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<経済レポート> Mind the Gap:米国のインフレ率

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米経済成長率が3四半期連続で潜在成長率を下回ったことで、米経済のマイナスの需給ギャップは拡大に転じている。今後米経済が潜在成長率を上回る成長を続けない限り需給ギャップは縮小せず、結果インフレ率も現状レベルにとどまる可能性がある。これは従前の当レポートの見方に対する下方リスクである。もっとも、就業者数が労働力人口増加を超えるペースで増加すれば失業率は自然失業率を下回る水準に低下し、賃金上昇が加速しうる。来年中の2%インフレ目標達成の可能性はまだ残っていると見る。

FOMCは来年の利上げペース低下を予測

現在、米国のインフレ率は2%の政策目標に向かって上昇しつつある。8月現在で、FRBが参照するインフレ指標である個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年比+1.0%、同コア指数は同+1.7%となっている。2014年末の原油価格急落によるエネルギー価格下落の影響で、総合PCEインフレ率は1%にとどまっているが、食品及びエネルギーを除くコアPCEインフレ率は1%台後半で堅調にじり高推移している([第1図])。エネルギー価格という外的ショックを除いた米国のインフレ率は、FRBの目標とする2%に向けて上昇しているといえる。

この状況から筆者個人は、FRBが現在0.25-0.50%であるFF金利誘導目標レンジを追加引き上げする条件は整っていると見ている。FRB連邦公開市場委員会(FOMC)は、12月の定例会合でFF金利誘導目標レンジを+0.25%引き上げると個人予想する。

一方で、来年2017年の利上げペースは、筆者が年初に想定していたよりも遅くなるリスクが高まっている。9月のFOMC定例会合後に公表されたFOMC委員の四半期経済予測(中央値)によれば、2017年末のFF金利誘導目標は1.1%とされている。これは、12月に+0.25%の利上げがあったとして、2017年の利上げは合計+0.50%(+0.25%の利上げを2回)にとどまることを示唆している(10月2日付当レポート参照)。年初時点で当レポートは、FRBの利上げペースを、追加利上げ開始後1会合毎に+0.25%の利上げ、つまり1年で+1.0%の利上げ実施とみていたが、この見方に下方リスクが高まってきている。本レポートでは、このリスクの高まりの背景を主に米経済の需給ギャップとインフレ率の関係から見ていく。

[第1図]
20161012図1

需給ギャップは約-2%で横ばい推移しそう

FRB利上げペースが当初想定より減速するリスクが高まったと見る理由は、以下の3点である。すなわち①FOMC委員予測の下方シフト(上記)、②自然利子率の低下(7月31日付当レポート参照)、そして、③マイナスの需給ギャップの縮小ペース低下である。①、②については過去の当レポートで論じたものであるが、③は、直近までの米実質GDP成長率減速に伴う新たなリスク要因といえる。以下では、インフレ率を決定する要因として「需給ギャップ」と「期待インフレ率」を採り上げ、これらのアップデートを通じて、今後の米インフレ率の上昇ペースが減速するリスクを見ていく。

まず、米経済の需給ギャップの状況をみる。米議会予算局(CBO)の推計する米潜在実質GDP(CBO「財政経済見通し」2016年8月による)と、実質GDPの実績から、米経済の需給ギャップを計算した結果が[第2図]である。米国経済のマイナスの需給ギャップは4-6月期時点で約-1.9%と計算できる。2015年7-9月期にマイナスの需給ギャップが-1.5%にまで縮小して以来、3四半期連続でギャップが拡大した。マイナスの需給ギャップが拡大するのは、その間の実質GDP成長率が潜在成長率を下回っていることによる。

CBOによれば、2015~2016年の米経済の潜在成長率は約+1.5~+1.6%とされている。これに対し、2015年10-12月期から3四半期の実質GDP成長率はそれぞれ、前期比年率+0.9%、同+0.8%、同+1.4%と、いずれも潜在成長率を下回っている。結果、4-6月期にかけてマイナスのk需給ギャップが拡大に転じたわけだ。今後、マイナスの需給ギャップが縮小に向かうためには、年後半から来年にかけて、年率+1.6%を上回る成長が実現することが必要になる。

[第2図]
20161012図2

期待インフレ率は中期的な低下トレンドにある

次に、期待インフレ率の動向をみる。調査ベースの短期の期待インフレ率指標の代表として、ミシガン大学の消費者センチメント調査を採り上げる。同調査における期待インフレ率(12ヶ月)の推移は[第3図]の通りである。これによれば、消費者の予想する12ヶ月後のインフレ率は2011年をピークのほぼ一貫して低下傾向にある。

市場ベースの期待インフレ率の代表として、5年物、及び5年先5年物のTIPSスプレッドの過去3年の推移をみたのが[第4図]である。市場ベースの期待インフレ率も同様に低下傾向にあるが、直近ではやや底入れ感もみられる。

市場の期待インフレ率は、調査ベース、市場ベースともに低下傾向または低位にとどまる傾向にある。これは将来のインフレ実績にも影響を与えると考えられる。米国債及び米インフレ連動国債の利回り差から導出されるTIPSスプレッドは、市場の国債需給の変動の影響を受けやすいことから、以下の分析ではミシガン大調査による期待インフレ率を用いることとする。

[第3図]
20161012図3

[第4図]
20161012図4

コアPCEインフレ率は1.7%で推移する計算

コアPCEインフレ率(前年比%)を被説明変数、需給ギャップとインフレ期待(上記ミシガン大調査)を説明変数とする回帰分析をアップデートした結果が[第1表]、[第5図]である。これによれば、需給ギャップとインフレ期待から推計した7-9月期現在のコアPCEインフレ率は前年比約+1.7%と推計される。現在のコアPCEインフレ率は、ほぼこの推計による理論値に近い水準にあるといえる。

一方で、今後のPCEインフレ率の推移をこれら2つの説明変数から推計すると、現在の筆者個人の予想に従う限りは、コアPCEインフレ率は今後ほぼ横ばいで推移し、来年1年では2%への上昇は見こめないとの計算になった。まず、期待インフレ率は現状と横ばいとする。また来年の成長率を四半期ごとに前期比年率+1.5%とする。これは、今後米国の成長率が2015年以前の+2%成長から、1%台に減速するとの筆者個人の見通しに沿ったものである。潜在成長率+1.5%に対しで来年の成長予想を+1.5%とおく結果、来年の間に需給ギャップは現状の-1.9%から縮小しない計算になる。結果、来年1年の間、コアPCEインフレ率(の理論値)は現状の水準で横ばい推移することになる。

これは、上記の①、②と合わせ、来年のFRBによる利上げペース減速を支持する結果と言わざるを得ない。実際、テイラー・ルール公式によれば、インフレ実績を+1.7%、需給ギャップを-2%とした場合の適正FF金利(自然利子率=1.5%とする)は、約+1.0%と計算される。これはすなわち、来年末にかけてインフレ実績と需給ギャップが横ばい推移した場合、FF金利引上げは高々1%レベルまでにとどまる可能性を示唆している。

もっとも、今後需給ギャップや期待インフレ率以外の要因でインフレ率が上昇する可能性はある。失業率と時間当たり賃金上昇率との関係を示すシンプルなフィリップス曲線を描いてみると、失業率が自然失業率(約5%)を下回ると賃金上昇ペースが加速する経験則がある([第6図])。現在の失業率はほぼ自然失業率レベルにあり、雇用市場はほぼ均衡している。しかし、今後就業者数が月間約+180千人を超えて増加すれば、失業率が今後も低下する余地はある。その場合は賃金上昇率の加速でインフレ圧力が高まることでインフレ実績が2%に達する可能性はまだ十分にあると見たい。

[第1表]
20161012表1

[第5図]
20161012図5

[第6図]
20161012図6


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