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<経済レポート> プロビジネス、プロ成長:トランプ米次期大統領の政策

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トランプ米次期大統領の政策は、マクロ経済に対してプラス・マイナスの両面がある。現状の材料からはネットでいくぶんプラスの効果があり、来年以降の米経済成長ペースをこれまでの想定よりも+0.4%程度加速させる可能性があると見たい。さらに、成長加速はFRBの利上げペースを予想以上に加速させる可能性も孕んでいる。しかしながら、同氏の政策の実現性には不確実性が高いため、現状では前提を置いた暫定的な推測との位置づけとしておく。

トランプ氏勝利で株高・金利高・ドル高

8日に実施された米大統領選挙では、大方の予想に反して共和党のトランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利した。選挙人獲得数は、トランプ氏290人、クリントン氏232人(CNN集計、22日現在、ミシガン州は未確定)。議会選挙では、上院・下院ともに共和党が議席数は減らしたものの過半数を維持した。22日時点の確定議席数は、上院が共和党51:民主党48、下院が共和党238:民主党194、となっている(CNN)。

選挙結果を受けて9日のアジア市場では日経平均が-900円以上下落するなど一時はリスクオフが進行した。しかしながら、同日のNY市場でNYダウは約+250ドル上昇して18589ドルで引け、長期金利も選挙前の1.8%台から2%台に上昇した。その後も先進国市場では株高と長期金利上昇が続き、22日時点でNYダウは19023ドルの史上最高値、米国債10年物利回りは2.32%とほぼ1年ぶりの高水準に上昇している。日経平均も22日時点で18162円と1月以来の高値、日本国債10年物利回りは0.03%と、2月以来続いていたマイナス金利からプラスに転化した、為替市場ではドル高が進行、22日時点でドル円は1ドル=111円台(選挙前は同104円台)、ユーロ/ドルは1ユーロ=1.0630ドル(同1.1026ドル)となっている。

一方、新興国市場はネガティブに反応した、9日にメキシコ・ペソは1ドル=20ペソを超える史上最安値に急落して現在に至っている。株式市場でも、NAFTA(北米自由貿易協定)加盟国のメキシコ、中南米ではブラジルなどの株価指数が選挙結果を受け大幅下落し、現在も選挙前の水準を下回っている。

選挙公約の実現度はまだ不確実

トランプ氏はその過激な発言印象から同氏当選は経済・金融への下方リスク要因と見られていた。しかし、同氏のプロ・ビジネスな側面が企業活動にプラスとの思惑が上記の当初の金融市場の株式市場に反映されたと思われる。一方、同氏が財政拡大を公約していることが長期金利上昇(債券価格下落)の背景といえる。米長期金利上昇が金利差を通じてドル高につながった。また、同氏の保護主義的な通商政策が与える悪影響が新興国の株価下落につながったといえる。

トランプ氏の経済・財政政策が今後の米国成長率に与える影響はまだ定かとは言えない。トランプ氏の選挙前の公約がどの程度実現するかは現状では不透明だからである。以下本レポートでは、トランプ次期大統領の政策のうち主に経済成長にかかわるものを採り上げ、来年以降の米経済成長への影響を見ていく。

トランプ氏が選挙戦中に掲げた主な公約は[第1表]の通りである(10月22日のペンシルバニア州ゲティスバーグでの同氏演説「ドナルド・トランプの米国有権者との契約」で言及された政策を基に、同氏HPや報道等情報を加え作成)。同氏の選挙公約には、企業減税、エネルギー・インフラ法案等財政拡大政策、金融規制緩和など成長への追い風となりうる政策が含まれている。一方、移民規制強化、保護貿易主義など、マクロ経済に抑制的となりうる政策もある。なお、同氏は選挙終了後に従前の過激な政策発言を徐々に現実路線に転換しつつあるともされている。11月21日に公開したビデオ演説で同氏は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱を明言した一方で、移民政策に関する政策は「ビザの不正使用の調査」に表現を緩めるなど、発言に微妙な変化もみられる([第2表])。

[第1表]
20161124表1

[第2表]
20161124表2

政治的には保守主義、経済的には供給と成長重視

トランプ氏の政策の特徴は大きくは以下の2点に整理できる。すなわち、①政治的には対外保守主義(保護主義)、②経済的には供給サイドと成長重視、である。まず、①政治的対外保守主義については、同氏の「米国を再び偉大に」「米国第一」のキャッチフレーズに象徴されるように自国を重視し他国を排斥する保守主義が明瞭である。この政治的保守主義は、TPP・NAFTA離脱などの保護貿易政策、移民に対する厳しい政策、中国を為替操作国に認定するなどの政策に現れている。この政治的保守主義はいわゆるグローバリズムに逆行するものとされている。さらにこの政策は、米国を世界の盟主とする旧来の米国外交政策からの転換でもある。防衛費の拡大は自国の防衛を重視する一方で、日米同盟に対する懐疑的な発言からは、米国は世界の警察の地位をもはや目指すのではなく、自国利益を優先するいわば功利主義的な政策ともいえる(トランプ氏のロシア政府やシリア政府との接近もこの功利主義で説明可能である)。

②成長と供給サイド重視は、現在の民主党政権の配分重視の政策からは大きな転換である。エネルギー産業への制約廃止、財政出動(その多くは所得再配分ではなくエネルギー産業インフラ整備に充てられるとしている)、などは成長重視を表象する経済的保守政策である。教育機会の拡大や子女育成政策などを除き、配分政策(低所得層への給付拡大など)は同氏の政策には見られない。供給サイド重視政策は「所得税・法人税減税」や小さな政府を目指す「政府職員採用凍結」などがあげられる。さらにオバマケア(Affordable Care Act)の廃止やドッド・フランク法廃止政策も、企業活動の自由をより保障するものであり、オバマ政権が推進した低所得者保護や消費者保護政策からの転換を示唆する。一方でトランプ氏は1兆円の財政出動を実施するとしており、これは見かけ上むしろ需要サイドの政策でありかつ減税による小さな政府とは逆方向の政策である。もっとも同氏の掲げる財政出動は所得再配分というよりも米国の国力向上を目的としている(インフラ整備の多くはエネルギー政策や交通インフラに充てられると見られる)いることから、これをリベラルな需要サイド重視の経済政策とは言いにくいだろう。

なお、党派的には、トランプ氏の政策は共和党的政策と民主党的政策が混在しているともいえる。財政拡大は見かけ上民主党的政策であり、また、雇用の海外流出防止策、教育政策や子育て支援はオバマ政権での政策と似通ったところがある。政治的にも共和党内でトランプ氏を支持した有力共和党議員は限定的であった。それでも、トランプ氏と共和党の共通の政策は数多くある。「減税」「エネルギー産業重視」「厳しい移民政策」などは伝統的な共和党政策であり、「オバマケア廃止」「ドッド・フランク法廃止」はオバマ政権下での共和党政策であった。一方で、トランプ氏と議会のねじれが発生する政策は主に「財政拡大」になるであろう。共和党議員には財政均衡を政策とする財政保守主義の伝統がある。

成長押し上げも財政赤字拡大:NAFTA、減税、インフラ投資

筆者は現状、トランプ氏の政策は来年以降の米経済成長をいくぶん加速する効果があると見ている。ここでは、通商政策のうちの「NAFTA離脱」「所得税・法人税減税」「10年間で1兆ドルのインフラ投資」をみていく。まず、NAFTAからの離脱は米国経済に大きな影響を与えると見られる。NAFTAは米国・カナダ・メキシコの間での自由貿易協定である。米国の財・サービス輸出入合計額に占めるカナダの割合は2015年時点で13.3%、メキシコのそれは11.8%で、2か国あわせ米国の財・サービス輸出入の約4分の1を占める([第1図])。財・サービス収支は対カナダが61.2億ドルの黒字、対メキシコが-57.9億ドルの赤字である。NAFTAに加えメキシコの産業育成策であるマキラドーラ(メキシコにおける輸出製品生産のための原材料等輸入に対する関税優遇措置)の効果で、メキシコは米国自動車産業の生産拠点として発展し、メキシコで生産された自動車が米国に輸出される仕組みが拡大した。結果米国の対メキシコ財・サービス収支は赤字幅が拡大する傾向にある([第2図])。トランプ氏は、NAFTAが雇用の海外流出と貿易赤字を拡大するものとしてここからの離脱を政策に掲げている。仮に米国がNAFTAを離脱した場合、米国の対カナダ・メキシコの貿易取引が大幅に縮小することが考えられる。特に、米国にとっての貿易赤字国であるメキシコについては、数字の上では貿易縮小は米国の成長にプラスになる。対メキシコ貿易赤字は米国の名目GDP(2015年18兆366億ドル)の約0.3%に相当するから、仮に対メキシコの貿易赤字が現在の3分の2に減少したとすれば、これはGDPを約+0.2%押し上げる結果になる。

次に、所得税減税と法人税減税の影響について見る。トランプ氏は、個人所得税の課税所得階層の簡素化による減税と、法人税の35%から15%への引き下げを公約している。減税による消費刺激と企業設備投資刺激策は、共和党の大統領候補が従前より掲げてきた政策と同種のものである。減税により個人消費と設備投資が拡大されれば、米経済成長にとってプラスの要因となる。米調査機関Tax Policy Centerは、2018財政年度において、個人所得税の課税所得階層見直しは約1254億ドル、法人税率引下げは約2076億ドルの減税効果があると推計している(“An Analysis of Donald Trump’s Revised Tax Plan “, Tax Policy Center, October 18, 2016)。簡便化のため個人の限界消費性向を1、企業の設備投資/キャッシュフロ―比率を100%とすると、これらの減税は単年でGDPを実に約+1.8%押し上げる効果がある計算になる。

最後に、財政政策について見る。トランプ氏は、上記の減税政策に加えて、10年間で1兆ドルのインフラ投資を実施するとしている。年間平均1000億ドルの投資は、GDPを年間約+0.5%押し上げる効果がある。一方で、財政支出拡大と上記の減税は、財政赤字拡大の要因となる。米財務省によれば、2016財政年度の米連邦政府財政赤字は-5873億ドル(対GDP比率-3.2%)と5年ぶりの赤字拡大となった([第3図])。上記の減税政策で年間合計約-3330億ドルの歳入減少、さらにインフラ投資で約-1000億ドル歳出拡大がされると、年間約-4330億ドルの財政赤字拡大要因になる。最近の米国の大型財政政策の例として、リーマンショック直後の2009年2月にオバマ政権下で成立した2009年景気対策法がある。同法では減税と財政支出を合わせて7872億ドルの財政出動がなされ、2009財政年度の財政赤字はそれまでの約-4600億ドルから一気に-1兆4000億ドルレベルに急拡大した。トランプ氏の政策の場合、財政赤字は初年度で約-1兆ドルに達し、2年目でリーマンショック後の水準に達する計算になる(もっとも減税等による上記のGDP拡大効果が同時に示現すれば、租税収入の増加により赤字拡大幅は縮小することになる)。

[第1図]
20161124図1

[第2図]
20161124図2

[第3図]
20161124図3

金利上昇とドル高は成長抑制要因:ネットの成長押し上げは+0.4%程度

また、トランプ氏の経済政策のマイナス面にも留意しておく必要がある。マイナス面は主に金融市場を通じて波及すそうだ。財政赤字の拡大は長期金利の上昇をもたらす。1992年からリーマンショック直前の2007年までの四半期データを用いて、実質GDP成長率、FF金利誘導目標、長期期待インフレ率を外生変数とする米国債10年物利回りの決定要因回帰分析を行い現在の長期金利水準を推計すると、約3.3%との計算になる([第4図][第3表])。これまでの長期金利は、FRBの金融緩和政策とその継続期待から推計値よりも低位に押さえられてきたといえる。大統領選挙後の長期金利上昇は、成長期待から金融引き締め期待が高まり、長期金利が本来の均衡水準に回帰しつつあることを示唆している。長期金利の上昇は自動車ローン・住宅ローン・企業ローン金利上昇を通じ個人消費・住宅投資・設備投資の抑制要因となる。個人消費について見ると、長期金利が選挙前の1.65%レベルから3.3%に上昇(上昇率+100%)したとすると、個人消費の長期金利に対する弾性値(約-0.02と筆者は推計している)からは、個人消費は約-2%押し下げられ、GDPを約-1.4%押し下げる計算になる。上記の個人所得税・法人税減税によるGDP押し上げ効果+1.8%からこれを差し引くと、ネットの成長率押上げ効果は約+0.4%との計算になる。また、長期金利の上昇は、ドル高を通じて米国の輸出の抑制要因となる。上記で見たNAFTA離脱が仮に実現した場合の貿易赤字縮小効果、並びに財政出動による成長押し上げ効果は、ドル高による輸出減少で概ね相殺されることになりそうだ。通商政策と財政政策による内需拡大と、ドル高による輸出減速は概ねネットでニュートラルになると憶測し、結果トランプ氏の政策の経済効果は約+0.4%といくぶんプラスになると暫定的に見ておく。

金融政策については、トランプ氏の政策は来年のFRBの利上げペースを加速させる要因になる可能性がある。筆者は現在、FRBが12月に+0.25%の追加利上げを決定ののち、来年は+0.25%ずつ2回の利上げを決定する(2017年末のFF金利誘導目標レンジは1.00-1.25%)と個人予想している。筆者個人の現状のインフレ予想と成長予想(2017年約+1.5%)に基づけば、テイラー・ルール公式による適正FF金利水準もほぼ同じ水準になる計算である。仮に来年の成長率が現状の予想から+0.4%上ブレすると、需給ギャップは約+0.3%縮小し、テイラー・ルールによる適正FF金利水準は同じく+0.3%上昇する計算になる。つまり、トランプ氏の政策は、来年の利上げ回数見通しを3回または4回に上ブレさせる可能性を孕んでいる。

以上、トランプ氏の政策は、米国マクロ経済にいくぶんのプラス、金融政策には引き締め加速をもたらしうるものであることを見てきた。しかしながら、現状では上記シナリオの不確実性はまだ高い。トランプ氏の公約した政策が就任後にどれほど実現されるかは現状では不透明であるからである。トランプ氏の政策は来年1月の就任までにより明確になると見られ、今後成長への影響もより明瞭になるだろう。現状ではトランプ氏の経済政策のマクロ経済への影響については、あくまで前提を置いた暫定的な推測との位置づけとしておく。

[第4図]
20161124図4

[第3表]
20161124表3

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