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<経済レポート> 年内利上げ予想を維持:FRB高官発言

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ジャクソンホールなどでの最近のFRB高官発言を、総じてタカ派なものと市場は受け止めている。これらの発言は年内利上げの可能性を強く示唆しているが、必ずしも次回9月FOMC会合での利上げを強く示唆するものではない。また各々のFOMC投票メンバーのスタンスからも9月利上げの可能性は半分以下といえる。したがってこれらは、年内利上げなしと予想していた向きにとっては予想変更材料となりうるが、次回利上げを今年12月としていた当レポート予想にとっては中立材料である。利上げ前倒しのリスクは認識しつつも、次回利上げは12月との個人予想を維持する。

年内利上げを示唆するFRB高官発言が続く

ここ2週間の間に、ジャクソンホールでのイエレンFRB議長講演ほか、金融政策に関し多くのFRB高官が講演・メディア発言を行った。これらの発言のトーンは一貫して、年内にFF金利誘導目標引き上げが実施されるとの予想を支持する内容であった。実際、市場ではこれらの発言(特に26日のフィッシャーFRB副議長発言)を受けて、株価が小幅ながら下落、長期金利は上昇した。

一方でこれらは、次回9月のFOMC定例会合での利上げを必ずしも示唆するものではない。一連のFRB高官発言はある共通の意図のもとになされたものと憶測しているが、仮に9月利上げが内定しているのであれば「次回会合」など、より強い示唆文言がイエレン議長の発言テキストに挿入されていてしかるべきだからである。

9月利上げの是非についてはいまだFOMC委員の意見が分かれていると見る。のちに述べるように、7月FOMC議事要旨によれば、2~3人の参加者が7月会合での利上げを選好したとされる。さらにここ2週間のFRB高官発言は、9月FOMC定例会合で利上げが議題に上る可能性がさらに高まったことを示唆している。しかし、特にイエレン議長からのメッセージが9月利上げを強く示唆するものではなく、またFRB理事は原則議長に同調すると思われることから、最終的に投票メンバーの過半数が9月会合で利上げに賛成するとは考えにくい。本レポートでは、かかる観点から、7月FOMC定例会合の議事要旨、及びここ2週間のFRB高官発言を検証する。

7月FOMC議事要旨では利上げ実施の意見も

まず、18日に公表された7月FOMC議事要旨を見る。ここからは、利上げのタイミングについて様々な意見があったことがわかる。議事要旨によれば、直前の6月会合で利上げ見送りの判断となった「雇用市場」「英国EU離脱選択」という懸念要因は「減退」したとの認識が示された。代わって利上げ見送り派の主根拠は今やインフレ率の下振れ懸念に移行した模様が読み取れる。

一方で利上げ積極派の意見も明確な形で示されている。追加利上げの条件に関する議論の中で、2~3名の(a couple of)参加者が「同会合での利上げを支持した」とされた。もっとも、多くの(many)参加者は利上げには「追加的な情報を待つのが適切」との考えであり、7月は利上げ見送り意見が多数であった。投票メンバーによる金融政策に関する審議では、2~3人のメンバーは「インフレ率が2%に上昇しこれが持続する更なる根拠を待つことを選好」したが、幾人か(some)の他のメンバーは「経済条件は金融緩和解除のもう一段のステップをまもなく正当化すると予想」したとされた。また、1名のメンバー(カンザスシティ連銀ジョージ総裁)は「当会合での利上げを選好」した。

FOMCでは、上記の様に7月時点ですでに複数の委員が利上げ実施すべきと考えていた。また、投票メンバーのうち「幾人か」が7月時点で近い将来の利上げの可能性を予想しており、その後の経済指標実績に照らせば、9月には幾人かのメンバーのいう利上げの条件が満たされる可能性は高い。これは9月定例会合での利上げがありうるとの見方を支持しうる。しかしながら、議事要旨の記述からはその人数は「幾人か」にとどまり、決して過半数ではないと見られる。

ジャクソンホールのイエレン議長講演:9月利上げの示唆はなし

次に、直近のFRB高官発言を振り返る。まず8月16日、アトランタ連銀ロックハート総裁はテネシー州での講演において、第2四半期の実質GDP成長率の下振れにかかわらず年後半にはリバウンドがあるとの予想を述べたうえで「経済に関する私の考えが正当化されれば、年後半に少なくとも1回の政策金利引き上げが適切だと私は考える」と述べた。同16日、NY連銀ダドリー総裁はメディア(Fox News)の取材に答えて「我々は更なる利上げが適切となる時期に近づいている」「(9月FOMC会合での利上げの)可能性はある」と述べた。18日にはサンフランシスコ連銀ウィリアムズ総裁がアラスカにおける講演で「広い意味での米国経済はよい形」「我々は完全雇用にあり、インフレは目標が視野にありこれに達する過程にある」「かかる環境下、FRBが金利をより正常な水準に向けて徐々に引き上げる意味がある」と述べた。

ワイオミング州ジャクソンホールの金融会合ではさらにいくつかの注目発言があった。まず26日、セントルイス連銀ブラード総裁はメディア取材に応え「9月は利上げの良いタイミングかも知れない」と述べた(CNBC)。最も注目されていたのは、26日のイエレンFRB議長講演であった。イエレンFRB議長は講演で「労働市場の継続的に堅調な実績と我々の経済及びインフレに関する見通しに照らせば、FF金利を引き上げる根拠はここ何ヶ月かの間に強まったと考える」と述べた。しかしながら講演の他の部分は概ね従前からのFOMCの公式見解に沿ったものであり、7月FOMC以降に何等かの認識変更があった形跡は見られない。さらに、イエレン議長講演の後に、フィッシャーFRB副議長はメディアの取材に答えて「次回の8月雇用統計は我々の判断に重要となるだろう(CNBC)」と述べた。なお、フィッシャー副総裁はジャクソンホールに先立つ21日のコロラド州における講演で、米国経済について“目標に近づいた”とポジティブな評価をしたほか、自然利子率と生産性上昇率低下をも指摘している。

これら一連の発言のポイントは以下である。まず、ほぼすべての発言者が「完全雇用状態」や「利上げの可能性」に言及していること、特にハト派とされるダドリー総裁、ウィリアムズ総裁が利上げ可能性に能動的に言及するのは利上げに向けた前進材料といえる。次に、しかしながら具体的な利上げ時期についての発言はまちまちで、9月利上げへの言及はダドリー総裁とブラード総裁のみであることである。これらの状況証拠から、一連の発言は年内利上げ見送りという過度にハト派な市場予想をけん制し、年内の利上げの可能性を市場に伝達する意図があったと推測できる。一方で、具体的な利上げの時期と回数についてのコミュニケーションは意図されていなかったと考える。

次回利上げは12月との個人予想維持:上方リスクはあり

以上から、次回利上げは12月との筆者個人の予想は維持する。ただし、この予想に対するリスクは上方であり、利上げ時期前倒しのリスクはやや高まったといえる。ちなみに、上記の発言をも踏まえた9月FOMCでの投票メンバーの投票行動を推測すると以下のようになる。すなわち、利上げを支持する可能性のあるタカ派メンバーが3名(ジョージ総裁、ブラード総裁、クリーブランド連銀メスター総裁)、利上げ見送り支持のハト派は5名(イエレン議長、ダドリー総裁、ブレイナード理事、タルーロ理事、ボストン連銀ローゼングレン総裁)。利上げが過半数で決定されるには、上記以外の中立派の2名(フィッシャー副議長、パウエル理事)がいずれも利上げに賛成し、かつ9月利上げの可能性に言及したダドリー総裁が利上げ賛成に回る必要がある([第1表])。現実的にはこの可能性は低い。FRB議長と、同副議長及びNY連銀総裁との票が分かれることはFRB執行部の運営上考えにくいからである。

もっとも筆者個人の意見はといえば、上記の予想にかかわらず、利上げを早期に実施するのが適当だと考えている。過去の当レポートでみたように、自然利子率を1.5%とした場合、筆者個人の成長予想とインフレ予想を基にテイラー・ルールによる2016年末の適正なFF金利水準は約+0.4%と計算され、年内の利上げは正当化されない。これは第4四半期の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)を前年比+1.4%とする予想に基づく(7月31日付当レポート参照)。一方、インフレ率としてコアPCEデフレーターを用いた場合(第4四半期に同+1.8%と予想)は、適正なFF金利水準は第2四半期で約+0.7%、第4四半期で約+1%と計算される。つまり、インフレ指標としてコアPCEデフレーターを用いた場合はすでに追加利上げが正当化される水準にあることになる([第1図])。

また、FOMCでは自然利子率の低下は確かにFOMCにおける主要課題の一つであるが、これを現実的にどこまで重視すべきかには議論の余地がある。自然利子率自体計測手法が一定しているわけではなく、したがって自然利子率の変動が都度の金融政策に影響を与えることは政策の安定性からは望ましいことではない。少なくとも今後インフレ率が2%に向けて上昇するとの見通しに立つならば、適正なFF金利水準は自然利子率1.5%にインフレ率2%を加えた3.5%程度には上昇するはずである(実際にはテイラー・ルール公式上はここから需給ギャップの半分が差し引かれる)
。この均衡水準に向けての利上げ行程は、テイラー・ルールにそのまま従うというよも、よりフォワードルッキングな見地に立つことが望ましいことは26日にフィッシャー副議長も発言している通りである。さらには、景気サイクルによる景気減速が来年以降訪れた際に備え、金融政策ののりしろ(利下げの余地)を残しておくことが有効だと見る。

[第1表]

20160829表1

[第1図]
20160829図1
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