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来年にかけ心地よい水準へ~米国インフレ率低下事情

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現在の米国のインフレ率低下は、FRBの目標値や理論上の推計値から大幅に下方乖離している。これは主に一時要因によるもので、今後1年間にインフレ率1.5%~2%に上昇すると見る。FOMC内にはインフレ率低下に懸念の声もあるが、年内QE3縮小開始への致命的ハードルにはならないと見る。

米国のPCEインフレ率はFOMCの目標から大幅下方乖離中

FOMCによる量的緩和(QE3)縮小が年内に始まると筆者は予想している。しかし、米国のインフレ率がFOMCの長期目標である2%から下方に乖離していることは、この予想に対するリスク要因である。

FOMCは2012年より2%のインフレ率を金融政策目標として正式に採用している。FOMCは、2012年1月25日の会合後声明文公表と同時に、「委員会は、個人消費支出価格指数の前年比で計測したインフレ率の2%がFRBの法的使命に長期的に最も整合的であると判断する」とする公表分で、個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)の前年比2%を長期目標longer-run goalとすることを定めた。

しかし、PCEデフレーターの前年同月比の伸び率(PCEインフレ率)は過去1~2年の間総じて低下傾向にある。今年5月時点のPCEインフレ率は+1.0%と、FOMCの目標から大幅に下方乖離している([第1図]参照)。6月のFOMC委員による経済予測では、2013年のPCEインフレ率予想の中心傾向は+0.8%~+1.2%(第4四半期の前年同期比)で、3月時点の同予測(+1.3%~+1.7%)から大幅に下方シフトした。

[第1図]
20130728図1


FOMC内でもインフレ率低下に懸念の声

6月FOMC会合の議事要旨によれば、「殆どのmost参加者は、経済活動が強まるにつれインフレ率が今後1年間に上昇を始めると予想した、しかし多数のmany参加者は幾分かの間インフレ率は委員会の2%目標以下にとどまると予想した」とされている。また同会合の金融政策に関する議論においては「1人のメンバーは、(金融政策についての)かかる決定はインフレ率が委員会の2%目標に回帰するという証左に依拠することが重要で、委員会がインフレ率を目標に戻すために行動することを明示的に述べるよう委員会後の声明文を変更すること」を強調した(このメンバーはおそらく6月会合で声明文に反対票を投じたセントルイス連銀ブラード総裁)。

さらに「他の2~3人のa couple of メンバーはインフレ率の下方リスクが増大したことに懸念をもち、うち1名は、声明文がこのリスクを更に明示的に反映するべきと述べた」とされている。12人の投票メンバーのうち少なくとも3人がインフレ率の低下に懸念を持っていることになる。

食品・エネルギーを除くコアインフレ率も低下している

PCEインフレ率低下の要因を同指数構成品目別に見てみよう。まず、過去2年間に食品・飲料や、ガソリン・燃料等エネルギー価格の上昇率が低下したことが総合PCEインフレ率の低下要因である。([第2図])。しかし、食品・エネルギーを除くコアPCEインフレ率も総合インフレ率にやや遅行しつつ同様に低下している(上記[第1図])。インフレ率低下は直接的なエネルギー価格低下だけが要因ではなさそうだ。

PCEデフレーターは大きく耐久消費財・非耐久消費財・サービスの3費目に分かれる。うち、恒常的にマイナスの伸びが続いているのが耐久消費財である。耐久消費財には継続的に価格が低下するテレビ・ビデオ・コンピューター等が含まれていて、90年代後半のIT革命以降価格下落が続いている。非耐久消費財には商品価格の変動の影響を受けるガソリンや燃料などが含まれていて、他の品目に比べて価格変動が大きい。サービス価格上昇率は他の2品目に比べ安定的で、常に概ね約2~3%の範囲内を維持する傾向がある([第3図]参照)。

[第2図]
20130728図2

[第3図]
20130728図3


中古車・衣服・輸送関連品目の価格低下が目立つ

しかし、詳細を見ると、食品・エネルギー以外のいくつかの品目の価格上昇率が過去2年間に目立って低下していることが分かる([第4図])。まず、中古車価格が2011年以来伸びを低下させ、過去2年間は価格下落が続いている。中古車価格が頭打ちになっている要因は、主に金融危機の時期から蓄積した自動車の買い替え需要が景気底入れと共に示現し、中古車市場への供給が増加しているためとも考えられる。ただし、全米自動車ディーラー協会NADAは、今年の初めの中古車価格の下落は主に給与税減税終了による一時要因によるもので、今後は再び安定的な価格上昇が見込めるとしている(NADA Used Car Guide Industry Update, July 2013)。

次に、衣服の価格上昇率が過去1年で大幅に低下している。これは過去1年間原材料となる商品価格が概ね安定または低下傾向にあったことと関連していると考えられる。更に、サービス価格の中では輸送サービス価格の伸び率が継続に低下している。これもガソリンや燃料価格上昇率が過去2年間継続低下してきたことと関連がある。

以上から、過去1~2年のコアPCEインフレ率低下は、主に税制変更やエネルギー価格変動等の一時要因によるものだといえそうだ。

[第4図]
20130728図4


現在のインフレ率はフィリップス曲線から大幅下方乖離している

次に、需給ギャップとインフレ期待というより中長期的なインフレ率決定要因を見てみよう。[第5図]は、縦軸にコアPCEデフレーターの伸び率、横軸に失業率をとった物価版フィリップス曲線である。失業率は需給ギャップを表象する指標である。これによれば、2013年第医2四半期時点のコアPCEデフレーターの伸び率約1%は、回帰曲線からかなり下方に乖離した位置にある。つまり現在のコアPCEインフレ率は、失業率(需給ギャップ)との逆相関から求められるインフレ率に比べてかなり低めであることになる。

次に、失業率とインフレ期待を説明変数、コアPCEインフレ率を被説明変数とする重回帰分析を行う。インフレ期待には、ミシガン大学消費者センチメント調査における期待インフレ率(12ヶ月後)を用いた。観測期間は2003年第1四半期~2012年第4四半期の40四半期とした。結果、[第1表]の通り、失業率とインフレ期待のいずれもが統計的に有意な推計式が得られた。

この推計式に基づくコアPCEインフレ率推計値と、実際のコアPCEインフレ率を比較したのが[第6図]である。このグラフによれば、2012年第3四半期から実際のコアPCEインフレ率が推計値に対して下方に乖離を始め、現在では推計値+1.7%に対して実績値+1.0%と、実に-0.7%の下方乖離状態にあることが分かる。

[第5図]
20130728図5

[第1表]
20130728表1


[第6図]
20130728図6


1年の間にインフレ率は心地よい水準に回帰すると見る

以上より、現在のPCEインフレ率は需給ギャップとインフレ期待から導かれる水準をかなり下回る水準に低下しているといえる。また、この下方乖離はエネルギー価格や税制など主に一時要因によるものであると推測できる。従って今後中期的には、PCEインフレ率は現時点での推計値である約+1.7%の水準に回帰していくと見たい。

筆者は、現在の米国の失業率も、需給ギャップから推計される水準をかなり下回っていて、今後年内は7%台で推移すると見ている。従ってPCEインフレ率もFOMCの目標である2%を大きく上回る水準には上昇しないと見る。結果、今後約1年間のPCEインフレ率は、1.5%~2%というFOMCにとって「心地よい」水準に戻ると考える。

結果、現在のインフレ率低下はQE3縮小に対する決定的なハードルにはならないはずだ。多数のFOMC委員が予測するように、来年にはPCEインフレ率が上昇する可能性が高い。インフレについてはこの予測を根拠に年内にQE3縮小開始されると予想する。

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