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<経済レポート> トランプに惑わず:米国経済定点観測と米大統領選結果

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米経済はほぼトレンドGDPに沿ったペースで拡大している。直近の7-9月期成長率は当レポートの従前の見方よりも加速した。10-12月期にも2%成長を継続し、2016年通年の実質GDP成長率は前年比+1.6%を個人予想する。FOMCは12月の定例会合で追加利上げを実施すると引き続き予想する。8日の米大統領選挙では、大方の予想に反し共和党トランプ候補が勝利した。同候補は過激な言動からの不確実性リスクをマクロ経済にもたらしうる一方、同氏のプロ・ビジネスな側面のポジティブ面をも合わせ、現状の米経済予想への影響はニュートラルとしておく。

米経済の需給ギャップは相当に縮小した

米経済は7-9月期に前期比年率+2.9%の強い拡大を示した。これは今年1-3月期の同+0.8%をボトムに2四半期連続の成長ペース加速である。本レポートでは、年内の米成長率個人予想をアップデートするとともに、8日の大統領選の結果をも踏まえ、来年にかけての米経済を見通していく。

まず、現在の米経済の中長期的なトレンドとサイクルの状況を見る。実質GDP実績をHPフィルターで平滑化して抽出した実質GDPのトレンドと、実質GDP実績とを比較すると[第1図]の様になる。ここから次の2点がわかる。まず、HPフィルター推計による現在のトレンドGDPは約16.7兆ドルと計算され、これは7-9月期のGDP実績値約16.7兆ドルとほぼ同額である。つまり、現在の米経済はトレンドとほぼ同水準で、景気サイクルは中立の位置にあるといえる。次に、HPフィルター推計によれば、2016年7-9月期現在のトレンド成長率は約+2%と計算される。筆者個人は2016年の通年成長率を前年比+1.6%とみている。つまり現在の米国の成長ペースはトレンド成長率をやや下回っていることになる。

HPフィルター平滑化によるトレンドGDP潜在GDPとみなすと、現在の米経済の需給ギャップが推計できる。[第2図]は、トレンド推計による米潜在GDPと、米議会予算局(CBO)推計の米潜在GDPとを用いて米経済の需給ギャップの推移をそれぞれ算出したものである。CBO推計の潜在GDPを基にすると、現在の米経済の需給ギャップは-1.5%のマイナス、つまり依然需要不足の状態となる。一方、HPフィルター推計の潜在GDPを基にすると需給ギャップは+0.1%のプラス、つまり需要超過と計算される。なお、金融危機以降の直近でプラスの需給ギャップ(需要超過)の割合がもっとも高かったのは2015年4-6月期の+0.7%である。HPフィルター推計に基づくトレンドは、より短期のトレンドを反映しやすい。米経済は、短期的なトレンドに対してはすでに均衡状態にあり、見方によってはピークを過ぎた減速サイクルに入っている可能性もあるということになる。もっとも、2015年のプラスの需給ギャップの水準は金融危機以前のピーク(2007年10-12月期の+2.4%)にくらべてはるかに低い。需要超過といっても、いわゆる景気過熱状態にはないといえる。

[第1図]
20161113b図1

[第2図]
20161113b図2

潜在成長率は1.5%程度にある:景気サイクルに過熱感なし

同様に、CBO推計による潜在成長率、実質GDP実績からのHPフィルター推計によるトレンド成長率(潜在成長率)、そして、実質長期金利(米国債10年物利回りと消費者物価指数前年比伸び率の差分)のHPフィルター推計によるトレンドを比較したのが[第3図]である。これらはいずれも、いわゆる実質中立金利の推移と言い換えられる。CBO推計潜在GDPから算出される現在の実質中立金利は年率+1.5%、トレンド実質GDPからのそれは同+2.1%、実質長期金利からのそれは同+1.2%と計算される。

また、いずれの方式による実質中立金利も、90年代からの長期の趨勢は低下傾向にある。ただし、いずれも2008年の金融危機前後でボトムをつけたのちに反転上昇に転じている。つまり、現在の米国の潜在成長率は年率+1.2%~同+2.1%の間にあり、長期的には低下傾向にあるものの、日本のようにゼロにまでは低下していないことがわかる。潜在成長率は推計方法によりかなりの幅があるものの、概ねこの3通りの推計値の中央値である+1.5%程度とみておいてよさそうだ。

以上より、米経済はほぼ需給が均衡に近づくまでに拡大していること、景気サイクルはほぼ中立局面にあること、現在の成長ペースは潜在成長率とほぼ同じペースであることが推測できる。この状態は、米経済に過熱感はなく、したがって景気サイクルが下降(後退)に入るにはまだ時間の余裕があることを示唆している。ただし、2007年のプラスの需給のピークが需給ギャップのサイクルのピークであった場合は、景気後退はより早めに来る可能性はある。ただしその場合でも、ピークにおける景気過熱度合が低いことから、景気後退もきわめて浅いものになる可能性が高い。

[第3図]
20161113b図3

今後個人消費はやや減速、企業部門は回復:10-12月期も2%成長へ

次に、実体経済指標から、個人消費、企業部門、外需の動向を見ておく。個人消費は7-9月期に前期比年率+2.1%と堅調な拡大を見せた。しかし、これまで消費拡大をけん引してきた自動車販売台数がほぼ飽和状態で、今年通年の売り上げ台数は前年比ほぼ横ばいにとどまる可能性が高い。また、雇用市場でも、非農業部門雇用者数は堅調に増加しているものの、その前年比の伸び率は低減している。非農業部門雇用者数の伸び率は、2015年の前年比+2.1%から2016年には同+1.7%程度に低下しそうだ。雇用の伸び低減にインフレ率の上昇も加わり、実質可処分所得の伸び率の低下はもはや趨勢になっている([第4図])。9月現在の実質可処分所得の伸び率は前年比+2.1%であり、それでも上記の潜在成長率を超える伸びを維持している。10-12月期のGDP統計上の実質個人消費は前期比年率+1.5%への減速を見込み、2016年通年では前年比+2.5%の伸びを見込む。しかし、個人消費は来年には同+2%前後にさらに減速しそうだ。

企業部門は長い低迷を経てようやく底入れの兆しがみられる。海外経済減速やドル高を背景とした輸出減速、原油価格下落によるエネルギー産業の生産低下、これらを背景とした在庫調整の継続、並びに鉱工業全体の設備稼働率の低さ、を背景に、GDP統計上の設備投資(機器投資)は2016年7-9月期まで実に4四半期連続のマイナス成長が続いた。しかしながら、設備投資はようやく底入れの兆しがみられる。まず、企業在庫統計に基づく在庫循環図は「在庫調整」局面から「意図せざる在庫減」局面に入っており、長い在庫調整がようやく終了したことが示唆されている。次に、この背景として米国の輸出が大幅に回復している([第5図])。結果、設備投資の先行指標である非国防資本財受注(航空機を除く)が、7-9月期には3四半期ぶりに前期比プラスの伸びに転化した([第6図])。10-12月期のGDP統計上の設備投資(機器投資)は5四半期ぶりのプラス成長に転化しそうだ。

そのほかの実体経済指標も合わせ、筆者個人の米経済成長予想を10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.7%、2016年通年の同成長率は前年比+1.6%とした(11月4日付当レポート[第1表]参照)。これは、7月時点の個人予想との比較では概ね不変だが、その後当レポートで見通しを下方にシフトさせていたのと比較すると上方修正になる。これは、7-9月期の成長率が予想以上に大きく反発したことが主因である。

[第4図]
20161113b図4

[第5図]
20161113b図5

[第6図]
20161113b図6

インフレ・労働市場は堅調:12月のFOMC追加利上げ予想維持

インフレ率は、当レポートの従前の見通し通り、年末にかけてFRBの目標である2%に接近すると見る。現在の試算では、12月に個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の伸び率は前年比+1.6%、同コアは同+1.9%に上昇する計算になる([第7図])。原油価格の安定化とマイナスの需給ギャップの縮小、また失業率低下による賃金上昇率の加速がインフレ上昇圧力となり、来年にはPCEインフレ率は同2%の水準に達すると見たい。

労働市場は堅調に拡大しており、今後は拡大ペースを減速させつつも、労働市場のタイト化が進むと見る。もっとも失業率の低下ペースは今年に入り減速しており、この傾向は年末にかけても継続せざるを得ないだろう。12月の失業率は4.8%程度を見込む。

年内のFRBの金融政策については、これらの背景から従前の個人予想を維持する。すなわち、FOMCは12月の定例会合で+0.25%の追加利上げを決定し、FF金利誘導目標レンジを0.50-0.75%に引き上げると予想する。しかしながら、2017年の利上げペースについては、これを+0.25%ずつ2回に下方修正する。9月FOMCで示されたFOMC委員の経済予測における適正FF金利の中央値の下方シフトがその背景である(10月2日付当レポート参照)。結果、2017年末のFF金利誘導目標レンジは1.00-1.25%とみる。

[第7図]
20161113b図7

トランプ氏の大統領選勝利は年内経済見通しに影響なし

最後に、8日に実施された米大統領選挙結果の経済見通しへの影響について触れておく。8日の米大統領選挙では、大方の予想に反し、共和党のトランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利し、次期大統領になることが決定した。大統領選挙の結果は、選挙人獲得数がトランプ氏290人、クリントン氏232人(CNN集計、13日現在、ミシガン州は未確定)。事前予想で接戦州とされていたフロリダ州、サウスカロライナ州、オハイオ州、ペンシルベニア州などをほぼすべてトランプ氏が獲得、また従前の民主党の基盤であった中西部の州も(現オバマ大統領の地元であるイリノイ州を除き)トランプ氏がほぼ独占した。議会選挙では、上院・下院ともに共和党が議席数は減らしたものの過半数を維持した。13日時点の確定議席数は、上院が共和党51:民主党48、下院が共和党238:民主党193、となっている(CNN)。

選挙結果を受けて9日のアジア市場では日経平均が-900円以上下落するなど、一時急激はリスクオフが進行した。しかしながら、同日のNY市場でNYダウは約+250ドル上昇、長期金利も選挙前の1.8%台から2%台に上昇した。10日には東京市場で日経平均が+1000円以上反発、NYダウは続伸して史上最高値を更新した。11日の終値は、NYダウ18847ドル(史上最高値)、米国債10年物2.15%で引けている。一方で、新興国の金融市場はネガティブに反応した。9日にメキシコ・ペソは1ドル=20ペソを超える史上最安値に急落した。株式市場でも、NAFTA加盟国のカナダとメキシコ、中南米ではブラジル、アジアでは香港などの株価指数が選挙結果を受け大幅下落して越週した。

トランプ氏はその過激な発言印象から同氏当選は経済・金融への下方リスク要因と見られていた。しかし、同氏のプロ・ビジネスな側面はマクロ経済には追い風となりうる。同氏の選挙公約には、企業減税(企業所得税の15%への引き下げ)、エネルギー・インフラ法案などの財政拡大政策、金融規制緩和(ドッド・フランク法廃止)、などの成長への追い風となる政策が含まれている。一方、移民規制強化、保護貿易主義(TPP・NAFTAからの脱退)など、マクロ経済に抑制的とみられる政策もある。これらの選挙公約が就任後にどれほど実現するかは現状不確実である。また共和党多数の議会といっても、選挙戦中はトランプ氏を支持する有力共和党議員は限定的であり、大統領と議会の変則的なねじれ状態が現出する可能性もある。現状、米国経済予想への影響は概ねニュートラルと見て、選挙前の4日現在の個人予想を選挙後の現在も維持することとする。
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