慎重論の支持材料である。年内1回12月に追加利上げが決定されるとの個人予想は維持する。

7月FOMCは利上げ見送り:基調判断は改善した

26-27日の定例会合で、FRB公開市場委員会(FOMC)は予想通りFF金利誘導目標レンジを0.25-0.50%に据え置くことを決定した。声明文の従前文言からの変更は比較的シンプルなものであった。今回の声明文のポイントは大きく3つある。労働市場に関する基調判断が上方修正されたこと、経済見通しへのリスク減退が明記されたこと、にもかかわらず次回利上げに関する示唆文言が挿入されなかったことである。

まず、冒頭の基調判断のパラグラフでは「労働市場は強まった」「5月の弱い増加ののちに6月の雇用増加は強いものになった」とされ、前回6月定例会合声明文の「労働市場の改善は減速した」から判断が改善した。また経済拡大は「適度なペース」、家計消費は「力強い」とされた。前回6月定例会合時点で4-5月の雇用統計の軟化が利上げ見送りの判断材料の一つだったことが議事要旨からも判明していたが、6月雇用統計の回復により、この軟化が一時的なものだったとの判断がFOMC内でもなされたことがうかがわれる。

第2に、金融政策のスタンスを示すパラグラフで、「経済見通しに対する短期的なリスクは減退した」との一文が新たに声明文に挿入された。FOMCが声明文で経済見通しに対するリスクに言及するのは3会合ぶりであり、FOMCの判断の大幅改善を示唆するものである。経済見通しに対するリスクバランスが記載されるこのパラグラフには、昨年12月定例会合までは「概ねバランスしている」という文言だったが、今年初の金融市場変動を受けて1月声明文で同文言が削除されリスクバランスへの言及がなくなった。さらに3月声明文では「グローバルな経済と金融動向はリスクをもたらし続けている」との下方リスク文言が挿入された。この文言は4月声明文では削除され、再びリスクバランス文言なしの状態が6月声明文までつづいていた。今回7月声明文の文言は、前回まで潜在的にFOMCが見通しに対する下方リスクを依然見ていたこと、今回それが明かに後退したことを示唆している。ただし、のちに述べるようにこの文言は「概ねバランスしている」までには改善していない。したがって本文言は見かけの判断改善にかかわらず、従前のバランス文言に比べれば依然ハト派的な文言だと言わざるを得ないだろう。

「リスク減退」は短期的なものに限定された

前回6月定例会合での利上げ見送り判断の材料は、雇用市場の悪化、英国EU離脱リスク、中立金利の低下、の3点であった。今回の7月会合声明文で示された「経済見通しに対する短期的リスクの減退」がいずれのリスクを指すのかは声明文だけからは判然としない。雇用市場については6月単月の指標が労働市場の改善を示唆した。英国EU離脱は前回6月会合以降の国民投票で選択された直後に金融市場の一時的悪化がみられたが、7月定例会合時点ではほぼ国民投票前の状態に回帰している。この状態をもって6月会合での利上げ見送りの要因の少なくとも2つが解消されたと見ることも可能ではある。

しかし現時点の情報からは、このリスク後退は主に、年初の市場変動にくわえ、4-5月の雇用指標悪化、英国EU離脱後の短期的な金融市場変動のリスクに限定したものとみるべきであろう。英国EU離脱選択のファンダメンタルズへの中長期的影響は現状入手可能な6月指標には反映されているとは言えず、少なくとも9月頃までの指標の確認が必要といえるからである。雇用市場についても、本来は6月単月指標の改善のみならずその後の動向も踏まえて、特に英国EU離脱選択を受けた雇用への影響まで見極めるのがFOMCのスタンスとより整合的である。米供給管理協会(ISM)の調査によれば、英国EU離脱選択の米雇用への影響は限定的と当レポートでは見ている(7月3日付<経済指標コメント>参照)。FOMCとしては(特にハト派の観点からは)中長期的な見通しに対する判断をバランスさせるには、また次回利上げ時期の判断までには、更なる情報の蓄積が必要とみるのが自然であろう。このリスク判断改善の背景については、今後公表される議事要旨で確認したい。

最後に、上記のリスク後退認識にも拘わらず、7月声明文には次回9月会合での利上げ判断の可能性を示唆する文言は挿入されなかった。今後の金融政策についての文言は「委員会は、経済条件はFF金利の徐々の引き上げのみを正当化する形で推移すると予想する」と従来の文言から不変であり、年内の金融政策行動に関する新たな材料は提供されなかった。経済見通しに対するリスクの減退が短期的なものにとどまっていることからは、今後の金融政策について3月のFOMC委員経済見通しから大幅な変更がないことや、新たに利上げを前倒しする材料に乏しいことから、はこのコミュニケーションは自然なものといえるだろう。

12月利上げ予想は維持:GDP下振れは年内利上げを妨げない

7月FOMCの声明文は、当レポートの「12月定例会合で+0.25%の追加利上げ決定」との個人予想とその前提に概ね整合する内容であった、一方で声明文自体からは、6月のFOMC委員の経済予測(年内1回の利上げが予測中央値)から利上げを前倒しする材料があった形跡は読み取れない。ついては、FOMCの金融政策に関する上記の筆者個人予想を維持することとする。

以下では、直近のGDP統計の金融政策予想への影響と、FOMCでの金融政策に関する議論でしばしば言及される中立金利につき補足を試みる。まず、7月FOMC定例会合後の29日に公表された4-6月期GDP統計では、実質GDP成長率が前期比年率+1.2%にとどまり、筆者個人予想を大幅に下回った(7月30日付<経済指標コメント>参照)。年後半の個人消費の減速を勘案すると、2016年の成長率は、6月時点のFOMC委員予測中央値である前年比+2.0%から大幅に下振れ、同+1%台前半~半ばにとどまる計算になる。これは、利上げに慎重なハト派のFOMC委員にとっては利上げ見送り主張の好材料となりうる。

しかしながら、テイラー・ルール公式によれば、この下振れが年内の利上げ実施の妨げにはならないことがわかる。4-6月期の実質GDPが予想比下振れしたことにより、テイラー・ルール公式による年末の適正FF金利水準は従前の当レポート予想比約-0.3%程度下方シフトした計算になる。しかしそれでも、年末の適正FF金利水準は約1%となり([第1図]、自然利子率=2%の場合)、年内1回の利上げは十分に正当化されることになる。GDP統計の下振れは、12月利上げ予想に対する下方リスクというより、利上げ前倒し可能性の後退とみるのが適切であろう。

[第1図]
20160731図1

長期金利からみた自然利子率は1%台なかば

次に、自然利子率(実質中立金利)の低下に関して補足しておく。従前の当レポートでは、①米議会予算局推計による潜在成長率、②実質GDP実績のHPフィルター平滑化による潜在成長率、の2つを自然利子率とみなし、これらの水準からは現在の米国の自然利子率は低く見積もっても1%台半ばにあると見るのが適切であること、したがって自然利子率が仮に2%を下回っているとしても年内の利上げはテイラー・ルール公式上年内の利上げは正当化できること、を見てきた(参照)。したがって、一部FOMC委員の見解から憶測される「自然利子率がほぼゼロ」という前提で年内利上げを見送ることは慎重すぎるとの立場をとってきた。ここでは上記の2つの自然利子率推計に加え、③実質長期金利実績のHPフィルター平滑化による自然利子率、を試算してさらに考察を進める。

長期金利(10年物米国債利回り)からインフレ率(消費者物価指数前年比伸び率)を差し引いた実質長期金利の推移は[第2図]の通りである。ここからHPフィルター平滑化により抽出されるトレンドを自然利子率とみなすと、現在の自然利子率は約1.4%と推計される。上記を合わせた3通りの自然利子率を一つのグラフ上で比較したものが[第3図]である。これによれば、②実質GDP実績から推計される自然利子率は約2%、①CBO推計及び③実質長期金利からの推計による自然利子率はいずれも約1.4%との結果になった。実質長期金利はFRBの金融緩和政策でやや低めに抑制されてきた可能性があることを勘案すれば、③が相対的に低い水準にあることは首肯できる結果である。

上記からも、米国の自然利子率は低めに見積もっても1%台半ばにあること依然言ってよく、自然利子率がゼロに近づいているという結果は導出されない。もっとも、自然利子率を1.5%とした場合のテイラー・ルール公式による年末の適正FF金利は、4-6月期GDP統計を勘案するといまや約0.5%にまで低下している。その意味で自然利子率の低下は前提とした場合には年内追加利上げの正当化はギリギリの状況にはあることは認めざるを得ない(上記[第1図])。ついては、FOMCにおける自然利子率低下の議論は、金融政策見通しに対する潜在的な下方リスク要因として引き続き認識はしておきたい。

[第2図]
20160731図2

[第3図]
20160731図3
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