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<経済レポート> ナイーブなカーブ:日銀「長短金利操作付き量的・質的緩和」

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日本銀行は21日、イールドカーブ・コントロールを含む新たな金融緩和政策の導入を決定した。同政策は長期金利の水準を操作目標として設定する新たな枠組みである。これは、金融緩和政策の副作用の排除、より広範囲な金利に働きかける政策、コミットメント強化、との観点からはポジティブな内容といえる。一方、従前の政策と比べた限界的な効果は今回の決定内容からは限定的であり、その効果は今後の運用に依存する。インフレ率は来年にかけて一時2%に向け上昇する可能性があるが、安定的な推移にはまだ時間を要するとの見方は維持する。

日銀は「長短金利操作付き」緩和導入を決定

日本銀行は20-21日の金融政策決定会合で、「金融緩和強化のための新しい枠組み『長短金利操作付き量的・質的緩和』」(以下「同政策」)の導入を決定・公表した([第1表])。市場の一部で期待されていた日銀当座預金マイナス付利金利の引下げ(いわゆる「深堀り」)は実施されなかった。同時に日銀は、「『量的・質的緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」(以下「総括」)を公表、2013年4月に導入された量的・質的緩和の効果と影響の検証を行った。本レポートでは、「長短金利操作付き量的・質的緩和」政策の内容を概観し、その物価安定目標達成への効果を見ていく。

同政策の主な内容は「長短金利操作」「オーバーシュート型コミットメント」の2つである。まず「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」は、政策金利として日銀当座預金のうちの政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を付利、さらに長期金利(10年物国債金利)にゼロ%程度の操作目標を設定する。長短金利操作のため「日本銀行が指定する利回りによる国債買入れ(指値オペ)」を新たに導入する。対象年限は2、5、10、20、30、40年債である。国債買入れは日銀の保有残高が「年間約80兆円」増加するペースをめどとする。次に「オーバーシュート型コミットメント」とは、日銀が2%の「物価安定の目標」の実現を目指しこれを安定的に持続するために必要な時点まで同政策を継続することに加え、新たに「マネタリーベースを消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続する」ものである。

なお日銀は声明文で、今後の追加的な緩和手段として、①短期政策金利の引き下げ、②長期金利操作目標の引き下げ、③資産買入れの拡大、④マネタリーベースの加速、を挙げ、今後の追加緩和の可能性も示唆している。

[第1表]
20160925表1

ポイントは「長期金利操作目標」と「適合的な期待形成」強化

同政策の、従前の政策と比較した変更点は以下の2つに整理できる。第1に、短期政策金利の設定に加え新たに長期金利の水準を金融政策の中間操作目標に設定したことである(マネタリーベースの数値目標は廃止)。現状先進国の金融政策で操作目標として長期金利水準の数値を設定している例はなく、これは新たな試みといえる(2002年11月に当時のバーナンキFRB理事が講演でゼロ金利制約下の追加緩和政策の選択肢の一つとして「中長期国債金利への上限設定」を挙げたことがある)。具体的には、年限毎の指値オペ(固定利回り方式)により、市場のイールドカーブを日銀の想定する水準(“概ね現状程度”と日銀は想定している)に維持することを目指している。政策金利と10年金利を固定したうえで、イールドカーブの水準と形状を正当化するには理論上の工夫が必要であり、これがのちに述べる課題となりうる。

第2に、「適合的な期待形成」のために「インフレ実績」をより重視したフォワードガイダンスの強化である。日銀は「総括」において、日本の予想物価上昇率の形成において「適合的な期待形成」のウエイトが他国に比べ高い(短期インフレ予想の約7割が現実のインフレ率で説明できる)ことを検証している。「インフレ実績が安定的に2%を超えるまでマネーサプライを拡大」は、従前のフォワードガイダンスをいくぶん強めたものといえる(これはフォワードガイダンス状況条件ガイダンスState-contingent guidanceといえる)。

ただし今回の決定は、従前の緩和政策との比較では「追加緩和」とはいいにくい。10年物国債利回りは従前よりゼロ%以下で推移していた。これをゼロ%に固定することは、長期金利の水準を従前よりもむしろ引き上げることを意味する。イールドカーブ・コントロールは、枠組みとしては長期金利を中銀の直接の操作目標とすることで量的・質的緩和よりも強力といえるが、現状の数値目標設定ではむしろ引き締め方向である。これは、イールドカーブのフラットニングに伴う副作用(「総括」補論9)に配慮した運用といえる。「年間80兆円の国債保有残高増加」は、実質的には従前の「マネタリーベース年間約80兆円増」と同等であり、量の観点からは緩和の程度は従前と同じである。

副作用緩和はポジティブ、本来的な限界効果は限定的

従前の緩和政策と比較した同政策の2%物価安定目標達成への限界的な効果は以下にまとめられる。第1に、政策金利の深堀りを見送りかつイールドカーブのスティープ化が促されることで、イールドカーブのフラットニングによる副作用は緩和され、物価安定目標への進捗は現状比加速されることになるだろう。

しかしながら第2に、今回の決定そのものによるインフレ率引上げの限界的効果は限定的と見ざるを得ない。金融緩和政策の拡大が経済に与える限界的効果は低減しておりかつ今回の緩和の程度は従前比ほぼ同等とみられる。日本銀行は「総括」において、マクロ経済モデルを用いた分析により、実質金利押し下げ政策効果が需給ギャップ縮小とインフレ率上昇に有意に寄与したと結論づけている。ただし、例えば2013年2Q以降の実質金利低下の需給ギャップへの政策効果は13年度+0.1%、14年度+0.4%、15年度+0.6%とされ、限界的政策効果は低減している(「総括」補論6)。一方「総括」では、金利の期間構造による経済・物価への影響につき「実質金利1単位の低下が需給ギャップに与える影響については、1~2年がはっきりおおきく、年限が長くなるにつれて小さくなる」と結論している(「総括」補論8)。つまり、長期金利を引き下げても、その効果は比較的短い年限においては大きいが、中長期の年限においては限定的ということである。一般に、短期の政策金利設定と約1~2年後の金融政策期待を市場に織り込ませることで、中央銀行は2年程度までの市中金利に影響を及ぼすことができる。長期金利を中間操作目標とするイールドカーブ・コントロール導入の限界的効果は、主にイールドカーブの過度なフラットニングを抑制することで金融緩和政策の副作用を低減させることと見ておきたい。

第3に、今回のフォワードガイダンス強化は、従前の政策の即効性の向上を狙ったものとはいえない。「オーバーシュート型コミットメント」は適合的な期待形成に働きかけることでよりフォワードルッキングなインフレ予想を引き上げようとするものであるが、従前の「2年で2%」とのフォワードガイダンスからの較差は大きいものではない。

カーブの引き方:曲率の頂点は手前に引き寄せるのが効果的

同政策の運用上の課題は、「イールドカーブ・コントロール」で設定する具体的イールドカーブの水準と形状である。日本銀行が「総括」で分析しているとおり、イールドカーブは「水準」「傾き」「曲率」の3つの要素で決定される。政策金利と10年金利を固定することはこのうち「水準」と「傾き」を定義することになる。残る「曲率」については、曲率が最大となる曲率の頂点となる年限と水準が設定できれば、具体的イールドカーブの定義が可能になる。

現状の日本国債のイールドカーブをみると、1年物から10年物の期間はほぼフラットに近く、10年物を境にカーブが急激にスティープ化している([第1図])。つまりイールドカーブの曲率の頂点が10年物近辺に位置している。これは、マイナス金利付き量的・質的緩和が長期金利低下に及ぼす影響が概ね10年までとの市場の期待を反映していると見られる。なお、21日の政策決定後の国債イールドカーブは決定前よりスティープ化し、20年以上の利回りが上昇、5年以下の年限の利回りが低下している(同上)。これは、新たな金融政策において、日銀が特に10年以上の超長期の金利を引上げ、5年以下の中期金利を引下げる操作を行うとの市場の期待の反映といえる。これは10年物利回りゼロ%が今後のイールドカーブ導出における曲率の頂点の役割をも同時に果たすとの期待と言い換えられる。日銀はイールドカーブを「概ね現状程度の水準から大きく変動することを防止する」ことを想定しており(「2016 年9月中の長期国債買入れ等の運営について」)、現状イールドカーブを追認しているように見える。

しかしながら、実質金利の引き下げの経済への効果が主として1~2年において大きいとすれば、イールドカーブの曲率の頂点はこうした短期の年限におくことがより効果的と考えられる。3年以上の年限のカーブをフラット化させたままだと、上記の副作用が依然として3~10年物の金利期間において残存することになる。日銀公表内容からは、今後の長短金利操作においてイールドカーブの曲率の頂点をどの年限におくかは明示的ではない(シンプルには現状通り10年物を想定しているとも読める)。市場へのショックを極小化するために、政策開始当初は「現状程度」の水準をイールドカーブとして想定することは合理的な判断である。しかし、今後の政策運営においてその水準を必要に応じ変更することは可能である。政策の効果を優先すればおのずとイールドカーブは現状からやや頂点を期近方向に移行させることが適当ということになる。

[第1図]
20160925図1

インフレ率は来年度に一時2%に接近も:安定的な実現はまだ先

総合的にみて同政策は、従前の「量的・質的緩和」継続を前提とした政策枠組み変更としては適切といえる。緩和政策の副作用への配慮、イールドカーブに働きかけるより広範囲な金融政策、そしてフォワードガイダンスの強化というポジティブな要素がひとわたりそろっている。一方、その運用のポイントは具体的イールドカーブの設定であり、上記の曲率の頂点の設定がその効果を大きく左右する。

なお、インフレ率が2017年中には2%に向けて一時的に接近するものの持続的な2%インフレの実現にはさらに時間がかかるとの筆者個人の見通しは同政策決定後も維持する。まず筆者試算によれば、原油価格が今後1バレル=40ドル台で安定的に推移した場合、生鮮食品を除く総合消費者物価指数(いわゆるコアCPI)の前年比上昇率は2016年度末には概ね+1%程度に上昇する([第2図])。その後日本経済が潜在成長率を上回る成長を継続すれば、需給ギャップの縮小を背景に同インフレ率が2%に一時的に接近しうる。

しかし、需給ギャップとコアインフレ率との関係からは、2%のインフレ率を安定的に実現するには、需給ギャップが+4%の需要超過になる必要がある計算になる([第3図])。内閣府によれば、2016年4-6月期現在の日本のGDPギャップは-1.0%、潜在成長率は約+0.3%とされている。需給ギャップが4%以上の需要超過になることは今後2~3年では考えにくい。インフレ率が2%を安定的に超えるケースとして想定されるのは、インフレ率の実績が1%を超えてくることにより日銀のいう「適合的な期待形成」が加速することで予想インフレ率が上昇し、需給ギャップの縮小が加速するケース、あるいは失業率が自然失業率を下回ってさらに低下することが賃金上昇ペースの加速をもたらし、これがインフレスパイラルを示現するケースである。

[第2図]
20160925図2

[第3図]
20160925図3

米国ではFOMCが利上げ見送り:12月利上げ個人予想は維持

最後に、米国の金融政策につき本レポートでは簡単に触れておく。21日、FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)は、FF金利誘導目標レンジの据え置き(0.25-0.50%)を決定した。声明文及びFOMC委員経済予測、並びにイエレンFRB議長の定例記者会見のポイントは以下の通りである。うち、①、②、④は年内利上げ予想を支持する要素、一方⑤、⑥は来年以降の利上げペース減速を示唆するハト派的要素である。
 ①3人の投票メンバーが利上げを主張し決定に反対
 ②声明文で「経済見通しのリスクは概ねバランス」の文言が復活
 ③同「FF金利引上げの根拠は強まったと判断するが、目標への進捗継続の更なる証左を当面待つことに決定」
 ④FOMC委員経済予測では14人の委員が年内追加利上げを予測
 ⑤来年2017年末の適正FF金利予測中央値は1.1%に低下(6月予測は1.6%)
 ⑥イエレン議長は「労働市場余剰縮小ペース低下」「金融政策の非対称性」を利上げ見送り理由とし、「中立利子率低下」にも改めて言及

9月FOMCの結果は、利上げ見送り支持が利上げ支持を票読みで上回るとの筆者個人の予想に沿ったものであり、次回利上げは12月との個人予想を維持する。一方、来年の利上げペースについては、FOMC委員の予測中央値が+0.50%(+0.25%の利上げを2回)に下方シフトしている。これはこれまでの筆者個人の想定よりペースダウンであり、この点については見通しの修正を考慮せざるを得ない。

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