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<経済レポート> 引締めGO:米国潜在成長率と需給ギャップ

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米議会予算局の最新の推計では、米国の経済ののりしろは従前の推計値に比べて縮小している。これは年内の利上げ予想を支持する材料である。一方で状況証拠からは、利上げ開始時期については当レポート予想の12月FOMCからの前倒しリスクが高まっている。ハト派FRB高官の利上げ支持示唆発言がその後も継続しており、FOMC投票メンバーの9月利上げ支持・不支持勢力図はかなり拮抗している可能性がある。

米議会予算局は成長加速・需給ギャップ縮小を予想

8月23日、米議会予算局は「財政・経済見通しアップデート 2017-2026」を公表した。ここでは、前回1月の財政見通しと経済見通しに対する改訂がなされている。うち経済見通しの部分につき概要を見る。まず成長率予想についてみると、CBOの8月時点の2016年実質GDP成長率予想は前年比+1.9%(1月時点予想同+2.5%)と大幅下方改訂。2016年第4四半期の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年比+1.5%(同+1.5%)、同コア指数は同+1.8%(同+1.5%)と1月予想比ほぼ不変。失業率は第4四半期に4.6%(同4.5%)とこれもほぼ不変となっている。なお、2017年の成長率につきCBOは同+2.7%と成長加速を予想している。

今後2年間の経済拡大についてCBOは、「未使用の経済資源または経済の“のりしろ”は低減する」「20015年末時点のGDP実績は潜在GDPに比べ約1.8%低かった」「2018年までにこの需給ギャップは過去平均よりも低い水準に縮小すると予想」「結果経済改善が更なる雇用を喚起し、失業率は2017年に4.5%に低下、労働賃金とベネフィットに上昇圧力をもたらす」と述べている。

FRB金融政策についてCBOは、「FRBはFF金利を2016年12月から徐々に引き上げ開始」し「2017年第4四半期に1.1%に、2018年第4四半期に1.8%に引き上げると予想」している。また、米国の潜在GDPについてCBOは、その水準を1月時点推計に比べわずかに引き下げている。潜在GDPの低下は、同じGDP実績に対してマイナスの需給ギャップが従前推計比縮小していることを表す。例えば2016年4-6月期時点の需給ギャップは、1月推計ベースでは約-2.2%だったが、8月推計ベースではこれが約-1.8%に縮小していることになる([第2図])。なお、2016年4-6月期時点のCBO推計による潜在成長率は約+1.5%と計算される。以下では、成長率、インフレ率、需給ギャップの動向につき、CBO「見通し」と当レポートの見方を比較し、今後の経済・金融政策予想へのインプリケーションを考察する。

[第1図]
20160911図1

[第2図]
20160911図2

成長予想はやや楽観的:インフレ予想はほぼ同じ

まず、CBOの2016年成長予想(前年比+1.9%)は、7月時点の当レポート予想とほぼ同じであるが、その後の筆者の暫定見通しに比べかなり楽観的といえる。当レポートでは、4-6月期GDP統計公表前の時点で2016年の通年成長率を前年比+1.8%と個人予想していた(7月10日付当レポート参照)。その後4-6月期成長率が前期比年率+1.2%に下振れしたことから、現在では通年成長率は同+1.3%程度に下振れすると暫定的に見ている。CBOは、2016年成長率予想の同+1.9%への引き下げの要因を「主に年前半の成長が予想を下回ったこと」としている。年前半の成長率の下振れにより通年成長率見通しを引き下げた点で両者は同じであるが、ベースラインの成長ペースにつき、CBO予想は当レポート比強めの見方をしているといえる。ちなみに、2016年実質GDP成長率のうち個人消費の予想はCBOの+2.6%(第4四半期前年同期比)である。これに対し筆者個人は、個人の可処分所得の伸び率の低下と雇用拡大ペースの減速を背景に、年後半には個人消費は減速を見こんでおり、個人消費は同+2.1%と予想している。両予想の差は個人消費に対する見方のみでも説明可能である。

需給ギャップの今後の見通しにもこの成長予想の違いが現れている。経済ののりしろ(マイナスの需給ギャップ)につき、CBOはこれが今後2年間で縮小方向に向かうと予想し、またマイナスの需給ギャップの縮小が失業率低下と賃金上昇を加速すると見ている。一方当レポートでは、今年年後半の成長率が+1%半ばの潜在成長率に近いペースにとどまることから、年後半にはマイナスの需給ギャップはほぼ横ばいで推移すると見ている。また当レポートでは、労働市場の拡大ペースが今後減速することから失業率の低下ペースは減速し、年末の失業率は4.8%までの低下にとどまると見ている。

一方で、成長に関する予想の違いにもかかわらずインフレ率についてのCBO見通しは当レポート予想とほぼ同じである。当レポートでは、PCEデフレーターが2016年12月に前年比+1.5%(第4四半期前年同期比+1.3%)に、コアPCEデフレーターが同+1.8%(同+1.8%)に上昇するとみている([第3図])。前提として、原油価格が現在の1バレル=40ドル台で安定推移することと食品及びエネルギーを除くコアPCEデフレーターが需給ギャップの縮小を背景に安定的に上昇することを想定している。これらの見方はCBOの予想においても概ね同様である。

[第3図]
20160911図3

現在の失業率・需給ギャップ水準でインフレ率は上昇する

失業率低下ペースが減速するにも関わらずインフレ率が上昇すると筆者が見る背景は、すでに現在の需給ギャップ(またはその代替指標としての失業率)が今後遅行的にインフレ率や賃金上昇率を上昇させるに十分とみているからである。まず、需給ギャップとコアPCEデフレーターの関係を見る。両者間には相応の相関がみられ([第4図])、現在の需給ギャップ水準(-1.8%)に相当するコアPCEインフレ率は前年比+1.8%と計算される。つまり、現在の需給ギャップ水準でも、コアPCEインフレ率が2%目標に近い水準にまで上昇する見通しは十分に正当化されるわけだ。

次に、失業率が自然失業率(CBO推計では2016年第2四半期現在で4.7%)に接近したことにより、今後は賃金上昇ペースが今後遅行的に加速すると筆者は個人的に見ている。失業率と時間当たり賃金上昇率(生産及び非監督労働者)の関係を示すシンプルなフィリップス曲線によれば、失業率の低下に遅行して賃金上昇率が上昇すること、また失業率が自然失業率に接近すると賃金上昇ペースが加速することが読み取れる([第5図]、[第6図])。ちなみに8月現在の失業率(4.9%)は2005年末時点のそれとほぼ同水準であり、その時点の時間当たり賃金上昇率は前年比約+3%であった。賃金上昇の遅行性からは、今後失業率低下ペースが減速しても、賃金上昇率が+3%に向けて上昇することは十分に可能である。

総じて、CBO予想と当レポート予想との間に今後の成長拡大ペースに関する違いはあるものの、マイナスの需給ギャップ縮小認識とそのインフレ率押し上げ効果についての見方に大きな差はないといってよい。

[第4図]
20160911図4

[第5図]
20160911図5

[第6図]
20160911図6

年内利上げ予想を支持する材料:開始前倒しリスクは高まる

最後に、FRB金融政策予想についてみる。筆者個人もCBOと同様、今年の12月にFRBがFF金利誘導目標レンジの継続的引き上げを開始すると見ている。この見通しに対する支持材料として、CBOが米国の潜在GDP推計値を引き下げ、結果マイナスの需給ギャップが従前推計よりも縮小した点があげられる。テイラー・ルール公式に8月時点の新たなCBO推計潜在GDPを用いて適正なFF金利水準を推計しなおしてみた。テイラー・ルール公式はイエレンFRB議長が採用する99年版(インフレギャップよりも需給ギャップを重視)、自然利子率は1.5%(FOMC内の中立実質金利低下の議論やCBO推計の潜在成長率を勘案)を用いた。

PCEデフレーターの10-12月期の前年同期比の伸び率を+1.3%とすると、2016年第4四半期の適正FF金利は+0.5%強となった([第7図])。これは、従前の筆者推計(同+0.4%)よりもいくぶん上昇している。需給ギャップ推計値が従前よりも縮小したことが適正金利押し上げ要因、一方で7月のPCEデフレーターが前月比横ばいとやや上昇ペースを落としたことが下げ要因である。なお、PCEインフレ率に今年12月単月の筆者個人予想値(前年比+1.5%)を用いると、適正FF金利水準は+0.8%と推計される。さらに、インフレ率にコアPCEデフレーターを用いると、年末の適正FF金利は+1.2%と推計できる。需給ギャップがCBO推計通り従前想定よりも縮小しているならば、年内のFF金利引き上げ正当化は以前よりも容易になったといえる。以上より、FRBが12月に連邦公開市場委員会(FOMC)定例会合で利上げを決定するとの個人予想を維持する。

むしろ、9月20-21日のFOMC定例会合で利上げが決定されるとの上方リスクは、8月下旬のジャクソンホールでのFRB高官の一連の発言後、ここ2週間でさらに高まったと言わざるを得ない。直近では、今年のFOMCの投票メンバーかつハト派とみていたボストン連銀ローゼングレン総裁が9日の講演で「私個人の見方では、、金融政策の徐々の正常化を検討する合理的な根拠がありうる」「(緩和的金融政策は)経済過熱の可能性を増大させる」「完全雇用を維持しようとすれば徐々の引き締めが適切である可能性が高い」と述べた。特に同総裁は、商業不動産価格上昇等を引き合いに、金融引き締めの遅れにともなうリスクを強調した。これはハト派投票メンバーのタカ派的発言と受け取られ、市場では米国債10年物利回りが約8bps上昇、NYダウは前日比-394ドル下落した。筆者自身も同氏を投票メンバー中のハト派にカウントしている(8月29日付当レポート参照)、仮に同氏が9月定例会合で利上げ支持に回れば、委員会内のハト・タカ勢力図はほぼ拮抗する。8月29日付レポート時点では、一連のFRB高官発言は年内利上げ見送り観測へのけん制にすぎないと見ていたが、こうした状況証拠はFRB高官が9月利上げを真剣に考慮している可能性をもいまや示唆している。最終的にはイエレン議長ほかFRB理事が構成する執行部の意向がFOMCの判断を決定することになる。その意味では12日のブレイナードFRB理事(イエレン議長に近いリベラルなハト派)の講演には注目であり、その内容次第では上記予想の修正も考慮する可能性がある状況だ(なお、上記12月利上げ予想にかかわらず筆者個人は利上げをより早期に開始するのが望ましいと考えていることは過去の当レポートでも述べた通りである)。

[第7図]
20160911図7




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